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長崎家庭裁判所佐世保支部 昭和59年(家)186号 審判 1984年3月30日

申立人 南武俊

事件本人 吉岡俊夫 外一名

未成年者 吉岡正夫

主文

事件本人両名の未成年者に対する親権のうち、管理権に限つてこれを喪失させる。

申立人のその余の申立てを却下する。

理由

一  申立人は「事件本人両名の未成年者に対する親権を喪失させる。」旨の審判を求め、その申立の実情として、次のとおり述べた。

1  申立人は、未成年者吉岡正夫の祖父であり、同人を昭和五五年から今日まで養育してきたものである。

2  事件本人吉岡和美は、申立人の長男南武弘と昭和四六年六月二一日婚姻し、正夫及び長女恵子(昭和四八年一〇月五日生)をもうけたが、昭和五四年頃から、事件本人吉岡俊夫と不貞の関係を結び、同五五年には、武弘、正夫及び恵子を放置し、同棲を開始した。

3  武弘の仕事の関係もあり、正夫及び恵子は、申立人において上述の如く養育していたが、その後、申立人のもとに帰郷した武弘と事件本人和美との間の離婚調停が不調となり、その対応に苦慮していたところ、昭和五八年七月三一日武弘は心筋梗塞のため急死してしまつた。

4  昭和五八年九月、事件本人和美が正夫、恵子を引き取りに来たが、正夫は母の行状を理解しうる年令に達していたため、同道を拒絶し、申立人のもとに残つた。

5  一方、申立人は、正夫の将来の養育の資とするため武弘を被保険者、正夫を受取人とする一、二五〇万円の生命保険をかけていたが、事件本人和美は、武弘死亡直後、正夫の親権者として、上記保険金を受領してしまい、事件本人俊夫との生活のために上記金員を浪費してしまい、本来の目的である正夫の養育のためには何ひとつ使用しないまま、費消し尽してしまいかねない状況である。

6  さらに、申立人において、事件本人和美に対し、既に親権喪失の申立をなし、調査期日において、正夫がはつきりと和美の親権に服する気持はなく、申立人との生活を継続してゆきたい意思であることを表明している事実を知悉しながら、事件本人俊夫は昭和五九年二月三日和美を入籍したうえで、所謂妻の連れ子を養子とする場合、親権者(和美)の代諾につき、家庭裁判所の許可が不要であるとの制度を悪用し、昭和五九年二月一〇日正夫との間に養子縁組をなした。

7  以上の理由から親権者和美及び同俊夫の親権の行使を許すときには、未成年者正夫の意思に反し、不利益な身分行為、法律行為を「親権者」として行なう可能性が高く、一方、本来正夫の養育のためにこそ使用さるべき前記金員を自らの生活費もしくは遊興費として費消しつくしてしまうことが十分に予想される。

よつて、事件本人らの親権の喪失の審判を求める。

二  各戸籍謄本並びに家庭裁判所調査官作成の各調査報告書を総合すると次の事実が認められる。

1  申立人は未成年者の父方の祖父であり、事件本人和美は未成年者の実母、事件本人俊夫は未成年者の養父であり、事件本人両名は後記のとおり婚姻関係にある者である。

2  事件本人和美は昭和四六年六月二一日亡武弘と婚姻し、愛知県で生活していたが、その間に未成年者が長男として、同年一二月二一日に、恵子が長女として同四八年一〇月五日にそれぞれ出生した。

亡武弘は結婚生活中トラック運転手として働いていたが賭事を好み、金使いが荒く、転職が激しかつたが、加えて昭和五五年頃には覚醒剤を打つようになつたため、事件本人和美は未成年者を含む子供二人を連れて佐世保にある実家に帰つた。事件本人和美は○○○でスナックをしていた異母姉の許で働く中に常連の客であつた事件本人俊夫と知り合い昭和五七年頃より性関係を持つようになり、同年六月から同居生活にはいり、昭和五九年二月三日婚姻の届出を了した。

3  亡武弘は昭和五七年四月頃その父である申立人の許に帰り、事件本人和美が事件本人俊夫と同棲していたため、未成年者を含む子供二人を申立人の許へ連れ戻し、トラック運転手をして暮していた。

申立人は未成年者を含む子供の将来を憂えて万一の場合を考えて亡武弘を被保険者とする生命保険に加入し、自ら保険料を支払つていたところ、亡武弘は昭和五八年七月三一日心筋梗塞で死亡した。

4  亡武弘の死亡により未成年者に昭和五八年一〇月七日一、二五四万円の保険金が支払われ、事件本人和美はこれを受領し、次のようにこれを費消した。

(イ)  事件本人両名の借金返済(市民税滞納分を含む) 合計二、五六一、四〇三円

(ロ)  事件本人和美の実母原律子への貸金(いわゆるサラ金からの借金がかさみ原律子が破産宣告を申立てた弁護士費用、生活費、その他諸雑費) 合計(約)三、五〇〇、〇〇〇円

(ハ)  事件本人和美の実家の墓の費用 合計一、五八〇、〇〇〇円

(ニ)  長女吉岡恵子名義の預金(○○郵便局)三、〇〇〇、〇〇〇円

(ホ)  事件本人俊夫名義の預金(○○銀行○○支店)二、〇〇〇、〇〇〇円

しかし上記(ニ)(ホ)については家庭裁判所調査官のたび重なる勧告により現在では未成年者名義の預金として預け変えている。

5  未成年者は昭和五五年夏頃事件本人和美に連れられてその実家に帰つて以後、妹恵子と共に事件本人和美の実母原律子により育てられていたが、その頃も事件本人俊夫に対してなつかなかつた。

さらに亡武弘により申立人方へ連れて行かれたのちは申立人夫婦に育てられ、亡武弘の死亡後事件本人和美が引き取りに赴いたけれども事件本人らの許へ行くことを嫌がり、そのまま申立人により養育され、現在小学校六年生で健全に成長している。現在も未成年者は事件本人らの許へ行くことを頑に拒否している。

6  事件本人和美は未成年者に対する愛着が強く、引き取りを切に希望しており、事件本人俊夫もその気持をよく理解し未成年者の引き取りを希望し、昭和五九年二月一〇日未成年者と養子縁組を結んでその旨届出を了した。なお未成年者の妹である恵子は亡武弘の死亡後事件本人和美に引き取られたまま、事件本人らと同居している。又、事件本人らの間には近々子供が生まれる予定である。

以上の事実が認められ、この事実にもとづいて考えると、事件本人両名は未成年者の財産の管理権を濫用しているけれども、その他の親権を濫用しているものとは認めがたいので、事件本人両名の未成年者に対する親権のうち管理権に限り喪失せしめ、その余の申立てを却下することとし主文のとおり審判する。

(家事審判官 東孝行)

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