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長野地方裁判所 平成2年(ワ)125号 判決 1991年4月16日

原告

神田連

ほか一名

被告

山口五男

主文

一  被告らは、各自、各原告に対し金二〇七八万七七九六円及びこれに対する昭和六三年五月二一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その二を被告らの、その一を原告らの各負担とする。

四  この判決は、原告らの勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告らは、各自各原告に対し金三〇二一万一九〇三円及びこれに対する昭和六三年五月二一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  被告ら

1  原告らの各請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二請求原因

一  事故の発生

昭和六三年五月二一日午前八時四〇分ころ、新潟県北蒲原郡安田町大字保田六〇二六番地二先交差点(以下「本件交差点」という。)において、被告山口五男(以下「被告山口」という。)運転の大型貨物自動車(以下「加害車」という。)が神田富雄(以下「富雄」という。)運転の普通乗用自動車(以下「被告車」という。)に衝突し(以下「本件事故」という。)、よつて富雄が脳挫傷等の傷害を受け、同日午前九時一二分、死亡した。

本件交差点は、別紙図面のとおりで、交通整理の行われていない交差点であり、被害車は中山方面から国道四九号方面に向け本件交差点を直進すべく進行し、その走行道路の幅員は、交差点手前の道路が四・五メートル、本件交差点部分では角切りがあつて入口部分が一〇メートル、出口部分が一六メートル、交差点を越えた先の道路は一〇メートルであり、加害車は笹岡方面から庵地方面に向けて本件交差点を直進すべく進行し、その走行道路の幅員は七・二メートルである。

二  責任原因

1  被告山口には、次の過失があるから民法七〇九条に基づく損害賠償義務がある。

(1) 本件交差点での被害車及び加害車相互の見通しは高さ一・八メートルのブロツク造りの建物があつて左右の見通しが悪く、被害車は、時速一五キロメートルの低速で交差点に進入したのに、加害車は、徐行義務を怠り制限速度時速四〇キロメートルのところ時速六〇キロメートルで進行した。

(2) 加害車は、本件事故当時、積荷の制限重量を一九パーセント(一九二五キログラム)超過する一一六七五キログラムの荷物を積んでいたので、ブレーキをかけても直ちに停止することができなかつた。

(3) 被害車は加害車にとつて左方車であるから被害者の進行を妨げてはならない義務があるのに、これを妨害した。

2  被告株式会社遠清商事(以下「被告会社」という。)は、加害車の保有者であるから自賠責法三条に基づく損害賠償義務がある。

三  損害

1  逸失利益 九六六五万四七五八円

富雄は、本件事故当時、二七才(昭和三五年六月一八日生)で、事故時の四月から新潟大学付属病院に医師として勤務するかたわら、安田町の病院に非常勤医師として勤務していた。

富雄の事故直前の給与は短期間の給与であり、医師は知的職業であつて稼働能力は高年齢になつても減退せず、増加さえ見込めるから就労可能年数は平均余命までとすべきであるので、その逸失利益は、昭和六三年賃金センサス第三表医師全年齢平均年収一〇六三万九七〇〇円から生活費五〇パーセント控除し、これに平均余命四九・七八年のライプニツツ係数一八・一六八七を乗じた額となる。

2  慰謝料 二〇〇〇万円

富雄は、将来を嘱望された医師で原告らの一人息子(娘一人)であり、その悲しみは甚大である。

3  葬儀費用 一〇〇万円

4  弁護士費用 五〇〇万円(原告一人二五〇万円)

四  請求額

1  原告らは、長男富雄の損害を各二分の一宛相続した。

2  原告らは、自賠責保険金二五〇〇万円、労災保険金一三七〇万円を受領した。

3  原告らは、各自、被告らに対し、富雄の全損害につき二〇パーセントの過失相殺をし、既に支払いを受けた三八七〇万円を控除した残額六〇四二万三八〇六円の各二分の一である三〇一二万一九〇三円及びこれに対する本件事故の日である昭和六三年五月二一日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第三請求原因に対する答弁

一  請求原因一を認める。

二  同二につき

1  同1を争う。

(1) 同(1)のうち、加害車が制限速度時速四〇キロメートルのところ時速六〇キロメートルで進行したことを認め、その余を否認する。

(2) 同(2)のうち、加害車が本件事故当時、積荷の制限重量を一九パーセント(一九二五キログラム)超過する一一六七五キログラムの荷物を積んでいたことを認め、その余を否認する。被告山口は、単に積載されたものを運搬しただけであつて、それが過積載になつていることを容易に知りうるものではないから、制裁制限違反についての過失はない。

(3) 同(3)を否認する。被害車の幅員は四・五メートル、加害車の幅員は七・二メートルであつて、後者が明らかに広いから左方車優先の原則は適用されず、左方車進行妨害の過失はない。

2  同2を認める。

三  同三につき

1  同1のうち、富雄が、本件事故当時、二七才(昭和三五年六月一八日生)で、事故時の四月から新潟大学付属病院に医師として勤務するかたわら、安田町の病院に非常勤医師として勤務していたことを認め、その余を否認する。逸失利益は、事故前の現実の収入を基礎とすべきであり、就労可能年数は六七才までの四〇年間とすべきである。

2  同2の慰謝料は一六〇〇万円が妥当である。

3  同3を争う。

四  同四につき

1  同1を認める。

2  同2を認める。

3  同3を争う。後記のとおり、六〇パーセントの過失相殺すべきである。

第四抗弁

一  過失相殺

本件事故は、広路直進車と狭路直進車の交差点における出会い頭の事故であり、被害車は狭路を進行中で、交差点の手前には一時停止の標識があり、また、路面には停止線の標示があつたのに一時停止せず本件交差点に進入したため本件事故が発生したのである。一時停止の標識が倒れ、かつ、停止線が摩耗して見えにくくなつていたようであるが、狭路から明らかに広い道路に出るうえ、本件交差点は、被害車から見て加害者方向である右方向の視界が悪いのであるから、その安全を確認して進行すべきであるのにこれを怠り、漫然と交差点に進入したもので、被害車の過失は大きい。したがつて、六〇パーセントの過失相殺をすべきである。

二  既払額

原告らの自認するとおりである。

第五抗弁に対する答弁

一  同一を争う。

被害車の走行道路交差点手前には、一時停止規制の標識が設置されていたが、本件事故当時、倒壊しており、道路標示の停止線も左端一・五メートルを残して摩耗していた。既述のとおり、本件交差点は、交通整理の行われていない左右の見通しきかない交差点であるから、道交法四二条一号により、加害車に徐行義務がある。また、本件交差点の状況は別紙図面のとおりで、幅員の「明らかに広い」道路とは、客観的基準で画一的に決定されるべきで、交差点を挟む前後を通じて交差点を挟む左右の交差道路のいずれと比較しても明らかに幅員の広い道路をいうのであつて、加害車の道路が被害車の道路より「明らかに広い」とはいえない。

加害車には、徐行義務違反、速度違反、積載違反があり、大型車であるので、過失は大きく、被害車の過失は、せいぜい二〇パーセントである。

二  同二を認める。

第六証拠関係

証拠の関係は、記録中の証拠関係目録の記載を引用する。

理由

第一請求原因について

一  事故の発生

請求原因一(本件事故及び本件交差点の状況)は当事者間に争いがない。

二  責任原因

1  被告山口の責任

(1) 同(1)のうち、加害車が制限速度時速四〇キロメートルのところ時速六〇キロメートルで進行したこと、同(2)のうち、加害車が本件事故当時、積荷の制限重量を一九パーセント(一九二五キログラム)超過する一一六七五キログラムの荷物を積んでいたことは、当事者間に争いがない。

(2) 前記当事者間に争いのない事実及び成立に争いのない甲第三ないし第五号証、第七ないし第九号証、第一一ないし第一三号証、乙第一ないし第三号証、調査嘱託の結果によれば、本件交差点の状況は、別紙図面のとおりで、角切りがあり斜めに交差していて複雑な形状をしていること、加害車の進行道路は県道で、被害車の進行道路は町道であること、本件交差点は、交通整理の行われていない交差点で、被害車及び加害車相互の見通しは高さ一・八メートルのブロツク造りの建物があつて悪いこと、加害車の運転手被告山口は、大型ダンプ車運転経験一〇年のベテラン運転手で、本件事故当時、加害車(大型ダンプ)制限重量九七五〇キログラムのところ一九パーセント(一九二五キログラム)超過する一一六七五キログラムの荷物を積み、ある程度の積載超過を認識しながら、制限速度時速四〇キロメートルのところ時速六〇キロメートルで進行し、本件交差点に進入したこと、被害車の走行道路交差点手前には、一時停止規制の標識は設置されていたが、本件事故当時、倒壊しており、道路標示の停止線も左端一・五メートルを残して摩耗していたこと、被害車が本件交差点手前で一時停止して加害車の進行してくる右方を確認すると、加害車の状況を確認できる現場の道路状況であるから、被害車は本件交差点手前で一時停止しなかつたか、右方の確認をすることなく本件交差点に進入したと推測されること、加害車の進行した県道は優先道路に指定されていなかつたことを認めることができる。

(3) 右事実によれば、本件交差点は、角切りがあり斜め交差の複雑な形状のため、通常の運転者は被害車の進行してきた町道から本件交差点に進入する際に前方で交差する県道(加害車の進行路)が一見して明らかに広いものと判断することは困難であるということができる。

加害車の進行道路は優先道路ではないから、車両は、交通整理の行われていない左右の見通しの悪い交差点において徐行義務があり(道交法四二条)、かつ、右述のとおり、加害車の道路が被害車の道路より「明らかに広い」とはいえないから、本件交差点の具体的状況下において加害車に徐行義務がないとはいえない。

そして、加害車が制限速度を守り、積載重量を守つていれば、本件事故を避けられたかはともかく、少なくとも、過重量を伴つた過速度による結果の重大化は避けられた可能性はある。なお、左方車優先は、双方の車両がその存在を認識している場合の原則というべきである。

したがつて、被告山口には、本件事故につき徐行義務違反、速度違反、積載違反の過失があり、民法七〇九条に基づく損害賠償義務がある。

2  被告会社の責任

請求原因2は争いがなく、被告会社は、自賠法三条に基づく損害賠償義務がある。

三  損害について

1  逸失利益

同1のうち、富雄が、本件事故当時、二七才(昭和三五年六月一八日生)で、事故時の四月から新潟大学付属病院に医師として勤務するかたわら、安田町の病院に非常勤医師として勤務していたことは、当事者間に争いがない。

富雄は、就労して間もないうちに本件事故にあつたのであるから、逸失利益算定の基礎となる収入を事故当時の現実収入に固定するのは合理的ではなく、また、医師は、知的職業で終身(死亡直前の病伏期間を除き)営業するのが通常であり、かつ、原告神田連本人尋問の結果によると、富雄は、当時定年のある大学病院に勤務していたのではあるが、将来、郷里の長野での開業医を目指しており、それも当然なことと認めることができる。

したがつて、富雄の逸失利益は、昭和六三年賃金センサス第三表医師全年齢平均年収一〇六三万九七〇〇円(甲第一四号証)から生活費五〇パーセントを控除し、これに平均余命四九年(当裁判所に顕著)のライプニツツ係数一八・一六八七を乗じて、九六六五万四七五八円と認める。

2  慰謝料

成立に争いのない甲第一五ないし第二〇号証及び原告神田連本人尋問の結果によれば、富雄は、将来を嘱望された医師で原告らの一人息子(娘一人)であり、原告らの富雄に対してかけた期待は合理的なものであり、その悲しみは甚大であると認めることができる。

右を慰謝する額は二〇〇〇万円を相当と認める。

3  葬儀費用は、一〇〇万円を相当と認める。

四  同四の1(原告らの相続)は争いがない。

第三抗弁について

一  過失相殺

前記認定によれは、被害車の走行道路交差点手前に一時停止規制の標識は設置されていたが、本件事故当時、倒壊しており、道路標示の停止線も左端一・五メートルを残して摩耗していたものであり、加害車の進行道路が被害車の進行道路に比べて明らかに広い道路とはいえないけれども、被害車の進行道路は町道で、加害車の進行通路は県道であつて、かつ、被害車の進行通路は本来一時停止の標識及び標示のなされていた道路であるから、一時停止の標識及び標示の有無にかかわらず、四囲の状況から、一時停止ないしこれに準じた安全確認を期待することができるものということができる。

そして、前記の加害車の各過失及び加害車の車種等を考慮して、被害車に三五パーセントの過失相殺をするのが相当である。

二  同二(既払分)は争いがない。

第四結論

一  以上によれば、富雄の損害は、一億一七六五万四七五八円から三五パーセントの四一一七万九一六五円及び既払分三八七〇万円を控除した三七七七万五五九三円となり、その二分の一は、一八八八万七七九六円(以上、円未満切捨て)となる。

二  弁護士費用は、前項認容額に照らし、三八〇万円(原告一人一九〇万円)を相当と認める。

三  よつて、原告らの請求は、被告らに対し各自各二〇七八万七七九六円及びこれに対する本件事故の日である昭和六三年五月二一日から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとし、相当法条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 山崎健二)

別紙 <省略>

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