長野地方裁判所 平成20年(行ウ)13号 判決 2010年3月26日
主文
1 被告が平成20年1月24日付けでした、原告株式会社X1の平成17年10月12日付け及び平成18年2月3日付けの廃棄物の処理及び清掃に関する法律14条の2の規定に基づく産業廃棄物処理業の事業範囲変更許可申請に対する不許可処分を取り消す。
2 被告は、原告株式会社X1に対し、550万円及びこれに対する平成19年10月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告株式会社X1のその余の請求及びその余の乙事件原告らの請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、甲事件の訴訟費用は被告の負担とし、乙事件の訴訟費用は、原告株式会社X1に生じた費用の500分の1と被告に生じた費用を被告の負担とし、原告株式会社X1に生じたその余の費用並びに乙事件原告X2、乙事件原告X3有限会社及び乙事件原告X4に生じた費用を原告らの負担とする。
5 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1 甲事件
(1)ア 被告が平成20年1月24日付けでした、原告株式会社X1(以下「原告X1社」という。)の平成17年10月12日付けの廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)14条の2の規定に基づく産業廃棄物処理業の事業範囲変更許可申請に対する不許可処分を取り消す。
イ 主位的な義務付け請求
被告は、原告X1社が平成17年10月12日付けでした、廃棄物処理法14条の2の規定に基づく産業廃棄物処理業の事業範囲変更許可申請について、許可処分をせよ。
(2)ア 被告が平成20年1月24日付けでした、原告X1社の平成18年2月3日付けの廃棄物処理法14条の2の規定に基づく産業廃棄物処理業の事業範囲変更許可申請に対する不許可処分を取り消す。
イ 予備的な義務付け請求
被告は、原告X1社が平成18年2月3日付けでした、廃棄物処理法14条の2の規定に基づく産業廃棄物処理業の事業範囲変更許可申請について、許可処分をせよ。
なお、取消請求(上記(1)ア及び(2)ア)については、平成17年10月12日付けの申請及び平成18年2月3日付けの申請のいずれに対しても不許可処分がされている以上、主位的、予備的という関係にはならない。
2 乙事件
被告は、原告X1社に対して69億3209万4690円並びにうち46億6226万3058円に対する平成19年10月10日(乙事件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員、うち22億6070万0972円に対する平成20年9月2日(同年8月31日付け訴え変更申立書送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員及びうち913万0660円に対する平成21年5月23日(同年4月30日付け訴え変更申立書送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を、乙事件原告X3有限会社(以下「原告X3社」という。)に対して1億2968万0750円並びにうち1億2071万7850円に対する平成19年10月10日から支払済みまで年5分の割合による金員、うち896万2900円に対する平成21年5月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を、乙事件原告X2(以下「原告X2」という。)に対して3300万円及びこれに対する平成19年10月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を、乙事件原告X4(以下「原告X4」という。)に対して3300万円及びこれに対する平成19年10月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を、各支払え。
第2事案の概要
甲事件は、産業廃棄物処理業等を目的とする株式会社である原告X1社が、廃棄物処理法14条の2の規定に基づく産業廃棄物処理業の事業範囲変更許可申請に対して長野県知事がした不許可処分の取消しを求めるとともに、同申請に対する許可処分の義務付けを求める事案である。
乙事件は、乙事件原告らが、原告X1社のした上記申請に関する別紙5第1記載の各行為が違法であると主張して、国家賠償法1条1項に基づき、被告に対して損害の賠償を求める事案である。
1 前提事実(争いがないか、証拠により容易に認められる。)
(1) 被告における産業廃棄物処理業の許可申請に関する事務は、被告生活環境部廃棄物対策課作成にかかる「廃棄物の処理関係事務処理要領」(〔証拠省略〕)(以下「本件事務処理要領」という。)に基づいて行われており、これに基づく申請手続の概要は、許可申請を行おうとする者に対する説明資料である「産業廃棄物処分業の許可申請の手引き」(〔証拠省略〕)(以下「本件手引き」という。)で紹介されている。
本件事務処理要領には、産業廃棄物処理業の変更許可に関する事務について、次の定めがある。
ア 事前指導
(ア) 書類審査等
a 地方事務所長は、提出された処分計画書の不備事項等を指導、整備の上、所内関係課と調整するとともに、関係機関に合議して関係法令に違反しないことを確認し、適当と認めたときは、処分計画書1部を、処分を行おうとする施設の所在地を管轄する市町村長及び隣接する市町村が生ずる場合は隣接市町村長に送付し、意見を求めるものとする。
b 地方事務所長は、aの手続きが終了した後、その意見及び地方事務所長の意見を付して廃棄物対策課長へ進達するものとする。なお、処分を行おうとする所在地を管轄する地方事務所と事務所を管轄する地方事務所が異なる場合は、事務所を管轄する地方事務所長へも処分計画書1部を送付するものとする。
c 廃棄物対策課長は、地方事務所長から処分計画書の送付を受けたときは、書類審査を行うとともに、地方事務所長と協議の上、必要に応じ現地調査を行うものとする。
(イ) 処分計画者指導
廃棄物対策課長は、書類審査、現地調査等の結果、整備を要する事項があったときは、処分計画者に対して指導書を地方事務所長を経由して送付するものとする。
(ウ) 指導結果報告
処分計画者は、指導書に基づき整備を行ったときは、指導結果報告書2部を地方事務所長へ提出しなければならない。
(エ) 現地再調査
地方事務所長は、指導結果報告書の提出があったときは、必要に応じて現地再調査を行い、処分計画者が指導書に基づく処置を行ったと認めたときは、その旨を指導結果報告書とともに廃棄物対策課長へ進達するものとする。
イ 事前審査結果の通知
(ア) 廃棄物対策課長は、事前指導の結果、適正であると認めたときは、その旨を計画者に対して地方事務所長を経由して通知するものとする。
(イ) 廃棄物対策課長は、事前指導の結果、不適当であると認めたときは、その旨を計画者に対して地方事務所長を経由して通知するものとする。
(2) 原告X1社は、平成13年12月12日に長野県知事から、事業の範囲を中間処理(粉砕、溶融固化、切断、圧縮、乾燥、破砕、圧縮梱包)とする産業廃棄物処理業の許可を受けていたところ、事業範囲を拡大し、長野県安曇野市三郷小倉<以下省略>の土地(以下「本件土地」という。)に産業廃棄物処理施設(圧縮、圧縮梱包、切断、破砕、中和、脱水、乾燥、堆肥化、油水分離等の処理施設)を設置し、加工業並びに産業廃棄物処理業を営むことを計画した。
(3) 原告X1社の代表者である原告X2は、平成15年4月28日、同年1月1日から同年12月31日まで北小倉区の代表区長を務めたA(以下「A区長」という。)のもとを訪れた。A区長は、同年4月28日、「私は、南安曇郡三郷村大字小倉<以下省略>、株式会社X1が同番地内に設置する一般廃棄物兼産業廃棄物処理施設で、下記の廃棄物処理業を行うことに同意します。」と記載され、廃棄物の種類、事業区分及び処理方法が記載された同日付け同意書(〔証拠省略〕。以下「本件同意書1」という。)に、北小倉区代表区長として署名し、北小倉区長の印を押印した。
原告X1社は、平成15年5月、被告松本地方事務所に、産業廃棄物の処分事業計画書を上記同意書とともに提出した。
(4) 被告松本地方事務所の担当者は、処分事業計画書を事前審査のために正式に受理すべく、「産業廃棄物処分業一事業計画・処理施設設置計画書チェック表」(〔証拠省略〕)に基づく書類審査を行い、原告X1社に対して、平成15年5月ないし8月の間、申請書類の不備を指摘し、訂正部分について書類の差し替えを指導し、同年8月には、原告X1社に対し、処分事業計画についての地元住民への説明等の経過についての書面(以下「説明経過書面」という。)を提出するように指示した。
原告X1社は、上記指導のあった書類の訂正や差し替えを行うとともに、原告X2が、説明経過書面作成のために、A区長のもとに赴いた。A区長は、同年8月18日、平成14年年初から平成15年4月28日までの経過を記載した「施設設置に関する地元住民への説明会等に係る経過について」と題する書面(〔証拠省略〕。以下「本件説明経過書面1」という。)に、北小倉区代表区長として署名し、北小倉区長の印を押印した。原告X1社は、同書面を被告松本地方事務所に提出した。
被告は、同年8月29日、原告X1社が提出した産業廃棄物(特別管理産業廃棄物)の処分事業計画書を受理した。なお、同処分事業計画書は、その後、被告からの補正指導による書類整備を経て、〔証拠省略〕の計画書(以下「本件事業計画書」という。)となった。
(5) 被告松本地方事務所は、原告X1社から提出された処分事業計画について、関係法令違反の有無などを審査し、同計画について三郷村(三郷村は平成17年10月1日に安曇野市と合併した。)や被告松本地方事務所建築課建築係等に意見照会をするなどした(〔証拠省略〕)。
上記意見照会に対して三郷村から、本件同意書1に「関係法令を遵守し景観の保全、公害防止及び危険の防止に努めること、また苦情や問題が生じた場合は、直ちに事業を停止し、誠意を持って速やかに解決を図るものとする」という確約文言を入れるように指導すること、本件説明経過書面1中の文章を削除することなどを求める旨回答があったため、被告松本地方事務所は、平成15年11月6日、原告X1社に対し、「産業廃棄物処分事業計画書の整備について」と題する書面(〔証拠省略〕)を交付して、上記三郷村からの指摘事項について事業計画書を整備するよう指導した。
原告X2は、同年11月8日、A区長のもとを訪れた。A区長は、本件同意書1の内容に「確約事項 関係法令を遵守し景観の保全、公害防止及び危険防止に努めること、また、苦情や問題が生じた場合は、直ちに事業を停止し、誠意を持って速やかに解決を図ることを確約致します。」との記載を加えた同日付け同意書(〔証拠省略〕。以下「本件同意書2」という。)、本件説明経過書面1の記載から三郷村職員の名前を削除した同日付け「施設設置に関する地元住民への説明会等に係る経過について」と題する書面(〔証拠省略〕。以下「本件説明経過書面2」という。)に、北小倉区代表区長として署名し、北小倉区長の印を押印した。原告X5は、本件同意書2及び本件経過書面2を被告松本地方事務所に提出した。
被告松本地方事務所長は、同年12月9日、「産業廃棄物処分業事業計画書について(進達)」と題する書面(〔証拠省略〕)とともに、事業計画書を被告廃棄物対策課長に進達し、被告廃棄物対策課は、同月12日、事業計画書を受理した。また、被告松本地方事務所生活環境課環境保全係長は、平成16年3月25日、被告廃棄物対策課廃棄物審査係長に対し、原告X1社から提出された差替え書類を送付した(〔証拠省略〕)。
被告廃棄物対策課は、同事業計画書を審査し、平成16年4月30日、被告松本地方事務所を通じて、原告X1社に対し、同事業計画書の補正を指導した(〔証拠省略〕)。
原告X1社は、上記一連の指導を受けて書類を整備したり、事業計画の一部変更を申し出るなどした。最終的に整備された事業計画書は別紙2「承認した「事業計画書」と〔証拠省略〕との相違点」(平成20年8月29日付け被告準備書面(1)別紙2「承認した「事業計画書」と〔証拠省略〕との相違点」の写し)に挙げられた点を除いて〔証拠省略〕の書類である(本件事業計画書)。
(6) 本件承認
被告廃棄物対策課廃棄物審査係主任は、平成16年7月20日に起案した「産業廃棄物処分事業計画書について(変更許可)」との件名の決裁文書(〔証拠省略〕)において、原告X1社から「産業廃棄物の処分事業計画書の提出があり、内容を審査したところ、関係基準に適合していると認められますので、その旨通知してよいでしょうか。御決裁の上は、次案以下により施行してよいでしょうか。」との決裁を求め、同月23日、廃棄物対策課長、廃棄物監視指導室長等の決裁を得た。
被告生活環境部長は、同年7月23日、原告X1社に対し、「平成15年12月9日付けで受理しました産業廃棄物処分事業計画書について、支障ないと認められます。また、廃棄物の処理及び清掃に関する法律第14条の2第2項において準用する第14条第10項第2号に係る申請者の欠格要件については、許可申請時に審査しますので申し添えます。」と記載された「産業廃棄物処分事業計画書について(通知)」と題する書面(〔証拠省略〕)を交付し、本件事業計画書を承認する旨通知した(以下「本件承認」という。)。
(7) 原告X1社は、平成16年9月中旬、後記(9)記載の産業廃棄物中間処理施設の建設を開始した。
(8) 北小倉区の住民は、平成16年9月29日、三郷村住民課を訪れ、産業廃棄物処理について同意していない旨述べたが、同課担当者は、区長が区の総意として同意しているので区長に話をしてほしいと回答し、また、同年12月14日には北小倉区さばい地区の住民が、同月16日には北小倉区一本松地区の住民が、被告松本地方事務所生活環境課を訪れ、本件施設について説明がないまま建設が進んでいることに不信感がある旨述べた。同課担当者は、同人らに対し、業者に地元住民への説明をするよう指導する旨回答するとともに、原告X5に対し、住民説明会を行い住民の不信感を払拭するよう指導した(〔証拠省略〕)。
原告X1社は、平成17年1月23日、北小倉区住民に対して、本件施設に係る事業計画についての住民説明会を行った(〔証拠省略〕)。
北小倉区の住民であるB及びCは、平成17年2月17日、被告廃棄物対策課に対し、北小倉区ごみ処理場問題対策委員会委員長代行(副委員長)の肩書きで、北小倉区の有権者608名中486名の署名を添えて、本件各同意書は、区長への説明が不十分なまま、また住民への説明が全く行われないまま作成されたものであるから、その内容を認めることはできず、平成17年2月13日に開催された区民大会の議決により同意書を撤回する旨記載された同月14日付けの長野県知事宛ての「同意書撤回通知書」(〔証拠省略〕)を提出した。
(9) 原告X1社は、平成17年2月18日、被告松本地方事務所長に対し、下記の産業廃棄物中間処理施設(〔証拠省略〕。以下「本件施設」という。)の設置工事が同月16日に完了し、同年3月20日に使用開始予定である旨の処分用施設設置工事完了届出書(〔証拠省略〕)を提出した。なお、同完了届出書は、平成17年3月16日、原告X1社に返戻された(〔証拠省略〕)。
記
所在 安曇野市三郷小倉<以下省略>
家屋番号 <省略>
種類 作業所
構造 鉄骨造ビニール板葺平家建
床面積 1158.75m2
付属建物 1 作業所 鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺平家建 1095m2
2 脱臭所 鉄筋コンクリート造ビニール板葺平家建 297m2
3 作業所 鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺平家建 69.69m2
4 作業所 鉄骨造ビニール板葺平家建 40m2
(10) 本件承認の取消し
被告生活環境部長は、平成17年3月3日、原告X1社に対し、「平成15年8月29日付け提出の「産業廃棄物の処分事業計画書」について、平成16年7月23日付け16廃第20―6号長野県生活環境部長通知は下記理由により取消します。」「記 平成15年8月29日付け提出の「産業廃棄物の処分事業計画書」…(中略)について、一部書類の記載事項が事実と異なるため。」と記載された「産業廃棄物の処分事業計画書に係る承認の取消及び一般廃棄物処理施設設置計画書に係る不承認について(通知)」と題する文書(〔証拠省略〕)を交付し、本件承認を取り消す旨通知した。
被告生活環境部廃棄物対策課の担当者は、翌4日、原告X1社に対し、次のア及びイの内容が記載された「(株)X1に係る書類関係の調査結果」と題する文書(〔証拠省略〕)をファクシミリ送信した。
ア 「提出された書類の記載事項が事実と異なる部分」として、次の2点が挙げられていた。
(ア) 提出された南安曇郡三郷村大字大倉<以下省略>の公図について、平成16年2月4日に南安曇郡三郷村大字大倉<以下省略>を<省略>と<省略>に分筆された。
(イ) 提出された平成15年4月28日付けの同意書について、平成17年2月14日付け同意書撤回通知書により平成15年4月28日付けの同意書が撤回された。
イ 本件承認「以降に変更があったものであるが生活環境への影響が懸念されることから重大な関心があるもの」として、次の4点が挙げられていた。
(ア) 提出された油水分離施設に係る処理施設の構造図等では、(a)油水分離後の排水は全量乾燥処理することとされている、(b)雨水浸透桝はないが、平成16年10月1日の計画変更確認申請書では、(a)第7油水分離棟の平面図に排水溝が記載されており、排水が屋外の集水桝に流入するように記載されている、(b)雨水浸透桝の位置が記載されている。
(イ) 提出された油水分離施設に係る処理施設の構造図等では、油水分離槽はないが、平成17年2月9日に豊科建設事務所が許可した砂防指定地内行為許可申請書に基づく現地調査の結果、油水分離槽を確認した。
(ウ) 提出された油水分離施設に係る維持管理計画では、施設からは構造上流出しない、廃油が漏れる構造ではないとされているが、平成16年10月1日の計画変更確認申請書では、第7油水分離棟の平面図に排水溝が記載されており、排水が屋外の集水桝に流入するよう申請されている。
(エ) 提出された南安曇郡三郷村大字大倉<以下省略>の公図について、平成16年12月13日に南安曇郡三郷村大字大倉<以下省略>、<省略>及び<省略>を<省略>に合筆させた。
(11) 試運転計画書の提出及び返戻
原告X1社は、平成17年3月11日、被告生活環境部廃棄物対策課に対し、本件施設の試運転計画を報告する旨の長野県知事宛の試運転計画書(〔証拠省略〕)を提出した。
被告生活環境部廃棄物対策課長は、同月28日付けで、原告X1社に対し、本件承認の取消しを通知しているので同試運転計画書を返戻する旨記載された事務連絡文書(〔証拠省略〕)とともに、同試運転計画書を送付し、これを返戻した。
(12) 廃棄物再生事業者登録申請書
原告X1社は、平成17年3月14日、廃棄物再生事業者登録申請書(〔証拠省略〕)を持参して被告松本地方事務所を訪れた。
(13)ア 被告は、平成17年5月17日及び同年6月21日、原告X1社に対し、北小倉区住民に対する説明会の再度の開催を打診し、同月22日、原告X1社と、住民説明会に関する打合せを行った。
被告は、同年7月28日、北小倉区住民と打合せを行い、住民説明会の開催日は8月5日にするなど、住民説明会の実施に向けて具体的な調整を行い、同年7月29日、原告X1社に対し、地元住民との打合せ結果を事業者へ伝え、北小倉区住民への説明を誠意をもって行ってほしい旨を要望した。
イ 同年8月5日、原告X1社の北小倉区住民に対する説明会が開催された。原告X2は当日用意した資料を読みあげたが、住民から、他の資料も提出してほしい旨の要望が出されたため、被告担当者は、北小倉区住民に対し、提出を求める資料を具体的に示すよう求めた。
北小倉区住民が、同年8月8日、被告に対し、原告X1社に追加提出を求める資料を連絡したため、被告生活環境部廃棄物対策課廃棄物審査ユニットリーダーは、同日、原告X1社に対し、上記追加資料を列挙した「北小倉区ゴミ処理場問題対策委員会からの要求資料について」と題する文書(〔証拠省略〕)をファクシミリ送信した。
被告担当者は、同年8月12日、19日、23日、原告X1社に対し、上記追加資料を提出するよう督促した。同年8月19日の督促の際には、原告X2から「この件はコンサルタントに任せてあるのでコンサルタントと直接話をしてほしい」との申入れがあったことから、被告担当者は同コンサルタントに対して督促を行った。同コンサルタントは、三郷村から上下水道の接続を止められているため、排水を地下浸透するよう計画を作り直しているのでもう少し時間が欲しい旨回答した。被告担当者はこれを地元住民に伝えた。
(14) 産業廃棄物処理業の事業範囲変更許可申請
ア 原告X1社は、平成17年9月26日、産業廃棄物処理業の事業範囲変更許可申請書を持参して被告松本地方事務所を訪れ、これを提出したいと述べたが、同事務所担当者は、これを受領できないと述べた。そして、被告松本地方事務所生活環境課長は、同年10月4日、原告X1社に対し、「先日、産業廃棄物処理業の事業範囲変更許可申請書を持参されましたが、長野県では廃棄物の処理関係事務処理要領により当該申請書の提出に先立って、産業廃棄物の処分事業計画書を提出いただくことになっています。従いまして、申請にあたってはまず、上記要領に基づく産業廃棄物の処分事業計画書を御提出くださるようお願い致します。」と記載した文書(〔証拠省略〕)を送付した。
イ 原告X1社は、同年10月5日、産業廃棄物処理業の事業範囲変更許可申請書を持参して被告松本地方事務所を訪れ、これを提出したいと述べたが、同事務所担当者は、これを受領できないと述べた。
ウ 原告X1社は、同年10月11日、被告松本地方事務所に対し、「到着しましたら、是非受付けた上、内容を審査して、許可してくださるようお願い申し上げます。もし不足の書類がありましたら、ご指摘ください。補正して提出します。」「もし受取を拒否し返還してきた場合には不作為の違法の訴を提出するとともに、損害賠償請求等、法律上の可能なあらゆる責任追及の手続きをとります」と記載された長野県知事宛ての送付書(〔証拠省略〕)とともに、産業廃棄物処理業の事業範囲変更許可申請書等申請書類一式(〔証拠省略〕。以下「本件申請書類1」という。)を郵送し、同年10月12日、同送付書及び同申請書類一式は被告松本地方事務所に到達した(以下「本件申請1」という。)。
被告松本地方事務所長は、同年10月17日、原告X1社に対し、「長野県では当該申請書の提出に先立って、廃棄物の処理関係事務処理要領に基づく産業廃棄物の処分事業計画書を提出いただくこととしております。」「申請書は返戻しますので、この制度の趣旨を御理解いただき、事務処理要領に基づく産業廃棄物の処分事業計画書を提出いただきますようお願いいたします。」と記載した文書(〔証拠省略〕)とともに、上記許可申請書を返戻した。
エ 原告X1社は、同年10月20日、長野県知事に対し、既に本件事業計画書について承認を得ており、本件承認の取消しは違法であること、それにもかかわらず処分事業計画書の提出を求める行政指導は不合理でありこれに従う意思はないことなど記載された長野県知事宛ての文書(〔証拠省略〕)とともに、前記ウの申請書類一式を郵送し、同日、同申請書類等は長野県知事に到達した。
被告松本地方事務所長は、同年10月27日、原告X1社に対し、前記ウの文書と同内容の文書(〔証拠省略〕)とともに、上記許可申請書を返戻した。
オ 原告X1社は、平成18年2月3日、被告松本地方事務所に対し、「速やかに受理の上、許可賜りますよう、よろしくお願い申上げます。なお当社は、本許可申請についても、処分事業計画書を提出せよとの行政指導を受ける意思は全くありません」と記載された「産業廃棄物処理業の事業範囲変更許可申請書提出の件及び受理要請の件」と題する文書(〔証拠省略〕)とともに、産業廃棄物処理業の事業範囲変更許可申請書等申請書類一式(〔証拠省略〕。以下「本件申請書類2」といい、本件申請書類1と併せて「本件各申請書類」という。)を郵送し、この許可申請書は同日に被告松本地方事務所に到達した(以下「本件申請2」といい、本件申請1と併せて「本件各申請」という。)。なお、本件申請書類1と本件申請書類2の異なる点は、施設の設置場所につき、本件申請書類1の申請書では長野県安曇野市三郷小倉<以下省略>(本件土地)及び同<省略>とされていたが、本件事業計画書には同<省略>が含まれていなかったため、これに符合させて、本件申請書類2の申請書においては設置場所を本件土地に限定したことだけであった。
被告松本地方事務所長は、同月16日、原告X1社に対し、「長野県では当該申請書の提出に先立ち、「産業廃棄物処分業事業計画等に係る事前公表ガイドライン(平成18年1月1日施行)」に基づく産業廃棄物処分業事業計画概要書…を提出いただき、地域住民との合意形成後に「廃棄物の処理関係事務処理要領」に基づく産業廃棄物の処分事業計画書を提出していただくこととしております。」と記載した文書(〔証拠省略〕)を添付の上、上記許可申請書を返戻した。
カ なお、本件各申請は、別紙3「承認した「事業計画書」と〔証拠省略〕及び〔証拠省略〕(申請書)との相違点」(平成20年8月29日付け被告準備書面(1)別紙「承認した「事業計画書」と〔証拠省略〕及び〔証拠省略〕(申請書)との相違点」の写し)記載の点が本件事業計画書と異なっていた。
(15) 別件訴訟
原告X1社は、平成18年3月3日、被告を相手方として、ア 本件申請1及び本件申請2について被告が何らの行政処分をしないことの違法確認、イ 本件申請1及び本件申請2についての許可処分の義務付けを求めて、長野地方裁判所に訴えを提起した(平成18年(行ウ)第5号不作為の違法確認等請求事件)。
長野地方裁判所は、平成19年5月21日、「口頭弁論の終結した平成19年3月14日までに何らの処分をしないことは、いずれも違法である」として上記違法確認の請求を認容し、許可処分の義務付けの請求は棄却する旨の判決を言い渡した(〔証拠省略〕)。
原告X1社及び被告は、それぞれ控訴を提起した(平成19年(行コ)第204号不作為の違法確認等請求控訴事件)。東京高等裁判所は、平成20年4月23日、控訴審係属中に被告が本件各申請に対して不許可処分をした(後記(16))ため、不作為の違法確認の訴えについては訴えの利益が失われ、これに伴い義務付けの訴えも訴訟要件を欠くに至ったとして、原判決を取り消し、原告X1社の訴えをいずれも却下する旨の判決を言い渡した(〔証拠省略〕)。
(16) 長野県知事は、平成20年1月24日、本件各申請に対し、不許可処分をした(以下、本件申請1に対する不許可処分を「本件不許可処分1」、本件申請2に対する不許可処分を「本件不許可処分2」といい、これらを併せて「本件各不許可処分」という。)。
本件申請1についての不許可処分通知書(〔証拠省略〕)及び「不許可処分理由の根拠について」と題する文書(〔証拠省略〕)には、不許可処分理由として、下記の1ないし5のとおり記載されていた。本件申請2についての不許可処分通知書(〔証拠省略〕)及び「不許可処分理由の根拠について」と題する文書(〔証拠省略〕)の記載内容も本件申請1についての不許可処分通知書及び「不許可処分理由の根拠について」と題する文書と同一であった。なお、以下、この不許可処分理由については、下記1の不許可処分理由を「不許可理由1」などといい、下記4の不許可処分理由については、下記4(1)の不許可処分理由を「不許可理由4―1」などということとする。
記
1 特別管理産業廃棄物である軽油の油水分離処理は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律14条の4第6項の規定による許可が必要であり、本件申請に係る事業範囲に含むことはできない。
(理由)
油水分離処理に係る「油水分離施設の仕様書及び設計計算書」の書面によれば、「1 設計目的」において軽油の処理をすることとなっており、「3 廃油の性状」において、軽油の性状は油分98~88%となっている。当該軽油は同法施行令2条の4第1号の規定により特別管理産業廃棄物に該当する。
2 一般廃棄物である紙くずの圧縮梱包処理は、同法7条6項の規定による許可が必要であり、本件申請に係る事業範囲に含むことはできない。
(理由)
「事業計画書」の書面中、「2 産業廃棄物の種類及び取引予定」によれば、排出予定事業者のa1(株)から紙くずを受け入れ圧縮梱包処理をすることとなっている。当該紙くずは、同法施行令2条1号の規定により産業廃棄物に該当せず、一般廃棄物に該当する。
3 汚泥の脱水処理施設は、同法15条1項の規定による許可が必要であり、同許可を得ていない当該処理施設は、同法14条10項1号に定められた許可基準(その事業を的確に、かつ、継続して行うに足りるものとして環境省令で定める基準)に適合しない。
(理由)
「中和・脱水・乾燥設備仕様書」の書面によれば、重力脱水装置32袋の設計となっており、これによる処理能力を申請人の示した算定方法に従って計算すれば、32袋×1m3÷3日=10.6m3と算定されることになる。当該処理施設は、同法施行令7条1号の規定により、同法15条1項の許可を要する施設に該当する。なお、「脱水設備外形図」の図面には、32袋仕様のうち28袋を使用する記載となっているが、これをもって処理能力を算定することは認められない。
4 本件申請に係る事業の用に供する施設が、以下のとおり、許可基準に適合するものであることが判断できない。
(1) 堆肥化処理における発酵棟は、能力計算書で示された発酵処理能力を満たしたものとなっていない。
(理由)
堆肥化処理に係る「能力計算書」の書面によれば、所期の発酵をさせるには、処理日数を25日とし発酵槽の長さは60m必要と計算している。一方、添付された発酵棟の設計図面によれば、発酵槽の長さは55m(=75m-10m-10m)と設計されている。このことから当該処理施設は、本件申請に係る処理能力を満たした設計となっていないものと認められる。
(2) 堆肥化処理における脱臭槽は、脱臭槽規模算定で示された脱臭処理能力を満たしたものとなっていない。
(理由)
堆肥化処理施設の設計図面からは、①発酵棟建屋の容量5062.5m3、②処理内容物の容量1320m3、③脱臭対象容量3742.5m3(①-②)、④脱臭槽面積297m2と計算される。①ないし③を踏まえ、「脱臭槽規模算定書」の書面に示された算定方法に従って計算すれば、脱臭槽有効面積は346m2必要となり、④では面積不足となる。このことから、堆肥化処理に不可欠な当該脱臭槽は、本件申請に係る脱臭処理能力を満たした設計となっていないものと認められる。
(3) 堆肥化処理の臭気対策として計画している洗浄棟と脱臭槽について、その排気系統が明らかにされておらず、臭気を適正に処理できるものか明らかにされていない。
(理由)
堆肥化処理における洗浄棟と脱臭槽について、排気系統を表した書類がなく、堆肥化処理の臭気対策工程が明らかにされていない。
(4) 中和・脱水・乾燥処理の臭気対策として計画している熱分解脱臭処理について、臭気を適正に処理できる能力であるか明らかにされていない。
(理由)
中和・脱水・乾燥処理の臭気対策として設置する熱分解脱臭炉について、設計図面は添付されているが、脱臭処理能力について明らかにされていない。
(5) 油水分離処理の臭気対策として計画している熱分解処理について、臭気を適正に処理できる能力であるか明らかにされていない。
(理由)
油水分離処理の臭気対策として設置する温水機脱臭炉について、設計図面は添付されているが、脱臭処理能力について明らかにされていない。
(6) 上記(3)から(5)に係る処理の臭気対策により、申請人が生活環境の保全上達成すると設定した臭気指数を達成できるものであるか明らかにされていない。
(理由)
「施設の構造に係る事項」の書面2枚目「【生活環境の保全】」には、臭気に関し、設計計算上達成することができる数値及び周辺地域の生活環境保全のため達成することとした数値の記載があるが、それを達成できることが明らかにされていない。
(7) 圧縮切断処理、圧縮梱包処理、圧縮処理及び破砕処理の騒音対策について、必要な措置が講じられているか具体的に明らかにされていない。
(理由)
「施設の構造に係る事項」の書面2枚目「【生活環境の保全】」には、騒音値は60dbを管理目標値としており、また、「施設の維持管理に関する計画書」の書面には、騒音の防止策が記載されているが、圧縮切断処理、圧縮梱包処理、圧縮処理及び破砕処理の騒音発生が予測される施設について、音発生源の騒音レベルの把握がなく、建屋や防音カバーの効果に関し減衰計算等も示されていない等、申請人が計画する騒音防止策の具体的内容が明らかにされていない。
5 本件申請には、地元住民の意向及び地元説明会の経過について虚偽の書類が添付されている。
(理由)
本件申請には、平成15年4月28日付け「同意書」及び平成15年8月18日付け「施設設置に関する地元住民への説明会等に係る経過について」の書類並びに平成15年11月8日付け「同意書」及び平成15年11月8日付け「施設設置に関する地元住民への説明会等に係る経過について」の書類が添付され、申請人の事業計画に対しては地元住民から総意として賛成を得ているかのような体裁が整えられている。
しかし、平成15年8月18日付け及び平成15年11月8日付け「施設設置に関する地元住民への説明会等に係る経過について」の書面中、地元北小倉区への対応に関する記述は、以下のとおり事実と反していることが判明した。
・「平成14年5月6日」に、北小倉区の祭典直後の懇親会の席上、申請人から事業説明をした事実はない。後日、組合長より各組合の住民の合意を得た旨の報告がされた事実もない。申請人の本件申請に係る事業内容に対して、北小倉区をあげての応援が約束された事実もない。
・「平成15年 年初」に、申請人が母体となりX3有限会社から事業計画を移行すること及び追加事業計画について、15年度当時の北小倉区長に相談をした事実はない。当該区長が当該事業計画を理解した事実もなく、組合長会議等で住民に何回も説明を行った事実もない。
・「平成15年4月28日」に、各組合長、住民の理解を得た事実はない。
このような経過が判明したため、当該「同意書」は、事業計画内容の説明が地元住民へは全くなされず、従って、地元住民の理解が得られていない中で作成されたものであり、地元の総意により作成された書類であるとは認められない。そればかりか、申請人から地元区長個人に対し、判断を誤らせるような欺罔行為が行われたことも確認されている。これらのことから、「同意書」は虚偽の書類であると判断せざるを得ない。
「同意書」及び「施設設置に関する地元住民への説明会等に係る経過について」の書類の添付は法の要件ではないものの、申請人が本件申請に対する許可を得ようとして添付された書類である。その書類が虚偽であることが判明したのであるから、本件申請は認めることができない。
なお、「事業計画書」の書面中、「周辺住民等の合意形成に係る状況」欄の記載内容についても、周辺住民に対する事業内容の敷衍はなされていないことから、虚偽記載と言わざるを得ない。
また、上記のごとく虚偽の書類を作成添付するような不誠実な行為を行って本件申請を行う申請人の資質は、法の許可制度の趣旨から許容し難いものである。
(17) 原告X1社は、長野地方裁判所に対し、平成19年9月21日、乙事件の訴えを提起し、平成20年5月16日、甲事件の訴えを提起した。
2 当事者の主張
(1) 甲事件について
本件各不許可処分の理由についての被告の主張は別紙4「甲事件における当事者の主張」第1に記載のとおりであり、本件各不許可処分の適法性(①本件承認をしたにもかかわらず不許可としたことが許可権限の踰越、濫用となるか、②不許可理由1ないし5が法令の求める要件を充足していないという理由になるか、③補正の機会を与えるべき義務の違反があったか、④比例原則に反するか)についての当事者の主張は同別紙第2に記載のとおりであり、許可処分の義務付けについての当事者の主張は同別紙第3に記載のとおりである。
(2) 乙事件について
原告らが主張する被告職員の違法行為は別紙5「乙事件における当事者の主張」第1記載のとおりであり、この行為の違法性、職員等の故意又は過失、損害についての当事者の主張は同別紙第2及び第3に記載のとおりである。
第3甲事件についての当裁判所の判断
1 本件承認をしたにもかかわらず不許可処分をしたことが許可権限の踰越、濫用となるかについて
前記第2の1(1)及び〔証拠省略〕によれば、本件事務処理要領では、産業廃棄物処理業の変更許可を行おうとする者は、処分事業計画書を管轄の地方事務所に提出し、これについて事前指導を受けるものと定めていることが認められる。
処分事業計画書の提出は、許可申請に先立って行われるもので、許可申請行為とは別の手続であり、いわばその準備的な手続としての意味を有するものと解される。しかし、廃棄物処理法や同法施行規則にも、許可申請とは別にこのような事前の手続を定めた規定は存在していないのであるから、処分事業計画書の提出は、本件事務処理要領によって初めて定められたものといえ、本件事務処理要領は、被告内部において廃棄物処理法に関する行政上の事務の扱いを明らかにしたものにすぎない(本件手引きは、被告内部の扱いを申請者に周知させようとするものにすぎない。)。よって、本件事務処理要領で定められた処分事業計画書の提出、これについての審査、指導及びその結果の通知といった手続は、具体的な法令の根拠に基づかないものであって、行政指導の一環として、産業廃棄物処理業に関する許可申請を行おうとする者に対し処分事業計画の内容の報告を求めることとした事実上の手続ということができる。なお、このことは、事前審査において関係法令に違反しないか等の実質的審査が行われていたり、本件承認にあたり被告廃棄物対策課長ほか複数の担当者の決裁を経ていることによって左右されるものではない。
このように、処分事業計画書の提出、これについての審査、指導及びその結果の通知といった手続が行政指導として事実上行われる許可申請の準備的な手続であることからすれば、処分事業計画書の提出が許可申請をするための法律的な要件でないことはもとより、処分事業計画に対する承認、不承認は、具体的な法令の根拠に基づかない事実上の意見の表明ないし勧告といったものにすぎないというべきである。確かに、処分事業計画が承認されれば、許可申請も認められる可能性が高いとは考えられ、提出者に将来の許可申請が認められるであろうとの期待を与えるということはできるが、これは、あくまでも事実上のものにすぎないのであって、承認が、申請に対して処分を行う処分行政庁の判断内容について何らかの法律上の効果を有しているものではないし、その判断内容について提出者に何らかの法的地位や利益を与えるものでもない。
よって、本件承認をしたことをもって直ちに本件各不許可処分が権限の踰越、濫用になるということはできない。
2 不許可理由1について
不許可理由1は、本件各申請が特別管理産業廃棄物である軽油(廃棄物処理法2条5項、同法施行令2条の4、同法施行規則1条の2)を扱う内容となっているというものである。
本件各申請書類1枚目の「許可に係る事業の範囲」欄には油水分離処理事業について「廃油(特別管理産業廃棄物であるものを除く。)」と記載されており、油水分離処理施設については、本件各申請書類インデックス「油水分離」2枚目の「処理する産業廃棄物・特別管理産業廃棄物の種類」欄に「廃油(特別管理産業廃棄物であるものを除く。)」と記載されている。これらの記載からは、原告X1社は、特別管理産業廃棄物である軽油の処理を予定していないことが分かる。
この点、本件各申請書類インデックス「油水分離」13枚目「別紙1 油水分離施設の仕様書及び設計計算書」の「設計目的」欄には、対象となる廃油として潤滑油及び植物性廃油のほかに「軽油」も挙げられており、また、「廃油の性状」欄には、潤滑油及び植物性油のほかに「軽油」の性状も挙げられている。しかしながら、同書面は、油水分離施設の仕様及び設計計算を示すための書類であって、当該施設が軽油を処理することが可能な仕様、設計であることと、軽油の処理を実際に行う予定であるのかは別の問題であるから、上記記載をもって、本件各申請が軽油を扱う内容となっているということはできない。
よって、不許可理由1には理由がない。
3 不許可理由2について
不許可理由2は、本件各申請が一般廃棄物の処理を事業範囲としており、県知事がこれを認めることはできないというものである。
しかしながら、本件各申請は、「産業廃棄物処理業の事業範囲変更許可申請書」(本件各申請書類1枚目)によってなされ、ここには「廃棄物の処理及び清掃に関する法律第14条の2第1項の規定により、産業廃棄物処分業の事業範囲の変更の許可を受けたいので、関係書類及び図面を添えて申請します。」と明記されているのであるから、一般廃棄物の処分をすることについて許可を受けようとするものでないことは明白である。
確かに、紙くずについては、建設業に係るもの(工作物の新築、改築又は除去に伴って生じたものに限る。)、パルプ、紙又は紙加工品の製造業、新聞業(新聞巻取紙を使用して印刷発行を行うものに限る。)、出版業(印刷出版を行うものに限る。)、製本業及び印刷物加工業に係るもの並びにポリ塩化ビフェニルが塗布され、又は染みこんだものに限り、産業廃棄物となり、その余は一般廃棄物となる(廃棄物処理法2条2項、4項、同法施行令2条)ところ、本件各申請書類インデックス「事業計画概要」4枚目「2 産業廃棄物の種類及び取引予定」において記載されている紙くずの排出予定事業者「a1(株)」は、これらの業種に該当せず、また、ポリ塩化ビフェニルが塗布され又は染みこんだものを扱っているわけでもない(弁論の全趣旨)から、同社から排出されるのは一般廃棄物であり、これを圧縮梱包するには市町村長の許可が必要となる(廃棄物処理法7条6項)ものではあるが、この記載をもって、本件各申請が一般廃棄物の処分の許可を求める趣旨も含むものであるとは解されないし、本件各申請による許可をもって一般廃棄物を扱おうとする趣旨であるとも解されない。また、取引予定業者の上記記載が廃棄物処理法施行規則10条の5の施設に係る基準や申請者の能力に係る基準に適合すると認めることを妨げる事情になるともいえない。
よって、不許可理由2には理由がない。
4 不許可理由3について
不許可理由3は、廃棄物処理法15条、同法施行令7条の許可を要する汚泥脱水施設について県知事の許可を得ていないというものである。
廃棄物処理法15条、同法施行令7条は、汚泥の脱水施設であって、1日当たりの処理能力が10立方メートルを超えるものを設置しようとする者は、当該産業廃棄物処理施設を設置しようとする地を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならない旨規定している。そこで、本件各申請にある脱水施設がその設置にあたり、県知事の許可が必要なものであったか(1日当たりの処理能力が10立方メートルを超えるものか)を検討する。
本件各申請書類インデックス「中和・脱水・乾燥」2枚目には、中和・脱水・乾燥処理施設の「公称処理能力」欄に「9.3m3/日・24Hr」と記載されている。これは、脱水袋数28袋を前提に計算されたものである(後ろから3枚目「処理能力計算」)。他方、本件各申請書類インデックス「中和・脱水・乾燥」9枚目「中和・脱水・乾燥設備仕様書」では天日乾燥袋について「袋 32袋」と記載されており、これを前提にすれば、処理能力は10.6m3/日と算出される。そこで、中和・脱水・乾燥処理施設の脱水袋数を見るに、本件各申請書類インデックス「中和・脱水・乾燥」後ろから2枚目「脱水設備架台3」の図面には「吊金具 数量28」と記載されており、後ろから1枚目「脱水設備外形図」の図面には脱水袋28袋(4×7)を吊す構造となっている図が記されていることからすれば、上記「中和・脱水・乾燥設備仕様書」の「32袋」との記載は誤記であり(被告が保管していた「中和・脱水・乾燥設備仕様書」(〔証拠省略〕)では、「袋 32袋」との部分が28袋と手書きで訂正されており、被告も、この記載が誤記であることを認識していたといえる。)、上記施設の脱水袋数は28袋であると認められる。
したがって、本件各申請にある中和・脱水・乾燥処理施設の1日当たりの処理能力は9.3m3であるから、その設置に県知事の許可を要するものではない。
よって、不許可理由3には理由がない。
5 不許可理由4―1について
不許可理由4―1は、堆肥化施設が発酵処理能力を満たした設計となっていないというものである。
本件各申請書類インデックス「コンポスト」12枚目「能力計算書」においては、60mの発酵槽により25日かけて発酵処理を行うこととされている。
そこで、発酵槽の長さを見るに、本件各申請書類インデックス「建物図」6枚目「第1堆肥化施設棟 伏図」によれば、発酵槽の長さは55mとなっている。
この点、堆肥化処理設備を設置した株式会社a2は、堆肥化処理設備を「処分事業計画書の申請書(〔証拠省略〕)通りに、設置し、完成させた事を証明します。」との証明書(〔証拠省略〕)を作成しており、原告X1社は、これを証拠として提出するとともに、本件事業計画書インデックス「7―6」9枚目「第1堆肥化施設棟 平面図」の発酵槽の長さを200分の1の縮尺で見ると60mになっていると主張するが、本件事業計画書インデックス「7―6」9枚目及び15枚目「第1堆肥化施設棟 平面図」の縮尺は必ずしも正確に200分の1になっていないこと、15枚目の平面図では「堆肥化施設」の右側の空間の横の長さが5.3mとされていることから、本件事業計画書を見ても発酵槽の長さが60mであることは確認できない。また、第1堆肥化施設棟の設計をした有限会社a3が平成20年2月ころに発酵槽の長さを60mと訂正した「第1堆肥化施設棟 伏図」(〔証拠省略〕)を作成しているが、これをもって、実際に建設された堆肥化施設が同図面のとおりであるということもできないのであるから、発酵槽の長さを60mであると認めることはできない。そして、本件各申請書類インデックス「建物図」6枚目「第1堆肥化施設棟 伏図」が本件施設の設計書であることからすれば、本件施設は同図面に基づいて建設されたと考えられるから、発酵槽の長さは55mであると認めるのが相当である。
発酵槽の長さが55mでは予定された発酵処理を行うことができないから、本件各申請に係る堆肥化施設が「処分に適する施設である」と認定することができない。そうすると、許可申請が廃棄物処理法施行規則10条の5第1号の基準に「適合していると認めるとき」には当たらないことになる。
よって、発酵槽の長さは55mであることは、不許可理由に該当するということができる。
もっとも、原告X1社に対して補正等の機会を与えないままに不許可理由4―1を理由に不許可処分をすることが許されないことについては、後記11のとおりである。
6 不許可理由4―2について
(1) 本件各申請書類インデックス「脱臭装置」10枚目「脱臭槽規模算定書」で算出されている脱臭槽有効面積は292m2であるから、同算定書のとおりであれば、脱臭処理能力を満たしていることになる。不許可理由4―2は、脱臭槽有効面積算定の前提となる脱臭対象施設の建屋容積と処理内容物の量が誤っており、この誤りを改めて計算し直すと脱臭槽有効面積346m2が必要となって、本件各申請に係る脱臭装置(脱臭槽面積297m2)が脱臭処理能力を満たした設計となっていないというものである。
(2) 不許可理由4―2における「建屋容積」の計算においては、その高さを発酵棟の軒高である4.5mとしている。しかしながら、本件各申請書類インデックス「建物図」5枚目「第1堆肥化施設断面詳細図」、〔証拠省略〕によれば、発酵棟の二層構造になった天井の下層から0.9m下の位置にフッソフィルムが設置されていることが認められ、建屋容積における高さは3.6mとなり、建屋容積が4050m3(長さ75m×幅15m×高さ3.6m。なお、長さと幅については、「本件各申請書類インデックス建物図」6枚目「第1堆肥化施設棟 伏図」から分かる。)であることが認められる。
また、「処理内容物の量」については、1320m3(長さ55m×幅3m×高さ2m×4 本件各申請書類インデックス「建物図」5枚目「第1堆肥化施設断面詳細図」及び同6枚目「第1堆肥化施設棟 伏図」)と算出される。
そうすると、脱臭対策施設の容積は2730m3(4050m3-1320m3)となり、上記脱臭槽規模算定書の設計条件における脱臭対象施設の容積より小さくなるから、脱臭槽有効面積も同算定書で算定された数値よりも小さくなる。
(3) よって、実際の脱臭槽有効面積が上記脱臭槽規模算定書で算定された脱臭槽有効面積より大きくなることを前提とする不許可理由4―2には理由がない。
7 不許可理由4―3ないし4―5について
不許可理由4―3は、発酵槽、洗浄棟、脱臭槽の間における吸排気系統などを表した書類がなく、臭気対策が明らかでないから「処分に適する施設」であると認められないというものである。
不許可理由4―4は、中和・脱水・乾燥処理の臭気対策として計画されている熱分解脱臭炉の処理能力を明らかにした書類がなく、有効な臭気対策が講じられるか明らかでないから「処分に適する施設」であると認められないというものである。
不許可理由4―5は、油水分離処理の臭気対策として計画されている温水機脱臭炉の処理能力を明らかにした書類がなく、有効な臭気対策が講じられるか明らかでないから「処分に適する施設」であると認められないというものである。
産業廃棄物を処分する施設としては、産業廃棄物を処分することができてもその過程で生ずる臭気に対する対策が講じられていなければ、「処分に適する施設」ということはできないところ、脱臭を行うべき装置の能力等が不明な場合には、臭気対策が講じられでいるか否か判断できず、「処分に適する施設である」との認定ができないことになるから、許可申請が廃棄物処理法施行規則10条の5第1号の基準に「適合していると認めるとき」には当たらないことになる。なお、中和・脱水・乾燥処理の臭気対策として計画されている熱分解脱臭炉の処理能力については、本件事業計画書インデックス「6―7」35枚目「脱臭炉熱計算」が提出されているが、本件各申請においては提出されていないのであり、本件事業計画書において上記書面が提出されていても、本件各申請における資料不足を補うことにはならない。
そうすると、本件各申請において、吸排気系統などを表した書類、中和・脱水・乾燥処理の臭気対策として計画されている熱分解脱臭炉の処理能力を明らかにした書類、油水分離処理の臭気対策として計画されている温水機脱臭炉の処理能力を明らかにした書類が提出されていないことは、不許可理由に該当するということができる。
もっとも、原告X1社に対して補正等の機会を与えないままに不許可理由4―3ないし4―5を理由に不許可処分をすることが許されないことについては、後記11のとおりである。
8 不許可理由4―6について
不許可理由4―6は、臭気対策が明らかにされていないから処分に適する施設であるとは認められないというものである。
本件各申請書類インデックス「事業計画概要」8枚目「施設の維持管理に関する計画書」には「悪臭防止策」として「堆肥化処理工程での臭気の発生は洗浄脱臭装置にて洗浄脱臭し、さらに木チップを敷き詰めた脱臭棟において微生物脱臭を行う。」と記載されており、これについては、不許可理由4―3ないし4―5で指摘されているところである。
よって、不許可理由4―6自体に特別な意味を見出せず、前記7の限度で不許可理由に該当するというにとどまる。
9 不許可理由4―7について
不許可理由4―7は、圧縮切断処理、圧縮梱包処理、圧縮処理及び破砕処理の各施設において、音発生源の騒音レベル、建屋や防音カバーの減衰計算等が示されていないから処分に適する施設であると認められないというものである。
産業廃棄物を処分する施設としては、産業廃棄物を処分することができてもその過程で生ずる騒音に対する対策が講じられていなければ、「処分に適する施設」ということができないところ、生ずる騒音レベルとこれに対する防音効果等が不明な場合には、騒音対策が講じられているか否か判断できず、「処分に適する施設である」との認定ができないことになるから、許可申請が廃棄物処理法施行規則10条の5第1号の基準に「適合していると認めるとき」には当たらないことになる。
そうすると、本件各申請において、圧縮切断処理、圧縮梱包処理、圧縮処理及び破砕処理の各施設における音発生源の騒音レベル、建屋や防音カバーの減衰計算等を示す書類が提出されていないことは、不許可理由に該当するということができる。
もっとも、原告X1社に対して補正等の機会を与えないままに不許可理由4―7を理由に不許可処分をすることが許されないことについては、後記11のとおりである。
10 不許可理由5について
(1) 不許可理由5は、本件各申請に対する許可を得ようとして添付された書類である本件各同意書並びに本件各説明経過書面が虚偽であることが判明したから、本件申請は認めることができないというものである。
(2) A区長は、陳述書(〔証拠省略〕)において、同意書に署名押印した経緯について、一本松とさばい地区の住民に説明するように求めたところ、原告X2と原告X4がこれを了解したため、同意書を持参した際には、この説明を済ませてきていると考えて署名押印したのであり、自らも事業内容について詳しい説明を受けていないと述べ、A区長の子でありA区長と同居していたDは、陳述書(〔証拠省略〕)において、〔証拠省略〕はA区長の陳述を間違いなく記載したものである、A区長が日頃から原告X1社が住民への説明会をしていないことに気づかず騙されて同意書に署名押印したと悔やんでいた、〔証拠省略〕はA区長が原告X1社を応援する人から圧力をかけられて書かされたものだと思うなどと述べる。これに対し、原告X2は、その本人尋問において、A区長から、住民への説明会を求められたことはなく、かえって、A区長が組合長会議に諮ることで足りるとの話をされたと述べる。
そこで検討するに、次のアないしカの事情を挙げることができる。
ア 本件各説明経過書面(〔証拠省略〕)には、平成15年年初の経過として「新区長が組合長会議等で住民に、何回も説明会を開催して頂く」と原告X2の供述に沿う記載があり、A区長は同書面に署名押印している。
これについて、A区長は、その陳述書(〔証拠省略〕)において、この書類の内容について読んで聞かされたり説明を受けたことはなく、その内容を確認したものではないと述べるが、内容を確認していない書面に署名押印をすることは通常考えられず、特に、区長の肩書きで区長の印を用いた署名押印をするに当たってはなおさらである。そして、本件において、A区長が内容を確認していない書面に署名押印しなければならないような事情も認められない。よって、A区長は、上記書面の内容が自身の認識と一致するものであったために、これに署名押印したということができる。
イ 前記第2の1前提事実及び〔証拠省略〕によれば、(ア) 北小倉区の住民が、平成16年9月29日、三郷村住民課を訪れ、産業廃棄物処理について同意していない旨述べたのに対し、同課担当者は、区長が区の総意として同意しているので区長に話をしてほしいと回答したこと、(イ) 同年12月14日にはさばい地区の住民が、同月16日には一本松地区の住民が、被告松本地方事務所生活環境課を訪れ、本件施設について説明がないまま建設が進んでいることに不信感がある旨述べ、同課担当者は、同人らに対し、業者に地元住民への説明をするよう指導する旨回答するとともに、原告X2に対し、再度地元説明会を行い住民の不信感を払拭するよう指導したこと、(ウ) さばい地区の住民が、平成16年12月21日、被告松本地方事務所生活環境課を訪れ、区長が、組合長会議において本件施設の計画について話をして資料やパンフレットを配布したと述べているが、各組合長は聞いた覚えがないと述べていると話したこと、(エ) 原告X2が、同年12月、E区長に対し、北小倉区住民に対する本件施設の説明を希望したり、今後の対応を相談した際、E区長から、「区の中の問題なので社長は自宅で待機していてほしい」、「X1社に落ち度はない」、「一部の人は反対するかもしれないが、区として反対はしない。区として時間をかけて調整をしたい」、「住民の中には建設反対者がいるが、何か行動が起こったときに対応すればよい」などとの趣旨のことを言われたこと、(オ) 北小倉代表区長F及びE区長は、平成16年12月17日、「関係法令を遵守し景観の保全、公害防止及び危険防止に努めること、また、悪臭、騒音の発生した場合には、施設の運転を直ちに停止し、点検、修理を行った後、運転を再開するものとする。苦情や問題が生じた場合は誠意を持って速やかに解決を図ることを確約致します。」と記載された原告X1社作成の確約書(〔証拠省略〕)を原告X2から渡され、受取書(〔証拠省略〕)に署名押印したことが認められる。
これらの事実によれば、区長は、北小倉区住民から、本件施設に関する説明を聞いていないとの声が上がっていることを認識しながら、原告X1社に対しては、住民への説明を求めることもせず、同社から求められて受取書に署名押印するなどしているのであって、本件各同意書や本件各説明経過書の取得経過に問題があったこととは整合しない対応をしている。
ウ 三郷村の被告に対する本件に関する問い合わせ(平成17年1月5日)の中で、三郷村職員は、A区長が同意書に署名押印した状況について「村長も住民課としても何回か確認したが、区長は組長会で説明し諮った上で押印したと主張している。」と述べている(〔証拠省略〕)し、平成19年度安曇野市議会12月定例会において、副市長は、A区長が全組合長も了解していると述べたのを確認していると答弁している(〔証拠省略〕)。
エ A区長は、平成17年1月7日、「(有)X3と(株)X1より私が聞いているのはプラスチックの圧縮梱包と木材のチップ化に伴う建物の建替えの件と(有)X3と(株)X1の業務提携の件であり、それ以外の項目に対しては申請はするが(有)X3と(株)X1に行わないと言われたので15年度の組合長には3月2日の組合長会で上記2つの件のみ説明して了解を得ている。」「一つだけ確かなのはこの区印は住民の現在建てられている建物とその内容を了解したものではないし、断じて現在のX1社より県に申請されている内容を全ての項目に関して住民が了解したものではない。たった二つの内容について組合長に確認しただけの区印がこのような使われ方をした事は大変遺憾な事である。」など記載された文書に署名押印する一方で、そのわずか4日後の同月11日には、同文書の裏面に、「この裏の文書については、反対者(G、H、I、J)が訪ねてきて、一方的な文書を署名捺印したものであり、事実無根である。 X1社・三郷工場の事業内容は平成15年度に署名捺印同意書の通りである。」と記載し、署名押印しているのであって(〔証拠省略〕)、A区長の述べる内容は一貫しない。かえって、原告X2が住民に対して説明するとの約束を反故にしたとA区長が考えているのであれば、上記文書裏面の記載をするとは考えにくい。なお、Dは、上記のとおり、陳述書(〔証拠省略〕)において、上記裏面の記載こそが意に反して書かされたものであると述べるが、同人は、A区長が同記載をした場面に居合わせていたわけではなく、A区長からこれについて話を聞いたものでもないから、同陳述を採用することはできない。
オ E区長は、平成17年4月27日に三郷村役場で行われた三郷村職員、被告廃棄物対策課廃棄物審査ユニット職員、被告松本地方事務所生活環境課職員等との打合せにおいて、平成15年当時、組合長会議やその1か月後に開かれた運営委員会において、原告X1社の計画について説明しており、その旨記載された事業報告(〔証拠省略〕)も区民に回覧されているので、区民が知らないということはあり得ない旨述べている(〔証拠省略〕)。
カ 本件各同意書や本件各説明経過書への署名押印の前提として住民に対する説明が約束されていたのであれば、北小倉区長としては、原告X1社に対して住民への説明をするように求めるはずであるのに、E区長は、説明会の開催に消極的な態度を示していた(〔証拠省略〕)。
以上の事情を総合すれば、A区長作成の陳述書(〔証拠省略〕)の内容は措信することができず、他方、原告X2の供述についてはその信用性を否定すべき事情が見当たらないから、原告X2の供述を採用するのが相当である。そして、同供述によれば、原告X2は、A区長に同意書の作成を依頼するとともに、住民への説明を申し入れたところ、A区長から、組合長会議に諮って、各組合長を通じて住民の意向を確認すれば良いと言われたため、その言に従った、そして、A区長は、組合長会議において異議が出なかったために北小倉区を代表して本件各同意書を作成することは問題ないと判断して本件各同意書に署名押印したことが認められる。そうすると、本件各同意書は、A区長が、北小倉区を代表して本件施設における産業廃棄物処理事業に同意する意思で作成されたものであるといえる。また、本件各説明経過書面の内容がA区長の認識と合致するものであったといえることは上記アで検討したとおりである。したがって、本件各同意書や本件各説明経過書面は、A区長の真意に基づいて作成されたものであり、その作成過程において原告X2やその他原告X1社の関係者からの欺罔行為があったとはいえない。
もっとも、本件各同意書が住民への説明が全くないままに作成されたものであり、区民大会の議決により同意書を撤回する旨記載された同意書撤回通知書(〔証拠省略〕)が北小倉区の有権者608名中486名の署名とともに提出されている(前記第2の1(8))ことや組合長においても説明を受けた認識がないこと(〔証拠省略〕)からすれば、客観的には本件各同意書が北小倉区住民の意向を示すものとはいえず、また、本件説明経過書面に記載された事実のうち「平成15年 年初」に「新区長が組合長会議等で住民に、何回も説明会を開催して頂く」とか「平成15年4月28日」に「組合長、住民の理解を得る。」というのは客観的には事実と合致するものではなかったといえる。本件各同意書や本件各説明経過書面が住民の意向を確認するためのものであることからすると、上記相違は、本件各同意書や本件各説明経過書面の意義を失わせるものであった。
しかしながら、廃棄物処理法14条の2の規定に基づく産業廃棄物処理業の事業範囲変更許可申請について、住民の同意は許可要件となっていないのであって、住民の意向を示すための同意書や説明経過書面が殊更に虚偽の内容で作成されたなどの場合であればともかく、そうでない場合においては、当該同意書や説明経過書面が住民の意向と合致していなかったとしても、これを理由に不許可処分をすることはできないといわざるを得ない。
(3) よって、不許可理由5には理由がない。
11 補正等をする機会を与えなかったことについて
前記5、7、9のとおり、発酵槽の長さが55mであるため予定された発酵処理を行うことができないこと(不許可理由4―1)、吸排気系統などを表した書類、中和・脱水・乾燥処理の臭気対策として計画されている熱分解脱臭炉の処理能力を明らかにした書類、油水分離処理の臭気対策として計画されている温水機脱臭炉の処理能力を明らかにした書類が提出されていないこと(不許可理由4―3ないし4―5)、圧縮切断処理、圧縮梱包処理、圧縮処理及び破砕処理の各施設における音発生源の騒音レベル、建屋や防音カバーの減衰計算等を示す書類が提出されていないこと(不許可理由4―7)は、不許可理由に該当するものである。
しかしながら、前記第2の1前提事実によれば、ア 被告においては申請前に事業計画について事前指導を経る手続が設けられており、原告X1社は、本件各申請に当たり、平成15年5月に事業計画書を提出し、以降被告による事前指導に応じて書類等を整備して平成16年7月に本件承認を受けたこと、イ 本件承認が取り消された理由に、不許可理由4―2ないし4―5、4―7の事由は挙げられていなかったこと、ウ その後の指導においても、住民への説明の点について指導されただけで、不許可理由4―2ないし4―5、4―7の事由についての指導はされなかったことが明らかであり、このような経過に照らせば、原告X1社としては、住民への説明ないしその同意以外の点で不許可となるような理由はないとの期待を有していたといえる。
処分行政庁が特定の申請に対する行政処分をするに当たり、全ての場合において、申請者に対して補正等の機会を与えなければならないものではないが、本件各申請については、前記第2の1(1)のような事前指導及びこれによる承認の手続が設けられている以上、この事前審査を経て承認を得ることにより、不許可となるような事由がないとの期待が生じるのが通常であるといえる。そして、この期待は、上記手続における行政指導の結果として生じるものであるから、これが処分行政庁の処分内容を拘束するものではない(前記1)としても、手続の面においてこの期待を何ら保護しないことは相当ではなく、承認された事業計画に係る申請に対して不許可処分をする場合には、不許可理由となる事由について申請者に補正等をする機会を与える義務があるというべきである。このことは、一旦承認がなされた後にこれが取り消された場合も同様であって、承認の取消しの理由となった事由以外の事由によって不許可処分をする場合には、その点について申請者に補正等をする機会を与える義務があるというべきである。
本件においては、上記のとおり、本件承認の理由として不許可理由4―2ないし4―5、4―7の事由は挙げられていなかったのであるから、長野県知事がこれらを理由として不許可処分をするには、原告X1社に対し、補正等の機会を与える義務があったといえる。なお、原告X1社は、本件各申請をする際には行政指導に応じない意思を表明している(前記第2の1(14))が、これは、本件承認取消し後指導を受けていた住民への説明ないし同意の点について行政指導に従う意思がないこと、言い換えれば、不許可理由5について補正する意思はないことを表明しているにすぎず、不許可理由4―2ないし4―5、4―7について行政指導に従う意思がないことまでも表明するものとはいえないから、原告X1社から上記意思が表明されたからといって補正等の機会を与える義務がなくなることにはならない。
よって、上記義務に反してなされた本件各不許可処分は違法であり、取消しを免れない。
12 義務付けの請求について
前記11のとおり、本件各不許可処分は違法であり、取り消されるべきものであるが、その理由は原告X1社に対して補正等の機会が与えられていなかったという点にある。そして、前記10のとおり不許可理由4―2ないし4―5、4―7は不許可処分の根拠となるものであるし、これらの不許可理由を解消させるために資料等が提出された場合には、第一次的には処分行政庁たる長野県知事が、これらの資料も審査対象として専門的、技術的見地からの検討を加えて廃棄物処理法施行規則10条の5第1号の基準に適合するか判断すべきであるといえる。結局、本件各申請に対し、「行政庁がその処分をすべきであることが法令の規定から明らかである」とも、「行政庁がその処分をしないことが裁量権の範囲を超え若しくはその濫用になる」とも認めることはできないのであるから、本件各申請について許可処分を求める義務付けの請求には理由がない。
第4乙事件についての当裁判所の判断
1 廃棄物処理法に基づく申請に対して許可又は不許可処分をすることは公権力の行使に当たるから、これに関する受付、審査等を行う被告職員は公権力の行使に当たる公務員に当たる。
2 本件承認を取り消した行為について
前記第3の10(2)で検討したとおり、北小倉区住民から同意書撤回通知書(〔証拠省略〕)が提出されたことにより、本件各同意書が客観的には北小倉区住民の意向を示すものとはいえず、また、本件説明経過書面に記載された事実のうち「平成15年 年初」に「新区長が組合長会議等で住民に、何回も説明会を開催して頂く」とか「平成15年4月28日」に「組合長、住民の理解を得る。」というのは客観的には事実と合致するものではなかったことが判明したのである。住民の同意や理解が、廃棄物処理法14条の2の規定に基づく産業廃棄物処理業の事業範囲変更許可申請について許可要件ではなくとも、行政にとって重要な課題であることは明らかであるから、上記のとおり住民の意向が示されたことにより、被告が、原告X1社に対し、再度住民への説明をしその理解を求めるように指導することは正当であるといえる。
そして、前記第3の1で検討したように、本件承認は行政指導の一環としての事実上の意見の表明というべきものであって許可申請の要件ではないから、上記指導をする前提として、これを取り消すことは違法なものとはいえないし、その際に原告X1社に主張等の機会を与えなければならないものでもない。
3 試運転計画書を返戻した行為(前記第2の1(11))について
原告X1社は、試運転計画書の提出によって何らかの法律上の地位を得たり利益を得たりするものではないし、これが返戻されたからといって、原告X1社の権利や利益が侵害されるものでもない。よって、試運転計画書を返戻した行為は原告X1社に対する不法行為を構成しない。
4 廃棄物再生事業者登録申請書を返戻した行為(前記第2の1(14))について
原告X1社は、産業廃棄物処理業の事業範囲変更許可申請書については何度も提出するなどしている(前記第2の1(14))が、廃棄物再生事業者登録申請書については、これを再度提出しようとするなどしていないのであって、これらのことからすれば、被告が主張するように、原告X2は、被告松本地方事務所廃棄物担当者による廃棄物再生事業者登録制度についての説明を了解して自ら申請書を持ち帰ったと推認することができる。そうすると、被告松本地方事務所廃棄物担当者の上記行為は何ら違法なものではない。
5 本件各申請書類を返戻した行為及び本件各申請に対する審査義務の懈怠について
(1) 行政手続法7条は、行政庁は、申請が行政庁の事務所に到達したときは、遅滞なく当該申請の審査を開始しなければならず、法令に定められた申請の形式上の要件に適合しない申請については、速やかに、申請者に対し補正を求めるか又は当該申請により求められた許認可等を拒否しなければならない旨定め、到達した申請書に係る申請に対する行政庁の審査、応答義務を規定する。したがって、行政庁は、申請書が到達したときには、その時から当該申請書による申請について審査し、応答する義務を負う。もっとも、行政庁は、その職務に属する許可事務に関して、行政目的を達するために必要な場合において、行政指導を行うことができる(行政手続法第4章参照)ところ、行政指導の一環として、申請の取下げないし撤回を助言、勧告するなどのために申請書類を返戻することが許される場合もあると考えられるが、行政指導に携わる者は申請者が当該行政指導に従う意思がない旨を表明したにもかかわらず当該行政指導を継続すること等により当該申請者の権利の行使を妨げるようなことをしてはならない(行政手続法33条)のであるから、申請者が行政指導に従う意思がない旨を表明した場合には、これに反して申請書を返戻することは許されないというべきである。
(2)ア 本件においては、原告X1社は、平成17年9月26日に産業廃棄物処理業の事業範囲変更許可申請書を提出しようとしたが、その受領を拒まれた後、本件各申請を行い、行政指導に従う意思がない旨を表明した文書とともに本件各申請書類を郵送しているのであって(前記第2の1(14))、本件各申請の際には行政指導に従う意思がないことを表明していたといえる。ところが、被告松本地方事務所長は、本件各申請書類を漫然と返戻したのであるから、行政手続法7条における審査、応答義務に違反する。
イ 公権力の行使に当たる公務員がその職務を行うについて行政手続法に定めた義務に違反したとしても、直ちに国家賠償法上も違法な行為となるものではないが、産業廃棄物処理業の事業範囲変更許可申請は、産業廃棄物処理業を営む権利を実現するための手続であり、その申請者である原告X1社は、行政手続法に従って適正に扱われる権利を有しているといえ、被告職員の上記義務違反により、本件申請1からは約2年3か月にわたり、本件申請2からは約2年にわたり、その許否の処分が行われなかったことからすると、原告X1社は被告職員の上記義務違反により上記権利を侵害されたということができるから、国家賠償法上も違法であるというべきである。
ウ この点、被告は、原告X1社の行為に、行政指導に対する不協力が社会通念上正義の観念に反するといえるような特段の事情が存在するから、上記返戻行為は違法ではないと主張する。
しかしながら、前記第2の1前提事実及び〔証拠省略〕によれば、(ア) 原告X1社は、北小倉区住民から同意書に疑義が呈され始めたころから、住民に対する説明をする意思のあることを表明しており、北小倉区長に対して住民に説明したい旨申入れたり、実際に説明会を開催するなどしていたこと、(イ) 平成17年1月23日及び同年8月5日に説明会が開催され、原告X2が説明のために出席したが、参加住民が怒鳴るなどしたために説明をすることができなかったこと、(ウ) 被告廃棄物対策課は、原告X1社に対して、住民への説明をすることだけでなく、地元住民の同意書を提出するように指導していたこと、(エ) 同意書を取得するのは極めて困難な状況にあったことが認められ、これらの事実によれば、平成17年8月5日の説明会において住民から追加資料の提出を求められたのにこれを提出しないままに本件各申請に及んだこと(前記(13)イ)を考慮しても、原告X1社が住民の同意書に関する被告の行政指導に協力しないとしたことが社会通念上正義の観念に反するとまではいえない。
なお、上記(ウ)の認定事実について、被告は、同意書の提出は求めていないと主張するが、原告X2はその本人尋問において、同意書の提出を求められたと述べており、この供述は、〔証拠省略〕は被告廃棄物対策課担当者が原告X1社に地元同意書を取得してもらうと述べていることが記されていること、本件事務処理要領には「地元の住民等の意向を示す書類(住民等に対する説明の経過を記した書類及び住民等に対する説明書類の写しを含む。)」と記載されており、被告廃棄物対策課では同書類として同意書の提出を求めるのが通常であったこと(〔証拠省略〕)に照らして採用することができ、同供述によれば、上記(ウ)の事実を認定することができる。
エ よって、被告職員の上記返戻行為及びこれに伴う審査懈怠は、国家賠償法上違法である。
(3) そして、本件各申請書類とともに郵送された文書の内容が、行政指導に従う意思がないことを表明するものであることは記載された文章の内容から明らかであり、これに対して許否の判断をしなければならないことは容易に認識しうるものであったから、本件申請書類1を返戻した被告松本地方事務所職員には、少なくとも過失が認められる。
(4) よって、被告は、本件各申請書類の返戻及びこれに伴う審査懈怠によって原告らが被った損害を賠償すべき義務を負う。
6 本件各不許可処分について
前記第2の11のとおり、長野県知事は、補正等の機会を与える義務を負っていたのに、これに反して本件各不許可処分をしたのであるから、本件各不許可処分をしたことは国家賠償法上も違法であるといえる。そして、事前に行政指導をして本件承認までしている経過からすれば、本件承認の取消しの理由にも挙げられず、その後指導もされなかった事由に基づいて不許可処分をすることが信義に反することは容易に認識できるから、補正等の機会を与えないままに本件各不許可処分をしたことに過失があったといえる。
7 本件各申請に対して許可処分をしなかったことについて
前記第2の12のとおり、本件各申請に対して許可処分をすべきであったとまでは認められないから、本件各申請に対して許可処分をしなかったことは違法な行為とはいえない。
8 損害について
本件各申請書類を返戻した行為及びこれに伴う本件各申請に対する審査義務の懈怠並びに本件各不許可処分に係る損害として原告らが主張するのは、①原告X1社の損害のうち、一連の問題に対応した原告代表者の労力、同交通費、別件訴訟における弁護士費用、風評被害、本件訴訟の弁護士費用、②原告X2の損害、③原告X4の損害、④同原告らそれぞれにおいて乙事件のための弁護士費用であるから、以下、これらについて検討する。
(1) 原告X1社の損害について
ア 原告X1社は、前記5(2)イの権利を実現するために、同代表者である原告X2が問題解決に当たると共に、弁護士に委任して別件違法確認訴訟を提起したものであるから、これらに要した費用(原告らが主張するところの原告代表者の労力、交通費、別件訴訟の弁護士費用)は、必要かつ相当な範囲で、本件各申請の返戻行為及びこれに伴う審査義務の懈怠と相当因果関係にある損害となるといえる。
そして、証拠によれば、(ア) 原告X1社は原告X2に対して平成18年当時月額250万円の報酬を支払っていたこと(〔証拠省略〕)、(イ) 原告X1社が原告X2をして平成17年4月11日ないし平成20年8月18日の間に28回東京に赴かせてその交通費として48万6300円を支出したこと(〔証拠省略〕)、(ウ) 東京都に事務所をおくK弁護士に対し、①長野県庁への出張旅費、長野県庁との交渉及び予定書類の作成等の弁護士費用の着手金として35万1670円、②長野県庁への出張旅費及び日当として7万7250円、③長野県松本市への出張交通費及び日当として12万5400円、④三郷村を被告とする上下水道の接続を求める訴えの提起及び農用地の除外の申込に対しての不作為の違法の確認を求める訴えの提起の件の着手金として94万5000円、⑤長野県松本市への出張交通費及び日当として11万5420円、⑥長野地方裁判所へ出廷(平成17年11月14日分)のための交通費及び日当として8万7070円、⑦現地調査のための交通費及び日当として4万6750円、⑧長野地方裁判所へ出廷(平成17年12月28日)のための交通費及び日当として6万8170円、⑨長野県知事を被告とする長野地方裁判所の不作為の違法確認並びに許可請求の訴訟事件の着手金及び長野地方裁判所への出廷のための交通費及び日当として54万3420円、⑩長野地方裁判所へ出廷(平成18年9月20日、同年12月25日)のための日当及び交通費として13万6840円、⑪別件訴訟の報酬として76万円、⑫長野地方裁判所への出廷(平成19年3月14日)のための日当及び交通費として6万8420円を支払ったこと(〔証拠省略〕)、(エ) 原告X1社が、別件訴訟の弁護士費用としてL弁護士に対して655万0220円からK弁護士に支払われた額を控除した額の金員を支払ったこと(〔証拠省略〕)が認められる。そして、三郷村を被告とする訴えに関する事柄で要した弁護士費用は本件各申請書類の返戻やこれに伴う審査義務の懈怠により生じたものとはいえず、上記費用全てが必ずしも本件各申請書類の返戻やこれに伴う審査懈怠を解決するための費用とはいえないこと、別件訴訟について長野地方裁判所が違法確認請求を認容したが、被告が不許可処分をしたため、東京高等裁判所において不作為の違法確認の訴えについては訴えの利益が失われたとして、原告X1社の訴えをいずれも却下し、訴訟費用は原告X1社と被告とで各2分の1の負担とする旨の判決が言い渡されこれが確定したこと(前記第2の1(15))からすれば、原告X1社が、前記5の権利を実現するために、同代表者である原告X2をして問題解決に当たらせると共に、弁護士に委任して別件違法確認訴訟を提起するに要した費用のうち、500万円を本件各申請の返戻行為及びこれに伴う審査義務の懈怠と相当因果関係にある損害として認めるのが相当である。
他方、本件各不許可処分に対応するために要したとされる上記費用は、甲事件の訴訟費用として処理されるべきものであり、それを超えた費用について本件各不許可処分と相当因果関係にある損害であると認めるに足りる証拠はない。
イ 次に、原告X1社は、コンサルタント費用も損害として主張するところ、〔証拠省略〕によれば、原告X1社が、廃棄物処理業に関するコンサルタント作業などを行う「a4社」(代表 M)に対し、本件各申請書類の作成、本件施設設置協議・監修業務の報酬として312万9460円(消費税を含む)を支払ったことが認められるが、これは、本件各申請をなすにあたり、上記返戻行為やこれに伴う審査義務の懈怠の有無、本件各申請に対する処分結果にかかわらず要したものと考えられるから、上記報酬を返戻行為、審査義務の懈怠、本件各不許可処分と因果関係にある損害ということはできない。
ウ また、原告X1社は、風評被害による損害も主張するが、原告X1社の収益の減少と、本件各申請書類の返戻行為やこれに伴う審査義務の懈怠、本件各不許可処分との間に相当因果関係があることを認めるに足りる証拠はない。
エ そして、本件事案の性質や上記認容額等に照らして、弁護士費用相当損害金として50万円を本件各申請書類の返戻行為及びこれに伴う審査義務の懈怠と相当因果関係にある損害と認める。
(2) 原告X2及び原告X4の損害について
本件各申請書類の返戻やこれに伴う審査懈怠は、原告X1社に対してされた行為であり、原告X2や原告X4に対してなされたものではなく、本件各申請書類の返戻や本件各申請の審査義務の懈怠により原告X2や原告X4が精神的苦痛を感じたとしても、これは相当因果関係にある損害とはいえない。
なお、原告X2は、原告X1社の代表者として問題解決に当たったところ、その過程で精神的苦痛を被ったことがあったとしても、これはいずれも原告X1社の代表者としての職務上生じたもので、その業務に伴う苦労というべき範囲を超えるものとまでいうことはできないから、原告X2個人の損害としてこれを認めることはできない。
9 以上より、被告は、本件各申請書類の返戻行為及びこれに伴う審査懈怠によって原告X1社が被った損害550万円を同原告に賠償すべき義務を負う。
第5結論
以上より、甲事件の訴えは、本件各不許可処分の取消しを求める部分には理由があるからこれを認容し、その余の部分には理由がないからこれを棄却し、乙事件の訴えは、原告X1社が被告に対して550万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、同原告のその余の請求及びその余の原告らの請求には理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 近藤ルミ子 裁判官 蛭川明彦 望月千広)
別紙1~3〔省略〕
(別紙4)
甲事件における当事者の主張
第1 本件各不許可処分の理由についての被告の主張
廃棄物処理法上、許可権者である長野県知事が許可要件該当性を判断すること(要件裁量)が予定されている。また、廃棄物処理法における許可制度が、廃棄物処理法上の目的や趣旨である廃棄物の適正処理や生活環境の保全・公衆衛生の向上を図る(廃棄物処理法第1条)ための制度であることに鑑みれば、許可権者である長野県知事は許可要件該当性を判断するにあたり、これら廃棄物処理法の目的や趣旨に則った判断を行うことが予定されているといえる。廃棄物処理法は、許可又は不許可処分について、行政庁に要件判断を委ねているのであるから、同法上の許可又は不許可処分をするに当たり、行政庁には、認定された事実を授権規定の定める要件に当てはめるについて裁量がある。また、総合的な政治的価値判断や科学的専門技術的配慮を必要とする行政処分にも裁量が認められる。廃棄物処理法上の許可制度は、廃棄物の適正処理や周辺環境の保全、公衆衛生の向上を図るためにあり、許可要件はこれらの観点に立って規定されており、廃棄物の適正処理や周辺環境の保全などを図るにはどのような施設でなければならないか又はどのような要件が整っていなければならないかという観点から許可要件を定めているから、この許可要件該当性判断においては、まさに科学的な専門知識や判断が必要となる。したがって、本件各申請に対する処分は、科学的な専門知識や判断が必要な処分として、裁量が認められる。よって、長野県知事の本件各申請に対する処分については行政訴訟法30条1項の適用があり、裁量が認められるのである。
そして、本件各不許可処分は、以下の1ないし5のとおり、本件各申請が許可要件に該当しないためになされたものであり、裁量権の踰越、濫用はないから、本件各不許可処分は適法である。
1 不許可理由1(油水分離について)
本件各申請書類インデックス「油水分離」13枚目「別紙1」中の「設計目的」には、軽油を収集運搬し、受入貯蔵し、油水分離槽にて加温し、流動性を高め、水分、泥分を分離する旨記載されており、「廃油の性状」には油分98ないし88%の軽油との記載がある。軽油は特別管理産業廃棄物に該当する(施行令2条の4第1号)から、産業廃棄物処理業とは別の事業範囲であり、特別管理産業廃棄物処理業の許可を取得しなければならない(法14条の4第6項)。よって、軽油を扱う内容となっている本件許可申請は法の許可基準に適合しない。
2 不許可理由2(紙くずの圧縮梱包処理について)
本件各申請書類インデックス「事業計画概要」4枚目「産業廃棄物の種類及び取引予定」には、「排出予定事業者」として「a1(株)」があり、同社から排出される「廃棄物の種類」は「紙くず 10t/月」、「中間処理の方法」は「圧縮梱包」、「処分先・販売先」は「再生紙原料a5(株)」と記載されている。a1株式会社は、果実飲料・野菜飲料等の製造を行っている事業場であり、建設業、パルプ、紙又は紙加工品の製造業、新聞業、出版業、製本業及び印刷物加工業のいずれにも該当せず、また、ポリ塩化ビフェニルが塗布され又は染みこんだものを扱っているわけでもないから、同社から排出される紙くずは産業廃棄物ではなく、一般廃棄物である(法2条2項、4項、施行令2条)。一般廃棄物の処理を行うには市町村長の許可が必要であり(法7条6項)、一般廃棄物の処理を事業範囲としている申請を県知事が認めることはできない。よって、一般廃棄物を圧縮梱包処理しようと計画している本件各申請は法の許可基準に適合しない。
3 不許可理由3(中和・脱水・乾燥処理について)
本件各申請書類インデックス「中和・脱水・乾燥」9枚目「中和・脱水・乾燥設備仕様書」には天日乾燥袋32袋の仕様となっており、「処理能力計算」によれば1袋の容量は1m3であり処理日数は3日であるから、当該施設の処理能力は10.6m3である(1m3×32袋÷3日)。汚泥の脱水施設であって1日当たりの処理能力が10m3を超えるものは、産業廃棄物処理業の許可とは別に、当該処理施設の設置に対する都道府県知事等の許可を要するものとされている(法15条、施行令7条)が、原告は、汚泥の脱水処理施設に対する県知事の許可を得ていない。よって、許可を得ていない当該処理施設を用いて産業廃棄物処理を実施しようとする本件各申請は法の許可基準に適合しない。
4 不許可理由4
本件各申請に対しては、廃棄物処理法の許可基準及び処理基準への適合性を審査することが求められ、「生活環境保全上支障の生じないように必要な措置」を講じているのか、その意味も含んだ「処理に適する施設」であるのか、を判断するための精査が必須となる。
(1) 不許可理由4―1
本件各申請書類インデックス「コンポスト」12枚目「能力計算書」は、堆肥化処理日数25日、発酵槽長さ60mを前提としているが、実際の設計図面である本件各申請書類インデックス「建物図」3枚目「第1堆肥化施設 平面図」、同6枚目「第1堆肥化施設棟 伏図」の図面では、発酵槽の長さは55m(堆肥化施設棟の全長75mから、発酵槽の(図面上の)左右にある空間幅(左側10m、右側10m)を除いた長さ)とされている。55mの発酵槽では、能力計算書で計算しているような25日かけた堆肥熟成ができないから、廃棄物の堆肥化処理が適正に行われるとは言えない。よって、堆肥化に係る発酵処理能力を満たした施設設計となっていない本件各申請は、廃棄物処理法の許可基準に適合しない。
(2) 不許可理由4―2
脱臭槽の脱臭能力については、本件各申請書類インデックス「脱臭装置」10枚目「脱臭槽規模算定書」により、発酵槽から生ずる臭いを「臭気成分NH3 200ppm以下」にするために、送風量や接触時間など一定の条件設定をした上で、有効な脱臭槽面積を算出するという考え方をとっている。被告が、この「脱臭槽規模算定書」による考え方に従い、本件各申請に添付された関係図面に示された寸法を用いて計算した結果、脱臭槽有効面積が346m2必要と算出されたところ、本件施設の設計する脱臭槽面積は297m2しかなく、脱臭有効面積に不足している。よって、堆肥化に係る脱臭処理において処理能力を満たした施設設計となっていない本件各申請は、廃棄物処理法の許可基準に適合しない。
なお、被告による算出過程は次のとおりである。すなわち、本件各申請書類インデックス「建物図」5枚目「第1堆肥化施設断面詳細図」の図面、同6枚目「第1堆肥化施設 伏図」の図面、同9枚目「脱臭棟 平面図」の図面、同インデックス「脱臭装置」10枚目「脱臭槽規模算定書」の書類にある堆肥化処理施設の設計図面からは、①発酵棟建屋の容量:長さ×幅×高さ=75m×15m×4.5m=5062.5m3、②処理内容物の容量:長さ×幅×高さ=(75m-10m-10m)×(3m×4)×2m=1320m3、③脱臭対象容量:①-②=5062.5m3-1320m3=3742.5m3、④脱臭槽面積:長さ×幅=66m×4.5m=297m2と計算され、これを踏まえて「脱臭槽規模算定書」に示された算定方法にしたがって計算すれば、脱臭槽有効面積は346m2となる。
(3) 不許可理由4―3
原告X1社は、堆肥化処理の臭気対策として洗浄棟と脱臭槽の設置を計画しているが、発酵槽、洗浄棟、脱臭槽の間における相互の吸排気系統などを表した書類がなく、本件各申請では、堆肥化処理の臭気対策が明らかにされていない。産業廃棄物の処理過程で発生する悪臭に対して、有効な臭気対策が講じられていることは、本件各申請の審査に当たって重要な点であり、臭気を適正に処理できるものか明らかにされていない場合は、廃棄物処理法に規定された「処分に適する施設」であると認められることにはならない。よって、堆肥化に係る臭気対策が明らかにされていない本件各申請は、廃棄物処理法の許可基準に適合せず、不許可とせざるを得ない。
(4) 不許可理由4―4
原告X1社は、中和・脱水・乾燥処理の臭気対策として熱分解脱臭処理を計画しているが、当該熱分解脱臭炉について、設計図面は添付されているが、脱臭処理能力を明らかにした書類がない。産業廃棄物の処理過程で発生する悪臭に対して、有効な臭気対策が講じられていることは、本各件申請の審査に当たって重要な点であり、臭気を適正に処理できるものか明らかにされていない場合は、廃棄物処理法に規定された「処分に適する施設」であると認められることにはならない。よって、中和・脱水・乾燥処理に係る脱臭能力が明らかにされていない本件各申請は、廃棄物処理法の許可基準に適合しない。
(5) 不許可理由4―5
原告X1社は、油水分離処理の臭気対策として温水機脱臭炉を設置する計画であり、当該脱臭炉の設計図面は添付されているが、脱臭能力について明らかにされた書類がなく、臭気を適正に処理できる能力であるか明らかにされていない。産業廃棄物の処理過程で発生する悪臭に対して、有効な臭気対策が講じられていることは、本件各申請の審査に当たって重要な点であり、臭気を適正に処理できるものか明らかにされていない場合は、廃棄物処理法に規定された「処分に適する施設」であると認められることにはならない。よって、油水分離処理に係る脱臭能力が明らかにされていない本件各申請は、廃棄物処理法の許可基準に適合せず、不許可とせざるを得ない。
(6) 不許可理由4―6
本件各申請書類インデックス「事業計画概要」7枚目「【生活環境の保全】」において、本件申請に係る産業廃棄物処理に伴って発生する臭気に関し、「設計計算上達成することができる数値」及び「周辺地域の生活環境保全のため達成することとした数値」がそれぞれ設定されているが、それが達成できることが明らかにされていない。産業廃棄物の処理に伴い、生活環境保全上の支障が生ずるおそれのないように必要な措置が講じられていることは、本件各申請の審査に当たって重要な点であり、生活環境保全上の支障が生ずるおそれのない臭気の程度(濃度、指数)を設定し、どのように必要な措置を講ずる予定であるのか具体的に明らかにされていない場合は、廃棄物処理法に規定された「処分に適する施設」であると認められない。よって、この点に関し具体的に明らかにされていない本件各申請は、廃棄物処理法の許可基準に適合するとは言えない。
(7) 不許可理由4―7
本件各申請書類インデックス「事業計画概要」7枚目「【生活環境の保全】」において、本件各申請に係る産業廃棄物処理に伴って発生する騒音に関し、「設計計算上達成することができる数値」及び「周辺地域の生活環境保全のため達成することとした数値」がそれぞれ60dbとされており(管理目標値の設定)、また、同8枚目「施設の維持管理に関する計画書」において、騒音の防止策が記載されているが、本件各申請に係る圧縮切断処理、圧縮梱包処理、圧縮処理及び破砕処理の騒音発生が予想される各施設について、音発生源の騒音レベルの把握をしておらず、また、建屋や防音カバーの効果に関し減衰計算等も示されていない等、本件各申請における騒音防止策の具体的内容が明らかにされていない。産業廃棄物の処理過程で発生する騒音に対して、有効な騒音防止対策が講じられていることは、本件各申請の審査に当たって重要な点であり、騒音防止に必要な措置が講じられている点が具体的に明らかにされていない場合は、廃棄物処理法に規定された「処分に適する施設」であると認められることにはならない。よって、この点に関し具体的に明らかにされていない本件各申請は、廃棄物処理法の許可基準に適合するとは言えない。
5 不許可理由5
本件各申請には、地元住民の意向及び地元説明会の経過について虚偽の書類が添付されていた。すなわち、原告X1社は、本件各申請書類インデックス「関係法令の手続き状況」14枚目ないし17枚目「同意書」及び「施設設置に関する地元住民への説明会等に係る経過について」を本件各申請に添付することにより、本件各申請について地元住民の総意として賛成を得ているかのような体裁を整えた。虚偽内容の書類が本件各申請の許可基準適合性を裏付けることになるものではないことはもとより、虚偽内容の書類の添付は、逆に本件各申請を、許可基準適合性の判断ができない内容の申請としてしまっている。
地元住民等の意向を示す書類は廃棄物処理法の定める添付書類ではなく、これを申請者が添付する義務はないが、これが添付されていない場合に、長野県知事が「処分に適する施設」の判断をするに当たり、許可申請の添付書類のみで適合性が判断できるのであれば問題はないが、そうでない場合は、別途審査手続きの中で、地元住民や関係市町村長の意見を聴いた上で、判断することになる。本件においても、当該添付書類の内容が事実に反していることが判明したことにより、「処分に適する施設」の要件を満たしているかどうかの点については、別途、地元住民や関係市町村長等の意見を聴くなどしなければ、その審査が困難である。それにもかかわらず、原告X1社は、別件訴訟を提起して、本件各申請について本件各申請書類のみを審査することで一義的に許可できると一貫して主張してきたのであるから、本件各申請に対しては、不許可処分をせざるを得ない。
第2 本件各不許可処分の適法性について
1 ①本件承認をしたにもかかわらず不許可としたことが許可権限の踰越、濫用となるか
(原告X1社の主張)
被告は、本件手引き及び本件事務処理要領にある事前審査において、事業計画書やその添付書類に基づいて、個別具体的な適正さについて実質的な審査をしている。そのような実質的な審査を経てされた承認の後は、莫大な費用をかけて施設設置工事がなされ、また、事前審査で提出した書類については申請において略すことができるとされているのであり、承認後の審査は形式的な審査にとどまる。よって、事前審査は許可審査行為そのものであり、承認行為は、実質的に許可行為である。
被告が、本件事業計画書について、関係基準に適合していると認めて本件承認をした(〔証拠省略〕)ことは、実質的には許可行為がされたといえ、原告X1社には、この段階で、被告が本件事業計画書と同一内容の申請について許可処分をすることに正当な信頼を形成したといえる。
よって、本件承認がされた本件事業計画書と同一内容の本件各申請を不許可とすることは、行政活動に対する正当な信頼を損ない信義則に反するものであるから、許可権限の踰越、濫用であり違法である。
(被告の主張)
(1) 本件各申請は廃棄物処理法に基づく申請であるところ、廃棄物処理法上行政に求められているのは、生活環境の保全という廃棄物処理法の目的(同法1条)を達成する観点から、当該申請が廃棄物処理法の規定する技術上の基準、経理的基礎、不適正な処理がなされるおそれ等について諸要件に適合しているか否かを判断することである。その判断は、生活環境の保全という目的を達成するため、公的立場から客観的かつ科学的になされなければならないのであって、「合意」、「確約」、「正当な信頼」などに基づく許可という概念とは相容れないし、そのような不確定な事情を介在させる余地はない。よって、「正当な信頼」や「確約」から許可義務を導くことはできない。
(2)ア 本件承認は、許可審査と同一と評価しうるものではなく、処分行為に至る途中で行われる行政指導にすぎない。すなわち、事前審査は、当該申請について許可基準を充足するか否かの判断に先立ち、当該判断を行うについて必要な書類の提出を求め、その書類の不備を確認した場合には、これを補充させるなどして的確な指導を行う行政指導にすぎない。
事前審査においては、施設の構造についての書類の内容に関しては点検作業を行うが、これによって許可申請の手続において自動的に許可されるというものではないし、事前審査において指導したことが申請に反映されているかどうかは許可申請の内容を精査して判断されるものである。
また、事前審査の段階では、申請者の能力や属性等について許可基準を充足するか否かの判断は全く行われない。
したがって、承認とは、法令や本件事務処理要領に記載がある各書類が提出されたことや、その書類の不備について一応の訂正や補充がなされたことについての確認作業にすぎず、この承認を許可判断と同一視すべきではない。
よって、本件承認に法的拘束力を認めることはできない。
イ 事業計画の承認は、被承認者が行う許可申請の内容が、当該事業計画どおり(不備を指摘された場合はそれが是正されたもの)であること、承認した事業計画の内容に誤りがないことを前提としている。
ところが、本件では、本件各同意書が不正に作成されたという点において、承認時の事情に誤りがあったことが事後的に判明し、しかも、その誤りについて、原告X1社に帰責性があったことも判明したのであり、この点について被告が補正を求めたにもかかわらず、原告X1社は、行政指導を一切受けないという態度を明示するに至ったのである。このように、本件承認時と本件各不許可処分時とでは、重大な事情変更があった。
さらに、本件各申請書類の内容は、被告が承認した本件事業計画書の内容と、別紙3「承認した「事業計画書」と〔証拠省略〕及び〔証拠省略〕(申請書)との相違点」に記載のとおりの相違点があり、これら相違点は、許可基準への適合性判断に関わる事項である。
よって、本件では、一旦承認した後に不許可という異なる判断をする実質的な理由も認められる。
(3) よって、本件承認をしたにもかかわらず不許可としたことは許可権限の踰越、濫用とならない。
2 ②不許可理由1ないし5が法令の求める要件を充足していないという理由になるか
(1) 不許可理由1について
(原告X1社の主張)
本件各申請書類1枚目には「油水分離処理」について「廃油(特別管理産業廃棄物であるものを除く。)」と記載されており、本件各申請が特別管理産業廃棄物である廃油を除く趣旨であることは明らかであって、不許可理由1の指摘は申請書添付書類上の誤記にすぎない。
本件申請書類インデックス「油水分離」13枚目「別紙1 油水分離施設の仕様書及び設計計算書」は、本件事業計画書インデックス「8―7」「別紙1 油水分離施設の仕様書及び設計計算書」と同一のものであるから、仮に、不許可理由1の指摘事項が不許可理由に当たるのであれば、被告は本件事業計画書を承認しなかったはずである。
(被告の主張)
原告X1社は既に産業廃棄物処分業の許可を取得して営業を行っている法人であり、そのような処分業者が許可制度の根幹である特別管理産業廃棄物についての認識を、単なる誤記と主張することは理解できない。仮に軽油を取り扱うつもりが全くないのであれば、事前審査段階の事業計画書においてはともかく、許可申請の段階では、軽油を取り扱う計画内容の記載を見直すべきであり、その見直し作業は、原告X1社にとって簡単にできる作業である。また、本件各申請が、被告が一旦承認した本件事業計画書と同一でないことは、前記1(2)イのとおりである。
(2) 不許可理由2について
(原告X1社の主張)
本件各申請は、本件申請書類1枚目に記載されているとおり、産業廃棄物である紙くずを予定しこれに限定する趣旨であることは明らかであり、不許可理由2の指摘は申請書添付書類上の誤記にすぎず、紙くずの排出予定事業者の欄を建設業であるa6社に訂正すれば済むことである(〔証拠省略〕)。このことは、本件事業計画書インデックス「3―7」においても、産業廃棄物である紙くずに限定することが記載されていることから、被告においても十分に認識していたはずである。
(被告の主張)
本件事業計画書においては、排出事業者としてa1株式会社ではない会社が挙げられていた(本件事業計画書インデックス「3―1」1枚目「事業計画の概要」)が、本件各申請において、a1株式会社が排出事業者として挙げられた。原告X1社に産業廃棄物処分業の営業実績があることを考えれば、許可申請の段階で記載される排出予定事業者は、原告X1社がある程度の取引交渉を行った上で選定された者であり、その処理量も取引交渉の上で概算量が決められたとみるのが、常識的な見方である。また、月10tもの紙くずの調達先(排出事業者)の選定に当たっては、ある程度現実性のある相手方を決めなければ、施設操業及び営業の目処がたたない。したがって、原告X1社は、a1株式会社との取引交渉を経て、排出される廃棄物の処理についての約束をした上で本件各申請において同社を排出予定事業者として挙げているはずである。原告X1社が、これを単なる誤記と主張することは許されることではない。また、本件各申請が、被告が一旦承認した本件事業計画書と同一でないことは、前記1(2)イのとおりである。
(3) 不許可理由3について
(原告X1社の主張)
ア 不許可理由3の指摘は「28袋」と記載すべきところを「32袋」と記載した誤記にすぎないものである。
本件各申請書類インデックス「中和・脱水・乾燥」後ろから3枚目「処理能力計算」には、脱水袋数28袋とされ「28袋×1=28m3 28m3÷3日=9.3m3」と記載されており、後ろから2枚目「脱水設備架台3」の図面には「吊金具 数量28」と記載されており、後ろから1枚目「脱水設備外形図」の図面をみれば脱水用袋を28袋吊す構造(4列×7袋)であることが確認できる。また、本件各申請書類インデックス「事業計画概要」2枚目「事業計画書」にも「脱水乾燥袋 28袋」と記載されている。これらのことから、上記誤記は容易に判明し、本件各申請が脱水用袋28袋を前提にするものであることは明らかである。したがって、本件脱水処理施設は、廃棄物処理法15条1項の規定による許可は不要である。
イ 本件事業計画書インデックス「6―7」1枚目「中和・脱水・乾燥設備仕様書」の「5)天日乾燥袋」の袋数「32枚」と記載されている部分について、被告が保管している同書類では、同部分が手書きで「28袋」と訂正されており(〔証拠省略〕)、同5枚目「中和、脱水、乾燥、平面、立面、断面、配置図」には、右上部分に「品番:4 品名:脱水用袋 数量:28」との記載があり、同3枚目「処理能力計算」にも、「1 脱水袋数 28袋」、「28袋×1m3=28m3」、「28m3÷3日=9.3m3」との記載があるのであり、本件事業計画書においても、28袋を前提とした記載を一貫してきた。「32袋」との記載がある点が不備であることについては、本件各不許可処分において初めて指摘されたものである。被告には、原告X1社に対し、誤記部分を補正する機会を与える信義則上の義務があったというべきであり、本件各不許可処分はかかる義務にも違反してなされており違法である。
(被告の主張)
汚泥の脱水処理施設が廃棄物処理法15条の施設設置許可の対象となるかどうかは重要な点であり、事前審査における事業計画の段階であればともかく、許可申請に当たっては、計画内容の記載を見直すべきであり、その見直し作業は原告X1社にとって簡単にできる作業である。原告X1社は「中和・脱水・乾燥設備仕様書」に「32袋」とあるのを訂正しないまま本件各申請をしたのであるから、同仕様書によって脱水用袋が32袋であると確認することができる。施設の処理能力とは、その施設の定格標準能力を意味するものとされており(「廃棄物の処理及び清掃に関する法律の疑義について」(昭和52年11月5日付け環産第59号厚生省環境衛生局水道環境部参事官(産業廃棄物対策室)通知)問19)、本件各申請に係る汚泥の脱水処理施設の定格標準能力は32袋を基に算定される。また、本件各申請が、被告が一旦承認した本件事業計画書と同一でないことは、前記1(2)イのとおりである。
(4) 不許可理由4―1について
(原告X1社の主張)
本件各申請書類インデックス「コンポスト」12枚目「能力計算書」には「5)発酵槽の長さ」が「60m」と記載されており、「第1堆肥化施設棟 伏図」において発酵槽の長さが55mと記載されているのは誤記であることが明らかである。
本件事業計画書インデックス「7―6」4枚目「能力計算書」は、本件各申請書類インデックス「コンポスト」12枚目「能力計算書」と同一の書類であり、発酵槽の長さを60mとして計算しており、本件事業計画書インデックス「7―6」9枚目「第1堆肥化施設棟 平面図」の発酵槽の長さを、1/200の縮尺で見ると60mになる。不許可理由4―1の指摘が不許可理由に当たるのであれば、被告は本件事業計画書を承認しないはずである。
なお、被告は、発酵槽の長さを60mとすることで、堆肥化施設の作業が困難になると主張するが、保管場所において堆肥をコンテナに移し入れるなどの作業をコンテナ6基同時に行うことはありえないし、また、コンテナを用いて処理後の堆肥を搬出するため、保管場所で6基のコンテナを同時に保管する必要もなく、コンテナ6基が常に保管場所に置いてあるわけではないから、発酵槽の長さを60mとすることで作業性が困難なものとなるわけではないし、そもそも作業が困難であったとしても、堆肥化施設が堆肥化処理に適した構造でなくなるものではない。
(被告の主張)
処理施設の平面図及び伏図は、処理施設の構造を明らかにする図面として、廃棄物処理法施行規則10条の4第2項の規定により添付が求められている重要な図面であるから、原告X1社はその作成を外部の設計会社に依頼していると思われ、原告X1社が、図面上の寸法を単なる誤記と主張することは理解できない。
〔証拠省略〕では、発酵槽の(図面上)左側の空間の長さが5mと訂正されており、これにより発酵槽の長さが60mとなっているが、容量10.8m3、短辺の長さ1.9mの保管コンテナ6基を保管するには上記空間の長さが5mでは足りないのであって、〔証拠省略〕のような訂正をすることは、かえって、堆肥化施設棟が堆肥化処理に適した構造ではないものとなり、処理基準違反を引き起こすおそれがある。
また、本件各申請が、被告が一旦承認した本件事業計画書と同一でないことは、前記1(2)イのとおりである。
(5) 不許可理由4―2について
(原告X1社の主張)
ア 本件申請書類インデックス「脱臭装置」10枚目「脱臭槽規模算定書」では脱臭槽有効面積が292m2とされている。この数値は、不許可理由4―2に指摘されている「④脱臭槽面積:長さ×幅=66m×4.5m=297m2」の範囲内であるから、脱臭槽の面積は足りており、脱臭処理能力を満たした設計となっている。
イ 不許可理由4―2で脱臭槽有効面積を346m2と算出しているのは、事実誤認に基づくものである。すなわち、本件各申請書類インデックス「建物図」5枚目「第1堆肥化施設断面詳細図」より、発酵棟建屋が二重構造になっていることが明らかであり、同7枚目「第1堆肥化施設 軸立図」の「Y1・Y2通り軸立図」及び「X1~X6通り軸立図」のいずれにおいても、「下端」と「軒高」の間は4.5mと記載されており、「軒高」から二重構造となった下層の天井部分にフッソフィルムが施されていることが判明する。よって、高さは、軒下から約0.9m下に設置されたフッソフィルムまでの高さ3.6mを前提にすべきであり、少なくとも、二重構造であることが明らかである以上、高さ4.5mを前提とした計算には重大な事実誤認がある。
発酵棟建屋の容量(①)は、長さ×幅×高さ=75m×15m×3.6m=4050m3となる(なお、本件各申請当時、原告X1社は、高さ3.6mで計画しており、本件申請書類インデックス「脱臭装置」10枚目「脱臭槽規模算定書」で建屋容積が4395m3とされているのは誤記であり、〔証拠省略〕に記載されている4050m3が正しい。)。次に、発酵槽の長さは60mであるので、処理内容物の容量(②)は、長さ×幅×高さ=(75m-10m-5m)×(3m×4)×2m=1440m3となる。このため、脱臭対象容量(③)は、4050m3-1440m3=2610m3となる。そうすると、「脱臭槽規模算定書」の脱臭槽有効面積は265m2となる(なお、本件各申請書類インデックス「脱臭装置」10枚目「脱臭槽規模算定書」で「脱臭槽有効面積」が「292m2」とされているのは誤記である。)。よって、脱臭槽有効面積は、脱臭槽面積297m2の範囲内である。
(被告の主張)
本件各申請書類インデックス「建物図」5枚目「第1堆肥化施設断面詳細図」からは、二重構造となった下層の天井部分にフッソフィルムが施されていることはわかるが、フッソフィルムからの高さが3.6mであることは何ら示されておらず、これを読み取ることができない。かえって、本件各申請書類インデックス「脱臭装置」2枚目「発酵棟排気脱臭設備計画書」においても「発酵棟寸法 15m×70m×4.5mH」と記載されており、さらに、原告X1社が平成16年12月24日に被告に提出した脱臭規模算定書(〔証拠省略〕)において発酵棟建屋の高さを4.5mとしているのであるから、原告X1社は、高さが4.5mであることを自認している。
また、同10枚目「脱臭槽規模算定書」においては、建屋容積が4395m3とされており、他の書類や図面からも、発酵槽の横15m、長さ75mであることが食い違いなく認められるのであるから、これら数値を用いて高さを逆算すると、4395÷15÷75=約3.9mとなり、原告X1社の主張する3.6mとは異なる数値となるのであって、原告X1社が主張する3.6mには根拠がない。
そして、発酵槽の長さが60mと認められないことは、前記(4)のとおりである。
また、本件各申請が、被告が一旦承認した本件事業計画書と同一でないことは、前記1(2)イのとおりである。
(6) 不許可理由4―3について
(原告X1社の主張)
本件各申請書類インデックス「コンポスト」14枚目「処理工程図」の不明事項にすぎず、法令が求める要件を充足していないという理由にはなり得ない。原告X1社は、本件承認を得てから、平成16年12月24日、被告松本地方事務所の担当者に対し、脱臭設備について相談をし、脱臭設備追加の説明をして処理工程を明らかにした書類(〔証拠省略〕)を提出したのであり、被告は、本件各申請に係る堆肥化処理施設が廃棄物処理法の許可基準に適合していることを熟知していたのである(〔証拠省略〕)。
(被告の主張)
不許可理由4―3は、発酵槽、洗浄棟、脱臭槽の間における具体的な排気(他方から見れば吸気)のあり方(たとえば、発酵槽における臭気を集める配管や吸気口の大きさ及び設置位置、ファンの設置位置、ダクトの規格、洗浄棟の設置位置、脱臭槽における臭気管の規格及び配置など)が明らかにされていないことを指摘するものであって、原告が、訂正の上再度「処理工程図」を〔証拠省略〕として提出したことをもって、当該不許可理由が消滅するわけではない。
(7) 不許可理由4―4について
(原告X1社の主張)
本件事業計画書インデックス「6―7」35枚目「脱臭炉熱計算」により、熱分解脱臭炉の脱臭処理能力は明らかである。また、燃焼温度を感知する温度センサー計、温度をデジタル表示する温度デジタル表示計及び燃焼温度を感知して制御する電気制御盤は設けられており、800℃の燃焼温度を確保する為の燃焼バーナーも設置されている(〔証拠省略〕)。
(被告の主張)
本件各申請が、被告が一旦承認した本件事業計画書と同一でないことは、前記1(2)イのとおりであり、本件事業計画書に「脱臭炉熱計算」が添付されていても、本件各申請に同書類が添付されていたということにはならない。
また、〔証拠省略〕は、熱収支計算を行うことによりA重油の燃料消費量(F=11.4kg/H)を導き出しているが、臭気対策の観点は「1 設計条件」の項目に“脱臭温度800℃”とあるだけである。臭気ガスを800℃の温度で焼却することで悪臭原因物質を分解させることが想定されるが、本件各申請の熱分解脱臭炉に燃焼温度を制御するための温度測定装置が設けられているものか本件各申請の設計図面からは不明であり、処理において実際に800℃の燃焼温度が確保されるのかも不明である。
(8) 不許可理由4―5について
(原告X1社の主張)
本件事業計画書は、油水分離処理施設の温水機脱臭炉の設備について脱臭処理能力を表す書類が添付されていなかったにもかかわらず、関係基準に適合しているとして承認された。不許可理由4―5の指摘する事項は、本件各申請が法令の求める要件を充足していないという理由にはなり得ない。
(被告の主張)
本件各申請が、被告が一旦承認した本件事業計画書と同一でないことは、前記1(2)イのとおりであるし、本件事業計画書に脱臭処理能力を明らかにした書類が添付されていないままにこれを承認したことが、本件各申請において当該書類の添付を不要とするものではない。
さらに、原告X1社が設置を計画している温水機脱臭炉は、本件各申請の添付書類によれば、油水分離槽の加熱管に温水を供給するための温水機(ボイラー)の役割と、油水分離槽から生ずる臭気を吸引して脱臭する脱臭炉(バーナーによる臭気ガスの焼却)の役割を兼ねる装置である。そして、〔証拠省略〕には脱臭温度800℃と記載され、そのための燃料消費量をF=17.1kg/Hとしている一方、温水機として100℃の温水を送るための燃料消費量を10kg/H(12.5L/HをA重油の比重0.8で換算したもの)としているのであって(本件各申請書類インデックス「油水分離」13枚目「別紙1 油水分離施設の仕様書及び設計計算書」の「7―2 油水分離層」)、当該温水機脱臭炉は、温水機として使用するときと脱臭炉として使用するときとで燃料消費が異なる。供給する燃料の量によっては、計画した脱臭処理が適正になされないことも考えられるところ、原告X1社は、本件各申請において当該温水機脱臭炉をどのように運転するかを明らかにしていないから、この点に関し確認のしようがなく全く不明である。また、燃焼温度を制御するための温度測定装置が設けられているか本件各申請の設計図面からは不明であり、実際に800℃の燃焼温度が確保されるかも不明である。
(9) 不許可理由4―6、不許可理由4―7について
(原告X1社の主張)
本件各申請に関する審査基準は「廃棄物の処理及び清掃に関する法律第14条の2第2項において準用する第14条第10項及び同法施行規則第10条の5の規定」であり(〔証拠省略〕)、「生活環境の保全」は許可要件ではなく、「生活環境の保全」は、第14条第11項において条件をつけるという形で求めることができる補完事由にすぎない(〔証拠省略〕)から、被告は条文の許可要件を超えて、本件各不許可処分を下したものである。
(被告の主張)
〔証拠省略〕からも裏付けられるように、本件各申請に対しては許可基準及び処理基準への適合性判断が不可欠である。産業廃棄物の「適正な処分ができる」という中には、その処分に伴い発生が予測される生活環境の保全上支障と考えられる事柄(悪臭、騒音、振動、粉じんなど)への対処も含まれており、それは産業廃棄物の処理をする際に遵守すべき基準(処理基準)へ具体的にどのように対応するのか申請内容から確認できることを意味しているのであって、「生活環境保全上支障の生じないように必要な措置」を講じているという意味も含んだ「処理に適する施設」であることが必要である。
(10) 不許可理由5について
(原告X1社の主張)
ア 事実誤認
被告は、本件各説明経過書面の記載事実を故意に歪曲して理解しており、悪意に基づく事実誤認をしている。
(ア) 「「平成14年5月6日」に、北小倉区の祭典直後の懇親会の席上、申請人から事業説明をした事実はない。」について
本件各説明経過書面には、原告X3社が祭典に参加したと記載されており、原告X1社や原告X2がこれに参加し説明したと記載されているものでない。これは、本件各説明経過書面が被告担当者の指示により記載されたものであることから被告が知っていたことであるし、本件各説明経過書面の文面からも明らかである。
(イ) 「後日、組合長より各組合の住民の合意を得た旨の報告がされた事実もない。」について
報告を受けたのは原告X3社であり、このことは本件各説明経過書面の文章の文脈から読み取ることができる。
(ウ) 「申請人の本件申請に係る事業内容に対して、北小倉区をあげての応援が約束された事実もない。」について
本件各説明経過書面には「申請人の本件申請に係る事業内容について応援が約束された」などとは書かれていない。この段階では、事業計画は原告X3社が主体で実施することになっており原告X3社が示した事業計画について応援が約束されたのである。このことは、後に続く「平成15年 年初」の文脈から読み取ることができる。すなわち、原告X3社は、懇親会の席上で、木くずの処理だけでなく、様々な廃棄物を処理したいとの事業計画の説明をし、区長は、区としてこれに同意をしたことを各組合長に伝え、後日、各組合長は各組合の住民に、原告X3社の事業計画を伝えた。そして、区長が、各組合の住民の合意を得たこと及び北小倉区をあげての応援を約束することを、原告X4に伝えたのである。
(エ) 「「平成15年 年初」に、申請人が母体となりX3有限会社から事業計画を移行すること及び追加事業計画について、15年度当時の北小倉区長に相談をした事実はない。当該区長が当該事業計画を理解した事実もなく、組合長会議等で住民に何回も説明を行った事実もない。」について
「三郷村の(株)X1の廃棄物処理施設に係る打合せ記録」(〔証拠省略〕)3頁2行目以降から明らかなとおり、平成17年4月27日当時、E区長は、「15年当時、区長は組合長に事業者の計画について説明しており、その1ヶ月後に開かれた運営委員会でも話をしている。事業報告にもその旨記載されており、監査を受けて区民に回覧されている。区民が知らないということは有り得ない。」と述べており、また、「平成15年度北小倉区事業報告」(〔証拠省略〕)の「3月2日」の欄にも、「X3(有)と(株)X1との提携廃棄物処分場計画について説明」と記載されているのであって、これらからすれば、「「平成15年 年初」に、申請人が母体となりX3有限会社から事業計画を移行すること及び追加事業計画について、15年度当時の北小倉区長に相談をした事実」、「当該区長が当該事業計画を理解した事実」、「組合長会議等で住民に何回も説明を行った事実」が真実であることは容易に判断できる。
(オ) 「「平成15年4月28日」に、各組合長、住民の理解を得た事実はない。」について
前記(エ)で挙げた打合せ記録(〔証拠省略〕)の記載及び平成15年度北小倉区事業報告(〔証拠省略〕)の記載、並びに、本件各同意書及び本件各説明経過書面の全てにA区長の署名と捺印があることからすれば、「「平成15年4月28日」に、各組合長、住民の理解を得た事実」についても真実であることは容易に判断できる。
(カ) 別件訴訟で長野地方裁判所が言い渡した判決における事実認定に照らしても、不許可理由5にある事実が重大な事実誤認であることは明らかである。
(キ) 平成19年安曇野市議会12月定例会の一般質問第2日目(平成19年12月18日)において安曇野市副市長がした発言(〔証拠省略〕)や、三郷村長名義の〔証拠省略〕に「地元、近隣等の同意書に関して遵守されたい。」と記載されていることからは、地元住民の合意を得たことについて、三郷村村長のみならず、担当の係長、助役、A区長も確認していたことを裏付ける。
イ そもそも本件各同意書及び本件各説明経過書面の添付は、廃棄物処理法14条の2第2項、14条第10項各号、及び廃棄物処理法施行規則10条の5第1号の要件ではない。それにもかかわらず、これらの書面に関する事情をもって不許可処分の理由とすること自体、許されない。
(被告の主張)
〔証拠省略〕のとおり、A区長が、原告X1社に対し、一本松地区及びさばい地区の住民に会って十分に説明してほしいとくどいほど述べたのに対し、原告X3社及び原告X1社は、A区長に対し「信用してほしい、必ずやるから」と約束をしたため、A区長は、上記説明が済んでいると考えて本件各同意書を作成したのである。本件各同意書は、このように地元住民への説明をすると約束した原告X1社が、これを行わないままに、そのことを秘して、A区長に作成させたものであって、真実と評価することはできない。また、このことは、地元住民に対する著しい背信行為であり、このような事実に反する書類の提出を許容すれば、地方自治体における行政事務手続きは公正さを欠くことになり、地方自治体に対する住民の信頼を失うことになる。
3 ③補正の機会を与えるべき義務の違反があったか
(原告X1社の主張)
不許可理由1で指摘のある事項は、原告X2が、被告担当者から、「トラックの修理工場から排出される油は、エンジンを修理した場合、エンジン油だけでなく、エンジンの中の、燃料の軽油も含まれると思うので、「別紙1 油水分離施設の仕様書及び設計計算書」に、鉱物油と軽油と植物油を記載するよう」指示を受けたためにされたものであり、本件各不許可処分までその不備は指摘されなかった。このような経過に照らせば、被告には、不許可理由として指摘する前に、原告X1社に対し、誤記部分を補正する機会を与える信義則上の義務があったというべきである。その他の不許可理由で指摘のある事項も、本件承認段階では指摘されず、誤記の訂正や不明点に関する資料の補充を求めれば済む事項であるから、被告には、原告X1社に対し、誤記部分を補正する機会を与える信義則上の義務があったというべきである。よって、本件各不許可処分はかかる義務にも違反してなされており違法である。
(被告の主張)
(1) 申請の内容審査における補正については、行政手続法上の義務はない。すなわち、行政手続法7条は、申請の形式上の要件に適合しない申請である場合に、その適合していない形式上の不備の補正を求めることとなっているところ、申請の形式上の要件とは、申請が有効に成立するために法令において必要とされる要件のうち、当該申請書の記載、添付書類等から外形上明確に判断し得るものをいうのであって、同条が補正することを予定しているのは、行政庁の申請の形式審査においてであって、申請の内容審査において、申請内容を判断する際の疑問点を解消させる場合ではない。
本件各申請に対する不許可処分に当たっては、形式審査のみならず、申請内容の審査を行っており、申請内容の審査段階での申請書類の不備は、許可要件適合性の内容として判断されるものであって、補正を求める事項ではない。仮に、内容審査の段階においてもなお、確認できない事項又は不明な事項に関しては補正の機会を与えるとされれば、申請者は補正の機会のたびに、申請内容を許可基準に適合した内容に変更していくことが可能となり、およそすべての許可申請は許可されることを前提としたものとなるのであって、このような審査は、許可制度を形骸化させてしまう。
よって、被告に補正義務はない。
(2) また、本件事実経過のもとで、被告が地元住民への適切な事業説明とそれに基づいた地元の意向把握を行うよう求めたことは、廃棄物処理法の許可基準適合性判断を補完する目的、動機に基づく正当な行為であり、また、原告X1社が乙事件の損害賠償請求訴訟を提起して本件各申請書類をもって審査すべしとの意思が明らかとなった以上、この申請書類の内容について審査すべきは当然で、補正を求めないことをもって信義則に違反すると評価することはできない。なお、本件各申請については、別訴において、許可基準に適合していると認められない事項又は確認できない事項についても指摘しており、原告X1社は、本件各申請内容を見直す十分な時間があったはずである。許可申請は、事業者自らがその責任において行うべきものであり、事前協議段階における行政指導は、いわば、事業者の申請の手助けを都道府県において行っているものであるから、この事前協議を打ち切り、行政指導を受けない意思を明かにした以上、事業者が自らの責任において申請書を提出し、その申請書の内容をもって審査を受けるべきことは、自明である。
4 ④比例原則に反するか
(原告X1社の主張)
被告の主張によれば、膨大な申請書類の記載のうち1箇所の誤記が許可申請全体の不許可処分理由になることになり、申請者に過大な負担を科し、比例原則にも反することとなる。また、本件各不許可処分で挙げる各不許可理由は、本来考慮に容れるべきでない事項を考慮にいれ又は本来過大に評価すべきでない事項を過大に評価するものであり、違法である。
(被告の主張)
前記2のとおり、各不許可理由は正当なものである。
第3 許可処分の義務付けについて
(原告X1社の主張)
1 本件申請1について
廃棄物処理法14条10項及び同法施行規則10条の5の要件の認定について、許可権者である都道府県知事には裁量はなく、仮に裁量があるとしても狭い裁量の余地があるにすぎず、法令の要件を充足している申請については産業廃棄物処理業の許可(変更許可)をしなければならない(〔証拠省略〕)。
本件申請1が廃棄物処理法14条10項及び同法施行規則10条の5の要件を充足していることは明白であり、これを許可しないことは許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠く。これに加え、本件申請1に対して許可処分をしないのは信義則に反する事情があるから、これを許可しないことは、許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠く。
(1) 廃棄物処理法14条10項及び同法施行規則10条の5の要件の充足による裁量権の逸脱、濫用
ア 廃棄物処理法14条10項1号及び同法施行規則10条の5の要件を充足していること
本件申請1に先だって、被告は、本件申請1と同一である本件事業計画書を承認しており、事業計画が承認された以上、原告の事業計画が廃棄物処理法14条10項1号及び同法施行規則10条の5の要件を充足しうるものと、被告自身が認めていたことになる。そして、平成17年2月17日、本件施設が完成し、原告X1社は被告松本地方事務所に工事完了届出書を提出したから、本件申請1の時点では、被告によって承認された本件事業計画書どおりの施設が現実に存在した。よって、本件申請1は、廃棄物処理法施行規則10条の5第1項一イ、ロを充足していると判断されることになる。
なお、本件申請1では、本件事業計画書に添付されていた第21期及び第22期の決算報告書及び納税証明書が添付されていないが、第23期及び第24期の決算報告書及び納税証明書は本件事業計画書と同様に添付されていることに加え、新たに第25期の決算報告書及び納税証明書が添付されているところ、その決算報告書5枚目の当期未処分利益及び次期繰越利益は4億4028万3458円であり、第24期の未処分利益及び次期繰越利益4億3851万4806円を上回っているのであるから、本件申請1に添付された経理書類によって、同規則10条の5ロ(2)を充足すると判断できる。
イ 廃棄物処理法14条10項2号の要件を充足していること
廃棄物処理法14条第5項第2号イからヘまでに列挙されている欠格要件の運用について、平成15年の廃棄物処理法改正により、廃棄物処理法14条の3の2第1項により、事業者が欠格要件に該当した場合には、許可権者である都道府県知事は、その許可を取り消さなければならないこととなった。
原告X1社は、昭和54年12月26日以降現在まで変わらずに、被告の許可の下、産業廃棄物処分業を営んでいる。原告X1社が本件申請1の時点で欠格要件に該当していれば、廃棄物処理法14条の3の2第1項によって、許可を取り消されているはずであるから、許可を取り消されていないことは、原告X1社に欠格要件に該当する事由がないことを示す。また、被告は、原告X1社が保有している産業廃棄物収集運搬業許可証(〔証拠省略〕)及び産業廃棄物処分業許可証(〔証拠省略〕)に係る許可を、平成18年12月12日に更新しているところ、被告は原告X1社が欠格事由に該当するか否かを審査した結果、許可を更新しているのであるから、被告自らが、原告X1社に欠格要件該当事由がないことを認めている。
ウ 以上のとおり、本件申請1が廃棄物処理法14条10項及び規則10条の5の要件を充足していることは明かであるから、被告長野県が本件申請1について許可処分をしないことは、許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠く。よって、本件申請1について許可処分をしないことが「その裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められる」(行訴法37条の2第5項後段後半)から、本件申請1に対する許可が義務付けられなければならない。
(2) 信義則違反による裁量権の逸脱、濫用
被告は本件申請1と同一性を有する本件事業計画書を、被告の行政指導に基づいて承認したところ、かかる承認の実態は実質的な許可行為であり、本件承認によって、原告X1社と被告との間には、原告X1社の申請が許可されることについて正当な信頼が形成されている、又は、被告は原告X1社に対して申請を許可することを確約したといえる。そして、原告X1社が本件承認を前提に本件申請1に向けて行為を積み重ねたことと、これに対する被告の対応によって、かかる正当な信頼又は確約は一層強固なものになった。それにもかかわらず、被告は本件申請1に対して不許可処分をしたのであり、これは、上記の正当な信頼又は確約を一方的に裏切るものであり、信義則に違反する背信的な行為といえる。上記の正当な信頼又は確約によって、被告は許可義務を負うのであり、被告が本件申請1について許可しないことは、具体的事情の下において、許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くといえ、裁量権の逸脱、濫用にあたり、行政事件訴訟法37条の2第5項後段後半の要件を充足する。
2 本件申請2について(予備的)
次の点を除いて1と同様である。
本件申請2では、本件申請1に添付した決算報告書及び納税証明書に加えて、新たに第26期の決算報告書及び納税証明書が添付されているところ、決算報告書5枚目の当期未処分利益及び次期繰越利益は5億0101万4363円であり、第25期の未処分利益及び次期繰越利益4億4028万3458円をさらに上回っているのであるから、本件申請2添付の経理書類によって、同規則10条の5ロ(2)を充足する。
(被告の主張)
本件各申請が許可要件に適合せず不許可処分が相当であることは第1及び第2の被告の主張のとおりである。
(別紙5)
乙事件における当事者の主張
第1 原告らが主張する違法行為
1 本件承認を取り消した行為
2 試運転計画書を返戻した行為
3 廃棄物再生事業者登録申請書を返戻した行為
4 本件各申請書類を返戻した行為
5 本件各申請に対する審査義務の懈怠
6 本件各不許可処分
7 本件申請1に対して許可処分をしなかったこと
8 本件申請2に対して許可処分をしなかったこと
第2 原告らが主張する違法行為が国家賠償法上の違法な行為といえるかについて
(原告らの主張)
1 本件承認の取消し
(1) 別紙4第2原告X1社の主張1のとおり、本件承認並びにその後の原告X1社の行為及び被告の対応により、被告が原告X1社の申請に対して許可処分をすることについての正当な信頼が生じ又は確約がされ、これが一層強固なものとなった。それにもかかわらず、被告は、平成17年3月3日、原告X1社に対し、住民の同意が撤回されたという法令が求めていない要件を理由に、本件承認を取り消した。これは、違法な行政指導であり、原告X1社の営業の自由など憲法上の基本的人権を侵害する違憲なものである。
(2) また、原告X1社は、被告が求めている住民の同意書を取得し、被告の行政指導に適った対応をしていたにもかかわらず、被告は、被告の行政指導に適う同意書がないとして、自己がいったんなした承認行為を取り消したのであって、これは原告X1社に対する背信行為であり、信義則に違反する違法な行政指導である。
(3) 本件承認の取消しの理由とされている事情は、いずれも原告X1社が被告担当者に報告してその納得を得ているものであり、また、必要があれば原告X1社に事情を尋ねることで容易に解明できるものであるから、本件承認の取消しには合理的根拠はない。
(4) さらに、本件承認の取消しの手続においても、原告X1社の主張、抗弁を一切聞かずになされたのであり、憲法31条の適正手続きの保障の理念に反する違憲違法な行政指導である。
2 試運転計画書の返戻
原告X1社は、平成17年3月11日、本件承認の取消しについて被告に抗議に出向き、試運転計画書を提出したが、数日後郵送で返却された。これは、行政手続法7条及び憲法31条に違反する違憲、違法な行政であり、また、前記1(1)の正当な信頼や確約を一方的に破棄する信義則に反する背信行為であって、憲法31条の適正手続きの理念にも悖り、その他の原告X1社の基本的人権を侵害するものであって、違憲、違法である。
3 廃棄物再生事業者登録申請書の返戻
原告X1社は、三郷村に設置してある設備について、廃棄物再生事業者として登録できる機械設備を有していたため、廃棄物再生事業者登録申請書を提出した。ところが、被告松本地方事務所担当者は、住民が反対しているので書類は受取れないと言ってこれを受理しなかった。これは、行政手続法7条、憲法31条、同法14条1項に違反する違憲、違法な行政であり、また、前記1(1)の正当な信頼や確約を一方的に破棄する信義則に反する背信行為であって、憲法31条の適正手続きの理念にも悖り、その他の原告X1社の基本的人権を侵害するものであって、違憲、違法である。
4 本件各申請書類の返戻
原告X1社は、平成17年10月11日、被告松本地方事務所に宛てて、本件申請書類1を郵送し、これは同月12日に被告松本地方事務所に到達したが、被告松本地方事務所長は、同月17日、これを返戻した。また、原告X1社は、平成17年10月20日、「再度の郵送による申請書受理のお願いのこと」と題する書面(〔証拠省略〕)を添付し、行政指導に応ずる意思のないことを書面によって明確に主張し、被告松本地方事務所に宛てて、上記申請書類を再送し、到達したが、被告松本地方事務所長は上記申請書類を再度返戻した。さらに、原告X1社は、平成18年2月3日にも、被告松本地方事務所に宛てて、本件申請書類2を郵送し、これは同日に被告松本地方事務所に到達したが、被告松本地方事務所長は、同月16日、これを返戻した。これらの返戻は、行政手続法7条、憲法31条、同法14条1項に違反する違憲、違法な行政であり、また、前記1(1)の正当な信頼や確約を一方的に破棄する信義則に反する背信行為であって、憲法31条の適正手続きの理念にも悖り、その他の原告X1社の基本的人権を侵害するものであって、違憲、違法である。
5 審査義務の懈怠
別件訴訟で認められたとおり、長野県知事は、本件各申請について審査義務を負っており、審査をしなければならないことを認識していたにもかかわらず、故意又は過失をもって、審査義務を違法に懈怠した。
6 本件各不許可処分
別紙4第2に記載のように本件各不許可処分は違法である。
そして、以下のとおり、長野県知事には違法な不許可処分をなしたことについて、故意または過失がある。
すなわち、長野県知事は、本件各申請がいずれも法令の要件を充足する適法なものであると判断していたため、本来であれば許可しなければならないことを熟知していたが、突如として沸き起こった地元住民の一部による反対運動に配慮するという政治的動機の下に不作為を継続し、その不作為の継続にも限界が生じたことから、不作為の状態から逃れるためだけに、本件各申請が法令の要件を充足している以上許可しなければならないことを熟知していたにもかかわらず、不許可処分に踏み切ったのである。そして、地方自治体の長として法を適正に執行して正しい法解釈に努めるべき立場にある長野県知事にとって、本件各申請が法令に適合していることを理解できないという特別の事情は存在せず、まして、長野県知事は原告X1社の事業計画書を承認しているのであるから、本件各申請が法令に適合しており許可しなければならないものであることを十分に認識していたのである。これらの事情に照らせば、長野県知事には、故意があったか、少なくとも、職務上要求される注意義務に違反するという過失があった。
7 本件申請1に対して許可処分をしなかったこと
本件申請1が廃棄物処理法14条10項及び施行規則10条の5の要件を充足していることは明らかであるから、長野県知事は、本件申請1が平成17年10月12日に到達してから、6か月後である平成18年4月12日にはこれを許可すべきであったといえ、許可処分をしないことは、許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠き、国家賠償法1条1項の適用上違法となる。
そして、長野県知事は、本件申請1がいずれも法令の要件を充足する適法なものであると判断していたため、本来であれば許可しなければならないことを熟知していたが、突如として沸き起こった地元住民の一部による反対運動に配慮するという本来許認可権限の行使にあたって考慮すべきではない事項を考慮して、許可しなかったのであり、長野県知事には、故意があるか、少なくとも、職務上要求される注意義務に違反するという過失がある。
8 本件申請2に対して許可処分をしなかったこと
本件申請2は廃棄物処理法14条10項及び施行規則10条の5の要件を充足しているから、長野県知事は、本件申請2が平成18年2月3日に到達してから、6か月後である平成18年8月3日には許可すべきであったといえ、許可処分をしないことは、許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠き、国家賠償法1条1項の適用上違法となる。
そして、本件申請1に対する許可処分をしなかったこと(前記7)と同様に、長野県知事には、故意又は過失があった。
(被告の主張)
1 本件承認の取消し
別紙4第2被告の主張のとおりであり、本件事業計画書に事実に相違する書類が添付されていたことが判明した以上、この不正行為を放置することは、地方自治体において守るべき公正・公平な手続きに反するから、これを放置することは許されない。したがって、被告が原告X1社に対し、虚偽を内容とする書面が添付された事業計画書に対してした承認を取り消して、正しい書類の添付を求めることは、被告職員において行うべき相当な行為であって、被告が本件承認を取り消したのは何ら違法ではない。
2 試運転計画書の返戻
試運転計画書は、許可の取得を前提として、施設を稼働するにあたって任意に提出される書類であるから、許可の取得がされていない本件施設にあっては、そもそも試験運転計画書を提出することはできない。したがって、被告の行為には、何らの違法もない。また、試験運転計画書の提出は、任意の提出書類であるから、行政手続法7条に違反する問題は生じない。
3 廃棄物再生事業者登録申請書の返戻
廃棄物再生事業者登録制度は、廃棄物の再生を業として営んでいる者を登録するためのものであって、現に廃棄物の再生を営む状態にはない者(今後営もうとするものを含む)を登録するためのものではない。被告松本地方事務所の廃棄物担当者は、原告X1社に対し、その旨を十分説明したところ、原告X1社はこれを了解し、自ら申請書を持ち帰ったものである。よって、被告には行政手続法7条に該当する違法はなく、不法行為には該当しない。
4 本件各申請書類の返戻及び審査義務の懈怠
(1) 被告は、平成20年1月24日、本件各申請に対して不許可処分を行ったから審理義務違反はない。
(2) 本件各申請書類の返戻行為について
本件各申請書類が返戻された原因は、原告X1社が事実に相違する書類を提出した点にある。そして、この原告X1社の不正行為に対して、被告がこれを正し、補正を促すための行政指導として返戻を行うことは、まさに地方自治体の職員として行うべき正当な行為として評価されるものであり、被告職員の本件各申請書類の返戻行為は行政手続法第7条に違反しない。
また、被告職員の本件各申請書類の返戻行為が行われた事情、被侵害利益の種類、性質、侵害行為の態様及びその原因、行政処分の発動に対する被害者側の関与の有無、程度並びに損害の程度等の諸般の事情を総合的に見れば、被告職員において、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と当該行為をしたと認めうるような事情は存在せず、国家賠償法第1条1項における違法にも該当しない。
ア 返戻が行われた事情
被告職員は、地方自治体の職員として、地方自治法や被告が定めた廃棄物の処理関係事務処理要領(〔証拠省略〕)に従って、原告X1社への行政指導を行ってきている。しかも、この行政指導の継続は、同原告が提出した事業計画書が正しく提出されることを指導するものであって、相当な理由がある。そして、本件各申請書類の返戻の原因が原告X1社にあること、被告職員は、原告X1社から提出された事実に反する不正な書類の瑕疵を除くべく住民説明会を開催するために尽力したこと、原告X1社は住民説明会の開催の場を求めていたこと、原告X1社は地元住民や被告職員の努力の積み重ねや約束を反故にして申請書を提出するなどの背信行為を行ったことといった事情がある中で、補正を促すために行われたものである。
イ 原告X1社が受ける不利益の程度、その他の事情
原告X1社は、地元説明会を継続し、その状況を記した書面を被告に提出すれば、その提出書類は事実を反映した正しい書類となり、被告職員において、申請書類を返戻することはなかったのであり、原告X1社の不利益は自ら解消しうる性質のものであった。しかも、この地元説明会の開催は、原告X1社にとって有益であるし、自ら求めたものであって強制されたものではない。
他方、被告が、原告X1社の提出した申請書を返戻することなくこれを受け取った場合には、事実に相違する書類の添付を容認することになる。すなわち、地元住民の意向を示す書類は、廃棄物処理法上、提出が予定されているものではないことから、本件各申請書類に事実と相違する書類が添付されていたとしても、許可要件に該当している以上、許可処分が行われることになる。そして、この場合には、事実に反して添付された書類が、その誤りを正されずに同申請書に添付されたまま残ることになる。これでは、地元住民の反発や紛争の激化に繋がることが予測され、住民の福祉の増進を図ることを基本として地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担う(地方自治法2条)という地方自治体の責務に反することになり、住民の被告に対する信頼は大きく失墜する。
したがって、被告としては、原告X1社に対し、地元住民の意向を示す書類の提出にかえて、地元説明会を継続する(但し、地元の意向が明らかになればその時点で終了)ように行政指導を行うことは、被告の義務であると言える。
ウ 以上を総合すれば、被告職員において、本件各申請書類を返戻した行為は、原告X1社の不正な書類の提出が原因であること、住民説明会の開催は原告X1社自ら求めていたこと、住民説明会は継続しており、少なくとも原告X1社は住民らに対し次回資料に基づいて説明会を行うことを約束していたこと、原告X1社はこの住民説明会について誠意をもって対応さえすれば同意書の瑕疵は治癒されること、一方、原告X1社の提出した同意書をそのまま受領するとすれば、被告が不正を見逃すことになること、これによって被告に対する住民らの信頼が失墜することなどを総合的に勘案すれば、原告X1社の行為には、不協力表明が社会通念上正義の観念に反するといえるような特段の事情が存在し、一方、被告職員には職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と当該行為をしたと認めうるような事情は存在しないから、違法との評価は不相当である。
(3) 処分までの期間について
ア 前記(2)ウで述べたとおり、被告が原告X1社の住民への説明を期待して行政指導をしていたことには、被告職員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と当該行為をしたと認めうるような事情は存在しないから、審査までに時間を経過したことを違法と評価するのは不相当である。
イ また、本件各申請に対する審査が時間を要するものであったことは次のとおりである。
すなわち、許可権者において当該申請が許可基準に適合しているかどうかを判断するには、個々の申請について個別的に判断することになる。「処理に適する施設」なのか、「生活環境保全上支障の生じないために必要な措置」なのか等、適合性の判断には、個別事例の精査が必須である。そして、その審査は、産業廃棄物処理施設が周辺の生活環境保全上支障を生じる可能性が高いものであることに鑑みて、慎重かつ厳格に行われるべきものである。したがって、申請書類の記載内容の実現性や措置の効果等について、提出された書類(資料)を詳細かつ科学的に検証することが必要不可欠である。
被告の定める標準処理期間は、通常の態様の申請に対して応答義務を尽くすのにふさわしい合理的な期間を定めたものであり、産業廃棄物処理業の許可関係については、事前の行政指導による事業計画書の審査が終了していることを前提とした期間設定となっているから、事前準備手続を経由していない場合には、事前に行政指導を行った場合に比して一層厳格な書面の読み込みや調査が必要となるのであり、結果的に、行政指導を経由した場合より相当長期な時間設定が必要となる。
さらに、本件各申請のように、申請対象となる廃棄物や処理施設が多岐、多様である場合には、審査項目も必然的に多くなる。そして、特に技術的基準については、専門的な検証が必要であるから、十分な時間が必要である。現に、原告X1社が被告に対して提出した平成15年8月29日付け事業計画書に対して、被告が承認をしたのは平成16年7月23日であり、仮に事前準備手続きに問題がなかったとしても、その後に他法令に基づく手続完了の確認や、事前審査手続きにおいて提出された資料や欠格要件の調査結果を踏まえて法令に定める審査基準に適合しているか否かについて仔細に審査を行うための期間が必要となるのである。したがって、本件各申請のごとく事前準備手続を経由せずになされた場合にあっては、当然、事前準備手続を経由した際の審査に要する期間に相当する時間分がさらに加わることになる。
第3 損害額
(原告らの主張)
前記第1の1ないし6の行為による損害は、以下の損害のうち、①原告X1社の損害のうち、一連の問題に対応した原告代表者の労力、同交通費、別件訴訟における弁護士費用、風評被害、本件訴訟の弁護士費用、②原告X2の損害、③原告X4の損害であり、前記第1の7及び8の行為による損害は以下の全ての損害である。
なお、被告による前記一連の違法行為は、原告X1社、原告X2、原告X3社、原告X4らに対する一貫した背信的意図の下、原告らの信頼を裏切るものであり、かかる故意または過失に基づいた信義則に反する行為により、原告X2及び原告X4の人格権が侵害されて精神的苦痛が生じ、さらには、原告X3社の財産権が侵害され逸失利益が生じたのであるから、「公権力の行使」は、直接の許可申請の主体である原告X1社のみならず、原告X1社の許可申請にあたり、被告との間で、被告が本件事業計画に基づく本件各申請を許可するという適法な行政活動をすることに合理的な信頼を有するに至った、原告X2、原告X3社及び原告X4に対しても及んでいるのであるから、被告は、原告X2、原告X3社及び原告X4に対しても国家賠償法1条1項に基づき損害賠償責任を負う。仮に、「公権力の行使」が、原告X2、原告X3社、原告X4に対しては及んでいないとしても、上記の信義則上の義務に反し、被告の故意又は過失に基づいて、権利侵害行為があったのであるから、損害賠償請求の一般法理である民法709条によって、被告は同原告らに対しても損害賠償責任を負うべきである。
1 原告X1社の損害 69億3209万4690円
(1) 本件施設における逸失利益 52億2089万6000円
本件各申請に対する標準処理期間が56日であることから、特段の事情のない限り、最大限に見積もっても6か月間、申請に対する処分がされなければ、処分をしない不作為が違法になると評価されるべきであり、本件申請1が平成17年10月12日に到達してから、6か月後である平成18年4月12日には許可すべきであったといえる。そこで、原告X1社は、遅くとも、平成18年4月13日から廃棄物処分業を営業できたはずであるから、被告職員の違法な行政指導及び長野県知事の不作為によってそれ以降の営業利益を失ったとはいえ、逸失した利益額の賠償を求めることができる。そして、産業廃棄物処理業の許可の更新期間は5年とされている(廃棄物処理法14条7項、施行令6条の11)から、平成18年4月13日から5年間は営業によって、利益を得ることができるところ、本件訴えにおいては、逸失利益の算定期間を平成18年4月13日から3年とする。
ア 三郷工場の営業利益
(ア) 堆肥化処理に係わる逸失利益
a 売上(処分料) 月額414万5000円
(a) 1か月25日間稼動するものとする。
(b) 産業廃棄物の処理委託料金収入
動植物性残渣について、原告X1社は有限会社a7から1日12.9tの処理を委託されることになっており、処理単価は1万2000円/1tである(〔証拠省略〕)から、月額の処理委託料金収入は金387万円(12.9t×1万2000円/t×25日間)となる。
(c) 製品(堆肥)販売代金
堆肥について、原告X1社は株式会社a8に対し、「販売単価500円/1t」で売却することになっており、また、販売数量は、1か月300tないし550tである(〔証拠省略〕)から、月額の製品(堆肥)販売代金は、最大27万5000円となる(500円×550t)。
b 控除すべき経費 月額408万3820円
(a) 木くずの購入費用 月額112万円
原告X1社は、産業廃棄物である木くずを、原告X3社から、12.8t/日、単価3500円/tで購入することとなっていた(〔証拠省略〕)から、月額112万円(12.8t×3500円/t×25日)の木くず購入費用が発生する。
(b) 人件費 月額70万円(35万円×2人)
(c) 電気使用料 月額72万8150円(2万9126円/日×25日)
(内訳)
ⅰ エアレーションブロアー 2.2kw×6台=4536円
ⅱ 脱臭装置(生物式生物脱臭) 18.5kw×2台=1万2716円
ⅲ 脱臭槽撹拌機 7.5kw×1台=2577円
ⅳ 循環ポンプ 2.2kw×4台=3025円
ⅴ 撹拌機 16kw×1台=5499円
ⅵ 走行台車 0.75kw×1台=257円
ⅶ 横行台車 0.75kw×2台=516円
ⅷ 合計 1日2万9126円
(d) 下水道料 脱臭洗浄水(5m3/日×25日)1万9030円
(e) 保守点検料 10万円(〔証拠省略〕)
(f) 運搬費 141万6640円
(内訳)
ⅰ 人件費 月額63万6090円(時給1820円×6時間×58.25回(月間運搬回数))(〔証拠省略〕)
ⅱ 燃料費 月額78万0550円(134l×100円/l×58.25回)(〔証拠省略〕)
c 堆肥化処理月額純利益 6万1180円(a-b)
(イ) 圧縮切断処理に係わる逸失利益
a 売上(処分料) 月額5517万6000円
金属くず、廃プラくず、ガラス・陶磁器くず、木くず、紙くずの混合廃棄物の圧縮切断処理によって、月額5517万6000円の売り上げがある。
(内訳)
(a) 1か月25日間稼動するものとする。
(b) 金属くず、廃プラくず、ガラス・陶磁器くず、木くず、紙くずの5品目の混合物(以下「混合廃棄物」という。)については、以下の排出事業者から、月合計最大「950t」まで受け入れることになっていた(〔証拠省略〕)。
① 有限会社a9 150t
② a6株式会社 300t
③ 有限会社a10 150t
④ 有限会社a11 150t
⑤ 有限会社a12 200t
(c) 処理能力は35.2t/日である(本件各申請書類インデックス「事業概要」2枚目)から、混合廃棄物の受入量は35.2t/日であり、1品目あたりの受入量は7.04t/日(35.2t÷5)となる。
(d) 混合廃棄物処理委託料金は、処理単価60円/kgである(〔証拠省略〕)から、月額5280万円(35.2t×60円/kg×25日)となる。
(e) 混合廃棄物を切断処理後、廃棄物の種類毎に選別し、販売できるものは、製品として販売する(〔証拠省略〕)。
紙くずは、古紙であり、販売単価4円/kgとして、株式会社a13との取引で、月額70万4000円(7.04t×4円/kg×25日)となるはずであった。
金属くずについては、金物であり、販売単価9.5円/kgとして、a14株式会社との取引で、月額 金167万2000円(7.04t×9.5円/kg×25日)となるはずであった。
b 控除すべき経費 月額1295万5562円
(内訳)
(a) 人件費 月額210万円(35万円×6人)
(b) 電気使用料 月額29万9050円(1万1962円/日×25日)
電動機 37kw×2台=1万0538円
給油ポンプ 10kw×1台=1424円
(c) 保守点検料 月額10万円(〔証拠省略〕)
(d) 処分費用 月額880万円
混合廃棄物の圧縮切断処理によって、以下の廃棄物が発生するところ、原告X1社は以下のように処分を委託することになっていた(〔証拠省略〕)。
ⅰ 木くず 原告X3社(〔証拠省略〕)
528万円(7.04t/日×30円/kg×25日)
ⅱ 廃プラくず・ガラス・陶磁器くず
株式会社a15(〔証拠省略〕)
352万円(14.08t/日×10円/kg×25日)
(e) 運搬費 月額165万6512円
ⅰ 木くず 発生しない。
ⅱ 廃プラくず・ガラス・陶磁器くず 月額165万6512円
(ⅰ) 人件費 83万2832円(時給1820円×13時間×35.2回(月間運搬回数))
(ⅱ) 燃料費 82万3680円
c 圧縮切断処理月額純利益 4222万0438円(a-b)
(ウ) 圧縮梱包処理に係わる逸失利益
a 売上(処分料) 月額1億0138万8750円
廃プラスチック類の圧縮梱包処理によって、月額1億0138万8750円の売り上げがある。
(内訳)
(a) 1か月25日間稼動するものとする。
(b) 廃プラスチック類については、以下の排出事業者から、月合計最大1,550tまで受け入れることになっていた(〔証拠省略〕)。
①有限会社a16 1,100t
②有限会社a17 100t
③有限会社a18 100t
④株式会社a19 1,250m3(1m3=200kg換算)
(c) 処理能力は「54.4t/日」である(〔証拠省略〕)。
(d) 廃プラスチック類の処理委託料金は、「処理単価60円/kg」なので、月額金8160万円(54.4t×60円/kg×25日)の収入がある(〔証拠省略〕)。
(e) 廃プラスチック類の内、処理によって、97%が製品となるので、1日あたり52.77tの製品となる(54.4t×97%)。
製品の販売単価は15円/kgなので、株式会社a20との取引によって、月額1978万8750円の製品販売収入があるはずであった(52.77t×15円×25日)(〔証拠省略〕)。
(f) 合計 月額1億0138万8750円((d)+(e))
b 控除すべき経費 月額345万3113円
(内訳)
(a) 人件費 175万円(35万円×5人)
(b) 電気使用料 31万0975円(1万2439円/日×25日)
ⅰ チェーンベルトコンベアー 5.5kw×1台=784円
ⅱ 油圧ユニット 7.4kw×1台=1万0538円
ⅲ 冷却ユニット 0.1kw×1台=14円
ⅳ 冷却ユニット 0.25kw×1台=35円
ⅴ 攪拌機 7.5kw×1台=1068円
ⅵ 1日合計 1万2439円
(c) 保守点検料 月額10万円(〔証拠省略〕)
(d) 処分費用 月額77万4250円
廃プラスチック類の圧縮梱包処理によって、1.63t/日の廃棄物が発生するところ、原告X1社は訴外株式会社a21に対し19円/kgで処分を委託することになっていた(〔証拠省略〕)から、77万4250円の処分費用が発生する(1.63t/日×19円/kg×25日)。
(e) 梱包用(番線) 38万0800円(136個/日×112円/個×25日)(〔証拠省略〕)
(f) 運搬費 13万7088円
ⅰ 人件費 7万4256円(時給1820円×10時間×4.08回(月間運搬回数))
ⅱ 燃料費 6万2832円(154l×100円×4.08回)
c 圧縮梱包処理月額純利益 9793万5637円(a-b)
(エ) 圧縮処理に係わる逸失利益
a 売上(処分料) 月額237万5000円
金属くずの圧縮処理によって、月額237万5000円の売り上げがある。
(内訳)
(a) 1か月25日間稼動するものとする。
(b) 金属くずについては、以下の排出事業者から、月合計最大255tまで受け入れることになっていた(〔証拠省略〕)。
①有限会社a22 85t(〔証拠省略〕)
②有限会社a23 85t(〔証拠省略〕)
③有限会社X5 85t(〔証拠省略〕)
(c) 処理能力は10.0t/日である(本件各申請書類インデックス「事業概要」2枚目)。
(d) 金属くずの処理によって、全てが製品となるので、1日あたり10.0tの製品ができる。製品の販売単価は9.5円/kgなので、a14株式会社との売買によって、月額237万5000円の製品販売収入があるはずであった(10.0t×9.5円×25日)(〔証拠省略〕)。
b 控除すべき経費 月額72万6700円
(a) 人件費 月額35万円(1人)
(b) 電気使用料 月額2万6700円(1068円/日×25日)
金属圧縮機(油圧式) 7.5kw×1台=1068円
(c) 保守点検料 月額10万円(〔証拠省略〕)
(d) 運搬費 計上しない。
(e) 金属くずは、原告X1社が単価1円/kgを支払って取得するので、月額25万円(10.0t×1円×25日)の支出がある(〔証拠省略〕)。
c 圧縮処理月額純利益 164万8300円(a-b)
(オ) 破砕・分別処理に係わる逸失利益
a 売上(処分料) 月額2203万5000円
廃石膏ボード(ガラスくず、コンクリートくず及び陶磁器くず)の破砕・分別処理によって、月額2203万5000円の売り上げがある。
(内訳)
(a) 1か月25日間稼動するものとする。
(b) 廃石膏ボードについては、以下の排出事業者から、月合計最大250tまで受け入れることになっていた(〔証拠省略〕)。
①a24工業 20t(〔証拠省略〕)
②有限会社a9 30t(〔証拠省略〕)
③有限会社a10 30t(〔証拠省略〕)
④有限会社a11 50t(〔証拠省略〕)
⑤a6株式会社 50t(〔証拠省略〕)
⑥有限会社a12 70t(〔証拠省略〕)
(c) 処理能力は10.4t/日である(本件各申請書類インデックス「事業概要」2枚目)。
(d) 廃石膏ボードの処理委託料金は、処理単価80円/kgなので、月額2080万円(10.4t×80円/kg×25日)の収入がある(〔証拠省略〕)。
(e) 廃石膏ボードの処理によって、95%が石膏に、5%が紙になるから、廃石膏ボード10.4tの処理によって、9.88tが石膏に(10.4t×95%)、0.52tが紙に(10.4t×5%)なる。
石膏については、販売単価5円/kgでa25株式会社名古屋支店と取引することによって、月額123万5000円の製品販売収入があるはずであった(9.88t×5円×25日)(〔証拠省略〕)。
b 控除すべき経費 月額200万2682円
(a) 人件費 月額70万円(35万円×2人)
(b) 電気使用料 月額5万3950円(2158円/日×25日)
ⅰ 破砕電動機 3.7kw×1台=527円
ⅱ 破砕電動機 5.5kw×1台=784円
ⅲ 選別電動機 3.7kw×1台=527円
ⅳ 移送電動機 0.75kw×1台=106円
ⅴ 集塵機 1.5kw×1台=214円
(c) 保守点検料 10万円(〔証拠省略〕)
(d) 処分費用 月額52万円
廃石膏ボードの破砕・分別処理によって、0.52t/日の「紙」が発生するところ、原告X1社は株式会社a26に対し「40円/kg」で処分を委託することになっていた(〔証拠省略〕)から、52万円の処分費用が発生する(0.52t×40円×25日)。
(e) 運搬費 月額62万8732円
ⅰ 石膏について(a25株式会社名古屋支店) 月額61万5524円
(内訳)
(ⅰ) 人件費 26万9724円(時給1820円×6時間×24.7回(月間運搬回数))
(ⅱ) 燃料費 34万5800円(140l×100円×24.7回)
ⅱ 紙について(株式会社a26) 月額1万3208円
(内訳)
(ⅰ) 人件費 7098円(時給1820円×3時間×1.3回(月間運搬回数))
(ⅱ) 燃料費 6110円(47l×100円×1.3回)
c 破砕・分別処理月額純利益 2003万2318円(a-b)
(カ) 中和・脱水・乾燥処理に係わる逸失利益
a 売上(処分料) 月額563万8889円(月額の平均)
廃酸、廃アルカリ、汚泥の中和・脱水・乾燥処理によって、月額563万8889円(月額の平均)の売り上げがある。
(内訳)
(a) 1か月25日間稼動するものとする。
(b) 廃酸、廃アルカリ、汚泥については、以下の排出事業者から、月合計最大「240t」まで受け入れることになっていた(〔証拠省略〕)。
①有限会社a27 80t(〔証拠省略〕)
②株式会社a28 140t(〔証拠省略〕)
③株式会社a29 20t(〔証拠省略〕)
(c) 処理能力は9.3m3/日である(本件各申請書類インデックス「事業概要」2枚目)。
(d) 廃酸、廃アルカリ、汚泥の処理委託料金は、処理単価2万5000円/m3なので(安い単価にあわせて計算)、月額581万2500円(9.3m3×25,000円×25日)の収入がある(〔証拠省略〕)。なお、単位については、廃酸、廃アルカリ、汚泥の98%は水分であるため水の比重と同様として、1m3=1tとして換算している。
ただし、平成19年9月以降は、a29の受入量分20tを差し引くため、240t-20t=220t、220t÷25日=8.8t/日=8.8m3/日となり、月額550万円(8.8m3×2万5000円×25日)の収入となる。
(e) 合計 月額581万2500円(平成19年8月31日まで)
550万円(平成19年9月1日以降)
月額平均 563万8889円((581万2500円×16か月+550万円×20か月)÷36か月)
b 控除すべき経費 月額147万6604円
(a) 人件費 月額35万円(1人)
(b) 電気使用料 月額3万5400円(1416円/日×25日)
ⅰ 受入槽(返送ポンプ) 0.25kw×1台=35円
ⅱ 中和及び反応槽(返送ポンプ) 0.25kw×1台=35円
ⅲ 中和及び反応槽(撹拌機) 5.5kw×1台=784円
ⅳ 天日乾燥袋(返送ポンプ) 0.25kw×1台=35円
ⅴ 脱臭装置(燃焼式バーナー) 1.5kw×1台=214円
ⅵ ファン 2.2kw×1台=313円
(c) 上下水道料 月額4万7994円
ⅰ 洗浄水の上水道 月額3055円
ⅱ 洗浄水の下水道 月額2362円
ⅲ 中間処理後の脱水に伴う排水(中間処理後90%が排水、10%が汚泥として排出される) 月額4万2577円
(d) 保守点検料 月額10万円(〔証拠省略〕)
(e) 処分費用 月額44万1750円
廃酸、廃アルカリ、汚泥について、1日の処理能力9.3m3の10%分の脱水汚泥が発生する。これについて、a30株式会社に、19円/kgで処分を委託するため(〔証拠省略〕)、月額44万1750円(9.3m3/日×10%×19円/kg×25日)の処分費用が発生する(脱水汚泥1m3=1000kg換算)。
(f) 薬品(汚泥1m3に対し1000円分の薬品が必要) 月額23万2500円(9.3m3/日×1000円/m3×25日)(〔証拠省略〕)
(g) 脱水袋(1m3)(脱水1m3に対し1袋 1日10袋が必要) 月額25万円(9.3m3/日×1000円/袋×25日)(〔証拠省略〕)
(h) 運搬費 月額1万8960円
ⅰ 人件費 月額1万0920円(時給1820円×5時間×1.2回(月間運搬回数))
ⅱ 燃料費 月額8040円(67l×100円×1.2回)
c 中和・脱水・乾燥処理月額純利益 平均416万2285円
(a) 平成19年8月まで 581万2500円-147万6604円=433万5896円
(b) 平成19年9月以降 550万円-147万6604円=402万3396円
(c) 平均 (433万5896円×16か月+402万3396円×20か月)÷36か月=416万2285円
(キ) 油水分離処理に係わる逸失利益
a 売上(処分料) 月額272万3750円
廃油の油水分離処理によって、月額272万3750円の売り上げがある。
(内訳)
(a) 1か月25日間稼動するものとする。
(b) 処理能力は9.0m3/日である(〔証拠省略〕)。
(c) 廃油(鉱物油)については、以下の排出事業者から、無償で受け入れることになっていた(〔証拠省略〕)。
①a31株式会社 1か月169m3(〔証拠省略〕)
②a32株式会社 1か月16m3(〔証拠省略〕)
(d) 廃油のうち、植物油については、有限会社a33から1か月40m3を、原告X1社が単価10円/lを支払って、受け入れることになっていた(〔証拠省略〕)から、この分の費用は後掲の経費になる。
(e) 1日の処理能力9.0m3/日のうち、植物油と鉱物油の割合は原告X1社の取引状況により9.0m3中、植物油1.6m3、鉱物油7.4m3となる。
(f) 油水分離後の95%が油になる。そのうち、植物油については、1.52m3(1.6m3/日×95%)を植物油の精製油として、単価35円/lで、a34株式会社に販売することになっていた(〔証拠省略〕)から、月額133万円(1,520l/日×35円×25日)の収入があるはずであった。鉱物油については、4,800l/日を波田工場関連の処理業務用の諸燃料として使用し、残りの2.23m3(7.4m3×95%-4.8m3)を鉱物油の精製油として、単価25円/lで、株式会社a35に販売することになっていた(〔証拠省略〕)から、月額139万3750円(2,230l/日×25円×25日)の収入があるはずであった。よって、月額合計272万3750円の売り上げがあるはずであった。
b 控除すべき経費 月額91万7101円
(a) 人件費 月額35万円(1人)
(b) 電気使用料 月額6万4975円(2599円/日×25日)
ⅰ 温水ポンプ 5.5kw×1台=784円
ⅱ 受入ポンプ 5.5kw×2台=1566円
ⅲ バーナー 0.75kw×1台=106円
ⅳ ファン1kw×1台=143円
(c) 上下水道料 月額2126円
(d) 保守点検料 月額10万円(〔証拠省略〕)
(e) 運搬費 発生しない。
(f) 植物油の取得費用 40万円(1.6m3/日×10円/l×25日)
c 油水分離処理月額純利益 180万6649円(a-b)
(ク) 上記(ア)ないし(キ)の合計 月額1億6786万6807円
(ケ) 設備費の借入金の返済金額
原告X1社は三郷工場を開設するために、合計3億8400万円の借り入れをし、月額返済額は合計563万7382円である。
(内訳)
a a36銀行(合計2億9600万円) 返済額(月額)402万4346円(〔証拠省略〕)
b a37銀行(合計3000万円) 返済額(月額)52万3341円(〔証拠省略〕)
c a38信用公庫(1000万円) 返済額(月額)15万8641円(〔証拠省略〕)
d a39金融公庫(4800万円) 返済額(月額)93万1054円(〔証拠省略〕)
(コ) 粗利益
よって、原告X1社の三郷工場の1か月の粗利益(売り上げ総利益)は1億6222万9425円である(1億6786万6807円-563万7382円)。
(サ) 減価償却費の控除
減価償却費合計132万9753円を上記の粗利益から控除すると、1億6082万5414円(1億6215万5167円-132万9753円)となる。
a 建物建設費
原告X1社は、建物建設費として1億5853万5689円を支出しており(その内訳は建物設計料200万6950円、シャッター工事1207万5000円、壁工事790万8739円、建物建設費1億3535万円、建物雑工事119万5000円である。)、所有資産として原価償却をする必要がある。償却期間を31年として、定額法により償却すると、月額42万6171円(1億5853万5689円÷31年÷12か月)となる。
また、原告X1社は、構築物として1534万6350円を支出しており(その内訳は土留め工事147万7350円、コンクリート舗装工事1050万9000円、オイル地下タンク工事336万円である。)、所有資産として原価償却をする必要がある。償却期間を15年及び17年として、定額法により償却すると、月額8万3060円(1198万6350円÷15年÷12か月+336万円÷17年÷12か月)となる。
また、建物付属設備として2304万2698円を支出しており(その内訳は配管設備工事27万5825円、汚水枡設置工事12万6000円、浸透枡設置工事113万0630円、電気工事1450万3650円、給水工事90万円、下水道工事237万9093円、浄化槽工事372万7500円である。)、所有資産として原価償却をする必要がある。償却期間を15年として、定額法により償却すると、月額12万8014円(2304万2698円÷15年÷12か月)となる。
よって、合計63万7245円となる
b 施設・設備
原告X1社は、機械設備として1億3238万7455円を支出しており(その内訳はトラックスケール178万5000円、油水分離装置1000万5450円、切断機2226万円、金属プレス機525万円、ジャンボプレス機1916万2500円、脱臭槽スクリュー式発酵装置3381万円、堆肥ブロアー308万7000円、堆肥脱臭スクラバーノズル23万1000円、堆肥化ステンレスダクト504万円、中和脱水装置230万円、ドリームネット137万0250円、油水分離地下タンク325万5000円、中和脱水据付工事38万7000円、タンク設計77万7000円、油水分離配管工事322万3860円、中和脱水タンク1030万7850円、堆肥化ガス洗浄塔294万円、中和脱水ポンプ253万3755円、中和脱水電流計62万0340円、中和脱水廃水処理槽358万0500円、中和脱水脱臭炉46万0950円である。)、所有資産として原価償却をする必要がある。償却期間を15年として、定額法により償却すると、月額64万8958円(1億3238万7455円÷17年÷12か月)となる。
また、原告X1社は、運搬具(シャベルローダ)として金393万円を支出しており、所有資産として原価償却をする必要がある。償却期間を5年として、定額法により償却すると、月額6万5500円(393万円÷5年÷12か月)となる。
(シ) 諸雑費の控除
原告X1社が営業するに当たっては、通信費や事務員の人件費月額合計110万円が必要になるから、これを控除し、1億5977万7722円(1億6087万7722円-110万円)となる。
(内訳)
a 事務員人件費 70万円(35万円×2人)
b 事務所経費 40万円(〔証拠省略〕)
(ス) 月額売り上げ
以上より、原告X1社の三郷工場における月額売り上げは、1億5977万7722円となる。
(セ) 中間利息の控除
原告X1社の平成18年4月13日から、3年分の営業利益の合計は、ライプニッツ係数による中間利息を控除すれば、52億2089万6000円となる(1億5977万7722円×12×2.723)。
(2) 波田工場における損害 5億2648万円
ア 収集運搬用トラックの燃料として高額な軽油を購入したことによる損害
原告X1社は、長野県東筑摩郡波田町<以下省略>の施設(以下「波田工場」ともいう。)において産廃処理業を営んでいる(〔証拠省略〕)ところ、波田工場での産業廃棄物収集運搬用のトラックの燃料について、a34株式会社が製造するBDF(バイオディーゼル燃料)を使用する予定であった。このBDFは、本件施設の油水分離施設において精製される油を原材料とするものであり、その油をa34株式会社がBDFにして、原告X1社に販売することとなっていた(〔証拠省略〕)。ところが、本件施設の油水分離施設が稼働しなかったため、a34株式会社からBDFを購入できず、原告X1社は波田工場での産業廃棄物収集運搬用のトラックの燃料について、他から高額な軽油を購入せざるをえなくなった。
原告X1社は、遅くとも、平成18年4月13日から三郷工場で、廃棄物処分業を営業できたはずなので、それ以降、本件提訴まで高額な軽油を購入したことによって、平成18年5月から平成21年3月まで5154万8000円の損害が発生している。
イ 乾燥処理施設の逸失利益 4億7493万2000円
本件訴え提起前には、波田工場では汚泥・動植物性残渣の乾燥処理も扱っており、原告X1社は波田工場の乾燥処理施設の燃料として、本件施設の油水分離施設から発生する廃油の精製油を予定していた。ところが、本件施設の油水分離施設が稼働しなかったため廃油の精製油が入手できない一方、原油高騰により波田工場の乾燥処理施設を稼働させることで赤字を発生させることになった。そこで、平成18年4月1日以降、波田工場の乾燥処理施設の稼働を停止した。そのため、原告X1社は、波田工場の乾燥処理施設に関する逸失利益分の損害を被った。
前記(1)と同様に、逸失利益の算定期間は平成18年4月13日から3年とする。
(ア) 売上(処分料)
汚泥・動植物性残渣の処理委託料金(処理単価1万5000円/1t)として、月額2160万円(57.6t×1万5000円×25日)の売り上げがあった。
(イ) 控除すべき経費 月額519万7360円
a 人件費 月額280万円(35万円×8人)
b 電気使用料 月額202万9800円(8万1192円/日×25日)
(内訳)
撹拌機 5.5kw×8台=1万4015円
真空ポンプ 5.5kw×8台=1万4015円
温水ボイラー 2.2kw×8台=5606円
温水循環ポンプ 7.5kw×8台=1万9112円
クーリングタワー 2.2kw×8台=5606円
冷却水循環ポンプ 5.5kw×8台=1万4015円
凝縮水ポンプ 0.75kw×8台=1911円
オイルポンプ 0.4kw×8台=1019円
原料ホッパー 7.5kw×1台=2389円
原料移送装置 11kw×1台=3504円
c 下水道料(38.4m3/日×25日) 20万0560円
d 保守点検料 10万円
e 運搬費 月額6万7000円(6.7l×100円×4回×25日)
(ウ) 設備費の借入金の返済金額
原告X1社は波田工場の乾燥処理施設を開設するために、a39金融公庫から合計8000万円の借り入れをし、月額返済額(元利金)は合計55万7014円である(〔証拠省略〕)。
(エ) 粗利益
原告X1社の波田工場の乾燥処理施設の1か月の粗利益(売り上げ総利益)は1584万5626円である(2160万円-519万7360円-55万7014円)。
(オ) 減価償却費
原告X1社は波田工場の処理施設・設備について、9404万9870円を支出したところ、これを利用して営業するとすれば、減価償却処理をする必要があるところ、償却期間を17年間として、これを定額法によって償却すると、月額46万1029円(9404万9870円÷17年÷12か月)となる。
よって、減価償却費合計46万1029円を上記の粗利益から控除し、1538万4597円(1584万5626円-46万1029円)となる。
(カ) 諸雑費
原告X1社が営業するに当たっては、通信費や事務員の人件費85万円が必要になるから、これを控除し、1453万4597円(1538万4597円-85万円)となる。
(内訳)
a 事務員人件費 70万円(35万円×2人)
b 事務所経費 15万円(〔証拠省略〕)
(キ) 月額売り上げ
以上より、原告X1社の波田工場乾燥処理施設における月額売り上げは、1453万4597円となる。
(ク) 中間利息の控除
原告X1社の平成18年4月13日から、3年分の営業利益の合計は、ライプニッツ係数による中間利息を控除すれば、4億7493万2000円となる(1453万4597円×12×2.723)。
(3) 一連の問題に対応した原告X1社代表者の労力 3280万円
原告X1社の代表者である原告X2の基本給は月額250万円であり、月25日間働くので、1日10万円となる。原告X2は、平均すると週2日は、本件をめぐる一連の問題に費やしており、その労力は月額80万円となる。本件をめぐる一連の問題に対処したのは、平成17年3月の本件承認取消し以来であり、本件訴えの提起までを一区切りとすれば、平成17年4月1日から平成20年8月まで(41か月)で3280万円となる。
(4) 一連の問題に対応した原告X1社代表者の交通費 74万7300円
原告X1社は、一連の問題についての東京の弁護士との打合せ等のために交通費74万7300円を支出した。
(5) 別件訴訟における弁護士費用 655万0220円
原告X1社は、被告の違法な行政指導である本件承認取消しに対応する時から、原告X1社は東京の弁護士1名に依頼し、訴訟の段階ではさらに1名の弁護士に依頼し、現在までのところ、合計655万0220円の弁護士費用が発生している。
(6) 廃棄物コンサルタント費用 512万9460円(〔証拠省略〕)
原告X1社は、被告の違法な行政指導である本件承認の取消しに対応する時から、本件各申請におけるコンサルタント費用として、廃棄物コンサルタントに対し、512万9460円を支払った。
(7) 風評被害 5億0930万1710円
長野県知事及び被告職員による違法行政は、あたかも原告X1社に非があるかのような風評を生み出し、その収益を減少させた。すなわち、第25期(平成15年10月1日ないし平成16年9月30日)には、売上高15億3432万9424円であったのに、本件承認取消しという違法行政がなされた直後の第26期(平成16年10月1日ないし平成17年9月30日)には売上高14億7632万4660円となり、第27期(平成17年10月1日ないし平成18年9月30日)には、売上高13億1609万4850円となり、第28期(平成18年10月1日ないし平成19年9月30日)には売上高13億0126万7052円となった。そこで、第26期分の減少額5800万4764円、第27期の減少額2億1823万4574円、第28期の減少額2億3306万2372円の合計5億0930万1710円を風評被害として計上する。
(8) 本件訴訟の弁護士費用 6億3019万円
損害額の10%を弁護士費用として計上する。
2 原告X2の損害 3300万円
(1) 慰謝料 3000万円
原告X2は一連の問題に対応し、長野県知事及び被告職員による違法行政によって、甚大な精神的苦痛を負わされた。この苦痛は、原告X2にとって、交通事故の慰謝料における最上級の金額に比肩しうる程度のものであり、これを慰謝するには3000万円を要する。
(2) 弁護士費用 300万円
損害額の10%を弁護士費用として計上する。
3 原告X3社の損害 1億2968万0750円
原告X1社の本件施設開設計画は、原告X3社の負債処理のため、原告X3社がその施設を譲渡するという申し入れが発端となっていた。ところが被告職員の違法な行政指導及び被告長野県知事の不作為によって、原告X1社は平成18年4月13日には営業開始できるはずであった廃棄物処理業を営めなくなっている。そのため原告X3社にも損害が発生している。
(1) 原告X1社に木くずを破砕した結果発生したチップの売却ができなかったことによる損害 4976万円
ア 売却代金額 1904万円
平成16年12月に、原告X1社と原告X3社は、原告X3社が木くずを破砕した結果発生したチップを、原告X1社が堆肥化する為に、1kg当たり3円50銭で、1日12.8t程度、原告X1社が原告X3社から購入するという売買契約を結んだ(〔証拠省略〕)。ところが、平成17年3月に被告から、原告X1社に対して、本件承認の取消しが通知され、さらに本件各申請を許可しないため、原告X3社は木くずを破砕した結果発生したチップを、原告X1社に対し、売却できなくなった。よって、原告X3社は、原告X1社が本件施設で廃棄物処分業を営業できないため、遅くとも平成18年4月13日以降の、木くずを破砕した結果発生したチップの売却代金を得られなくなり、1904万円の損害が発生している。
(内訳)
(ア) 数量 1日12.8t/日×25日/月=320t/月
(イ) 月額売却代金 320t/月×3.5円/kg=112万円/月
(ウ) 平成18年5月1日ないし平成19年9月の売却代金額 112万円/月×17か月=1904万円
イ 木くずの運搬・処理費用 3072万円
原告X1社が、原告X3社が木くずを破砕した結果発生したチップ320t/月を、3.5円/kgで買い取る事が出来ないため、原告X3社は平成18年4月13日以降も、原告X1社に当該木くずの運搬を、県外の業者に当該木くずの処理をしてもらわざるをえなくなり、木くずの運搬・処理費用として、平成18年5月1日ないし平成19年9月まで月々192万円の負担を要し、3072万円の損害が発生した(〔証拠省略〕)。
(2) 原告X1社から、チップの原材料となる木くずの処理を委託されなかったことによる損害金 6813万1750円
ア 原告X3社は、原告X1社が本件施設で中間処理(切断処理)して排出する、176t/月の木くずの処理を、単価30円/kgで処理委託されることになっていた(〔証拠省略〕)から、月額528万円の売り上げを得るはずであった(176t/月×30円/kg=528万円/月)。
イ 経費
上記処理のために、月額144万8250円の経費が発生する。
(内訳)
(ア) 人件費 2万6250円/月
a 破砕機運転に伴う人員は2名(日給1万5000円÷8時間=時給1,875円)(〔証拠省略〕)
b 三郷工場から排出される木くずは176t/月
c 破砕機の処理能力は26.7t/時
d 176tの木くずの処理に要する時間は約7時間(176t÷26.7t=6.59時間)
e 1か月の人件費(176t/月の木くずの処理に要する人件費)7時間×2名×1875円=2万6250円/月
(イ) 燃料費 1万4000円/月
a 燃料単価は1l当たり100円
b 破砕機で消費する1日の燃料は160l
c 破砕機の稼働時間は8時間
d 1時間あたりの消費量は160l÷8時間=20l/時
e 1か月の燃料費(176t/月の木くずの処理に要する燃料費)は7時間×20l/時×100円=1万4000円/月
(ウ) 運搬費用(株式会社a40へ) 140万8000円/月
8円/kgで176t/月の木くずを処理する。
ウ 収益 月額17万6000円
株式会社a40は、原告X3社が処理した木くずのチップを単価1円/kgで購入しているため、月額17万6000円の収入を得るはずであった(176t/月×1円/kg)。
エ すると、月額400万7750円の損害が発生しており、平成18年5月1日から平成19年9月まで(17か月)で、合計6813万1750円の損害が発生している。
(3) 本件訴訟の弁護士費用 1178万9000円
損害額の10%を弁護士費用として計上する。
4 原告X4の損害 3300万円
(1) 慰謝料 3000万円
原告X4は原告X3社の元取締役(専務)であるが、一連の問題に対応し、長野県知事及び被告職員による違法行政によって、甚大な精神的苦痛を負わされた。原告X3社は本件施設が稼働しないため、ますます会社経営が苦しくなり、原告X4は平成17年12月に個人的に自己破産してしまった。取締役が自己破産すれば、廃棄物処理法上、欠格要件に当てはまってしまうため、原告X3社の会社存続が危惧され、会社の存続と社員の生活を守る為に、原告X4は原告X3社から離れた。また、本件が原因となって離婚をし、自らも経済的に破綻して自己破産をせざるをえなくなった。これら苦痛は、原告X4にとって、交通事故の慰謝料における最上級の金額に比肩しうる程度のものであり、これを慰謝するには3000万円を要する。
(2) 弁護士費用 300万円
損害額の10%を弁護士費用として計上する。
(被告の主張)
1 原告X1社の損害について
(1) 本件施設における逸失利益について
ア 稼働率について
原告X1社は、波田工場を現実に操業しているが、波田工場における実績稼働率は遠く100%に及ばない。それにもかかわらず、本件施設が100%の割合で稼働することはありえない。そして、本件施設の稼働率についての立証はない。
イ 契約書等(〔証拠省略〕)
(ア) 同契約書等には、各事業者が原告X1社に持ち込む産業廃棄物の量と処理単価が記載されているだけであり、それらの数字に関する裏付けは一切なく、各事業者が契約書等に記載された分量の産業廃棄物を持ち込むことが出来るかどうか、契約書等に定められた処理単価を実際の取引で維持できるかどうかについての立証はない。このように、契約書等が裏付けを欠いている以上、この点に関する原告X1社の立証がされていないという他ない。
(イ) 契約書等の内容の実現可能性がない
契約書等を作成した多くの事業者が被告に対して提出した処理実績報告書によれば、契約書等に記載された数値は例外なく過去の実績値を大きく上回っているのであって、各事業者は、契約書等に記載された分量の産業廃棄物を排出し、原告X1社に持ち込む能力を欠いている。よって、契約書等に記載された分量の産業廃棄物が持ち込まれるとは考えられない。そして、各事業者の排出量や本件施設に持ち込まれる産業廃棄物の分量に関しての立証はない。
また、契約書等に記された処理単価は、他の施設等における処理単価と比較して、明らかに過大な処理単価となっており、相場よりも遙かに高いのであって、現実に、各事業者が、相場よりも遙かに高い処理費用をかけて原告X1社に処理を委託するとは考えられない。よって、契約書等に記載された処理単価には実現可能性がない。
これらのことからは、原告X1社が各事業者に働きかけ、何ら根拠のない契約書等を作成させたことが推測される。
(ウ) 契約書等の書式が同じであることや、契約書等に示された事業者の殆んどが本件各申請書類(〔証拠省略〕)に記載された事業者と異なることなどから、原告X1社が、現実に取引を予定していない知り合いの事業者に働きかけて虚偽の内容が記された契約書等を作成し、裁判所に証拠として提出したことが合理的に推測される。
イ 損害の起算点について
本件各申請書類は、事前協議の際に原告X1社から提出された書類と異なる書類が添付されていたり記載内容も変わっていたことから、それらの違いを前提として再度全書類を精査する必要があること、本件事前協議においてさえも事業計画書の提出から承認まで約1年が必要であったこと、原告X1社が行政指導を拒否したことによって提出書類の内容の確認作業ができず内容確認に手間がかかること、事業計画書の承認から処分に至るまでには当該事案の性質や欠格事由の有無等の審査が必要であってさらに時間が必要なこと、本件では原告X1社が周辺住民への説明を行っていないにもかかわらずあたかも周辺住民への説明が行われたかのように「周辺住民の意向を示す書類」として同意書を提出しこれを改めようとしない点をどう評価するかについて検討が必要であること、被告が目安としている標準期間は申請から処分までの期間に過ぎないこと、同標準期間はあくまでも目安が記載されているに過ぎず審査期間は事案の性質、事案の困難性等により変動すること、といった事情から、本件各申請時から6か月の審査期間では本件各申請に対する処分を行うことはできず、本件各申請に対する審査期間として2年は決して遅延したといえる期間ではない。よって、本件各申請は申請時から6か月経過後に許可されるべきであるとして逸失利益の起算点を平成18年4月13日とする原告らの主張は不当である。
(2) 波田工場における逸失利益について
ア 原告X1社からは、そもそも原告X1社が本当にBDFを利用することが可能なのかという前提事項に関する主張立証が一切ない。これでは、本当に原告X1社がBDFをトラックの燃料に利用できたであろうと認めることはできない。
仮に、原告X1社がBDFをトラックの燃料として利用可能だとしても、これは原告X1社が本件事業を操業できないことによる直接的な損害ではなく、被告がこれを予見することはできず、このような間接的な損害についても被告に賠償義務を負わせることは、法的安定性、損害の公平な分担という見地からも相当でない。
さらに、敢えて自社で製造した原料に拘る必要はなく、別業者から安価なBDFを別途購入すれば良いのであって、そのような方策をとらず、単に波田工場において従来どおり軽油を利用したからといって、軽油とBDFの差額を損害として認めることはできない。
イ 原油価格の高騰が被告と全く関係のない事情であること、また原告X1社が同施設の稼働を停止した具体的な理由及び経過を全く明らかにしないことから、被告の行為と同施設の稼働を停止したことの間に相当因果関係は認められない。
(3) 原告X2の労力について
仮に本件で被告に何らかの不法行為が成立するとして、その場合の直接被害者は原告X1社であり、原告X1社が法人である以上、直接被害者に休業損害なる概念が生じる余地はない。また、原告X2の本件一連の活動は、まさに原告X1社の役員としての本来業務とも考えられるし、原告X1社は、本件問題の存否にかかわらず、原告X2に役員報酬を支払わなければならない。したがって、原告X2の労力が本件損害として認められることはない。
(4) 原告X2の交通費について
弁護士との打合せ場所、交通手段、具体的費用、当該打合せと本件との関連性に関する具体的な主張立証がなされていない。また、原告X1社は長野県内の業者であり、東京の弁護士に相談する必要性はない。よって、本件と相当因果関係のある損害と認めることはできない。
(5) 別件訴訟における弁護士費用について
別件訴訟を提起する必要はなく、それに要した弁護士費用が損害として認められることはない。また、弁護士費用の支払金額、これが何のために支払われたものなのか、弁護士費用として適正な金額なのかについて立証されていない。よって、別件訴訟における弁護士費用を本件損害として認めることはできない。
(6) 廃棄物コンサルタント費用について
原告X1社が廃棄物コンサルタントに金員を支払ったのか、具体的に何を依頼し、廃棄物コンサルタントが具体的にどのような業務を行ったのか、同業務を依頼する必要性があったのか、コンサルタント費用として適正な金額なのかについて、主張立証されていない。よって、これを本件と相当因果関係のある損害と認めることはできない。
(7) 風評被害について
被告に何らかの不法行為があったとしても、そのことと原告X1社の売上が減少したこととの間の関連性は不明であり、これを損害と認めることはできない。
(8) 本件訴訟の弁護士費用について
仮に原告X1社の主張が認容されれば、本訴提起のために要した弁護士費用が一定範囲で損害に含まれることは争わないが、そもそも原告X1社の請求する金額は過大に過ぎ、それに伴い原告X1社の請求する弁護士費用も過大である。
2 原告X2の損害について
原告X2は直接被害者ではないところ、第三者に生じた固有の損害について、法は、民法711条を設けることによって、直接被害者でない第三者に損害賠償請求権が発生する場面があることを認める一方、第三者に損害賠償請求権が発生する場面を限定しようとする。
同条は、生命侵害があった場合(もしくはそれに比肩する場合)、第三者である近親者に限定して慰謝料請求権を認めるものであって、原告X2は原告X1社の近親者であり得ないし、原告X1社に生命侵害(もしくはそれに比肩する傷害)が生ずることもあり得ないから、本件は明らかに民法711条の適用場面に該当せず、原告X2の慰謝料請求権が本件損害として認められる余地はない。
3 原告X3社の損害について
原告X3社は直接被害者ではない第三者であり、前記民法711条の法意に照らしても、このような第三者に発生する可能性のある間接的な損害についてまで、被告に損害賠償義務を負わせることは妥当でない。
仮に原告X3社が原告X1社と取引を行う予定だったとしても、同取引を行えなくなったことによって原告X3社に生じる可能性のある損害は、原告X1社が事業を行うことが出来なくなったことによる直接的な損害ではない。また、原告X3社は、原告X1社との間だけで取引を行う必要はないし、原告X1社と取引をしようとする際には、同社が許可を取得できないことも想定すべきであって、原告X3社は、不許可となるリスクは被告に転嫁されるべき性質のものではない。
また、原告8には、原告X1社との取引を見込んで、新たな設備設置やその他の準備に費用をかけたといった事情はない。
よって、仮に原告X3社に何らかの損害が生じたとしても、それについて被告が賠償義務を負うことはない。
4 原告X4の損害について
前記2のとおりであり、原告X4は原告X2以上に被告の行為との関連性が希薄である。