大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

長崎地方裁判所平戸支部 事件番号不詳〔1〕 判決

主文

被告人片山虎雄を懲役五月に、被告人西山繁造を懲役二月に各処する。

但し右各刑は本裁判確定の日より二年間その執行を猶予する。

訴訟費用は被告人片山虎雄、同西山繁造の連帯負担とする。

被告人西山繁造に対する公訴事実中(二)の点並被告人坂本常夫は無罪。

理由

被告人等は長崎県北松浦郡鹿町町所在の高倉鉱業株式会社平田山鉱業所の従業員で且同鉱業所の従業員を以つて組織する三岳平田山労働組合員である。同組合に於ては、昭和二十四年十二月同会社がその従業員に対して越冬資金を支給しなかつたために組合員中に年末年始の主食に困るものが生じた事より昭和二十五年一月四日会社側に対して主食の掛売をして呉れるよう要求したが、会社側は是を拒絶した。此の事に憤慨した小松政二外七名の従業員は同月六日坑内で作業中であつたのにかかわらず会社側に直接交渉すべく昇坑したところ、会社側は職場離脱を理由に即日同人等を解雇した。此の事を知つた片山虎雄外十六名の従業員は会社のかかる行為を不当として解雇の撤回を叫んで坑内に居据り、又一方組合幹部に於ても右解雇の撤回方を会社側に要求したが、相手方は右解雇は労働協約に基いて為したものであるから正当であると主張して是を拒絶した上、坑内に居据つた片山外十六名の従業員等をも解雇する旨発表した。組合側は会社側のかかる態度に痛憤して同月八日午前五時頃会社側に対して闘争宣言を発してストに突入するに至つた。爾来種々の争議行為を繰返し、又労資双方の幹部は連日殆ど昼夜を分たず接衝を重ねて争議の解決に努力して来たが容易に妥結に至らず、双方の感情は益々激化して紛争を続けた。此のような情勢の下に在つた昭和二十五年一月十二日予て団体交渉場として使用していた鹿町町所在の平田山鉱業所職員倶楽部に遇々組合側より連絡員として派遣されてその附近を徘徊していた甲斐耕一を同鉱業所職員山本徳美外一名が同所附近に於て棍棒を以つて殴打負傷せしめた事があり、該事件が右山本等が甲斐を窃盗犯人と誤認してこれを逮捕すべく加えた所為であつたのにかかわらず、連日の争議に激昂していた被告人片山虎雄、同西山繁造等は約三百名の組合員と共に同日午後十時頃会社側の不都合を鳴らして会社側幹部が詰めている右倶楽部に押寄せ、倶楽部の玄関前、炊事場前等に蝟集して倶楽部内部に向つて怒号し、或は器物を毀し等して喧騒したが、そのとき

被告人片山虎雄は氏名不詳の組合員数名と共に鶴嘴をふるつて右倶楽部玄関の硝子戸を五、六回に亘つて打ちつけ同硝子戸二枚の硝子十二枚を破壊し、被告人西山繁造は右倶楽部前庭より拳大の石一個を倶楽部玄関二階右側六畳の間の硝子窓を目当に投げつけ、該窓上部屋根の雨樋受を毀損し

仍つて多数の威力を示して器物を損壊したものである。

(証拠略)

弁護人は被告人等の本件行為は緊急避難であるから無罪であると主張するけれども、緊急避難は現在の危難が他人の法益を侵害する以外に救済の途のない状況に在ることをその要件とするのであるところ、被告人等の各行為が如斯状況下に於て已むを得ずして為されたものであることについては何等の証拠がないから該主張は採用しない。

被告人西山繁造に対する公訴事実の(二)の要旨は同被告人は、倶楽部炊事場前道路上より炊事場二階の硝子窓をねらつて長さ五寸、二寸角の木片一個を投つけ窓下板塀に右木片を打つけたと謂うにあるから審究するに該行為は単に木片を板塀に打つけたと謂うに過ぎないのであつて、木片を打つけたために刑法第二六一条所定の器物を損壊せしめたものでないから該事実は同条及暴力行為等処罰に関する法律第一条の罪とはならない。

被告人坂本常夫に対する公訴事実の要旨は

被告人坂本常夫は氏名不詳の組合員数名と共に右職員倶楽部炊事場出入口の硝子戸一枚を押破り同戸一枚、同戸附属の窓硝子十二枚及炊事場出入口横硝子窓の硝子三枚、窓の棧一本を破壊した

と謂うにあるところ其証明が充分でない。

仍つて右各公訴事実については無罪を言渡すものである。

(適用した法律略)

(裁判官 石田憲次)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!