長野地方裁判所 平成2年(行ウ)9号 判決
原告
甕孝吉(X)
右訴訟代理人弁護士
中島嘉尚
被告(三郷村長)
務〓久彦(Y)
右訴訟代理人弁護士
久保田嘉信
同
三浦守孝
右久保田嘉信訴訟復代理人弁護士
赤羽啓
事実及び理由
第三 争点に対する判断
一 本件契約を随意契約の方法により締結したことが違法といえるか否か(争点1)について
1 〔証拠略〕を総合すれば、以下の事実が認められる。
(一) 昭和五六年五月二二日に公布された住宅・都市整備公団法によれば、地方公共団体の公園事業拡大及び高度化する施設整備要請に伴う技術者不足に対処するため、技術者を確保(プール)する機構を設け、地方公共団体の態勢を補う必要があるとの観点から、地方公共団体から受託して、根幹的都市公園の建設等を行うことも公団の本来の業務となっている。
村の担当者が本件契約締結に先立って検討した公団の公園業務案内(〔証拠略〕)には、高度化した施設の典型例として多目的体育館があげられており、実際にも昭和六三年度までに公団が二九棟の体育館の建設工事を受託するなどの実績をあげていることが紹介されている。
(二) 公団の公園業務の内容としては、建設工事の受託、設計の受託、工事の監督管理のみの受託及び調査及び技術協力の受託の四種類がある。建設工事を受託した場合、公団は、設計図書の内容金額等をチェックしたうえ、公団において入札に付したうえで専門の建設業者に発注し、発注の見込みがつくと、工事の「管理」監督を担当する公園事務所を設け、工事の種類にあわせてそれぞれの専門の技術者を配置し、工事の「管理」監督をする。本来、地方公共団体は、工事監理を設計業者に委託する場合は、住民の利益を損なわないように、工事監理を行う設計業者とは独立した立場で、工事監理をする設計業者が適正に工事監理をしているか否かをチェックする必要がある。そして、このような業務を地方公共団体の職員に代わって実行するということも公団の「管理」監督の内容になっている。
もとより、このような意味での「管理」監督は、実質的には工事「監理」とほぼ同様の観点から行われるものではあるが、地方公共団体に工事監理をする業者が適正であるか否かをチェックする能力を備えた職員がいない場合は、建設業者が適正な工事を施工しているか否かのチェックが工事監理をする設計業者任せになり、不適切な工事監理を鵜呑みにする可能性がないわけではないのに対し、公団に委託すれば、当該設計業者が適正で信用のおける業者か否かや適正な工事監理をしているか否かを専門的立場からチェックできるため、そのような事態を防止しうることになる。もっとも、右のような「管理」監督業務も、ひとり公団のみがなしうるというわけではない。しかし、公団の役員及び職員は、刑法その他の罰則の適用については法令により公務に従事する職員とみなされ(住宅・都市整備公団法二八条、一七条)、「管理」監督につき賄賂の収受等がされれば刑法の適用があり、いわばお手盛りで「管理」監督がされる危険を防止できるだけでなく、公団の資本金は政府及び地方公共団体からの出資で構成され(同法四条)、総裁及び監事は建設大臣が任命し、副総裁及び理事は、総裁が建設大臣の認可を受けて任命することとされるなど(同法二〇条)、構成上も建設業者と独立した準公的な立場で「管理」監督がされることが期待できるから、この意味では、公団に「管理」監督を委託する場合と、工事監理を設計業者に委託する場合とでは、本質的な差異が生ずる。そして、このことは設計についても妥当する。公団は、設計自体についても、公団の技術者の技術力を活用することが適当なものであれば受託することとなっており、設計の段階から公団に発注すれば、公団の技術力や実績を背景に、その後の建設工事の段階に至るまで統一的な管理監督がされることが期待できる。
(三) 公団は、これまで競争入札の方法で公園事業に参加したことはなく、地方公共団体から随意契約の方法で委託の申し入れがあった場合に、その委託の内容が公団の業務の趣旨に照らし妥当な場合か否かを判断し、妥当なものについてのみ設計や建設工事などを受託することとしている。
(四) 村の契約担当者は、右(一)の公団業務案内等、公団から取り寄せた資料を検討し、村の態勢を踏まえて、多目的体育館の建設という目的に照らし、本件契約を随意契約の方法により公団と締結するのが妥当であると判断し、被告もその旨の報告を受け、同様の判断のもとに本件契約を締結する方針を決定し、平成元年九月一二日開会同月二五日閉会の村議会において、設計の委託についての同意を求めた。その際、建設課長宮沢豊弘から議案の説明がされ、その中で、公団は国に準じたものであること、工期の短縮が可能になること、村に対応できる職員がいないところ、公団に委託すれば職員の増員も避けられること、建設工事代金を含めて総額一二億円程度の予定で、公団に委託をする方針であること、今回は、そのうち、設計の委託についての同意の可否につき審議することが説明され、同意することが可決された。
(五) 公団が業務を受託しうる公園の規模は、法令によりおおむね四ヘクタール以上と定められているところ、公団は、本件体育館が都市公園法に基づいて開発等が行われる右規模を越える面積の公園整備事業の一貫として建設されることから、本件体育館の設計及びこれに続く建築工事並びに工事の管理監督を受託した。
(六) 一般論として、特別の法律により設立された法人又は公益法人と直接契約を締結することは契約の性質又は目的が競争入札に適しない場合にあたることが多く、国の場合については、大蔵大臣の指定する特定の業者との契約は随意契約によることができるとされているところ、公団は、随意契約によることができる業者として指定されている。
2 随意契約によることが許される場合の一つである地方自治法施行令一六七条の二第一項二号所定の「契約の性質又は目的が競争入札に適しない場合」とは、契約の相手方がおのずから特定の者に限定されたり、契約締結を秘密にすることが当該契約の目的達成上必要である場合など、当該契約の性質又は目的に照らして、競争入札の方法による契約の締結が不可能又は著しく困難な場合だけでなく、競争入札の方法によること自体が不可能又は著しく困難とはいえないが、不特定多数の者の参加を求め競争原理に基づいて契約の相手方を決定することが必ずしも適当ではなく、当該契約自体では多少とも価格の有利性を犠牲とする結果になるとしても、普通地方公共団体において当該契約の目的内容に照らし、それに相応する資力、信用、技術、経験等を有する相手方を選定し、その者との間で契約の締結をするという方法を取るのが、当該契約の性質に照らし又はその目的を究極的に達成する上でより妥当であり、ひいては当該地方公共団体の利益の増進につながると合理的に判断される場合もこれに該当するものと解すべきである。そして、右のような場合に該当するか否かは、契約の公正及び価格の有利性を図ることを目的として普通地方公共団体の契約の締結方法に制限を加えている法及び令の趣旨を勘案し、個々具体的な契約ごとに当該契約の種類、内容、性質、目的等諸般の事情を考慮して、当該地方公共団体の契約担当者の合理的な裁量判断により決定されるべきものと解するのが相当である(最高裁昭和六二年三月二〇日第二小法廷判決・民集四一巻二号一八九頁)。
右1の(一)ないし(五)に認定した事実によれば、公団に本件体育館の設計及び建設工事等を委託すれば、多目的体育館の設計建設について公団の有する実績や蓄積された技術力を背景に、地方公共団体が直接民間業者と契約する場合に行わなければならない「管理」監督業務を技術系職員を増員することなく遂行することができるという利点があったこと、逆に公団に委託しなければ、工事監理を行う業者のチェックに不安が生じること、公園施設としての多目的体育館の設計建設という目的に照らすと公団はそれに相応する技術や実績を有する信用性の高い団体といえること、村の契約担当者は右のような利点があることを理解し、村長も村の担当者の報告を受けて、多目的体育館の建設という目的に照らし、本件体育館の設計、建設工事を随意契約の方法により公団に委託することが妥当であると判断して、議会の同意を求め、本件契約を締結したことが認められる。このことに、右のような公団の技術力やメリットを利用するためには、1の(三)認定のとおり随意契約によらざるをえないことや、1の(六)に認定説示した点も考慮すると、村の契約担当者や被告が、本件体育館の設計管理監督を公団に委託することが妥当であると判断したことに合理性を欠く点があるということはできない。なお、原告は、公団の設計管理監督費用は、競争入札した場合に比して高額にすぎる旨主張する。しかし、設計管理監督等いわゆる請負業務は、受託された業務の内容如何によってその対価が定められるものであり、単に一般的な経費の算定方式に基づく費用との比較によって対価の高低を決するのは相当とはいえない。1の(一)、(二)の公団の性格、構成等からすれば、公団が一般の民間業者に比較して特に営利性が高いものとは思われない。本件の場合、被告は、価格の有利性を多少犠牲にしても、右のような配慮から公団との間で本件契約を締結した方が村の利益の増進につながると判断したものであり、前記の実情に照らせば、その判断は合理的な裁量の範囲内にあるものと認められる。したがって、随意契約の方法によって本件契約を締結したことに違法はないというべきである。
3(一) 〔証拠略〕によれば、被告は、平成元年九月に開かれた村議会第三回定例会の席上、本件契約を締結することにつき議会の同意を求めた際に、関原議員の質問に対し、公団と契約を締結すれば、補助金が有利に得られるとか、国の会計検査が入らないと答弁したことが認められる(もっとも、右発言は、後日被告により取り消され、そのため、議事録からは削除された。)。
(二) しかしながら、地方公共団体が業務を公団に委託すれば、補助金が得られやすくなるとか、会計検査が入らなくなるとかの事実は、本件全証拠によっても認めることはできず、また、そのようなことは制度上あり得ないことである。そして、〔証拠略〕によれば、被告及び村の担当職員は、その後開かれた平成元年一二月の村議会第四回定例会及び平成二年三月の同第一回定例会においても、前記宮澤建設課長の提案説明に引き続き、1の(二)の実情を考慮して公団に委託することを考えた旨答弁していることが認められ、この事実に弁論の全趣旨を総合すると、被告は、平成元年九月当時は、法律上随意契約が許される場合がどういう場合かという観点からの検討を十分行わないまま、不用意かつ思いつき的に自己の主観的な期待を表明してしまったものと推認される。しかし、右発言は同議会において取り消されているのであり、しかも、村が公団と本件契約を締結した主たる意図は、あくまで前記認定のとおりであって、本件契約が被告の右主観的な期待に基づき、いわば違法な見返りを求めて締結されたものとまでは認めることはできないのであるから、これをもって、右2の認定判断を妨げるものではない。
二 本件契約が委員会要領に違反していることを理由に違法となるか否か(争点2)について
〔証拠略〕によれば、三郷村では、事務の円滑な執行と公正を図ることを目的として、三郷村業者指名選定委員会要領を定めており、村が発注する建設工事及び設計委託並びに重要物件の購入等にかかる業者の指名について、三郷村業者指名選定委員会を設置していること、指名選定委員会は、助役、教育長、参事、総務課長、企画財政課長、建設課長、経済課長、耕地課長、住民課長、税務課長及び財政課長により組織され、同委員会は、争点2の(一)原告の主張記載の事項につき審議することとされていたこと、しかるに、本件契約について、同委員会は開催されず、その審議を経ていないことが認められる。しかし、〔証拠略〕によれば、本件契約について同委員会が開催されなかったのは、同委員会の構成員が、課長会議等で本件契約につき常時議論しており、既に全員がこれを了承していたためであり、そのため、同委員会では各委員の持ち回りの決議の方式により請負人等選定調書を作成したこと、また、そもそも、委員会要領は、条例の形式で制定されたものではなく、事務の円滑、公正な執行を図るための執行機関内部の事務処理上の基準にすぎないことが認められる。そうとすれば、委員会要領に違反したとしても、それは単に内部基準に反したというにすぎないものであり、他に遵守すべき法律、政令又は条例に違反しているとの主張がない本件においては、それだけで本件契約締結が違法となるものではない。したがって、原告の主張は失当である。
(裁判長裁判官 前島勝三 裁判官 菊地健治 和久田斉)