長野地方裁判所 事件番号不詳 判決
主文
被告人を罰金五万円に処する。
右罰金を完納する事が出来ないときは、壹日金百円の割合を以て被告人を労役場に留置する。
訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
被告人は長野県上水内郡長沼村に在る長沼村靑果物出荷組合の組合長であつて、同組合員の生産したりんごの出荷割当販売の契約販売代金の受領保管等同組合の業務を統轄担当して居る者であるが、法定の除外事由が無いのに拘らず自己の右業務として
第一、昭和二一年九月三日頃より同年一〇月一〇日迄の間一四回に亘り前記組合員の出荷した箱入りんご普通品二万四千百五十六貫、同高級品六千四百二十七貫を買受先渡しで石川県金沢市所在石川県靑果物配給株式会社に対し昭和二一年七月二〇日大蔵省告示第五百八十一号に依つて指定せられた統制額を合計六十五万二千百五十一円五十銭超過した代金百四十八万三千四百三十四円で売渡し
第二、同年九月二一日頃及同月二八日頃の二回に亘り前同様のりんご普通品三千五百十五貫、高級品千二百八十五貫を買受先渡しで富山県高岡市所在株式會社高岡靑果市場に対し前記告示に依つて指定せられた統制額を合計八万八十五円六十銭超過した代金二十一万二千七百六十五円六十銭で売渡し
第三、同年九月二二日及同年十月九日頃の二回に亘り前同様のりんご普通品二千二百九十二貫、高級品千九百九貫を買受先渡しで大阪府北河内郡住道町所在大阪靑果物統制株式会社守口町支店住道営業所に対し前示告示に依つて指定せられた統制額を合計五万円超過した代金十七万八千六百九十九円で売渡し
第四、同年一〇月八日頃及同月二〇日頃の二回に亘り前同様のりんご普通品三千六百九十貫、高級品三百貫を買受先渡しで神奈川県大船靑果物荷受組合に対し前示告示に依つて指定せられた統制額を合計八万八千九百九円超過した代金十九万千五百五十四円で売渡し
第五、同年一〇月一三日頃前同様のりんご普通品千五百貫を買受先渡しで愛知県知多郡大府町所在大府靑果仲買人組合に対し前記告示に依つて指定せられた統制額を三万六千七百五十円超過した代金七万五千円で売渡し
第六、同年一〇月一一日頃より同月一四日迄の間三回に亘り前同様のりんご普通品四千七百三十五貫、高級品六百六十五貫を買受先渡しで福井県福井市所在福井県靑果物荷受組合に対し前記告示に依つて指定せられた統制額を十三万九千二百三十四円超過した代金二十八万円四千九百五十四円で売渡し
たものであつて、右は犯意継続して為されたものである。
(証拠説明省略)
法律に照すと被告人の判示所為は物価統制令第三条第四条第十一条第三十三条、昭和二一年七月二〇日大蔵省告示第五百八十一号昭和二二年法律第百二十四号附則第四項刑法第五十五条に該当するから所定刑中罰金刑を選択し其の金額範囲内で被告人を罰金五万円に処し右罰金を完納しないときは刑法第十八条に依り一日金百円の割合を以て被告人を労役場に留置すべく訴訟費用は刑事訴訟法第二百三十七条第一項に従ひ全部被告人をして之を負担せしめる弁護人は判示犯行後である昭和二二年一〇月二七日物価庁告示第二百二十九号を以て果実の販売価格の統制額指定の件が廃止され、右は刑事訴訟法第三百六十三条第二号に所謂犯罪後の法令に因り刑の廃止ありたるときに該当するから本件公訴事実に対しては免訴の言渡を為すべきものであると主張するけれども、物価統制令は其の第一条に規定する様に終戦後の事態に対処し物価の安定を確保し以て社会経済秩序を維持し国民生活の安定を図るを目的として制定されたもので、此の目的達成の為に同令は単に物価の統制に関する諸原則及之に違反した場合の罰則等を規定して居るに止まり、個々の品目に対する統制額は主務大臣等が隨時其の指定改廃を行ひ変転極りない社会経済状態に即応し得る事となつて居る。即ち物価統制令は所謂限時的暫行的性格を有する法規であつて斯かる法令に基き指定せられた統制額が其の後の事情の変更に依り廃止せられたとしても廃止以前の違反行為が処罰価値を失ふべきものでない事は該法令制定の目的に徴し明白であつて、昭和二二年四月五日の大審院刑事聯合部の判決も此の見解を表明して居る。従つて前記昭和二二年物価庁告示第二百二十九号の如きは刑事訴訟法第三百六十三条第二号に所謂法令により刑の廃止ありたる時に該当しないものと解するから弁護人の主張は之を採用しない。
仍て主文の様に判決したのである。(昭和二三年四月三〇日長野地方裁判所判決)