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長崎家庭裁判所佐世保支部 平成10年(少)346号 決定 1998年8月07日

少年 C(昭和○年○月○日生)

主文

平成10年(少)第345号触法保護事件について

少年を児童自立支援施設に送致する。

平成10年(少)第346号強制的措置許可申請事件について

この事件を長崎県○○児童相談所長に送致する。

少年に対し、平成10年8月7日から2年の間に通算90日を限度として、その自由を制限する強制的措置をとることができる。

理由

第1平成10年(少)第345号触法保護事件について

(触法行為)

少年は、

1  平成10年6月14日午後2時ころ、長崎県下県郡<以下省略>のA方において、日頃のうっぷんを晴らすため、同人方車庫に置いてあった簡易ガスボンべに着装されたガスバーナーに同所にあったライターで点火した上、右ガスバーナーを用いて、右車庫内に置いてあった発泡スチロールの箱及びキッチンペーパー、右車庫の天井につるしてあったポリ袋、右車庫内で洗濯物として干してあったブラジャー、同人方母屋の裏勝手口の片開き戸及び6畳和室の網戸に次々と点火してこれらを焼き焦がして焼損させ、もって、他人の物を損壊し

2  前記日時ころ、前記A方において、B所有のパンティー1枚(時価約500円相当)を窃取し

たものである。

(適用した法令)

少年法3条1項2号(第1について刑法261条、第2について刑法235条)

(処遇の理由)

少年は、小学校低学年のころから窃盗及び放火を繰り返し、平成7年には○○児童相談所で一時保護を受けたほか、同年5月から長崎県立教護院(当時)「a学園」に入所したが、依然として放火等を繰り返したため、平成9年3月27日には長崎家庭裁判所で強制的措置許可決定がされ、国立教護院(当時)「b学院」に入所することになった。少年は、同所で1年余りの間処遇を受け、ある程度の改善効果があったと判断されて、平成10年4月6日に「b学院」を退所し、○○児童相談所で一時保護を受けた後、同年5月25日に自宅に引き取られ家族と共に生活を始めた。ところが、そのわずか20日後に、またしても本件各触法行為に及んだものである。その動機は、少年の述べるところによれば、通学していた中学校での2日くらい前の出来事を思い出していらいらしたからというのであるが、通常放火の動機になるような事情があったとはうかがわれない。少年は、放火について、「b学院」でも○○児童相談所でも、厳しく注意されていたのに、帰宅して短期間のうちに、些細なことでいとも安易に放火をしていることからみて、少年には放火癖が強く認められ、これまでの経過からみて、これを矯正するのは容易でないといわざるを得ない。少年がこのように放火癖を有するようになった原因は必ずしも明らかでないが、長崎少年鑑別所における少年の鑑別結果によれば、少年には重度の脳波異常等の障害が認められ、これが少年の放火癖と関係している可能性がある。いずれにしても、少年の放火癖は、少年の資質に起因するところが大きいと考えられ、その矯正のためには、少年に対する精神医学的治療を含めた処遇が必要不可欠である。

さらに、少年には、最近では、性的非行の傾向も強く認められるようになっている。

以上によれば、少年の非行傾向には根深いものがあり、これまでの経過からみてこれを矯正するのは容易でないところ、少年をこのまま在宅で処遇したのでは、少年の更なる逸脱行為を阻止することも、少年の非行傾向を矯正することも困難であるといわざるを得ない。しかも、少年の逸脱行為の内容が、社会的危険の大きい放火等であることをも併せ考えると、少年をもう一度児童自立支援施設に送致し、精神医学的治療を含めた矯正教育を改めて施すことによって、少年の逸脱行為の阻止及び非行傾向の矯正を図るのが最善の方法であると考える。

少年の保護者である両親は、少年を自分達で養育監護することによって、何とか少年を立ち直らせたいと考えており、その心情はそれとして理解できないではないが、少年の現状は家庭における指導監督の限界を超えているといわざるを得ない。

よって、少年法24条1項2号を適用して、主文のとおり決定する。

第2平成10年(少)第346号強制的措置許可申請事件について

(申請の要旨)

○○児童相談所は、前記触法行為をした少年について、長崎県c警察署長から平成10年6月22日付けで児童福祉法25条の通告を受け、少年を同児童相談所で一時保護することになった。少年は、過去5件の放火による警察からの通告歴を有し、平成9年3月27日長崎家庭裁判所で強制的措置許可決定がされ、同月28日に国立教護院(当時)「b学院」に入所した。同所における少年に対する処遇は、ある程度の成果があったとの判断から、平成10年4月6日措置解除となり、少年は、○○児童相談所で一時保護を受けた後、家庭に引き取られたが、短期間のうちに前記放火を敢行している。少年は、不適応感が強い状況で放火を繰り返しており、その行動傾向は改善されていない。また、少年には、脳波異常があり、薬物療法が必要な状況である。少年は、衝動性が高い上、心理的な葛藤を抱えやすく、今後とも再非行の可能性が高い。その非行の内容が社会的に重大な放火であるため、開放施設での処遇は難しく、強制的措置が必要である。

(当裁判所の判断)

前記第1の平成10年(少)第345号触法保護事件についての「処遇の理由」の項で説示したとおり、少年の逸脱行為を阻止し、その非行傾向を矯正するためには、現状では、少年を児童自立支援施設に送致するのが最善の方法であると考えるが、少年に対するこれまでの施設処遇の実情をみると、少年には、規制の弱いところでは、些細なことで衝動的、短絡的に自分勝手な逸脱行動に出やすいところがあること、しかも、少年の逸脱行動は、社会的危険性が大きいことなどからみて、少年に対しては、ある程度強力な規制を加えながら、その非行傾向の矯正を図っていく必要があると考えられる。したがって、少年に対しては、場合によりその自由を制限する強制的措置をとる必要のあることが認められ、その期間としては、本決定の日から2年の間に通算90日を限度とすることが相当である。

よって、少年法23条1項、18条2項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 濱崎裕)

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