大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

長野地方裁判所 平成10年(わ)28号 1998年9月02日

本店所在地

長野県南安曇郡穂高町大字穂高一六九二番地

有限会社大王

(右代表者代表取締役 深澤沖正)

本籍及び住所

長野県南安曇郡穂高町大字穂高一六九二番地

会社役員

深澤沖正

昭和一三年五月一八日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官宮地裕美、同白濱清貴及び弁護人藤井嘉雄(被告人両名につき)各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人有限会社大王を罰金四〇〇〇万円に、被告人深澤沖正を懲役一年六月に処する。

被告人深澤沖正に対し、この裁判確定の日から四年間その刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。

理由

(犯罪事実)

被告人有限会社大王(以下「被告会社」という。)は、長野県南安曇郡穂高町大字穂高一六九二番地に本店を置き、わさびの観光農園を経営し、わさびの加工販売等を目的とする資本金五〇〇万円の有限会社であり、被告人深澤沖正は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人深澤は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、現金売上の一部を除外して、無記名の割引債券を購入し、これを自宅寝室内や自動車のトランク内などに隠匿する不正な方法により所得を秘匿した上

第一  平成五年三月一日から平成六年二月二八日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億九六八一万五四二〇円であったにもかかわらず、平成六年五月二日、長野県松本市城西二丁目一番二〇号所在の所轄松本税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四四三五万八五六八円で、これに対する法人税額が一五八七万四二五〇円(控除税額六四万〇三四三円を控除後の申告税額一五二三万三九〇〇円)である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額七二四〇万五二〇〇円と右申告税額との差額五七一七万一三〇〇円を免れ

第二  平成六年三月一日から平成七年二月二八日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億八三四六万六四九八円であったにもかかわらず、平成七年四月二八日、前記松本税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が五一八五万四五七三円で、これに対する法人税額が一八六八万五二五〇円(控除税額五五万六八〇六円を控除後の申告税額一八一二万八四〇〇円)である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額六七四八万二九〇〇円と右申告税額との差額四九三五万四五〇〇円を免れ

第三  平成七年三月一日から平成八年二月二九日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億一四三四万七八九九円であったにもかかわらず、平成八年四月三〇日、前記松本税務署において、同税務署長に対し、欠損金額が一二七四万四七三九円であり、これに対する法人税額がない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額四一八〇万七三〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

なお、括弧内の甲乙の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。

判示犯罪事実全部について

一  被告人深澤の当公判廷における供述

一  被告人深澤の検察官に対する各供述調書(乙一、二)

一  深澤幸子(甲一〇)、深澤満寿美(甲一一)の検察官に対する各供述調書

一  那須敏子(甲一二)、山崎ふみ子(甲一三、一四)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の有価証券調査書(甲一)

一  大蔵事務官作成の未払消費税調査書(甲二)

一  大蔵事務官作成の未払事業税調査書(甲三)

一  大蔵事務官作成の寄付金控除損金不算入額調査書(甲四)

一  大蔵事務官作成の申告欠損金調査書(甲五)

一  大蔵事務官作成の代表者勘定調査書(合計表)(甲六)

一  大蔵事務官作成の査察官報告書(甲七)

一  松本税務署長作成の「回答書」と題する書面(甲八)

一  検察事務官作成の電話聴取書(甲九)

一  長野地方法務局豊科出張所登記官作成の登記簿謄本(乙四)

(法令の適用)

被告人深澤の判示各行為は、いずれも法人税法一五九条一項に該当するところ、所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で、被告人深澤を懲役一年六月に処し、なお、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から四年間その刑の執行を猶予することとし、さらに、被告人深澤の判示各行為はいずれも被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社について法人税法一六四条一項により同法一五九条一項の罰金刑を科することとし、情状により同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により合算した金額の範囲内で、被告会社を罰金四〇〇〇万円に処し、訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条により被告人深澤及び被告会社に連帯して負担させることとする。

(量刑事情)

本件は、被告会社の代表取締役である被告人深澤が、被告会社の業務に関して、その法人税を免れるため、経理担当であった妻に指示するなどして被告会社の設置する売店における現金売上の一部を除外し、これをもって無記名の割引債券を購入して自宅寝室等に隠匿保管し、平成五年三月一日から平成八年二月二九日までの三事業年度分の法人税合計約一億四八三三万円を脱税したという事案である。

脱税行為は国の課税権に対する侵害であり、かつ、誠実な納税者を裏切る極めて反社会性の強い行為であるが、本件は、右のほうに起訴されただけでも期間が三年間に及び、売り上げ除外して隠匿した所得の合計が三億九八四一万円、脱税額の合計が一億四八三三万円という巨額なものである。しかも、脱税率も平成六年二月期分が七八・九パーセント、平成七年二月分が七三・一パーセント、平成八年二月分が一〇〇パーセントといずれも高率であって、誠実な納税者の税負担の公平感を大きく損ない申告納税制度の根幹を揺るがしかねない悪質な犯行である。売上除外の方法は、前記売店での現金売上の中から、その日の売上の約一割を目安に現金を抜いたというものであるが、実際には右以上の割合に及んでおり、さらに脱税の発覚を防ぐためわざわざ自宅から遠く離れた金融機関まで出向いて無記名の割引債券を購入し、これを自宅寝室内や自動車のトランク内に隠匿するというもので、計画的かつ巧妙であって、その態様も芳しくない。なお、被告人深澤は、被告会社の営業の基礎であるわさびの栽培がわさび畑周辺の自然環境の変化により将来立ち行かなくなるのではないかと危惧し、そのための準備をしておきたかった、また、より具体的には、わさび栽培のために不可欠な湧水を確保するため、犀川に「帯溝」と称される設備を施すために必要な資金を確保しておきたかったと述べるが、仮にそのようなことを考えたとしても、なんら脱税行為を正当化できるものではないことはいうまでもない。

さらに、被告会社は、昭和五五年一二月にも、経理責任者であった被告人深澤の実母が本件と全く同様の方法により法人税を脱税して、法人税法違反の罪で罰金八〇〇万円に処せられているところ、被告人深澤も、当時被告会社の代表者として裁判を受け、脱税の違法性について十分認識する機会を与えられたのに、昭和六〇年ころ、右実母から脱税行為を再開していることを知らされたときにこれを止めさせることをせず、その後かえってこれを引き継いで、売上金を抜き取ることを妻に指示するなどして自ら積極的に本件犯行に及んでいるのであって、担税の自覚に欠けるところ顕著であるというほかない。

被告人深澤及び被告会社の刑事責任はいずれも重い。

他方、被告人深澤は事実を認め反省の態度を示しており、被告会社では、本件で脱税した法人税及びその重加算税、延滞税のほかに、未払消費税及びその延滞税、重加算税を全て納付していること、今後このような行為が起きないよう被告会社の経理事務手続の改善をしていること、被告人深澤には前科前歴がないことなど、それぞれ有利なあるいは酌むべき事情もある。

そこで、以上のような一切の事情を総合勘案して、被告会社及び被告人深澤に対して主文掲記の各刑を定め、被告人深澤に対する刑の執行を猶予し社会内で更正する機会を与えることとする。

(求刑 被告会社につき罰金四〇〇〇万円、被告人深澤につき懲役一年六月)

(裁判長裁判官 立花俊德 裁判官 佐藤真弘 裁判官 片野正樹)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例