長野地方裁判所 平成12年(ワ)393号 判決 2002年12月27日
原告
社団法人日本音楽著作権協会
同代表者理事
吉田茂
同訴訟代理人弁護士
中山修
同
神田英子
同訴訟復代理人弁護士
安藤雅樹
被告
ふるさと村株式会社
同代表者代表取締役
甲山太郎
被告
株式会社オンセン
同代表者代表取締役
甲山一郎
被告
甲山太郎
同
甲山一郎
被告人ら訴訟代理人弁護士
新井重明
主文
1 被告株式会社オンセンは,別紙店舗目録記載の店舗において,別添「カラオケ楽曲リスト」記載の音楽著作物を,次の方法により使用してはならない。
(1) カラオケ装置を操作し又は顧客に操作させて,伴奏音楽を再生(演奏)すること
(2) カラオケ装置を操作し又は顧客に操作させて,カラオケ用のレーザーディスクに収録されている伴奏音楽及び歌詞の文字表示を再生(上映)すること
(3) カラオケ装置を操作し又は顧客に操作させて,伴奏音楽に合わせて顧客に歌唱(演奏)させること
2 被告株式会社オンセンは,別紙物件目録記載のカラオケ関連機器を別紙店舗目録記載の店舗内から撤去せよ。
3 被告ふるさと村株式会社,被告株式会社オンセン,被告甲山太郎及び被告甲山一郎は,連帯して原告に対し,753万1490円及び内653万1490円に対する別紙遅延損害金目録1記載の金員を支払え。
4 被告株式会社オンセン及び被告甲山一郎は,連帯して原告に対し,
(1) 99万5900円及び別紙遅延損害金目録2記載の金員を支払え。
(2) 平成12年10月1日から,別紙店舗目録記載の店舗における別添カラオケ楽曲リスト記載の音楽著作物の使用停止に至るまで,1か月あたり10万3950円の割合による金員を支払え。
5 原告のその余の請求を棄却する。
6 訴訟費用は被告らの負担とする。
7 この判決は第1項ないし第4項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 主文第1項,第2項及び第4項と同旨
2 被告ふるさと村株式会社,被告株式会社オンセン,被告甲山太郎及び被告甲山一郎は,連帯して原告に対し,803万1490円及び内653万1490円に対する別紙遅延損害金目録1記載の金員を支払え。
3 仮執行宣言
第2 事案の概要
1 本件事案の要旨及び争点
本件は,音楽著作権仲介団体であり,内外国音楽著作物の管理等を行う原告が,長野県飯田市内の店舗において開店以来現在まで原告と音楽著作物の利用許諾契約を締結することなく音楽著作物を利用して営業しているカラオケボックス(別紙店舗目録記載の店舗。以下「本件店舗」という)における著作権侵害行為に関し,①被告ふるさと村株式会社(以下「被告ふるさと村」という)に対しては,同被告が開店から平成11年12月13日まで本件店舗を営業していたと主張して著作権侵害による不法行為に基づく損害賠償ないし不当利得の返還を,②被告株式会社オンセン(以下「被告オンセン」という)に対しては,同被告が本件店舖を被告ふるさと村から譲り受けて営業していると主張して著作権法112条1項に基づき著作権侵害行為の差止及び同条2項に基づき同侵害行為に供されたカラオケ関連機器の撤去を求めるとともに,被告オンセン自らが経営している期間につき著作権侵害による不法行為に基づく損害賠償ないし不当利得の返還を,被告ふるさと村が経営していた期間についいては商法26条1項の商号使用者の責任に基づき①と同額の損害賠償ないし不当利得の返還を,③被告ふるさと村の代表取締役である被告甲山太郎及び平成11年4月までふるさと村の取締役であり,平成10年12月から現在まで被告オンセンの代表取締役である被告甲山一郎に対してはそれぞれ商法266条の3の取締役の責任に基づく損害賠償を,各請求する事案である。
これに対し①被告ら全員は,(ア)本件店舗の営業主体は平成11年12月13日までは乙川花子(以下「乙川」という)であって被告らに同期間の損害につき責任が発生する余地がない,(イ)原告の主張する損害額ないし不当利得額は理由がない,(ウ)時効により不法行為に基づく損害賠償債務は消滅している,②被告ふるさと村及び被告オンセン(以下,両被告を指して「被告会社ら」ということがある)は,(ア)不法行為に基づく損害賠償請求についての故意ないし過失がない,(イ)不当利得返還請求についての悪意もない,③被告オンセンは,自己がカラオケボックスの営業を開始する以前の著作物無断使用に対する損害賠償義務を負わない,④被告甲山太郎及び被告甲山一郎(以下,両被告を指して「被告甲山ら」ということがある)は,商法266条の3に規定する悪意又は重過失がない,と主張してこれを争う。
したがって本件の争点は,①平成11年12月13日以前におけるカラオケボックスの営業主体が被告ふるさと村と乙川のいずれだったのか,②損害額ないし不当利得の額,③消滅時効の成否,④本件店舗における著作権侵害行為に関し,被告会社らの故意又は過失の有無,若しくは被告会社らが悪意の受益者と認められるか否か,⑤被告オンセンの商法26条1項に基づく責任の有無,⑥被告甲山らに商法266条の3に規定する悪意又は重過失があったか否か,である。
2 判断の前提となる事実(証拠を掲記した事実以外は当事者間に争いがないか,弁論の全趣旨により容易に認定できる事実である)
(1) 当事者
ア 原告
原告は,「著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律」(昭和14年法律第67号)に基づく許可を受けた(平成13年10月1日以降は「著作権等管理事業法」に基づく登録を受けたものとみなされる。同法附則3条)我国唯一の音楽著作権仲介団体であり,内外国の音楽著作物の著作権者から,その著作権ないし支分権(演奏権・録音権・上映権等)の移転を受けるなどしてこれを管理し,国内の放送事業者をはじめ,レコード,映画,出版,興行,社交場,有線放送等各種の分野における音楽の利用者に対して音楽著作物の利用を許諾し,利用者から著作物使用料を徴収するとともに,これを著作権者に分配することを主たる目的とする社団法人である。
そして,別添カラオケ楽曲リスト記載の音楽著作物は,原告が信託的譲渡を受けて著作物を管理する音楽著作物(以下「管理著作物」という)である。
イ 被告及びその関係者
① 被告ふるさと村ないし乙川(営業主体がいずれであるかにつき争いがある)は,平成3年12月24日(以下,同日を指して「本件店舗開業日」ということがある)から平成11年12月13日まで,本件店舗において,カラオケ歌唱室(カラオケボックス)を営業していた。
② 被告オンセンは,上記営業終了日の翌日である平成11年12月14日(以下,同日を指して「本件店舗再開日」ということがある)から現在に至るまで,本件店舗において,カラオケ歌唱室を営業している。なお,被告オンセンは,本件店舗の営業を開始するに際し,本件店舗の設備類の一切を従前の経営者から譲り受け,備品等の新規購入をしていない。
③ 被告甲山太郎は,本件店舗開業日から現在に至るまで,被告ふるさと村の代表取締役である(甲24)。
④ 被告甲山一郎は,被告甲山太郎の息子であり,本件店舗開業日から平成10年4月30日まで,被告ふるさと村の取締役の地位にあったもので,かつ,平成10年12月8日から現在に至るまで,被告オンセンの代表取締役の地位にある(甲24)。
⑤ 乙川は,本件店舗開業日から平成12年4月30日まで,被告ふるさと村の取締役であった(甲24)。
(2) 本件店舗における音楽著作権侵害行為
本件店舗では,本件店舗開業日から現在に至るまで,以下のとおり原告の許諾を得ることなく別紙物件目録記載のカラオケ関連機器を使用して,公に,管理著作物を再生(演奏・上演)し,また,顧客に歌唱させている。
ア 本件店舗には,通信カラオケ装置及びレーザーディスクカラオケ装置によるカラオケ歌唱に使用される歌唱室が,本件店舗開業日である平成3年12月24日から平成11年12月13日まで10室(定員10名までが8室,定員10名を超え30名までが2室),本件店舗再開日である平成11年12月14日から現在に至るまで9室(定員10名までが7室,定員10名を超え30名までが2室)設置されている。
イ 本件店舗には,別紙物件目録記載のカラオケ関連機器,すなわちレーザーディスク,レーザーディスクプレーヤー,通信カラオケ装置一式(受信・再生・配信装置),リモコン装置等が,そのうち各歌唱室にはアンプ,コマンダー,モニターテレビ,マイク,スピーカー等が設置されている。
ウ 本件店舗では,従業員らが来店した顧客をカラオケ関連機器を設置した各歌唱室に案内し,顧客に飲食を提供するとともに前記カラオケ関連機器を操作させ,管理著作物を再生(演奏・上映)し,また,伴奏音楽に合わせて顧客に歌唱させている。
(3) カラオケ各歌唱室の使用料
ア 平成9年8月10日までは,昭和59年6月1日認可にかかる著作物使用料規程第2章第2節演奏等の3「演奏会以外の催物における演奏(7)その他の演奏」の規定に基づき定められた「カラオケ各歌唱室の使用料率表」により,カラオケボックスの使用料は,ビデオカラオケであれば,1部屋の定員が10名までの場合は1部屋月額4000円,1部屋の定員が10名を越え30名までの場合は1部屋月額8000円である(甲3,4)。
イ 平成9年8月11日に著作物使用料規程が文化庁によって一部変更認可され,同日施行された。同規程第2章第2節演奏等4「カラオケ施設における演奏等(1)」により,カラオケボックスにおける同日以降の著作物使用料は,標準単位料金が500円までであり,かつ1部屋の定員が10名までの場合は1部屋月額9000円,標準単位料金が500円までであり,かつ1部屋の定員が10名を超え30名までの場合は1部屋月額1万8000円となる(甲5)。
ウ 上記金額に消費税相当額(平成3年12月分から平成9年3月分までは3パーセント,平成9年4月分からは5パーセント)を加算した金額が使用料相当額となる。
エ 以上の基準により計算した本件店舗における使用料相当額は以下のとおりである(ただし,10円未満は切捨)。
(ア) 平成3年12月24日(本件店舗開業日)から平成11年12月13日までは,合計653万1490円
(イ) 平成11年12月14日(本件店舗再開日)から平成12年9月30日までは,合計99万5900円
(ウ) 平成12年10月1日以降の,1か月当たりの使用料相当額は,10万3950円(9000円×7室+1万8000円×2室=9万9000円に消費税5パーセントを加算した金額)
3 争点に関する当事者の主張
(1) 原告
ア 被告会社らに対する不法行為に基づく損害賠償請求
(ア) 本件店舗開業日から平成11年12月13日までの権利侵害行為の主体(本件店舗の経営主体)
被告ふるさと村は,平成4年1月15日,長野県カラオケ事業者協会に対し本件店舗の事業者として加盟し,本件店舗で働いていた川崎店長も,平成8年2月15日当時自己の雇用主を被告ふるさと村であると認識しており,また,本件店舗近くの電柱に設置された本件店舗の宣伝用看板には,「ふるさと村(株)」との社名及び被告ふるさと村名義の電話番号(「○○−○○○○」)が記載されており,さらに,被告ふるさと村が所有する自動車の車体には,本件店舗の宣伝文句が記載されているのであるから,本件店舗開業日から11年12月13日までの本件店舗の経営主体は,被告ふるさと村であって,乙川ではない。
(イ) 不法行為に関する故意・過失
カラオケ設備の代金やそのリース料の中に音楽著作物使用料が含まれていないことは常識に属することである。そして,原告は,本件店舗や被告ふるさと村宛に頻繁に文書による通知や警告をし,さらに原告職員が本件店舗を訪問して利用許諾契約の説明をしたり,被告ふるさと村本社宛に電話連絡をしているのであるから,被告会社らがカラオケ設備業者に毎月支払う割賦金とは別に,原告に対し著作物の使用許諾を求めたうえ使用料を支払うべき義務があることを十分認識していたことは明らかである。
(ウ) 損害の発生及び金額
本件店舗開業日である平成3年12月24日から平成11年12月13日まで被告ふるさと村が,本件店舗再開日である平成11年12月14日以降現在に至るまで被告オンセンが,本件店舗において原告の許諾を得ることなく別紙物件目録記載のカラオケ装置を使用して顧客に管理著作物を演奏,上映させ,著作権をそれぞれ侵害したことにより,原告は,少なくとも前記判断の前提となる事実(3)記載の使用料相当額の損害を被った(著作権法第114条2項)。
また,本件訴訟のための弁護士費用150万円も被告らが責任を負うべきである。
イ 被告会社らに対する不当利得返還請求
(ア) 利得者(本件店舗の経営主体)
前記ア(ア)に同じ
(イ) 利得及び損失
本件店舗において,被告ふるさと村は,平成3年12月24日開業以降平成11年12月13日まで,被告オンセンは平成11年12月14日再開以降現在に至るまで,原告の管理著作物を無断使用し続けているから,被告らは法律上の原因なく,著作物使用料の支払を免れて同額の利益を得ており,他方,原告はこれと同額の損失を被った。
(ウ) 被告会社らの悪意
前記ア(イ)に同じ。したがって,被告会社らは,悪意の受益者として民法704条により,受けた利益に利息を附して返還すべきである。
ウ 被告オンセンの商法26条1項に基づく責任
被告オンセンは,平成11年12月14日,被告ふるさと村から本件店舗に関する営業を譲り受け,本件店舗において「カラオケハウスモンビラージュ」という同一の名称(屋号)を続用してカラオケ歌唱室を営業をしている。また,被告オンセンは,被告ふるさと村が使用していた店舗建物および駐車場設備,料金設定等のノウハウ,従業員をほぼそのまま引き継いで営業しているのであるから,両者は到底別個の業務の開始とはいえず,両者の営業は継続性・共通性が認められる。このように営業に継続性・共通性が認められ,さらに屋号を続用しているときは,債権者は営業主の交替を知り得ないから,商法26条1項またはその類推により屋号続用人被告オンセンは自社が無許諾利用した分の使用料相当損害金だけでなく,被告ふるさと村の従前の債務についても連帯責任を負うべきである。
エ 被告ふるさと村の取締役たる被告甲山らの商法266条の3に基づく責任
被告甲山らは,本件店舗開業日以降平成11年12月13日まで,原告からの再三の注意,警告により,本件店舗における無許諾演奏の違法性を十分に知りながら,敢えて著作物利用許諾契約を締結せず,被告ふるさと村の著作権侵害行為を放置した。このような被告甲山らの対応は,会社が法令に従って適法に営業するよう監視すべき取締役としての義務に明らかに違反している。
また,万一,被告甲山らが,本件店舗における無許諾演奏が著作権侵害にあたることを知らなかったとすれば,それ自体において被告甲山らには重大な過失があるというべきである。
したがって,被告甲山らは,それぞれ取締役としての職務を行うにつき,適法に被告ふるさと村の業務が遂行されるよう監視すべき義務があったのにこれを怠り,かつこの点について故意又は重大な過失があったもので,これにより原告に対し,前記ア(ウ)記載のとおり損害を与えた。
オ 被告オンセンの取締役たる被告甲山一郎の商法266条の3に基づく責任
被告甲山一郎は,前記エのとおり本件店舗における無許諾演奏の違法性を十分知りながら,敢えて,若しくは重大な過失により著作物利用許諾契約を締結せず,被告オンセンの著作権侵害行為を放置した。
カ 結論
(ア) 原告は,著作権を侵害する被告オンセンに対し,著作権法112条に基づき,別紙物件目録記載のカラオケ装置を使用しての別添カラオケ楽曲リスト記載の音楽著作物の使用差止め,同カラオケ装置の別紙店舖目録記載の店舗内からの撤去を求める。
(イ) また,原告は,
a 被告ふるさと村に対し,不法行為に基づく損害賠償請求ないし不当利得返還請求として,
b 被告甲山らに対し,商法266条の3による損害賠償請求として,
c 被告オンセンに対し,商法26条1項による営業譲受人の責任の履行として,
前記判断の前提となる事実(3)エ(ア)記載の653万1590円及び弁護士費用150万円の合計金803万1490円並びに653万1590円に対する遅延損害金(起算日は著作権侵害行為のなされた月に応じて各月の各末日)の支払を求める。
(ウ) さらに,原告は,
a 被告オンセンに対し,不法行為に基づく損害賠償請求ないし不当利得返還請求として,
b 被告甲山一郎に対し,商法266条の3による損害賠償請求として,
前記判断の前提となる事実(3)エ(イ)記載の99万5900円及びこれに対する遅延損害金(起算日は著作権侵害行為のなされた月に応じて各月の各末日)並びに平成12年10月1日から別紙店舗目録記載の店舗における別添カラオケ楽曲リスト記載の音楽著作物の使用停止に至るまで,前記判断の前提となる事実(3)エ(ウ)記載の1か月あたり10万3950円の割合による使用料相当損害金の支払を求める。
(2) 被告らの主張(被告ら全員に共通する主張)
ア 本件店舗開業日から平成11年12月13日までの本件店舗の営業主体
本件店舗は平成11年12月までは乙川が個人として営業していたもので,被告ふるさと村は乙川の営業を補助していたに過ぎない。したがって,被告ふるさと村は原告の主張する期間において本件店舗を営業していたものではなく,著作権侵害の主体とはならない。
イ 損害額ないし不当利得額
原告主張の損害ないし利得の額は,原告が一方的に定めた使用料を基準とし,被告ら側の経済的基礎や事情を全く無視したもので,何ら根拠が無く,不当である。
ウ 不法行為に基づく損害賠償請求に関する故意・過失の有無,不当利得に関する悪意の有無
被告ふるさと村の代表者らは,カラオケ設備購入の際,割賦代金に使用料が含まれていると理解しており,購入時以外に使用料負担が課せられることは容易に理解できなかった。したがって,著作権侵害行為についての故意ないし過失はない。不当利得における悪意もない。
エ 消滅時効
原告の請求する不法行為に基づく損害賠償請求に対しては,消滅時効を援用する。
(3) 被告オンセン固有の主張(商法26条1項に基づく責任について)
平成11年12月,乙川は本件店舗の営業を廃止し,被告オンセンに本件建物の所有権を譲渡し,同被告が本件店舗の営業許可を取得した。原告の主張するカラオケ使用による損害は,まさにカラオケ使用によって発生するものであって施設利用そのものによるものではない。被告オンセンは,以前から存在する施設を利用しているに過ぎないから,自己が営業を開始する以前についてのカラオケ使用については責任を負わない。
被告オンセンが従前と変わらず使用しているのは店名であり,営業名義とは関係ない。営業主体が変わっても従前の店名を使用することは多々あり,このことが直ちに営業主体の責任に結びつくものではない。また,被告オンセンは従前のカラオケ専門営業から部屋貸しの営業内容に変更している。被告オンセンは,被告ふるさと村とも乙川個人とも別人格であり,カラオケ使用も乙川が廃業した後別途業務を開始したのである。したがって,原告の主張は失当である。
(4) 被告甲山らの固有の主張(商法266条の3の責任について)
被告甲山らには悪意も重過失も存しない。
また,前記のとおり,被告ふるさと村は本件店舗の営業主体ではなかったから,同被告の取締役である被告甲山らが商法266条の3に規定する責任を負うことは有り得ない。
第3 当裁判所の判断
1 被告オンセンに対する差止及び撤去請求については,同被告が原告との間で音楽著作物の利用許諾契約を締結することなく,本件店舗において,本件カラオケ関連機器を使用していることは当事者間に争いがないから,著作権法112条により,これを認容すべきである。
2 不当利得返還請求権の有無(不法行為に基づく損害賠償請求権については消滅時効の成否の判断を要するので,先に不当利得返還請求権の有無につき判断する)
(1) 平成3年12月24日(本件店舗開業日)から平成11年12月13日までの間における本件店舗の経営主体
ア 認定事実末尾記載の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 原告は,本件店舗の営業開始を知り,平成4年1月10日ころ,宛名を本件店舗の経営者として,「音楽をご使用になる場合の使用許諾契約と手続きのご案内」と題する書面を送付したところ(甲7の1),同年4月21日ころ,本件店舗の事業者が平成4年1月15日に長野県カラオケ事業者協会に加盟した旨,及び原告との間で使用許諾契約を締結するに当たっては音楽著作権使用料金を10パーセント割引されたい旨記載した加盟通知書が送付されてきたが,その通知書中の事業者の氏名欄には,「ふるさと村松本支店甲山太郎」と手書きされていた(甲12)。被告ふるさと村の代表者の氏名も「甲山太郎」である。
(イ) 原告は,被告ふるさと村に対し,平成4年6月9日ころ,「音楽著作物使用許諾申請手続きについて」と題する書面を(甲7の2),同年7月24日ころ,「音楽著作物使用許諾契約の締結について」と題する書面を(甲7の3の1・2),その後も,同年8月から同12年5月にかけて9回にわたって同趣旨の書面を送付し(甲7の4,7の5ないし8の各1・2,7の9,7の10及び11の各1ないし4,7の12の1ないし5),使用許諾契約を締結するよう求めたが,被告ふるさと村は,これらの書面の受取を拒否したものの,本件店舗の営業主体が同被告でなく乙川である旨の釈明をしたことはなかった(証人鹿野明律の証言)。
(ウ) 原告の職員鹿野明律(以下「鹿野」という)は,平成8年2月15日,本件店舗を訪れ,本件店舗の当時の店長川崎伸英(以下「川崎」という)に対し,音楽著作物利用許諾契約の締結を求めたところ,川崎は,「自分は単なる雇われ店長であるので,詳しい事情は分からない。本社の方に連絡して欲しい。」旨回答するとともに,「ふるさと村株式会社」「本社〒○○○ 東京都中野区弥生町<番地略>」と印刷された封筒(甲13)を鹿野に手渡した(甲19,証人鹿野明律の証言)。
(エ) 平成11年10月5日当時,本件店舗付近の電柱に,本件店舗の名前(「MonVillage(カラオケハウス)」)・営業時間(PM12時〜AM2時)・所在場所(「飯田市鼎一色」),電話番号(「○○−○○○○」)に並べて「ふるさと村(株)」と記載された宣伝用看板が設置されていた(甲9の1,甲14の1)。
同看板記載の設置を依頼した契約者は被告ふるさと村であり,昭和62年10月に契約が締結されている(甲18)。また,同看板記載の電話番号の電話加入権の名義は被告ふるさと村である(甲15)。
イ 上記認定事実によれば,本件店舗開業日である平成3年12月24日から平成11年12月13日までの間,本件店舗の経営主体は被告ふるさと村であったと認定することができる。
ウ なお,本件店舗は本件店舗開業日の直前である平成3年12月18日に建築されたものであるところ,乙川名義で保存登記がされているものではあるが,平成11年12月24日付けで真正な登記名義の回復を原因として乙川から被告ふるさと村に所有権移転仮登記がなされている(乙3)こと,乙川作成の平成12年7月19日付け自己破産申立書には,「以前勤務のふるさと村株式会社の所有物件(飯田市)に名義貸しで平成11年11月頃まで毎月約30万円の振込があり,(中略)平成11年11月頃で,その名義貸しの状況も清算された」旨記載されている(甲22)こと,乙川は本件店舗開業日から平成12年4月30日まで被告ふるさと村の取締役で,かつ代表者である被告甲山太郎と男女関係があって子供2人を設けている(被告甲山太郎の本人尋問の結果)ことなどに照らすと,上記保存登記の存在は,本件店舗の経営主体が乙川であったと推認させる事情に当たるということはできず,上記認定を覆すものではない。
また,本件店舗に関する飲食店営業許可は本件店舗建築円の翌日である平成3年12月19日付けで乙川に対してなされていることが認められるが(甲6の2),上記のとおりの乙川と被告ふるさと村及び被告甲山太郎との間の身分関係などに照らすと,乙川が被告ふるさと村に名義貸しをしたと強く推認できるものであって,飲食店営業許可名義の存在は,上記認定を覆すものではない。
さらに,被告らの主張に沿う証拠(乙17,18,訴え取下前の乙川の被告本人尋問の結果,被告甲山太郎の本人尋問の結果)は採用することができず,他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。
(2) 被告会社らの得た利得額及び原告の被った損失額
被告会社らが管理著作物を適法に再生し,あるいは顧客に歌唱させるには,著作権等管理事業者である原告の許諾を得た上で著作物使用料を支払わなければならないことは当然であるところ,被告会社らは,本件店舗での営業収入を得ていながら,原告の許諾を得ることを拒否して原告への支払を免れ,同額の利益を得たことになり,その反面,著作権等管理事業者である原告は,著作物使用料と同額の損害を被ったものということができる。したがって,被告会社らは原告に対し,著作物使用料相当額を不当利得として返還する義務がある。
そこで著作物使用料相当額を検討するに,原告の主張する著作物使用料は,適法に文化庁長官の認可を受けた著作物使用料規程に基づくものであるところ,著作物使用料規程に定める使用料が高額に過ぎるものと認めるに足りる証拠はないから,不当利得返還請求権の元本額に関する原告の主張は理由がある。
(3) 被告会社らの悪意の有無
上記認定事実のとおり,被告ふるさと村は,本件店舗開業後,長野県カラオケ事業者協会を通じて原告に加盟通知書を送付し,原告と音楽著作物利用許諾契約を締結する意向がある旨通知しておきながら,その後は一転して,原告からの契約締結を求める書面の受取さえも拒否してきたことからすると,原告から上記許諾を得ないまま本件店舗において音楽著作権侵害行為を継続してきたこと,すなわち法律上の原因なく不当利得してきたことにつき,同被告の悪意は明らかである。
また,被告オンセンについても,その代表者甲山一郎は被告ふるさと村の代表者甲山太郎の息子であり,かつ,本件店舗開業日から平成10年4月30日まで被告ふるさと村の取締役であったこと,さらに,原告が被告オンセンに対し,平成12年5月28日ころ,(1)ア(イ)記記の書面と同趣旨の書面を送付し(甲7の13の1ないし3),その後も,同年6月及び7月に同趣旨の書面を送付し(甲7の14の1ないし3,7の15の1ないし5),使用許諾契約を締結するよう求めたが,被告オンセンは,これに応ぜず,これらの書面の一部につき受取さえも拒否してきたことからすると,悪意を優に認定することができる。
被告会社らは,カラオケ関連機器購入の際,その購入代金に音楽著作物使用料が含まれていると理解していた旨の被告らの主張は,到底採用できない。
(4) 不当利得返還請求権の有無に関する結論
上記認定のとおりであり,原告の被告会社らに対する不当利得返還請求権に関する原告の主張は全て理由がある。
3 被告オンセンの商法26条1項に基づく責任の有無
(1) 認定事実末尾記載の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,この認定を左右するに足りる証拠はない。
ア 被告ふるさと村営業時である平成11年10月5日当時,本件店舗には10部屋のボックスが設置され,ボックスの「使用料」を「a〜g,j号室」について「1時間2500円」,「h〜i号室」について「1時間3000円」と設定されていたが,本件店舗再開後である平成12年5月29日当時は,j号室がなくなって本件店舗内設置のボックス数は9部屋となったものの,部屋の呼称方法(「a〜i号室」)や料金の設定方法(a〜g号室1時間2500円,h〜i号室1時間3000円)は同一であり,カラオケボックス内で軽食や飲み物が注文できるというシステムも変更がなく,本件店舗内で来客に領収書を交付する従業員も同一人である(甲8,9の1・2)。
イ 被告ふるさと村営業時である平成11年10月5日当時,本件店舗入口駐車場に設置されていた「Mon Village」と記載された大型看板及び本件店舗駐車場に置かれた中型看板は,本件店舗再開日である平成11年12月14日後も同一の状態で設置され続けており(甲14の1・2),本件店舗入口のガラス扉に書かれた店名表示及び本件店舗が客に発行する領収書に押すゴム印も被告ふるさと村営業時と被告オンセン営業時とで変更なく継続されている(甲9の1・2)。
(2) 上記認定事実のとおり,被告オンセンは,被告ふるさと村が使用していた店舗建物及び駐車場設備,料金設定等の営業上のノウハウ,従業員をほぼそのまま引き継いで営業していることに加え,営業開始に当たり新規の備品購入をしていないことなどに照らすと,被告会社ら両者の営業の間に継続性・共通性を肯定することができるものであって,被告オンセンは,被告ふるさと村から本件店舗に関する営業譲渡を受け,かつ,被告ふるさと村の屋号を続用しているということができる。この認定に反する被告オンセンの主張は採用できない。
(3) 商法26条1項が商号を続用する営業譲受人に弁済義務を負わせた趣旨は商号が続用される場合には,営業上の債権者は営業譲渡の事実を知らず譲受人を債務者と考えるか,知ったとしても譲受人による債務引受があったと考え,いずれにしても譲受人に対して請求をなし得ると信じ,営業譲渡人に対する債権保全措置を講じる機会を失するおそれが大きいことなどに鑑み,債権者を保護するところにあると解される。そうすると商号そのものではなくても,営業譲渡の前後を通じて営業の外形にほとんど変化がなく,屋号が商取引上当事者を特定する上で重要な機能を営んでいる場合において屋号を続用するときは,同条を類推して,営業譲受人が営業譲渡人の債務につき弁済すべき責任を負うと解するのが相当である。
(4) 上記認定のとおり,被告ふるさと村から被告オンセンに対する営業譲渡及び屋号続用の事実に加えて,営業譲渡の前後を通じて営業の外形にほとんど変化がない本件においては,商法26条1項の類推適用を認めるのが相当である。原告の主張は理由がある。
4 被告甲山らの商法266条の3に基づく責任の有無
株式会社が業務を行う場合,当該株式会社の取締役は,当該業務が適法になされるよう監視すべき職務上の注意義務を負うところ,上記認定のとおり,被告甲山らは,本件店舗において営業を適法に開始するためには,原告から音楽著作物利用許諾を得る必要があることを認識していながら,これを怠って本件店舗の営業を継続してきたのであるから,被告甲山らに商法266条の3所定の悪意又は重大なる過失があることは明らかである。
そして,原告は,被告会社らの権利侵害による不当利得金の支払を得ていないという損害を被っており,この損害と被告甲山らがその職務を行うについての悪意又は重大な過失との間に因果関係があることも肯定することができる。
なお,被告甲山一郎は,平成10年4月30日をもって被告ふるさと村の取締役を退任しているが,被告甲山一郎が①被告甲山太郎の息子であること,②被告ふるさと村の取締役であった当時に原告からの利用許諾契約締結の求めに対して強固な拒絶意思を示していたこと,③平成10年12月8日から被告オンセンの代表取締役であるところ,被告オンセンにおいても,原告との間の利用許諾契約締結を拒絶していることなどに照らすと,退任後は原告との間で利用許諾契約を締結すべきであるなどという意見を述べた事情が何ら認められない本件においては,被告ふるさと村にかかる平成11年12月13日までの損害金についても,責任を負わせるのが相当である。原告の主張は理由がある。
5 弁護士費用
本件事案に照らすと,原告の請求する被告ふるさと村営業期間中の損害653万1490円に関する弁護士費用として,100万円を被告らに負担させるのが相当である。
6 結論
よって主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官・佐藤公美,裁判官・杉本宏之,裁判官・遠藤光慶)
別紙
店舗目録<省略>
物件目録<省略>
遅延損害金目録<省略>