長崎簡易裁判所 事件番号不詳 判決
主文
被告人を罰金一万円に処する。
右罰金を完納することができないときは金五〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
被告人に対し公職選挙法第二五二条第一項の選挙権及び被選挙権を有しない期間を二年に短縮する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は長崎市議会議員であり、かつ昭和四〇年七月四日施行の参議院議員選挙に際し全国区から立候補した石本しげるの選挙運動者であつたものであるが、同人の立候補届出前である昭和四〇年五月一八日長崎市片淵町一丁目三〇番地所在の長崎原爆病院内において、大久保キミヨ、米倉百合子、松本ミネ子、大井アキ、北村志津子、久保桂子、深堀百合子らと共謀の上、右石本の当選を目的として同人に投票を得させるために「新緑の候益々御活躍の事と存じます」との書き出しで右石本の立候補意思の存在及び同人のため選挙運動依頼の文書及び「会員の皆様へお願い」と題する右石本のための選挙運動(活動)資金カンパ依頼の文書、ならびに「愈々戦ひの火蓋は切られんとしています」との書き出しで石本のために一人二〇票の獲得方を依頼した文書各一枚を作成し同月二〇日右法定外文書二枚ないし三枚を封筒に同封し前記長崎原爆病院内の郵便ポストから郵送したり、同病院勤務の久村キヨを通じて直接配布するなどの方法で長崎市城山町二丁目三三五番の山住久美子外一〇七名に対し右法定外文書外二枚ないし三枚入り封筒一〇八通を頒布し立候補届出前の選挙運動をなしたものである。
証拠(省略)
(弁護人の主張に対する判断)
植村弁護人は共犯者の自白が憲法三八条三項にいわゆる本人の自白に該当することを前提として共犯者の自白だけで被告人を処罰することは憲法三八条に違反するものであるとの趣旨の主張をしている。しかし、共犯者であつても被告人本人との関係においては被告人以外の者であつて、かかる共犯者の犯罪事実に関する供述は同条二項に示されるような証拠能力を有しないものでない限り独立、完全な証明力を有し、同条三項にいわゆる本人の自白と同一視しまたはこれに準ずるものではないと解すべきものであつて、このことは既に最高裁判所の判例(最高昭和二九年(あ)一〇五六号、同三三、五、二八、大集一二、八、一七一八、同三四年(あ)二六一号、同三五、五、二六、一小集一四、七、八九八)によつて示されているところである。而して本件では他の共犯者の供述は証拠能力を有しないものではない。のみならず本件は前記のとおり共犯者の自白だけで被告人を処罰するものではないから弁護人の主張は採用しない。
(法令の適用)
被告人の判示各所為のうち事前運動の点は公職選挙法一二九条、二三九条一号、刑法六〇条に、法定外文書頒布の点は包括して公職選挙法一四二条一項二号、二四三条三号、刑法六〇条にそれぞれ該当するが、右は一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから刑法五四条一項前段、一〇条により一罪として重い法定外文書頒布の罪の刑で処断することとし、所定刑中罰金を選択し所定金額の範囲内で被告人を罰金一万円に処し、右罰金を完納することができないときは刑法一八条により金五〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、なお情状により公職選挙法二五二条一項所定の五年間選挙権及び被選挙権を有しない期間を同条四項により二年間に短縮することとする。
よつて主文のとおり判決する。