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長崎家庭裁判所佐世保支部 昭和42年(家)13号 審判 1967年2月20日

申立人 中川三雄(仮名)

事件本人 レイテ・マッヘル(仮名)

主文

申立人が事件本人レイテ・マッヘルを養子とすることを許可する。

理由

一、本件申立の要旨は「申立人は昭和三七年七月二五日事件本人の実母ゲルトルート・マッヘルと婚姻し、以来事件本人と同居して監護養育してきたが、申立人には実子がないので事件本人を養子にしたく、その許可を求める」というのである。

二、一般に渉外養子縁組許可事件の裁判管轄権については明文の規定がないが、本件では養親となり、また養子となる者がいずれも日本に住所を有するから、わが国の裁判所に一般管轄権があり、家庭裁判所が特別管轄権を有するものと解される。

三、法例第一九条第一項によると、養子縁組の実質的要件は各当事者についてその本国法により定めることになつているから、申立人についてはわが国の法律が、事件本人についてはドイツ国の法律が適用される。

わが民法第七九八条但書によると、配偶者の直系卑属を養子とする場合には、家庭裁判所の許可がなくても縁組できることになつていて、後記のとおり事件本人は申立人の妻の実子であるから、本件養子縁組については家庭裁判所の許可を必要としない。

ドイツ民法施行法第二二条によると、養子縁組の準拠法は養親の属する国の法律によるものと解されるが、同条第二項において、養子がドイツ国籍を有するときは、縁組に必要な同意については専らドイツ国の法律が適用されるべき旨定めているので、ドイツにおける本件縁組の承認をも考慮し、事件本人に関する本件縁組の要件については、ドイツの実質法であるドイツ民法にしたがうのが相当である。ドイツ民法第一七四一条によれば、養子縁組契約については裁判所の認許が必要とされているが、わが国の家庭裁判所における縁組許可審判とドイツの裁判所の認許とは、制度、手続は異にするものの、養子の福祉をはかる見地から縁組の当否を審査する点において類型を同じくし、本質上両者に著るしい差違はないと認められるから、わが家庭裁判所の許可審判をもつて右認許に代えることが許されると解する。

四、そこで事実関係についてみるに、申立人に関する戸籍謄本、公証人ロベルト・キューレヴァイン作成の公正証書、フランクフルト・アム・マイン後見裁判所の許可書の各記載、申立人およびゲルトルート・マッヘルに対する審問結果を綜合すると、申立人は満四一歳で当地方における最も著名なバス会社の代表取締役であり、資産収入も多く、安定した生活を維持していること、申立人とドイツ国籍を有するゲルトルート・マッヘルは、昭和三七年(西歴一九六二年)七月二五日婚姻の届出をして夫婦となり、ゲルトルート・マッヘルの実子である事件本人と共に佐世保市において同居をはじめ、以来今日まで申立人は愛情をもつて事件本人を監護養育し、申立人と事件本人はすでに実親子同様の精神的紐帯をもつて結ばれていること、事件本人は現在では日本語を話し、日本の生活様式になじんでいて何らの不安はないこと、申立人は実子がないので、事件本人が今春小学校に入学するのを機会に養子にしたいと考え、申立人の妻であり事件本人の母でもあるゲルトルート・マッヘルはこれに同意し、ドイツ国公証人に対し適法な縁組同意の手続をなし、ドイツにおける後見裁判所もゲルトルート・マッヘルが申立人と本件養子縁組契約を締結することを許容していること、以上の事実を認定できる。

五、右事実によると、申立人が事件本人を養子とすることがわが民法に照してもとより支障はなく、また事件本人が申立人の養子となることは、その本国法によつて何らの障碍がなく、且つ本件養子縁組は事件本人の将来の福祉にかなうものと認められる。

六、よつて本件申立を相当と認め、ドイツ国裁判所の認許に代えて(ただし、本件審判後縁組届出の必要なことはいうまでもない)、主文のとおり審判する。

(家事審判官 藤野岩雄)

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