長崎地方裁判所佐世保支部 昭和36年(モ)90号 決定 1961年4月28日
申立人 佐世保金融業協同組合
被申立人 吉原説一 外一名
主文
本件異議の申立はこれを却下する。
理由
申立人は「被申立人間の長崎地方裁判所佐世保支部昭和三五年(ル)第七五号電話加入権換価命令事件の換価命令正本に基き被申立人荒木商事株式会社が同庁執行吏に委任して被申立人吉原説一所有の電話加入権佐世保局第六三六〇番につきなしたる競売はこれを取消す」との裁判を求め、その異議の理由として別紙のとおり主張する。
そこで当裁判所において顕著な事実、即ち「右電話加入権につき質権を有する申立人が申立当時質権に基き之に配当要求をなし、その後本日右配当要求を取下げた事実」に基き審究すると、強制執行法上は電話加入権に設定された質権は質権に基く配当要求により優先配当が実施されない限り競落によつて消滅することなく競落人においてその債務の責に任ぜしめる所謂引受主義をとるを相当と解され、従つて質権者が競落された電話加入権につきその後質権実行のため競売を求める権利は何等障害を受ける筋合ではないので、右配当要求を取下げた現在では此の点において異議を唱える正当な利益がないから異議理由の内容につき判断する迄もなくこれを却下すべきものとして、主文のとおり決定する。
(裁判官 池田修一)
別紙
被申立人荒木商事株式会社は長崎地方裁判所佐世保支部昭和三五年(ル)第七五号電話加入権換価命令事件の換価命令正木に基き被申立人吉原説一所有の電話加入権佐世保局第六三六〇番につき昭和三十六年三月二十八日長崎地方裁判所佐世保支部所属執行吏徳永志磨男に対し競売の執行委任をなした。
そこで右執行吏は、昭和三十六年三月二十八日右執行委任を受任し、更に同日競売期日を昭和三十六年四月四日午前九時と指定した。ところが昭和三十六年四月四日の競売期日には最高価競買申出人として田崎午八郎が金二万円にて競売申出でをなし前記執行吏は同人をして最高価競買人と定めた。
然るに右競売には次に記載する二点について執行吏の執行に際し遵守すべき手続について違法な点があつた。即ち、
第一点、執行吏は執行受任と同時に直ちに競売期日を指定しなければならないが、右期日は少くとも七日の期間を置かねばならないのに六日の期間を置いて競売に付しているのは民事訴訟法第五百七十五条の規定に違反したものである。
第二点、元来執行吏は財産権の換価競売については評価人を立てゝ価格の鑑定をなし、その鑑定価格を評価見積価格として競売に付し最高申出価格が著しく評価格より少きときは民事訴訟法に規定された執行吏の法定権限に基いて更に競売期日を指定すべきであるのに執行吏徳永志磨男は評価人を立てしめず現在佐世保市に於ける電話加入権の時価が拾万円を上廻つていることを充分知りながらその六分の一に当る競買申出でを漫然と許したのは執行吏の遵守すべき執行手続を怠つた違法な競売であると謂うベきである。
仮りに右一、二点が理由ないとしても執行吏は前記の如く佐世保市の電話加入権の時価相場は再三に亘る加入権の競売に立会つているので充分知つているのであるから金二万円の競買申出は、特定される有体動産なら格別、一般市場に不足している電話加入権の公の競売に於てたとえ競買申出人が一人たりともその日の競売は執行吏の法定権限に於て止め更に競売期日を指定するのが妥当なる措置で本件競売は公序良俗に反する無効なる競売である。
よつて本申立に及ぶ。