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長野地方裁判所 平成12年(行ウ)12号 判決 2004年3月19日

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告が平成12年8月24日付けでした,別紙物件目録の土地1及び同土地2に対する平成12年度固定資産課税台帳登録価格につき,原告の審査申出を棄却する旨の決定を取り消す。

第2事案の概要

1  事案の要旨及び争点

本件は,別紙物件目録記載の各土地に係る固定資産税の納税義務者である原告が,長野県駒ヶ根市長によって決定され,土地課税台帳に登録された上記各土地の平成12年度の価格について,審査申出をしたが,被告が同申出を棄却する決定をしたため,これを不服として同決定の取消しを求める事案である。

原告は,①上記価格は適正な時価を超えるものである,②上記審査申出の審理手続につき,(ア)駒ヶ根市の担当職員からの説明が欠缺している,(イ)対質手続を前提とした口頭審理手続きを取っていない,(ウ)原告が不服申立を特定するに足りる資料を開示していないから実体的にも手続的にも違法である旨主張するところ,被告はいずれもこれを争う。

したがって,本件の争点は,①駒ヶ根市長の決定した上記価格が適正な時価を超えているか否か,②審査申出に対する決定を取り消すべき手続上の違法があるか否か,である。

2  関係法規等の規定

(1)  土地に対して課する基準年度(本件では平成12年度である。)の固定資産税の課税標準は,当該固定資産の基準年度に係る賦課期日(当該年度の初日の属する年の1月1日。本件では平成12年1月1日である。)における価格,すなわち「適正な時価」で土地課税台帳等に登録されたものである(地方税法(以下単に「法」という。)359条,341条5号,349条1項。)。

(2)  法388条1項は,総務大臣(平成11年12月法律第160号による改正前は自治大臣)が,固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続を定め,これを告示しなければならないと規定している。

同項に基づき定められた固定資産評価基準は,主として市街地的形態を形成するに至らない地域における宅地については,「その他の宅地評価法」によって各筆の宅地について評点数を付設し,当該評点数を坪一点当たりの価額に乗じて各筆の宅地の価額を求める方法によるものとし,「その他の宅地評価法」は,①状況類似地区を区分するものとし,②状況類似地区ごとに標準宅地を選定するものとし,③標準宅地について,売買実例価額から評定する適正な時価に基づいて評点数を付設するものとし,④標準宅地の評点数に比準して,状況類似地区内の各筆の宅地の評点数を付設するものとしている(乙11p6ないし7)。

また,標準宅地の適正な時価を求める場合には,当分の間,基準年度の初日の属する年の前年の1月1日の地価公示価格及び不動産鑑定士等による鑑定評価から求められた価格等を活用することとされている(乙11p15)。

(3)  固定資産税の納税者は,固定資産課税台帳に登録された価格について不服がある場合には,固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができる(法432条1項)。この審査申出の審理は,書面によるが,審査申出人の求めがある場合には,固定資産評価審査委員会は,当該審査申出人に対し,口頭で意見を述べる機会を与えなければならない(法433条2項)。また,固定資産評価審査委員会は,必要がある場合においては,審査申出人及び市町村長の出席を求めて,公開による口頭審理を行うことができる(同条6項)。

(4)  固定資産審査評価委員会は,評価に必要な資料を所持する者に対し,その提出を求めることができ(法433条3項),固定資産審査評価委員会は,これにより提出を受けた資料を関係者の閲覧に供しなければならない(同条10項)と規定されている。

3  前提事実(証拠を掲記した事実以外は当事者間に争いがないか,当裁判所に顕著であるか,弁論の全趣旨により認定できる事実である。)

(1)  原告は,別紙物件目録の土地1(以下「本件土地1」という。)及び土地2(以下「本件土地2」という。また,両土地を合わせて「本件土地」という。)を所有している。

(2)  本件土地は,状況類似地区No.62(以下「本件状況類似地区」という。)に属している。本件状況類似地区の標準宅地(以下「本件標準宅地」という。)は駒ヶ根市・・・※である(甲25資料①,乙31)。

(3)  駒ヶ根市は,固定資産税評価を社団法人長野県不動産鑑定士協会に委託し,同会所属の不動産鑑定士Aが,前記2(2)の基準にのっとり,本件標準宅地の鑑定評価を行った(甲25添付資料①,証人B。以下「本件鑑定」という。)。本件鑑定においては,平成11年1月1日を価格基準時点として鑑定評価が行われ,本件標準宅地の鑑定評価額として1平方メートルあたり1万6500円の価格が求められた(甲25資料①,乙31)。

(4)  駒ヶ根市長は,本件鑑定に基づき,平成12年2月末日,法403条,410条等により,原告の納付すべき平成12年度の固定資産税の課税基準たる価格として,本件土地1につき90万9541円,本件土地2につき53万0223円の価格をそれぞれ決定し,法411条により直ちに駒ヶ根市備え付けの土地家屋課税台帳(名寄帳)に上記各価格(以下「本件土地登録価格」という。)を登録した。

(5)  原告は,同年4月10日,駒ヶ根市役所において,平成12年度土地家屋課税台帳(名寄帳)を縦覧し,同年5月19日,本件土地登録価格等について,書面をもって駒ヶ根市長及び被告に対し説明を求めた。

(6)  同年6月2日,駒ヶ根市税務課長及び同係長より口頭による説明がされた。

(7)  同月13日,原告は被告に対し,本件土地登録価格につき不服があるとして審査申出をした(以下「本件審査申出」という。)。

(8)  同年7月25日,被告は,平成12年度駒ヶ根市固定資産評価審査委員会を開催し,原告が口頭で意見を述べる機会を設けた(甲9)。

(9)  同年8月24日,被告は,本件審査申出を棄却する旨の決定をした。

(10)  同年9月2日ころ,原告は,上記決定を知った。

(11)  同年11月29日,原告は本件訴えを提起した。

第3争点に関する当事者の主張

1  被告

(1)  適正な時価に関する主張

ア 本件標準宅地の評価額は,本件鑑定と不動産鑑定士C作成にかかる鑑定評価書(甲19。以下「C鑑定」という。)とで,1平方メートル当たりわずか400円の違いに過ぎない。本件土地の価格についても,本件鑑定では1330万円である一方,C鑑定では1290万円で,わずか40万円の差に過ぎない。このような僅少な差が存在することによって本件鑑定が不当と判断されることはない。

イ 本件鑑定の正当性

(ア) 地域格差は,公示地等と対象地域の関係の変動等に従って対比率も異なってくる。本件では,対象地及び公示地等の存する地域は,共に別荘地域的要素も併存する地域であり,バブル崩壊以降における地価下落の影響を受けているが,下落幅は別荘地域性のより濃い公示地等の方が大きいから,結果として両地域間の地域格差が圧縮してきているものに過ぎない。

(イ) 不動産を取り巻く経済環境等の変化に伴い,鑑定評価手法自体もこれに合致させるべく収益価格の再評価と見直しが行われており,より精緻な収益方式の適用を図っていることから想定建物の変更が付随して生じたものである。平成9年度は対象地そのものにおける賃貸を想定したために対象地上建物(平家建)に準じ,平成12年度は地域における標準的な価格を一旦求めるという評価手法を採用した故に賃貸住宅としてのより効率性の高い2階建て共同住宅を想定したものである。その結果除する地積も異なったもので,何ら不当なものではない。

ウ C鑑定の不当性

(ア) C鑑定における地域性把握は,山林原野地域を店舗等の立地する路線商業地域としたり,農地と農家住宅を主体とする農村地域を店舗,事務所が多い既成商業地域とするなど,極めて不適切である。

(イ) また,C鑑定は,取引事例価格(2万4050円,2万4200円,2万7300円)と比準価格(1万7500円),鑑定評価額(1万6100円)との価格差が大きすぎ,取引事例の取引価格を,恣意的な地域格差率によって修正し,比準価格を算出している疑いがあり,不当である。

(ウ) 本件鑑定評価の価格時点は,平成11年1月1日であるが,C鑑定における取引事例のうち2例は同日以降の取引にかかるものであり,鑑定評価としての妥当性に欠ける。

(2)  手続面の主張について

ア 原告に対して駒ヶ根市税務課職員がした説明内容

(ア) 平成12年4月10日

D係長は,原告に平成12年度土地家屋課税台帳の写しを交付し,その内容の説明をし,原告から質問と資料請求があったので次回までに用意すると回答しただけである。同日「税額の求め方」について説明をした事実はない。

(イ) 平成12年4月24日

駒ヶ根市税務課職員は,原告に対し,「税額の求め方」について説明をした。

(ウ) 平成12年5月19日付書面

乙4号証で回答している。

(エ) 平成12年6月2日

駒ヶ根市税務課の担当職員が,原告に対し,「不動産鑑定士による補足意見」及び不動産鑑定書における「標準宅地価格評価の内訳書」の写し等を提示して必要な説明を行っている。

収益還元法等に関する具体的な算定手法についての質問に対しては,自治大臣が「不動産鑑定士による鑑定評価から求められた価格等を活用すること」と告示していることに基づくもので,市の一税務課職員がコメントできる立場にはない。

(オ) 駒ヶ根市長は,同年7月18日付で原告に「固定資産評価審査申出に対する説明書」を送付し,その中で「(収益還元法における)標準地純収益算定内訳書」等により,登録価格が値上がりしている根拠,計算根拠を説明している。

イ 対質手続を前提とした口頭審理の要否

(ア) 被告は,平成12年7月25日に行われた原告の意見陳述の内容から,原告に対して駒ヶ根市税務課職員による説明を行わせること,同年8月15日までの間にその機会を設けることを考えたが,同年7月27日,原告から被告に対して,「反論書は税務課職員の説明を聞く必要もないので,すぐに書いて提出する。」との電話連絡があり,同月31日付けで反論書が提出されたのである。したがって,原告は自ら説明を受ける機会を放棄したものである。同年6月13日以降,駒ヶ根市税務課職員が原告に対して説明をしていないのは,原告自ら「税務課の説明を聞くまでもない」と説明の機会を放棄したからである。

(イ) 法433条2項は,口頭で意見を述べる機会を与えることを義務づけているのみで,同条6項は審査のために必要がある場合にのみ,公開による口頭審理を行うことができると定めているに過ぎない。また,平成12年7月25日,原告が被告に対して口頭審理を行う必要があることを主張したことはない。したがって,口頭審理を実施する必要はない。被告が口頭審理手続を行わなかったのは,審査のために必要があると判断しなかったためであり,法433条6項の趣旨に基いて適正に対処したものである。

(ウ) また,被告は以下のとおり慎重に審理しているから,手続上瑕疵はない。

a 平成12年7月14日に第1回固定資産評価審査委員会を開催して本件を審査

b 同月25日に原告の意見陳述の機会を設け,現況地目の判断が適切でないことを理由とする審査の申出に対し現地調査を行い,引き続き第2回固定資産評価審査委員会を開催して本件を審査

c 同年8月24日に第3回固定資産表審査委員会を開催して本件を審査

ウ 資料開示について

(ア) 駒ヶ根市固定資産評価審査委員会条例6条2項に規定する「必要と認める資料」を判断するのは,審査委員会であって原告ではない。被告は,駒ヶ根市長から弁明書(乙6)と共に提出された「固定資産評価審査申出に対する説明書」(乙7)が原告の質問事項に対して,個別的に説明され,かつ資料も添付して具体的に説明されており,この資料を上記「必要と認める資料」と判断したもので,何ら違法な点はない。

(イ) 駒ヶ根市役所においては,税務課窓口において,「固定資産税のしおり」(乙14ないし18)という雑誌を常備し,自由な持ち帰りを認め,固定資産税の概略,意味,納税対象者,対象となる資産,税額算定のあらまし,課税の手順と方法,根拠,固定資産税の価格にかかる不服審査の概要,固定資産税の試算等を積極的に周知徹底している。また,平成12年においては,「市報こまがね・No799号」(乙12)において,評価替えに係る特集記事を掲載している。

(ウ) 被告は,個人のプライバシーの保護,並びに公務員の守秘義務の観点から個人のプライバシーに関わる具体的,個別的な事実に限定して標準宅地価格評価の内訳書等において空欄部分のある処理を行ったに過ぎず,取引事例比較法による評価の具体的な計算過程や根拠は,空欄処理のない前記「(収益還元法における)標準地純収益算定内訳書」等で原告の反論書提出期限前に開示している。また,空欄処理をどの箇所に施すかは,自治省(現総務省)の見解を受けて,長野県地方課が作成し,各市町村に通達した取扱手続にしたがったもので,適法である。したがって,原告は不服事由を特定するために必要と認められる合理的な情報を入手できなったことにはならない。

(エ) 平成9年度の内訳書が空欄処理されていなかったのは,自治省税務局資産評価室監修の「平成9年基準年度評価替え質疑応答集ー土地編」によるべきプライバシー保護の措置を怠ったに過ぎない。

(オ) 駒ヶ根市税務課職員が原告に平成12年6月2日に示した資料(乙4)中の地域格差欄において,100/132と明記されており,平成12年10月18日まで原告がこの数値を知らなかったことは有り得ない。

2  原告

(1)  適正な時価に関する主張

ア 総論

本件土地登録価格の基礎となった本件標準宅地の上限の評価額は,C鑑定のとおり,1290万円(1平方メートルあたり1万6100円)と評価されるべきであるから,本件標準宅地を1330万円(1平方メートルあたり1万6500円)と評価した本件鑑定は誤っており,これを基礎とする本件土地登録価格は適正な時価とはいえず,違法である。

イ 本件鑑定の不当性

(ア) 本件鑑定は,近隣の基準地価格が1平方メートル当たり2万6000円(平成7年7月1日)から2万3200円(平成10年7月1日)と3年間で10.8パーセント下落しているのに対し,標準宅地の対比では1平方メートル当たり1万6200円(平成8年1月1日)から1万6500円(平成11年1月1日)と3年間で1.9パーセント上昇している。上記の差異は,本件鑑定における基準地及び標準宅地が同一であるにもかかわらず,公示(基準)価格を基準(比準)とした価格の算定における地域格差が,平成9年度は100/159であるのに対し,平成12年度は100/132と大きく異なっていることに起因するところ,一般的要因,地域要因ともに下落しているにもかかわらず,標準宅地のみこれらの要因が値上がりしていることは不合理である。

(イ) 本件鑑定は,収益還元法によって得られた標準宅地の純収益の1平方メートル当たりの価格を算出する際に,平成9年度は標準宅地の実際の地積である806平方メートルで除しているのに対し,平成12年度は実際の地積とは異なる600平方メートルで除している。そもそも標準宅地の選定にあたっては,状況類似地区内での標準的な画地を選定しているはずであり,標準宅地の実際の地積と大きく異なる地積で計算することは,標準宅地の選定の妥当性を疑わせる事情で,本件鑑定は不当である。

ウ C鑑定の正当性

(ア) 地価公示価格並びに基準地の価格は,その地域(近隣地域)の標準的な画地の地価水準を示す物尺的な性格を有し,路線価並びに固定資産評価については,税の公平性(相続税,固定資産税)を重視し調整率(路線価は公示価格の80パーセント,固定資産税評価は公示価格の70パーセント)を適用しているが,これらの基礎となる標準価格を決めるにあたって過当評価の危険性を考慮し,より安定的な考え方から若干の安全率を考慮して価格を求め下限値を重視する方針で標準的価格が求められているが,C鑑定は,このような税の公平性の観点を考慮していないから,固定資産標準地価格としての上限値である。

(イ) C鑑定における,地域性の把握に関する「店舗等の立地する路線商業地域」との記載は,明らかな誤記であり,不適切な地域性の把握をしたものではない。

(ウ) C鑑定は,対象地区の的確,多数の事例の把握が困難な事情は存在したものの,恣意的な鑑定評価をしたものではない。C鑑定は,地域格差の判断についても,要因別格差率一覧表において,個別的に,街路条件,交通接近条件,環境条件,行政的条件等の不動産の価格に影響を及ぼす要因を分析しているのであり,このような個別要因を積み重ねることによって,むしろ恣意的な判断をしないように配慮している。

(エ) 不動産の鑑定については,本来,将来的な動向についても考慮の上,時点修正価格水準,諸条件等を的確に把握することが義務づけられているのであり,適正な時点修正が施されていれば,価格時点よりも後の取引事例を採用することは全く問題がないから,C鑑定が鑑定評価の価格時点である平成11年1月1日以降の取引事例を採用していることは全く問題がない。

(オ) したがって,被告のC鑑定に対する批判は全く理由がない。

エ 本件鑑定とC鑑定の評価額の差について

(ア) 本件鑑定とC鑑定における本件標準宅地の鑑定評価額の差は,1平方メートルあたり400円であるが,地積が大きくなれば差額も大きくなるのであり,僅差であるとして無視することはできない。

(イ) 確かに,鑑定評価額にある程度の幅があることは否めないが,合理的な理由が示せずに本来は下落させるべき評価額を上昇させていることは致命的な欠陥である。

(2)  手続上の違法性について

ア 原告が駒ヶ根市税務課職員から受けた説明内容は以下のとおりである。

(ア) 平成12年4月10日

原告は課税台帳の縦覧に市役所を訪れ,D係長が原告に平成12年度土地家屋課税台帳及び「税額の求め方」なる書面を示した。その際,原告は平成11年度から平成12年度にかけて評価額が上がっていることの説明を求めたところ,D係長は不動産鑑定価格の値上がりを理由として説明したが,鑑定価格自体は不動産鑑定士が行ったもので説明できないとの回答しかしなかった。

(イ) 平成12年4月24日

原告は,同日駒ヶ根市役所を訪問していないから,説明を受けていない。

(ウ) 平成12年5月19日付書面

原告は,駒ヶ根市長及び被告宛ての上記日付の書面により平成12年度の不動産鑑定価格が値上がりした理由等の説明を求めた(甲4)。これに対する回答(乙4ないし5)は,原告の質問に対する回答にはなっていない。

(エ) 平成12年6月2日

原告は駒ヶ根市税務課担当職員から,「原告さんの質問に対する説明書」及び「平成12年度固定資産課税評価替えに関わる標準宅地の鑑定評価に関する補足意見について」の書面を交付され,別紙として①標準宅地価格評価の内訳(その1),②標準宅地価格評価の内訳(その2),③標準地純収益算定内訳書(直接法),④未収入期間を考慮した修正率表,⑤標準宅地価格評価の内訳(平成9年度)を示された。原告は,⑤(平成9年度のもの)には空欄部分が無いにもかかわらず,①(平成12年度のもの)には取引事例比較法欄に空欄部分があること,収益還元法に関しても,平成9年度と平成12年度で,標準宅地の総収益から標準的画地の総収益に変更されていること,1平方メートルあたりの総収益を計算する際の除数が異なっていること,「平成12年度固定資産課税評価替に係わる鑑定評価に関する補足意見について」の書面の作成者等についての質問をしたが,駒ヶ根市税務課担当職員から合理的な回答が得られなかった。

イ 駒ヶ根市税務課職員からの説明の要否,対質手続を前提とした口頭審理の要否

(ア) 原告は,平成12年7月25日の意見陳述の機会において,駒ヶ根市税務課職員からの説明を聞かなければ十分な反論ができないと述べており,被告は,駒ヶ根市税務課職員から原告に対する説明が必要であると自ら認めておきながら,平成12年6月13日の本件審査申出以降は税務課職員から原告が説明を受ける機会を一切設けておらず,その措置を怠っており,本件審理手続きには重大な瑕疵がある。

(イ) 法433条6項によれば,「固定資産評価審査委員会は,審査のために必要がある場合においては,第2項の規定にかかわらず,審査を申し出たもの及び市町村長の出席を求めて,公開による口頭審理を行うことができる」と定めている。本件土地の登録価格は過大であり,登録価格が値上がりしている根拠が不明であるから,その具体的な決定理由及び計算根拠を明らかにするためには,税務課職員が同席している場所において口頭審理をする必要がある。原告は,平成12年7月25日,被告に対し,上記主張をし,被告も上記必要性を認めて,原告が税務課職員から説明を受ける機会を設けることを明言していた。かかる事情の下では,口頭審理手続きを行わず,原告が税務課職員からの説明を受ける機会及び十分な反論の機会を与えずに,口頭で意見を述べる機会をわずか1回設けたのみで一方的に審理を打ち切った審理手続には裁量権を逸脱した重大な瑕疵がある。

(ウ) 駒ヶ根市固定資産評価審査委員会条例によれば,口頭審理にあたり必要があると認められる場合においては,関係者相互の対質を求めることが出来るとされている(同条例8条3項)ところ,原告は口頭審理手続及び税務課職員等の関係者の同手続への出席を求め,説明を聞かなければ十分な反論が出来ないことを述べていたし,被告もかかる機会を設けることを明言したにもかかわらず,対質を実現せず,原告に十分な反論の機会を与えないまま審理を打ち切った。上記の審理手続には審理制度の趣旨を没却する重大な瑕疵がある。

(エ) 原告は,被告から説明を受ける機会を放棄したことはない。被告が原告による放棄があったと主張する平成12年7月27日の電話の内容は,被告の電話応対者林が具体的な説明期日の指定等の話をしなかったため,反論書の提出は説明を前提とせずに提出することを伝えたに過ぎない。原告は,被告から説明を受けた後にさらなる反論を予定していたものである。同日以降も,原告は税務課職員からの説明を求め,口頭審理を要求している。

ウ 資料開示の要否及び有無について

(ア) 納税者が固定資産課税台帳の登録価格に対する不服事由を具体的に特定するために必要な評価の手法,方法,根拠等に関する資料・情報は,全て評価権者である市町村長の手中にあるから,公平の見地から,固定資産評価審査委員会は,自らまたは市町村長を通じて,審査申出人が不服事由を特定して主張するために必要と認められる合理的な範囲で評価の手順,方法,根拠等を知らせる措置を講じなければならない。

(イ) 原告が本件審査申出をしてから,被告は,弁明書等の書面を原告に郵送するのみで,その余は何らの措置も講じていない。被告から郵送された固定資産評価審査申出に対する弁明書(乙6)の内容は,一般的な不動産鑑定方法及び不動産鑑定士が鑑定評価した価格は,適正かつ妥当であるとの認識を述べるのみであり,何ら原告の具体的な審査申出事項について回答していない。また,鑑定評価書の内容についての説明書(乙7)も,一般的な説明に終始しており,原告の具体的な質問に対して具体的な説明をしていないから,原告が具体的な不服事由を特定することはできない。

(ウ) 原告は,被告に対し,固定資産評価額が平成9年度の評価と比較して上昇していることを理由として本件審査申出をしているのであるから,原告が不服事由を特定するためには,空欄部分のない平成12年度の鑑定評価書のみならず,平成9年度の鑑定評価書が開示されなければ,具体的に評価のどの部分で異なっているのかを比較検討することができなかった。しかし,被告は,原告に対し,平成9年度の標準宅地価格評価の内訳なる書面しか開示せず,固定資産評価額の具体的な算出過程が記載された鑑定評価書の呈示を拒み,あるいは原告からの具体的な質問に対し不十分な回答をしたのみであったため,原告は,具体的な不服事由を特定して主張することができず,十分な主張及び反論をする機会を奪われた。

(エ) 駒ヶ根市がとった措置は,いずれも一般的に駒ヶ根市が行っている広報活動であり,具体的に原告が本件審査申出をしている場合には,具体的な審査申出の事項に沿って,不服事由を特定して主張するために必要な措置を取らなければならない。なお,原告は「固定資産税のしおり」も,「市報こまがね・No.799」も読んでいない。さらに,原告の経歴によって被告が果たすべき了知義務の範囲が変化することはない。

(オ) 法433条10項は,「固定資産評価審査委員会は,第3項の規定によって提出させた資料又は前項の記録を保存し,その定めるところによって,これを関係者の閲覧に供しなければならない。」と規定し,また,駒ヶ根市固定資産評価審査委員会条例6条2項は,「委員会は,弁明書の提出があった場合においては,審査申出人に対しその副本及び必要と認める資料の概要を記載した文書を送付しなければならない。」と規定している。

したがって,被告は,具体的には,空欄部分の存しない標準宅地価格評価の内訳書等の全面開示,取引事例比較法,収益還元法による評価の具体的な計算過程,計算根拠の説明をすべきであった。

原告は,本件固定資産評価審査決定がされた後の平成12年10月18日に,空欄部分のない平成12年度鑑定評価書及び平成9年度の残りの部分の鑑定評価書を目にしたもので,この時に初めて地域格差が平成9年度の100/159から平成12年度の100/132と大きく異なって判断されていることを知ったものである。駒ヶ根市固定資産評価審査委員会条例6条2項に反し,被告は,原告に対し,弁明書の副本を送付する際に,資料の概要を記載した文書を送付していない。原告が再三にわたり空欄部分のない鑑定評価書の閲覧又は開示を要求したにもかかわらず,これに応じなかった被告の対応は,知る権利を侵害し,違憲・違法である。

不動産鑑定士は,鑑定評価書を作成する際,取引事例の表示は所在までとし,地番表示はしないから,空欄処理を施さなくてもプライバシー権は保護されるにもかかわらず,被告は,取引時点,取引価格,事情補正,時点修正,建付減価の補正,事例地の個別的要因の標準化補正,地域格差というプライバシー保護に役立たない部分に付き空欄処理をしており,違法である。

第4当裁判所の判断

1  適正な時価について

(1)  法349条1項にいう基準年度の価格は,適正な時価(法341条5号)でなければならないところ,適正な時価とは,正常な条件の下に成立する当該土地の取引価格,すなわち客観的な交換価値をいい,土地課税台帳等に登録された価格が賦課期日における当該土地の客観的な交換価値を上回れば,当該価格の決定は違法となる(最高裁判所平成15年6月26日第一小法廷判決・民集57巻6号723頁)。

本件土地登録価格は,評点数に応じて計算されるもので,本件土地の評点数は標準宅地の適正な時価に基づいて付設された標準宅地の評点数に比準して付設されるのであるから,本件標準宅地の評価額が上記適正な時価を上回っていれば,本件土地登録価格が適正な時価を上回ることになる。したがって,本件標準宅地の価格が適正な時価を上回っているか否かにつき以下判断を加える。

(2)  本件鑑定について

ア 本件鑑定においては,取引事例比較法による比準価格を中心として(証人B),収益還元法による収益価格を関連づけ,最寄の地価公示価格又は県地価調査価格との基準価格等を斟酌の上,鑑定評価額が決定された。なお,駒ヶ根高原別荘地内に設定されている,本件標準宅地の最寄りの県地価調査地(駒ヶ根-5。本件鑑定当時は駒ヶ根-6。以下,同県地価調査地を指して単に「駒ヶ根-5」ということがある。)の1平方メートルあたりの価格は,平成10年7月1日時点で2万3200円,平成11年7月1日時点で2万1700円である(乙31)。

イ 取引事例比較法による比準価格を試算するに際し,本件状況類似地区内において,平成11年1月1日前後ころ,1坪あたり10万円(1平方メートルあたり3万円前後)以上の事例も複数存在したものの,本件状況類似地区が農村住宅地と別荘地が混在するものであることから,平成8年ないし平成10年の間に取り引きされた収集事例の中で比較的低位に位置するものを中心として本件鑑定評価がされた(証人B)。

ウ 上記のとおり,本件鑑定は,不動産の鑑定評価をするに際して通常の方法を用い,その中心となる取引事例比較法において,比較的低額の事例を選択して比準価格を算出しているから,取引事例から比準価格を算出する過程において,誤りのない限り,適正な時価を上回るものではないと推定することができる。

エ 平成11年1月1日時点の評価(1平方メートル当たり1万6500円。以下「今回評価」ということがある。)が平成8年1月1日時点の評価(1平方メートル当たり1万6200円。以下「前回評価」ということがある。)から上昇していることについて

本件状況類似地区は,別荘地,一般住宅地,農家住宅地等が混在する地域である(乙31)。県地価調査価格に関し,駒ヶ根-5は平成8年から11年にかけて,一貫して価格が下落していることが認められるが,一方で駒ヶ根市内の住宅地平均としては,平成8年から10年にかけて,一貫して上昇しており,平成10年から11年にかけて下落はしているものの,平成8年と比較すれば上昇していることも認められる(乙4添付の「平成12年度固定資産課税評価替に係わる標準宅地の鑑定評価に関する補足意見について」参照)。駒ヶ根-5は純然たる別荘地であり,近時,純然たる別荘地の地価下落率は大きいが(乙31p4),本件標準宅地の地域は,別荘地も介在するものの,駒ヶ根-5よりは農村地域に近い地域であるから(証人Bp15),同地の県地価調査価格が下落しているからといって直ちに本件標準宅地の価格が上昇していることが誤りであるとはいえない。

オ 本件標準宅地と駒ヶ根-5との地域格差が,前回評価時点と今回評価時点とで異なることについて上記のとおり,近時,純然たる別荘地の地価下落率は大きいのであるから,前回評価時点から今回評価時点までの間に,別荘地である駒ヶ根-5と,別荘地も介在するものの,駒ヶ根-5よりは農村地域に近い地域である本件標準宅地の地域との間の地域要因の格差が縮小していることは合理的であると認められる(乙31,証人Bp15)。したがって,地域格差が縮小していることから本件鑑定評価が誤っているということはできない。

カ 収益還元法について

収益還元法の適用により1平方メートルあたりの価格を算出する際に,前回評価においては,本件標準宅地の実際の地積(806平方メートル)で除しているのに対し,今回評価においては,これと異なる数値(600平方メートル)で除していることが認められる。しかしながら,前回評価と今回評価との間に,収益還元法の適用方法が変更され,前回評価においては,対象地そのものにおける賃貸を想定し,今回評価においては地域における標準的な価格を一旦求めるというように評価手法が変更されたことに起因しており,より適切な価格を算定するために収益還元法の評価手法が改められたものと認められるから,上記のとおり除数が異なることは本件鑑定評価の信頼性を疑わしめる事情ではない(乙7,31)。

キ その他,C鑑定(甲19)における取引事例1は,本件標準宅地及び本件土地のいずれからも約100メートル程度しか離れていないところ,その取引価格は1平方メートルあたり2万7300円であることからすると,本件鑑定における標準宅地の評価額が高すぎるとは認められない。

(3)  C鑑定について

ア C鑑定における取引事例1は,平成12年1月当時には,周辺に全く店舗のなかった(乙29p2),山林原野連坦の地域であるところ(乙32,証人Bp4ないし5),C鑑定には「店舗等の立地する路線商業地域」と記載されている。また,取引事例2は,実際には店舗等が全く見受けられない農村住宅地域であるところ(乙33,証人Bp6),C鑑定には「店舗,事務所等が多い既成商業地域」と記載されている(甲19別表6)。取引事例2と本件標準宅地を比較すると,前者の方が地域性が劣ることは明らかである(乙31,33)。

イ 山林原野よりも路線商業地域の方が,農村住宅地域よりも既存商業地域の方が,それぞれ1平方メートル当たりの価格が高いことは顕著な事実であるから,当該取引事例から標準宅地の価格を算出するにあたって用いるべき地域格差の数値が異なってくる。そうすると,C鑑定は,取引事例の地域性の把握を誤っていることにより,地域格差の数値が誤っている可能性があり,ひいては本件標準宅地の価格を不当に低く算出している可能性があると認められる。

ウ また,C鑑定は,取引事例1と本件標準宅地とは100メートル程度しか離れていないにもかかわらず,両地点間の地域格差を134パーセントとしており,道路条件の違いを考慮しても,地域格差の数値が大き過ぎて,本件標準宅地の価格が不当に低く算出されている可能性がある。

エ なお,C証人は,他の地域における鑑定評価書と混乱したために誤記が生じた旨述べるが(甲21),仮にそうだとしても,そのこと自体がC鑑定の信用性に疑いを差し挟む事情となるのであって,他の地域における鑑定評価書と混乱したことに起因する誤記が地域格差について影響している可能性を否定することは困難で,いずれにせよ,C鑑定が,本件鑑定と比較して,信用性が高いと認めることはできない。

(4)  価格に関する結論

以上のとおり,本件鑑定に誤りがあるとは認められず,C鑑定には信用性に疑問を差し挟む余地があるから,本件標準宅地の価格は本件鑑定のとおりであると認められるので,本件土地登録価格も適正な時価を超えるものではないと認められる。したがって,被告の主張は理由がある。

2  本件審査の手続上の違法の有無について

(1)  口頭審理及び対質手続の要否について

ア 法規の趣旨

法433条は,平成11年法律第15号による改正(以下,同法律による改正を「本件改正」という。)前は,2項において,「審査を申し出た者の申請があったときは,特別の事情がある場合を除き,口頭審理の手続によらなければならない」と規定していたところ,本件改正により,固定資産評価審査委員会に対し,審査申出人に口頭で意見を述べる機会を与えることを義務づけるにとどめ(本件改正後の同条2項),口頭審理を行う必要性を固定資産評価審査委員会の判断にかからしめていること(本件改正後の同条6項)に照らすと,本件改正後の地方税法は,口頭審理を実施するか否かについて,固定資産評価審査委員会の極めて広範な裁量に委ねているものと考えられる。

イ 証拠上明白に認められる手続経過

(ア) 平成12年7月17日,平成12年度第1回駒ヶ根市固定資産評価審査委員会が開催され,本件審査申出について,原告の意見陳述を聴く機会を設けることとされた(甲8)。

(イ) 同月18日,駒ヶ根市は,被告に対し,弁明書を提出した(甲10,乙6)。

(ウ) 同月25日,平成12年度第2回駒ヶ根市固定資産評価審査委員会が開催され,原告が口頭で意見陳述をした。また,反論書の提出期限が同年8月15日と決定されたが,原告は税務課の説明を聞かなければ反論書の提出はできないと述べたため,E審査長は,原告が税務課から説明を聞く機会を設ける旨述べた(甲9)。

(エ) 同年8月24日,平成12年度第3回駒ヶ根市固定資産評価審査委員会が開催され,審理の結果,本件審査申出を棄却する旨決定した(甲10)。

ウ 結論

イ記載の事実経過に照らすと,原告は口頭審理が実施されるとの期待を抱いた可能性が高いとは認められるが,ア記載のとおり,口頭審理を実施するか否かは被告の極めて広範な裁量に委ねられており,E審査長が一旦原告が駒ヶ根市税務課担当職員から説明を聞く機会を設ける旨述べたからといって口頭審理を実施することが被告に義務づけられると解することはできず,上記事実経過を前提としても,口頭審理を実施しないことが違法であるとまでは評価できない。また,対質手続は,口頭審理を行うことが前提の手続であるから,口頭審理を実施しないことが違法でない以上,対質手続を行わなかったこともまた違法と評価すべき余地はない。

したがって,原告の主張は失当である。

(2)  資料開示の要否及び有無について

ア 宅地の登録価格について審査の申出があった場合には,公平の見地から,固定資産評価審査委員会は,自ら又は市町村長を通じて,審査申出人が不服事由を特定して主張するために必要と認められる合理的な範囲で評価の手順,方法,根拠等を知らせる措置を講ずることが要請されているものと解すべきである(最高裁判所平成2年1月18日第一小法廷判決・民集44巻1号253頁参照)。

イ 当事者間に争いのない事実,証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

原告は,平成12年5月19日付けの書面(甲4)で,平成12年度の不動産鑑定評価が上昇した理由の説明を求め,これに対し,駒ヶ根市は,同年6月2日,原告に対し,「原告さんの質問に対する説明書」と題する書面(甲13,乙4)に別紙を添付して交付した。同別紙には,①本件標準宅地を1平方メートル当たり1万6500円と評価したこと,②本件標準宅地が,基本的な地域性としては農村住宅地域であり,農家住宅,一般住宅等を主体とした農村集落を中心として,その周辺等に別荘等も介在している状況にあること,③前回評価と比較して,今回評価は1.9パーセント価格が上昇しているが,その理由として,ⅰ特に山間地方部はバブル期の影響が少なく,バブル崩壊の反動としての地価下落もほとんど影響を受けずに推移しているところ,駒ヶ根市の一般住宅地価動向も同様であったこと,ⅱ平成8年から平成12年にかけての地価公示価格,平成8年から平成11年にかけての県地価調査価格の対前年比変動率の表を掲げた上で,平成10年までは微騰傾向にあって平成11年に至って漸く下落に転化していること,ⅲ本件状況類似地区内における取引地価水準も駒ヶ根市の一般住宅地価動向を指標として形成されている状況にあることを述べていることが記載されている。なお,原告は,平成9年度及び平成12年度双方の標準宅地価格評価の内訳と題する書面を受領したが(甲13),両書面を比較すると,平成9年度のものには空欄処理されていない部分につき,平成12年度のものには,空欄処理されている部分がある。

また,被告は,駒ヶ根市長が弁明書(乙6)と共に被告に提出した「固定資産評価審査申出に対する説明書の提出について」と題する書面(乙7)を原告に交付し,その中で収益還元法について説明をしている。

ウ 上記認定事実によれば,原告は,本件土地登録価格が平成9年度と比較して上昇していることにつき,不服事由を特定するに足りる評価の手順,方法,根拠等を知っていたと認められるのであるから,前掲最高裁判所平成2年1月18日第一小法廷判決の趣旨によれば,被告が上記不服事由を特定するに足りる評価の手順等を知らせる措置を講じたものと認めることができる。

エ 前記アの範囲を超えて資料等を開示することは,審査申出人の便宜を図る観点から望ましい場合がある一方で,個人のプライバシーの観点から被告には一定の守秘義務が課せられていると解すべきところ(乙7のうちの不動産評価の取扱について(メモ)参照),被告が原告に交付した平成12年度分につき空欄処理された部分は取引事例に関するものであるから(甲13),被告が一応守秘義務を負うと解すべき部分である。

なお,取引事例に付き,取引時点,取引価格については,これが明らかにされると,当該取引事例が特定されるおそれがある。一方,その余の点については,これを明らかにしても,当該取引事例を特定されるおそれはないか,あるいは極めて小さいと考えられ,空欄処理は適切ではないと認められる。しかしながら,これらの点が明らかにされている本件訴訟において,上記のとおり本件土地登録価格に誤りがあるとは認められないのであるから,これらの点が空欄処理されていることのみをもって,本件審査手続き全体を取り消すべき違法事由とまでは認められない。

オ 上記に照らすと,被告の措置が知る権利を害するものにはあたらないことも明白である。

カ 以上のとおり,原告の主張は失当である。

3  結論

したがって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民訴法61条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 辻次郎 裁判官 杉本宏之 裁判官 進藤光慶)

<編注:『※』部分は原文のとおり。>

別紙物件目録

1 土地1

(土地家屋課税台帳上の表示)

所在  駒ヶ根市・・・

地番  ・・・番・・・

地目(台帳)  原野

地目(現況)  宅地

課税地積  402.00平方メートル

2 土地2

(土地家屋課税台帳上の表示)

所在  駒ヶ根市・・・

地番  ・・・番・・・

地目(台帳)  宅地

地目(現況)  宅地

課税地積  234.35平方メートル

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