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長崎地方裁判所佐世保支部 昭和56年(ワ)88号 判決 1983年5月25日

原告・反訴被告

田川増五郎

原告・反訴被告

田川泰延

被告・反訴原告

山一不動産株式会社

右代表者

山本初男

被告・反訴原告

寺園輝二

外一一名

右被告・反訴原告ら一三名の訴訟代理人

清川明

主文

一  本訴関係

1  被告らは原告らに対し、別紙第三目録記載の金網を収去せよ。

2  被告らは原告らに対し、原告らが営業用駐車場としての利用以外の利用のために別紙第二目録記載の土地から別紙第一目録記載の(一)の土地に出入りすることを妨害してはならない。

3  原告らのその余の請求を棄却する。

二  反訴関係

1  反訴被告らは、別紙第二目録記載の土地を、営業用駐車場としての利用のために、別紙第一目録記載の(一)の土地に自動車を出入させるための通路として使用してはならない。

2  反訴原告らのその余の請求を棄却する。

三  本訴及び反訴関係

1  訴訟費用は本訴及び反訴を通じ、これを一〇分しその九を原告ら・反訴被告らの連帯負担とし、その一を被告ら・反訴原告らの連帯負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  本訴関係

(原告ら)

1 主文一1と同旨

2 被告らは原告らに対し原告らが別紙第二目録記載の土地から別紙第一目録記載の(一)の土地に出入りすることを妨害してはならない。

3 被告らは各自原告田川増五郎に対し金八〇万円及びこれに対する昭和五六年六月二一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

4 訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決及び仮執行宣言。

(被告ら)

請求棄却、訴訟費用原告ら負担の判決。

二  反訴関係

(反訴原告ら)

1 反訴被告らは別紙第二目録記載の土地を別紙第一目録記載の(一)の土地に自動車を出入させるための通路として使用してはならない。

2 訴訟費用は反訴被告らの負担とする。

との判決。

(反訴被告ら)

請求棄却、訴訟費用反訴原告ら負担の判決。

第二 当事者の主張<以下、省略>

理由

一本訴関係

1  差止請求について

(一)  原告泰延は本件第一土地を所有し、原告増五郎は同泰延の父であること、被告らは本件第二土地を共同で所有し同土地は建築基準法上のいわゆる五号道路であること、本件第一、二の各土地は別紙見取図のとおりに所在しており、原告泰延は本件第一の(二)の土地を公衆用道路として提供し被告らもこれを利用していること、原告増五郎は本件第一の(一)の土地を昭和五六年二月六日上下二段に区分して駐車場に造成したか、被告らは同月二〇日に本件金網を設置したことは当事者間に争いがなく、原告増五郎本人尋問の結果によると、同原告は原告泰延から本件第一の(一)の土地を使用借りしていることが認められ、弁論の全趣旨によると、被告らは原告らに対し本件第二土地から本件第一の(一)の土地への自動車の出入りを禁じその権利を争つていることが認められる。

(二)  請求原因(四)(2)の事実について検討するに、検証の結果によると、本件第一の(一)の土地と同(二)の土地とは高低の落差がもつとも大きい地点で1.70メートル、もつとも小さい地点で0.65メートルで落差の大きい地点から小さい地点へ次第に落差が小さくなつて行くという地形であつて出入口を設けることが社会経済上不可能又は著しく困難であるとは言えないこと、又、本件第一の(一)の土地の上段と下段との落差は約2.10メートルでありその間にスロープを付けて両者を連絡させることは社会経済的にみて可能であることが認められる。

右認定事実に前記認定の本件第一の(一)(二)、第二の各土地の位置関係に関する事実を加えて考えると、本件第一の(一)の土地の下段は言うまでもなく、上段も囲繞地であるとは認めがたい。

(三)  そこで、本件第二の土地が前認定のとおり建築基準法上のいわゆる五号道路であることから、原告泰延はこれに接する本件第一の(一)の土地の所有者であり、又、原告増五郎は同土地の使用借権者ないしは占有者であるところ、両名が一般公衆の一員として右道路につき自由通行の権利を有するか否かについて検討する。

建築基準法上のいわゆる五号道路は、それが私人の所有に属するものであるけれども一般公衆の通行の用に供されるものであるから、公法上の私道位置指定のいわゆる反射効として一般公衆に含まれる私人がこれを通行する自由を有すると共に、私法上はこれを自由に通行する権利(人格権)を有すると解すべきである(村道に関し最高裁判所昭和三九年一月一六日民集一八巻一号一頁参照)。

したがって、本件においても本件第二の土地がいわゆる五号道路であるので、一般公衆の一員である原告ら両名は私法上も通行の権利を有すると言うべきである。

(四)  進んで、抗弁の成否について検討する。

抗弁事実中反訴請求原因(三)の事実引用部分(原告増五郎が自ら前記駐車場のための造成に際して前記公衆用道路からの出入を不可能ならしめた旨の事実)にそう被告塚本喜勝本人尋問の結果は原告増五郎本人尋問の結果に照らしてにわかに採用しがたく、他にこれを認めるに足る証拠はない。

したがって、本件第一の(一)の土地は駐車場造成前も現在とほぼ同様の地形であつたことを前提として判断を進めるべきこととなる。

一般に建築基準法上のいわゆる五号道路は前記のとおり一般公衆の通行の用に供せられるものであるが、それが私人の所有に属することからその維持管理は右五号道路の目的に反しない限り当該所有者たる私人の自由に任されているものであり、所有者は自らの居住の安寧及び交通事故防止など合理的な制限を一般公衆に対し一般的又は個別的に課すことは許されるものと解すべきである。

<証拠>によると、被告らが原告らの本件第二土地への車の出入りを禁じる理由は、原告らの本件第一の(一)の土地の駐車場として使用することにより、車輛の頻繁な出入りがあるため付近を通行し又は遊んでいる子供が交通事故に遭う虞れがあり、夜間遅くまで駐車場への出入りがなされるため付近に住む被告らの静穏な生活が害される虞れがあり、さらに、駐車場の東側が約一メートルの崖となつているため駐車場に遊びに入つた子供が転落する虞れがあるということであること、本件第一、二土地を含む付近は第一種住宅専用地域であり、環境の良好な住宅地であることが認められる。他方、<証拠>によると、本件第一の(一)の土地はもと畑として他人に耕作させ、そのための通行は本件第二土地を通行していたこと、この度これを駐車場に造成したのは、近くに従来から原告増五郎所有の貸家を有しており、その借家人のために駐車場を開設する必要に迫られたためと営業用の駐車場を設けるためとの二つの目的によるものであり、収容台数二〇台位で両目的のための具体的な使用はほぼ半々宛となること、が認められる。

以上認定事実を総合して検討すると、被告らが本件第二土地から本件第一の(一)の土地への車の出入りを禁止する理由のうち、子供の交通事故の虞れ及び夜間の静穏を害される虞れは合理的なものであるのでこれにもとづく原告らの通行の自由の制限は止むをえないものとみるべきである。

そうするとき、被告らは原告らの本件第一の(一)の土地の駐車場としての利用のうち、原告らのいずれかの所有に属する貸家の借家人のための駐車場としての利用に伴う車の出入りを禁じることは許されないが純粋な営業用としての駐車場としての利用に伴う車の出入りを禁じることができると言うべきである。

(五)  以上の次第で、原告らは被告らに対し本件金網の収去を求めること、本件第二土地から本件第一の(一)の土地への原告ら又はそのいずれかの所有する貸家の借家人のための駐車場としての利用換言すれば、営業用駐車場としての利用以外の利用に伴う出入りを妨害することの不作為を求める権利があるので、原告らの差止請求は右の限度で理由があるとして認容すべきであり、その余は棄却を免れない。

2  損害賠償請求について

被告らは金綱設置及び本件第二土地への車の出入りの禁止の意思表示を行つたことは前認定のとおりであるが、これが適法であるか違法であるかを判断するには、以上の認定の経緯から明らかなように、高度の専門的な法的判断を要求する事項であるので、被告らに故意過失があつたとは断定できない。

したがつて原告増五郎の損害賠償請求は理由がないので棄却を免れない。

二反訴関係

前認定判断のとおり、反訴原告らは反訴被告らに対し本件第一の(一)の土地を営業用駐車場として利用するために自動車を出入りさせるにつき本件第二土地を利用することの不作為を求める権利を有する。

したがつて、反訴原告らの請求は右の限度で理由があるので、その限度で認容されるべきであり、その余は棄却を免れない。

三本訴・反訴関係

訴訟費用につき民訴法九二条、九三条を適用し、仮執行宣言は事案の性質上付しないこととし、主文のとおり判決する。 (東孝行)

第一、第二、第三目録<省略>

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