長崎地方裁判所 昭和40年(ワ)276号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
【判決理由】本件土地が原告主張のとおり原告において所有者たると同一の使用収益権を期するものであること、原告が昭和三一年五月一日被告に対し本件土地を含む一三六坪の土地を原告主張の約定(借賃月額は、原告主張の被告の営業における毎月の総売上代金額の一〇〇分の一)で賃貸したこと、被告が同契約にもとづき本件土地上に本件建物を建造し、これを所有することによって右一三六坪の土地を占有していたこと。《中略》原告が昭和四〇年二月二二日被告に対し原告主張の月額金二万六、二〇〇円の右借賃増額請求の意思表示をなし、その意思表示が同月二三日被告に到達したことは、いずれも、当事者間に争いがない。
そこで、原告のした右借賃増額請求の当否について判断する。
およそ土地の借賃が土地に対する租税その他の公課の増徴もしくは土地の価格の昂騰によりまたは比隣の土地の借賃に比較して不相当に低額となるにいたったときは、契約の条件にかかわらず、賃貸人は、将来に向ってその借賃の増額を請求し得ることは、借地法第一二条の規定上いうまでもないが、その借賃増額請求の当否ならびに借賃増額請求による相当借賃額を決するに当っては、当該賃貸借当事者間の賃貸借関係発生前後の事情およびその後の経過をも当然に斟酌しなければならないものと解するのを相当とするところ(証拠)には、原告の増額主張額と同一の額の地代月額の数字の記載があり、かつ鑑定人今泉金一、岡本新一の各鑑定の結果によると、いずれも原告の右主張額を上廻る額の借賃額が計上されているが、前認定の従前の原・被告間の借賃額についての被告の本件土地における営業の毎月の総売上代金額の一〇〇分の一なる定めは、《中略》もともと、一般商品物価が昂騰すれば、その売上量が同一であっても、これとほぼ比例して結果的には借賃の実額も増加し、かつ売上額が低下すれば、その結果借賃の実額も減少する半面、売上額が向上すれば、その結果借賃の実額も増加すべき性質のものであって、この理、すなわち右借賃月額が固定したものではなくして、毎月の総売上代金額の多少によって増減がある(この点につき、従前の借賃の実績が前認定のとおりであったにしても、将来被告の本件土地における右営業の売上げが飛曜的に――例えば、その結果借賃実額が原告の増額主張額を上廻るほど――増大するなどということは全くあり得ないことを認めさせるに足りる証拠はない。)ということは、原・被告双方において当然に予想していたはずのものであり、しかも、<証拠>を総合すると、本件土地は、もともと、河川にへだてられて直接公道へは通ぜず、かつ地盤が低下していて、海水が逆流するため、地下タンクを必要とするガソリン・スタンドの設置には不向きな立地条件にあったのであるが、にもかかわらず、被告が前記のとおり本件土地を原告から賃借し、これにより右営業を開始するにいたったのは、原告会社における自動車用石油類の購入は全面的に被告の右営業所からなすとの申入れのもとに、原告からのたっての要請があったためであり、原告としては、すでに他の被告の同業者に対し同様の要請をしてこれを拒絶されたような事情もあったから、借賃の定めを前記のとおり特に歩合制としたものであったこと、果せるかな、被告の右営業所の開設に当っては、その立地条件上、ガソリン・スタンドの営業所ならびに地下タンク等の設置および前記河川上の公路へ通ずる橋の架設等につき、通常の立地条件の場合に比較して、余分の、しかも多額の費用を費したこと、本件賃貸借の目的たる土地の範囲は、前記のとおり、本件土地を含む一三六坪の土地から本件土地の範囲に縮少されたが、この賃貸借の目的たる土地の範囲の大幅な縮少にもかかわらず、その借賃の定めは、従前どおりとされていたこと、その後、原・被告間において本件土地の借賃につき交渉をした結果、一坪月額金二五〇円をその借賃額とする契約書案(甲第八号証)まで作成されたことがあったが、《中略》右借賃の交渉はついに成立するにはいたらずして、爾後原・被告間の交渉は、原告において本件土地上の被告の諸設備を買い取るとの方向にその内容を変更し、その交渉もまた不成立に終った結果、原告の前記借賃増額請求がなされるにいたったものであること、現在本件土地の近くに原告会社のいわゆる傍系会社のガソリン・スタンドが存在し、原告は被告から自動車用石油類の購入はしていないこと、および、被告は、長崎県知事から公有水面占使用許可処分を得たうえで、前記のとおり河川上に架橋をして、本件土地と公路とを通じさせ、かつ占使用期間の経過毎に右知事から同種処分を得、使用料を支払ったうえでその占使用を継続し、現在もなおその期間に余りを残すものであるところ、原告は右のような占使用許可処分を得ていないにもかかわらず、前記河川上を無償で使用している《中略》ことをそれぞれ認めることができる。《中略》にもかかわらず、前記《証拠》の記載ならびに同各鑑定の結果によると、右認定の諸事実が度外視されて、借賃額が導き出されていることが明らかであるから、右の甲号証の記載ならびに各鑑定の結果をもって、本件増額借賃額を認めるべき証拠とはとうていなしがたく、さらに<証拠>をもってしては、いまだ右事実を認めさせるに足りないし、他に、本件土地の借賃が土地に対する租税その他の公課の増徴もしくは土地の価格の昂騰によりまたは比隣の土地の借賃に比較して不相当に低額となったため、原・被告間の賃貸借関係発生前後の事情およびその後の経過を斟酌しても、なおかつ本件借賃額を《中略》増額しなければならない事由の存することを認めさせるべき証拠はない。(桑原宗朝 原政俊 水谷厚生)