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長崎地方裁判所佐世保支部 平成11年(ワ)277号 判決 2002年2月04日

原告

株式会社A

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

高尾實

山元昭則

被告

同代表者法務大臣

森山眞弓

同訴訟代理人弁護士

堀江憲二

同指定代理人

甲斐正和

金子健太郎

渋田末明

藤本洋行

村木修

山口克久

腹巻哲郎

穴井秀幸

松本秀一

酒井光則

川俣史香

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告は、原告に対し、金10億円及びこれに対する平成10年5月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は、原告が、他の会社と共同企業体を構成した上で締結した駐車場の造成工事に係る契約に関して、佐世保税務署長により、法人税及び消費税の各更正処分、過少申告加算税の賦課決定処分及びそれらの各処分に対する異議決定がされ、その後にその各更正処分及び各賦課決定処分が取り消されなかったことが違法であるとして、国家賠償法1条1項に基づき被告に対し損害賠償請求(ただし、一部請求)をした事案である。

1  争いのない事実等

以下の事実は、当事者間に争いがないか、又は括弧内掲記の証拠により容易に認めることができる。

(1)  原告

原告は、一般土木建築工事等を業とする株式会社であり、資本金は4500万円である。

(2)  原処分に至る経過

ア 原告及び株式会社B(以下「B」という。)は、平成4年4月20日付けで、C商事株式会社(C商事株式会社の旧商号。以下「C商事」という。)との間で、テーマパークであるDの大手原駐車場造成工事について、次の内容の「大手原駐車場造成工事委託契約」(以下「本件契約1」という。)を締結した(甲1)。

(ア)

所在地

長崎県佐世保市崎岡町

坪数

7万9413.15坪

(26万2524.03平方メートル)

価格

坪単価15万円(造成仕上げ渡し)

総額

119億1200万円

工事期間

平成4年4月30日から同年11月末日

(イ) C商事が原告及びBに用地買収から造成工事までの依頼を行い、原告及びBは完全遂行を前提とし、以下の件に関しても全責任をもって工事を完成し、C商事に引き渡すものとする。

a 特約条項

(a)

用地取得金額

41億9589万円

用地取得の手付金

6億7000万円

離農処置費

2億円

用地取得の中間金

6億8444万円

用地取得残金

23億4145万円

調査費、離農処置費

3億円

(b) 金利負担率 C商事20パーセント、原告及びB80パーセントの負担とする。

(c) 公有地の払い下げ

(d) 借地の借受け(地権者2名)

(e) 用悪水路(共有分の所有権変更)

(f) 近隣対策24件かさ上げ

(g) 駐車場造成工事にはアスファルト舗装工事は含まれない。

b 取り決め事項

工事は、C商事の指定する業者(E株式会社・F株式会社)と原告との間で施工する。

イ 本件契約1を締結した前後に、C商事は、長崎県佐世保市崎岡町の土地を駐車場用地とするため当該土地の地権者数十名と不動産売買契約を締結し、駐車場用地の地鎮祭が行われたとみられる平成4年5月下旬には、用地のほとんどについて、その地権者からC商事への所有権移転登記を完了した。

ウ C商事は、平成4年9月22日付けで、E株式会社(以下「E」という。)及びF株式会社(以下「F」という。)で構成する共同企業体(以下「EJV)という。)との間で、大手原駐車場造成工事(以下「本件駐車場造成工事」といい、大手原駐車場を「本件駐車場」という。)について、次の内容の工事請負契約(以下「本件契約2」という。)を締結した(乙1)。

工事名

大手原駐車場造成工事

工事場所

長崎県佐世保市崎岡町

工期

着手 平成4年6月1日

完成 平成7年3月31日

引渡しの時期

平成7年3月31日

請負代金の額

56億3410万円

(うち消費税額1億6410万円)

支払方法

発注者C商事は、請負代金を、竣工・引渡時に現金で56億3410万円を請負者EJVに支払う。

発注者

C商事

請負者

代表者 E

構成員 F

エ C商事は、平成4年9月22日付けで、EJVに対し、本件駐車場造成工事の主要工事(工事内容は、駐車場地盤改良工事である。)を原告に一括下請けにすることを承諾した旨の「主要工事一括下請承諾通知書」(以下「本件一括下請承諾書」という。)を送付した(乙2)。

オ Eの建設所長であった乙とBの代表取締役である丙(以下「丙」という。)は、平成4年10月28日付けの書面により、次のとおり合意した(弁論の全趣旨(甲48))。

(ア)

総事業費

120.0億円

(イ)

内訳

土地代

42.0億円

近隣補償費他

20.0億円

土地代金利

5.8億円

工事費

52.2億円

工事費内訳本件工事

36.04億円

連壁等直営工事

4.50億円

工事金利

1.78億円

現場経費等

9.88億円

カ Eは、平成5年1月8日付けで、本件一括下請承諾書に基づき、原告に対し、工事の工期を平成4年6月1日から平成7年3月31日までとし、金額を36億0400万0900円とする「注文書」(以下「本件注文書」といい、本件注文書に基づく工事を「本件工事」という。)を送付し、原告は、Eに対し、本件注文書と同一内容の「注文請書」を送付した。なお、本件注文書の「取極要項」の中には次のような事項も定められていた(甲7、乙14)。

(ア) 今回見積工事の範囲は、工事完成までの一括責任施工とする(工事完成とは、C商事が正式に引き取った時点とする。)。したがって、工事数量、共通仮設費、現場経費の増減は一切行わない。

(イ) 隣接住民との友好関係に留意して、トラブル等を起こさないように十分注意すること。万一、工事途中、隣接住民からの要望やクレームが生じた場合には、Bを通じて解決すること。

(ウ) 場内の排水対策については、隣接民家が冠水しないよう万全を期すこと。

万一、冠水させた場合は、Bを通じて責任をもって対応すること。

キ Eは、平成4年9月24日付けで原告から提出された本件工事に係る請求書に基づき、本件注文書の日付より前である同月30日、G銀行佐世保支店の原告名義の普通預金口座に第1回目の工事代金として6億5000万円を振り込んだ(甲8、9)。

ク C商事は、平成7年9月18日付けで、農政局に対し、かねてから許可を受けていた本件駐車場用地の農地転用(計画変更申請をした後の平成7年7月21日に許可を受けたもの)について、平成7年9月13日に建設計画が完了したとして農林水産大臣宛ての「農地転用許可後の工事進捗状況報告について」と題する書面(以下「本件工事進捗状況報告書」という。)を送付した(乙3)。

ケ C商事は、平成7年11月27日付けで、EJVに対し、本件造成工事が平成7年9月13日付けで監督官庁に対する完了報告をもって完了したことを確認した旨の「指示書」(以下「本件指示書」という。)を送付した(甲19)。

コ 平成7年12月28日、Eは、原告に対し、本件工事の代金36億0400万0900円の最終支払を完了した。

サ 原告の平成8年3月31日現在における本件工事に係る未成工事支出金は、18億9685万4780円であり、同年4月1日以降は、工事原価が発生していなかった(弁論の全趣旨(甲48))。

シ Bは、本件工事の代金のうち第1回目工事代金を含め総額19億1744万0539円を預かっているが、当該金額は、原告の工事代金ではなく、Bが用地買収費その他の対策費用等の目的にするものである旨の証明書を、平成10年9月14日付けで原告に提出している(弁論の全趣旨(甲48))。

(3)  原処分等の経過

ア 佐世保税務署長の更正及び賦課決定

(ア) 原告は、平成7年4月1日から平成8年3月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について青色の確定申告書を作成し、また、平成7年4月1日から平成8年3月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税について確定申告書を作成し、いずれも法定申告期限までに佐世保税務署長(以下「原処分庁」という。)へ提出した。

(イ) 平成9年8月18日から、佐世保税務署による原告に対する税務調査が行われた。その結果、同署職員である特別国税調査官丁(以下「丁調査官」という。)は、同年10月23日ころ、原告の従業員に対し、本件事業年度の法人税及び本件課税期間の消費税について、修正申告をするよう慫慂した(乙17)。

その際の、丁調査官の見解及び主張は、次のとおりであった。

① Eから入金のあった金額のうち、消費税分を除く34億9903円は、本件事業年度の原告の収入と認定する。

② 工事原価の18億9685万4780円は、本件事業年度の損金算入を認める。

(ウ) 原処分庁は、その調査に基づき、平成10年5月26日付けで本件事業年度の法人税について、更正処分(以下「本件法人税更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分をし、本件課税期間の消費税について、更正処分(以下「本件消費税更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定をした(以下、これら4件の処分を総称して「本件各処分」という。甲41、42)。

本件各処分の内容は、以下のとおりである(甲41、42)。

a 法人税

(a) 確定申告

所得金額 3985万3491円

納付すべき税額 1325万7700円

(b) 更正処分

所得金額 16億4179万3711円

納付すべき税額 6億6961万8400円

(c) 賦課決定処分(過少申告加算税)

納付すべき税額 9774万4500円

b 消費税

(a) 確定申告

課税標準額 37億2130万4000円

納付すべき税額 2187万2700円

(b) 更正処分

課税標準額 72億2033万4000円

納付すべき税額 1億2684万3600円

(c) 賦課決定処分(過少申告加算税)

納付すべき税額 1465万1500円

(エ) なお、本件法人税更正処分の更正の理由は、概ね以下のとおりである(甲41)。

a 完成工事高の計上もれ 34億9903万円

原告が、EJVから受注した本件工事については、次の事実が認められる。

(a) 平成5年1月8日、原告がEJVから受領した本件注文書及びこれに対する注文請書によると、原告は、本件工事を工事代金36億0400万0900円(内消費税1億0497万0900円)で請け負っている。

(b) 原告の総勘定元帳、請求書(控え)及びEJVからの本件注文書並びに支払通知書によると、原告は、EJVに対し、本件工事の出来高に応じて工事代金を請求し、平成7年12月28日の最終入金をもって、工事代金の総額36億0400万0900円を受領した。

(c) 本件工事の施主であるC商事が農政局に提出した本件工事進捗状況報告書及びEJVに発行した本件指示書によると、本件工事の完成検査済日は平成7年9月13日となっている。

(d) 原告の現場別工事台帳によると、本件工事に係る材料費、労務費、外注費、経費等の工事原価は、平成8年4月1日以降全く発生していない。

これらのことからすると、原告は、本件工事を本件事業年度中に完成し、EJVへ引き渡していると認められるので、本件工事に係る未成工事前受金34億9903万円を完成工事の計上もれとして、益金の額に算入する。

b 完成工事原価の計上もれ 18億9685万4780円

前記のとおり、本件工事に係る未成工事前受金34億9903万円を当期の益金の額に算入したので、本件工事に係る未成工事支出金18億9685万4780円を当期の損金の額に算入する。

c 事業税の損金算入 23万5000円

前事業年度の更正による増加取得に係る事業税23万5000円を損金に算入する。

イ 異議審理庁の異議決定

(ア) 原告は、本件各処分に不服があるとして平成10年7月23月に異議審理庁である佐世保税務署長へ異議申立書を提出した(甲43)。

(イ) 異議審理庁の職員である上席国税調査官戊(以下「戊調査官」という。)らは、平成10年8月10日から原告の異議申立てに係る審理及び調査を行い、これに基づき、異議審理庁は、平成10年11月13日付けで原告の異議申立てを棄却する旨の異議決定(以下「本件異議決定」という。)をした(甲45)。

(ウ) 本件異議決定の理由は、概ね以下のとおりである(甲45)。

a 工事の完成時期について

(a) 原処分庁の調査により認められた事実によれば、原告は、本件工事を本件事業年度中に完成し、発注者へ引き渡していることが認められる。

(b) 完成時期の判定の要素としての工事の引渡しは、発注者EJVに対して行えば足り、原処分庁の調査により認められた事実によれば、既にEJVに対して本件工事に係る駐車場の引渡しが完了しているのは明らかである。

(c) また、買収済みの土地の所有権は、平成4年から平成7年にかけて順次委託者名義に移転登記されており、異議申立てに係る調査、審理の結果、委託者C商事は、当該土地の一部を平成10年6月23日に第三者に売却しており、この事実からも本件工事が工事完了の上引渡し済みであったことは明白である。

b 工事代金、工事原価について

(a) 原処分庁の調査によれば、次の事実が認められる。

① 本件工事の工事代金は、原告がEJVへ提出した本件工事の見積書及び注文請書並びにEJVが原告へ発行した本件注文書によると、いずれも36億0400万0900円である。

② 平成4年9月24日付けの原告のEJVに対する6億5000万円の請求は、原告が受取口座を指定し作成した請求書で行われており、原告は、その総勘定元帳に工事前受金の増加として記載している。

また、この後に本件工事に関して原告が作成した出来高に基づく請求書の入金済額欄の金額には、一貫してこの6億5000万円が含まれている。

③ 原告は、本件工事の工事代金としての入金額の中から19億1744万0539円をBに渡し、この金額を建設仮勘定として記帳している。

④ 丙は、原処分庁に対し、本件契約1の利益をBと原告が6対4の比率で配分するとの契約は存在しない旨の申述をしている。

(b) 以上のことからすると、本件工事の工事代金は、請求合計額及び入金合計額のとおり、36億0400万0900円であり、工事代金の水増しの事実及び利益分配契約の存在を確認することはできない。

(c) また、Bに渡された金員が工事原価であるとした場合、通常受け取るべき請求書等の書類をBから受け取っておらず、さらに、この支出の内容及び損金性が不明であり、この金員を工事原価に算入することは到底できない。

なお、丙は、異議申立てに係る調査、審理においても、原告から受領した資金の使途についての説明及び原告の主張を裏付ける証票類の提示をせず、また、丙を同席しての説明を原告に依頼してもこれが実現しない状況では、原告の主張のみをもって、工事代金の水増しの事実及び工事原価としての損金算入を認めることはできない。

ウ 国税不服審判所長の裁決

(ア) 原告は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成10年12月3日に国税不服審判所長へ審査請求書を提出した(甲46)。

(イ) 国税不服審判所長は、この審査請求に対して平成11年10月12日付けで、本件各処分の全部を取り消す旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をした(甲48)。

(ウ) 本件裁決の理由は、概ね以下のとおりである(甲48)。

a 原告及びBは、共同企業体として(以下「原告らJV」という。)、本件契約1を締結した。

b 本件駐車場造成工事に関する契約等には、本件契約1、本件契約2及び本件注文書があり、原告が施工業者として当事者となっている契約等は、本件契約1及び本件注文書である。

原告は、内容の異なる2種類の契約等において施工業者となっていることになるが、本件駐車場造成工事は、原告らJVが用地買収から造成工事までを行い、完成後の本件駐車場を1坪当たり15万円でC商事に引き渡すという本件契約1を基本として行われたもので、通常の契約形態とは異なる方法で行われたことが認められる。

なお、本件契約1に係る面積、工期等については、用地買収が困難な部分が生じたことなどから変更されているが、変更された内容については、当事者間において合意されていたものと認められる。

また、本件注文書に基づく本件工事代金には、本件工事以外の土地代及び近隣対策費等の金額が約49パーセント(17億5270万3370円)も含まれている事実からすると、当初から、本件工事代金には用地取得等に係る資金の一部を含むことが当事者間において了解されていたもので、融資の手段としての目的もあったものと推認される。

c 本件工事については、C商事がEに本件指示書を発行していること等から原処分庁の主張どおり未買収の部分を除いて本件事業年度中に完成しているものの、本件工事の収益計上時期は、本件契約1に基づき本件駐車場造成工事の一連の事業が完了し、C商事に正式に引き渡した日の属する事業年度とするのが相当と認められる。

d 原告らJVが本件駐車場造成工事の完成部分について、実際にC商事に引き渡したのは、平成10年6月20日であると認められることから、本件工事の原告の収益計上時期は、平成10年4月1日から平成11年3月31日までの事業年度であることが認められる。

なお、本件駐車場造成工事の引渡しが当初計画からすると、遅延したことについては、未買収の土地があり、本件契約1のとおり完了しなかったことが主な原因と認められ、意図的な課税の繰延べ等と認められるような客観的事実もない。

e 原処分庁が本件注文書に係る本件工事だけを切り離して、本件事業年度に完成したと認定したことは相当でない。

(4)  原処分以降の経過

ア 平成10年6月、C商事は、学校法人Hに、本件駐車場用地の一部約8000坪を12億円で売買する旨の不動産売買契約を締結し、同月23日に所有権移転登記をした(乙4、5)。

イ B、原告及びC商事は、いずれも平成11年3月9日付けで、B及び原告がC商事に平成10年6月20日をもって本件駐車場用地の買収業務及び造成工事の完了を報告し、用地の引渡しを行った旨の「大手原駐車場引渡精算書」(以下「本件精算書1」という。)と、この引渡しの結果、原告及びBのC商事に対する未収金、未払金の確定を確認する旨の「債権・債務の確定証書」とを、それぞれ作成した(甲23、24)。

また、原告及びC商事は、平成11年3月9日付けで、C商事の原告及びBに対する未払金の4割について、C商事が原告に対して債務を負い、C商事が59回に分割して弁済する旨の公正証書を作成した(甲25)。

ウ 原告及びBは、平成11年3月19日付けで、原告がEJVから送金を受けた36億0400万0900円について、本件精算書に基づき、次のとおり精算する旨の「平成4年4月20日付大手原駐車場造成工事委託契約証に基づく精算書」(以下「本件精算書2」という。)を作成した(甲26)。

(ア)

原告

工事その他費用

18億5129万7530円

(イ)

土地代、近隣対策費、その他費用

17億5270万3370円

(合計) 36億0400万0900円

エ 原告及びBは、平成11年3月19日付けで、BがC商事から送金を受けた4億5000万円について、平成11年3月9日に合意した本件精算書1に基づき次のとおり精算する旨の「平成4年4月20日付大手原駐車場造成工事委託契約証に基づく精算書」(以下「本件精算書3」という。)を作成した(甲27)。

(ア)

原告

工事費その他の費用

1億1256万7116円

(イ)

土地代、近隣対策費、その他の費用

3億3743万2884円

(合計) 4億5000万円

2  主要な争点

(1)  本件各処分、本件異議決定及びその決定後に本件各処分を取り消さなかったことにつき、原処分庁に国家賠償法1条1項の「故意又は過失」及び「違法」が認められるか。

(2)  原告の損害の有無並びに本件各処分、本件異議決定及びその決定後に本件各処分を取り消さなかったことと原告の損害との間の因果関係の有無

3  原告の主張

(1)  本件契約1締結以後の経過について

ア 原告らJVとC商事との間で、本件契約1が締結された。

イ 本件契約1の締結に伴い、原告らJV内部では、駐車場造成工事は原告自らが分担して施工し、それに要した費用を原告らJVの経費として計算すること、C商事から受け取る金員から経費(土地取得費及び造成工事費用等)を差し引いた残りを利益として、これをBが60パーセント、原告が40パーセントの割合で配分すること等が合意された。

さらに、平成5年2月ころ、原告らJV内部では、その利益配分割合に関連して、原告において要した造成工事費用として差し引くべき金額を12億3600万円とみなして双方の利益配分額を算出することが合意された。

ウ 土地の買収及び造成に必要な多額の資金について、原告らJVとしては、このように多額の資金を現に保有しているわけではないので、C商事から数次に分けて段階的に金119億1200万円の内金の支払を受け、それをもとに用地を取得したり、造成工事をしたりする必要があり、C商事も、当初は、そのように支払をすることを約束していた。

ところが、その後、C商事から、前記119億1200万円については、造成後、引渡しを受けた後には、融資を得られる見込みであるが、それ以前に資金を用意することはできないとの説明があった。

そこで、丙とC商事が協議した結果、E及びFに資金面の協力を得ることにし、両社も協力することとなった。

エ 両社は、前記119億1200万円の内金20億円は、C商事において調達してほしいと希望したので、内金42億円は、EとFのそれぞれの関連ファイナンス会社から各21億円ずつC商事に融資させ、残金についてはE及びFが可能な限り直接支出して資金協力をすることとなった。

ただ、E及びFは、金融会社ではないため融資金名目では資金を出しにくいとのことであったので、EJVと原告らJVが協議した結果、EJVがC商事から金52億円で工事を元請受注し、これを原告らJVに下請発注したこととすることにより、下請代金名目で出金する方法で融資することになった。

オ その後、エの合意に基づき、平成4年9月30日から平成7年12月28日までの間に、前後43回にわたって、Eが原告名義の銀行預金口座へ資金を振り込んだり、E振出の手形を送付するなどの方法で、合計36億0400万0900円が送金された。

そのうち合計19億1744万0539円については、Bが直接管理する原告名義の銀行預金から自ら引き出したり、原告がBへ送金するなどして、原告からBに引き渡され、Bは、その資金で土地買収の手配等をした。

カ なお、EJVの元請代金と原告に送金された金額との差額の大部分は、実質上はE及びFの融資に伴う利益となるものであり、E及びFは、C商事から元請代金を回収する方法でその融資金を回収することとなっていた。

(2)  本件各処分及び本件異議決定について

ア 本件各処分は、原処分庁が丁調査官らの調査をもとに、その職務上したものである。また、本件異議決定も、原処分庁が、その職務上したものである。

イ 原処分庁は、何ら適法な要件がないのに本件各処分をし、また、違法な本件各処分を取り消すべき職務を怠り取り消さなかったものである。

(ア) 原処分庁は、徴税等の専門家であり、誤った課税をして納税者に不利益を及ぼすことのないように、また、誤った課税をしたときは、速やかに取り消すべき高度の義務を負っている。のみならず、本件では、特に、課税が誤っていた場合の原告の損害が著しく大きく、かつ、後日処分が取り消されても原告の損害が容易に回復されないことが明らかであったのだから、なお一層の注意をもって調査し、判断しなければならなかった。

(イ) しかし、原処分庁及び佐世保税務署職員らは、前記義務に違反し、十分な調査をしなかったばかりか、かえって原告らの事情説明を聴くことを拒みさえした。

ウ 修正申告勧告等について

(ア) 平成9年8月以降の税務調査後の丁調査官の見解及び主張には次のものも含まれていた。

a Bが受け取った資金19億1744万0539円からBが原告に逆送した1億6473万7169円を控除した残額の17億5270万3370円のうち、Bが土地買収費等に支出したとみられる合計8億2642万5000円は、原告のBへの貸金と認定する。

b その余の9億2627万8370円についてのみ、原告がBに支出した支払手数料と考え、損金算入を認める。

c したがって、収入額34億9903万円から損金額(工事原価18億9685万4780円及び支払手数料9億2627万8370円の合計28億2313万3150円)を控除した6億7589万6850円が利益の増加額となるので、この金額を上乗せして法人税の修正申告をし、これに伴い、消費税についても修正申告をされたい。

(イ) しかし、その理由については、丁調査官から原告に対し、何らの説明もなかった。

原告は、Bに土地買収等を依頼したこともなく、土地買収について手数料を支払う立場でもなく、前記8億円余をBに貸さなければならない理由がないばかりか、担保取得等の保全措置、返済時期等の定め、借用証の徴求等、その8億円余が貸金であれば当然存在するはずの取り決めが全くされていない。

丁調査官や原処分庁らの事実認定は、杜撰な調査に基づくものであり、丁調査官が指示した修正申告の内容は、全く不当なものであったので、原告は、修正申告をしなかった。

エ 本件各処分について

本件各処分は、原告がEから受領した資金の合計36億0400万0900円から消費税3パーセント相当額1億0497万0900円を控除した34億9903万円をもって、原告がEから請け負った工事に係る原告の収入と認定し、これを当期の益金に算入し、かつ、工事の原価を18億9685万4780円と認定し、これを当期の損金に算入するとともに、本件事業年度の法人税の更正により増加する事業税23万5000円を当期の損金額に算入することによりされたものである。

しかも、本件各処分においては、税務調査の段階では丁調査官自ら損金と認定すると言明していた9億円余についてまでも、これを損金と認定せず、原告の利益であるとして計算された。

オ 原処分庁の事実認定が誤りであることについて

(ア) 原処分庁には、Bと原告を共同企業体でないと判断したことにつき、故意又は重大な過失がある。

(イ) Eから原告への入金は、C商事に対するEJVからの融資金であり、そうでないとしても原告らJVの収入であって、原告の単独の収入ではない。

仮にそうでないとしても、平成8年3月31日の時点では、原告の分担した造成工事は、造成予定地の全部の買収が未了であったため、未完成であり、引渡しもしていなかった。したがって、いずれにしても収益に計上すべき時期は到来していなかった。

これらのことは、原告から丁調査官らに資料を提出し、十分に説明した。

(ウ) 原告の利益は、過去10年間で最大であった平成4年度でさえ1億円にも満たなかったのであり、突如として16億円余りの利益が出ることがあり得るかということについては、納税者の所得を常に把握し、かつチェックしている税務署職員としては大いに疑念を抱くべきであった。

(エ) また、建設業界においては、通常、下請業者の利益は、下請代金の15パーセント以下である。本件では、工事原価が約19億円であるので、それから逆算して、下請代金は、多く見ても22億円程度が普通である。このことは、業種別の所得の実情を幅広く把握している原処分庁が知らないはずはなく、本件が、下請代金としては異常に高額であり、原告主張のとおり融資金であることは当然に察しがついたはずである。

特に、本件では、元請業者が大手建設会社であり、積算能力の点で原告よりも優れているのであるから、本件が真に下請関係なのであれば、このような多額の金額で下請契約を結ぶことはあり得ない。

(オ) 未買収用地があって造成工事が完了していないこと、そのため収益計上時期が未到来であることは、現地を見たり、字図や土地登記簿を照合したりすれば容易に判断できることである。

カ 回復し難い損害が生ずることの予測可能性について

本件では、誤った処分をすることによって、たとえ事後的に行政不服審査手続でその処分が取り消されたとしても、原告に取り返しのつかない甚大な損害が発生することが容易に予測できた。

(3)  原告の損害について

原告の被った損害額は、次のとおり、少なくとも22億円に達する。

ア 社会的、経済的信用を害されたことによる損害 20億円

(ア) 原告においては、本件各処分が取り消されるよう全社を挙げて取り組んだ。

(イ) 原告は、本件各処分が取り消されるまでの間、存続のため業務の中心であった公共工事の受注を確保しようと努め、佐世保市の税3350万1800円及び松浦市の税約150万円を納付し、せめて両市の指名だけは受けることができるようにした。

(ウ) 本件各処分の後、原告が巨額の脱税をしているかのごとき噂が広く流布され、これをいわゆる業界新聞に売り込んで広く頒布しようと目論む者まで出現したため、原告のオーナーは、県議会議員選挙への出馬を断念した。

(エ) 平成11年1月10日、I新聞紙上に掲載された記事により、原告が巨額の脱税をしているかのごとき印象が世間に広まり、原告の社会的、経済的信用は、著しく低下した。

(オ) 前記新聞報道後、原告が15億円もの税金を払うことはできないであろうから、原告が倒産するのではないかとの噂が広まり、金融機関が融資を渋るばかりか、既に融資していた融資金の回収に力を入れ始めた。

また、長崎県が低金利で2000万円まで融資するサポート資金も、県税の納税証明書が提出できないために利用できなかった。

(カ) 平成11年2月19日、福岡防衛施設局長から、税金問題が片付くまで指名を見合わせていると言われ、原告は、防衛施設局関連の公共工事の受注をすることができなかった。そのため、原告は、最高で8800万円の得たかもしれない利益を得ることができなかった。

(キ) 原告に対する良からぬ風評のゆえに、県及び市から受注を得にくい状態にあり、さらに、原告においては、本件各処分の取消しを実現するために全力を注入していたため、営業活動がほとんどできないでいた。

(ク) 原告の前社長は、本件による心労のためもあって、平成11年7月18日に突然死亡した。

(ケ) C商事と原告らJVの間で、平成11年3月9日、本件駐車場用地の買収及び造成の精算をし、C商事は、原告らJVへの対価の未払金11億7315万3437円のうち、4割に相当する4億6926万1375円を、平成11年3月以降、毎月800万円宛、原告に分割して支払うこととなり、その全額が県税及び国税への支払に充当された。

(コ) 原告は、会社の清算をも検討せざるを得ない状態であり、従業員の賞与も支給できないでいる。

イ 行政不服審査手続における弁護士費用 1億円

ウ 本件訴訟における弁護士費用 1億円

4  被告の主張

(1)  本件各処分等について

原処分庁がした本件各処分等は、次のとおり、本件各処分及び本件異議決定段階では、収集し得た限りの証拠資料に基づき、自らに付与された所得認定の裁量の範囲内において原告の課税標準等を合理的かつ適正な判断に基づいて認定したものであって、適正な判断に基づく適法な処分であり、故意、過失もない。

ア 原告らJVについて

本件契約1につき、原告とBが共同企業体を構成していたと認定することはできなかった。

イ 利益配分について

Bと原告の間で、C商事から受け取る金員から経費(土地取得費や造成工事費用等)を差し引いた残りを利益として、これをBが60パーセント、原告が40パーセントの割合で配分すること等の口頭での合意があったとは判断することはできなかった。

ウ 下請代金名目での融資について

原告は、EJVがC商事から52億円で工事を元請受注し、これを原告らJVに下請発注することにより、下請代金名目で出金する方法で融資するということになったと主張するが、この点に関する原告の主張は、原処分段階から異議調査段階までの間に変遷しており、いずれの段階においても融資という事実を確認できる証拠資料の提出はなく、本件工事の発注者であるEからも原告の主張に沿う答述はなかった。

エ 丁調査官による調査について

(ア) Eからの入金のうち消費税を除く34億9903万円については、原告の総勘定元帳によれば、Eからの入金は工事前受金として経理処理をされていることから、原告自身も計上時期はともかく工事収入金であると認識していたことは明らかであり、丁調査官が説明をした時点では、その入金額に工事代金以外の金額が含まれているなどという原告からの申立てはなかった。

(イ) Bが受け取った19億1744万0539円からBが原告に逆送した1億6473万7169円を控除した残額の17億5270万3370円のうち、Bが土地買収等に支出したとみられる合計8億2642万5000円について、丁調査官は、損金と認め得る具体的な資料の提示がない以上、認める訳にはいかないという調査態度で一貫していたのであり、合計8億2642万5000円を貸金と認定するなどと具体的な金額を示して断定的な説明をしたことはない。

(ウ) また、その余の9億2627万8370円についても、丁調査官は、Bに渡った約19億円について、原価として認められるものがあれば損金算入を認めるが、そのためには根拠や証拠が必要であること、つまり、Bと原告の間で利益配分あるいは未収、未払部分に関して根拠や証拠があれば積極的に証拠資料を提出するよう説明していたし、本件工事に関して追加の原価等が見込まれる場合は、その額を合理的に見積もることができる旨の説明をしている。しかし、丁調査官が、根拠もないのにこの金額をBへの支払手数料として損金算入を認めるなどと説明したことはなく、原告の主張は、丁調査官の説明を曲解したものである。

(エ) Bに渡った約19億円について、原告は、これを建設仮勘定として経理処理していたが、これについては、Bからの請求書もなく内容が不明朗な支出であった。したがって、丁調査官がこれを工事原価に類する支出と認めることができなかったのは当然であり、立替金や貸付金のような流動資産としての性質を有するものであると判断せざるを得なかったのである。

オ 本件工事の完成、引渡しについて

本件指示書によれば、平成7年9月13日付けで造成工事面積の減少を認めた上でC商事からEJV宛に工事の完了確認がされており、かつ、Eは、原告に対して本件工事の全額を支払っているのであって、本件事業年度において本件工事が完成していたのは明らかである。そして、Eが本件工事の完成を認めて、下請人である原告から本件駐車場の引渡しを受けた以上、EJVと施主であるC商事との間で本件駐車場造成工事の完成をめぐって争いが生じたとしても、それは、法律上、Eと原告の関係に何ら影響するものではない。

カ 本件法人税更正処分について

内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額である(法人税法22条1項)ところ、原告の本件事業年度の法人税の確定申告には、前記第2の1(3)ア(ウ)及び(エ)のとおり、益金の額に算入すべきものと損金の額に算入すべきものが含まれていなかったので、原処分庁において更正した。

キ 本件消費税更正処分

前記カの益金の額に算入した完成工事高は、課税資産の譲渡等に該当することから、本件課税期間の消費税の課税標準額に加算した。

ク 過少申告加算税の賦課決定処分について

本件各処分のうちの法人税及び消費税に係る過少申告加算税の賦課決定処分は、原告が申告納税額のほかに新たに税額を納付すべきこととなり、納付すべき税額の計算の基礎となった事実に加算税を賦課しない場合の理由もないことから、原処分庁において、新たに納付すべき税額につき、国税通則法65条1項及び2項に基づき過少申告加算税を賦課決定した。

ケ 審査請求後の上申書について

原告が審査請求後に提出した本件各処分を取り消すことを求める旨の上申書は、原告らJVによる用地買収及び造成工事を前提として作成されているが、本件工事の引渡時期及び共同企業体の精算等に疑問が多いことから、原処分庁は、これに応じなかったものである。

(2)  原告の損害について

ア 佐世保市及び松浦市の公共工事については、原告が指名から排除されてはおらず、長崎県のそれについても指名排除を回避できていることから、損害が発生したとはいえない。

また、防衛施設局関連の公共工事で得たかもしれない利益は、原告の主張する「同規模」の会社が受注した工事について、その主張のとおり「得たかもしれない」不確実な利益の可能性を「粗利」で計上したに過ぎない。

イ 原告のオーナーの県議会議員選挙不出馬及び原告の前社長の死亡は、いずれも個人的な損害の問題であり、本件各処分によって原告に生じるべき損害とは無関係である。

ウ 県からのサポート資金については、仮に県税を納税し、融資の申し込みを行ったとしても、その他の融資条件もあることから、必ず融資を受けられるものでもなく、さらに、原告が県からの融資を受けられなかった金額を当該融資よりも高利な他の融資先から調達した旨の主張すらない。

エ 平成11年3月以降の県税及び国税の納付のうち国税分については、原告から任意に納付を受けたものであり、納付を強要したものではない。また、納付金については、還付加算金を加算して全額還付済みであって、損害は生じていないか又は回復済みである。

オ 仮に原告の受注高が減少していたとしても、工期の長い大規模な工事を請け負っている事業者においては、大規模な工事を受注した事業年度には受注工事高に大幅な増加があり、その逆もあるのが常であるから、受注工事高の増減によって原告の損害を算出することはできない。

また、本件各処分後の3年間に受注工事高の減少が33億円にも上るという事実はない。

カ 原告によるその他の損害についての主張は、いずれも抽象的で曖昧であり、具体的な損害として算出することはできない。

第3当裁判所の判断

1  課税処分の違法について

一般に、課税処分において課税評価額の認定に過誤があったからといって、その過誤があることをもって直ちに国家賠償法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく、担当職員が資料を収集し、これに基づき課税要件事実を認定、判断する上において、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と更正をしたと認め得るような事情がある場合に限り、前記の評価を受けるものと解するのが相当である(最高裁判所平成5年3月11日判決・民集47巻4号2863頁参照)。

したがって、以下、本件各処分、本件異議決定及びその決定後に本件各処分を取り消さなかったことにつき、原処分庁が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くしたか否かを個別に検討する。

2  本件各処分について

(1)  前記第2の1(3)ウのとおり、本件裁決では、本件契約1を基本として、原告とBを共同企業体と認定するとともに、本件工事代金には土地代及び金利対策費等の金額も含まれるとした上で、本件工事の収益計上時期は、C商事に正式に引き渡した日の属する事業年度とみるべきであり、正式に引き渡したのは平成10年6月20日であると認定して原処分を取り消している。したがって、本件裁決によれば、原処分は、本件工事による収益計上時期の認定を誤ったという過誤が存することになる。以下では、原処分庁による上記認定の誤りの存在を前提として、その認定・判断の適否について順次検討する。

(2)  本件各処分時までに判明していた事情

証拠(甲4ないし6、12ないし14、乙6、12、8、17、証人J、証人丁)によれば、本件各処分時までに原処分庁に判明していた事情等として、次の各事実が認められる。

ア 丁調査官は、本件各処分前の税務調査において、原告の総務部長J(以下「J部長」という。)から、本件契約1の契約証(甲1)及び「Bフォーラム取引関係一覧(B支払分)」と題したメモ等関係書類の提示を受けた上、Bに資金が流れており、原告においてはその資金を建設仮勘定に計上していること、及び、その性格は立替金的なものであることなどの説明を受けた。また、本件駐車場造成工事と土地買収から生じる利益を原告とBとで配分する約束があること、及び、土地買収の報酬等としてBがC商事から受け取る近隣対策費の金額が決まっていないことの説明も受けた。なお、丁調査官は、この際、J部長に対し、原告とBの利益配分に係る文書の提示を求めたが、そのような文書はないとの回答であった。

イ 原告がEJVから受注した本件駐車場の造成工事については、見積書による工事代金を4億0005万2000円とする深層工事(工事種目は駐車場地盤改良である。)と同じく工事代金を36億0400万0900円とする浅層工事(工事種目は駐車場造成工事であり、これが本件工事に該当する。)とがあり、この深層工事については、平成6年3月期の原告の決算で既に完成工事として計上されていた。

また、本件工事についても、平成7年12月28日を最終日として36億0400万0900円の工事代金の総額が原告に入金済みであり、原告の総勘定元帳の工事前受金勘定にその経過が記帳されていた。さらに、原告がEJVに送付した請求書の控えにおいても、原告が工事出来高として請求し、その請求に基づきEJVが発行した支払通知書に従って入金されていた。加えて、原告の請負工事台帳(平成8年3月31日以前は現場別工事台帳)によると、材料費や外注費等の工事原価は、平成8年4月1日以降発生していなかった。

ウ 平成9年9月、丁調査官らは、C商事に対する反面調査を実施し、C商事のK部長(以下「K部長」という。)の協力の下、本件工事進捗状況報告書(乙3)、本件指示書(甲19)及び次の記載等がある覚書証(乙8)等を入手した。

(ア)a C商事は、次の役割を分担し、その責任を完全に遂行する。

(a) 各個別法令の審査申請申出人となる。

(b) 用地取得の譲受人となる。

(c) 用地取得費、駐車場用地造成費、その他費用も含め坪当たり単価15万円とし、負担総額約120億円とする。

b 原告は、次の役割を分担し、その責任を完全に遂行する。

(a) 行政当局の環境整備

(b) 工事の完全な遂行

c Bは、次の役割を分担し、その責任を完全に遂行する。

(a) 用地買収業務

(b) 行政当局に対しての環境整備

(c) 各個別法令の申請手続、作業等の代行業務

(イ) 工事完了引渡しまでのC商事の総負担額は、約120億円(面積不確定のため)であり、C商事が工事完了以前に負担する土地買収資金他に対するC商事の支払利息は、当然負担総額の120億円に含まれるものとし、C商事、原告及びBは、これを確認合意した。

(ウ) 工事に関しては次のとおりとする。

a C商事は、原告及び大手ゼネコンとの共同企業体への工事の発注を行うものとする。

b 原告及び大手ゼネコンとの共同企業体は、各個別法令等の申請の工程表に基づき円滑に完全な工事の遂行に努める。

c 原告は、大手ゼネコンとの間でトラブルを起こさないものとする。

また、C商事及びBは、調整を計るものとする。

エ また、C商事に対する当該調査により、C商事の平成9年3月期の決算書には、本件駐車場が販売用土地として計上されており、その取得費用の一部としてBに対する未払金(近隣対策費)が計上されていることが確認された。

オ 平成9年9月下旬、丁調査官は、EJVの代表であるEの九州支店に電話をし、担当課長であったL(以下「L課長」という。)に、本件工事の完成の有無を確認したところ、EJVは、代金の受領が未済であるため、本件駐車場をC商事に引き渡してはいないとの回答を得た。併せて、EJVは、本件工事に係る原告への支払を未成工事支出金としており、これに係る消費税については課税仕入れにしているとの回答があった。

カ(ア) 丁調査官は、前記アからオまでの調査の結果、本件工事は平成7年9月には完成してEJVに引き渡されていると判断して、平成9年10月中旬から同年11月初旬までの間に、原告に対し、本件工事を完成工事として収益に計上した修正申告書の提出を慫慂したところ、原告のJ部長は、次のような主張をした。

a 原告は、本件工事につき代金全額を受領してはいない。

b 本件工事を完成工事として収益に計上すべきというのであれば、Bに送金している19億円を工事原価に入れるべきである。

c 近隣対策費の金額が確定していない。

d 本件駐車場の造成工事は、8万坪を120億円でBと一緒に請け負ったものであり、まだ、未買収の土地もあるし、工事が進行中なのであって、全部が完成しなければ完成したことにはならない(なお、この時点では、原告とBが共同企業体であるという趣旨の主張はなかった。)。

(イ) 前記(ア)aについて、丁調査官は、J部長に対し、「代金は36億円でしょう、全額入金になっていますよね。」と応じたところ、これに対するJ部長の反論はなかった。また、前記(ア)bについて、丁調査官は、J部長が以前にこの建設仮勘定に計上している金額は立替金であると説明したことを指摘し、この金の性格は立替金や仮払金であって、いわば原告がBに一時的に貸したようなものではないかとも述べた。そして、前記(ア)cについて、丁調査官は、近隣対策費はBが受け取るべきものであり、C商事も支払先はBであるとして申告している旨説明した。さらに、前記(ア)dについて、丁調査官は、「施主であるC商事が完成したと言っています。EJVも引渡しを受けたとしています。未買収の土地を残したまま、工事を完了させたということではないですか。」と答えた。

キ またJ部長は、「造成工事から生じる利益も、土地買収から生じる利益も、AとBとで4対6の割合で配分することになっているとAのMオーナー、(M、以下「Mオーナー」という。)とBの丙社長から聞いている。」と説明するとともに、次の各書面を丁調査官に提示した。

(ア) 「4.9.30」の日付が付され、6億5000万円の入金があり、これから立替金等の出金5億4695万円及び立替金利息333万2076円を控除した残額が9971万7924円である旨と、その残額につき、次の計算式の記載がある書面(甲12)

a 「99,717,924×4=39,887,169(A)」

b 「99,717,924×6=59,830,754(B)」

(イ) 「5.2.1」の日付が付された原告宛の「崎岡支払明細書」と題する書面で、1億6660万円の入金から「土地用悪水路支払い」という名目での支払合計額1億2827万5000円を控除した残金が3832万5000円である旨と次の記載があるもの(甲13)

a 「A(40%) 15,330,000円」

b 「B(60%) 22,995,000円」

(ウ) 原告宛の平成5年7月19日付けで、次の記載等がある書面(甲14)

a 「Aより6月30日入金済み 425,000,000」

b 「総支払い金額 151,200,000」

c 前記aからbを控除した残額である273,800,000につき次の計算式

「273,800,000×40%=109,520,000(A)」

「273,800,000×60%=164,280,000(B)」

ク そこで、丁調査官は、前記キの4対6の利益配分に関する合意文書の提示を原告に求めたが、その提示はなかった。また、丁調査官は、平成9年11月初旬、Mオーナーに対し、面会を申し入れたが、不在という理由で面会できなかった。

ケ 丁調査官は、C商事のK部長に対し、本件駐車場の造成工事に当たり、原告との間にEJVを入れた理由について尋ねたところ、K部長から、「C商事の親会社であり大手原駐車場の所有者となる予定の株式会社Nの当初からの意向として、一部地盤が軟弱なところがあり、ゼネコンの技術力を必要としたからである。」との回答を得た。

また、丁調査官は、平成9年11月13日、再度K部長に尋ねたところ、同人から次のような説明を受けた。

(ア) 本件契約1に係る契約証(甲1)は、大まかに決めたものである。むしろ、それ以前に作成された覚書証(乙8)の方が未締結だが内容の全てを表している。

(イ) C商事は、平成9年3月期に、Bに対する未払金(近隣対策費)を計上しているが、これはC商事が依頼している監査法人の指導を受けて概算額で計上したものである。

(ウ) 近隣対策費の仮払金として、Bに2億円と3億円の計5億円を支払済みであり、Bは、この内から1億7667万6329円を元国有地等の土地取得代に充てているが、そのほかについては正確な報告がない。

コ また、丁調査官は、平成9年11月19日、C商事の社長、K部長及びO税理士らから再度次のような説明等を受けた。

(ア) 「未払金は監査法人の指導を受けて概算額で計上したものであって、支払額が決まっているわけではない。」

(イ) 「契約証と同じころに作成した覚書証(乙8)に従って役割分担した。」

サ 平成9年12月3日、丁調査官は、Bに対する反面調査として、丙に対して事情を聴いたところ、次のような回答が得られた。

(ア) 本件駐車場の造成工事は未完成であり、未買収の地権者と交渉中である。

(イ) Bから原告に支払った金額の計算書に記載してある40パーセントとは、原告もそれくらいは要るだろうということである。

(ウ) 原告から受領している10数億円は預り金であり、領収書は発行していない。全部完了したら精算して、返すべき金額は返すつもりである。

なお、丙は、その際、Bと原告の間の利益配分の存在を認めることはなく、また、Bと原告が共同企業体を構成している旨の説明もなかった。

その後、丁調査官は、Mオーナーとの面会を求めたり、同人に電話で連絡を取ろうとするなどしたが、いずれも実現しなかった。

シ 丁調査官は、平成10年1月中旬、E九州支店に対する反面調査に赴いたところ、L課長と現場担当者Pが応対し、特記事項欄に本件工事の完成及び引渡しが平成7年9月13日であることが記載された見積書(乙6、注文請書に綴られたもの)の提示を受け、Pも、引渡しが同日であることを認めた。

その際、L課長は、丁調査官に対し、本件指示書(甲19)の存在につき承知している旨回答し、本件指示書の記載のとおり、造成工事面積に減少があったこと、その土地が現在でも金網で区切っている未買収の土地であることなどを説明した。さらに、丁調査官は、その場で、工事契約書、実行予算書、工事日誌、費用に係る請求書等を確認した。

ス(ア) 丁調査官は、平成10年1月19日、原告のJ部長と共にBの事務所へ行き、丙に対し、原告とBの間で利益配分の約束があるのか、C商事からBが近隣対策費を受け入れたとき、Bは原告に分配金をいくら出すのかについて質問をし、契約証についての説明を求めた。

(イ) これに対し、丙は、利益配分の合意については「そのような約束はない。」旨答えてその存在を認めることはなく、「この仕事は進行中であり完了していない。」と回答した上で、当時難航していた部分の買収についての説明をした。

(ウ) また、丁調査官は、原告に追加の費用の発生が見込まれるか否かを確かめるため、J部長に席を外してもらった上で丙にBの関係帳簿を確認したいと申し入れたが、多忙を理由にこれを断られた。

セ 平成10年1月下旬、丁調査官は、原告のQ社長及びJ部長に対し、改めて修正申告を慫慂した上、再度Mオーナーとの面会を求め、同人が不在であったため、後日の面談を申し入れたが、これも実現しなかった。

ソ 原処分庁は、本件各処分時以前には、「大手原駐車場請求、入金、B送金対比表」と題する書面(甲6、平成4年9月から平成8年1月までの間のEから原告への入金額及び入金日、原告からBへの送金額及び送金日、「A仮受金」という名目で計上された金額等が記載された書面)の提出を受けていなかった。

タ 以上の調査結果を踏まえて、原処分庁は、本件各処分を行った。

(3)  原告らJVの存在、利益配分の合意の有無等についての原処分庁の判断の適否

ア 前記(2)のとおりの事情(調査の対象及びその内容)に照らしても、丁調査官らによる資料収集その他の調査が通常行われるべき調査を怠ったものと認めるに十分ではない。

イ(ア) 前記(2)のとおり、本件各処分前の段階では、原処分庁において、本件契約1に係る契約証(甲1)については大まかに決めたものであり、むしろ覚書証(乙8)の方が内容の全てを表しているとの説明を受けているところ、これによれば、原告が工事の遂行を行い、Bが用地買収を行い、C商事が原告と大手ゼネコンとの共同企業体に工事を発注することなどが定められているのみであり、同覚書証はもちろん、本件契約1に係る契約証の記載全体を見ても、直ちに契約当事者が原告らJVであるとはうかがわれず、かつ、原告、B及びC商事等の関係者から本件契約1における当事者が原告らJVであるなどという主張はされていなかった。

また、本件契約1締結の後に、C商事とEJVの間で本件契約2が締結され、これを受けて、EJVから原告が一括して下請けをすることについての本件一括下請承諾書が作成され、これに基づき、Eから原告に対する本件注文書が作成されているところ、本件注文書(甲7)には、本件工事の代金は36億0400万0900円と記載されており、これについては、Eから原告に対し、平成7年12月28日までに全額入金済みであった。

(イ) そして、この工事代金36億0400万0900円に関して、原告は、Bとの間の利益配分の合意の存在を主張したり、Bへ送金した約19億円を工事原価に算入すべきと主張していたものであるが、利益配分の合意については、利益の一部に関するメモ的な文書(甲12ないし14)があるのみで、その合意の存在を明確に示した文書はなく、Bの丙においては、その合意の存在を認めることすらしておらず、合意の事情を知っていたとみられたMオーナーには、丁調査官らが面会することすらかなわなかった。また、Bへの送金分についても、原告において建設仮勘定として処理されており、証拠(証人丁)によれば、会計学上は、建設仮勘定は固定資産の部に分類されるものであり、法人が事業に寄与する建物等を取得する場合に、その建物等が完成するまでの間、支出した費用等を建設仮勘定として経過的に計上しておく勘定科目であって、その建物等の完成後は、適当な有形固定資産の勘定科目に振り替えられるべきものであることが認められる。さらに、前記のBへの送金分については立替金的な性格を持つものであるとの説明がされていたのであり、本件各処分までに、この送金分が用地取得代等であると判断できる資料はなかった。

(ウ) これらのことからすれば、この段階において、原告とBとの利益配分の合意があると認定することは到底困難であり、原処分庁がかかる資料等を前提として前記約36億円のうちBへ送金されたものを損金として算入しないなどと判断したこともやむを得ないものというべきである。また、本件契約1の契約書における受託者側の当事者が原告らJVではなく、原告及びBの各自であり、前記覚書証のとおり、本件駐車場造成工事のうち、原告が造成工事を遂行し、Bが用地取得等の業務を負担することとなっていることなどを併せると、本件契約2については、これによって、本件契約1のうち、造成工事の部分についてEJVが元請けし、そこから原告が下請けをするという形に変更されたものと判断することにも十分に根拠があるということができ、かつ、原処分庁においてその判断を否定するに足りる資料の存在がほとんど認められない状態にあったというべきである。

したがって、本件各処分において、本件契約1が原告らJVを当事者とするものとは判断しなかったこと、及び、原告とBの間に利益配分に関する合意はなく、前記約36億円のうちBへ送金されたものを損金として算入しないなどと判断したことについては、税務調査の性質に照らしても、原処分庁の担当職員において、職務上尽くすべき注意義務を尽くさなかったとは到底いえない。

(4)  収益計上時期についての原処分庁の判断の適否

ア 法人税法基本通達2-1-5(請負による収益の帰属の時期)によれば、請負による収益の額は、別に定めるものを除き、物の引渡しを要する請負契約にあってはその目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日、物の引渡しを要しない請負契約にあってはその約した役務の全部を完了した日の属する事業年度の益金の額に算入するものとされ、同通達2-1-6によれば、請負契約の内容が建設、造船その他建設工事等である場合には、その建設工事等の種類及び性質、契約の内容等に応じて、次のような方法のうちからその目的物の「引渡し」の日として最も合理的と認められるものを選択し、これにより継続的に収益計上すべきものとされており、これらに違法又は不合理な点は見当たらない。

(ア) 作業の全部を結了した日に引渡しがあったとする方法

(イ) 相手方の受入場所へ搬入した日に引渡しがあったとする方法

(ウ) 相手方が検収を完了した日に引渡しがあったとする方法

(エ) 相手方において使用収益ができるようになった日に引渡しがあったとする方法

イ ところで、本件注文書(甲7)においては、工事完成とは、C商事が正式に引き取った時点とするとの取り決めがされているが、前記(2)オのとおり、EJV側は、C商事からの代金の受領が未済であるため、本件駐車場を正式には引き渡していないとの回答をしている。

しかしながら、本件工事進捗状況報告書(乙3)においては、C商事は、平成7年9月13日に本件駐車場についての建設計画が完了したことを認めており、さらに、C商事は、EJVに対し、本件指示書により、本件造成工事が平成7年9月13日付けで完了したことを確認している。

また、見積書(乙6)によれば、少なくともEJVに対する本件工事の完成及び引渡しが平成7年9月13日にされたことが認められ、前記(2)エのとおり、C商事は、平成9年3月期の決算書に、本件駐車場を販売用土地として計上しており、本件駐車場を自己の資産として認識していたものといえる。

ウ イを前提にすると、本件駐車場のC商事への引渡しが未了であるのは、C商事の代金不払というC商事側の一方的な事情によるものに過ぎず、本件工事の収益計上時期との関係では、本件工事が完成しているとみることもまた十分に可能である。

そして、現に、本件工事については、本件注文書による工事代金36億0400万0900円全額が平成7年12月28日までに既に原告に支払われているのであり、平成8年4月1日以降は、本件工事に係る工事原価が発生していなかったのであるから、本件工事に係る収益の全部を原告は既に実現、取得していたということもまた可能である。

エ そうすると、前記(3)の判断を前提に、その収益を本件各処分により本件事業年度に計上すべきと判断したことにつき、担当職員において、職務上尽くすべき注意義務を尽くさなかったということはできない。

(5)  本件各処分についての結論

よって、本件各処分をしたことにつき、国家賠償法1条1項の違法があったということはできない。

3  本件異議決定について

(1)  本件異議決定時までに判明していた事情等

証拠(甲4、7ないし12、17、19、43、乙2、4、5、9、11、12、14、16、18、証人戊)によれば、本件異議決定時までに異議審理庁に判明していた事情等として、前記2(2)の事実のほか、次の事実が認められる。

ア 原告は、異議申立書(甲43)において、次のとおり主張している。

(ア) 本件駐車場の造成工事は、本件契約1のとおり、Bと原告が共同企業体を組み、土地の買収斡旋、近隣対策、水路の払い下げ、開発申請等の諸手続及びその他造成工事等を含み、駐車場として完成させる事でのデベロッパーとして、8万坪の土地を坪15万円、合計120億円で受け渡しするという基本契約のうちの造成工事部分である。

(イ) 当該工事は、本来、原告らJVが施工するところであるが、大規模工事であるため高品質を保証するため、C商事の要望によりEJVが施工する取り決めとなったが、実体は基本契約の一部に過ぎない。

(ウ) 当該工事は、総額120億円の中で始められたもので、C商事に引き渡して初めて契約完了となるのであるから、当該工事はあくまで未完成である。

(エ) 工事代金については、120億円の総事業費が決まり、これから逆算して当該工事金額が決定されたものであり、約50パーセントの利益率となって普通の土木工事では考えられない数値である。このような工事費の決定方法、異常に高い利益率からすれば、工事金の中に土地代等の工事金以外の金額が含まれていると考えるのが妥当である。現に入金した金額のうち、工事原価以外の資金のほとんどはBに流れている。

(オ) よって、当該工事は、あくまで総額120億円の基本契約の中の一部に過ぎず、造成工事完了の上、C商事が引渡しを受けて初めて完結となり、乙との間の立替金等の精算が終了後に原告の利益が確定する。仮に当該工事を基本契約と切り離し、完成工事とするのであれば、Bに渡った資金は工事原価に算入されなければならない。

イ 戊調査官は、平成10年8月10日、反面調査のためC商事に赴き、K部長と面会した。K部長の説明によれば、平成3年11月ころの当初の計画では、C商事がBに用地取得から造成工事の施工までを委託し、駐車場完成後に坪当たり15万円でC商事が買い受ける約束をして、Bが全責任をもって当たっていたが、農地転用等に係る行政官庁の許可は、全てDの駐車場としてのみの許可であったことから、土地の買主も造成工事の発注者もC商事となっているとのことであった。

ウ また、本件駐車場については、次の事実が判明した。

(ア) 平成7年12月28日付けの、C商事からEJVに宛てた「大手原駐車場造成工事工事代金支払の延期について(お願い)」と題する書面(乙9)には、当該工事が無事終了したこと、当該工事代金の支払を猶予してもらいたいこと、したがって、本件駐車場は、工事代金支払時までEJVにおいて留置されたい旨の記載があること

(イ) 平成10年6月22日付けでC商事とEJVとの間で、C商事がEJVに発注した本件駐車場の造成工事に係る請負代金56億3410万円について、同年6月30日以降12回に分割して支払うことなどを内容とする「請負残代金の支払ならびに抵当権設定契約」(乙16)が締結されていること

(ウ) 本件工事の予定地内には依然として未買収地があるが、平成10年6月に、本件工事の対象となっている土地の一部について、C商事が第三者に譲渡する契約が締結され、同月23日付けで所有権移転登記がされていること

エ なお、C商事の平成10年7月17日付け陳述書(甲17)には、次のとおりの記述がある。

(ア) C商事は、本件駐車場の造成工事について、本件契約1により、C商事がB及び原告に対し用地の買収から造成工事まで完了の上、C商事へ引き渡すことを委託したものである。

(イ) しかし、当該工事は、地権者の間の係争中の境界線の争いなどがあり、数か所の未完成部分がある。C商事としては、これらの未完成部分の工事完了をもって工事完了との立場であるので、本件駐車場は、完全なものとして引渡しを受けることができる状況にはなく、当該工事は未完成工事である。

(ウ) C商事の決算においては、資産計上しているが、これは監査法人の指示により行ったものであり、その金額については未確定である。

オ 戊調査官は、平成10年8月10日、C商事に対する反面調査を行い、その際、C商事とEJVとの本件契約2に係る代金約56億円について、土地代等の工事金以外の金額が含まれているかどうかにつき質したが、それを認める趣旨の回答は得られなかった。また、工事代金については、「消費税を含めて54億7000万円と考えていたが、EJVがこれに消費税を加えて約56億円になった。」との説明があった。

カ 戊調査官は、平成10年8月19日、EJVに対する反面調査のため、EJVの代表であるEの九州支店に行き、L課長に面会し、その際、本件工事の完成引渡しについての新たな資料の提示はなかったが、本件指示書(甲19)の原本を確認した。

また、工事代金について、Eからは、EJVから原告に発注した本件工事の代金約36億円の中に、工事代金以外の金額が含まれているとの回答はなかった。

そして、平成4年9月24日付けの請求書(甲8、9)により同月30日に原告名義の預金口座に振り込まれた合計6億5000万円の性格については、本件工事の工事代金約36億円の一部として支払っているとの回答があった。また、その支払の時期が、EJVと原告の間で注文書(甲7)及び注文請書(乙14)が取り交わされた時期より前であることについては、平成4年9月22日付けの本件一括下請承諾書(乙2)があり、本件工事は原告が受注することを事実上合意していたもので、契約がなければ払わないとはいえないとの回答があった。

キ 平成10年8月20日及び同月21日、戊調査官は、原告の事務所へ行き、原告の副社長、J部長、R税理士(以下「R税理士」という。)と面会した。そこで、原告側から、原告が見積もった本件工事の見積価額が16億8200万円であること、EJVから最初に支払われた6億5000万円がBに渡り、土地の取得代等に充てられたことなどにつき、資料を示して説明がされたが、本件工事代金に工事金以外の金額が含まれているとの主張について、その工事金以外の金額の内容についての具体的な説明はなかった。なお、前記の見積金額が16億8200万円であることについては、この時点において初めて主張されたものであった。

また、前記のとおり支払われた6億5000万円については、メモ的な計算書(甲12)も提示されたが、請求書(甲8、9)の記載では、原告がこれを請求して原告の指定口座に送金されており、また、原告の帳簿において、平成4年9月30日に工事前受金6億5000万円との記載があり、相手科目には「業者長期貸付金」との記載があった。

ク 戊調査官は、平成10年8月31日、再度原告の事務所へ行き、Mオーナーと面会した。同人によれば、Bの経費は、EJVから最初に支払われた6億5000万円と国有地等を取得するために要した1億8000万円であるとのことであったが、6億5000万円の使途につき明確な説明はなかった。

ケ(ア) 平成10年9月14日、原告のJ部長は、戊調査官に対し、同人が作成を依頼していた「大手原駐車場請求、入金、B送金対比表」(甲6)を提示し、全体として6対4になるように調整しながら送金した旨説明したが、その比率の計算の前提が、原告の本件工事に係る原価が実績に関係なく約12億3000万円となっており、Bの経費の内容は確認できないというものであった。また、これは、平成4年2月28日にBがC商事から受領した2億円や、原告が別途EJVから受注した約4億円の関連工事代金が配分の対象となっていない内容のものであった。

(イ) また、J部長は、Bから原告に宛てた次の内容が記載された「証明書」(甲11)を提示した。

a Bは、本件駐車場の造成工事に関し、用地買収から近隣対策及び工事に至るまで全てをプロデュースしている。

b 原告がEJVから下請けした代金36億0400万0900円の工事についてその内容も全てプロデュースした。

c 36億0400万0900円は、工事費と用地買収費及びその他対策費用等に充てており、平成4年9月30日入金の6億5000万円を始め、総額19億1744万0539円を平成10年9月14日現在までに預かっているが、土地の買収等に支払ったり、未買収地の取得に充てる予定である。

d したがって、36億0400万0900円のうち19億1744万0539円は、原告の工事代金ではなく、Bが用地買収費その他の対策費等の目的にするものである。

コ 平成10年10月6日、原告の副社長及びJ部長は、戊調査官に対し、本件契約2の工事代金56億3410万円の中には、工事代金、未買収の土地代、近隣対策費並びにその他工事完成に係る諸経費も含まれていることを認識している旨記載されたC商事作成の証明書(甲10)を提示したが、その際、その代金のうち、原告が受注した工事の代金約36億円の中に土地代等が含まれている点に関する具体的な説明はなかった。

サ(ア) 平成10年10月14日、原告から佐世保税務署長に対し、次の内容等が記載された「異議申立に関する理由の補足および上申書」と題する書面(以下「本件上申書」という。甲44)が提出された。

a Eらから原告へ下請代金名目で送金された36億0400万0900円の送金分のうち、16億8170万3000円を原告がBへ送金しているが、この送金分は、EらがC商事に融資した金であり、原告が取得すべきものではなく、本来ならば、原告からC商事に送金し、C商事が用地取得等の任に当たっていたBに土地取得等のために渡すことになるが、その手数を省いてBに直に送ったものである。

b 原告は、Eらから本件駐車場予定地全部を一括して下請けして造成し、一括して引き渡す契約をしている。しかし、造成予定地の一部は未買収で、下請工事自体未完了である。

(イ) なお、本件上申書においては、実体として、本件契約1の当事者が原告らJVであること、そこでの原告とBの間の利益配分の割合が4割対6割であることなどの説明、主張はされていない。また、前記(ア)aの融資金の主張は、この時初めてされたものである。

シ 平成10年10月19日、戊調査官は、丙に面会し、同人から、Bが本件駐車場に係る資金を原告から平成4年ころからこれまでに約19億円受け取っているが、この資金の使途については、進行中の本件駐車場に係る土地買収に悪影響を及ぼすおそれがあるから帳簿等は見せられないとの回答を得た。また、Bが当該約19億円のうちから原告に送金した1億6000万円余については、利益配分の存在を認めることもなく、「原告も資金が必要だから渡しているだけだ。」との丙の回答であった。

そして、証明書(甲11)については、同人から、当該19億円は預かった金ではあるが、全部使ってしまって原告に返す金はない旨の回答がされた。

ス 平成10年10月23日、戊調査官は、C商事の社長に対し、証明書(甲10)の内容について、土地代等が含まれているというがそれはいくらかと尋ねたところ、用悪水路等でC商事の名義になっているものがあり、この取得資金はC商事は負担しておらず、工事費の中から出たという説明を後から聞いたが、そうならそうだろうと思った旨の回答があった。そして、C商事が平成10年6月に土地を譲渡した際にBに1億5000万円を渡しているがこれが当該土地取得資金ではないかと尋ねたところ、当該1億5000万円は、Bに泣きつかれて渡したものであり、何の支払と決まった金ではないとの同人の回答であった。

その後、戊調査官が調査資料を検討したところ、C商事は、平成4年2月28日に2億円及び同年5月11日に3億円をBに支払っており、これが用悪水路等の取得資金としてC商事の帳簿に記載されていることが判明した。

セ 平成10年11月4日、戊調査官は、Bの丙と面会したが、丙は、前回調査時に作成した丙に対する質問顛末書に「税務的に利用しない。」と記入して正本を渡せなどと要求するなどして全く調査に応じようとせず、帳簿等の提示を求めることが期待できなかったことから、戊調査官は、それ以上の説得を行わなかった。

(2)  原告らJVの存在、利益配分の合意の有無等についての異議審理庁の判断の適否前記2(2)及び前記3(1)の各事実によれば、原告は、異議申立書において、本件契約1の当事者が原告らJVであることを主張しているものの、本件上申書においては、そのような主張は見当たらず、むしろ、原告は、本件工事に関する実体について、Eらから原告に下請代金名目で送金されたものの一部には、EらがC商事に融資した金が含まれ、この金は本来原告からC商事に送金し、C商事からBに渡すべきものである旨主張し、さらに、原告自身がEJVから本件駐車場予定地全部を一括して下請けして造成し、一括して引き渡す契約をしていることを認めている。このような本件上申書における原告の主張は、原告とBの各自が独立した取引主体であることを前提とした主張であり、本件契約1の当事者が原告らJVであったという主張とは矛盾するものといわざるを得ない。

そして、本件異議決定時の段階においても、本件契約1及び本件契約2の関係等についての前記2(3)のとおりの判断を否定できるような新たな資料の存在を認めることはできない。また、本件上申書における融資金等の主張についても、そのような主張に沿うような資料は、EJV、C商事及びBのいずれにおいても見いだすことができない。

さらに、利益配分の合意に関しては、新たな資料として、「大手原駐車場請求、入金、B送金対比表」(甲6)、B作成の証明書(甲11)及びC商事作成の証明書(甲10)が提出されている。しかしながら、「大手原駐車場請求、入金、B送金対比表」(甲6)については、Bの経費の内容が確認できたわけでもないから、6対4という配分を認めるには十分な資料とはいえず、また、Bの丙自身は依然として利益配分の存在は認めておらず、さらには、原告自身、本件上申書において、前記のとおり、原告からBへの送金分については本来C商事からBへ土地取得等のために渡されるべきものであったなど、利益配分という主張とは矛盾する主張をしていたのであって、到底利益配分の合意の存在を認めることができるような状況にはなかったものである。また、B作成の証明書(甲11)については、総額19億1744万0539円を預かっており、土地の買収等に支払ったり、未買収地の取得に充てる予定とされているが、丙に対する調査によってもその使途が明確にはならず、その約19億円が債務として確定しているかも不明な状態であったというべきであり、かつ、一旦下請工事代金名目でEJVから原告に送金されたもののうちの一部が原告からBへ送金されていることについては、前記2(3)のとおり、そもそも原告において建設仮勘定として処理され、立替金的な性格であるなどとの回答がされていたものであって、これを工事原価として認定できる状態にはなかったというべきである。さらに、C商事作成の証明書(甲10)については、C商事の社長の回答によれば、本件契約2の代金中に土地代等が含まれているとのことであるが、それがいくらであるのかについても判然とせず、また、EJVから原告に支払われた本件工事代金に土地代等が含まれているかどうかも明らかではないというものであり、本件工事代金中の工事原価を算定するための資料とはなり得ないものであったというべきである。

以上の事情を前提とすると、本件異議決定において、本件契約1が原告らJVを当事者とするものではなく、原告とBの間に利益配分に関する合意はなく、前記約36億円のうちBへ送金されたものを損金として算入しないなどと判断したことについても、異議審理の調査の性質に照らし、担当職員において、職務上尽くすべき注意義務を尽くさなかったとは到底いえない。

(3)  収益計上時期についての異議審理庁の判断の適否

異議審理の段階において、本件工事が未完成である旨のC商事の平成10年7月17日付け陳述書(甲17)が提出されているが、前記2(4)のとおり、異議審理庁は、本件工事進捗状況報告書(乙3)、見積書(乙6)の記載と矛盾するなどしていることから、同陳述書におけるC商事の陳述を採用せず、本件工事は完成していると判断したことについても、同様に、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くさなかったということはできない。

(4)  本件異議決定についての結論

よって、本件異議決定をしたことにつき、国家賠償法1条1項の違法があったということはできない。

4  本件異議決定後の不作為について

(1)  本件異議決定後に判明した事情等

証拠(甲23ないし28、30ないし34、37、38、47、54、乙18、19)によれば、本件異議決定後に佐世保税務署長に判明した事情等として、前記2

(2)  及び前記3(1)の事実のほか、次の事実が認められる。

ア 原告の審査請求書(甲46)には、概ね次のような主張がされている。

(ア) 本件契約1により、原告らJVが本件駐車場用地を取得し、それを駐車場に造成することを請負い、原告らJV内の利益はB6割、原告4割とする口頭での合意がされた。

(イ) C商事とEJVの間の元請契約及びEJVと原告の間の下請契約は、EらからC商事への融資を実行するために仮装されたものであり、Eから原告の口座に送金された約36億円は原告の下請工事代金ではなく、融資金である。

(ウ) 本件工事はEらの下請工事としてされたものではない。

(エ) 仮に本件工事を下請工事とみるとしても、これは原告のみに対してされたものではなく、原告らJVが下請けしたものである。

(オ) 本件工事だけを本件契約1から切り離して完成の有無を論じるべきではなく、また仮に本件工事だけを切り離して考えるとしても本件工事は完成しておらず、課税時期は到来していない。

イ 原告は、平成10年12月3日に審査請求書を提出した後、平成11年3月29日、佐世保税務署長に対し、本件精算書2及び同3並びに次の内容等が記載された添付書類等と共に本件各処分の取消しを求める旨の上申書(甲47)を提出した。

(ア) 本件精算書1

B及び原告は、C商事に平成10年6月20日をもって、本件駐車場用地の買収業務及び造成工事の完了を報告し、用地の引渡しを次のとおり行い、平成11年3月9日に原告、B及びC商事の3者間で次のとおり精算を行った。

引渡面積   25万1761.28平方メートル

引渡価額

7万6157.78坪×15万円=114億2366万7000円

B管理地   1208.35平方メートル(365.52坪)

365.52坪×15万円=5482万8000円

精算総額(a-b)

113億6883万9000円

C商事既払金等

(a)

C商事既払金

99億9498万7188円

(b)

C商事別途支払済金

1億5000万円

(c)

C商事諸経費

5069万8375円

(合計)

101億9568万5563円

C商事未払金(c-d)

11億7315万3437円

(イ) 平成11年3月9日付け「債権・債務の確定証書」(債権者B及び原告並びに債務者C商事の作成)

B及び原告は、C商事に、平成10年6月20日付けをもって、本件駐車場を引き渡した。そして、残代金が11億7315万3437円であることを確認する。

ウ なお、前記イの時点で、かように本件駐車場が平成10年6月20日にC商事に引き渡された趣旨については、本件異議決定前の税務調査における戊調査官らに対しては主張されていなかった。

エ 佐世保税務署長は、前記ア以外の資料として審査期間中までに、J部長作成の陳述書(甲20)、原告の総勘定元帳(甲28、30)、「大手原駐車場引渡精算書」(甲23)、債権・債務の確定書(甲24)、公正証書(甲25)、精算書2通(甲26、27)、J部長作成のメモ(甲31)、法人税確定申告書及びその添付書類(甲32ないし34、37、38)を入手している。

(2)  原告の不作為の適否

前記(1)アの主張については、本件上申書と矛盾する内容のものであり(本件上申書においては、原告は、Eらから本件駐車場予定地全部を一括して下請けして造成し、一括して引き渡す契約をしている旨明言している。)、前記(1)イに記載の精算書等は、いずれも本件異議決定後作成されたものであって、直ちに本件契約1の当初からそのような利益配分の合意があったことを示すものとしてこれを信用することができるかどうかについてはなお疑問があるというべきであって、本件指示書や見積書(乙6)等の資料や、EJVらに対する調査結果からも認めることができない事情である。

また、完成、引渡しの時期についても、前記(1)イにより引渡しの時期とされている平成10年6月20日は、本件異議決定前の日であるが、同日に引渡しがあったなどという主張は、原告を含めた関係者のいずれからもなかったものである。

そうすると、このような経緯を前提とした上で、佐世保税務署長において、前記審査請求書の提出を知り、前期(1)イ等の書類の存在を知ったとしても、直ちにそれを信用せずに再更正の措置等を採らなかったことについては、むしろ、この段階においてかかる作為義務を想定することはできないというべきであるから、そのような税務署長の不作為が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くさなかったもので国家賠償法1条1項にいう違法があったということはできない。

5  結論

以上のとおりであって、本件各処分、本件異議決定及びその後の不作為につき、いずれの段階においても国家賠償法1条1項にいう違法があったということはできないのであり、その余の点を判断するまでもなく、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩木宰 裁判官 坂本三郎 裁判官 秋本昌彦)

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