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長野地方裁判所 平成14年(行ウ)6号 判決 2002年11月08日

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  被告が原告に対し,平成14年1月8日付大町市議会13議第753号をもってした公文書の一部非公開処分(ただし,変更処分により一部変更された後のもの)を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

第2事案の概要

1  事案の要旨

本件は,原告が,被告に対し,大町市議会公文書公開条例(平成11年3月29日条例第14号。以下「本件公文書公開条例」という)に基づき,同市議会の常任委員会議事録等の公文書の公開を請求したのに対し,被告が原告に対してした一部非公開処分は違法であると主張して,同処分の取消しを求める事案である。

2  前提事実(証拠を掲記した事実以外は争いがない)

(1)  原告は,大町市の住民である。

(2)  本件公文書公開条例は,同条例に基づく公開請求の対象となる公文書(法令の規定等により議員及び議会事務局の職員が職務上作成し,又は取得した文書及び図画,マイクロフィルム,写真並びに磁気,電子等その他人の知覚によって,認識することができない方式で作られた記録であって,議決,調製,決裁又は供覧等の事案処理手続又はこれに準ずる手続が終了し,議会において現に保有しているもの。同条例2条1号)を,平成11年4月1日以後に作成し,又は取得した公文書と規定している(同条例附則2項。甲3の1)。

(3)  別紙一覧表アないしウの各文書は,いずれも昭和55年に作成された文書である。

(4)  原告は,被告に対し,平成13年12月13日,本件公文書公開条例5条に基づき,別紙一覧表アないしエの「本件文書公開請求」欄記載の各文書の公開請求をした(以下「本件文書公開請求」という)。

(5)  被告は,原告に対し,本件文書公開請求に関し,平成14年1月8日付大町市議会13議第753号をもって,別紙一覧表アないしエの「本件原処分」欄記載のとおり一部非公開処分をした(以下「本件原処分」という)。

(6)  原告は,被告に対し,平成14年1月15日,本件原処分を不服として,異議申立をした(以下「本件異議申立」という)。

(7)  被告は,原告に対し,平成14年2月12日付大町市議会13議第808号をもって,本件異議申立を棄却する旨の決定をした。しかし,同決定は,決定書の理由中において,本件原処分は本会議会議録までをも非公開とする趣旨ではないとして,別紙一覧表アないしウの「本件変更処分」欄記載のとおり本会議会議録を公開とし,その余の各文書(以下「本件各文書」という)を非公開とする旨説示し,事実上の一部変更処分をした(以下「本件変更処分」という。甲6)。

(8)  本件変更処分において,被告が本件各文書を非公開とした主たる理由は,①本件公文書公開条例附則2項により,本件各文書は公開対象ではないこと,②地方自治法115条の会議録の公開は本会議のみをさしており常任委員会等は含まれていないこと,③常任委員会等の会議録は要点筆記であり,正確性に欠け,公開すると誤解を生む恐れがあることである。

3  争点に関する当事者の主張

(1)  原告

本件公文書公開条例附則2項は,現に公文書整理がなされていない等の真にやむを得ない場合等極めて限定的に解釈されるべきであり,現に存在し公開可能な常任委員会等の会議録等を同条の規定により非公開とすることは,市民の公文書の公開を求める権利及び議会に対しこの権利を適正に保障されるよう努めるべき責務を定めた本件公文書公開条例1条及び3条に違反するもので違法である。

大町市議会会議規則(甲7の1)38条によると,会議に附する事件は常任委員会に付託して審査することとされているから,常任委員会における審議は地方自治法115条の会議公開原則の延長上にあるものである。常任委員会における審議を非公開とすることは同条に違反するもので違法である。

また,常任委員会等の会議録は数人の議会事務局職員が年間数千時間をかけて作成しているもので,正確性に欠けたり,公開すると誤解されたりする恐れはない。したがって,被告の本件原処分(ただし,本件変更処分により一部変更された後のもの)は全部違法である。

(2)  被告

被告は,本件公文書公開条例附則2項を適用して,本件各文書について非公開処分としたもので,何ら違法はない。

地方自治法115条が公開を規定しているのは本会議についてであって,委員会の会議の公開については,同法111条で各地方公共団体の裁量に委ねられている。大町市議会委員会条例(昭和35年12月26日条例第28号。甲7の2)は委員会を原則非公開とし,例外的に傍聴を許可できると定めている(同条例16条1項)。したがって,常任委員会等の会議録を非公開とすることは同法115条に違反するものではない。

第3当裁判所の判断

1  情報公開条例による情報の開示請求権は,憲法等の規定から直接導き出されるものではなく,あくまでも条例によって創設された権利であり,住民に権利を付与するか否か,付与するとしてその権利の内容をどのようなものにするかは,地方自治体がその制度の趣旨を考慮しながら自主的に決する性質のものであるから,具体的請求権は,これを定める当該条例の趣旨,文言によって決定されるものである。

しかるところ,本件公文書公開条例は,前提事実(2)記載のとおり,その附則2項において,同条例に基づく公開請求の対象となる公文書を,平成11年4月1日以降に作成し,又は取得した公文書に限定しているのであるから,本件各文書がいずれも昭和55年に作成されたものであることにつき争いのない本件においては,原告は本件各文書につき公開請求権を有しないことに帰する。原告は,上記附則2項は限定的に解釈されるべきであるなどと主張するが,同項の文言は一義的に明確であって,原告の主張を容れる余地はない。

なお,地方自治法115条1項本文は,本会議の公開を義務付けるにとどまり,常任委員会の公開を義務付けておらず,常任委員会の公開については何ら触れていないことからすると(同法109条ないし111条参照),これを公開するか否かは議会の裁量に委ねられているものと解されるところ,大町市議会委員会条例16条は,「委員会は議員のほか委員長の許可を得た者が傍聴することができる。」(同条1項),「委員長は,必要があると認めるときは,傍聴人の退場を命ずることができる。」(同条2項)と規定しており,常任委員会を原則非公開としている。したがって,この点に関する原告の主張も失当である。

2  結論

以上のとおりであり,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担に付き行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤公美 裁判官 杉本宏之 裁判官 進藤光慶)

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