長崎地方裁判所 昭和56年(ワ)534号 判決
(抄録)
「一 まずX主張の立替払契約の成否について検討する。
1 成立に争いのない乙第一号証、及びYら名下の印影がYら各自の印章によるものであることに争いがなく、Y2本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によりYらの住所、氏名、生年月日、本籍欄はYら各自の複写によりその余の金額欄等はSの作成によるものと認められる甲第一号証には、請求原因一、二項同旨の記載があることが認められる。
2 しかしながら右甲第一号証、乙第一号証に加うるに証人Tの証言及び弁論の全趣旨により右Sの作成によるものと認められる甲第二号証、証人Tの証言、Y両名各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。
(1) 昭和五四年五月二〇日頃、A従業員S外一名が二日間にわたりY両名宅を訪れ、Y1に対し、雪印缶ジュース自動販売機(以下自販機という。)の購入をすゝめたが、同人が容易にこれに応じなかったところ、「三か月自販機を貸すので使ってみてくれ。使用料は二万円位、電気代は二〇〇〇円ないし二五〇〇円で、使用料や電気代を払っても月に四、五万円の利潤がある。だめなときはすぐ引取るし、よかったら改めて売買契約に切替える。」旨申入れたので、同人も遂にこれに応諾した。
(2) そこで契約書の作成にかゝったが、Sらは、「ショッピングクレジットご利用申込の内容」と題する書類(乙第一号証)を最上部としてその下に「ショッピングクレジット契約書」(甲第一号証)等と題する数枚を重ねた複写式の書類の上部表題部分及び申込先であるX会社名の記載が隠れるような紙ばさみをしたまゝ、Y1は契約者本人としてY2は保証人として、それぞれ住所、氏名、生年月日、本籍等を自署させ、そのあとSにおいてYら両名の印章を預り各書類に押印し各金額欄に記入した。
(3) Yらは最後に前記乙第一号証の交付を受けたもののSらの説明を信じていたので、右書類は自販機の借用に関する書類と思い込み、その記載内容を確認しないまゝ放置した。
(4) 同年六月頃になって自販機が設置されたが、同年八月初めに約八〇〇〇円の電気代の請求があり、反面売上げ高は右電気代にも及ばなかったところから、Yらは直ちに電話でAに対し前記契約の解約を申入れ数回にわたり自販機の引取りを要求したが、Aは、Sと連絡がとれない等と口実をかまえ容易にこれに応じようとしなかった。
(5) 前記契約に際して、Sらは借用するについて頭金がいるとY1から四万八〇〇〇円の交付を受け、その後の賃料はY1の銀行口座から引落すことにしていたので、Y1は同年八月末には自販機の電気を切り解約申入れをしていたにもかゝわらず、他に振出していた約束手形の決済のため銀行口座残高を零とすることができないまゝ昭和五五年六月まで合計二〇万七〇〇〇円が右銀行口座から引落された。
(6) その後、YらはXから立替金返還金の滞りがあると督促を受けて初めて乙第一号証を読み返し、Aとの契約が売買となっており、かつXから代金の立替え支払がなされていることを知ったが、それまでXから右契約について調査・確認を受けたこともなく銀行口座からの支払金もAへの賃料とのみ信じていたものである。
3 右2認定の事実によれば、Yらには本件自販機の賃貸借の意思こそあれ売買は勿論X会社と立替払契約をなす意思はなかったものであり、前記甲第一号証、乙第一号証は、SらにおいてYらにその意思がないことを充分に知りながらYらの印章を冒用して作成したものにすぎず、これをもって、YらとAとの間の自販機売買契約及びYらとXとの間の立替払契約があったものとすることはできない。」