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長崎家庭裁判所佐世保支部 昭和39年(家)530号 審判 1965年8月21日

申立人 永田ミツ子(仮名)

相手方 原田フミ(仮名)

参考人 原田一郎(仮名) 外六名

主文

一、本籍佐世保市○○町八二六番地亡原田吉郎の遺産を、次のとおり分割する。

別紙第一目録記載の不動産は、全部相手方原田フミにおいて取得する。

相手方原田フミは、申立人永田ミツ子、参加人原田一郎、三井タケ、本田エミ、井口京子、原田明子に対しそれぞれ金一〇五、四三〇円を支払え。

二、別紙第二目録記載の鉱業権に対する分割の申立を却下する。

三、本件手続費用中鑑定人一ノ瀬藤一に支給した金三万〇、〇〇〇円はこれを九分し、その三を相手方原田フミの負担とし、その一宛を申立人永田ミツ子、参加人原田一郎、三井タケ、本田エミ、井口京子、原田明子の各負担とし、その余の部分は申立人、相手方及び参加人等の各自の負担とする。

理由

(申立の実情)

申立人は、本籍佐世保市○○町八二六番地亡原田吉郎の遺産を分割する、との審判を求め、その理由の要旨とするところは、次のとおりである。

(一)、原田吉郎は、昭和三五年九月二九日相手方の住所地で死亡し、同日その配偶者である相手方、長男亡市郎の長女である参加人原田明子及び直系卑属たる申立人、その余の参加人等を共同相続人とする遺産相続が開始した。

(二)、原田吉郎は、古くから北松浦地区において炭鉱を経営して多額の産をなした有名人であつたが、昭和二六年その経営にかかる○○○炭鉱を他に譲渡した後は事業を縮少し、主として○○○炭鉱株式会社及び原田鉱業株式会社の経営に当つていた。

(三)、ところが、同人は、数年前から老齢に加えて失明に近い眼病のため、事務の執行が不能となるに及び、相手方及びその甥原田和男に一切を委任し、爾来相手方は原田吉郎の事務代行者として、和男は前示両会社の専務取締役として、同人の事務を専行し、右吉郎死亡後は、相手方において、その遺産を管理している。

(四)、そこで、申立人及び参加人等は、相手方に対し吉郎の遺産を明らかにするとともに分割の協議を求めたが、誠意ある回答に接しないので、本件申立に及んだ。

(当裁判所の判断)

一、本籍を佐世保市○○町八二番地に有する原田吉郎が昭和三五年九月二九日相手方住所地において死亡し、同日その配偶者たる相手方、長男市郎(昭和二〇年六月一七日死亡)の直系卑属たる参加人原田明子、直系卑属(いずれも子)たる申立人及びその余の参加人を共同相続人とする遺産相続の開始した事実は、本件記録中の各戸籍謄本によつて認めることができる。

二、以上の事実によれば、法定相続分は、相手方が一二分の四、申立人及び参加人等が各一二分の一というべきところ、参加人原田安男、尾崎恵子の各審尋の結果によると、右参加人両名は被相続人吉郎の遺産相続を希望せず、他の共同相続人に対しこれら遺産に対する共同持分権を放棄した事実を認めることができるので、本件分割の対象となる遺産に対する相続分は、相手方が九分の三、申立人及び参加人原田安男、尾崎恵子を除くその余の参加人は各九分の一であることが明らかである。(参加人原田安男及び尾崎恵子が前記のとおり共有持分権を放棄したからといつて、既に承継した被相続人の債務の如きについては、何ら影響を及ぼさないことは明らかである。)

三、本件記録中の登記簿抄本、家庭裁判所調査官の事件調査報告書及び各種照会に対する回答書、参加人原田安男、本田エミ、尾崎恵子の各審尋の結果等を綜合すると、原田吉郎は、○○○炭鉱株式会社及び原田鉱業株式会社を主宰し、その死亡当時別紙第一ないし第三目録記載のとおり多額の資産を有していたが、同第三目録記載の現金は右吉郎の葬式費用、墓石、墓地代等に全部支出され、定期預金債権、有価証券の大部分、不動産、動産は、被相続人吉郎の株式会社親和銀行、西日本相互銀行等に対する保証債務(主たる債務は前記両会社)合計金六三三六万五、二五〇円の担保に供されていたため、同目録備考欄記載のとおりに換価処分のうえ債務の弁済に充当(有価証券の一部は相続税として物納)され、長崎県登録第○○○○号の試堀権は存続期間の満了によつて消滅したので、右吉郎の遺産として現存しているのは、同第一目録記載の不動産、同第二目録記載の鉱業権及び同第三目録記載の債権及び前示債務に過ぎないが、債権債務は遺産相続開始の時において、当然相続分に応じ相続人が分割承継したものであるから、本件遺産分割より除外すべきものである。

四、そこで、先ず別紙第一目録記載の不動産の分割について考えるに、前掲各資料によると、右不動産は相手方において管理し、申立人及び原田安男、尾崎恵子を除くその余の参加人等において現物による分割を希望していないことも窺われるので、これを全部相手方に取得させ、その余の相続人(原田安男及び尾崎恵子を除く。)に対しては、その代償として相続分に応じた価格を償還させるを相当とするところ、鑑定人一ノ瀬藤一の鑑定結果によると、その現在における価格は別紙第一目録時価欄記載のとおり合計金九四万八、九五〇円であることを認め得るから、相手方に、申立人及び参加人等(原田安男及び尾崎恵子を除く)に対し各相続分に応じた金一〇万五、四三八円宛を支払わせることとする。

五、次に別紙第二目録記載の鉱業権に対する遺産分割の申立について考えるに、本件遺産分割の申立は申立人及び参加人等によつて昭和三五年一一月二八日になされ、その後一九回にわたる調停期日を経て審判に移行したものであるが、その間遺産の調査には格別の困難が伴い、漸くこれを確定する段階に至るや参加人等は右申立を取下げるに至つたため、当裁判所は同人等を本件手続に参加を命じて手続の進行を図らざるを得なかつた。ところが別紙第一目録記載の不動産及び同第二目録記載の鉱業権を評価すべく、その費用の予納を命じたところ、申立人はもち論、相手方、参加人等も十分な資力を有しながらもこれに応じなかつたため、右不動産の鑑定費用は国庫より立替支出せざるを得なかつたのであるが、更に右鉱業権の評価費用を立替支出しても、その納付には困難が予想されるのみならず、本件審理の経過に徴しても、申立人、相手方及び参加人等において手続の遂行につき十分な熱意を有するものと認めるを得ないから、結局この点に関する申立は、信義誠実の原則に反するものとして却下せざるを得ない。

六、以上の次第で、被相続人原田吉郎の遺産中別紙第一目録記載の不動産を主文第一項のとおり分割取得させるとともに、同第二目録記載の鉱業権に対する本件申立を却下することとし、非訟事件手続法第二七条を適用して主文第三項のとおり本件手続費用中鑑定人一ノ瀬藤一に支給した金三万〇、〇〇〇円を参加人原田安男、尾崎恵子を除くその余の相続人に対し各相続分に応じその余の費用は申立人、相手方及び参加人等各自に、それぞれ負担させることとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 長久保武)

目録<省略>

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