長崎地方裁判所 昭和54年(わ)171号 決定 1979年9月06日
少年 T・Z(昭三六・一・四生)
主文
本件を長崎家庭裁判所に移送する。
理由
一 本件各公訴事実は、別紙記載のとおりであるところ、取調済の証拠によれば、その証明は十分である。
二 そこで、被告人に対し刑事処分をすることの当否について検討するのに、一件記録(送付を受けた少年調査記録及び保護観察関係記録を含む)によれば、被告人は、昭和五四年一月二二日速度違反を犯して、長崎県公安委員会より同年二月一六日から一二〇日間の免許の効力停止処分を受けたにもかかわらず、わずか一か月足らずの後に本件犯行を犯したものであり、それ以前にも自動二輪の免許取得(昭和五三年二月一〇日)後六回の反則行為(うち二回は一時停止違反の際免許証を携帯しなかつたもの)と通行禁止場所通行違反(試験観察後不処分)及び速度違反(前記速度違反と併合して交通短期保護観察)の非行歴を有するものであつて、本件犯行の罪質、態様、結果の重大性などのほかに、被告人の交通非行親和性をも併わせ考えると、この際被告人に対しては刑事処分をもつて臨み、厳しくその刑責を問うなかから、その規範意識の覚醒を促すことが相当であるとの考えも首肯できないわけではない。
しかしながら、他方被告人は、未だ一八歳の少年であり、高校中退後これまで転職がかなり頻繁であつたことが見受けられるものの、曲りなりにも一応一貫して仕事を続けて来たものであつて、交通非行の点を除けば、被告人の犯罪親和性、性格、素質などの面で特に問題があるとは思われないこと、前記のとおり被告人は、昭和五四年五月一六日に交通短期保護観察に付されたものであるが、その後さしたる問題もなく経過し、同年八月一六日に解除されたものであつて、その間の保護観察所の指導に加わえ、当公判審理を通じて自己の罪責に対する自覚と反省もそれなりに深化していることが窺われること、被告人の頻回する交通非行に対して両親のこれまでとつて来た対応を見ると、その保護能力には一抹の不安を禁じ得ないといわざるを得ないけれども、本件の裁判を契機として、両親共に被告人に対する指導監督の面で一段とその自覚が高まつたものと思われること、また両親は苦しい家計の中から被害者に対して毎月それ相応の休業補償等を支払い、このことが反面被告人に対し、本件犯行の重大性を認識させるうえでより良い結果をもたらしていることも否定できないこと、さらに被告人は、本件犯行によつて三年間の免許取消処分を受けているので、この間ある程度の長期的継続的な専門家の指導援護の必要性があることその他諸般の事情を考慮すれば、今直ちに被告人を禁錮刑に処するよりは(検察官の求刑は禁錮五月以上八月以下)むしろ家庭裁判所において適切な保護的措置ないし保護処分に付するのが、少年法の趣旨、目的に鑑みて相当であると考える。
三 よつて本件各公訴事実については、少年法五五条により長崎家庭裁判所に移送し、訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項但書を適用して被告人にこれを負担させないこととし、主文のとおり決定する。
(裁判官 山口毅彦)
別紙
公訴事実
被告人は、自動車運転の業務に従事しているものであるが、
第一 昭和五四年三月八日午後五時一五分ころ、自動二輪車を運転し、長崎市○○町××番××号先道路を○×町方面から○町方面に向け時速約三五キロメートルで進行中、前方に横断歩道が設けられており、その手前左側には車両が停止していて左方からの横断歩行者の有無が確認できない状況にあつたので右横断歩道の手前で一時停止するかあるいは減速徐行し、横断者の有無及び動静に注意し安全を確認して進行すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、一時停止などせずかつ安全を確認しないで漫然前記速度のまま進行した過失により、前記車両前の横断歩道を左方から右方へ横断歩行中のA(当五三年)に自車を衝突させて転倒させ、さらに自車に同乗していたB(当二〇年)を自車から落下転倒させ、よつて右Aに加療約一か月を要する左上下眼瞼挫創等の傷害を、右Bに加療約一週間を要する右膝部打僕挫創の傷害をそれぞれ負わせた
第二 長崎県公安委員会より同年二月一六日から一二〇日間の運転免許の効力の停止処分を受けていたものであるところ、前記日時場所において前記自動二輪車を運転した
ものである。
〔編注〕 受移送審決定(長崎家 昭五四(少)二六八号 昭五五・一・一八保護観察決定)