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長崎家庭裁判所 平成6年(少)650号 決定 1994年8月18日

少年 N・A(昭56.4.22生)

主文

この事件を長崎県中央児童相談所長に送致する。

少年に対し、平成6年8月18日から向こう2年間に、通算180日を限度として、強制的措置をとることができる。

理由

(申請の要旨)

少年は、平成6年6月25日から教護院長崎県立開成学園に在園中のものであるが、園の生活になじめず、職員の指導にも従わず、同年7月17日以降、通算6回無断外出を繰り返し、その際、恐喝等の非行に及んでおり、今後も少年の無断外出が予想されるところであって、その際、近隣への被害や自動車を盗んだ上での重大事故等が生起するおそれがあるため、少年を強制措置が可能な教護院に入所させることが相当である。

(当裁判所の判断)

1  本件記録及び審判の結果を総合すれば以下の各事実を認めることが、できる。

(1)  少年は、小学校高学年のころから、頻繁に家出を繰り返し、自転車盗などの非行も行うようになったが、さらに、中学校入学後の平成6年6月22日から同月24日までの間、窃盗、暴行、恐喝等の非行を繰り返し、同月25日より教護院長崎県立開成学園に在園中のものである。

少年は、同園に入園当初からわがままな生活態度を示し、朝は決められた時間に起きず、援業をさぼったり、同じ寮の生徒にちょっかいを出してけんかをするなどしていたが、入園から数日経過すると、指導にあたっていた教母ら職員に対する反抗も目立つようになり、注意をする教母に手あたり次第に物を投げつけるなどした。その後も他の園生に対する嫌がらせ、乱暴が続き、また掃除や課外スポーツをさぼって姿をくらましたり、注意する職員に反抗するなど、園の指導に従わない行動を繰り返した。

平成6年7月17日、少年は一回目の無断外出を行い、同日中に近隣で発見され、園に連れ戻されたものの、同夜、園の自転車を持ち出して再度無断外出して、翌朝帰寮した。

少年は、同月19日にも2度にわたって無断外出をしたのち、21日には他の園生の1人を伴って無断外出し、長崎県諫早市や大村市まで足を延ばし、23日まで無断外出を続けながら自転車盗をしたり、中学生を恐喝するなどした。警察に保護され、いったん帰園したのち、翌24日にはまたも無断で外出し、その際は近隣の民家を訪ね、虚偽の事実を述べ同情を引いて金銭を受け取ったり、中学生に対する恐喝未遂を行うなどしながら、8月1日に観護措置をとられ身柄を保全されるまで無断外出を続けた。

少年のこれらの一連の行動をみると、無断外出における行動半径が拡大し、その際の不良行動も悪質化するなど、いわば無断外出のたびに非行性を進行させている状況であって、少年の非行性は現在急速に深化しつつあるといえる。

(2)  少年の資質、性格等

少年の知能程度は中の下の領域に属し、加えて、小学校時代から学習の習慣が全くついておらず、中学校にもほとんど通っていなかったため基礎学力の不足が著しい。

また、少年は、13歳という年齢を考慮に入れてもなお人格的に極めて未成熟であるといわざるをえず、むら気で落ちつきがなく、自己抑制能力を欠き、不平不満が多く、衝動性、攻撃性といった特徴も顕著であって、一種の情緒障害ともいうべき性格である。

(3)  少年の家庭環境等

少年の家庭は、少年のほか実父、継母、2人の異母妹、別居の実兄からなるが、家庭における細やかな躾けや教育がなされなかった一方で、幼少時から父親によって過剰な体罰が加えられるなど、家庭教育のあり方に問題があった。少年はこうした父親を恐れる一方で、温かい家族の愛情に対する欲求も強く、これが満たされないことに強い焦燥感を抱いていたもので、前記のような性格が形成されたことと、こうした少年の家庭環境とは無関係ではないと考えられる。

もっとも、前回の鑑別所収容を契機として、少年の父親も従来の指導方法の問題点を理解し、これを改める必要性を認識したということであるが、少年がその行動半径を拡大し、家庭に寄りつかなくなりつつある現在においては、今後、仮に父親が教育方針を改め、指導の努力を重ねたとしても、どれほどの効果をあげうるか疑問がある。いずれにせよ、少年に対する家庭の監護能力は十分なものとはいえない。

2  以上の事実を総合すると、少年は、その資質に加えて、家庭環境にも恵まれなかったことなどから、社会に対する適応能力や非行に対する抵抗力を身につけることのないまま成長し、現在にあっては、他者との関係を適切に調整する能力を全く欠くに至るとともに、急速に非行性を深化させつつあるということができる。そして、その原因の一端が家庭環境にあり、しかも少年が家庭に寄りつかない状態になりつつあることなどの事情も併せて考慮すると、少年を家庭に戻しても、すぐさま家出をすることが予想されるのであって、現段階において少年を家庭の監護に委ねることは相当でない。むしろ施設内で、家庭的にしてきめ細かな指導を少年に施し、情緒面での成長を図りつつ少年に規範意識を植えつけさせるべきであり、その意味で教護院での指導を継続することは相当であるが、少年の資質、性格、非行性の程度、さらには少年が開成学園において他の園生に乱暴をしたり、職員の指導を無視し、あるいはこれに反発してきた過去の経緯等に鑑みると、純然たる開放施設に少年を置くならば、再び無断外出を繰り返してその際不良的行状に及んだり、施設内で職員らに反発して重大なトラブルを起こす虞れが認められ、そのような事態は少年の健全な育成のために是非とも回避する必要がある。結局、今後は、場合により強制的措置をとりうる施設において少年を処遇することが妥当であり、少年の年齢、資質等からして、強制的措置をとりうる期間を本決定から向こう2年間とし、その限度を通算180日とすることが相当と思料される。

よって、少年法23条1項、18条2項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 鹿島秀樹)

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