大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

長崎家庭裁判所 平成19年(少)479号 決定 2007年9月27日

少年 Y

(平成2.○.○生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(罪となるべき事実)

少年は,平成19年8月10日午後6時30分ころ,長崎県○○市××町○×番×△号B方において,同人管理に係る現金6万円を窃取したものである。

(法令の適用)

刑法235条

(処遇の理由)

本件は,少年院を仮退院した後,前件について保護観察に付された少年(2号及び1号観察中)が,家族との感情的対立等から家庭に落ち着けず,友人の家を泊まり歩いたり野宿をしたりする生活を送る中,自宅に帰った際,他の家族が皆留守になったことに乗じて,生活費欲しさに自宅の金庫から養父の管理する金員6万円を盗んだ事案である。少年は,盗んだ金員のうち,3万円強を洋服代やカラオケ代などの遊興費に,残りを食費やたばこ代に費消した。少年は,本件非行の動機について「他人のを盗んで少年院に行くより,自分の家のを盗んだ方がいいと思って。」と述べるなどしており,また,本件非行はそれ自体は比較的軽微である。しかし,少年は,本件非行以外にも,日常的に母親に対し暴力を振るう,原動機付自転車を運転中一時停止違反に対する警察の停止指示を無視して逃走しようとして現行犯逮捕される,自宅の自動車を無断で持ち出して無免許運転を繰り返す,家族が本件非行を警察に通報したことに激怒して自宅の壁等を損壊するなど,法や社会のルールを守らなければならないという意識が乏しい。本件非行の背景には少年の無軌道な生活がある。

少年は,小学生のころ,両親が離婚し母親に引き取られ,その後母親が再婚した相手(現在の養父)と養子縁組した。小学6年生ころから,養父の金員の持ち出し,家出,万引き等の問題行動が見られるようになった。中学2年生以降は,昼間は怠学し,夜間は深夜はいかいや無断外泊をする昼夜逆転の生活をするようになり,バイク盗や無免許運転を繰り返し,他方家庭や学校では家族や教師に暴力を振るうなどした。平成16年11月から平成17年6月まで(当時中学2年生から3年生)の①窃盗(バイク盗),②器物損壊,③窃盗,建造物侵入の各非行に及び,これらについて,平成17年8月4日,当庁で一般短期の処遇勧告を付した上初等少年院に送致する旨の決定を受け(当庁平成17年(少)第××○号,同第○○△号,同第○×○号),佐世保学園に収容された。平成17年12月に同園を仮退院した後,少年なりに努力して,中学を卒業して,平成18年4月には県外に就職するなどしたが,社長等との関係に不満を感じ2か月程度で辞めた。その後生活が乱れ始め,同年9月に占有離脱物横領(バイク)の前件非行に及び,平成19年2月20日,当庁で保護観察に付する旨の決定を受けた(当庁平成18年(少)第△△×号)。前件非行後本件非行に至るまで,塗装工や内装工として就労したり,ラーメン店のアルバイト等に従事したりしたが,いずれも人間関係がうまくいかず,長続きしていない。少年は,保護観察所の指導にも全く従うことなく,友人宅を転々と泊まり歩く生活をしながら,自宅に戻った際には家庭内暴力を振るい,金員を持ち出したり,無免許運転を繰り返したりするなど,生活態度は悪くなる一方であった。

少年は,負けず嫌いで見栄張りである。そのため,自分を認めさせようとして,一方的で身勝手な自己主張を押し通し,人と妥協することができず,対人関係で摩擦を生じやすい。また,不平不満をうまく発散することができずにため込み,情緒の安定を欠いて,ささいなことでいらいらしたり,自棄的,感情発散的に行動したりする。内面的には,小学生時に同級生からいじめられた体験を引きずり,家族の中では,自分だけが悪く思われている,構われない,評価されないなどの被害感や寂しさを募らせ,そのことが虚勢を張ったり,強引な自己主張をしたりといった少年の傾向を一層助長している。また,気分にむらがあり,好きなことには熱心に取り組むものの,根気や我慢強さを欠き,嫌なことや気に入らないこと,面倒なことがあるとやる気をなくし,物事を中途半端に投げ出す。こうした少年の資質上・性格上の問題点が,少年の非行や家族に対する身勝手な態度の主たる原因となっている。

母親及び養父は,これまで少年の監護に努めてきたものの,現在に至っては,少年の家庭内暴力や非行,険悪な家族関係に疲弊し果て,少年を監護する自信も意欲も喪失している。母親は,従前からうつ病を患い過去に入院していたこともあったが,少年の本件非行のために精神的に落ち込み,平成19年9月5日再びうつ病で入院した。また,養父は,持病(○△症候群)を有するため体が弱く,少年の暴力等に適切に対処することができない。さらに,兄は,正義感が強いためか少年の生活態度等を許すことができず,最近では少年の顔を見れば暴力を振るうような状態にまでなっており,そのため少年も家出中兄のいないことを確認して帰宅するなど,少年と兄との関係は非常に悪化している。少年との関係を巡って家族は絶えず苦しめられ,家庭は破壊されている状態にある。

以上に述べたような本件非行の内容や性質,少年の抱える資質上・性格上の問題の根深さ,家族との関係・家庭環境等の諸事情を考慮すると,少年を現状のまま社会内で処遇し更生を図ることは著しく困難であって相当ではない。少年については,少年院における矯正教育を通じ,まず,他者を思いやり協調的に人と接することを通じて安定した人間関係を築く力,忍耐力や持続力をもって物事をやり遂げる力を身に付けた上,家族や周囲の者とのこれまでの関係を見直し,人間関係の修復に努めていく必要がある。なお,前述したような家族の現状にかんがみると,少年と家族との間の葛藤を解消するためには相当な手助けと時間を要し,少年が少年院を仮退院した後直ちに家庭に戻ることは困難であると思料される。従って,家族関係の修復を図ること並びに適切な帰住先及び就労先を確保することを対象として,別途保護観察所長に対し環境調整命令を発することとする。

よって,少年法24条1項3号,少年審判規則37条1項を適用して少年を中等少年院に送致することとし,主文のとおり決定する。

(裁判官 佐伯良子)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例