長野地方裁判所 平成18年(行ウ)4号 判決 2008年2月22日
甲事件及び乙事件原告(以下「原告」という。)
甲野太郎
甲事件及び乙事件被告(以下「被告」という。)
松本市長
乙川一郎
同訴訟代理人弁護士
林一樹
主文
1 本件訴えのうち,被告が平成18年7月24日付けで学校法人長野A学園に対してした別紙1物件目録記載3の土地及び建物の平成16年度ないし平成18年度分都市計画税の免除措置の取消を求める部分の訴えを却下する。
2 被告が平成18年7月24日付けで学校法人長野A学園に対してした,別紙1物件目録記載3の土地及び建物の平成16年度ないし平成18年度分固定資産税の免除措置を取り消す。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は,甲事件及び乙事件を通じ,これを5分し,その1を被告の負担とし,その余は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
(甲事件)
1 被告が,学校法人長野A学園(以下「長野A学園」という。)及び在日本朝鮮人総連合会長野県本部(以下「朝鮮総連長野本部」という。)に対し,固定資産税及び都市計画税の賦課又は徴収を怠る事実が違法であることを確認する。
2 被告は,長野A学園に対し,3095万5000円の損害賠償請求をせよ。
(乙事件)
1 被告が平成18年7月24日付けで長野A学園に対してした別紙1物件目録記載3の土地及び建物の固定資産税及び都市計画税の免除措置を取り消す。
2 被告が,長野A学園に対し,別紙1物件目録記載1(1)及び(2)の土地並びに同記載2の建物の平成13年度分ないし平成15年度分の固定資産税及び都市計画税の賦課又は徴収を怠る事実が違法であることを確認する。
3 被告が,長野A学園に対し,別紙1物件目録記載1(1)及び(2)の土地並びに同記載2の建物のうち,同目録記載3を除く部分の平成16年度ないし平成18年度分の固定資産税及び都市計画税の賦課又は徴収を怠る事実が違法であることを確認する。
第2 事案の概要
本件は,長野県松本市民である原告が,松本市による長野A学園に対する補助金の交付が違法であるなどと主張して,被告に対し,長野A学園に3095万5000円(長野A学園に対して交付された学校校舎等建設費補助金2000万円及び平成12年度ないし平成17年度分のA学校運営費補助金合計1095万5000円の合計額相当額)の損害賠償請求をすることなどを求める(甲事件)とともに,長野A学園が所有する別紙1物件目録記載1(1)及び(2)の土地(両土地を併せて,以下「本件土地」という。)並びに同記載2の建物(以下「本件建物」という。)の固定資産税及び都市計画税が非課税となっていること又は免除されたことについて,被告に対し,固定資産税及び都市計画税の賦課又は徴収を怠る事実が違法であることの確認並びに被告が長野A学園に対してした別紙1物件目録記載3の土地及び建物(以下「本件減免対象不動産」という。)についての平成18年7月24日付けの固定資産税免除措置(以下「本件免除措置」という。)の取消等を求める(乙事件)事案である。
1 前提となる事実(当事者間に争いがないか,各事実の末尾に記載した証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。)
(1) 当事者等
原告は,長野県松本市の住民である。
長野A学園は,教育基本法及び学校教育法に従い,長野県下の朝鮮人子弟に対し,初等・中等普通教育に準ずる教育及び民族教育を施し,必要な教養を高める学校教育を行うことを目的とする学校法人である。長野A学園は,長野A初中級学校(以下「A学校」という。)を設置運営しており,小中学校に相当する教育を行う初中級部,幼稚園に相当する教育を行う幼稚部を設けている。(甲事件甲7,46の15ないし27,甲事件甲56,弁論の全趣旨)
長野A学園は,本件土地を平成10年4月30日に購入し所有している。また,長野A学園は,本件土地上に本件建物を建築し所有している(平成11年9月28日所有権保存登記)。(甲事件甲4ないし6)
本件建物の符号2の校舎(以下「本件校舎」という。)は,A学校の講堂,部室,資料室等として使用されていたが,平成15年6月以降,朝鮮総連長野本部が本件校舎内の部屋を使用するなどするようになった(甲事件甲22,54,甲事件丙10ないし13(枝番号を含む。),弁論の全趣旨)。
(2) 松本市市税条例(甲事件丙1。以下「本件条例」という。)
地方税法367条は,「市町村長は,天災その他特別の事情がある場合において固定資産税の減免を必要とすると認める者,貧困に因り生活のため公私の扶助を受ける者その他特別の事情がある者に限り,当該市町村の条例の定めるところにより,固定資産税の減免をすることができる。」と定めている。
これを受けて,本件条例65条1項は「市長は,次の各号の一に該当する固定資産のうち,市長において必要があると認めるものについては,その所有者に対して課する固定資産税を減免する。」と規定し,同項2号において「公益のために直接専用する固定資産(有料で使用するものを除く。)」を挙げている。
(3) 本件免除措置までの経緯
ア 本件土地及び本件建物については,直接教育の用に供する不動産であるとして固定資産税が非課税とされていたところ,原告は,平成18年2月10日,松本市監査委員に対し,長野A学園に対する固定資産税及び都市計画税の非課税措置,長野A学園に対する学校運営費補助金の支出が違法であるなどと主張して監査請求をした。松本市監査委員は,上記非課税措置について,本件校舎内に朝鮮総連長野本部の施設が所在するなどしており,A学校において直接教育の用に供する目的に使用されていないとして,被告に対し,本件校舎に係る固定資産税を課することを勧告し,その余の監査請求については棄却した。
被告は,松本市監査委員からの上記勧告を受け,本件校舎の使用状況について現地調査をした。その結果,本件校舎のうち,本件減免対象不動産につき,朝鮮総連長野本部関連の応接室,在日朝鮮人のための,生活相談室,北朝鮮訪問や海外渡航のための旅券発給申請手続窓口,税務相談,就職に関する紹介及び斡旋,経営上のサポートや資金相談,集会,交流を目的とした講演会並びに学習会のために使用されていること,日本人を対象としたA学校教師によるハングル語講座に使用されていることなどが確認された。
そこで,被告は,本件減免対象不動産が直接教育の用に供する目的で使用されていないと判断してこれに対し固定資産税を課税することとし,長野A学園に対し,平成18年6月20日付けで,本件減免対象不動産に係る平成16年度ないし平成18年度分の固定資産税の納付書を送付した。
(甲事件甲1,21,46の15ないし27,乙事件甲2)
イ 長野A学園は,平成18年7月3日,上記アで課税された平成16年度ないし平成18年度分の固定資産税の減免申請書を提出した。その申請の理由は,「在日朝鮮人の権益と生活を守るための相談集会施設としてまた地域住民との交流を図る施設として使用しているため」というものであった。
これに対し,被告は,同月24日,本件減免対象不動産が公民館及び集会所に準じた施設として使用されているため本件条例65条1項2号「公益のために直接専用する固定資産(有料で使用するものを除く。)」に該当するとして,本件免除措置をした。
(乙事件甲12,甲事件丙7ないし9(枝番号を含む。))
(4) 住民監査請求
ア 原告は,平成18年7月18日,松本市監査委員に対し,本件校舎のうち本件減免対象不動産部分を除く部分について固定資産税を非課税としていること,本件減免対象不動産について本件免除措置をしたこと,長野A学園に対して学校校舎等建設費補助金を支出したことが違法であるなどと主張して監査請求をした。
松本市監査委員は,本件免除措置について,本件減免対象不動産が公益のために直接専用する固定資産であると具体的に判断できる証拠が不足しているとし,被告に対し,本件校舎の使用状況等を詳細に調査して減免事由該当性を厳正に判断するように勧告し,その余の監査請求については却下ないし棄却した。
(甲事件甲21,乙事件甲11,乙事件丙1)
イ 松本市は,平成18年9月25日,同年11月6日及び同年12月5日に本件校舎の使用状況等について現地調査をし,以下の(ア)ないし(キ)のとおり確認した。そして,本件減免対象不動産は,在日朝鮮人相互の利益と福祉の増進を図るとともにその親睦を図るために使用されており,社会教育法20条に定められた目的に使用され,同法22条で定められた活動内容のほとんどが行われていることから,町会公民館に類した公益性を備えた施設としての条件を満たしているといえると判断し,本件免除措置は妥当であるとの判断を松本市監査委員に通知した。
(ア) 本件校舎は,A学校の特別室,部室,資料室,講堂などとして利用するために建設されたが,生徒数の減少に伴い,生徒の課外活動のほか,生徒の父兄,同胞,近隣の地区住民とのコミュニケーションの場として「朝鮮文化会館」と称し,主に在日朝鮮人により利用されている。
(イ) 本件校舎には,10名の職員がおり,主な業務内容は,朝鮮総連長野本部による在日朝鮮人擁護支援及び長野A学園支援,商工会による経済活動支援及び長野A学園支援,同窓会や父母会によるA学校運営支援である。
(ウ) 在日朝鮮人支援活動では,在日朝鮮人が市民生活をするなかで抱える問題についての相談に応じている。
(エ) 商工会関連事業では,在日朝鮮人が日本社会で暮らすための税務相談として,法人・個人の決算申告手続,会社設立や経営サポート,相続問題相談,資金相談,融資の斡旋,就職相談・斡旋をしている。
(オ) 同窓会事務では,A学校卒業生2名が常駐し,A学校のための名簿及び連絡網の作成,整備,課外授業の指導,教師の手配斡旋をしている。
(カ) 日本の青年団にあたる長野県青商会の事業として,学童クラブを設置し,A学校生徒確保のための就学前児童への催し,A学校支援のためのチャリティー活動をしている。
また,在日朝鮮人の文化,スポーツを通じた親睦を図るための活動をしている。
講堂が使用されていないときには,講堂を使用して,在日朝鮮人の会合や講演会の実施,長野A学園教師による日本人を対象としたハングル語講習会を行っている。
(キ) 多目的室は,長野A学園及び朝鮮総連長野本部の応接室として使用されており,テレビやカラオケセットが設置され,A学校の園児・児童と高齢の在日朝鮮人らとの交流の場として使用されている。
(甲事件甲22)
(5) その後の経過
ア 被告は,上記(4)イの調査の結果,本件校舎の3階部分(210㎡)は,講堂として児童生徒の総会や課外サークルの場として使用されており,空き時間に在日朝鮮人のための集会及び講演会や地域住民を対象としたハングル語講習会のために利用されていることから,直接教育の用に供されているといえるが,その余の部分については,直接教育の用に供されているとはいえないと判断した。そのため,上記(3)で課税対象とされた本件減免対象不動産よりも課税対象を拡大して,本件校舎のうち432.16㎡部分及び本件土地のうちその敷地に相当する部分(807.57㎡)を課税対象とすることとした。
そして,平成19年1月18日付けで,この課税対象部分について,平成16年度ないし平成18年度分の固定資産税の納付書を送付した。
(甲事件丙10ないし12(枝番号を含む。),弁論の全趣旨)
イ 平成19年1月29日付け免除措置
長野A学園は,平成19年1月25日,上記アで課税された平成16年度ないし平成18年度分の固定資産税の減免申請書を提出した。
これに対し,被告は,同月29日,上記固定資産税の課税対象とされた部分は,在日朝鮮人の権益と生活を守るための相談,集会施設,地域住民との交流を図る施設,長野A学園の同窓会活動の施設として公益的に使用されており本件条例65条1項2号「公益のために直接専用する固定資産(有料で使用するものを除く。)」に該当するとして,上記固定資産税を免除した。
(甲事件丙10ないし12(枝番号を含む。))
(6) 長野A学園に対する補助金の交付
ア A学校運営費補助金の交付
(ア) 私立高等学校運営費補助金交付要綱(甲事件丙3)
松本市は,補助金の交付について松本市補助金交付規則(甲事件丙2)を定めているが,私立高等学校に対する補助金の交付については,私立高等学校運営費補助金交付要綱(甲事件丙3)を定め,次のとおり補助対象及び補助金額等を定めている。
① 松本市内に設置された私立高等学校一校につき年70万円以内の定額補助をする。
② 松本市に住所を有する生徒が在学する高校の生徒一人につき年2700円以内の生徒数割補助をする。
(イ) 私立幼稚園運営補助金交付要綱(甲事件丙4)
また,松本市は,私立幼稚園に対する補助金の交付については,松本市補助金交付規則のほかに私立幼稚園運営補助金交付要綱(甲事件丙4)を定め,次のとおり補助対象及び補助金額等を定めている。
① 松本市内に設置された幼稚園一園当たり年70万円以内の定額補助をする。
② 松本市内に設置された幼稚園に在園する松本市内に住所を有する園児一人につき年2万7000円以内の園児数割補助をする。
(ウ) 長野A学園に対する運営費補助金の交付
A学校の初中級部及び幼稚部の各年度における児童数及び初中級部の生徒数は,別紙2の表の「児童生徒数割補助」欄中「人員」欄記載のとおり(なお,同表の「定額補助」欄中「小」とある列が初中級部を,「幼」とある列が幼稚部についての記載である。)である。
松本市は,A学校初中級部においては小中学校に相当する教育を,A学校幼稚部においては幼稚園に相当する教育をそれぞれ行っているものと判断し,A学校初中級部については私立高等学校運営費補助金交付要綱(上記(ア))を,A学校幼稚部については私立幼稚園運営補助金交付要綱(上記(イ))を,それぞれ準用することとし(なお,松本市においては,私立小中学校に対する運営費補助金の交付要綱が定められていないため,私立高等学校運営費補助金交付要綱を準用することとした。),これらの要綱に基づき,長野A学園に対して,A学校の運営費の補助金として,以下のとおり,補助金を交付した(各年度における補助金交付金額の内訳は,別紙2の表のとおりである)。
支払日
交付金額
平成12年度分
平成12年8月7日
182万0400円
平成13年度分
平成13年8月27日
184万8000円
平成14年度分
平成14年8月20日
183万3200円
平成15年度分
平成15年8月5日
180万3200円
平成16年度分
平成16年8月5日
184万2500円
平成17年度分
平成17年8月10日
180万7700円
(甲事件甲45の1ないし14,弁論の全趣旨)
イ 学校校舎等建設費補助金の交付
(ア) 松本市私立学校校舎等建築事業補助金交付要綱(甲事件丙5)
松本市は,松本市補助金交付規則(甲事件丙2)のほかに,松本市に学校を設置する学校法人が行う校舎等の建築事業に要する経費に対する補助金の交付について,松本市私立学校校舎等建築事業補助金交付要綱(甲事件丙5)を定め,次のとおり補助対象及び補助金額等を定めている。
① 学校教育法1条及び82条の2に規定する学校のうち高等学校,大学,専修学校の校舎及び体育館(講堂を含む。)の新築等に要する経費で市長が認めたものに対し補助金を交付する。
② 建築面積に建築単価を乗じて算出される額(国,県等から補助金を交付されている場合にはその額を控除した額)の10パーセント以内の額を補助金額とする。ただし,建築事業補助金の交付を受ける年度を含め過去5年度間内に建築事業補助金交付を受けていない場合には1000万円を上限とし,建築事業補助金交付を受けている場合には2000万円から既に交付を受けた補助金の金額を控除した額を上限とする(ただし,上限は1000万円)。
(イ) 私立幼稚園建設補助金交付要綱(甲事件丙6)
また,松本市は,松本市に幼稚園を建設する経費に対する補助金の交付について,松本市補助金交付規則のほかに,私立幼稚園建設補助金交付要綱(甲事件丙6)を定め,次のとおり補助対象及び補助金額等を定めている。
① 学校法人が設置する幼稚園の新築等に要する経費について補助金を交付する。
② 建築面積に建築単価を乗じて算出される額から国庫補助以外の特定財源を控除した額の3分の1以内の額を補助額とする。
(ウ) 長野A学園に対する学校校舎等建設費補助金の交付
松本市は,A学校初中級部においては小中学校に相当する教育を,A学校幼稚部においては幼稚園に相当する教育をそれぞれ行うものと判断し,A学校初中級部のための施設については松本市私立学校校舎等建築事業補助金交付要綱(上記(ア))を,A学校幼稚部のための施設については私立幼稚園建設補助金交付要綱(上記(イ))を,それぞれ準用することとした。なお,松本市においては,私立小中学校に対する建設費補助金の交付要綱が定められていないため,松本市私立学校校舎等建築事業補助金交付要綱を準用することとした。
そして,A学校初中級部のための施設建設の補助金を松本市私立学校校舎等建築事業補助金交付要綱の算出方法に従って算出したところ,上限である1000万円を超えるものであったため,補助金額を1000万円とした。
また,A学校幼稚部のための施設建設の補助金を私立幼稚園建設補助金交付要綱の算出方法に従って算出したところ,1000万1632円と算出されたため,補助金額を1000万円とした。
そこで,被告は,A学校初中級部のための施設建設に係る補助金及びA学校幼稚部のための施設建設に係る補助金の合計2000万円を長野A学園に対して交付することとし,これを計上した予算を市議会に提出し,同予算は平成13年2月の定例市議会において可決された。そして,同年5月17日,現地調査においてA学校初中級部及びA学校幼稚部の施設について目的外使用がないことを確認した上で2000万円の学校校舎等建設費補助金を長野A学園に交付した。
(甲事件甲10,甲事件甲46の12ないし31,甲事件丙5,6,弁論の全趣旨)
(エ) その後,A学校初中級部の施設の一部を朝鮮総連が使用していることが判明した(上記(1)及び(3))ため,その使用部分の面積をA学校初中級部のための施設建設に係る補助金算出の対象となる建築面積から控除して補助金額を再計算したところ,算出された金額が1000万円を超えるものであり,交付すべき補助金額に変更を生じるものではなかったため,補助金の交付を取り消すなどはしなかった。
(甲事件甲46の15ないし31,弁論の全趣旨)
2 当事者の主張
(1) 原告の主張
(本案前の主張)
被告の違法行為には監査請求から1年以上前に行われたものもあるが,いずれも松本市民が客観的に知り得なかったものであるから,原告の住民監査請求が上記行為から1年を超えてされたことには正当な理由がある。
(本案の主張)
松本市は,本件土地及び本件建物を非課税ないし課税免除としている。また,松本市は,長野A学園に対し,平成12年度から平成17年度まで合計1095万5000円のA学校運営費補助金を交付し,平成13年度にはA学校の校舎等の建設費補助金2000万円を交付した。
しかし,朝鮮総連長野本部が長野A学園所有の不動産を占有して北朝鮮へのビザの発給業務等教育と無関係の業務を行っており,また,教育基本法8条に反する政治教育を行っているのであるから,固定資産税及び都市計画税は非課税とすべきではないし,上記各補助金の交付も違法である。また,上記業務には公益性がないから,固定資産税及び都市計画税の減免措置を採ることもできない。
さらに,私立学校は公の支配を受けない教育であるし,長野A学園は朝鮮総連長野本部と一体となり北朝鮮政府の政治教育を行っていて教育基本法に反する教育をしているから,固定資産税や都市計画税を非課税としたり課税を免除することは憲法89条に反する。
よって,原告は,前記第1記載のとおり請求する。
(2) 被告の主張
(本案前の主張)
ア 本件減免対象不動産について固定資産税の賦課徴収を怠る事実の違法確認を求める訴えについて
平成18年2月10日提出の原告の監査請求についての監査の結果,松本市監査委員は,被告に対し,長野A学園が設置した長野A初中級学校において直接教育の用に供しない固定資産があるため,当該固定資産に対して固定資産税を課するなどの必要な措置を講じるように勧告した。これを受けて被告は,平成18年6月8日付けで本件減免対象不動産について平成16年度から平成18年度の固定資産税を課税することとし,固定資産税納付書を送付したのであるから,これについて固定資産税の賦課徴収を怠る事実の違法確認を求める訴えの利益はない。
イ 平成12年度ないし平成16年度分の運営費補助金交付の違法を原因として損害賠償を求める訴えについて
原告は,平成18年2月10日に住民監査請求書を提出し,松本市監査委員は同月27日これを受理したが,運営費補助金の支払日(公金支出日)は,平成12年度分は同年8月7日,平成13年度分は同年8月27日,平成14年度分は同年8月20日,平成15年度分は同年8月5日,平成16年度分は同年8月5日であるから,上記住民監査請求は,平成12年度ないし平成16年度の運営費補助金の支出日から1年を経過した後にされたものであって不適法な監査請求である。よって,平成12年度ないし平成16年度分の運営費補助金交付の違法を原因として損害賠償を求める訴えは却下されるべきである。
ウ 学校校舎等建設費補助金交付の違法を原因として損害賠償を求める訴えについて
学校校舎等建設費補助金の違法を原因として損害賠償を求める訴えは,監査請求を経ておらず不適法であるから却下されるべきである。
(本案の主張)
ア 固定資産税及び都市計画税について
学校法人が設置する学校において直接教育の用に供する固定資産に対しては固定資産税及び都市計画税を課することができないところ,前記第2の1(5)アで課税した固定資産を除く固定資産は,直接教育の用に供されている。
松本市が本件校舎の使用状況を調査した結果,次のとおり確認された。
(ア) 1階(222.16㎡)
①共用部分(101.99㎡)
玄関,廊下,階段,トイレ,休憩室,湯沸室
②同窓会事務室(23.18㎡)
同窓会活動は,教育の一環として学校の運営維持のための事業をしており,長野A学園の卒業生が常時活動している。
③父母会事務室(23.18㎡)
父母会の役員会等で使用している。
④多目的室(45.75㎡)
長野A学園や朝鮮総連が使用する応接室や高齢の在日朝鮮人とA学校の児童生徒との交流の場として使用されており,応接セットやテレビ等が置かれている。
⑤同胞生活相談室(28.06㎡)
在日朝鮮人の生活相談のための相談室である。
(イ) 2階(210.00㎡)
①共用部分(56.14㎡)
廊下,階段,トイレ,湯沸室
②会議室(38.50㎡)
長野A学園の理事会及び評議会等が行われている。
③朝鮮総連本部(38.43㎡)
朝鮮総連長野本部及び中信支部,同胞支援相談センター,ウリハッキョ1口愛好運動推進委員会,長野A初中級学校を支援する会事務局がある。
朝鮮総連長野本部及び中信支部,同胞支援相談センターでは,地域の在日朝鮮人社会における生活上の様々な問題(冠婚葬祭,経済,教育,文化,法律,医療福祉,祖国訪問,海外渡航のための旅券発給申請手続)の相談に応じている。
ウリハッキョ1口愛校運動推進委員会では,在日朝鮮人の人材育成のための募金活動を実施している。
長野A初中級学校を支援する会は,A学校支援活動をしている。
④長野県朝鮮商工会(38.43㎡)
在日朝鮮人の税務相談,就職斡旋,経営上のサポートや資金相談をしている。また,同会の下部組織である長野県青商会は,A学校生徒確保のため,学齢前児童への催し,在日朝鮮人父兄のための催しを実施している。
⑤資料室(24.75㎡)
書籍,文書などが保管されているほか,コピー機やファックス等が置かれており,長野A学園と朝鮮総連長野本部が共用している。
⑥パソコン室(13.75㎡)
パソコンやプリンタが置かれており,長野A学園と朝鮮総連長野本部が共用している。
(ウ) 3階(210.00㎡)
講堂があり,A学校の児童生徒の総会や課外サークル活動の場として使用されている。
この調査結果から,本件校舎の3階は,全て教育の用に供されていると判断し,非課税とした。その余の部分(1階及び2階部分)については,直接教育の用に供されているとはいえないと判断した。
もっとも,直接教育の用に供されていないと判断された部分については,町会公民館活動に供される施設と同様に公益性のある集会所といえるし,また,松本市内の公立・私立高校の同窓会と同様に公益的に使用されているといえるため,長野A学園からの減免申請を承認し固定資産税を免除した。なお,松本市内の高校においては同窓会活動に使用されている施設について減免措置をしている。
在日朝鮮人のうち日本に帰化していない者は,長野県内に約4600人,松本市内に約1200人おり,本件校舎の1階及び2階にある施設を使用する在日朝鮮人の数及び同施設の上記使用状況からすると,同施設は,松本市内の地域町会の町公民館活動に供される施設と同様に公益性のある集会所であるといえ,在日朝鮮人個人に対しては納税義務を課しながら,他方で在日朝鮮人の利用が中心であるとの理由で公民館に準じた公益性を否定することは,税の公平性を欠く。
よって,固定資産税及び都市計画税を非課税としていることや固定資産税の免除措置を採っていることは正当である。
イ 長野A学園に対する補助金交付について
長野A学園は,私立学校振興助成法により地方公共団体による補助金交付の対象となる学校法人である。
松本市の補助金の交付については,松本市補助金交付規則でその手続が定められており,経常的に補助金を交付する私立高等学校や私立幼稚園に対する補助金交付については,特に私立高等学校運営費補助金交付要綱や私立幼稚園運営補助金交付要綱において具体的な要件や補助金額等が定められている。A学校は学校教育法134条の「各種学校」であって同法の「学校」(同法1条)ではないし,また幼稚園でもないため,私立高等学校運営費補助金交付要綱や私立幼稚園運営補助金交付要綱の対象とはならないが,被告は,A学校初中級部及び幼稚部が,小学校,中学校及び幼稚園に相当する教育を行っていると判断し,A学校初中級部については私立高等学校運営費補助金交付要綱を,A学校幼稚部については私立幼稚園運営補助金交付要綱をそれぞれ準用して運営費補助金を支出した。なお,私立小中学校に対する運営費補助金の交付要綱は規定されていないため,私立高等学校運営費補助金交付要綱を準用したものである。
また,建設費補助金についても,松本市私立学校校舎等建築事業補助金交付要綱,私立幼稚園建設補助金交付要綱が規定されているところ,上記と同様に,A学校は直接これらの対象とはならないが,A学校初中級部及びA学校幼稚部についてこれらの要綱を準用して学校校舎等建設費補助金を支出した。
よって,上記各補助金の支出に何ら違法性はない。
第3 当裁判所の判断
1 本案前の判断
(1) 本件減免対象不動産について固定資産税の賦課徴収を怠る事実の違法確認を求める訴えについて
被告は,松本市監査委員の勧告を受けて本件減免対象不動産について固定資産税を課税したため本件減免対象不動産の固定資産税の賦課徴収を怠る事実について違法確認を求める訴えの利益はないと主張するが,被告が主張する事実は怠る事実の有無の判断に際して考慮されることで,かかる事実があるからといって,訴えの必要性,実効性が失われるわけではないから,訴えの利益は認められる。
(2) 運営費補助金交付及び学校校舎等建設費補助金交付の違法を原因として損害賠償を求める訴えについて
原告が運営費補助金について松本市監査委員に対する住民監査請求をしたのは平成18年2月10日である(前記第2の1(3)ア)ところ,松本市から長野A学園に対する運営費補助金の支出は前記第2の1(6)ア(ウ)のとおりされており,平成16年度の運営費補助金の支出(支出日は,同年8月5日)以前にされた支出に関しては,各支出の日から1年を経過した後に住民監査請求がされたことになる。また,原告が学校校舎等建設費補助金について松本市監査委員に対する住民監査請求をしたのは平成18年7月18日である(前記第2の1(4)ア)ところ,松本市から長野A学園に対する学校校舎等建設費補助金の支出は平成13年5月17日にされており(前記第2の1(6)イ(ウ)),その支出日から1年を経過した後に住民監査請求がされたことになる。
しかし,本件において上記各補助金の交付が違法であると主張される原因は,主に,本件校舎が朝鮮総連長野本部により使用されていることにあるから,長野A学園に対して上記各補助金が支出されたことだけを知ったとしても住民監査請求をするに足りる程度に当該行為を知ったとはいえないということができる。そして,本件校舎が朝鮮総連長野本部により使用されていた事実は,松本市においても,松本市監査委員から勧告を受けた後に調査をして判明したものであるから,上記各補助金の支出に関して,同市民が相当の注意力をもって調査したとしても,原告が上記各監査請求をしたころよりも前に客観的にみて住民監査請求をするに足りる程度に当該行為を知ることはできなかったというべきであり,原告が上記各補助金の住民監査請求について監査請求期間を徒過したことには「正当な理由」(地方自治法242条2項但書)があるといえる。
(3) 被告が平成18年7月24日付けで長野A学園に対してした本件減免対象不動産の都市計画税の免除措置の取消を求める訴えについて
被告は,長野A学園に対し都市計画税を課しておらず,平成18年7月24日付けで長野A学園に対して本件減免対象不動産の平成16年度ないし平成18年度分の都市計画税の免除措置をしたこともないから,上記免除措置の取消を求める部分の訴えは不適法である。
2 本案についての判断
(1) 本件校舎及び本件校舎の敷地である土地(以下「本件校舎敷地」という。)を除く本件土地及び本件建物に係る固定資産税及び都市計画税の長野A学園に対する賦課徴収について
ア 固定資産税及び都市計画税は,学校法人が設置する学校において直接教育の用に供する固定資産に対しては課することができない(地方税法348条2項9号,702条の2第2項)。そして,前記第2の1前提となる事実並びに証拠(甲事件甲45の1ないし14,56)及び弁論の全趣旨によれば,本件校舎及び本件校舎敷地を除く本件土地及び本件建物は,いずれもA学校により直接教育の用に供されていると認められる。なお,原告は,長野A学園が教育基本法に反する教育を行っている旨主張するが,これをうかがわせる事実や証拠はない。
よって,本件校舎及び本件校舎敷地を除く本件土地及び本件建物について固定資産税及び都市計画税を課することはできないから,これらについて固定資産税及び都市計画税を賦課徴収しないことは違法ではない。
イ この点,原告は,長野A学園に対し固定資産税及び都市計画税を課さないことは,公の支配に属しない教育への公金支出であり憲法89条後段に反すると主張する。
しかしながら,以下の理由により,長野A学園は,憲法89条にいう「公の支配」に属するといえ,原告の主張は採用できない。
① 長野A学園は,私立学校法に基づく学校法人として認可を受けており,その資産,組織,管理に関して法的に規制されている(同法25条,35条ないし49条)。
② 私立学校に対しては,所轄庁が,教育の調査,統計その他に関し必要な報告書の提出を求め(同法6条),収益事業の停止や解散を命ずることができる(同法61条,62条)。
③ 私立学校を設置するについては文部科学大臣の定める設備や編制その他に関する設置基準に従わなければならず(学校教育法3条),設置や廃止に所轄庁の認可が必要であり(同法4条),校長,教員の資格や欠格事由が定められている(同法8条,9条)。
④ 補助金の交付などの助成を受けた私立学校については,私立学校振興助成法により,所轄庁は,業務や会計の状況を報告させ,予算の変更や役員の解職をすべき旨勧告することができるなどとされている(同法12条)ことなどからすると,補助金の使途やその事業等が公の利益に沿わない場合にはこれを是正しうる途が確保され,公の財産の濫費を避けることができる。
(2) 本件校舎及び本件校舎敷地に係る固定資産税及び都市計画税の長野A学園に対する賦課徴収について
ア 都市計画税について
都市計画税は,市街化区域内に所在する土地及び家屋に対し課することができ,市街化調整区域においては特別の事情がある場合には条例で定める区域内に所在する土地及び家屋に対して課することができる(地方税法702条1項)。
本件校舎及び本件校舎敷地は市街化調整区域にあることが認められ(甲事件甲45の1ないし14,弁論の全趣旨),また,本件校舎及び本件校舎敷地について特別の事情があるとして条例で都市計画税を課税することを定めているとは認められない。
よって,本件校舎及び本件校舎敷地について都市計画税を賦課徴収しないことが違法であるとはいえない。
イ 固定資産税について
(ア) 平成15年6月に朝鮮総連長野本部が本件校舎を使用し始める前は,本件校舎及び本件校舎敷地は,A学校において直接教育の用に供されていたと認められる。よって,平成16年度より前は,上記(1)と同様,本件校舎及び本件校舎敷地について固定資産税を課することはできないから,これらについて平成16年度より前の固定資産税を賦課徴収しないことは違法ではない。
(イ) 前記第2の1(4)イ,甲事件甲22及び弁論の全趣旨によれば,平成15年6月に朝鮮総連長野本部が本件校舎を使用するようになった以降も,本件校舎の3階は講堂としてA学校の児童生徒の総会や課外サークル活動のために使用されていたことが認められるから,本件校舎の3階部分に相当する210㎡及び本件校舎敷地のうち本件校舎の3階部分の敷地に相当する392.43㎡(本件校舎敷地面積に本件校舎中3階部分の占める割合を乗じたもの)については,A学校において直接教育の用に供する固定資産であるといえる。よって,これについては,平成16年度ないし平成18年度においても,上記(1)と同様,これに固定資産税を課することはできず,これについて固定資産税及び都市計画税を賦課徴収しないことは違法ではない。
また,その余の部分については,平成18年7月24日付け及び平成19年1月29日付けの固定資産税の免除措置によって,平成16年度分ないし平成18年度分の固定資産税が免除されたのであり,被告がその賦課徴収を怠ったものではない。
ウ よって,本件校舎及び本件校舎敷地に係る固定資産税及び都市計画税の賦課徴収に関し,被告に違法性は認められない。
(3) その他,本件証拠上,被告が長野A学園に対し,固定資産税及び都市計画税の賦課又は徴収を怠った事実は認められない。
(4) 平成18年7月24日付け免除措置(本件免除措置)について
被告は,本件減免対象不動産について,本件条例65条1項2号「公益のために直接専用する固定資産(有料で使用するものを除く。)」に該当するとして,固定資産税を免除する本件免除措置をした(前記第2の1(3))。
この点,本件条例65条1項2号の「公益のために直接専用する固定資産」とは,不特定多数の者による使用に専ら供されている施設をいうと解される。
松本市の調査の結果判明した本件校舎の使用状況(前記第2の1(4)イ)によれば,本件減免対象不動産は朝鮮総連の活動を始めとして在日朝鮮人のための施設として使用されており,本件校舎内の施設が広く一般住民に開放されてその使用に供されている状況はうかがわれない。
よって,本件減免対象不動産が本件条例65条1項2号の「公益のために直接専用する固定資産」に該当するとはいえないから,本件免除措置は取り消されるべきである。
(5) 運営費補助金及び学校校舎等建設費補助金について
ア 私立学校法59条は,国又は地方公共団体は,教育の振興上必要があると認める場合には,学校法人に対し,私立学校教育に関し必要な助成をすることができる旨規定し,私立学校振興助成法10条は,国又は地方公共団体は,学校法人に対し,補助金を支出することができる旨規定している。
長野A学園は学校法人であるから,松本市は,長野A学園に対し,補助金を支出することができる。
イ そして,松本市は,補助金の交付に関して,松本市補助金交付規則をもって交付手続等必要な事項を定め,私立高等学校に対する運営費補助金の交付については私立高等学校運営費補助金交付要綱において,また,私立幼稚園に対する運営補助金の交付については私立幼稚園運営補助金交付要綱において,それぞれ補助額等を定めており,長野A学園に対する運営費補助金は,上記交付規則及び上記各交付要綱に規定された手続に従って交付されたことが認められる(前記第2の1(6)ア(ア)ないし(ウ))。また,学校法人が行う高等学校,大学及び専修学校の校舎等の建築事業に要する経費に対する補助金の交付について松本市私立学校校舎等建築事業補助金交付要綱において,また,私立幼稚園の建築事業に要する補助金の交付について私立幼稚園建設補助金交付要綱において,それぞれ補助額等を定めており,長野A学園に対する学校校舎等建設費補助金は,上記交付規則及び上記各交付要綱に規定された手続に従って交付されたことが認められる(前記第2の1(6)イ(ア)ないし(ウ))。なお,本件学校は私立高等学校や私立幼稚園ではないものの,A学校初中級部においては小中学校に相当する教育を,A学校幼稚部において幼稚園に相当する教育を,それぞれ行っているとの判断の下,A学校に対する補助金の交付について上記各交付要綱を準用すること(前記第2の1(6)ア(ウ),イ(ウ))も不合理ではない。
ウ この点,交付された補助金が,補助金交付の対象とされた事業以外の用途に使用された場合や,その事業運営が不適当な場合などには当該補助金等の全部又は一部の取消,返還を命ずることができるとされている(甲事件甲58,甲事件丙2)が,運営費補助金については,本件校舎の一部が朝鮮総連の使用に供されており直接教育の用に供されていなくとも,A学校において,私立学校における奨学と振興,幼児教育の振興を図るといった上記補助金交付の趣旨に沿わないような不適切な教育がされているとはいえないし,補助金の返還を命ずるほどにその事業運営が不適当であるともいえない。
また,学校校舎等建設費補助金については,A学校初中級部のための施設建設に係る補助金算出の対象となる建築面積から朝鮮総連が使用している部分の面積を控除したものを対象として補助金額を再計算すると,その結果算出される補助金額は,なお補助金交付上限額の1000万円を超えるものであり,A学校初中級部の施設のために1000万円の補助金交付が可能なものであった(甲事件甲46の28ないし31)のであり,松本市もこのような再計算の結果から補助金交付の取消しなどしなかったものであって(前記第2の1(6)イ(エ)),朝鮮総連の使用に係る部分の面積が学校校舎等建設費補助金の額に変更を生じさせるものではない以上,補助金交付の取消しをすべきであるとはいえない。
エ さらに,原告は,長野A学園に対する補助金の支出が公の支配に属しない教育への公金支出であり憲法89条後段に反するとも主張するが,上記(1)イのとおり,長野A学園は,憲法89条にいう「公の支配」に属するといえ,原告の主張は採用できない。
オ そして,他に長野A学園に対する運営費補助金及び学校校舎等建設費補助金の支出が違法であることを示す事情や証拠はない。
カ 以上によれば,松本市による長野A学園に対する運営費補助金及び学校校舎等建設費補助金の支出交付が違法であるとは認められない。
(6) 朝鮮総連長野本部に対する固定資産税及び都市計画税の賦課徴収について
被告が朝鮮総連長野本部に対する固定資産税及び都市計画税の賦課徴収を怠っている事実をうかがわせる証拠はない。なお,固定資産税及び都市計画税は所有者(質権又は百年より永い存続期間の定のある地上権の目的である土地については,その質権者又は地上権者)に対して課されるものであるから,朝鮮総連長野本部が平成15年6月以降本件校舎内の部屋を使用するようになった(前記第2の1(1))としても,その使用部分について朝鮮総連長野本部に対して固定資産税及び都市計画税を課税すべきであることにはならない。
したがって,被告が朝鮮総連長野本部に対する固定資産税及び都市計画税の賦課徴収を怠っている事実を認めることはできない。
第4 結論
よって,本件訴えのうち,被告が平成18年7月24日付けで学校法人長野A学園に対してした別紙1物件目録記載3の土地及び建物の平成16年度ないし平成18年度分都市計画税の免除措置の取消を求める部分の訴えは不適法であるからこれを却下し,本件免除措置の取消しを求める原告の請求には理由があるからこれを認容し,その余の請求には理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 近藤ルミ子 裁判官 宮永忠明 裁判官 望月千広)
別紙
1 物件目録<省略>
2 A学園補助金交付状況<省略>