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長崎地方裁判所佐世保支部 昭和25年(ヨ)3号・昭25年(モ)2号 判決

昭和二五年(ヨ)第二号 申請人

昭和二五年(ヨ)第三号 被申請人

松浦炭砿株式会社

昭和二五年(ヨ)第二号 被申請人

昭和二五年(ヨ)第三号 申請人

永吉誉 外五十三名

昭和二五年(ヨ)第三号 申請人

山本秀雄 外六名

一、主  文

一、当裁判所が当庁昭和二十五年(ヨ)第二号立入禁止仮処分申請事件について同年一月二十五日なした仮処分決定はこれを取消す。

一、昭和二十五年(ヨ)第二号申請人の申請はこれを却下する。

一、昭和二十五年(ヨ)第三号申請人福森重太郎以下別表第三記載の二十五名が同号被申請人の従業員たる仮の地位を定める。

一、昭和二十五年(ヨ)第三号申請人永吉誉以下別表第四記載の三十四名の申請はいずれもこれを却下する。

一、申請費用はこれを十分し、その七を昭和二十五年(ヨ)第二号申請人の、その余は同年(ヨ)第三号申請人永吉誉以下別表第四記載の三十四名の各負担とする。

本判決は第一項に限り仮に執行することができる。

二、事  実

第一本件訴訟の経過概要

松浦炭礦株式会社は昭和二十五年一月二十四日大山平吉以下百九十四名の即時解雇者を相手方として事業場等立入禁止仮処分申請(当庁同年(ヨ)第二号)をなし、当裁判所は同年一月二十五日同申請を認容して右百九十四名に対する事業場等立入禁止の仮処分決定をしたところ、同年一月二十八日同号被申請人大山平吉以下六十二名が該決定に対し異議を申立て(当庁同年(モ)第二号)るとともに、同年一月二十五日右六十二名(即時解雇者)の外新に予告解雇者十名を加えた七十二名が右会社を相手方として仮の地位を定める仮処分申請をした(当庁同年(ヨ)第三号)。その後右両事件の各口頭弁論続行中当事者双方からそれぞれ各申請(異議申立ても含めて)一部が取下げられたので、結局同年(ヨ)第二号の被申請人(即時解雇者)は別表第一記載の五十三名、同年(ヨ)第三号の申請人は別表第一記載の五十三名(即時解雇者)と同第二記載の六名(予告解雇者)計五十九名に減縮されるに至つた。而して当裁判所は昭和二十五年九月二十八日同年(モ)第二号異議事件に同年(ヨ)第三号を併合して口頭弁論を終結したのである。

從つて、同年(ヨ)第二号申請人(会社)は同年(ヨ)第三号の被申請人たる地位を兼ね、同年(ヨ)第二号の被申請人別表第一記載の五十三名(即時解雇者)は同年(ヨ)第三号の申請人の地位を兼ねるに至つた。

なほ同年(ヨ)第三号申請人中の別表第二記載の六名は予告解雇者であつて同年(ヨ)第二号とは関係がないものである。

右のとおり本件においては当事者が錯綜しているから、本判決においては無用の混雜を避けるため、昭和二十五年(ヨ)第二号申請人兼同年(ヨ)第三号被申請人(会社側)を申請人と、同年(ヨ)第二号被申請人兼同年(ヨ)第三号申請人A以下別表第一記載の五十三名ならびに同年(ヨ)第三号申請人A′以下別表第二記載の六名(いずれも組合側)を一括して被申請人と略称することにした。

第二当事者双方の本案前の主張

申請代理人は被申請人a、同w、同r、同c、同q、同g、同v、同s等八名は本件立入禁止仮処分決定に対する異議申立ならびに仮の地位を定める仮処分申請を取下げたので、申請人と右被申請人八名との間の本件訴訟部分は終了したものであると述べた。

被申請人等代理人は申請人主張の被申請人の各取下書が裁判所に提出されたことは認められる。しかしそれは同被申請人等が退職金受領の方便として白紙に捺印したものを会社に提出したところ、会社がこれを擅に取下書として冒用して裁判所に提出したものにすぎないから、右各取下は同被申請人等の眞意によるものでなく当然無効である。仮にそうでないとしても詐欺に因る意思表示であることは明白であるから本訴においてこれを取消す。よつていづれにしても同被申請人等の本件訴訟は終了したものではないと述べた。

第三本案についての当事者双方の申立と主張

申請代理人は昭和二十五年(モ)第二号につき主文第一掲記の仮処分決定はこれを認可する。申請費用は被申請人等の負担とする。との判決を、昭和二十五年(ヨ)第三号につき被申請人等の申請却下の判決を求め、その申請の理由ならびに答弁として次のとおり陳述した。

(一)  申請人会社は長崎縣北松浦郡世知原町に石炭礦区を所有し松浦炭礦株式会社礦業所の名称で石炭の採掘と販賣を営むものであり、被申請人等はいずれも本件解雇まで申請人会社に雇傭されていた同礦業所の從業員(坑員)であり且つ同礦業所從業員約一、八六五名をもつて組織される松浦炭礦労働組合の組合員であつた。

(二)  而して経済界における急速な自由経済への進行に伴い昭和二十四年九月十七日から石炭統制が撤廃されるとともに、配炭公団、政府赤字加算金制度も廃止されるに至つたため、各炭礦とも急ぎ自立体制を確立せざるを得なくなつたのである。然るに当時申請人会社においては一億四千五百万円の借入金、六千万円の未拂金、五千四百万円を超ゆる昭和二十四年上期欠損金等合計約二億六千万円に達する赤字の累積に喘いでいた際とて、この上政府の赤字加算金を失いしかも松浦炭の如き五千六百カロリー以下の低品位炭の賣炭價格が自由販賣となるや約一割下落するという状況であつたので、從來のまゝの赤字継続では会社の経営は自立どころか自滅に陷ることが容易に推測されるという危機に直面したのである。

(三)  そこで申請人会社は急いで危機突破対策を講ずることとしこれが協力を組合にも要望したところその應諾を得たので、同年十月四日の組合との団体交渉において、右対策の第一段階としてあくまで完全雇傭の基本線の上に立つて先づ同年十月以降の從業員賃金を修正して能率の向上を図ることとし、根本的には同年四月から六月までの中央協定賃金をそのまゝ据置き(坑内夫三六三円、坑外夫二一六円)坑内直接夫の低能率の是正のため採炭夫の対應能率を同年四月から九月までの実績に基き八時間一・八二瓲(從前は一・五二瓲)とし、掘進、仕繰も右に準ずることゝし、定額給者の賃金は從前どおりとするが生産能率賞與、臨時手当は支給しない旨の会社側危機突破案としての賃金案を発表して極力組合の協力を求めた。しかるに当時申請人会社の賃金体系は、昭和二十四年七、八、九の三ケ月間の平均においては長崎縣下主要炭礦の賃金の約四八%高、縣下で申請人会社に次いで高賃金である江迎炭礦の約三二%高、同年八月だけについて比較すれば縣下主要炭礦の約四〇%高という状況であり非常な高率賃金であつた上、一旦は申請人会社の危機突破に協力の意を表明しておきながら、組合側は前記実情を一切無視し組合側の危機突破対策案として坑内七七二円、坑外四一六円(いずれも從來の倍額以上)、家族給六〇〇円(從來四〇〇円)、対應能率は從來どおり一・五瓲とする組合側賃金案を要求して來たのである。しかし申請人会社としては前記のとおり危機に直面する会社の経理上かゝる高額の賃金支拂はとうてい不可能であつたので、爾來数十回に亘り回を重ねて団体交渉を続け誠意をつくして経理の内容を説明し、経営の苦哀を訴えて極力組合の諒解を得るべく努力を重ねたのであるが、組合側はいずれも経理の内容が不明であるとか、物價が騰貴した等の一片の抽象的理由を弄するばかりで何等誠意を示さないのみか、自己の賃金案を固持して一歩も讓らなかつたので、はしなくも労資の対立が激化して來た様な次第である。

(四)  而して組合は同年十月以降右要求貫徹のため爭議に突入したのであるが、この間過激な組合幹部の指嗾煽動の下に一般從業員の集団職場離脱、無断職場大会、現場幹部係員(職員)に対する脅迫(所謂る吊し上げ)、果ては三日間晝夜連続に亘る礦業所長田辺重訓方包囲暴行事件等全く正当なる組合活動ないしは爭議行爲の程度を逸脱した不法事件が相次いで発生し、その状況は別表第五の解雇理由書記載のとおりであつたため、会社の生産秩序は全く破壞され、その結果昭和二十四年六月一六、一〇〇瓲、七月一六、五〇〇瓲、八月一五、〇〇〇瓲、九月一四、四〇〇瓲、十月一二、四〇〇瓲、十一月一〇、五〇〇瓲、十二月六、八〇〇瓲と同年十月以降出炭は急激に低下したので申請人会社の欠損は益益増大し、市中銀行からの信用を失墜して前記危機はいよいよ顕著となつて來たのである。

(五)  そこで問題の解決は一刻の遷延を許さず且つ同年十二月十四日九州民事部からも企業合理化促進の忠告を受けるに至つたので、申請人会社は重大な決意の下に、翌十五日最初の会社賃金案に生産賞與として一五、〇〇〇瓲以上出炭の場合在籍一人について一五〇円、一五、五〇〇瓲以上の場合同じく二〇〇円、(中略)一七、〇〇〇瓲以上の場合同じく三五〇円を支拂い、配分方法に就いては両者間で別途に協議する。又十二月特別生産賞與については十二月二十一日から二十九日まで八日間四四、〇〇〇瓲出炭した場合、右期間出勤五日以上の者に一般成年男子一人につき五五〇円、女子及十八才未満者一人につき四一〇円を支給し、右期間出勤四日以下の者一人につき半額を支給する旨の最大限の讓歩を示した最後賃金案を発表した。しかるに組合側は何等檢討することなく不誠意にもこれを拒否し自己の高額な賃金案を押し付けて一歩も讓らない上、やがて莫大な越年資金や主食掛賣等の要求をも別途に提示して事態を益々複雜化せしめたので、賃金交渉は遂に妥結を見ないまゝ同年末を迎えたのであるが、前記の如き組合側の不当な爭議による出炭低下のため借入金はその総額において約一億八千万円、赤字欠損金はその総計約八千万円に累加し、前記の如き出炭の激減、市中銀行からの信用失墜と相俟つて金融は逼迫し経理はいよいよ最惡の事態に直面するに及んだので、当初申請人会社が計画した賃金体系の修正のみではとうてい経営の再建は不可能となり、人員整理を含む綜合的経営合理化が必至とされるに至つたのである。

(六)  かくするうち昭和二十四年十二月二十九日九州民事部からも労資双方に経営合理化の早期実施を強く忠告されたので、申請人会社は超えて昭和二十五年一月九日に至り組合と団体交渉を開いた上経営再建計画を発表し、これにおいて前示のとおりの経理逼迫の実情、信用失墜状況、炭價値下状況や経済出炭計画、人員計画(在籍総人員千八百五十六名中二百一名整理)等綜合的企業合理化方策、並びに同方策実施後の経理の收支状況と、右人員計画としての人員整理の整理基準(後記)を説明し、組合に対しては極力その協力を要望した上これが回答を同月十二日までに提出することを求めた。然るに組合は同月十三日に至つて全面的に拒否する旨回答し不誠意にも会社再建に対する協力の意思が全くないことを表明した。

(七)  こゝにおいてこの上組合との団体交渉もとうてい期待し得なかつたので、やむなく申請人会社は右再建計画の一環としての人員整理を断行することとし、被整理者の選定に付きさきに発表した整理基準

一、停年者 昭和二十四年十二月末に満六十才以上に達する者

二、長期欠勤者

(イ) 私傷病にして一ケ月以上欠勤し向後も引続き欠勤見込の者

(ロ) 向後就労見込のない者

三、出勤不良者

昭和二十四年四月以降の月平均出勤方数が左記以下の者

但し基準法に認められる休暇並びに忌引、分娩、看護、住宅移轉、休暇及び公傷休業の日数は出勤と看做す

坑内直接夫 十八方(欠勤月平均七・二方 九ケ月六十四方以上)

坑内間接夫 十九方(〃六・二方     〃五十五方以上)

坑外夫   二十方(〃五・二方     〃四十六方以上)

四、職務怠慢者

常に怠慢にして誠実なる労働を爲さざる者

五、業務阻害者

(イ) 作業上の指示に故意に從わぬ者

(ロ) 故意に作業秩序を紊し生産を阻害した者

(ハ) 威力を用い会社の業務を妨害した者又はさせた者

六、低能率者

職務能力著しく低く配置轉換を考慮するも見込なき者

七、病弱者

病弱又は心身に故障があつて將來從業員として不適当と認められた者

八、素行不良者

(イ) 性粗暴にして他人に迷惑をかけた者

(ロ) 私宅に面会を強要し威圧を加えた者

(ハ) 品行不良にして從業員としての体面を汚した者

九、その他

(イ) 他人を教唆煽動して会社の運営に重大な支障を生ぜしめた者

(ロ) 故意に会社の機密を洩し会社運営上重大な支障を生ぜしめた者

前各項に該当する者と雖も勤務振りその他を勘案し情状酌量する事あり、

に準拠して比較的相対的にこれに該当する者から愼重選定の結果、被申請人等を含む二百一名の基準該当者を決定し且つ就業規則第十三條第三号はまさしく事業不振による從業員の一時的解雇の場合をも含むものであるから、同月十四日附をもつて、別表第一記載の被申請人等五十三名を含む百九十名に対しては労働基準法第二十條就業規則第十三條に基き法定の予告手当の言語上の提供をした上就業規則第十三條第三号により即時解雇に附し、別表第二記載の被申請人六名を含む十一名に対しては労働基準法第二十條就業規則第十三條に則つて予告解雇に附した次第である。

(八)  而して被申請人等の該当する基準條項及びその理由となつた具体的行動は別表第五記載のとおりであつて決して被申請人等の正当なる組合活動とか爭議行爲等を解雇の実質的理由としたものではない。被申請人等はいずれも自認するとおり共産主義者及びその同調者として日本共産党松浦細胞の有力なる組織員であり、しかも同細胞会議の決定した戰略、戰術は若干の誤差こそあれほとんど組合が今次鬪爭において執つて來た行動に符合している事実、その他各種の確実な情報によれば本件爭議は実に日本共産党が意図する暴力革命の予備的行動でもあつたことが充分窺われる次第であるから、被申請人等の右各行動はその点においても既に正当なる組合活動ないし爭議行爲の範囲を著しく逸脱していたものである。

(九)  しかも被申請人のうちでj、y、p、s、S、V、w、g、a、g、c、rの十二名はいずれも会社から退職金を受領して本件解雇を円満に承認しているものであるから今更本件解雇の当否を爭う資格はないものである。

(一〇)  以上のとおり本件被申請人中別表第一記載の五十三名は昭和二十五年一月十四日をもつて、別表第二記載の六名は予告解雇に附された右同日から一箇月後たる同年二月十三日の経過によつてそれぞれ有効に解雇されたものである。

しかるに別表第一記載の被申請人五十三名等は本件解雇に不服を唱えて会社と抗爭し、解雇通告に接するやたゞちに同年一月十六日、十七日の両日にわたつて会社新坑々口に殺到して会社職員の制止にも拘らず暴力を振つて強行入坑し、作業中の一般從業員を煽動して更に出炭を阻害する挙に出る一方、同月十八日には大挙して会社庶務課等に押しかけて会社側職員の退去要求に應ぜず、果ては翌十九日には深夜まで前記田辺所長宅を襲つて邸内に故なく侵入し、硝子窓、扉等を破壞した上松、杉等の生葉を煙らせて煙を屋内に煽ぎ入れ、折柄屋内で執務中の会社幹部等をもうもうたる煙でいぶし上げて会社の業務を妨害して著しい損害をかけるとともに、前記田辺所長以下会社幹部その他の会社職員の身辺にも重大な危害を加えるに至り事態はとうていこの儘放置できなくなつたので、申請人は右の如き急迫な強暴を防止し且つ著しい損害を避けるためやむなく本申請(昭和二十五年(ヨ)第二号)によつて右被申請人五十三名に対し別表第六記載の申請人会社事業場えの立入禁止を求めるものである。

なお、被申請人等の主張に対して次のとおり補述した。

一、被申請人等主張のとおりの規定を含む各労働協約が主張の日時それぞれ本件労資間に締結されたことは認めるが、本件解雇当時は右協約はいずれも失効していたものである。けだし、

(イ) 本件協約の期限満了日の一箇月前である昭和二十四年七月二十八日及び同年九月二日の両回に亘つて組合は会社に対し協約改訂の意思表示をなし、会社もその都度これに應じて同様改訂の意思を組合に表明したものであるから、本件協約は覚書第二項の規定によつて自動更新が遮断され、從つて満了日である昭和二十四年十一月十六日の経過によつて既に失効したものである。尚ほ被申請人等の主張する労働協約第十三條第二項の規定は同協約に定められた最初の六ケ月間の場合にのみに適用され更新後には既に適用がなくなつたものであるから何等右結論を左右するものではない。

(ロ) 被申請人等の主張する労働協約上の既得権及び同協約の余後効の理論は首肯するに足る論拠を有しない。なんとなれば法治国家においては法規の改廃に伴い権利関係は或は創設せられ、変更せられ又は消滅するのであるが、これ等は「既得権」の理論が国家法的に何等適用の余地がないことを示すものに外ならない。又労働協約の余後効の理論についても認め難いのであるが、いま仮にこれを認めるとしてもそれはあくまで労働條件の個々的基準を定める協約の規範的部分に限られるものであつて、協約中の所謂同意約款とか協議約款の如き漠然たる使用者の解雇手続を定める條項換言すれば協約の債務的部分までには及ばないものである。

(ハ) 又労働協約の條項又は趣旨に基き、その協約を具体化するために定められた諸規約諸機関は協約の失効によつて当然失効するものである。從つてかゝる場合当事者は一方的の意思によつてこれを廃止し又は変更し否認することができる。そうだとすると本件経営協議会規約は労働協約の失効によつて当然失効したことになる。

二、被申請人等主張のとおり被申請人A以下十一名のものが本件解雇当時会社からは給料を支給されない組合專從者であり常任執行委員でもあつたことは認める。しかし同人等は組合專從者であつても永久にそうであるのではなく時を経ば改選等によつて再び会社より給料を支給される從業員に復帰することは当然予想される人々ばかりであるから、一般從業員と同一の立場において整理基準に当るかどうかを勘考することこそ公平妥当なる人員整理である。査定の結果偶々組合專從者が整理の対象となつても不法である理由は何等なく專從者だからと云つて特別待遇を受けるものではない。

三、被申請人等主張のとおりその後会社事業場が平穩を保つていることは認めるがこれはさきに出された仮処分決定によつて秩序が保たれているまでのことであるから、更に仮処分による保全の必要性は存在する。

被申請人等代理人は昭和二十五年(ヨ)第二号につき主文第一、二項同旨の判決と、同年(ヨ)第三号につき申請人会社は被申請人等五十九名に対しその從事員たる身分を保持せしめなければならない。申請費用は申請人会社の負担とするとの判決を求め、答弁ならびに申請の理由として次のとおり陳述した。

申請人主張事実中申請人会社がその主張のような石炭礦区を所有し、松浦炭礦株式会社礦業所の名称をもつて石炭採掘と販賣を営むものであり、被申請人等が申請人会社に雇はれた同礦業所從業員であり主張の如き同礦業所從業員で組織される松浦炭礦労働組合の組合員であること、申請人主張の日時石炭統制の撤廃せられ配炭公団、政府の赤字加算金制度が廃止されたこと、申請人主張の日時主張のような賃金案が労資双方から提出されたがいずれも妥結を見るに至らなかつたこと、申請人主張の日時期間主張のとおり出炭が低下したこと、昭和二十四年十二月二十九日労資双方九州民事部から企業合理化の早期実施を忠告せられたこと、申請人主張の日時申請人会社が主張の如き内容の企業合理化案としての松浦炭礦再建計画と整理基準を発表したこと、申請人主張の日時別表第一記載の被申請人五十三名を含む百九十名が即時解雇に、別表第二記載の被申請人六名を含む十一名が予告解雇に附されたことはこれを認める。然し昭和二十四年十二月十四日申請人会社が九州民事部から企業の合理化について忠告を受けたこと、同年十二月二十九日申請人会社が九州民事部に昭和二十五年一月九日迄に再建案を提出する事を約したことは知らない、その余の事実はすべてこれを否認する。

(A) 本件解雇は次に述べるとおり無効である。

一、本件解雇は被申請人等が組合活動及び爭議行爲を爲したことを実質的理由とし労働組合法第七條第一号に該当し無効である。

(一) (イ) 申請人会社には人員整理を首肯し得る赤字は存しなかつた。即ち申請人会社の資料に基いて作成された被申請人側の「会社経理の実態」と題する書面中の原價計算表に依れば、申請人会社は昭和二十四年五月五四万円、六月一六四万円、七月三三万円の黒字となつており、同じく貸借対照表には昭和二十四年三月三一八三万円、四月一四七万円、七月六八一万円、八月六三〇万円がそれぞれ当期利益金として計上発表されている。

(ロ) 仮に若干の赤字があつたとしても、それは会社が永い国家統制と保護政策に馴れ企業の発展については再々の組合よりする熱心な進言を無視し徒に他力依存の安價的経営に甘んじていた結果から当然生じたものであるから、会社は飽く迄自分自身の責任を以つてこの赤字を克服すべき義務が存する事は会社も充分認職していた筈である。

(二) 被申請人の組合活働の経歴は別表第七記載のとおりであるがそれに依つても明瞭であるとおり、被申請人等の大半はいずれも組合の役員であるが、組合活動に熱心な積極分子であり、常に今次鬪爭の先頭に立つ者ばかりである。

(三) 被申請人等全員が日本共産党員か又はそのシンパであり同党員たる組合員約五十名中被申請人等を含む幹部十三名を解雇しその比率は約四十%である。

(四) 組合の常任執行委員十二名中十一名が、又執行委員八名中五名が解雇されその比率は高率である。

(五) 団体交渉委員十五名中十三名を大量に解雇している。

(六) 右の如く組合幹部の大量解雇はこれにより会社が組合の自主性を奪い所謂御用組合を意図したものを示している。

(七) 申請人の主張する解雇の理由となつた被申請人等の行動はすべて今次爭議中の事実でありしかも解雇理由に浮動がある。

(八) 被申請人等はいずれも整理基準に該当しない、被申請人等のとつた行動はすべて正当なる組合活動ないし爭議行爲である。

(九) 被申請人等はいずれも解雇言渡しに際して整理基準の如何なる項目に該当するかその明示を要求したのに拘らず申請人会社はこれに何等の回答を與える事がなかつた。

(一〇) 被申請人Aは多年執行委員長の重任に在つて組合員の人望を得、被申請人Xとともに度々鉱山監督局長から表彰を受け、両名とも申請人会社に在つては模範的從業員であつたに拘らず申請人会社は本件解雇において急激に同人等に対する評價を変化させている。

(一一) 被申請人A、B、C、D、E、F、G、H、I、J、Kの十一名は常任執行委員であり会社の了解を得た組合專從者であるから、赤字補填を名目とする本件人員整理の対象とすることは断じてできない。

二、本件解雇は被申請人等の生存権を奪うことを目的とし憲法第二十五條第一項に牴触して無効である。即ち生存権は憲法第二十五條に依り保障されるところであるが、労働者の団体交渉権こそ憲法の定めた生存権の保障手段である。個々の労働者は自己の属する労働組合の団体交渉権によつて憲法上生存を保障されるのである。從つて使用者がこの団体交渉を行はずに直接いきなり労働者を解雇することは憲法上の保障手段を奪取して労働者の生存権を脅すものである。然るに申請人会社は本件解雇において組合と団体交渉を設けることなく一方的に解雇を断行しているから生存権を保障する憲法第二十五條第一項に違反して無効である。

三、本件解雇は信義誠実の原則上からも無効である。

(一) 申請人会社は本件解雇に当り十分組合と団体交渉を爲すべき信義則上の義務を負うていたことは

(イ) 会社は約束された団体交渉に應ぜずこれを回避した。

(ロ) 組合員中十一%に近い人員整理の断行である。組合にとつても致命的である。

(ハ) 会社が眞に企業を願うのであれば組合員の意見に耳を傾けるべきである。

(ニ) 組合は会社再建の意見書を提出している。

(ホ) 從來のこの種整理は必ず組合と協議して行はれていた。今度もかくあるものと組合は期待していた。

(ヘ) 経営が急迫すれば会社の危機打開のため衆知を集めて最全の努力を傾注すべきである。

(ト) 炭礦技術者は所謂つぶしのきかない人達であるからその失業は死活問題である。

等諸事情を綜合すれば極めて明白である。然るに会社は左様な信義則を無視して一方的解雇を断行した。

(二) 使用者が人員整理を爲すに当つては失業を避けるために凡ゆる努力を拂うべきであり、これがためには自発的退職者の募集配置轉換作業方式の科学化等その他経理化等に手段をつくした上でこれを爲すべく、又会社の経営状態の内容もこれを説明し整理の必然性について組合を充分納得させ、整理方法等も組合と協議をした上爲すべきことは労働法上の信義誠実の原則から当然認められるところである。然るに申請人会社は本件解雇を爲すに当り左様な義務をつくした跡は毫もない。

よつていずれにしても本件解雇は信義誠実の原則に反し解雇権の濫用である。

四、本件解雇は労働協約に違反して無効である。

(一) 本件労資間には昭和二十二年五月十七日労働協約が締結され、その第十三條に「此ノ協約ノ有効期間ハ協約締結ノ日ヨリ六箇月トシ期間満了シタル時ハ速ニ改メテ締結スル(第一項)期間満了ヨリ再締結マデノ間ハ此ノ協約ガ効力ヲモツ(第二項)」と定めてあり、更に同月二十日締結された労働協約附帶覚書第四條には「会社ハ組合員ノ採用、解雇、登用、移動及ビ賞罰ニ関シテハ組合ト協議ノ上ソノ了解ノ下ニ行フ」と規定されている。而して同年十二月二十四日締結された覚書第一項により本件協約は更に六ケ月間その効力を更新せられるとともに同第二項には「以後ノ期間ニ付テモ期間満了ノ日ノ一ケ月前迄ニ双方ヨリ何等申出ナキトキハ自動的ニ継続スルモノトス」と定められたので爾來本件協約は六ケ月毎に自動更新せられて來たが

(イ) 本件協約の期間満了日たる昭和二十四年十一月十六日の一ケ月前迄に何等有効なる協約改訂の意思表示がなされなかつたから、右満了日の経過とともに本件協約は前記覚書第二項により更に六ケ月間その効力を更新せられたものである。

(ロ) 仮に有効なる協約改訂の意思表示がなされて自動更新が遮断され、從つて一應期間が満了したとしても前記労働協約第十三條第二項により本件協約の効力は新協約締結まで自動的に延長されているものである。しかも本件解雇当時迄新協約は全く締結されていない。

從つて本件解雇当時はいずれにしても本件協約は有効に存続中であつたのに拘らず、申請人会社は前記協約附帶覚書第四條の規定を無視して組合側と何等協議もせず又その了解を得ないで一方的に本件解雇を強行したものであるから、本件解雇は協約に違反して無効である。

(二) 仮に本件解雇当時本件協約が失効していたとしても、右に所謂協約中の協議ないし同意約款は労働者の待遇に関する基準を定めたものであるから協約の規範的部分である。從つて協約が失効しても該部分は余後効ないしは既得権として尚有効に存続するものであるからいずれにしても組合との協議及びその了解を得ない本件解雇は協約違反を免れず無効である。

五、本件解雇は松浦炭礦経営協議会規約に違反して無効である。

(一) 同規約第三條「此の協議会は前條の目的を達成するために左記の事項を協議決定する。一、労働條件に関する事項八、組合員の人事(雇傭、解雇、異動、賞罰等)に関する事項」との規定に基き本件解雇は須く同規約に定める手続を履践して経営協議会で協議決定すべきものであつたのに拘らず、かゝる手続を経ないで一方的に強行された本件解雇は同規約違反として無効である。

(二) 労働協約が失効しても右規約は本來協約とは別個の存在を爲すものであるから同規約までも失効する謂れはなく、前項の結論に影響を與えるものではない。

六、本件解雇は労働基準法第二十條に違反し無効である。

申請人会社が被申請人等を解雇するに際しては三十日前に予告したのでもなく、又三十日分以上の平均賃金を解雇と同時に支拂つたものでもない。即ち昭和二十五年一月十三日附解雇通告を以つて同月十四日から解雇したものとなしたのに平均賃金の支拂を爲す旨申し出たのは同月十五日である。よつて本件解雇は労働基準法第二十條に違反し無効である。

(B) 敍上屡々説明した理由により本件解雇がいずれからしても無効であることは寔に明白である。

要するに申請人会社の経営の破綻は強力な国家統制と保護統制に甘えた他力依存的な経営方策の欠陷であり、自由経済復帰を機に企業を組合の監視圈外に置きその責任と犧牲とを労働者に轉嫁し利潤の拡大を計らんがため、信義を無視して一方的賃下(対應能率の引上)を組合に押し付け組合側の良心的賃金案を拒否し団体交渉を回避して自己の賃金案を固執し、組合の強い反対に合うや組合を骨拔きにし御用組合化するため最も戰鬪的な組合常任役員、団体交渉委員、鬪爭委員を主たる目標として解雇したものである。

(一) 申請人は賃金交渉における組合の不誠意を非難するけれども、会社こそ理由もなく団体交渉を延引又は回避して誠意を示さず、組合側の新賃金要求に対しても徒に「これは一部組合幹部の要求だ」「共産党のやり方だ」と放言し常軌を逸した交渉態度を以て臨み、何等愼重檢討する事なく即座にこれを拒否して組合の正しい要求に耳を傾けようとしなかつた。

(二) 申請人は組合の賃金要求は法外な高賃金であると主張しているが、一般炭礦賃金は昭和二十三年十二月協定されたまゝ実質的に延長されて來ておるのに拘らず、消費者物價指数は昭和二十二年十二月四五六・五(昭和二十一年八月―昭和二十二年三月を一〇〇とする)であり、昭和二十四年七月は五一六に上昇し、比率は約十三%を示し(内閣統計局調査)又炭礦所在地たる長崎縣世知原町は山間の僻地とて物價は近隣諸都市より約一―二割高であるから、これ等の点を考慮すれば組合案坑外四一六円、坑内七七二円は決して法外として一蹴すべきものではないのである。

(三) 組合が申請人会社提案の対應能率引上に反対したのは理由がある。その詳細は被申請人提出の疏明資料対應能率に関する論点に詳細であるが、要するに申請人会社は職場の現実を無視し賃金引下の口実としての対應能率の引下にすぎなかつたのであり、それは反つて從業員の生産意欲を低下せしめるものであつたからである。

(四) 申請人の主張する再建計画についての組合の見解は次のとおりである。

松浦炭礦は歴史も古く從業員も親子二代三代と続き被申請人等從業員において同礦の繁栄を念願するのは会社幹部に劣るものでは決してない。組合は同礦の復興に努力し協力して來たのであり、会社が企業合理化について労働力の新陳代謝を計画し或は人員整理を企図するならば、先ず妥当なる退職金確立制度が急務でありその上に立つて希望退職者を募ることが経営者の常識である。会社が紛爭を早急に解決する意思だにあれば交渉を故意に引延ばすことなく経理の内容を明示し賣炭價格を明にし組合の協力を求めるとともに、早急に賃金を決定し生産復興の対策を具体化することが先ず急務であつたのである。

(C) 尚申請人主張の被申請人等が会社から退職金を受領したことは認めるが、同人等は会社と鬪爭中生活資金に窮したので將來会社から支給される賃金と相殺する積りで退職金を受領したもので決して本件解雇を承認したものではない。

(D) (一) 以上のとおり本件解雇はいずれにしても無効であるから解雇の有効を前提とする申請人の本件申請は失当である。仮にそうでないとしても現在会社事業場は平穩となり申請人主張の如き急迫性、危險性は全く存しないので被解雇者の立入を禁止すべき保全の必要性はない。

(二) 現下の生活不安と就職難時代にあつて労働力以外何等の資産もない本件被解雇者たる被申請人等は、解雇によつて收入の資を絶たれその家族とともに生命身体の危險にさらされているのみならず、組合の活動にも重大な損害を蒙るので、一應本案判決確定まで被申請人等が申請人会社の從業員としての仮の地位を保有せしめる適当な仮処分を求めるものである。

第四(疏明省略)

三、理  由

先ず本案前の問題である被申請人a、W、r、c、q、g、V、S等八名の本件立入禁止仮処分決定に対する異議申立ならびに仮の地位を定める仮処分申請の各取下が無効であつたか否かの点について判断する。

本件記録編綴の右八名名義にかゝわる「立入禁止仮処分決定異議申立取下書」ならびに「仮の地位を定むる仮処分申請取下書」と題する各書面及び右各書面上の当裁判所の受付印によれば、

被申請人a、r、c、q、g名義の昭和二十五年六月二十二日附各右取下書は同年六月二十二日に、

同S名義の同年六月二十一日附右各取下書は同年六月二十三日に、

同V名義の同年六月二十九日附右各取下書は同日に、

同W名義の同年七月十四日附異議申立取下書ならびに、同年七月十五日附仮処分申請取下書は右各同日に、

それぞれ当裁判所に提出されたことは明である。

しかし右事実に当裁判所がいずれも眞正に成立したものと認めた疏乙第五十八号証の一及び三ないし八(いずれもそのうち郵便局作成部分は成立に爭がない)、被申請人I本人訊問の結果、本件記録編綴のA外六十一名名義の上申書(記録三冊三一四、三一五丁)を綜合すれば、右八名等においては本件解雇後なおその無効を主張して会社と鬪爭中生活の資に窮したので、本件代理人松井佐弁護士の諒解を得て將來会社から支拂われるべき賃金を退職金返還債務とも相殺するつもりで会社に対し右実情を述べてこれが支拂を求めたところ、会社は同被申請人等において異議申立ならびに仮処分申請を取下げるのでなければこれに應じられない旨答えてこれが支拂を拒絶したので、同被申請人等においては退職金受領のため不本意ながら取下書を裁判所に提出する事にしたが、それはあくまで退職金受領の一時的方便となすものであつて全く取下の意思はなかつたので、たゞちに右経緯と取下の意思は絶対にない旨を記した同被申請人等を含む被申請人A以下六十一名の連名の上申書を当裁判所に内容証明郵便にて発送し同書面は昭和二十五年六月二十一日(即ち冒頭認定の各取下書が当裁判所に提出される以前)当裁判所に到達した事実が認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。而して右上申書の趣旨とするところはその文面に徴し要するに、当裁判所に対し將來被申請人等より取下書が提出されるのはあくまで退職金受領の一時的方便として爲されるもので決して眞意からこれをなすものではないからこれが正式の受理は見合せられ度き旨の上申と解せられたので当裁判所においては右上申の趣旨を諒し同日以後同被申請人等から当裁判所に提出された各取下書の正式受理を一應留保していたのであるから、たとえ同被申請人等から前記のとおり各取下書が提出されているにせよ、当裁判所に対する関係においては未だ同被申請人等の本件異議申立ならびに仮処分申請の各取下の効力は生じていないと謂はなければならない。

よつて同被申請人等の本件訴訟は終了してはいないのでこの点に関する申請人の主張は失当である。

よつて本案について審究を進める。

申請人会社が主張のとおりの石炭礦区を所有し主張のとおりの名称で石炭の採掘と販賣とを営むものであること、申請人会社が昭和二十五年一月十四日別表第一記載の被申請人五十三名を含む從業員百九十名を即時解雇に、別表第二記載の被申請人六名を含む從業員十一名を予告解雇に附したことならびに右日時迄被申請人等が松浦炭礦株式会社礦業所從業員一、八六五名で組織される松浦炭礦労働組合(以下組合と略称する)の組合員であつたことはいずれも当事者間に爭がない。

而して本件解雇(予告解雇を含む以下同じ)の効力について、申請人は会社の経営合理化の一環たる人員整理のためやむを得ず爲されたものであり、しかも被解雇者はすべて整理基準に該当するものであるからもとより有効であると主張するのに対し、被申請人等はこれを否認し本件解雇は(一)労働組合法第七條第一号(二)憲法第二十五條第一項(三)信議誠実の原則(四)労働協約(五)経営協議会規約(六)労働基準法第二十條に違反して無効であると主張するから以下右の順序に從つて判断を進めることとするが、それに先立ち本件主要の爭点である労働協約の効力や人員整理の必要性の有無の点から考察する。

(A)  労働協約の効力について

申請人会社と被申請人等の属する組合との間に昭和二十二年五月十七日労働協約が締結され、第十三條に「此ノ協約ノ有効期間ハ協約締結ノ日ヨリ六箇月トシ期間満了シタル時ハ速ニ改メテ締結スル。」「期間満了ヨリ再締結マデノ間ハ此ノ協約ガ効力ヲモツ。」との規定が存したこと、同月二十日被申請人主張の如き内容の規定を含む労働協約附帶覚書が締結されたこと並びに同年十二月二十四日覚書が締結されその第一項に「昭和二十二年五月十七日附締結ノ労働協約及ビ同年同月二十日附締結ノ労働協約附帶覚書並ニ経営協議会規約ノ期間満了ノタメ双方協議ノ結果本文ニ何等変更スルトコロ無キニ付次ノ六ケ月間ヲ継続スルモノトス」、第二項に「以後ノ期間ニ付テモ期間満了日ノ一ケ月前迄ニ双方ヨリ何等申出ナキトキハ自動的ニ継続スルモノトス」と定めた事は当事者間に爭がない。而して右覚書は第一、二項とも「継続」との言葉を使用し表現自体不明確であるけれども、右覚書第一、二項を通読し併せて証人永野芳辰の証言(第二回)を参酌すれば、要するにその第一項は本件各協約の効力を最初の期間満了日たる昭和二十二年十一月十六日以後も更に六ケ月間更新する趣旨の規定であり、第二項は右更新された六ケ月の期間満了一ケ月前迄に当事者双方協約更新に異議なければ期間満了と同時に引続き從來と同一内容の新協約が締結されたものと看做す所謂自動更新規定と認めるのが相当である。從つて本件各協約は最初の期間満了日たる昭和二十二年十一月十六日の経過とともに右覚書第一項で先ず六ケ月間更新され、その後も昭和二十四年五月十六日の期間満了の一ケ月前迄に当事者双方が更新を拒絶したとの点については本件において何等主張並びに疏明もないのであるから、本件各協約は六ケ月毎に次々と自動更新が続けられ、結局昭和二十四年五月十七日以降更に六ケ月間有効にその効力を存続していたものと認める。

然るに、前顕永野証人(第二回)の証言によつて成立を認め得る疏甲第十六号証の三によれば、組合は会社に対し期間満了日たる昭和二十四年十一月十六日の一ケ月以前である同年七月二十八日、同年九月二日の二回に亘り本件各協約改訂の意思表示をしている事実が明白であるから、更新は遮断され昭和二十四年十一月十六日を以つて一應本件各協約の期間は満了したことになるのであり、その後は昭和二十二年五月十七日附協約第十三條第二項の規定により新協約締結までの間暫定的に効力を延長して存続するに至つたものである。この点に関し申請人は右協約第十三條第二項の自動延長規定は要するに同條第一項に定めた最初の六ケ月間のみに適用される規定であつて覚書に基く更新後は当然適用の余地を失つたかの如く主張しているが、成立に爭がない疏甲第十六号証ノ一(右覚書を含む本件各協約)全文を通読し殊に右覚書第一項にも規定されている「本文ニ何等変更スルトコロ無キニ付云々」等の文言を斟酌すれば、やはり本件各協約はそのまゝ同一内容を保つて有効に更新せられて來たものと認めるのが相当である。

而して本件解雇の行われた昭和二十五年一月十四日迄に当事者の一方から労働組合法第十五條第二項本文に認められた協約破棄の意思表示が爲されたとか或は新協約が締結されたとの点は本件において全く主張も疏明もないのであるから、結局本件各協約はその余の判断を俟つまでもなく本件解雇当時暫定的ながら尚ほ有効に存続していたものと謂はなければならない。

だからと云つて自動延長が新協約が締結されない限り無制限に延びることは労働組合法第五條第一項の趣旨に抵触する事になるから延長を希望しない当事者は何時でも一方的に廃棄できるのであるが、一面労資間に無協約状態をもたらすことは結局又紛爭の基ともなりかねないから、前記協約第十三條第一項にも明記されているとおり労資双方互に誠意をつくし速かに新協約を締結すべき義務を負うていることを忘れてはいけない。

(B)  本件爭議の経過と人員整理の必要性の有無

成立に爭がない疏甲第七、第十号各証、証人田辺重訓(第二回)の証言により成立を認め得る同第一号証、証人菊池琢郎の証言により成立を認め得る同第二、第五号各証、証人田辺重訓(第一、二回)大村宗興の各証言により成立を認め得る同第三、第十五号各証、証人菊池琢郎、永野芳辰(第一回)の各証言により成立を認め得る同第八号証の一、証人大村宗興の証言により成立を認め得る同第十三号証、被申請人D本人訊問の結果により成立を認め得る疏乙第二十四、第二十五号各証、証人田辺重訓(第一、二、三回)、永野芳辰(第一、二回)、菊池琢郎、大村宗興、中島豊の各証言、被申請人D、I各本人訊問の結果を綜合すれば一應次のとおりの事実が認められる。

申請人会社は昭和二十三年末復金融資が停止された上これに伴う金融の極端なる引締が行はれたので次第に深刻なる運轉資金の不足に陷つて赤字経営を続け、昭和二十四年九月当時は赤字合計五千四百七十万円借入金一億八千万円、未拂金六千万円に達していたが政府の赤字加算金に依存して漸く苦境を切り拔けていたところ、石炭に対する統制が解除されて配炭公団や赤字加算金制度も廃止された上(右石炭統制解除及びこれに伴う一連の状勢の変化は当事者間に爭がない)松浦炭の如き五千六百カロリー以下の低品位炭の自由販賣價格はとうてい從來の赤字加算金を含めた公団買入價格二千三百七十円を維持できないのみならず、その約六%程度下落しやがて十%内外の下落も必至と見られる状態となつたので、このまゝ推移すれば結局赤字の累積によつて経営は自立どころか自滅に陷ることが予想されるに至つた。そこで会社は急いで危機突破対策を講ずることにし組合側のこれが協力方の應諾も得たのでその実施に移つたのであるが、当時会社賃金体系は縣下主要炭礦の平均賃金に比し約四八%、会社についで高率と言はれる北松浦郡江迎炭礦の賃金に比し約三二%それぞれ高く、経費中における人件費の比率は約六四%に達していたので、会社は先ず賃金に即應する労働能率の向上を図ることゝし、同年十月四日の団体交渉において組合に対し同年十月以降昭和二十五年三月迄の賃金は根本的に昭和二十四年四月から六月までの中央協定賃金(坑内夫三六三円、坑外夫二一六円―所謂四六賃金)を据置き、採炭夫標準作業量(対應能率)は同年四月から九月までの稼働実績をとつて從來の一・五瓲を一・八二瓲に、掘進夫の対應能率も二・一二立方米(七六・三歳)に引上げ、仕繰夫もこれに準ずる旨の会社側賃金案を危機突破構想の一環として発表し極力組合側の同意を求めたのである。これに対し組合側も同月七日危機突破対策の組合側対案として対應能率は從前どおりとしたまゝ基準賃金額は坑外夫七七二円、坑内夫四一六円(いずれも從來の約一・九五倍)、家族給六〇〇円(從來の一・五倍)とする当時の会社赤字経営の実状を無視或は誤判した組合側賃金案を発表し会社側と大きな開きを示した。そこでその後連日の如く開かれた団体交渉において会社は前記経営危機の実情を強調し強硬に会社案を固執したが、その際経営の危機を強調する余り経理の内容の公開や賣炭價格の明示にいさゝか誠意を欠いた点が存したので組合側もこの点を捉えて執拗に経理の公開と賣炭價格の明示を主張し現今の物價騰貴等の抽象的理由の外何等有効具体的な理由は何等明示しないまゝ強硬に会社案を拒否する一方組合案を堅持して一歩も讓らない態度をとり双方とも最初から全く互讓協同の誠意を欠いたため交渉はことごとく失敗し、交渉打切の段階にまでは至らなかつたものの容易に妥結する見込がない状態となつた。

かくて組合は会社と団体交渉を続けるかたわら右要求貫徹を期して同年十月中旬以降鬪爭宣言を発しないまゝで爭議に突入し從業員の集団職場離脱が始められたが、ついで同年十一月三日開かれた臨時組合大会において鬪爭委員会の設置(執行委員全員担当)、最惡の場合は実力行使を行い鬪爭方針は鬪爭委員会に一任、自主的職場鬪爭の昂揚等を決定したので益々各職場ごとに激しい鬪爭が展開されるに至り、職場鬪爭委員等の直接指導の下に從業員の集団職場離脱、職場における会社職員に対するはげしい賃金交渉等が日常鬪爭として連日のごとく相次いで行はれた上、同年十二月二十日からは四十八時間ストをも決行されるに至つた。

もつともその間においても労資間には団体交渉は回を重ねられていたのであるがいずれも双方相対立したまゝで一点の妥協をも示さないと云う状態であつたので妥結どころか反つて益々相疏遠して行つた上、組合側においては從來の賃金要求とは別途に十一月に入るや主食掛賣を、次いで十二月に入るや從業員一人当り四千円、家族一人当り六百円支給総計約一千万円に対する越年資金をそれぞれ要求したので、交渉は複雜化と混乱に陷り妥結の見込は全くないという状態となつて双方の対立は長期深刻化するとともに組合員の爭議行爲も激化の一途をたどり、それが前記のとおり飽くまで自主的な職場鬪爭と言うその結果において無秩序と混乱の容易に予想される爭議方式で行はれた上組合幹部の強力且つ適切な指導及び統制を欠いたため爭議行爲はその長期化につれて次第に職場毎に無秩序にくりかえされるようになり、且つこれに附随して次第に焦燥に駆られた組合員等が集団の威力を以て急速に交渉を有利に展開させるため前記職場鬪爭の一環として多数が無統制に団体交渉場に当てられた会社会議室或いは田辺所長宅等へ押しかけて気勢を挙げることも多くなり本件爭議の長期化と相俟つて四囲の情勢はとみに險惡騷然となつて來たのであるが、ことに同年十二月十三日田辺所長宅において開かれた団体交渉も両者対立のまゝ物別れとなつたため、これを不満とする組合員並びに組合婦人部員等約二百名が続々と前記所長宅に押しかけ、田辺所長等会社幹部に団体交渉の再開を要求した際、偶々昂奮した一婦人部員滝本ツギ(当六十年)が合川勤労課長代理が閉じた所長宅炊事場の扉に指をはさまれて軽傷を負つたことから、これに憤激した組合員が折柄九州民事部え出頭のためトラツクに乘車していた田辺所長を包囲して陳謝を求めたのに対し同人の態度が頗る冷淡であつたので、組合側も同事件をことさらに大きくとりあげ急遽十二月十五日臨時組合大会を開いて同問題の責任者をあくまで追究し、併せて同日会社から提示されていた申請人主張の如き内容の会社側最後案を深く檢討もしないで一蹴することに決し、同月十七日再開された団体交渉において右会社側最後案を拒否し、滝本事件の責任者として田辺所長と合川勤労課長代理の退陣を正式に要求したのに対し会社がこれを拒否して交渉を打切つたところ、同日午後六時半頃又もや一部組合員約二十名が当時国鉄世知原駅前においてハンスト中の組合員四名の要求書(会社賃金案撤回、越年資金即時支給等を内容とする)に対する団体交渉を要求して折柄会社幹部が籠城して会社事務を執つていた前記所長宅に押しかけたのに端を発し、これを聞き傳えた組合員並びに婦人部員等多数は続々と所長宅前に集合し、口々に団体交渉を叫びドラム罐を叩き樂団を吹奏し拡声機を通じて会社幹部を惡罵する等喧噪を極め、遂に同月十九日に至るまで連日連夜入れかわり立ちかわり同様行爲をくりかえして所長宅に籠城していた会社幹部を不眠と不安にさらして同人等に脅迫暴行を加えるとともに会社の業務運営に少くない支障を生ぜしめたという甚だしく行過ぎたはげしい組合活動をも展開するに至り、本件爭議は長期險惡化の一途をたどるばかりで遂には組合幹部においてすら過激なる第一線組合員(職場鬪爭委員等)の圧力に圧倒されるという状況であつたのでその解決はとうてい見込もつかない状況となつたのである。

而して左様な事態の結果は必然的に出炭の顕著なる低下となつて現れ、一ケ月平均一万六千瓲の出炭能力を有し、同年七月が一万六千五百瓲、八月が一万五千瓲を出炭していたのに対し、九月は一万四千四百瓲、十月は一万二千四百瓲、十一月は一万五百瓲、十二月は六千八百瓲と云う状況(この事実は当事者間に爭がない)であつたため、一瓲当り十月分は四百三十円、十一月分は九百八十円、十二月分は二千四百七十六円の赤字を生じ、右三ケ月間の赤字は合計約三千万円に達し結局同年末現在において会社の赤字は合計約八千四百万円、復金等からの借入金は合計約一億八千万円に達せしめ且つは市中銀行からの信用を失墜してその融資を制限される一方融資金の月別返済を督促されるとともに、会社の生産機構としての経営秩序や全從業員の業務運営秩序を破壞した結果、前記のとおり赤字の累積と赤字加算金の廃止により唯でさえも平衡を失いかけていた会社の経営権を根本から動搖せしめるに至り経営は最惡の状態にまで進行し、その再建のためには人員整理を含む根本的綜合的な経営合理化が必至とされる段階にまで立ちいたらせ、ひいては基幹産業として会社に課せられた重大な社会的使命の遂行にも支障を生ぜしめて一般公共の利害にも影響を及ぼす結果となつたのである。

このような事態の下において会社は昭和二十五年に入ると経営合理化を急ぎ、大体月間出炭目標一万六千瓲を標準として(一)瓲当り六十二円に当る資材の節約(二)同じく三十一円に当る諸経費の節約(三)同じく百十二円に当る対應能率引上による生産費の節約(四)同じく五十六円に当る出炭能率変更後における作業能率の節約(五)同じく三円に当る会社部課長以上の給料一割引下(六)同じく百十二円に当る在籍総人員千八百五十六名中二百一名の人員整理による人件費の節約等を主たる合理化方策基準とする松浦炭礦再建計画と申請人主張の如き内容の整理基準を作成した上同年一月九日の団体交渉においてこれを組合に提示し(右団体交渉における交渉状況は当事者間に爭がない)併せて人員整理を含む企業合理化必至の実情を説明して組合の協力を要望し同月十二日午後四時までに回答を求めたのである。然るに組合は同月十二日午後四時に至るも正式の回答をしなかつたのであるが、同日既に再建案絶対反対を唱える組合員約二百名は一部職場委員の指導の下に坑内に籠城戰術をとる傍ら一部婦人部員は大村坑長宅に押しかけて喧噪する等不穩の行動をとり、組合も結局翌十三日午前四時人員整理等を前提とする限りにおいて会社再建案を全面的に拒否する旨回答して來たのであるが、その際組合側においても別途に再建対案の用意あることを暗示していたので、会社もただちに交渉を打切らず同日午前十時迄にこれが対案を提示するよう要求したが結局組合の應ずるところとならなかつたのである。

そこで会社は再建案に関する組合との交渉を打切り、即日右再建案を実施して一方的に人員整理を断行し、前記整理基準に該当するものとして既に同月九日選定を完了していた二百一名(本件被申請人等の該当基準事項は別表第五記載のとおりである)に対し就業規則第十三條第三号により冒頭認定のとおり、解雇が行われるに至り、別表第一の被申請人五十三名を含む即時解雇者百九十名に対しては法定の予告手当を同月十七日迄会社勤労課で受取るよう有効なる口頭の提供を爲したのである。

本件疏明資料中敍上認定事実に牴触するものはいずれも当裁判所は措信できない。

(C)  而して成立に爭がない疏甲第十二号証(就業規則)に徴すればその第十三條第三号に規定される前号(事業の一部又は全部を休止又は廃止したとき)に準ずる止むを得ない事由が存するときには前認定の如き事業不振による一時的人員整理の必要が存する場合をも含むと解するのを相当とするから、同條に基き所定の予告手当を提供の上爲された本件解雇はその点に関する限りにおいては正当であつたと謂うべきであるとともに、会社が解雇者選定の基準とした本件整理基準も低能率者選定の基準として概ね妥当であると認められる。

(D)  仍つて進んで本件解雇が被申請人等主張の如く被申請人等の正当な組合活動ないしは爭議行爲を理由としたものか否かについて判断を進める。

(一)  被申請人v、l、o、e、D′、s、F′が整理基準第一項(停年者)に、同hが基準第七項(病弱者)にそれぞれ該当することについては被申請人等も明に爭はないのみならずこれと矛盾する事実或は同被申請人等が正当な組合活動ないし爭議行爲に熱心であつた事実等については何等疏明しない本件弁論の全趣旨により同被申請人等の解雇理由は一應疏明があつたと認める。

(二)  被申請人t、u、f、kが基準第二項(長期欠勤者)に、Z、a、b、W、n、i、r、m、d、c、z、q、g、B′、j、y、C′、pが基準第三項(出勤不良者)にそれぞれ該当することは当裁判所が眞正に成立したものと認める疏甲第三十五号証(勤怠簿)によつてこれを明瞭に認めることができるし、同被申請人等が正当な組合活動ないし爭議行爲にとくに熱心であつたとの点については何等の疏明もない。

(三)  被申請人Rが基準第八項のイ(素行不良者―性粗暴にして他人に迷惑をかけた者)に該当することは、証人大村宗興、同猪野泰雄の各証言により成立を認め得る疏甲第三十三号証、証人中島豊(一部)の証言を綜合して認められる、同被申請人が昭和二十四年十二月十四日午後十時頃新坑々内詰所において係員宮崎繁、森光雄等の作業上の指示に不満を抱き森係員を引き倒してその後頭部に打撲傷を負はせ宮崎係員の左耳部を強打し更に机上に立ち上りヨキを振り上げて両係員を脅迫した事実に徴し明白であり、左様な違法行爲が労働組合法第七條第一号に規定される正当な組合活動ないし爭議行爲に含まれるいわれもない。

(四)  そこで以上において既に解雇理由があつたと認めた被申請人等を除くその余の被申請人等に対する本件解雇理由の有無について檢討を進めるが判断の順序として先ず会社の経営の破綻、換言すれば本件爭議の責任がいずれにあるかについてから論を進める。

一、惟うにわが国法は一面憲法第二十八條以下労働組合法、労働関係調整法等一連の労働立法において労働者の団結権及び団体交渉権を保障しこれが裏付として爭議権をも保障しているのであるが、同時に憲法第二十九條において私有財産権の不可侵性を宣言し民商法その他の私法も亦これを基盤として嚴然たる有機的法秩序を形成していることは言うまでもないことであつて、爭議権と財産権はともに憲法第十二條第二十九條第二項の明定するとおりこれが濫用を禁止され、又常に公共の福祉に奉仕しなければならないという社会的制約の下に両者は全く平等であらねばならない。(なおこの点については本判決末尾において補足意見を加える)

もとより労働爭議は労働関係の内容の決定又は変更に当つて労資の間に主張の一致が得られない場合に社会的経済的な力の行使によつて解決に到達しようとする労資の対決であつて、力の行使は当然業務の正常なる運営の阻害を意味するものであるけれども、その程度は前記の如く憲法の命ずる限界を越えてはならず且つ一般法秩序をとおして形成される国民一般の通念によつてあくまで公正妥当なものとして認容されるものであらねばならない。從つて労働者側の爭議が不当に長期にわたつて継続せられ、財産権の表現としての経営権を根本から動搖させたり社会秩序としての公共の福祉を害するに至つた場合は、他に使用者にも非難に値すべき誘発行爲があつたとか或は組合側にもやむにやまれない事情があつたとか云う特別事情(国民一般の通念によつて許容される事情)が存せざる限り爭議は正当なものとして認容せらるべきでない。

いまこゝに前に認定した本件爭議の経過を見れば、会社が昭和二十四年九月前示のとおり中企業体としては過重な赤字及び負債の累積に喘いでいた上更に会社の重要な資金獲得手段たる政府の会社に対する赤字加算金の交付を絶たれてあきらかに收支の不均衡を生じ賃金面よりの経営合理化が必要となつた際、組合側においては反つて從來の約二倍に達する賃金値上や総額一千万円に達する越年資金の支拂を求めて一歩も讓らないという無誠意を示し、その要求貫徹のため同年十月以降同年末にかけて本件爭議を長期にわたつて継続するとともに、自主的職場斗爭という明に無秩序と混乱を予想される斗爭手段を強行して、その結果再三にわたる多数從業員の職場離脱やそれに附随する多数組合員の団体交渉場へのデモや果ては連続三日間晝夜を分たない田辺所長宅包囲事件という明瞭に違法なる爭議行爲等をも発生せしめて、全從業員の業務運営秩序を破壞して出炭を激減させるに至り赤字の累積と赤字加算金の廃止で唯でさえも平衡を失いかけていた会社の財産権の表現としての経営権を根本から動搖させて会社をして人員整理を余儀なくさせるほど悲境の底に陷らしめ、ひいては基幹産業としてとくに会社に課せられた重大な社会的使命の達成に少くない支障を生ぜしめたものであるから、結局本件爭議はその全体を見れば(個々的行爲の点はしばらくおくとして)明に憲法の肯認する財産権を侵害し公共福祉を害したものと謂わなければならない。

そこで更に組合側の本件爭議を正当ならしめる特別事情―会社側にも非難に値すべき誘発行爲―の有無について考えると、前にも述べたとおり会社が昭和二十五年九月最初の経営の危機にさらされた際これが危機突破を焦慮する余り、いたずらに経営の危機來ることを強調し経理内容の満足なる公示、賣炭價格の発表を澁り或は組合側の声を心ゆくまで聽くだけの誠意と雅量を欠いて一方的に会社賃金案を組合に押しつけたことはたしかに非難に値すべきことであろう。もつとも賣炭價格等は一般に経営の秘密に属することであろうが、会社賃金案の根幹となつた対應能率の引上はとりもなおさず労働者にとつても実質的には賃金の値下となることで重大関心事であり、又右会社案を早急に実施しなければ危機突破が不可能という会社側にとつても重大な問題でもあつたのであるから、やはり賣炭價格の明示は何としても先決問題であつたであろうし、右結論は左右されない。しかしその半面今まで再三に亘つて述べた昭和二十四年九月断行された石炭統制撤廃に伴う赤字加算金の打切という石炭界の一大変動については組合側も充分認識し得たことであろうし、又左様な変動が中企業体としては過重な赤字や負債に喘ぐ本件会社に一体如何なる結果として現れたかについては最初会社側とほとんど連日に亘り危機突破対策協議会としての団体交渉に出席した組合幹部とくに執行委員長、副執行委員長、書記長等組合三役等においては一應了解できたことと思われるし、しかも組合側は本危機突破対策としての具体的対案を提示せず只々組合側の要求を固持して断じて一歩も讓らないという全く誠意を欠く強硬な態度で団交を終始した事情を考慮すれば、いまだもつて会社の前記不誠意のみを捉えては本件特別事情とはなし難く、又近隣各炭坑に比較して遙に高率であつた当時の会社賃金体系とか或は前顕永野証人(第一回)の証言にも明かであるとおり、会社が危機突破対策として組合側に要求した採炭夫対應能率一・八二屯が本件会社の軟層炭においてはさほど苛酷なものではなく平常は優に二屯を上下する実情に前記会社の経営状況等を斟酌して考慮すれば、組合側が主張する現今の物價騰貴の如き一事を捉えて本件爭議が已むに已まれないものであつたことはとうてい認めることはできない。

以上の論点よりすれば本件爭議は結局その全体において労働組合法第七條に所謂る正当な爭議行爲の範囲をはるかに逸脱したものと認めざるを得ない。

しかしこゝで注意しなければならないことは吾人が刑事上にもせよ、民事上にもせよ、爭議行爲に対する責任を追求する場合はおよそ全体と個との二面よりする考察が必要であろう。今まで見て來たとおり爭議を全体的に集団的にとらえてその違法性を認めても、それは後にも述べるとおり組合及びそれを統轄指揮する一部代表者の責任にとどまるのであつて、それからたゞちにこれに一部参加した組合員個々の行爲について責任を追求することはできない。組合員個人の個々の行爲に対しては更に改めてその個々の行爲について量的に質的に重大であるか否かについて責任を求めなければならない。

さて被申請人Dの供述により成立を認め得る疏乙第十三号証(組合規約)中の記載(とくに第四十四條)によれば執行委員長は組合の業務を統括代表し、副執行委員長は執行委員長を補佐して執行委員長事故あるときは之を代行し、書記長は組合運営における諸事項を企画し書記局業務を統括し所謂る組合三役としていずれも組合業務の対外的最高責任者の地位にあることが窺はれるし、又一般に爭議行爲は右に所謂三役を中心とする組合執行委員会の直接的な指導と統制とを通じる組合活動として展開されるのであるから、本件爭議行爲が前記のとおり違法だとすればその責任は結局右組合と並んで右に所謂組合三役において責任を負わねばならないことは、労働組合法第十二條第一項によつて本件組合の如き法人格を有する労働組合にも準用される民法第四十四條第一項の解釈上明かなところであつて、このことはとくに違法なる本件爭議によつて招來された会社の経営破綻に基く人員整理の解雇理由として見る場合にも結論を異にしないであろう。

而して前顕D本人の供述によつて成立を認め得る疏乙第五号証によれば本件爭議期間中を通じ被申請人Aは執行委員長、同Bは副執行委員長、同Cは書記長の地位にあつたことが認められるので、同人等は本件解雇理由のうち本件爭議を全体として違法として捉えた別表第五記載の(24)及びこれを組成する違法なる組合活動としての同じく(16)(これは同人等が同事件の首謀者、率先指揮者或は積極的協力者としての責任ではなくあくまで前述した組合責任者としての責任である)の責任者として結局整理基準五のロハと九のイに該当するものである。よつて同人等に対する他の解雇理由の有無についての判断は省略する。

二、更にその余の被申請人等(別表第三記載のもの)の解雇理由となつている別表第五記載の(1)(3)(4)(5)(6)(7)(8)(9)(10)(11)(12)(14)(15)(16)(17)(18)(19)(20)(21)(22)(23)(24)(25)(26)(27)について順次判断する。((2)(13)については既に述べた)

(イ) 解雇理由(1)(3)(4)(5)(6)(7)(8)(9)(10)(11)(14)(15)(17)(18)(20)(21)(22)(23)(25)(26)(27)について

前認定の本件爭議の経過に更に前顕疏甲第十三、第十五、第三十三、第三十四各号証、証人大村宗興の証言を綜合すれば同被申請人等に対する本件各解雇理由となつた右表題掲記の各事実はその表現自体やゝ誇張の跡が窺われるが大体これに近い事実があつたことが認められ、從つて同被申請人等の一部において或は自己の職場を無断で離れ或いは他從業員を煽動して職場を抛棄させてしばしば職場大会を開催させるとともに職場における座込みという就業拒否行動に走らせたり或はしばしば会社幹部や現場幹部職員に暴言を吐いたことが窺い知られるところである。

而して前にも一應触れたとおり本件の如く結局労働爭議がその全体において違法と認められてもそれはあくまで組合とその最高責任者の責任の限度にとどまりそれ以外の組合員個人の責任はあくまで個々の行爲について責任の所在を追求しなければならない。從つて左様な組合員が個々的にもその手段において明瞭に違法なる爭議行爲とか或は手段の点はともかくとしてたとえば明瞭に会社の生産阻害のみを目的とする如き違法な爭議行爲とかの首謀者、率先指揮者、積極的協力者であるとの点が明にされゝば全体的爭議よりはなれてその違法なる個々的行爲に対し責任が追求されなければならないであろう。

しかし同被申請人等の前記各行動を個々的に檢討すればその方法においてなかには客観的に見て多少行過ぎは存するが、甚しく行過ぎたものであるとはにわかに認められないし、又それが專ら会社の生産阻害のみを目的として爲されたものであるとの点についてもその片鱗が窺えないことはないが充分な疏明がない。

もつとも同被申請人等がいずれも共産主義者或はその同調者であることは同被申請人等の自認するところであるが、そのことのみをもつて右各行動を違法視することは本件疏明の限度ではやゝ早計であろう。

そうだとすれば右事実はいずれもただ個別的に見て不当な組合活動とは謂えないし、労働組合法第七條第一号に所謂る正当な組合活動ないし爭議行爲は多少の行き過ぎはあつても未だ甚しく不当でない行爲をも含むものと解するのが相当であるから、これらはそれのみでは未だ解雇理由とするに足りないと考えられる。

しかし右被申請人等のうちで被申請人D、同E、同F、同G、同H、同I、同J、同Kを除くその他の組合員が組合專從者でなかつたことは当事者間に爭がないから、左様な組合非專從者がいかに爭議中とは謂え作業時間中無断で職場を離れることは前にも述べたとおり甚しく不当ではないが労働協約等においてこれを認容する特別規定がない限り原則として正当な組合活動ではないし、又作業抛棄時間中の賃金請求はできないことは言うまでもないことを附言しておく。

(ロ) 解雇理由(12)は前にも認定したとおり滝本ツギ負傷事件に対する田口所長のあくまで冷淡な態度にも責任の大半があつたのであるから同事件を捉えて本件解雇理由とすることは酷に失するもので明に失当である。

(ハ) 解雇理由(16)について

その内容となつている多数組合員の連続三日間晝夜を分たない所長宅包囲事件の状況ならびにそれが甚しく不当な爭議行爲であることは前にくわしく認定したとおりであるが、該事件の首謀者とか率先指揮者或いは積極的協力者が一体誰であつたかについては本件全疏明を通じてこれを認めるに足る資料がない以上、たゞ証人田辺重訓(第二回)、菊池琢郎の各証言を通じて窺える被申請人等の一部が同事件の際田辺所長宅附近に居合せたとの事情のみでは、同事件の責任を前にのべた趣旨において組合ないしはこれが最高責任者たる前記被申請人A外二名に求めることは格別、未だもつて本被申請人等に求めることは躊躇せざるを得ない。

(ニ) 解雇理由(19)について

一般に鉱山保安法や労働基準法第四十二條以下にもとづき制定された労働安全衞生規則等によつてたとえば本件の如き鉱山では瓦斯爆発の防止施設、落盤防止施設、通気施設等所謂安全保持の施設の保全義務を事業関係者に課しているのであつて、これらの安全施設の維持または運行を停廃し又はこれを妨げる行爲は爭議行爲としても絶対に爲し得ないことは労働関係調整法第三十六條に徴し疑のないところである。このことはとりもなおさず組合が爭議行爲としてストライキやサボタージユをするときでもこれらの施設を維持し或は運行するために必ず必要な最少限度の人員を配置して、人命の安全保持施設の正常な機能を持続せしめておかねばならぬということであるから、組合がこれを怠り又は拒否すれば爭議行爲は違法となる。この場合会社が必要な最少限度の人員の提供方を組合に要求して來た以上それが一方的要求であつたとしても右結論は何等左右されるものではない。

そこで本件の場合を見るに証人大村宗興の証言によつて成立を認め得る疏甲第四号証の一部や被申請本人Dの供述により成立を認め得る疏乙第五十号証、被申請本人Dの供述を綜合すれば組合が昭和二十四年十二月二十日から四十八時間ストに突入した際会社はたゞちに組合に対し坑外安全保持施設を継続し運行するに必要なりとする保安要員合計百二十九名の差出方を要求したので、組合においても右要求人員を檢討の結果右要求人員中には明に不必要な人員二十一名を含んでいることが判明したので右不必要人員二十一名の差出を一應拒否するとともに会社に対し右人員必要の具体的理由の明示を求めた上、実情に應じて更に四名を差出した事実が認められるから、組合が必要なる最少限度の保安要員の差出しを拒否したものとはにわかに認められない。從つて右事実を捉えて解雇理由と爲すことは早計に失するものと認めざるを得ない。

(ホ) 解雇理由(24)について

これは結局本件爭議行爲を全体として把握してその違法を追求するものでありその責任は組合及びその最高責任者たる前記三名に求むべきものであつて、決してそれ以外の個々の組合員に求むべきでないことは再三説示したところであるからこゝに改めて再論をしない。

以上のとおり同被申請人等についてはその各個別的行動についてはその程度が必ずしも解雇に値する迄に達していなかつたものと認めるとともに前顕疏乙第五号証によれば同被申請人等の組合における地位経歴は別表第七記載のとおりでそれによるとその大半が組合の役員として活発な組合活動をしていたことが窺える次第であるから、他に特段の事情のない限り同被申請人等に対する本件解雇は一應不当労働行爲として労働組合法第七條の強行規定に牴触して無効であると認めるのが相当である。もつともそのうち被申請人V、S両名において本件解雇後会社から退職金を受領したことは当事者間に爭がなく、申請人は右事実をもつて同被申請人等が自ら本件解雇を承認したものと主張し又退職金の受領は特段の事情のない限り左様に解すべきであろうが、冐頭で認定したとおり同被申請人等は本件解雇後なおその無効を主張して会社と斗爭中生活の資に窮したので本件代理人松井佐弁護士の諒解を得た上將來会社から支拂われるべき賃金と退職金返還債務を相殺するつもりでこれを受領したものであるから、左様な場合退職金の受領のみで未だ本件解雇を承認したものとはとうてい認め難いであろう。

そうだとすれば結局別表第三記載の被申請人D以下二十五名に対する本件解雇はその余の判断を俟つ迄もなく無効であつたと謂わなければならないので、以下においては解雇理由の疏明があつた別表第四記載の被申請人A以下三十四名について更に判断を進める。

(E)  本件解雇と憲法第二十五條第一項との關係

惟うに憲法第二十五條第一項はすべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有することを規定しているが、その趣旨とするところは要するに労働者のみの最低生活を保障したものではなく、むしろ労働者も一般国民として他のすべての国民と同様、健康で文化的な最低限度の生活を営み得るよう国政を運営すべきことを国家の責務として宣言したまでのことである。

從つて仮に被申請人等主張の如く申請人会社が組合と団体交渉を設けることなく一方的に本件解雇を行い組合員の生存権を脅すに至つたものとしても、それはとくに労働者の基本的人権としての労働権、団結権ないしは団体交渉権を保障する憲法第二十七條第二十八條以下これに基き制定された一連の労働法規に規定される別途の救済を俟つべきものであるから、会社の右行爲がたゞちに憲法第二十五條第一項に牴触するものとは謂えない。

(F)  本件解雇と信義誠実の原則との関係

惟うに労資は本來相協力して併存し互に生産担当者として協調し経済興隆に寄與すべき責任を負うものであるとともにその互に作用し合う力は相手方は勿論社会的にも重大な影響を及ぼすものであるから、両者はあくまで憲法以下一連の労働立法をはじめとする各種の制定法、慣習法、判例法及び條理、公序良俗、健全な常識、社会通念などから有機的に形成される一般法秩序をとおして要請されるフヱアプレーの精神、換言すれば信義誠実の原則に立脚しなければならないことは茲に縷々述べる必要もないであろう。

而して本件人員整理が結局組織的有機的な動態としての爭議から当然招來せられたものである以上、その当否もあくまで爭議との関連においてしかく観察せらるべきものであつて、單に人員整理断行当時の会社の不誠意のみ捉えてその当否を云々する如きは狹小なる見解と謂うべきである。

成程被申請人等の主張するとおり会社が本件解雇に先立つて自発的退職者の募集や配置轉換、作業方式の科学化等をしなかつたことは申請人の認めて爭はないところであり、その措置自体やゝ愼重を欠いたと謂うべきであるが、これを前認定の本件爭議の発端から本件人員整理実施に至る一連の事情に対比すれば会社の右措置が著しく公正を欠いたとはとうてい認められないのみならず、反つて組合の人員整理拒否の態度こそ著しく公正を欠いていたと謂わねばならないであろう。しかのみならず後でも述べるとおり敗戰後の貧弱極る日本経済の基盤の上に立つ中企業体たる本件会社に人員整理後の犧牲者救済はとうてい不可能と見るべきであり、それは結局本件会社のみならず一般企業内部に残留した從業員が更に能率を上げて総資本を充実させ、もつて失業者の救済の余剩を創出することや国家の失業対策による救済制度を更に拡大することに俟つべきものと考えるから、会社がこの点に関する配慮が薄かつたとしても必ずしも信義則に反するものとは謂えず、その他会社が著しく信義則に違反していたとの点は本件では遂にこれを見ることができない。

(G)  本件解雇と労働協約との関係

一般に労働協約中の協議約款或いは同意(了解)約款は形式上は労働者に対する賃金解雇基準等所謂る労働條件その他労働者の待遇に関する個々的な基準を定めた規範的部分でないから直接労働組合法第十六條の適用はないのであるが、実質的には経営者の恣意的人事に対する組合のコントロールを保障した廣義の解雇基準を定めた規定と見るべきが妥当であるから、これに違反する解雇は次にのべる如き特別事情のない限り、協約に違反して無効であると謂うべきである。

しかし右約款はあくまで経営者の恣意的人事に対する組合の介入権を保障するものである以上、若し企業の存続のため人員整理がどうしても避け難いとされる場合にも組合があくまで右約款の存在を楯にとつて人員整理を拒絶すれば、それはまさしく同意(了解)拒絶権の濫用であるから経営者の解雇の効力を左右することはできないであろう。

さて本件労資間において昭和二十二年五月二十日締結された労働協約附帶覚書第四條に会社は組合員の採用、解雇、登用、移動及び賞罰に関しては組合と協議の上その了解の下に行う旨の規定が存することは当事者に爭がなく、又右協約が本件解雇当時も暫定的効力ではあるが尚有効に存続していたことは前認定のとおりであるところ、会社が本件解雇を爲すに当つては組合の了解を得なかつたことは申請人も認めて爭はないところであるから、本件解雇は形式的には協約に違反しているものということができる。

しかし前にも認定して明かになつているとおり会社が深刻なる経営不振に陷りこれが打開のためには人員整理を含む経営の綜合的合理化が必至とされるに至つたので、組合との団体交渉においてその実情を説明し人員整理案等を提示して協議をもちかけた際、組合はその実情を無視し頭から人員整理を拒否してその了解はおろか細部にわたる協議にさえも應じなかつたのであるから、組合の右拒絶はまさしく権利の濫用と言うの外はない。まして右人員整理を余儀なくさせるに至つた経営不振の責任の大半が組合にも存したものである以上猶更そうであると謂うべきである。

そうだとすれば組合の了解なき本件解雇が実質的にただちに協約に違反して無効であるとは認め難い。

(H)  本件解雇と経営協議会規約との関係

成立に爭がない疏乙第五十六号証(経営協議会規約)によればその第三條に組合員の人事(雇傭、解雇、異動、賞罰等)は本件会社経営協議会において協議決定する旨定められており本件解雇が右経営協議会の協議決定を経なかつたことは申請人も認めて爭はないところであるけれども、前記の如く組合が既に人員整理を頭から拒絶してその了解はおろか具体的協議にも應じないことが明白である場合改めて更に会社がこれを経営協議会の協議に附さなかつたとしても何等不法ではない。

(I)  本件解雇と労働基準法第二十條との関係

労働基準法第二十條に所謂る予告手当は債務者たる会社住所地内において支拂われるべき取立債務であるから、これが支拂は会社がその準備をなし債権者たる即時解雇者にこれを通知してその受領を催告すれば足り現実の提供を要するものではない。

本件においても前認定の如く会社は解雇通告と同時に即時解雇者には洩れなく予告手当の受領を催告し有効なる口頭の提供をなしたことはきわめて明白であるから、会社の本件解雇が労働基準法第二十條の強行規定に違反したものとは認め難い。

(J)  而して以上の考察の結果有効に解雇(予告解雇をも含めて)されたと認めた別表第四記載の被申請人三十四名のうち、予告解雇者たるB′、C′、D′、F′の四名は予告解雇に付された昭和二十五年一月十四日から少くとも一箇月を経過した同年二月十四日以降、右四名を除く即時解雇者三十名は解雇に付された同年一月十四日以降それぞれ会社の從業員たる身分を失つたものであると謂わねばならない。

(K)  仮処分の必要性の有無

一、昭和二十五年(ヨ)第二号について

同号被申請人(組合員)たる別表第一記載の五十三名中二十三名(別表第三記載のうち本件に関係のない(予告解雇者であるから)E′、A′を除く二十三名)はその解雇が無効であり申請人(会社)の主張する被保全権利の疏明がないので既にこの点において同人等に対する同号申請人の申請は理由がないものであり、更にその余の三十名(別表第四記載のうち本件に関係のない(予告解雇者であるから)B′、C′、D′、F′を除いた三十名)はその解雇が有効であり申請人(会社)の主張する被保全権利の疏明はあつたのであるが、本件口頭弁論終結の日であることが記録上明白な昭和二十五年九月二十八日現在においては会社事業場の秩序も平穩に復していることは申請人においても認めて爭はないところであり、しかも今なお右解雇者等三十名に対し事業場立入を禁止しなければ会社及びその幹部その他の職員等において著しき損害や急迫なる強暴を防止できないという緊急性は本件全疏明をもつてしてもとうてい窺い知ることができないから、これが保全としての右三十名の解雇者に対する立入禁止の必要性は全く存しないと認めるので結局同号申請人(会社)の申請はすべて理由がないことになる。

二、昭和二十五年(ヨ)第三号について

同号申請人(組合員)五十九名(別表第一、二記載)のうち別表第三記載の二十五名に対する本件解雇は無効であるからその被保全権利の疏明があつたと云わねばならないが、その余の三十四名(別表第四記載)に対する本件解雇は有効でそれぞれ会社從業員としての身分を失つているからその被保全権利の疏明がなかつたことになりこの点において右三十四名の同号各申請はいずれも理由がないと云わねばならない。

そこで被保全権利の疏明のあつた右二十五名(別表第三記載)の保全の必要性について考えると、同人等において会社から被解雇者としてとりあつかわれることは就職困難な現下情勢から推して一介の労働者たるにすぎない同人等をはじめその家族の生活を脅す死活問題であることはたやすく推測できるので、その受けることあるべき著しい損害を防止するためその雇傭関係に本訴等によつて確定するまで一應暫定的ながら同人等の会社從業員たる身分を保持せしめる必要があると認められ同人等の同号申請は理由があることになる。

以上のとおりであるから昭和二十五年(ヨ)第二号における同号申請人(会社)の申請をすべて認容した当裁判所の同年一月二十五日附本件仮処分決定は失当であるから同号被申請人等(組合員)別表第一、二記載の五十九名の異議は理由があるものと認めて本件仮処分決定を取消した上同号申請人(会社)の申請を却下すべきものとし、又同年(ヨ)第三号における同号申請人等(組合員)中別表第三記載の二十五名の申請を理由ありとして認容し、その余の別表第四記載の三十四名の申請は理由なきものとしてこれを却下すべきものとし、申請費用の負担につき民事訴訟法第八十九條、第九十三條、仮執行の宣言につき同法第七百五十六條の二を各適用の上主文のとおり判決する。

なお本件労働爭議の経過を通じて当裁判所が深く遺憾とするところは、労資双方の労働関係に関する深い洞察と互讓協議の精神の不足から生ずる無用の摩擦のため、はしなくも賃金交渉に端を発し本件の如き長期深刻な大爭議に発展せしめて経営秩序や公共の秩序と利益を害し、はては俗に松葉いぶし事件と称される多数組合員の暴力行爲事件をはじめその他幾多の不祥事件の発生を見るに至り、貴重なるべき多数の人力と莫大な経費を消耗させるに至つたことである。

そこで先ず組合側に言いたいことは、終戰後の貧弱なる日本経済の基盤の上に立つ各企業がともすれば過剩労力の整理に傾くのを防止し労働者の生活安定のため組合に保障された企業介入権を組合は濫用してはならないのであつて、組合があくまで介入権を行使すれば結局労働組合による個別資本の企業権の奪取と総資本の計画経済化となり問題はもはや資本制社会の否定となつてあきらかに憲法第二十九條の宣言する私有財産不可侵の原則を破ることになるのである。從つて組合側の企業介入権はあくまで個別企業の物的資本とその支拂能力に應ずる労働力の供給と賃金の要求において個別企業と調和しなければならないのである。又個別企業が企業整備による人員整理を余儀なくされた場合犧牲となつた労働者の生活問題は組合にとつても重大関心事であろうが、これが救済は国家の失業対策による救済等に俟つべきものであつて現下の個別企業の実力においてはとうていその能力はないであろうからこの点愼重なる考慮を要する。

又会社側に言いたいのは右にのべた組合の企業介入権を無用に警戒することは不必要且つ危險なものである。誠意をもつて経営の実情を説明すれば組合も極左運動に捲きこまれていない限りもとの子をなくしてまで無理押しをして來ることもないであろうから案外物判りが良い態度を示すかも知れないのである。要は経営者としての誠意であると同時に、労働者にとつて組合運動以外にはさしたる生活上の希望も興味も少いものであるから経営者は決して組合運動を輕視してはならないのである。要は労働関係に対する深い理解と洞察である。

会社は本件人員整理後経営も概ね順調になつた模様であるから労資双方改めて白紙にかえり互に誠意を吐露し正々堂々と交渉を進め、もつて自主的に賃金問題の解決はもとより既に旧型態に属する本件労働協約の改訂等に努力し、もつて円満なる自主的解決の一日も早いことを深く念願する。

(裁判官 小田村元彦 瀧口隣 松村利智)

別表第一、二、三、四<省略>

(別表第五)

解雇理由書

(1) 十月十四日新坑内運夫集団職場離脱事件

昭和二十四年十月十四日新坑右十九片捲立に於て十四時より内運夫が坑長の制止にも拘らず無断にて集団職場離脱を敢てし職場大会と称し作業を放棄した。

参加人員約六十名、ために主要ヱンドレス捲の運轉は十四時三十分より十七時三十分に至る三時間に亘り停止の已むなきに至り採炭仕操掘進の作業を混乱せしめ著しく生産を阻害した。

五のロ 故意に作業秩序を紊し生産を阻害した者

九のイ 他人を教唆煽動して会社の運営に重大な支障を生ぜしめた者

Hは組合幹部として本事件の如き職場放棄を制止すべきにも拘はらず又一方組合の指令に非ずと称し乍ら無断入坑して大会なるものに出席しその席上団体交渉の経過を発表し会社の誠意を一方的見解に於て歪曲非難し全員を煽動し生産を阻害する結果を生ぜしめた。

(2) 十一月三日砿員大会機密漏洩事件

昭和二十四年十月十日危機突破協力会席上会社側岸副長より営業機密として協力会出席員にのみ特に発表したる省納炭價二、六〇七円を組合側は約束に反して昭和二十四年十一月三日礦員大会に於て故意に発表し会社機密に属する事項を曝露し逆に之を宣傳流布し会社業務の運営に重大な支障を生ぜしめた。

九のロ 故意に会社の機密を洩らし会社運営上重大な支障を生ぜしめた者

Cは組合書記長として本事件に於て直接機密漏洩の責任者であるが、かかる行爲は会社の誠意を裏切る背信行爲であり、且つ又統制撤廃後の販賣業務の運営に重大な支障を生ぜしめたものである。

(3) 十一月七日南坑仕操掘進夫職場放棄事件

昭和二十四年十一月七日十三時南坑々内詰所に於て乙方仕操掘進夫は賃金問題につき東係員に対し四―六月賃金の延長を強要しその間約二時間に亘り三十名が無断職場を放棄し生産を阻害した。

五のロ 故意に作業秩序を紊し生産を阻害した者

九のイ 他人を教唆煽動して会社の運営に重大な支障を生ぜしめた者

G′、Y等は本事件に於て終始先頭に立ち組合員を煽動して坑内詰所に集合せしめ係員に対して最も脅迫的言辞を弄した首謀者である。即ち本部に於て十月以降賃金に関し団体交渉継続中にも拘らず「四―六月賃金延長で十月分を支拂え」「会社が拂はねば係員で責任を以て十月分賃金を確保せよ」等々の罵詈暴言を以て強要しその間業務の停廃を來たさしめ生産を阻害したものである。

(4) 十一月九日新坑内運夫集団職場離脱事件

昭和二十四年十一月九日十四時新坑々口に於て甲乙方内運夫約七十名は原坑長代理の制止を聞かず無断職場離脱を敢てし職場大会と称するものを強行した。

この職場放棄のため主要ヱンドレス捲は十四時より十七時三十分に至る三時間半停止の已むなきに至り、その間職場秩序は混乱し生産を著しく低下せしめた。

一方右卸採炭夫約五十名は運搬不良に対する賃金保証を要求し係員に拒否せらるるや全員無断昇坑し、又右十九片採炭松田連合員約三十名もこれに呼應し無断早昇坑をなし職場を放棄するに至つた。

五のハ 威力を用い会社の業務を妨害した者又はさせた者

五のロ 故意に作業秩序を紊し生産を阻害した者

九のイ 他人を教唆煽動して会社の運営に重大な支障を生ぜしめた者

Hは組合幹部として本事件の如き職場放棄を制止すべきにも拘らず、又組合の指令に非ずと称し乍ら自ら大会と称するものに入場出席し賃金交渉に於ける会社の態度を故意に歪曲して大衆に宣傳煽動し全員を昂奮させ、原坑長代理に対し、佐々木と倶に大声にて暴言を浴せ吊し上げを行つた。

Uは内運職場放棄により運搬不良となり右卸採炭夫が無断昇坑したるとき当人は連絡員として職場を離脱しありたるが直ちに当時作業継続中なりし右十九片松田連合員を煽動し職場を放棄せしめ約三十名をして無断早昇坑を敢えてせしめた。

Vは内運夫が職場放棄するや当人は右卸採炭夫約五十名を煽動集合せしめ自ら議長となり運搬不良に対する賃金保証即時決定を係員に要求した。係員之を拒否するや全員を使嗾し早昇坑を断行せしめた。

(5) 十一月九日南坑集団職場離脱事件

昭和二十四年十一月九日七時南坑々口に於て甲方採炭仕操掘進内運外運約百二十名は係員の嚴重な制止にも拘らず賃金問題に関し職場大会と称するものを強行開催せんとし約一時間半に亘り全員入坑せず生産を阻害した。

五のロ 故意に作業秩序を紊し生産を阻害した者

九のイ 他人を教唆煽動して会社の運営に重大な支障を生ぜしめた者

w、N、P等は本事件に於て終始先頭に立ち大衆を教唆煽動して職場離脱を敢えてせしめた首謀者である。

H′、Y等は本事件に於て終始先頭に立ち大衆を教唆煽動して職場離脱を敢えてせしめた首謀者である。

尚当日十三時半より十五時半頃迄坑内詰所に於て係員に対し本部迄同道して協力せよと罵詈暴言を以て脅迫し十八時頃乙方入坑者全員を早昇坑せしめた。

(6) 十一月九日A′事件

A′は昭和二十四年十一月九日賃金問題に関し団体交渉中会社側の制止を聞かず多数と共に事務所内に侵入、団交場たる所長室を取囲み二十一時頃団交終了するや其の場に居合せたる平山庶務課長他二、三名に対し多数の威力を以て大声にて団体交渉継続を強要し或は暴言を吐き脅迫的行爲を行つた。

八のイ 性粗暴にして他人に迷惑をかけた者

(7) 十一月十四日新坑仕操掘進夫集団職場離脱事件

昭和二十四年十一月十四日十三時坑長の嚴重な警告にも拘らずOは新坑々口に於て仕操掘進夫甲乙方を集合せしめ無断職場大会と称するものを強行開催した。之が爲に甲方は早昇坑、乙方は入坑遅延し約八十名が十四時より十六時に至る二時間集団職場離脱を敢てし作業を混乱せしめ生産を阻害した。

五のロ 故意に作業秩序を紊し生産を阻害した者

九のイ 他人を教唆煽動して会社の運営に重大な支障を生ぜしめた者

(8) 十一月十六日団体交渉場不法侵入事件

昭和二十四年十一月十六日所長室に於ける主食掛賣に就ての団体交渉中、十九時頃P、A′両名は交渉委員の資格なきに拘らず夫々無断入場し会社側より再三に亘り退場を勧告せるも應ぜず、会社側委員に対し脅迫的態度に出で正常な団体交渉を妨害した。

五のハ 威力を用い会社の業務を妨害した者又はさせた者

Pは酒気を帶びて入場し主食掛賣について困窮者は一部のみでなく全員に対し掛賣を認めよと迫り若し容れざる場合は南坑全員を押掛けさせる等の脅迫的言辞を以て交渉を混乱せしめた。

A′は婦人部員を煽動々員して交渉場を包囲し故意に喧噪状態を以て交渉を妨害しつつあつたが、十九時頃遂に單独交渉場裏に無断入場し再三に亘る退場勧告も無視して暴言を吐き脅迫的態度を以て交渉を妨害した。

(9) 十一月二十四日南坑係員脅迫事件

昭和二十四年十一月二十四日十時頃南坑々務所に於て東係長に対し約三十分余に亘り「賃金についての団体交渉は打切らした。吾々は職場單位で交渉する。一・八二瓲は絶対に呑まないから協力せよ、勝手にやつたら皆で貴様の処へ押掛けるぞ」等惡口暴言を述べ個人誹謗並びに職制を侮辱脅迫的言辞を弄して業務を妨害した。

五のハ 威力を用い会社の業務を妨害した者又はさせた者

r、H′等は本事件に於て共謀して東係長に対し脅迫的態度に出ているが、十一月十六日も十三時半頃より十六時半迄坑内詰所に於て浦上係員其の他に対し仕操夫約二十名を煽動して十月賃金について本事件同様惡口暴言を以て吊し上げを行つた(wも同一行動)

更に十一月十九日仕操夫二宮左京が公休日に出勤作業したるに対し「賃金も決定せさるに公休出勤とは何事ぞ」と威嚇脅迫し爲に十一月二十日二宮は止むなく休業するが如き事件をも惹起している。

(10) 十一月二十八日工作課員集団職場離脱事件

昭和二十四年十一月二十八日十四時半工作課礦員は木村課長代理の制止にも拘らず職場大会と称するものを自十五時至十七時二時間強行開催し、ために約百三十名が集団職場離脱を敢てし生産を阻害した。

五のイ 作業上の指示に故意に從はぬ者

五のロ 故意に作業秩序を紊し生産を阻害した者

九のイ 他人を教唆煽動して会社の運営に重大な支障を生ぜしめた者

Q、M等は当日八時五十分頃より礦員約二十名を木村課長代理の制止にも拘らず集合せしめて密議を行い、更に十四時半より度重なる木村代理の説得をも無視して本事件を強行し責任は吾々がとる等と廣言して大衆を集団にて職場離脱せしめ生産を阻害した。

(11) 十二月十三日新坑採炭夫職場離脱使嗾事件

昭和二十四年十二月十三日七時三十分頃新坑々口に於てXはb′、c′と共謀し「本日の団交に圧力を加えるため採炭夫両方合同にて押しかける」ことを申合せXは右十九片甲方採炭夫約三十名を教唆煽動して十四時頃無断昇坑せしめた。

又昇坑後乙方採炭夫の出勤を待ち代表者大野巽、松田松一に本日の押掛のため早昇坑する様使嗾しこれが爲約八十名の乙方採炭夫は入坑したるのみにて職場を放棄し無断昇坑した。

本事件は他人を教唆煽動して作業秩序を紊し生産を阻害したものである。

五のロ 故意に作業秩序を紊し生産を阻害した者

九のイ 他人を教唆煽動して会社の運営に重大な支障を生ぜしめた者

(12) 十二月十三日所長民事部出頭阻止事件

昭和二十四年十二月十三日十六時警察電話にて「明十四日十時迄に会社幹部二、三名九州民事部に出頭せよ」との連絡あり、依て所長以下四名は佐世保駅発十七時二十分の列車に乘車する爲即刻出発せんとし事務所前のトラツクに乘車す。此の時C、D、G、H、K等は会社幹部が所長宅より事務所前に至る間に於て押寄せたる婦人群中の一員滝本ツギ氏の指を過ちて僅かに負傷せしめた事件を故意に尨大に誇張宣傳して組合員約二百五十名を煽動々員しトラツクを包囲、トラツク前に杉丸太約十本を敷並べその運行を阻止した。

所長は九州民事部の命により出発する旨説明するも容れず大衆を煽動激昂せしめて遂に発車を遅延せしめ所長宅に引返すの止むなきに至らしめ会社業務の遂行を阻害しその運営に支障を來たさしめた。

五のハ 威力を用い会社の業務を妨害した者又させた者

九のイ 他人を教唆煽動して会社の運営に重大な支障を生ぜしめた者

Cは所長自動車出発せんとするや新坑採炭夫数十名を引率馳せ付け自動車の運行を阻止し会社側の説明をも聞かず自らフエンダーの上に立上り大衆に故意に滝本事件を誇張宣傳して大衆の憤激を高め出発を不可能ならしめた。

DはCと共に來り会社側の出発要請にも拘らず頑として之に應ぜず大衆の先頭に立ち出発を不可能ならしめた。

G、H等は所長民事部出発を知るや男子礦員数十名と共に馳せつけ車を包囲し大衆を煽動することに努め遂にその出発を不可能ならしめた。

Kは当日団交の継続を主張して婦人部員約百五十名を煽動して所長宅に押掛け中、滝本ツギ負傷事件発生するや故意に誇張宣傳して大衆を憤激せしめ所長自動車出発に際し之等婦人部員をして自動車を包囲せしめその運行を不可能ならしめた首謀者である。

(13) 十二月十四日及び十六日R暴行脅迫事件

一、昭和二十四年十二月十四日二十二時過ぎ新坑々内詰所に於てRは若干酒気を帶びて作業及び賃金の問題につき係員宮崎繁、森光雄両名に種々無理難題を吹きかけ暴言を吐きたる上両係員の温和な應答にも拘らず椅子に座せる森係員の胸倉をとつて引倒し後頭部に打撲傷を負はせ、次いで宮崎係員の左耳部を強打した。更に机上に立上りヨキを振り上げ両係員を脅迫した。

二、昭和二十四年十二月十六日前項事件につき職組が職員大会開催中十七時頃Rは酒気を帶びて会場に來り宮崎、森両係員の呼出しを大声にて迫り議事進行を妨害した。應接に出たる浜田係長に対しても暴言を以て脅迫の態度に出で遂に森係員を強引に引出し約二時間半に亘り新坑採炭夫等十数名と共に脅迫的言辞を以て所謂吊し上げを行つた。

当人は性粗暴にして他人に迷惑をかけること再三にて平素より素行不良である。

八のイ 性粗暴にして他人に迷惑をかけた者

(14) 十二月十五日礦員集団欠勤事件

昭和二十四年十二月十四日組合より十五日礦員臨時大会開催につき公休繰替の申入あり会社は電力関係につき御厨礦務部副部長が組合中内文化部長同道石炭局支局に之が能否を打合せたるも繰替不能の結論に達した爲会社は十五日公休繰替は認め難き旨通告した。然るにA、F、K、M、B、G、L、O、C、H、w、T、D、I、a′、E、J、A′等は右通告以前に無断にて「十五日礦員大会を公休繰替にて開催する」旨の貼紙を以て組合員に通知し全員集団欠勤を教唆煽動し十五日八時より会社の警告にも拘らず大会を強行開催し会社業務を妨害当日の作業を完全に停止し生産を阻害した。本事件は会社の運営に重大な支障を生ぜしめると共に一方前記の者等が組合幹部として会社に対する重大な背信行爲を敢えてしたものである。

五のイ 作業上の指示に故意に從はぬ者

五のロ 故意に作業秩序を乱し生産を阻害した者

九のイ 他人を教唆煽動して会社の運営に重大な支障を生ぜしめた者

A、F、K、M、B、G、L、O、C、H、w、T、D、I、a′、E、J、A′等十八名は組合執行委員中の強行分子として当日の公休繰替不能を諒解しつゝも会社側の指示警告を無視して大衆を教唆煽動し本件を無断強行せしめたる責任者にして正当なる爭議行爲に依らず会社業務の運営を阻止し当日の生産を妨害し会社に対する重大なる背信行爲をなしたものである。

(15) 十二月十七日新坑採炭夫職場離脱使嗾事件

昭和二十四年十二月十七日十時頃新坑右十九片採炭夫Uは無断にて右卸方面に來たり右二十六片採炭坂本連合に本日は早昇坑する様使嗾し引続き他の連合にも同様連絡した爲約六十名の採炭夫は職場を放棄し無断昇坑した。

本件に於て当人は職場の秩序を紊し生産を阻害したものである。

五のロ 故意に作業秩序を紊し生産を阻害した者

九のイ 他人を教唆煽動して会社の運営に重大な支障を生ぜしめた者

(16) 十二月十七、十八、十九日所長宅侵入暴行事件

昭和二十四年十二月十七日十八時半頃約二十名の組合員はハンスト組合員の要求書に対して団体交渉を要望して所長宅に押し掛け会社側と應答中続々とつめかけたる約四百の組合員は所長宅を包囲し玄関前にマイクを据えつけ、更に二十三時三十分柵を越して大衆は邸内に雪崩れ込み硝子戸を乱打し遂には之をこぢあけ樂団によつて表と呼應して気勢をあげドラム罐を叩き会社側幹部の惡口暴言を以て威嚇し喧噪夜を徹し全く一睡をも許さず、翌十八日も引続き家屋を包囲し幹部出入の自由を禁ずると共に樂団、ドラム罐を以てわめき立て更に十一時頃邸内にマイクを持ち込み十六時には裏廊下の硝子を破壞するに至る。十八日より十九日に至り十七日同様マイク、樂団、ドラム罐等更に罵詈暴言を以て喧噪を極め三日間全く言語に絶する不法侵入暴力行爲事件を惹起した其の間終始二百乃至五百名の人員を動員した。

五のハ 威力を用い会社の業務を妨害した者又はさせた者

九のイ 他人を教唆煽動して会社の運営に重大な支障を生ぜしめた者

A、Bは玄関前道路に於いて大衆を煽動して総指揮をなし志気を鼓舞してこの様な暴力行爲を誘発激化せしめた。

Cは玄関前道路に於て大衆を煽動して総指揮をなし或はマイクを通じて会社の眞意を故意に虚構に宣傳して大衆の憤激を誘い事態を激化せしめた。

D、E、H、K、a′、O、I等は十七日夜ハンスト四名の要求書を持参し会社側の回答拒否に対して飽く迄應ぜず交渉情況を屋外の大衆に発表して憤激を昂め煽動に努めると共に玄関内に坐り込み、その後も玄関前或は邸内に侵入し先頭に立ちて罵詈暴言を放ち又はマイクを通じて故意に誇張な煽動演説を行う等終始大衆の指揮に任じた。

Mは連日所長宅に押し掛け先頭に立ちて大衆の煽動指揮に任じマイクを通じ或は口頭を以て会社側の惡口暴言に努め特に十八日午後二時頃には拡声機を邸内に持込み、所長居間間近に据付けた。

Vは連日所長宅に押しかけ先頭に立ちて大衆の煽動指揮に任じマイクを通じ或は口頭を以て会社側の惡口暴言に努め十七日夜は玄関附近こ於て「所長や幹部は坑内に下つて來い拂跡に硬の代りに放り込んで硬詰にしてやるぞ」等の暴言を吐き脅迫した。

Xは連日所長宅に押し掛け先頭に立ちて大衆の煽動指揮に任じ会社側の惡口暴言に努め十七日夜は邸内に侵入室内に向い大声にて大村坑長誹謗の言辞を吐き更に「入坑して來たら坑木の代りに柱にしてやる。充填跡に放り込むぞ」等の威嚇脅迫的態度に出た。

A′は連日所長宅に押しかけ先頭に立ちて大衆の煽動指揮に任じ会社側の惡口暴言に努め十七日夜は邸内に侵入して室内に向い大声にて幹部を誹謗脅迫した。

Fは十八日夜玄関前道路に於て大衆を煽動して指揮をとり或はマイクを通じて大衆の志気を鼓舞すると共に会社側に対して団体交渉の再開を叫び更に九時過には邸内に侵入しその指揮に任じた。

Lは十八日夜玄関前にてドラム罐の上に立ち大衆に対して会社の頑迷さ並びに官憲の彈圧に対して最後迄徹底的に鬪うことを煽動して大衆の憤激を昂め尚岸副長公安委員リコール運動を宣言して陣頭指揮に任じた。

wは十八日午後南坑砿員数十名を引率して押しかけ先頭に立ちて大衆の煽動指揮に任じ午後八時頃邸内に侵入し室内に向い大声にて「南坑々長外に出て來い、たゞでは置かぬ、叩き殺すぞ、お前は坑長として不必要じや出て來い」等と威嚇的言辞を吐き脅迫した。

G、Jは十七日夜玄関前に於て大衆を煽動してその指揮に任じ又自ら先頭に立ちて会社幹部に対する暴言難詰を行い大衆の志気を昂めると共に本事件の激化を煽動した。

(17) 十二月十八日南坑集団職場離脱及び吊し上げ事件

昭和二十四年十二月十八日七時南坑々口に於て約二百名が無断職場を放棄し職場大会と称するものを開催、東係長、西原坑長代理を大衆の面前に呼び出し大衆の威力を以て脅迫する所謂吊し上げを行つた。十二時半一應終了したるも全員就業せず下山し所長宅に押し掛けたゝめに南坑は当日の出炭皆無となり生産を妨害したものである。

五のロ 故意に作業秩序を紊し生産を阻害した者

五のハ 威力を用い会社の業務を妨害した者又はさせた者

九のイ 他人を教唆煽動して会社の運営に重大な支障を生ぜしめた者

w、N、H′、Y、E′等は本事件に於て終始先頭に立ちて大衆を教唆煽動し、職場を放棄せしめ更に東、西原両氏を大衆の面前に呼び出し大衆の圧力を以て所謂吊し上げを行い積極的発言を以て脅迫し、其の後全員を下山せしめ所長宅包囲に参加せしめた首謀者である。

(18) 十二月十八日工作課集団職場離脱事件

昭和二十四年十二月十八日十時工作課職場大会と称し甲乙方約百八十名が係員の制止にも拘らず終日集団職場離脱を敢てし当日の作業を全般的に停止せしめ生産を阻害した。

五のロ 故意に作業秩序を紊し生産を阻害した者

九のイ 他人を教唆煽動して会社の運営に重大な支障を生ぜしめた者

Mは本事件の首謀者にして工作課全員を教唆煽動して職場離脱をなさしめ、作業を完全に停止生産を阻害した。

(19) 十二月二十日保安要員差出拒否事件

昭和二十四年十二月二十日一番方より四十八時間スト開始の組合側通告により同日五時半会社は保安要員百二十九名の差出方申入れたる所、右要員中坑内保安要員は工作関係を除き新坑、南坑、本坑要員計二十一名の差出方を拒否した。所長及保安管理責任者は保安上の見地より再三電話及び文書を以て通告差出方を要請したが徒らに言辞を弄して拒否の態度を捨てず差出方に應じなかつた爲坑内諸條件の惡化を招來するに至つた。

A、B、C、D、E、F、G、I、H、J、K等は組合幹部として之が差出しの責任者であるにも拘らず保安命令に違反し会社業務の運営を阻害した者である。

五のイ 作業上の指示に故意に從はぬ者

(20) 十二月二十三日新坑集団職場離脱事件

昭和二十四年十二月二十三日八時半頃新坑右十九片捲立に於てO、T、S、V等はハンスト組合員の対策協議のためと称し礦員を煽動して連絡集合せしめ総勢約二百名をして自八時半至十二時三時間半無断職場を放棄せしめた。更に坑口に於て午前中に引続き大会なるものを持ち原坑長代理を大衆の面前に引出し自十四時至十七時三時間に亘り暴言を以て脅迫詰問の所謂吊し上げを行つた。

本件は職場の秩序を紊し生産妨害を敢えてしたのである。

五のロ 故意に作業秩序を紊し生産を阻害した者

五のハ 威力を用い会社の業務を妨害した者又はさせた者

九のイ 他人を教唆煽動して会社の運営に重大な支障を生ぜしめた者

Oは団体交渉委員であるに拘らず入坑し(交渉委員は通常入坑しない)右十九片捲立てに於て入坑中の者にハンスト組合員の容態を言葉巧みに宣傳を始め集合を煽動すると共に、一方Tと共謀右卸方面にも連絡せしめ総勢約二百名をして職場を放棄せしめ無断職場大会の形に持込んだ本事件の首謀者であり、原坑長代理吊し上げの責任者である。

TはOと共謀、ハンスト組合員に対する対策協議のため職場大会と称するものを無断開催せんとし自ら右卸方面の連絡員として現場に急行し作業中の礦員に集合を煽動し、Oに連絡終了の旨電話した。右卸方面約百五十名は職場を放棄して前記箇所に集合、甲方全員の集団離脱となつた。又原坑長代理の吊し上げの責任者である。

Sは斜坑新坑との間にありて常に連絡し職場離脱を煽動し原氏吊し上げの時は暴言を以て脅迫詰問を行つた。

Vは当日右卸方面に連絡し採炭夫百名位をして職場放棄せしめ然かも原氏吊し上げの際は率先発言し大衆をして脅迫詰問なさしめた。

(21) 十二月二十四、二十五日新坑集団職場離脱事件

昭和二十四年十二月二十四日新坑乙方坑内夫約百五十名は十四時頃より無断職場を放棄して昇坑し当日開催中の団体交渉場を包囲し団交終了後も所長宅に侵入包囲し二十三時半迄ドラム罐等を叩き騷いだ。又二十五日も十四時頃坑口に於て乙方坑内夫職場大会と称して集合後デモに移り甲方昇坑者と合し約三百名が職場を放棄し職場秩序を紊し生産を阻害した。

五のロ 故意に作業秩序を紊し生産を阻害した者

九のイ 他人を教唆煽動して会社の運営に重大な支障を生ぜしめた者

Tは常に斜坑との連絡を受持ち右十九片右卸の採炭掘進をして無断昇坑の素地を作る。

Uは二十四日無断にて右卸方面に來り採炭各連合函押夫に連絡職場放棄を連絡したる爲約六十名の採炭夫は職場を離脱昇坑した。

Vは二十四日、二十五日の両日に亘り常に連絡をとり職場離脱並に昇坑なさしむ。

Xは二十四日、二十五日の二日間に亘り職場大会と称するものを無断決行するに当り常に連絡等重要な役割を演じて大衆を煽動し各日百乃至二百名をして職場を放棄せしめた。

(22) 十二月二十六日倶樂部面会強要暴行事件

昭和二十四年十二月二十六日十九時三十分頃約五十名の組合員は倶樂部炊事場出入口に押し寄せ永野專務に面会を強要す。倶樂部管理人岩間收は既に無断侵入しありたる者を押し出すと共に押問答を繰返している時xは柵を乘り越え庭内に侵入し來り岩間收に対し「こんな奴はこの位のことではこたえぬから暴力で伸ばせ」と放言しつゝその胸倉を掴み強振して脅迫した。

多数の威力をたのみ面会を強要し更に暴行脅迫に及んだ事件である。

五のハ 威力を用い会社の業務を妨害した者又はさせた者

(23) 十二月二十七日A′事件

昭和二十四年十二月二十七日二十二時頃A′は組合員約六十名と共に所長宅に押しかけ多数の威力をかりて惡口雜言を放ち、特に一出て來い叩き殺してやる」「馬鹿田辺、馬鹿野郎」等々聞くに堪えない言辞を弄し、更に所長惡罵の歌を節をつけて怒鳴りちらし無言の畏怖感を與える脅迫行爲に出でた。

八のロ 私宅に面会を強要し威圧を加えた者

(24) 二十四年自十月至十二月生産妨害事件

A、B、C、D、E、F、I、G、J、H、K、L、w、a′、A′、M、N、O、P、Q、S、T、U、V、H′、X、Y、E′等は昭和二十四年十月賃金交渉開始以來前記各事件の如く從業員大衆を教唆煽動して正当な爭議行爲によらずして十月以降職場鬪爭と称するものを無断にて各作業場に随時強行し善良な從業員をして職場を放棄せしめ或は就業時間中作業を停滯せしめ又は対会社幹部押しかけ、職制に対する誹謗吊し上げ等を反覆繰返し職場放棄或は生産秩序の紊乱破壞による生産妨害を強行した。

左の出炭状況に明らかな通り甚だしき生産の減少は当人等が生産妨害行爲を敢行したためでありその結果生産の低下を來たし会社に多大の損害を與えた。

九月出炭 一四、四〇〇瓲

十月〃  一二、四〇〇瓲

十一月〃 一〇、五〇〇瓲

十二月〃 六、八〇〇瓲

以上の如く甚しき減産を示し十二月の如きは当所出炭計画一六、〇〇〇瓲の四二・五%である。

五のロ 故意に作業秩序を紊し生産を阻害した者

九のイ 他人を教唆煽動して会社の運営に重大な支障を生ぜしめた者

(25) K婦人部煽動事件

昭和二十四年夏以來Kは組合における婦人部長の地位を利用して常に善良なる家庭婦人の煽動に專念し或る時は会社と組合と協議決定した事項に対してすらこれを無視して自ら先頭に立ち会社に押しかけ執務の妨害強要を敢てなし自らの意に從はざる者あらば之に絶えず圧力を加え或は多数の婦人を引連れて町に進出し虚構な宣傳をなし会社に対する間違つた判断をなさしめる等凡ゆる手段を用いては家庭婦人をして会社に対する不安感を募らしめる挙に出で会社運営に尠らず不利をもたらしめた。

九のイ 他人を教唆煽動して会社の運営に重大な支障を生ぜしめた者

(26) 一月五日野界課長吊し上げ事件

昭和二十五年一月五日組合側要求の十二月分特配米掛賣の件に関し会社より現状にては應じ難き旨正式回答済なるにも拘らず同日十六時頃より婦人部員約百名は所長宅に押しかけ折柄出張報告のため所長宅を訪問途次の野界配給課長を取囲み前記掛賣を強要、課長の拒否言明にも拘らず約四時間に亘り身体の自由を拘束しその間罵詈暴言暴行等の不法行爲を以て吊し上げを行つた事件である。

五のハ 威力を用い会社の業務を妨害した者又はさせた者

九のイ 他人を教唆煽動して会社の運営に重大な支障を生ぜしめた者(除x)

Kは組合幹部としてかゝる不当な方法に依る交渉を制止すべきに拘らず婦人部員多数を煽動々員しこの不法行爲を自ら率先指導した首謀者である。

Fは組合幹部としてかゝる不当なる方法による交渉を制止すべきに拘らず組合員多数を煽動々員し此の不法行爲を自ら率先指導した首謀者である。

A′は組合幹部としてかゝる不当なる方法に依る方法を制止すべきに拘らず組合員多数を煽動々員し自ら罵詈暴言を以てこの不法行爲を率先指導した首謀者である。

xは本事件に於て大衆の威力を用いて先頭に立ち幾多の惡口暴言を以て脅迫すると共に、野界課長の帽子を奪い取り「この禿頭の馬鹿野郎」と叫びつゝ頭部を再三に亘り濡れた手を以て撫でたり叩いたり侮辱の限りを盡して威嚇し課長をして恐怖感に呆然自失せしめる様な暴行々爲を爲した。

(27) 一月十二、十三日新坑々内坐込事件

昭和二十五年一月十二日新坑々内右十八片連絡坑道通気門にて十四時甲乙方は坑内全職種職場大会なるものを開き少数の人員を以て坑内坐り込みを強引に不当決議し十七時半甲方約二百名が坑内各所に坐り込みを開始した。少数の指導者は坑内係員詰所に陣取り坐り込みを指揮し各所に青年行動隊を配置監視せしめ反対者の昇坑を阻止した。保安係員は保安上危險なるを以て就業以外の目的で坑内に残留しない様坐り込みを中止し昇坑する様警告したるも指導者は之を一蹴し二十時保安管理者及び所長名を以て委員長宛坐り込み中止方警告申入をなすも組合の指令に非ずとの理由を以て放置した。二十二時乙方全員を坐り込みに合流せしめ十三日四時には甲乙両方を併せ全員四百五十名に達した。十三日七時甲方二百名坐り込みを中止し就業せるも生産意慾なく十四時乙方と交替し坐り込みを続行した。十五時半坑内にて全員職場大会と称し集合し煽動者達の強制にも拘らず反対者多数のため十九時漸く昇坑した。

新坑出炭目標四八八瓲に対し十二日二二五瓲、十三日七八瓲と減少した。

A、B、C、D、E、F、H、G、I、J、K、A′、O、S、U、V、X等は一般從業員を教唆煽動強制して正当な手段に依らない不法な坐り込みを強要し保安管理者の保安上の命令にも違背して職場秩序を紊し生産を阻害せしめた本事件の首謀者である。

五のイ 作業上の指示に故意に從はぬ者

五のロ 故意に作業秩序を紊し生産を阻害した者

九のイ 他人を教唆煽動して会社の運営に重大な支障を生ぜしめた者

A、B、C、D、E、F、H、G、I、J、K等は組合の指令に非ずと称し乍ら当人等は所長及保安管理者よりの中止警告をも無視して何等制止するの措置をとらず大衆を煽動して作業秩序の破壞紊乱を企図し生産を阻害する不法な行爲を敢行し会社業務の運営に重大な支障を生ぜしめたものである。

A′、O、S、U、V、X等は直接の指揮に当り職場大会なるものを強行に不当決議せしめ坑内詰所に陣取り坐り込みを指揮し保安係員の中止方申入も一蹴し各所に青行隊を配置監視せしめ反対者の昇坑を阻止するが如き惡辣な行爲に出た。

(別表第七)

昭和二十五年(ヨ)第三号申請人五十九名の経歴表<省略>

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