大判例

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長崎家庭裁判所 昭和48年(家)247号 審判 1973年9月11日

申立人 倉田礼子(仮名)

相手方 倉田正夫(仮名)

主文

当庁昭和四四年(家)第八四三号申立人本件申立人、相手方本件相手方間の婚姻費用分担審判事件の主文を次のとおり変更する。

「相手方は申立人に対し昭和四八年四月一八日から同人らの別居期間中一個月金四万二〇〇〇円宛を毎月末日限り(但しすでに期限の到来した分については、右審判に基き履行済分あるときはこれを差引いた差額を即時に)支払いせよ」

理由

(本件申立の趣旨及びその事情)

申立人は、本件当事者問の当庁昭和四四年(家)第八四三号婚姻費用分担審判事件で定められた相手方の分担額に金三万円を増額する旨の審判を求め、その事情として

(一)  申立人は、現在、相手方と長崎地方裁判所において離婚訴訟中にして、長女栄子、長男正一、二男正二を伴い別居中であるところ、昭和四五年四月八日長崎家庭裁判所において、前記審判事件につき相手方に対し右未成年者三名の養育費月額中金二万一五七〇円を婚姻費用の分担として支払うべき旨命じ、相手方は現在までこれを履行している。

(二)  ところが、昭和四七年四月長女栄子が中学校へ、二男正二が小学校へそれぞれ進学したため支出が一挙に増加し、そのうえ生活諸物資の値上りしたこと等から、申立人の収入と相手方からの前記分担金の仕送りによつては、申立人の収入の増加を計算に入れても、これまでの未成年者三名の生活程度を維持することが困難である。よつて相手方に対し現在の経済事情に見合う分担額の増加を求めたく本件申立に及ぶ

というのである。

(審理の経過)

本件は昭和四八年三月二四日審判事件として申立てられたので直ちに調停に付し、同年四月一七日(第一回)五月八日(第二回)に調停期日を開いたが、調停不成立となつたものである。

(当裁判所の判断)

本件記録中の昭和四四年(家)第八四三号婚姻費用分担審判事件(以下旧審判事件という)の審判書謄本および旧審判事件記録を総合すれば次の事実が認められる。すなわち、

(一)  申立人と相手方は昭和三〇年三月二九日に婚姻した夫婦であつてその間に長女栄子(昭和三四年五月一六日生)長男正一(昭和三八年一月六日生)二男正二(昭和四〇年一一年八日生)を儲けたが、夫婦仲が不和となり遂に昭和四四年六月中旬頃から別居し現在に至り、申立人において右三名の未成年者を監護養育している。

(二)  申立人は当裁判所に旧審判事件の申立をなし、当裁判所において昭和四五年四月八日「相手方は申立人に対し昭和四五年一月一日より別居期間中一個月金二万一五七〇円宛を毎月末日限り(ただし期限の到来した分については即時に)支払いせよ」との審判をなし、相手方は現在まで右分担金の支払いをしていること

(三)  昭和四七年四月長女栄子が中学校へ、二男正二が小学校へそれぞれ入学したこと

以上の事実が認められる。

叙上の事実に、申立人、相手方の各収入増加の事実(家庭裁判所調査官真崎熙章作成の調査報告書による)、公知の事実である生活物資の価格騰貴の事実等を勘案し、前記分担額が現在においても相当であるか否かにつき考察する。

本件記録中の旧審判事件の審判書謄本、国鉄労働組合○○支部執行委員長末永次郎作成名義の申立人に関する給与証明書、控除額証明書各一通、申立人作成の収支明細書、○○重工業株式会社○○造船所作成名義の相手方に関する給与証明書二通、給与支払報告書(昭和四七年分源泉徴収票)、相手方作成の給与支払内訳書、生命保険金支払内訳書、生活費明細書各一通、前記真崎調査官作成の調査報告書、および旧審判事件記録を総合すれば

(一) 申立人の収入につき

(1)  給与所得

申立人が国鉄労働組合○○支部書記として支給を受ける給与の手取額(税金、労働金庫への返済金等を控除した残額)は昭和四七年六月ないし昭和四八年五月の一個年分合計金一〇〇万三二九四円にして、これから必要経費年額三〇万二四三〇円(内訳住居費金一二万円保険(火災生命、交通災害等)料合計金一七万五五五〇円固定資産税金六八八〇円)を差引き計算すれば、一個月の平均手取額は金五万八四〇五円となり

(2)  家賃収入

月額金一万七〇〇〇円にして

その収入の実額は合計金七万五四〇五円となる。

(二) 相手方の収入につき

相手方が○○造船所勤務の社員として支給を受ける給与の手取額(税金、社会保険、借入金差引分等合計金四五万二三六六円を控除した残額)は、昭和四七年六月ないし昭和四八年五月の一個年分合計金二六一万九四三九円にして必要経費年額金四五万一一六二円(内訳母への生活費医療費等金三六万円、生命保険料金六万四七六二円固定資産税金二万六四〇〇円)を差引き計算すれば一個月の平均手取額は金一八万〇六八九円となる

ことが認められる。

ところで、本件につき未成年者三名の一個月間に要する養育費の実額が判明すれば、申立人相手方の前記収入の割合その他諸般の事情を考慮して双方の負担額を定めるのがもつとも妥当な方法と思料されるが、右養育費を算出するに足る資料が存しない(旧審判事件においてもこの額は算定されていない)。そこで、分担額算定の基準として現在のところ労働科学研究所が算出したいわゆる労研生活費方式によるのが相当であるといわれており、しかも旧審判事件の審判もこれを採用し分担額を定めているので、以下この方式によつて試算すると

(1)  申立人の前記収入月額金七万五四〇五円による申立人と本件未成年者三名の生活費は、別紙総合消費単位表に基き計算すれば(別紙第二の(1)参照)申立人の生活費は金二万八七二五円となり、未成年者三名の生活費の合計は金四万六六八〇円となる。

(2)  相手方が未成年者三名を引き取つて養育すると仮定した場合、相手方の前記収入月額金一八万〇六八九円から未成年者三名の生命保険掛金九八三〇円を当然差引くべきであるからその残額金一七万〇八五九円による各人の生活費は前同様方法により計算すれば(別紙第二の(2)参照)、相手方の生活費は金七万二八六六円となり、未成年者三名の生活費の合計は金九万七九九三円となる。

(3)  相手方は、申立人が未成年者三名の養育費の一部を負担することによつて、それだけ支出を免れ、生活程度が上ることになるので相手方の分担すべき額は計算上(別紙第二の(3)参照)金七万八〇八五円となる(旧審判は金二万一五七六円と算定)

以上の結果が生ずる。

右計算によれば相手方は未成年者三名の養育費(婚姻費用の分担)として金七万八〇八五円を分担すべき筋合となる。しかし右計算方式は手取金全額が生活費に充当される立前のものにして、扶養義務者の収入が増加するに伴い扶養権利者の生活費も増額となり、収入がある程度高額となれば、生活費は通常一般の生活水準をはるかに超過した額となる結果を生ずる場合がありうるので、右方式による計算の結果を総ての場合に適用することは妥当でない。これを本件についてみるに、前記の如く相手方の分担額は金七万八〇八五円となり、これに申立人の分担を加算すれば、未成年者三名の生活費は月額金一〇万円を越えることになり、相手方の収入に応じ子供の生活程度を向上さすべきことを考慮にいれても右額は一般の生活水準を過ぎたものといわざるをえない。従つて前記金額は採用し難い。

そこで未成年者三名の生活費の月額は幾何をもつて相当とするかにつき按ずるに、申立人、相手方の前記各収入の程度、その生活状態、子供の年齢、在学関係、その他記録に表われた諸般の事情に別紙第三記載の計算に基く最低生活費約金三万五〇〇〇円を参酌し考察するとき、一個月の最低生活費は合計金六万円と認めるのが相当である。しかして、申立人、相手方の前記収入の割合、生活状態、その他諸般の事情を考慮し、現段階においては、相手方が申立人に対し分担する右生活費の額は月額金四万二〇〇〇円をもつて相当と認める(結局相手方は旧審判事件で定められた分担額に金二万一四二四円増額されることになる)

旧審判事件で定められた相手方の分担額金二万一五七六円を右の金四万二〇〇〇円に増額すべき始期は、本件記録により右増額請求の意思表示が相手方に到達したと認められる日(前記第一回調停期日)の翌日である昭和四八年四月一八日とするのが相当である。

従つて旧審判事件の主文に「相手方は申立人に対し昭和四五年一月一日より同人らの別居期間中一個月金二万一五七六円宛を毎月末日限り(但し期限の到来した分については即時に)支払え」とあるを「相手方は申立人に対し昭和四八年四月一八日から同人らの別居期間中一個月金四万二〇〇〇円宛を毎月末日限り(但しすでに期限の到来した分については、旧審判事件に基き履行済の分があるときはこれを差引いた残額を即時に)支払いせよ」と変更することとする。

なお、相手方は旧審判事件で定められた分担金のほかに、家賃収入月額金一万七〇〇〇円を申立人に渡していること、前記離婚訴訟事件の結論が近く出ることになつていること等から、申立人の増額請求には応じないというのであるが(調停事件経過表の記載参照)、右家賃収入のうち金一万三〇〇〇円は旧審判事件において申立人の収入として計算済であつて、申立人の家貸収入の増額は僅か金四〇〇〇円に過ぎないこと、近く離婚訴訟事件の判決が出ること、(事実は昭和四八年八月二五日現在において未だ結審に至つておらず、次回口頭弁論期日は同年一〇月一二日指定となつている)は増額の請求を拒む正当な理由と認められないこと等を考えるとき右主張は採用の限りでない。右判決があつて、そのため申立人、相手方、未成年者らの生活関係に変化を生じた場合は、その時点において改めて未成年者の養育費の負担につき協議し、あるいは調停、審判の方法によつてこれを定めることができることを念のため申し添える。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 藤田哲夫)

(別紙編略)

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