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長野地方裁判所 平成21年(ワ)463号 判決 2012年12月21日

第1事件及び第3事件原告兼第2事件被告

X1

同訴訟代理人弁護士

鏡味聖善

第1事件原告兼第2事件被告

X2

上記両名訴訟代理人弁護士

内村修

山崎泰正

同訴訟復代理人弁護士

山下潤

第1事件原告ら兼第2事件被告ら訴訟代理人弁護士

村上晃

第1事件及び第3事件被告兼第2事件原告

株式会社Y

同代表者代表取締役

A1

第1事件被告兼第2事件原告訴訟代理人弁護士

中嶌知文

第3事件被告訴訟代理人弁護士

江坂春彦

第1事件及び第3事件被告兼第2事件原告訴訟代理人弁護士

髙井伸夫

岡芹健夫

安部嘉一

小池啓介

米倉圭一郎

萩原大吾

秋月良子

村田浩一

渡辺雪彦

五十嵐充

廣上精一

帯刀康一

大村剛史

東城聡

主文

1(1)  第1事件原告X1が,第1事件被告の長野本社において勤務する労働契約上の義務がないことを確認する。

(2)  第3事件原告X1が,第3事件被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

(3)  第1事件被告は,第1事件原告X1に対し,220万円及びこれに対する平成21年10月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(4)  第1事件被告は,第1事件原告X1に対し,8万5000円及びこれに対する平成21年9月16日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

(5)  第1事件被告は,第1事件原告X1に対し,7万1538円及びこれに対する平成21年4月16日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

(6)  第1事件被告は,第1事件原告X1に対し,7万1538円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(7)  第3事件被告は,第3事件原告X1に対し,平成22年2月から本判決確定の日まで,毎月15日限り,月額18万円の割合による金員及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

(8)  第3事件被告は,第3事件原告X1に対し,110万円及びこれに対する平成22年1月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2(1)  第1事件被告は,第1事件原告X2に対し,220万円及びこれに対する平成21年10月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  第1事件被告は,第1事件原告X2に対し,6万5000円及びこれに対する平成21年9月16日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

(3)  第1事件被告は,第1事件原告X2に対し,1万7831円及びこれに対する平成21年4月16日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

(4)  第1事件被告は,第1事件原告X2に対し,1万7831円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  第1事件及び第3事件原告X1及び第1事件原告X2のその余の請求をいずれも棄却する。

4  第2事件原告の請求をいずれも棄却する。

5  訴訟費用は,第1事件ないし第3事件を通じこれを100分し,その11を第1事件及び第3事件原告兼第2事件被告X1の負担とし,その3を第1事件原告兼第2事件被告X2の負担とし,その余を第1事件及び第3事件被告兼第2事件原告の負担とする。

6  この判決は,第1項(3)ないし(5),(7)及び(8)並びに第2項(1)ないし(3)に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

(以下,第1事件及び第3事件原告兼第2事件被告X1を単に「原告X1」,第1事件原告兼第2事件被告X2を単に「原告X2」,第1事件及び第3事件被告兼第2事件原告を単に「被告」という。)

第1請求

1  原告X1の請求

(1)  第1事件について

ア 主文第1項(1)同旨

イ 被告は,原告X1に対し,340万円及びこれに対する平成21年10月11日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

ウ 被告は,原告X1に対し,51万円及びこれに対する平成21年9月16日から支払済みまで年6分,並びに同年10月15日から毎月15日限り8万5000円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

エ 被告は,原告X1に対し,22万0168円及びうち11万0084円に対する平成21年4月16日から支払済みまで年6分,並びにうち11万0084円に対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

オ 被告は,原告X1に対し,53万円及びこれに対する平成21年8月29日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

(2)  第3事件について

ア 主文第1項(2)同旨

イ 主文第1項(7)同旨

ウ 被告は,原告X1に対し,550万円及びこれに対する平成22年1月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  原告X2の請求

(1)  被告は,原告X2に対し,340万円及びこれに対する平成21年10月11日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  被告は,原告X2に対し,39万円及びこれに対する平成21年9月16日から支払済みまで年6分,並びに同年10月15日から毎月15日限り6万5000円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

(3)  被告は,原告X2に対し,15万4416円及びうち7万7208円に対する平成21年4月16日から支払済みまで年6分,並びにうち7万7208円に対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(4)  被告は,原告X2に対し,48万円及びこれに対する平成21年8月29日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

3  被告の第2事件についての請求

(1)  主位的請求

ア 原告X1は,被告に対し,124万2688円及びこれに対する平成22年10月20日(第2事件反訴状送達日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

イ 原告X2は,被告に対し,36万3403円及びこれに対する平成22年10月20日(第2事件反訴状送達日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  予備的請求

ア 原告X1は,被告に対し,67万7713円及びこれに対する平成22年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

イ 原告X2は,被告に対し,18万0309円及びこれに対する平成22年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

1  本件は,被告の従業員であり,被告が大阪市に設置している大阪店ショールーム(以下,単に「大阪店」という。)から被告の長野本社(以下,単に「長野本社」という。)への配置転換命令(以下「本件配転命令」という。)を受けて長野本社に勤務した後,最終的に原告X1については解雇(以下「本件解雇」という。),原告X2については休職期間満了による退職となった原告らが,被告に対し,①本件配転命令後,被告が原告らを退職に追い込むため種々の精神的圧迫を加えたこと及び被告と原告らとの間の仮処分命令申立事件(長野地方裁判所平成21年(ヨ)第34号,以下「本件仮処分命令申立事件」という。)において成立した和解(以下「本件和解」という。)の和解条項に反する行為を被告が原告らにし続けていることが不法行為であるとして,不法行為に基づく慰謝料及び弁護士費用並びにこれらに対する遅延損害金の支払を求め(上記第1の1項(1)イ及び2項(1)の請求),②原告らの給与のうち平成21年3月分の給与から「評価給」名目の賃金(以下,単に「評価給」という。)が支払われなくなったことから,同月分からの給与につき未払分があるとして,労働契約に基づく未払給与(評価給分)の支払及びこれに対する遅延損害金の支払を求め(上記第1の1項(1)ウ及び2項(2)の請求),③原告らに対して支払われていない時間外労働割増賃金及び休日労働割増賃金(以下,併せて「時間外手当等」ということがある。)があるとして,未払時間外手当等及びこれらに対する遅延損害金並びに労働基準法に基づく付加金の支払を求め(上記第1の1項(1)エ及び2項(3)の請求),④原告らは給与の2か月分相当額の夏期賞与請求権を有するにもかかわらず,平成21年度の夏期賞与について特段の理由もなく支払われていないとして,労働契約に基づく夏期賞与の支払を求める(上記第1の1項(1)オ及び2項(4)の請求)とともに,原告X1が,被告に対し,⑤本件配転命令が無効であるとして,長野本社において勤務する労働契約上の義務がないことの確認を求め(上記第1の1項(1)アの請求),⑥さらに,本件解雇が無効であるとして,労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求め(上記第1の1項(2)アの請求),⑦上記労働契約上の権利を有する地位にあることを前提として,本件解雇後の給与の支払及びこれに対する遅延損害金の支払を求め(上記第1の1項(2)イの請求),⑧本件解雇及び本件解雇時の被告の対応が違法な行為であるとして,不法行為に基づく慰謝料及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた(上記第1の1項(2)ウの請求)のに対し,被告が,被告は原告らに対して時間外手当等の一部を既に支払っているほか,原告らから労働債権(未払時間外手当等)についての先取特権に基づく担保権実行を受けて原告らの主張する未払時間外手当等相当額について取り立てられているところ,主位的に,原告らが主張する未払時間外手当等には,基礎賃金単価として算入されるべきではない評価給分が算入され,算入されるべきではない労働時間が算入されており,さらに,被告が原告らに対して支給した評価給は未払時間外手当等に充当されるべきであると主張し,予備的に,評価給が未払時間外手当等に充当されないとしても,少なくとも原告らが主張する未払時間外手当等には,基礎賃金単価として算入されるべきではない評価給分が含まれており,算入されるべきではない労働時間が算入されていることから,原告らが被告から得た時間外手当等の支払には法律上の原因がないものが含まれているとして,原告らに対し,不当利得返還請求権に基づき利得金の返還を請求するとともにこれに対する民法704条前段所定の利息の支払を求めた(上記第1の3項の請求)事案である。

2  前提事実(証拠を付さないものは争いがないものである。)

(1)  被告は,平成10年6月に設立された,ビデオカメラの開発,製造,販売及び輸出入並びに医療機器類の開発,製造,販売,賃貸及び輸出入などを目的とする株式会社であり,長野市に本社を置くほか,東京や大阪などにショールームを置き,平成20年6月時点の従業員は165名であり,平成21年時点では長野本社に約100名,平成21年3月時点では大阪店には9名が勤務していた。

原告X1は,平成20年2月17日,被告に医科・歯科・産業用機器の販売業務を担当する従業員として採用され,以後,大阪店において営業担当として勤務していた。

なお,原告X1の試用期間(平成20年2月17日から同年5月16日まで)中の労働条件は,勤務場所が大阪店,勤務内容が営業,始業及び終業時刻が午前10時から午後7時までで休憩時間適時1時間(実労働時間8時間),休日が月曜日及び火曜日並びに国民の祝日の翌日,基本賃金が時給1000円で毎月末日締め切りの翌月15日支払とされていた(証拠<省略>)。また,原告X1の正式採用後の基本給は18万円であり,その他に通勤手当が支給されており,平成20年6月分以降は,時間外手当等が支給されなくなり,評価給が支給されるようになり,その後,平成21年3月分以降の給与について,評価給が支給されなくなり,時間外手当等が支給されるようになった(証拠<省略>,弁論の全趣旨)。

原告X2は,平成20年9月19日,被告にショールームを訪れた顧客の接客業務を行う従業員として採用され,以後,大阪店において営業担当として勤務し,採用後3か月間の試用期間を経て被告に正式に採用された。

なお,原告X2の試用期間(平成20年9月19日から同年12月18日まで)中の労働条件は,勤務場所が大阪店,勤務内容が営業,始業及び終業時刻が午前10時から午後7時までで休憩時間適時1時間(実労働時間8時間),休日が月曜日及び火曜日並びに国民の祝日の翌日,基本賃金が時給1000円で毎月末日締め切りの翌月15日支払とされていた(証拠<省略>)。また,原告X2の正式採用後の基本給は17万5000円であり,その他に通勤手当が支給されており,平成20年12月分以降は,時間外手当等が支給されなくなり,評価給が支給されるようになり,その後,平成21年3月分以降の給与について,評価給が支給されなくなり,時間外手当等が支給されるようになった(証拠<省略>,弁論の全趣旨)。

(2)  被告代表者A1(以下,「A1社長」という。)は,平成21年3月4日,被告幹部数名とともに大阪店を訪れ,同日午後6時ころから,大阪店従業員,名古屋店従業員及び福岡店従業員が出席し,A1社長が被告の今後の方向性等について社長としての考えを伝えることを目的とする「社長ミーティング」と称する会議(以下,「本件社長ミーティング」という。)が行われた。本件社長ミーティングは飲酒を伴って行われており(ただし,原告らを含む大阪店の従業員らのうち数名は飲酒していなかった。),翌日である同月5日午前4時ころに終了した。

(3)  原告X2は,平成21年3月13日,大阪店課長A2(以下,単に「A2」という。)から同月4日の本件社長ミーティングについての感想を聞かれ,同月14日に長野本社において被告営業本部長A3(以下,単に「A3」という。)らとの面談を受けた。その後,原告X2は,同月16日,A3から被告の社風及び業務の研修を目的として同月18日から長野本社への転勤を命ずるという内容のメールを送付され,また,原告X2に対しては同日が支給日であった給与が支払われなかった。

(4)  原告らは,平成21年3月16日,労働組合であるa労働組合(以下「本件組合」という。)に加入し,本件組合が,同月19日,大阪店店長に対し,団体交渉申入書を提出したところ,原告らは,被告総務部長A4(以下,単に「A4」という。)から「団交について決着がつくまで,明日から休んでいい。」と告げられ,被告代理人中嶌知文弁護士からも同旨の内容を電話により告げられた。

(5)  原告らは,平成21年3月20日,被告から原告らが仕事の指示に従わないとの理由で大阪店店長から自宅待機の業務命令を受け,同月24日,被告から自宅待機命令の通知を確認する文書を交付された。

(6) 被告は,平成21年4月3日,原告らに対して,大阪店から長野本社への配転の条件の通知を交付した。その内容は,原告X1については,「本社勤務を経験することにより,当社(被告)の社風を理解し個人のスキルアップに留まらず,チームワークによる業務遂行の重要性を認識し,ひいては後輩指導や店舗運営などリーダー的な人材となること。」を目的とし,期間を2年間(ただし,研修成果により延長の可能性あり。)とされており,原告X2については,「OJT(On the Job Trainingの略である。以下,同じ。)による研修。今後,大阪店の業績をさらに向上させる為に他部署での経験を通して視野を広くし業務に自信を持って臨めるようになること。」を目的とし,期間を6か月間(ただし,研修の成果により延長の可能性あり。)とされていた。その後,被告は,同月10日,原告らに対し,上記自宅待機命令の解除及び本件配転命令を行った。

(7)  原告らは,平成21年4月15日,長野本社に転勤し,被告生産技術部課長A5(以下,単に「A5」という。)から業務の指示等を受けて長野本社プレハブ建物○階作業フロアで作業を行うようになっていたところ,原告X1は,同月27日,長野本社ビル○階の「待合室」の一室を作業場所として一人で作業することを命じられ,また,昼食を食堂でとることを禁止され,同年5月20日までこの状況が続いた(証拠<省略>,弁論の全趣旨)。その後,原告X1は,同月25日から長野本社プレハブ建物○階作業フロアに戻って作業をするようになったが,原告X2とともに他の従業員とは離れた場所を作業場所として指示された。

(8)  原告らは,平成21年5月18日午後6時ころ,長野本社食堂に呼び出され,その時間に長野本社に残っていた全従業員と対面する形で着席させられ,A3から,全従業員の気持ちであるとして,「昨今の世界的な経済情勢の中,私達は知恵を絞り,経費削減・コストダウンをしながら協力し合い,この情勢を乗り越えるべく歯をくいしばって頑張っています。Y社長野本社社員は,総意をもって両名の行動に対し非常に憤りを感じています。両名は私達にとって迷惑だと考えていますので,意向を受け止めていただき即刻退職していただきたいと要望します。」と記載された「要望書」(証拠<省略>)を読み上げられた上で手渡された(以下,「本件社員集会」という。)。

(9)  原告らは,平成21年5月29日,長野地方裁判所に対し,被告を相手方として,本件配転命令の無効や退職強要の禁止などを求めて本件仮処分命令申立事件の申立てを行い,同年8月3日,本件配転命令の有効性については本訴で解決し,被告が,退職強要を行わないこと,原告らの作業場付近にカメラを設置したり既存のカメラを殊更に原告らに対して向けたりしないこと及び原告らに対して差別的取扱いをしないこと等を内容(以下,「本件和解条項」という。)とする本件和解が成立した。

(10)  原告らは,被告に対して未払の時間外手当等があるとして,長野地方裁判所に対し,被告を債務者として,労働債権についての一般先取特権の実行に基づく債権差押命令申立てを行い(長野地方裁判所平成21年(ナ)第2号,同第3号),これが認容されて,平成21年6月12日,被告の銀行預金債権が差し押さえられ,原告X1について193万0960円,原告X2について63万4903円が取り立てられた。

(11)  原告X2は,平成21年7月2日午後1時過ぎころ,A4から原告X2の持病である腰痛の件で話を聞きたいとして呼び出され,病院での検査を受けさせられた。その後,原告X2は,同日午後5時30分ころ,再びA4に呼び出され,同日午後9時25分ころまで,長野本社ビル内の一室で,A4,被告業務本部統括部長A6(以下,単に「A6」という。)及び被告従業員A7(以下,単に「A7」という。)から,腰痛の件で事情を聞かれる等し,上記事情聴取は,最終的に本件組合のA8書記次長(以下,単に「A8」という。)が被告に対して電話したことを契機として終了した。

その後,原告X2は,同月28日から長野本社営業部に異動となったが,同年9月24日から,うつ状態,パニック障害及び外傷後ストレス(PTSD)を原因として被告を休職し,平成22年3月23日,被告から休職期間満了により退職したものとされたところ,原告X2の上記休職については,長野労働基準監督署によって労災認定され,同監督署により療養・休業補償給付決定がされている(証拠<省略>,原告X2)。

(12)  被告は,平成22年1月25日,原告X1に対し,原告X1には①勤務成績及び勤務態度が不良であり,たびたび上司に反抗的態度をとったこと,②協調性を欠き,他の従業員に悪影響を及ぼしたこと及び③服務規程及び禁止事項を遵守せず,被告からの再三の注意にもかかわらず言動が直らず,改悛や改善の姿勢が全く見られなかったことという事由が存在し,これらの事由が平成21年10月1日付けで従前の就業規則を改定して制定したとする新就業規則(以下,特に同就業規則をいう場合に「新就業規則」という。)23条5号,6号及び8号に該当するとして本件解雇を行った。

(13)  被告は,原告X1に対し,平成20年2月分から同年5月分及び平成21年3月分の時間外手当等として,別紙1(訴状添付の別紙1)<省略>記載の「既に支払われた残業代」欄のとおり,合計44万5867円を支払っており,原告X2に対し,平成20年9月分から同年11月分まで及び平成21年3月分の時間外手当等として,別紙2(訴状添付の別紙2)<省略>記載の「既に支払われた残業代」欄記載のとおり,合計33万7717円を支払っている。

(14)  被告の就業規則の定め(抜粋)(証拠<省略>)

第8条(人事異動) 会社は,業務上必要がある場合は,従業員の就業する場所または従事する業務の変更を命ずることがある。

第10条(休職) 従業員が,次の場合に該当するときは,所定の期間,休職とする。

① 私傷病による欠勤が1か月を超え,なお療養を継続する必要があるため勤務できないと認められたとき

6か月を超えない範囲内で会社が認めた期間

② 前号のほか,特別の事情があり休職させることが適当と認められるとき

2年を超えない範囲内で会社が認めた期間

2 休職期間中に休職事由が消滅したときは,もとの職務に復帰させる。ただし,もとの職務に復帰させることが困難であるか,または不適当な場合には,他の職務に就かせることがある。

3  本条第1項第1号により休職し,休職期間が満了してもなお傷病が治癒せず就業が困難な場合は,休職期間の満了をもって退職とする。

第11条(服務) 従業員は,会社の指示命令を守り,職務上の責任を自覚し,誠実に職務を遂行するとともに,職場の秩序の維持に努めなければならない。

第12条(遵守事項) 従業員は,次の事項を守らなければならない。

①  勤務中は職務に専念し,みだりに勤務の場所を離れないこと。

②  許可なく職務以外の目的で会社の施設,物品等を使用しないこと。

③  略

④  会社の名誉または信用を傷つける行為をしないこと。

⑤ないし⑦ 略

⑧  その他酒気をおびて就業するなど従業員としてふさわしくない行為をしないこと。

第13条(出退勤) 従業員は,出退勤に当たっては,出退勤時刻をタイムカードに自ら記録しなければならない。

第15条(労働時間および休憩時間) 所定労働時間は,1週間あたり40時間,1日については8時間とする。

2  始業・終業の時刻および休憩時間は,次のとおりとする。ただし業務の都合その他やむを得ない事情により,これらを繰り上げ,または繰り下げることがある。

始業時刻 午前9時45分

終業時刻 午後6時45分

休憩時間 12時から13時まで

第16条(休日) 休日は次のとおりとする。

①  毎週土曜日および日曜日

②  国民の祝日(日曜日と重なったときは翌日)

③  年末年始(土,日,祝日を除く3日間)

④  夏季休日(土,日,祝日を除く3日間)

⑤  その他会社が指定する日

2 業務の都合により必要やむを得ない場合は,あらかじめ前項の休日を他の日と振り替えることがある。

第17条(時間外および休日労働) 業務の都合により,第15条の所定労働時間を超え,または第16条の所定休日に労働させることがある。この場合において,法定の労働時間を超える労働または法定の休日における労働については,あらかじめ会社は従業員代表と書面による協定を締結し,これを所轄の労働基準監督署長に届け出るものとする。

2及び3 略

第25条(賃金) 従業員の賃金は別に定める賃金規程により支給する。

第27条(退職) 前条(定年等)に定めるもののほか従業員が次のいずれかに該当するときは,退職とする。

①及び② 略

③  第10条第1項に定める休職期間が満了し,なお,休職事由が消滅しないとき

④  略

第28条(解雇) 従業員が次のいずれかに該当するときは,解雇するものとする。ただし,第31条第2項の事由に該当すると認められたときは,同条の定めるところによる。

①  勤務成績または業務能率が著しく不良で,従業員としてふさわしくないと認められたとき

②  精神または身体の障害により,業務に耐えられないと認められたとき

③  事業の縮小その他事業の運営上やむを得ない事情により,従業員の減員等が必要となったとき

④  その他前各号に準ずるやむを得ない事情があるとき

2 略

第30条(懲戒の種類) 会社は,従業員が次条のいずれかに該当する場合は,その事由に応じ,次の区分により懲戒を行う。

①  けん責 始末書を提出させて将来を戒める。

②  減給 始末書を提出させて減給する。ただし,減給は1回の額が平均賃金の1日分の5割を超えることはなく,また,総額が1賃金支払い期間における賃金の1割を超えることはない。

③  出勤停止 始末書を提出させるほか,7日間を限度として出勤を停止し,その間の賃金は支給しない。

④  懲戒解雇 即時に解雇する。

第31条(懲戒の事由) 略

2  従業員が次のいずれかに該当するときは,懲戒解雇する。ただし,情状により減給または出勤停止とすることがある。

①ないし⑦ 略

⑧ 第12条に違反する重大な行為があったとき

⑨ その他前各号に準ずる重大な行為があったとき

(15) 被告の賃金規程(評価給についての定めがあるもの。以下「本件賃金規程」という。)の定め(抜粋)(証拠<省略>)

第2条(賃金の構成) 賃金の構成は,次のとおりとする。

file_2.jpg第7条(評価給) 評価給は,営業部門勤務社員に関して,店舗および個人の売上・勤怠状況・時間外勤務その他を考慮して,加算給として支給する。

第8条(売上達成報酬) 売上達成報酬は,部署ごとの月度売上予算を達成した場合,営業部門勤務社員に対して支給する。

第10条(割増賃金) 割増賃金は,次の算式により計算して支給する。

(1) 時間外労働割増賃金(所定労働時間を超えて労働させた場合)

=1時間当たりの賃金×1.25×時間外労働時間数

(2) 休日労働割増賃金(所定の休日に労働させた場合)

=1時間当たりの賃金×1.35×休日労働時間数

(3) 深夜労働割増賃金(午後10時から午前5時までの間に労働させた場合)

=1時間当たりの賃金×0.25×深夜労働時間数

2 割増賃金の算定に当たっては,15分未満は切り捨て,15分単位で算定する。

3  第1項の1時間当たりの賃金は,次の算式により計算する。

(基本給+役職手当+職能手当)÷1ヶ月平均所定労働時間

4  前項の1ヶ月平均所定労働時間は,次の算式により計算する。

(1年間の暦日数-年間所定休日日数)×1日の所定労働時間数÷12

第12条(賞与) 賞与は,原則として毎年8月及び12月に,会社の業績および従業員の勤務成績等を勘案して支給する。ただし,会社の業績の著しい低下その他やむを得ない事由がある場合には,支給時期を延期し,又は支給しないことがある。

2 賞与の支給資格者は,賞与支給日において在職期間が6ヶ月以上で,かつ賞与支給日に在籍する従業員とする。

3  賞与の算定期間は,以下のとおりとする。

(1)  夏季賞与(毎年8月)…12月1日~5月31日

(2)  冬季賞与(毎年12月)…6月1日~11月31日

4  賞与の額は,会社の業績及び従業員の勤務成績などを考慮して各人ごとに決定する。

(16) 被告では,上記就業規則にかかわらず,大阪店について以下の内容を定めていた(証拠<省略>,弁論の全趣旨)。

ア  人事異動 会社は,業務上必要がある場合は,従業員の就業する場所または従事する業務の変更を命ずることがある。

イ  労働時間 始業時間は午前10時とし,朝礼及び清掃を行った後,午前10時半から平常業務を行う。終業時間は午後7時であり,休憩時間は適時1時間とする。

ウ  休日 (ア)毎週月曜日および火曜日,(イ)国民の祝日の翌日,(ウ)年末年始,(エ)夏季休日

エ  残業 終業時間以降の残業については,必ず事前に所属長に「残業申請書」を提出し,承認を得ること。承認を得ずに残業をした場合は認められない。

3  争点及び当事者の主張(なお,本件における争点及び当事者の主張については,平成23年11月17日第10回弁論準備手続期日において確定している。)

(1)  争点(1)(被告に原告らに対する包括的配転権限があるか)

(被告の主張)

被告の就業規則8条には「会社は,業務上必要がある場合は,従業員の就業する場所または従事する業務の変更を命ずることがある。」とされており,被告は,原告らに対し,就業規則に基づき,平成21年4月10日,被告の長野本社に配転する旨命令した。

(原告らの主張)

就業規則16条には,毎週土曜・日曜等を休日とすると規定されているが,現実には,原告らは,大阪店において,土曜・日曜を出勤日,月曜・火曜を休日とされており,また,本件賃金規程には,基本給や評価給とは別途,時間外労働割増賃金や休日労働割増賃金等を支給する旨が規定されているが,原告X1については平成20年6月から,原告X2については同年12月から,原告らが平成21年3月に時間外割増賃金等を支払うよう請求するまで,被告はこれらの時間外割増賃金等を支払ってこなかったのであり,また,被告では,被告の各支店で現地採用した営業職員を本社ないし他の支店に配転することは従来なかったのであるから,被告自身が就業規則を無視した扱いをしていた以上,就業規則は,原告らが被告に採用された時点又は本社配転の時点において,有名無実化しており,原告らの配置転換の根拠規定とはなり得ない。

(2)  争点(2)(原告らと被告との間で黙示の勤務地限定の合意が存在したか)

(原告らの主張)

原告らと被告との間での労働契約では,以下の事情から,勤務地を大阪店に限定するとの黙示の合意が存在した。

ア 原告らの雇入通知書に勤務地として大阪店が記載されているのみで,配転の可能性について記載がない。

イ 被告では,被告の各支店で現地採用した営業職員を本社ないし他の支店に配転するとの実績・慣行は存在しない。

ウ 原告らは,いずれも被告の大阪店において現地採用された従業員である。

エ 原告らは,いずれも,被告の採用時の面接において,配転について,原告らが本社採用ではなく現地採用であるので,基本的に転勤はなく,仮に他店舗に転勤をお願いする場合には本人の意思を尊重するとの説明を受けた。

(被告の主張)

被告は,原告らを,基本的に転勤はないとの条件で採用しているものではないし,面接及び採用時にそのような説明をしたこともない。

また,被告は,長野本社のほか,東京都,大阪市,名古屋市,福岡市にそれぞれ店舗を置いているが,これまでも本社と店舗及び店舗間において多数の従業員が転勤している。

したがって,被告と原告らとの間に勤務地限定の合意は成立していない。

(3)  争点(3)(被告の本件配転命令権行使は権利濫用か)

(原告らの主張)

ア 本件配転命令には以下のとおり業務上の必要性がない。

(ア) 本件配転命令の目的は,原告X1については「被告の長野本社勤務を経験することにより,被告の社風を理解し個人のスキルアップ」を図ること,原告X2については「OJTによる研修」とされている。

(イ) 原告らは,大阪店において,すでに「営業職」の研修と経験を積み,実績を有していた。

(ウ) 被告では,これまで,すでに支店において研修を積んで,実績を有している者に対して,被告の長野本社に配転させてまで,新たに長期間の研修を積ませるという例はなかった。

(エ) 本件配転命令当時の大阪店の従業員9名中2名が試用期間中で,営業職が不足している状況であった。

イ 本件配転命令は,以下のとおり,原告らに退職を強要し被告から排除すること及び原告らに対する嫌がらせという不当な動機・目的によるものである。

(ア) 原告X1は,本件社長ミーティングにおいて,A1社長に対して「早く方向性を決めてもらいたいと思います。」等と意見を述べ,原告X2は,平成21年3月13日,A2から本件社長ミーティングについての感想を聞かれた際に,原告X1の排除に同調しなかった。

(イ) 原告X1に対しては,同月5日にA3及び被告産業機器事業部及び海外事業部課長A9(以下,単に「A9」という。)から退職勧奨がなされ,同月13日に長野本社総務部から長野本社での面談を指示され,同月18日,長野本社においてA3及びA9から退職勧奨を受け,原告X1がこれを拒否したところ,口頭で長野本社への転勤が命じられ,同年4月3日,被告から配転の条件の通知が交付され,同月10日に本件配転命令が発令された。

(ウ) 原告X2に対しては,同年3月14日,長野本社において,A3及び被告従業員A10(以下,単に「A10」という。)が「転勤か退職か。」と迫り,同月16日,A3から長野本社への転勤を命じるメールが送られ,原告X2に対してだけ給与が不支給とされ,同月18日,原告X2が未払の給与の督促をしたところ,A3から「被告を辞めるのであれば払う。」等と言われ,長野本社に来るように命じられ,長野本社に出向いたところ,「26日までに転勤を決めるように。」と言われ,同年4月3日,被告から配転の条件の通知が交付され,同月10日に本件配転命令が発令された。

(エ) 本件配転命令の目的である「研修」として原告らに与えられた業務内容及び業務指示は,単独で行う単純作業であり,営業職としての「研修」と関わりがあるとは思えないものであり,同年4月28日に,原告X1が研修プログラムを示すように求めたところ,A4から,「研修内容は日によって変わるので,2年間のプログラムは出せない。」と言われた。また,原告らは,研修の目的が上記ア(ア)のとおりとされているのに,長野本社において,同年4月27日から同年5月20日までは原告X1が四畳半程度の広さの待合室に隔離されて作業をさせられ,同月25日以降は,原告らが他の従業員と離されて接触しない場所で作業をさせられた。

(オ) 被告から原告らに対して交付された平成21年4月10日付け「自宅待機解除に対する回答書」では,本件社長ミーティングで否定的な捉え方をしたのは原告らのみであり,したがって,原告らを長野本社で研修させようと考えた旨記載されており,同月13日付け「本社研修についての確認書」では,一日も早く「更生」し現場復帰されるようとの記載がある。

ウ 通常甘受すべき程度を著しく超える程度の不利益の存在

原告らは,本件配転命令によって,以下のとおり,通常甘受すべき程度を著しく超える程度の不利益を受けた。

(ア) 原告らには給与支払明細上の基本給の他に「評価給」が支給されていたが,この評価給は基本給と一体として固定給を構成していたところ,本件配転命令に伴い,評価給の支給がされなくなり,事実上30パーセント前後の減給となった。

(イ) 原告らは,本件配転命令による研修において,平成21年4月27日から同年5月20日までは原告X1が四畳半程度の待合室に隔離されて,また,同年5月25日以降は,原告らが他の従業員と離されて接触しない場所において,目的が明らかでない単純作業に従事させられる等して精神的圧迫を受けている。

(ウ) 原告らは,本件組合に加入しているが,本件配転命令によって組合活動に大きな支障を来している。

(エ) 原告X2については,大阪において腰の継続治療を受けていたところ,本件配転命令に伴い主治医の治療を受けられなくなった。

(オ) 原告X1については,本件配転命令によって,両親と同居できなくなった。

(カ) 原告らに当初与えられた宿泊先はビジネスホテルの2名1室の相部屋でありプライバシーも確保されていないものであり,その後に用意されたbホテルも2名1室の相部屋であって,いずれについても一人部屋が空いているにもかかわらず,被告は一人一部屋とすることを拒否した。原告らが社宅として個室のアパートを供与されたのは,本件仮処分命令申立事件において社宅の確保を要求し,本件和解が成立してからであり,被告の原告らに対する処遇はプライバシーの保護も確保されない劣悪なものであった。

(被告の主張)

ア 本件配転命令の業務上の必要性及び目的について

(ア) 大阪店の従業員は,すべてが営業職であって,総務機能は長野本社に委ねられており,円滑な業務遂行を阻害する従業員の研修は,長野本社で行う必要性があった。また,大阪店の店長は20代であったため,原告らに対する指導,注意が困難であった。

(イ) 原告X1については,従前から,協調性がなく,大阪店全体の職場の規律を乱し,円滑な職務遂行を阻害する言動が見られ,業務上のミスも多数に上っていた。

原告X2については,入社後半年を経過した時点でも,営業担当としては,消極的態度が顕著であった。

そこで,被告としては,大阪店の営業職を減らすのは痛手ではあったが,原告X1については,①被告の社風を理解し,②チームワークによる業務遂行の重要性を認識し,③後輩指導や店舗運営などリーダー的な人材になることを目的として,原告X2については,①大阪店の業績をさらに向上させるため,他部署での経験を通じて視野を広くし,②業務に自信を持って臨めるようになることを目的として,それぞれ長野本社での研修を命じたのであって,本件社長ミーティングはその契機にすぎない。

イ 通常甘受すべき程度を著しく超える程度の不利益について

原告らの主張する本件配転命令による不利益は,以下のとおり,いずれも事実と異なるかそもそも不利益にあたらないものである。

(ア) 原告らの給与は,固定給としては基本給のみであり,評価給は,基本給と一体として固定給を構成しているものではない。また,被告は,原告らに対し,配置転換後は時間外手当を支給している。

(イ) 被告は,原告らを隔離していない。原告X1について他の従業員と離れた場所である接客応接室で作業させたのは,上司や同僚に対する威圧的な言動を行っていたためであり,また,一時的な措置にすぎないものである。

(ウ) 原告らの組合活動については,どのような支障を来しているのか疑問である上,そもそも通常甘受するべき程度を越える不利益とはいえないものである。

(エ) 原告X2の腰の治療に関しては,同人の愁訴のとおりの症状であったとしても,主治医に紹介状を書いてもらい長野で治療を継続することは可能である。

(オ) 原告X1が主張する両親との別居を余儀なくされたとの点については,転勤に伴い通常甘受するべきものであって,本件配転命令が権利濫用となるような不利益とは到底いえないことは明らかである。

ウ 被告は,原告らの本社研修にあたって,原告らに対して十分な配慮をしていること

被告は,原告らの本社研修にあたって社宅費用全額並びに帰宅費用のうち月1回の往復費用及び2回目の片道費用について負担しており,社宅についても,当初は予算の都合等からビジネスホテルを使用していたが,その後は長期滞在型マンション「c」を使用しており,同マンションは2部屋あるのでプライバシーを確保でき,調理設備もあるため自炊も可能な状態であって,さらにその後はそれぞれ個室のアパートを供与している。

エ したがって,被告には原告らを長野本社に移転する必要性があったのであり,かつ,それは不当な目的・動機に基づくものではなく,原告らに不利益を与えるものではないことから,本件配転命令は権利濫用には当たらない。

(4)  争点(4)(被告の原告らに対する不法行為の成否)

(原告らの主張)

ア 被告は,以下のとおり,自らないし長野本社従業員に対して明示若しくは黙示に命じるなどして,原告らを退職に追い込むような精神的圧迫を与えた。

(ア) 本件社員集会における被告の原告らに対する退職強要行為

原告X1は,平成21年5月18日午後6時ころ,A6らの指示により食堂に呼び出され,また原告X2は,同時刻ころ,A9と被告従業員A11(以下,単に「A11」という。)の指示により食堂に呼び出されたところ,食堂にはその時間に長野本社に残っていた全従業員が着席しており,A3が,全従業員の気持ちであるとして,原告らの退職を求める内容の「要望書」を読み上げて,原告X1に対して手渡した。その後,これまで原告らと言葉を交わしたこともない従業員が数名順次原告らを罵倒し,このような集団の圧力を利用した形での退職を強要する言動が同日午後6時50分ころまで続けられた。これが被告の指示によるものであることは,同月11日午後7時30分ころに開かれた社員集会において,A1社長が「(原告らには)辞めて欲しいが辞めないので,(原告らと)同じ従業員という立場の皆の署名や(原告らの行動はおかしいという)レポートを原告らに突きつけたい。募金をして渡して「辞めてくれ」と言ってもらいたい。仲間から認められないから辞めると思う。」などと発言するなどして原告らの退職を求める具体的な指示を出していたこと,同月18日午後2時30分ころ,食堂でミーティングをするので集合するようにとの指示が被告の管理職からあり,各部署の代表者が食堂に集められた上で,A1社長は,「要望書」という文書を配り「まだ下書きなのでこれから修正するが,皆に読んでもらいたい。何かあれば意見を出して欲しい。それからちゃんとしたものを作る。」,「午後5時45分ころに原告らを呼び出して,要望書を全員で手渡す。原告らを取り囲んでヤジを飛ばせ,怒りをぶつけろ。」等の退職を強要する具体的な指示を出したこと,被告の営業本部長であるA3自らが「要望書」を読み上げて手渡していること,「要望書」に署名しなかった従業員が,当日会社から配置転換を示唆され,就業時間中にもかかわらず帰宅・自宅待機を命じられていること,被告の管理職である女性課長がコンプライアンスを軽視する発言をしていること,本件社員集会の様子をA1社長及びA12取締役財務部長が窺っており,A13取締役がビデオ撮影していたことから明らかである。

(イ) 被告の原告らに対する隔離及び監視

原告X1は,平成21年4月27日以降同年5月20日まで,待合室の一室を作業場所に指定され,食事もその作業場所か会社の外で取るように命じられ,他の従業員と隔離された。また,同年5月20日以降は,原告X1は,原告X2と同一の場所に移され,隔離された状態は解かれたものの,原告らだけは他の従業員とは離れた場所に机を置かれている。

また,被告は,同年5月23日以降,原告らに対して,当初は従業員を用いて,その後は原告らの作業場所の斜め後ろにビデオカメラを設置すると共に,原告X1の背後にはパソコン用Webカメラを設置し,常時原告らを監視するようになった。

また,被告は,研修規則では参加が義務付けられているはずの朝礼にも,原告らを参加させなかった。

さらに,A1社長は,同年5月25日の社内メールにおいて,被告従業員に対し,原告らの社内外における言動を報告するように命じ,その報告に基づいて,被告従業員に対し,原告らを「無視」するとともに,原告らの食事やトイレについても監視するように命じた。

また,被告は,実際には同年8月1日に全体会議が開かれたにもかかわらず,A4は同年7月31日午後8時ころ,原告X1からの問い合わせに対して「社長が忙しすぎるため,(明日の)全体会議は中止になりました。」と言って,原告らをして同年8月1日に会社に出社する必要はないと誤った判断をさせた。原告らが会社の業務である全体会議へ参加しようとしても,被告は偽計を使ってまで原告らを排除した。

このように,被告は,原告らを他の従業員と完全に接触させないようにして,日常的に隔離し,その言動を監視していた。

(ウ) 被告が原告らに対して研修目的とは無縁の業務を指示したこと

原告らは,営業職として被告に採用された者であるにもかかわらず,原告らが研修として指示された業務内容は,鉄板に貼り付けたシールを剥がして残った糊を溶剤で落とす作業や製品の部品を100個ずつ袋詰めするといったきつい作業や単純作業であり,被告は,原告らに対してだけこれらの作業を意図的に継続して指示している上,営業職の研修とこれらの作業がどのような関連性を有するのかについても説明がなされていない。

(エ) 被告管理職らによる原告らに対する威圧的言動

原告X1は,同年7月1日午後6時ころ,A4から食堂に呼び出され,勤務時間中であるにもかかわらず,A6や被告従業員A14(以下,単に「A14」という。)などから,30分程度にわたって,大声で罵倒されたり喧嘩腰で怒鳴られたりした。その後,原告X1が自席に戻ると,A5やA7などが,原告X1の席を取り囲み,大声で「話し合いに応じろ。」等と執拗に威圧した。

また,原告X2は,同年7月2日午後1時過ぎころ,A4から腰痛の件で話を聞きたいとして呼び出され,病院で腰の検査を受けさせられる等した後,同日午後5時30分ころ,A4から再度呼出を受け,同日午後9時25分に解放されるまで,約4時間にわたって,原告X2が記載した陳述書や日報と医者の回答が違っているなどとして,A6やA4らから大声で責められ,腰痛の状態や治療について自らの認識とは異なる内容の書面に署名するように強要された。

(オ) 原告X2の心理的過労による発症

原告X2は,同年7月中旬ころから常時,頭痛,眩暈及び突然の吐き気が襲うなどの症状が見られるようになり,「鬱状態及びパニック障害,外傷性ストレス障害(PTSD)の疑い」と診断された。これは,同年5月18日の退職強要,同年7月2日午後9時25分までの約4時間に及んだ監禁状態の中で不当な署名を強要したことなどが原因と考えられる。

イ 原告らは,被告を相手方として,本件配転命令無効や退職強要の禁止などを求めた本件仮処分命令申立事件の申立てを行い,同年8月3日に本件和解が成立した。しかし,被告は,本件和解成立後も以下のとおり本件和解条項に反する不法行為を継続している。

(ア) Webカメラ等を殊更に原告らに対して向けて監視する状態が継続している。

(イ) 原告らに対してだけ他の従業員とは異なった社内報を見せたり,殊更に社内報を見せなかったりする場合もある,他の従業員とは孤立した形で業務に従事させられている,原告らは不当な理由で始末書を書くことを命じられる,日報による質問などに誠実に回答していない,団体交渉の拒否など不誠実な対応がある,夏季賞与が未支給であり,未支給の説明もないなど,原告らに対する差別的取扱がなされている。

ウ 上記ア及びイの不法行為により,原告らは重大な精神的苦痛を被っており,これらを慰謝するに足りる金額は,各自300万円を下らない。また,原告らは本件訴訟について弁護士を委任して訴訟追行を行う必要があり,各自40万円の支払を約したが,これについても上記不法行為と相当因果関係のある損害である。

(被告の主張)

ア 原告らの主張する精神的苦痛は,原告ら自身の責に帰すべき要因によるものであること

被告は,従業員数300人以下の中小企業であり,特に会社内のチームワークを重視している。そして,原告らは,営業職として中途採用されているのであり,一定の経験やスキル等を有し,企業での処し方について一定の認識を有していることを前提に採用されているものである。しかし,原告らは,被告の営業方法や社風を理解しようとしないなど適応能力が欠如しており,原告X1の協調性不足や上司及び同僚に対する常軌を逸した言動並びに原告X2の消極的態度は,本件配転命令後も変わらなかった。さらに,原告らが研修の目的を理解しようとせず研修に否定的な態度であることも加わって,原告らと他の従業員との間に無用の摩擦が生じており,被告から指導注意等を受けることになったものであって,当該指導注意等は,企業秩序維持のための必要性があり,かつ,その必要性に照らして社会通念上相当な程度の範囲内の行為である。加えて,原告X2については,もともとストレスに脆弱であるという素因も認められる。原告らの主張する事実は,いずれも原告らの被告に対する否定的な態度に起因しているものであり,過度に誇張されている。

イ 退職強要行為との主張について

(ア) 原告らに対する研修内容について

原告らに対する研修内容は,販促品の袋詰めや取扱説明書の折り畳みなどであり,他の部署の業務に触れることで,営業活動の一助となるものであって,すべて営業に繋がる意味のある業務であり,研修目的と無関係ではない。そして,本社従業員が一度は経験している作業である。

(イ) 原告らに対する長野本社での扱いについて

原告X1については,就業時間中に他の従業員に対して業務外の話を持ちかけたり,上司の指示に従わない態度を取ったりしたため,一時的に作業場所を変更し,食事についても作業場所か外で取るように指示したものであり,原告X2については,業務内容に応じて作業しやすい場所を提供したものであるから,いずれも原告らを隔離したものではない。また,朝礼についても,当初は原告らの業務として清掃作業を優先させたために参加できなかっただけであり,Webカメラについても,長野本社内にはいたるところに設置してあり,特段原告らを監視しているものではない。A1社長の社内メールについては,軽率であった感は否めないが,原告らの態度から,従業員同士でのもめ事が起こることを懸念したものであって,原告らを隔離,監視することを意図したものではない。

(ウ) 平成21年5月18日に行われた本件社員集会について

被告の指示で退職強要が行われたと原告らが主張する平成21年5月18日の本件社員集会は,被告を非難する内容のビラを長野本社前で配布した原告らの行為の意図を問うために被告従業員の有志が自主的に行ったものであり,被告は関与していない。

(エ) 被告管理職の言動について

平成21年7月1日に行った原告X1との話し合いは,被告の総務部同席の上で原告X1の研修指導員等から業務上に関する注意や指導を行ったものであり,罵声を浴びせたり執拗に威圧したりしたとの事実はない。同月2日に行った原告X2との話し合いは,腰痛を訴える同人の体調を被告の総務部が心配して診察等を行わせたところ,原告X2の主訴と診断等が全く異なっていたため,確認したものであり,原告X2が誠実に回答しなかったため時間がかかったにすぎない。

ウ 本件和解条項違反との主張について

(ア) Webカメラによる監視について

長野本社では,Webカメラはいたるところに設置されており,原告らを特段監視しているものではなく,また,被告は,原告らに対して,Webカメラの設置場所について説明した上で,被告と原告らとの間で本件和解が成立しているのであり,本件和解後,Webカメラについて被告では一切手を加えていない。

(イ) 差別的取扱との主張について

社内報については,被告の機密情報が記載されている場合もあるため,全従業員が閲覧できるものと社外秘密事項の記載された管理職従業員等だけが閲覧できるものとを分けているのであって,殊更原告らに対してのみ閲覧させていないわけではない。また,原告X1に対して始末書を求めた点についても,原告X1の業務態度等に起因するものである等,いずれも原告らをとりわけ差別的に取り扱っているものではない。始末書は,関係した他の従業員にも命じ,提出させている。

エ 損害及び因果関係

争う。

(5)  争点(5)(未払評価給の請求について)

(原告らの主張)

ア 被告は,原告X1に対し平成20年6月分から毎月8万5000円の,原告X2に対し平成20年12月分から毎月6万5000円の「評価給」を支給していたところ,原告らに対して平成21年3月分からの「評価給」の支払を行わないようになった。しかし,「評価給」は,月々の評価給決定の規定や基準が一切なく,評価内容も曖昧なものであり,被告における支給実態からすれば,営業職員ごとの金額の差異があるものの,個人の売上や成績にかかわらず,各営業職員の毎月の支給金額自体は一定額が支給されるというものである。また,「評価給」は,割増賃金ではなく手当として位置付けられており,割増賃金とは別個の性質を有していた。したがって,「評価給」は,実質的に営業職員における固定給の一部であるというべきである。

よって,原告らは,平成21年3月分から同年8月分までの既発生分及び同年9月分以降の評価給の請求権をそれぞれ有している。なお,既発生分の評価給については,毎月の各支払期日の翌日から遅延損害金が発生するところ,最後の支払期日である同年9月15日の翌日である同月16日から既発生分の評価給について発生する遅延損害金を内金請求する。

イ これに対し,被告は,実質的な労働時間の管理ができない旨及び原告らが本件配転命令によって営業を労働内容としなくなった旨主張するが,前者の点については,時間外(早出・残業・休日出勤)労働申請書の記載や,タイムカードに時刻が打刻されていることなどから実質的な労働時間の管理はなされており,また,外出先は事前に決まっており,飛び込み営業はしないなどの外出中の行動管理も行われていた。後者の点については,本件賃金規程7条では「営業部門勤務社員」と規定しているだけであり,外回りの営業販売業務を行う従業員に限られるものではないところ,本件配転命令により平成21年3月以降「営業職の研修」として長野本社に配転後,「製品の理解を深めるため」製品の製造業務や景品などの製造などに携わっていた原告らが「営業部門勤務社員」としての実態を有していたことは明らかであるし,また,本件賃金規程7条において,評価給は,営業成績だけでなく「勤務状況・時間外勤務その他を考慮して加算給として支給する。」となっており,「営業部門勤務社員」として評価給を支給することは賃金規程上の根拠を欠くことにはならない。

(被告の主張)

被告における「評価給」は,平成16年4月に,外回りの営業形態が始まったことに伴い,営業職員の外出中の実質的な労働時間が管理できないことから,法所定の割増賃金に代わる一定額の手当及び営業成績の評価分の加算として支給することを予定して設置され,営業職員に説明もしているものである。そして,平成17年10月分の給与から,営業職員に対してのみ支給が開始された。

被告が原告らに対して評価給の支給を行わなくなったのは,本件配転命令による原告らの長野本社への配転に伴い,原告らに対して法所定の割増賃金に代わる一定額の手当としての評価給を支払う実態がなくなり(平成21年3月分から,原告らに対しては,評価給に代えて,時間外手当を支給している。),また,本件配転命令の目的が研修であるため,評価対象となる営業成績がなくなったためである。実質的にも現実的にも営業を労働内容としていない営業職員に対し評価給を一定額支給し続けることは被告の賃金規程上の根拠を欠く上,仮に「評価給」が実質的に固定給の一部であるとすると,原告らは,被告に入社して2年に満たないにもかかわらず,原告X1について26万5000円,原告X2について24万円が基本給ということになり,常識的にあり得ないことである。

(6)  争点(6)(時間外労働割増賃金,休日労働割増賃金及び付加金の請求について)

(原告らの主張)

ア 被告の就業規則によれば,被告における所定労働時間は1日8時間,所定休日は土曜日,日曜日及び祝祭日とされている。しかし,原告らの大阪店における勤務実態は,所定労働時間1日8時間,所定休日月曜日,火曜日及び祝祭日の翌日であり,法定休日については,慣行として従業員の火曜日の出勤が奨励されていたことからすれば月曜日を法定休日として扱うことが妥当である。被告における時間外労働については,拒否して任意に退社することはできなかったのであり,少なくとも黙示の命令があったといえる。また,被告では,週休2日のうち1日はサービス出勤として出勤して仕事をすることを半強制的に求められていた。そして,休日出勤においては,医院及び病院の都合や事情を優先し,それに合わせて行動するため,昼食を取る時間もほとんどなく,労働基準法で定められた休憩時間を取ることはできなかった。被告では,時間外労働又は休日出勤をするために,事前に労働申請をするという取り扱いにはなっておらず,被告が主張する休日出勤についての「労働申請」とは,被告が従業員の休日出勤の行動予定表を提出させて休日出勤を確認するために用いていたにすぎないものであり,「労働申請書」とは,実際に時間外労働を行った後にタイムカードの打刻時間を15分単位でカットして記載したものであり,月末最終営業日に1か月間の時間外労働合計時間を記入した上で店長に提出することとされていたものである。したがって,原告X1の従事した時間外労働及び休日労働は別紙3(訴状添付の別紙3)<省略>記載の「労働時間一覧表」の,原告X2の従事した時間外労働及び休日労働は別紙4(訴状添付の別紙4)<省略>記載の「労働時間一覧表」のとおりである。

イ また,原告らの1時間当たりの残業時間単価の計算にあたっては,労働基準法における所定賃金から「評価給」が除外されておらず,被告における「評価給」は,時間外手当等の部分と営業成績の評価部分との区別が明確になっていないことから,「評価給」を算入すべきである。

ウ 以上を前提とすると,原告X1の1時間当たりの残業賃金単価は(18万円(基本給)+8万5000円(評価給))-161.29(1か月平均所定労働時間)=1643円となり,原告X2の1時間当たりの残業賃金単価は(17万5000円+6万5000円)÷161.29=1488円となる。

そうすると,原告X1が受けるべき時間外手当等は合計256万5775円であり,原告X2が受けるべき時間外手当等は合計104万9828円となるところ,被告は,原告X1に対して別紙1記載の「既に支払われた残業代」欄のとおり合計44万5867円を支払い,原告X2に対して別紙2記載の「既に支払われた残業代」欄とおり合計33万7717円を支払った。また,原告らが被告に対して行った債権差押えによって,原告X1について193万0960円,原告X2について63万4903円の支払を受けた。よって,原告X1についての未払時間外手当等は,256万5775円-(44万5867円+7万8864円(代休6日分))-193万0960円=11万0084円,原告X2についての未払時間外手当等は,104万9828円-33万7717円-63万4903円=7万7208円であり,原告らは,労働基準法に基づき未払時間外手当等と同額の付加金の請求権を有する。

エ これに対し,被告は,評価給が法所定の割増賃金に代えて一定額の手当として支払われていた旨主張するが,被告の就業規則及び本件賃金規程には,評価給について時間外労働割増賃金が含まれていることの記載はないし,被告と原告らを含む従業員との間で一定額の割増賃金を支払うという労働協約も締結されていない。みなし協定を締結していないにもかかわらず,評価給にみなし割増賃金を含めるのは違法である。また,被告は,法所定の割増賃金に代えて一定額の手当が支払われる限りは労働基準法37条所定の計算方法を用いなくてもよいと主張するが,判例は,「通常の賃金部分から計算した時間外・深夜割増賃金との過不足額が計算できること」というように限定的に解しているのであって,被告における「評価給」のように,時間外手当等の部分と評価部分との区別が明確になっていない場合において同条所定の計算方法を用いない計算方法は違法である。

(被告の主張)

ア 労働時間とは,「労働者が使用者に労務を提供し,現実にその指揮監督下にあって,拘束支配を受けている時間」をいうところ,原告らが主張する時間外労働には,被告の明示又は黙示の命令もなく,法令で義務付けられたものではなく,当該作業を行うために必然的かつ通常必要とされるものでないものが含まれており,さらに休日労働時間には休憩時間が含まれている(具体的には,原告X1について,平成20年4月30日,同年9月22日,同月29日,同年10月15日,同月28日,同年11月4日,同月6日,同月26日,同月27日,同年12月1日,同月15日,同月22日,平成21年1月6日,同月13日,同月15日,同月26日,同年2月17日,同月23日及び同月24日の分並びに原告X2について,平成20年9月24日,同年10月15日,同年11月17日,同年12月9日,同月16日,同月24日及び平成21年1月12日分の休日出勤において取得しているはずの1時間の休憩時間が含まれている。)。被告では,従業員が時間外労働及び休日出勤をする場合,時間外労働申請書に事由を記載して所属長に提出し,所属長が確認した上で要否を判断し,必要なものに対して許可を与える運用を行っていた。そのため,原告X1の時間外労働時間は,別紙5(証拠<省略>)のとおりであり,原告X2の時間外労働は,別紙6(証拠<省略>)のとおりであるから,原告X1について時間外労働時間中64時間23分,時間外深夜労働時間中7時間25分,休日時間外労働時間中3時間が,原告X2について時間外労働時間中42時間46分,休日時間外労働時間1時間45分が不当に算入されている。

イ また,「評価給」は,実際上は,もっぱら法所定の割増賃金に代わる一定額の手当として支払われる運用がなされていたものであり,原告らを除き,他の従業員から格別の異議は出ていなかった。また,労働基準法37条の割増賃金の規定は,使用者に対し,時間外,休日及び深夜労働について,同規定の基準を満たす一定額以上の割増賃金を支払うことを命じるものであることからすれば,そのような額の割増賃金が支払われる限りは同規定所定の計算方法をそのまま用いなくてよいのであり,法所定の割増賃金に代わる一定額の手当の金額が,労働基準法37条所定の計算方法による算出額を下回る場合であっても,通常の賃金部分と時間外等割増賃金が明確に区別できる場合には,使用者は,通常の賃金から計算した時間外等割増賃金部分との不足額を支払えば足りる。評価給は,定額の時間外手当等の手当として運用されており,通常の賃金と明確に区別されていたものであるから,被告としては,少なくとも,原告らに対する法所定の割増賃金の計算において,評価給を加算しない1時間当たりの残業賃金単価で計算した金額から,既払いの評価給支払分を差し引いた残額を支払えば足りるというべきである。

ウ 以上を前提とすると,原告X1の1時間当たりの残業賃金単価は18万円(基本給)÷161.29(1か月平均所定労働時間)=1116円,原告X2の1時間当たりの残業賃金単価は17万5000円÷161.29=1085円となる。なお,原告X1についての平成20年2月から同年5月までの期間及び原告X2についての同年9月から同年11月までの期間は試用期間であり,1時間当たりの残業賃金単価は1000円となる。

したがって,原告X1が受けるべき時間外手当等は,合計177万7978円,原告X2が受けるべき時間外手当等は合計79万2311円であるところ,原告X1に対する評価給の既払分は56万4975円,原告X2に対する評価給の既払分は18万3094円であり,原告らの主張するとおり,原告らに対しては時間外手当の一部支払及び債権差押えによる支払が行われているから,原告らに対して未払時間外手当等は存在せず,かえって,原告X1について124万2688円,原告X2について36万3403円が過払となっている。

エ 仮に,評価給が法所定の割増賃金に代わる一定額の手当と認められないとしても,評価給は,①本件賃金規程上,売上達成報酬と並んで流動的手当の一つであると規定されており,割増賃金の計算においても売上達成報酬と同様に1時間あたりの賃金に算入されていないこと,②被告において,営業の成果に対する評価分の加算手当として支給するとの運用は行われていなかったものの,営業社員に対してのみ支給されていた手当であり,基本給として割増賃金を計算することは一般従業員と著しく不平等な結果となることから,評価給部分を除いた上で割増賃金額の算定の基礎である時間単価を算定すべきであり,計算式は「(評価給を除く)基本給÷月基本労働時間×時間外等労働時間数」となる。

したがって,この場合でも,原告X1について67万7713円,原告X2について18万0309円が過払となっている。

(7)  争点(7)(未払夏季賞与の請求について)

(原告らの主張)

ア 原告らは,大阪支店在籍中は勤務成績が特段悪いという事情はなく,長野本社での研修期間中の評価基準等については何ら説明がされていないため,本来であれば他の従業員と同等の実績により基本給及び評価給の2か月分の賞与請求権を有する。被告は,平成21年8月28日に平成21年度の夏季賞与を支給したが,原告らに対しては支給していないため,原告X1は,1か月の基本給18万円及び評価給8万5000円の2か月分合計53万円,原告X2は1か月の基本給17万5000円及び評価給6万5000円の2か月合計48万円の夏季賞与請求権をそれぞれ有する。

イ これに対し,被告は,原告らの評価はゼロである旨主張するが,原告らは,賞与の算定期間中の平成20年12月1日から平成21年3月中旬までは大阪店に在籍しており,勤務成績が特段悪いという事情はない。また,同月中旬以降についても,「評価すべき営業成績がない」ということは恣意的主張である。営業社員としての研修期間において,どのように評価するのかという基準や評価内容について,原告らに対して何らの説明がなく,本件組合の求めに対してもいまだに示されていない。

(被告の主張)

被告の賃金規程によると,夏季賞与の算定期間は12月1日から5月31日,賞与の額は被告の業績及び従業員の勤務成績などを考慮して各人ごとに決定するとしているところ,原告らの平成21年2月までの勤務状況は不良であるがために研修を目的として長野本社に配転となったのであり,研修期間においては評価すべき営業成績は存在せず評価はゼロである。さらに,原告らに対しては,研修の成果が上がらないばかりか,その言動によって企業秩序に弊害が生じているために夏季賞与の支給を見送ったものである。なお,原告ら以外にも夏季賞与を支給されなかった従業員は3名いる。

また,被告の場合,賞与は基本給がベースであり,営業部門の従業員でも評価給を加えた金額がベースとなっておらず,また全従業員一律給与2か月分の賞与を支給するということもない。

(8)  争点(8)(原告X1に対する本件解雇の有効性)

(被告の主張)

ア 被告では,原告X1が入社した際に定められていた就業規則を平成21年10月1日に廃止し,新就業規則を定めた。新就業規則は,従前の就業規則をより明確にわかりやすくするため,被告において平成21年6月ころから約半年かけて顧問の社会保険労務士と協議を重ねて作成し,平成22年1月19日に被告従業員に周知するために部署ごとに新就業規則を閲覧させ,従業員から格別の質問や意見が出されなかったことから,同月20日に長野労働基準監督署に新就業規則の届出を行った。被告は,原告X1に対して新就業規則の配布を行わなかったが,新就業規則をすべてボードに貼って掲示しており,内容を確認することが可能であった。

イ 被告は,平成22年1月25日,原告X1を,①勤務成績及び勤務態度が不良で,度々上司に反抗的な態度を取った,②協調性を欠き,他の従業員に悪影響を及ぼした,③服務規程及び禁止事項を遵守せず,被告からの再三の注意にもかかわらず言動が直らず,改悛や改善の姿勢が全く見られなかった,との理由で解雇した(本件解雇)が,これらは,新就業規則23条5号,同条6号及び同条8号に該当するものである。具体的な解雇理由に該当する事実は以下のとおりである。

(ア) 大阪店在籍期間

a 原告X1は,平成20年5月ころ,上司が研修の目的で医師への製品デモに誘った際に,休日であることを理由に断ったこと(新就業規則23条5号及び同条6号)。

b 原告X1は,平成20年10月下旬,製品デモのための機材を事前に準備していないことについて,機材が足りないことについてだけを問題視し,他方,自己が事前準備をしていないことについて軽視するとともに,店舗展示品を上記機材の代用品とすることを拒絶したこと(新就業規則23条5号)。

c 原告X1は,平成21年1月,新入従業員が休日にデモアポイントメント(医院等に対して被告従業員が赴き,被告製品の実演をしつつその説明を行う営業方法。以下同じ。)を取った製品デモの依頼について,休日であることを理由に拒絶したこと(新就業規則23条6号)。

d 原告X1は,被告の顧客への電話を被告従業員で手分けして行うことについて,他の被告従業員が原告X1の担当する顧客へ電話することを拒否したこと(新就業規則23条6号)。

e 原告X1は,自己がメインで行う製品デモについて,サブで同行した被告従業員が資料を手渡す以外の協力を拒絶したこと(新就業規則23条6号)。

f 原告X1は,平成21年3月11日,女性である大阪店の店長に対し,「とことんやったろやないか。」と声を荒げ,被告従業員からの注意を受けたにもかかわらず,罵声を浴びせたこと(新就業規則23条6号,同条8号及び30条1号)。

g 原告X1は,平成21年3月20日,上司である大阪店のA2に対し,「なあA2」と呼び捨てにし,「はあ?何それ。お前話分かってるか?」とお前呼ばわりしたこと(新就業規則23条6号,同条8号及び30条1号)。

h 原告X1が,製品を杜撰に設置したため,顧客から苦情が出たこと(新就業規則23条5号)。

i 原告X1は,製品発注について,2度過ちを犯したが,自己の過ちについて反省せずに,被告従業員に対し乱暴な言葉遣いで文句を申し立てたこと(新就業規則23条5号,同条6号,同条8号及び30条1号)。

j 原告X1は,顧客である医師からの問い合わせについて,追って回答する旨を回答したまま放置したこと(新就業規則23条5号)。

k 原告X1は,製品の設置について,被告従業員から何回も指導を受けたにもかかわらず,それを生かさず,被告従業員に何度も製品の設置についての問い合わせを繰り返したこと(新就業規則23条5号及び同条6号)

以上のとおり,大阪店在籍当時,原告X1には,営業業務を遂行するための協調性に欠け,業務上のミスも多数あり,社会人としての常識も欠如していた。これに対して,被告は,原告X1を懲戒処分とすることなく,大阪店の従業員が原告X1に対して注意指摘することによって,原告X1が被告従業員として能力を発揮できるように努めたが,原告X1には,これを真摯に受け止め,反省し次に活かす姿勢が全くなかったのであり,原告X1の言動は,全体で評価しても新就業規則23条5号,同条6号及び同条8号に該当する。

(イ) 長野本社在籍期間(平成21年4月から平成22年1月まで)

a 原告X1は,平成21年7月1日,被告の研修指導員及び従事した業務にかかわった被告従業員から業務上に関する以下の①ないし③の事項について注意・指導を受けたが,「弁護士に相談する,組合に相談する。」と大声で怒鳴り,受け入れなかったこと(新就業規則23条5号,同条6号及び同条8号)

① 業務従事中は携帯電話を携帯せず,ロッカーに保管すること

② 話を聞く態度及び姿勢並びに話し方が悪く,回りの従業員からも態度が怖いとの苦情が出ていること

③ 研修目的として,チームワーク・協調性を養って欲しいこと

b 原告X1は,平成21年6月に不良品を出し,上司からその点について注意をしたが,その注意について謙虚さ・向上心がみられず,再度,同年8月に不良品を出したため,被告は,原告X1に対し,始末書を作成させた(新就業規則23条5号)。

c 原告X1は,研修において,①自己にできそうもない仕事を受けた場合は文句を言い,言い訳を言ってできないことを認めない,②作業に関して工夫・応用がない,③作業についての説明を聞かず,配布された作業手順書を読まない,④不良品を出す,⑤6か月従事した作業について,他の被告従業員の二割程度しかできない,⑥人の話を聞かない,⑦周囲の被告従業員は効率を上げるよう検討しながら作業しているにもかかわらず,原告X1はのんびり作業をしている,⑧ダイレクトメール作業において従事する他の被告従業員から不満(率先して動く様子がない,作業中の離席回数が多い,片付けを最後までしない,足でゴミをかき集める,重い部材を運ばない,他の従業員に非協力的である)が出た(新就業規則23条5号,同条6号及び同条8号)。

d 原告X1は,平成21年7月以降,①掃除時間に無駄話が多く,②同年10月上旬に長野本社生産技術部従業員A15(以下,単に「A15」という。)と社内報のことで勤務時間中に口論となった,③同月20日ころにA11と社員集会のことで勤務時間中に口論となった,④上記②③のことで,上記2名と同様に始末書の提出を要求したところ,拒否した,⑤被告従業員らに対し,威嚇的な言動を行い,恐怖感を与え職務執行に支障が生じた(新就業規則23条6号及び同条8号)。

e 原告X1は,平成21年12月29日に全体会議におけるA1社長の講演についてのレポートについて,何ら記載せず,業務命令に反した(新就業規則23条8号)。

以上のとおり,被告は,原告X1に対して長野本社研修を受けさせることで従業員として成長してほしいとの判断で長野本社に異動させたが,原告X1の勤務態度及び作業効率は一向に改善せず,被告の他の従業員の業務遂行に著しい悪影響を与えるまで悪化したため,本件解雇を行ったのである。

ウ なお,本件解雇は有効であるから,原告X1の本件解雇後からの賃金請求には理由がないが,被告は,賃金仮払いの仮処分決定に基づいて,原告X1に対して金員を支払っている。

(原告X1の主張)

ア 被告は,新就業規則に基づいて本件解雇を行っているが,新就業規則を,平成22年1月19日に,従前の就業規則との具体的変更点の説明も一切ないまま,一人当たりわずか10分程度で回覧するように指示したのであり,特に原告X1は,閲覧を求めたにもかかわらず理由なく拒絶されているのであるから,実質的な周知手続が行われておらず,新就業規則は無効である。

イ(ア) また,被告が主張する各解雇理由に該当する事実は,そもそも存在しないかあるいは解雇理由となり得ないものである。特に,大阪店勤務時については,原告X1は,一度も特段の注意や処分を受けていない。

(イ) ①被告は,原告X1に対する本件解雇を行う直前に,新就業規則を制定したとして,具体的変更点の説明も一切ないまま,従業員一人当たりわずか10分程度で新就業規則を回覧するように指示したこと,②新就業規則と従前の就業規則を比較すると,解雇事由が多数追加されているとともに,敢えて他の従業員との協調性や上司に対する言動等を問題視する解雇事由が追加されていること,③新就業規則の閲覧を求めた原告X1の申し入れを理由なく拒絶したこと,④敢えて第1事件である本件配転命令無効確認等請求訴訟の係属中に原告X1に対する本件解雇を行ったこと,⑤原告X1を長野本社に配転した後,原告X1に対する退職勧奨行為を継続的及び組織的に行ってきたこと等からすれば,本件解雇は,原告X1を排除することを目的として行われたものであり,客観的合理性及び社会的相当性が存しないことは明らかであり,解雇権濫用である。

(ウ) 本件解雇は,普通解雇として行われているが,実態としては懲戒解雇に他ならないものであるところ,普通解雇であれ懲戒解雇であれ,解雇は,究極的な処分なのであるから,より軽度な処分を行った上で真にやむを得ない事情がある場合に限って許されるというべきであり,このような手続を欠く以上,手続的違法があり,無効である。

ウ 以上のとおり,本件解雇は,違法無効であり,原告X1は,現在も被告の従業員である地位を有している。そして,原告X1の賃金は,「基本給」が月額18万円,締切日が毎月月末,支払日が毎月15日であるから,原告X1は,被告に対し,毎月15日限りでの少なくとも月18万円の賃金請求権を有する。

被告は,原告X1に対し,平成22年7月15日,賃金仮払いの仮処分決定に基づき,それまでの各支給分について支払を行っているが,各支給分について支給日に支払われていないことによる遅延損害金が付されておらず,その合計額は8824円となる。

(9)  争点(9)(本件解雇に関する不法行為について)

(原告X1の主張)

被告による違法な本件解雇により,原告X1は,突然働く権利を奪われるとともに,健康保険被保険者資格を喪失し,国民年金保険に入らざるを得なくなり,厚生年金保険に関しても,被保険者資格を継続させて掛金を支払わなければ将来の年金給付に大きな影響が出てくることになった。また,原告X1は,本件解雇によって,そのわずか数日後に被告から賃借していた社宅を退去せざるを得なくなり,急遽,実家のある大阪府に転居することを余儀なくされ,生活の安定を著しく害された。

また,本件解雇の通告時,A1社長や従業員が,原告X1に対して,嘲笑しながら拍手するなどし,原告X1の人格権及び名誉権を著しく侵害した。

以上の,被告による違法無効な本件解雇及び本件解雇通告時の不法行為により,原告が被った精神的損害を慰謝するに足りる金額は,500万円を下らない。また,本件訴訟を提起するにあたって弁護士に依頼する必要があるところ,その費用は,50万円を下らない。

(被告の主張)

本件解雇は正当なものであり,健康保険や厚生年金保険は,制度上のことであるから,本件解雇とは無関係である。また,解雇された以上,被告の社宅から退去するのは当然であり,不利益が生ずるものではない。また,被告が原告X1に貸与していた社宅は,家電・家具付アパートであるため転居は容易であり,さらに,被告は,転居に際して支度金6万円を支給し,原告X1の生活に支障がないように配慮している。

また,本件解雇通告時に,A1社長及び被告従業員が原告X1の人格権及び名誉権を著しく侵害するような行為を行ったことについては否認する。

第3当裁判所の判断

1  証拠および弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる(なお,被告は,甲号証の各証拠のうち,録音物について,編集等がなされている可能性があり,録音機器の本体を解析する必要があるとしてその信用性を争い,日本音響研究所作成の意見書(証拠<省略>)及び鑑定書(証拠<省略>)を提出するが,上記各録音物には,その内容として特段不自然な部分は見当たらず,また,上記鑑定書において編集の可能性があると指摘されている部分は,いずれも録音内容自体とは無関係な部分といえることから,上記各録音物について信用性が認められる。)。

(1)  本件社長ミーティングの概要について(証拠<省略>,弁論の全趣旨)

ア 平成21年3月4日午後6時30分ころ,A3及びA9が主導して会議が行われ,同日午後8時ころ,A1社長が到着し,A1社長が,飲食をしながら会議を行うことを指示し,同日午後8時30分ころから,A1社長が主導して,被告の販売戦略や大阪店の問題点等について会議が行われた。

イ その後,同月5日午前0時ころ,大阪店の当時の店長であるA16(以下,単に「A16」という。)が大阪店の従業員であるA17(以下,単に「A17」という。)に対して発言を促し,A17が発言したところ,A1社長及びA9から声が小さいと指摘され,その後,A1社長が,大阪店の元店長であるA18(以下,単に「A18」という。)に対して,一番の古参であるのに一言もしゃべっていない旨述べ,「だから大阪店はダメなんだ。」などと怒鳴るようになった。その後,A1社長は,もっぱら,A16,A18及びA2を対象として罵声を浴びせ,「長野本社に来い。」,「クビにする。」,「馬鹿野郎」,「この野郎」等と発言し,A18及びA16をリーダーとして大阪店を運営していくことについて大阪店従業員の意見を聴いたところ,大阪店従業員が,概ね「大阪店が変わっていくために,A18及びA16を替えて欲しくはない。」との意見を述べたところ,A1社長が,「現状のままでいいということは楽して甘えたいだけだ。」などと激高し,「入れ替える。」,「大阪店従業員は全員帰れ。」等述べたことから,大阪店従業員が帰ろうとした。これに対して,A2が「帰れと言われたら帰るのか。」と述べて大阪店従業員を制止したところ,原告X1が「今,どうしたらいいのかわからない。」などと述べ,その後,A1社長に対し,「以前の大阪店での話合いの中で,大阪店のダメなところは,A16,A18及びA2の3人だけで他の従業員を無視して決めてしまい,意見を言いにくい環境にあるということになり,これからそのような環境を変えていこうという話になったから,現状でメンバーを替えない方がいいと考えている。」との意見を述べ,他の大阪店従業員ももう一度会議をやらせて欲しい旨述べた。これに対し,A1社長は,「会議に参加させるつもりはない。」,「帰れ。」などと述べていたが,大阪店従業員を中心にもう一度会議をすることになった。その場では,大阪店の営業方法などについて大阪店従業員から意見が出たが,途中からA1社長が「大阪店全員一致の話しか出ない。」などと激高しだし,意見を述べるように促したA17や大阪店従業員であるA19(以下,単に「A19」という。)が発言したのに対し,罵声を浴びせたり怒鳴りつけたりし,A16に対して,A17,A19及びA18と一緒に大阪店でやっていきたいと述べた原告X2をクビにするように命じたり,A16,A18及びA2に対しては「長野本社に行け。」,「クビにする。」などと述べ,「A18とA16を替える。」,「大阪店を閉める。」などと述べ,「自分自身に素直になれ。」,「屁理屈を言うな。」,「分かってないのか。」などと述べた。

ウ これに対し,原告X1が,同日午前3時ころ,A1社長に対し,「意見を素直に伝えたつもりだが,帰れと言ったり解任だと言ったり同じ話が何回も繰り返されている。時間も時間であるし,医院訪問のデモアポイントメントも控えているから,早く方向性を決めてもらいたい。」旨述べた。A1社長は,「それなら原告X1だけ帰ればいい。」などと述べ,A9が「大阪店をどうするかという会議の中で,早く帰りたいからさっさと方向性を決めて欲しいなどと原告X1が述べるのはおかしい。」旨原告X1を責めたのに対して,原告X1は,「そのような意味で言っていない。」などと言い,原告X1とA9との間で言い合いとなった。A1社長は,原告X1を責めつつ,このような雰囲気を作っているA16,A18及びA2の責任であるなどと述べ,原告X1に対して長野に来るように述べた。これに対して,原告X1が理由のない転勤命令であるから拒否すると述べたところ,A1社長は,「社長である自分の命令に従わないのか。」などと述べ,原告X1との間で言い合いになり,転勤を拒否するならば解雇すると述べたところ,原告X1が不当解雇であると反論した。

エ その後,A1社長が,原告X1に対して「とにかく帰れ。」と述べたことから,原告X1は同日午前3時30分ころタクシーで帰宅した。その後,A1社長は,基本的にはA18が悪いなどとA18を責め,また,A17の態度が悪いなどと責めたところ,A3がA17の座り方が悪いなどと責めた。その中で,A2が「大阪店のネックは原告X1である。」などと原告X1を責める発言をしたが,その他に特に原告X2の勤務態度や本件社長ミーティングでの態度等について責めるような話題は出ず,A1社長は,A16,A18及びA2を責めて長野に転勤させるなどと述べ,また,A19の発言を責めるなどし,大阪店を全部入れ替えるなどと述べ,同日午前4時ころ本件社長ミーティングは終了した。

オ 本件社長ミーティングのうち,同日午前0時ころ以降のものは,全体として,酒に酔ったA1社長が,大阪店の問題点としてもっぱらA16,A18及びA2を槍玉に挙げて同人らを辞めさせる,長野本社に転勤させるなどと述べた上で,大阪店従業員に大阪店についての意見を述べさせ,それが自分の意に沿わないと「馬鹿野郎」,「この野郎」などと罵詈雑言を浴びせ,また,長野本社への転勤や解雇を行うという発言を繰り返して怒鳴るという内容のものであり,大阪店の従業員の中では特にA16,A18及びA2が標的となっている。また,全体として大阪店の問題点が話題となっているところ,原告X1及び原告X2については,A2が原告X1の勤務態度について若干言及した(ただし,これに同調して原告X1の勤務態度等を責めるような発言をした者は他にいなかった。)他は,A1社長,A3やA9ら被告幹部及び大阪店従業員のいずれからも勤務態度に問題があるというような話は出ず,本件社長ミーティングにおける態度についても特段注意されることもなかった。特に,原告X1は,本件社長ミーティングにおいて,大阪店のメンバーを替えるなどと述べていたA1社長に対して,「大阪店では,他の大阪店従業員の意見を無視してA16,A18及びA2だけで独善的に決定していたところがあったが,大阪店でのミーティングでその点が問題点として意識され,変えていこうと話し合ったばかりだから,現時点でメンバーを替えないで欲しい。」などと比較的積極的に異論を述べているが,同日午前3時ころからA1社長と言い合いになるまでは,特に原告X1の普段の業務態度等を問題視するような話は出ず,上記言い合いの末に原告X1が帰宅した後も,特段原告X1の普段の勤務態度等が話題にされることはなかった。

(2)  本件社長ミーティング後,本件配転命令に至るまでの経緯について

ア 原告X1について(証拠<省略>,原告X1本人,弁論の全趣旨)

(ア) 原告X1は,平成21年3月5日午前,A3及びA16との面談を受け,同日午後,A9との面談を受け,いずれからも原告X1が被告に合わないのではないかなどと退職勧奨を受けた。

(イ) 大阪店では,平成21年3月11日に朝礼が行われたところ,本件社長ミーティング後の同月6日の大阪店での朝礼時に退職の意思を示したA19が大阪店に現れ,当時の大阪店の店長であったA20(以下,単に「A20」という。)に対して自分の思い等を述べ,主としてA18がその応対を行っていたところ,A18がA19に対して「本件社長ミーティングにおいてパワハラはなかった。」旨発言し,これに対して,原告X1が,A18に対し,「パワハラはあったやないか。」と言った。これに対して,A18が「場所を変えよう。」と述べたことから,原告X1は「やったろうやないか。」などと発言した。

(ウ) 被告において総務部全体の仕事を行っていたA21(以下,単に「A21」という。)は,平成21年3月13日,A1社長から原告X1を長野本社に呼び出して面談するから連絡するように言われ,その旨の連絡を行った。原告X1は,平成21年3月18日,長野本社において,A3及びA9との面談を受け,本件社長ミーティングにおいてA1社長のパワーハラスメントがあったと考えていること,大阪店での同月11日の朝礼においては,パワーハラスメントがあったのは間違いないのにそれがなかったのはどういうことかとA18に言ったものであり,その他に,パワーハラスメントに負けないで頑張ってやっていこうと発言したものであることを話したと説明したところ,A3及びA9から,本件社長ミーティングにおいてパワーハラスメントがあったなどと捉えている原告X1は被告の中で考え方が合わないのではないかなどとして退職勧奨を受けた。原告X1がこれを拒否したところ,A4が面談に加わり,原告X1が被告の社風やA1社長のやり方と合っておらず,これを学ぶために長野本社に転勤する必要がある,これを断った場合には退職してもらうとして,同月23日から長野本社で勤務するよう通告された。

イ 原告X2について(証拠<省略>)

(ア) 原告X2は,平成21年3月14日,長野本社においてA3及びA10の面談を受けた。面談では,当初,将来的な転勤の可能性についての話があり,原告X2が,大阪店での就業を前提として被告に就職しているが,将来的な転勤があり得るとしても,家族の問題等があって現時点では近くでの転勤でなければ難しいと思うなどと話していたところ,原告X1についての話題を振られ,意見を求められた。原告X2が,原告X1の経験やそれまでの勤務態度及び大阪店のミーティングで決まった大阪店の雰囲気を変えていこうという点について原告X1が積極的に行動していること等から,原告X1が大阪店に必要な人材である旨述べたところ,A3及びA10は,原告X1が被告の在り方と根底的に相容れない存在ではないかと強調し,原告X2が,それでも原告X1が必要な人材であると述べたところ,A3及びA10が中座し,その後,同人らは,原告X2に対し,長野本社に即時転勤となった旨述べた。原告X2が,家族の問題もあり,被告への入社時に基本的には転勤はないと言われたなどとして長野本社への転勤を拒んだところ,A3及びA10は,原告X2に対し,執拗に退職強要した上,退職願への記入を強制した。

(イ) その後,原告X2は,平成21年3月16日の給料日に給与が振り込まれなかったことから,A20に確認したところ,A20からは,A1社長が長野本社まで来れば支払うと言っていると言われ,同月18日,長野本社に給与の受取に出向いたところ,A3及びA9から,転勤を拒否するのであれば被告の命令に背いたことになるから退職してもらう旨言われた。原告X2は,これに対し,家族とのことなど検討しなければならない事もあり,今日は給与を受け取りに来ただけだから,給与を受領して帰らせて欲しいと述べたところ,A3及びA9から,この場で結論を出せるはずだ,この場での話に応じなければそれ自体が命令違反であるなどと言われ,最終的に,被告において総務部全体の仕事を行っていたA21が間に入って,検討に要する期間等を明確にすることになり,その場が終了した。

ウ 原告X1は,平成21年3月19日,本件組合を通じて被告に対して団体交渉を申し入れたところ,A4から,原告らに対し,団体交渉に決着がつくまで自宅で待機していてもいいとの連絡があった。原告らが同月20日に出勤したところ,A20は,原告らに対し,作業指示に従わなかったことにより業務運営上の支障があるとして自宅待機を命じた。そこで,原告らが,A20,A2及び長野本社から大阪店に応援として派遣されていた従業員であるA22との間で話合いを行い,上記作業指示の内容を確かめたところ,作業指示自体が存在していないことが確認された。この話合いの中で,A2が,本件社長ミーティングでパワーハラスメントはなかった,原告らはA1社長の発言を断片的にだけ捉えている旨発言し,これに対して,原告X1が「A2,お前分かっているか。」と発言した(証拠・人証<省略>,原告X1本人,弁論の全趣旨)。

エ A1社長は,上記団体交渉の申入れの後,A21に対し,原告らの暴言や威圧的態度等について報告書(時系列に従った一覧表)の作成を指示し,聴取を行う従業員についても指定した。A21が従業員から聴取を行った結果,原告らについて暴言や問題行動等と思われることはなかったが,A21は,指示どおりの報告書を作成しなければ自分が標的にされると考えて,A1社長の指示に沿った報告書を作成した。上記報告書は,平成21年4月6日に行われた本件組合と被告の団体交渉でも使用された(証拠・人証<省略>)。

オ なお,被告は,平成21年4月10日付けA4名義の「自宅待機解除に対する回答書」において,原告らに対する本件配転命令の理由について,本件社長ミーティングでのA1社長の言動について否定的なとらえ方をしたのが原告らだけであることを挙げている(証拠<省略>)。

(3)  本件配転命令後,本件社員集会に至るまでの経緯等について(証拠・人証<省略>,原告X1本人)

ア 被告は,原告らが長野本社に転勤になった後,原告らの居住先として,当初は2名1室で長野市内のビジネスホテルを用意し,その後,1週間ごとに被告の指定するホテルを宿泊先とし,平成21年5月11日からはcマンションの2部屋を備えている部屋が宿泊先とされ,本件和解後にようやく原告らに対してそれぞれ個室のアパートが社宅として用意された(争いがない)。これらのホテルは,A1社長の指示で手配されたものであり,A1社長は,A21に対し,原告らに2名1室の部屋を割り当てることについて,もともと原告X1と原告X2は仲がいいわけではないから,四六時中一緒にいさせれば仲違いするだろうからそれが狙いであると説明していた。

イ 平成21年4月27日以降,原告X1が長野本社ビル○階の「待合室」の一室を作業場所として一人で作業することを命じられ,また,昼食を食堂でとることを禁止されたのはA1社長の指示であり,A1社長は,原告X1を上記「待合室」に移すのに先だって,原告X1と原告X2や本件組合との連絡を妨害するために,総務部の従業員に対し,上記「待合室」付近に携帯電話の電波を妨害する装置を置くことを指示していた。また,原告X1が,平成21年5月ころ,パワーコードの戻り品について消毒拭き取りをする作業について,パワーコードの臭いやアルコールの臭いで頭が痛い旨を日報に書いたところ,A1社長が,本当に体調を悪くして病院に行かれると刑事事件等の問題になるかもしれないから部屋だけでも替えるか,このまま放置して弱らせた方がいいかなどと話していることがあった。

ウ A1社長は,平成21年5月11日,原告らを定時に退社させた後,長野本社に出勤していた全従業員を集めてミーティングを開き,原告らについて「更生させるために先日より本社に来ている。更生は,少年院とかに入るのと同じ更生だ。」,「二人(原告ら)は,会社(被告)に金を要求してきた。」,「(原告X1は)貧乏な家庭に育って金に執着している。」,「今の世の中では,社会正義のような組合活動なんてあり得ない,組合の目的も金だ。」,「(原告らに被告を)辞めてほしいが辞めない。」と述べ,「同じ従業員という立場の皆の署名と(原告らの行動がおかしい,辞めてほしいとの)レポートを原告らに突きつけたい。その際に,皆で募金を集めてそれを渡し,「辞めてくれ」と言ってもらいたい。同じ仲間である従業員から認められなければ辞めると思う。同じ立場の従業員が辞めてほしいと言っても退職強要にはならない。」と指示を行った。

エ A21は,平成21年5月15日,被告の原告らに対する対処内容や上記同月11日のミーティング内容に耐えかね,同じく総務を担当していた被告の従業員であるA23とともに原告らを食事に誘い,上記ミーティングの内容や総務部で見聞きした原告らに対する対応について伝えた。

オ 被告では,平成21年5月18日午後,従業員に対して氏名を記載する用紙が回覧され,署名するように指示が出された。その後,A1社長は,同日午後2時30分ころ,各部署の代表者を集めて「要望書」という文書を配布して「未だ下書きなのでこれから修正するが,何かあれば意見を出してほしい。それからちゃんとした物を作る。」と説明し,また,「午後5時45分ころに二人(原告ら)を呼んで全員で手渡す。二人を取り囲んでヤジを飛ばせ。怒りをぶつけろ。」と指示を行った。

同日午後6時ころから始まった本件社員集会では,集会の様子が被告の取締役などによってビデオ撮影され,A1社長の他被告の幹部も参加しており,A5,A7,A11などが原告らを罵倒するなどした。

カ 被告従業員であるA24は,平成21年5月19日,原告X1に対して,本件社員集会のようなことを少人数で「ローテーション」で継続するとの指示が出ていることを伝えた。

(4)  原告らの研修作業について(原告らが実際に従事していた作業内容については争いがなく,その余の事実については,証拠・人証<省略>,原告X1本人及び弁論の全趣旨により認められる。)

被告が原告らに対して「研修」として指示していた作業は,当初については携帯ストラップの袋詰め,戻り品の解体,清掃及び再梱包,商品へのシール貼り,取扱説明書の折畳み,返送ダイレクトメールの仕分け等であり,鉄板に貼り付けたシールを剥がし,残った糊を臭いのきつい溶剤で落とすという体調不良を起こしやすい作業を何日も続けて行わせることもあった。その後,原告らは,製品製造作業に従事(原告X2については,長野本社営業部に異動となる平成21年7月28日まで)しており,原告らの作業場所は,原告らだけが他の従業員と離され壁に向かう席であった。また,原告X1については,被告の業務命令により,月に数回行われるダイレクトメール発送作業にも従事するようになった。なお,被告の生産技術部において原告らに対して作業指示を行っていたA5は,生産技術部従業員に原告らにやらせる仕事,特に時間がかかる仕事はないかと頻繁に聞いて回っており,A1社長は,原告らについて「研修と称せば何をやらせたっていいんだ。」などと発言していた。

なお,原告らは,被告に対して,「研修」と実際の作業内容の関連性や研修計画等について繰り返し質問していたが,被告からは本件和解に至るまでこれが出されることはなかった。

(5)  A1社長から長野本社従業員に対して出されていた原告らに関する指示について(証拠<省略>,弁論の全趣旨)

A1社長は,平成21年5月25日から同年11月20日までの間に,長野本社従業員に対して,本件仮処分については到底事実とはいえないような内容を含め原告らについて悪印象となるような電子メールを送信したり,また,原告らが話しかけてきても一切無視すること,原告らを昼休みの様子やトイレの中に至るまで監視し,その言動について逐一報告すること,原告らについて不利となると考えられる話をA1社長まで報告すること等を電子メールによって指示したりしていた。

(6)  Webカメラ等の設置状況について(乙80,ほか証拠・人証<省略>)

原告X1が平成21年5月25日に長野本社プレハブ建物○階作業フロアに戻された後,原告らに向けて原告らの席の間近にビデオカメラ2台とWebカメラ1台が設置された。その後,原告らが本件仮処分命令申立事件において原告らを監視するカメラの撤去を求めたところ,原告らの間近に設置されていたカメラは撤去されたが,本件和解の前日である同年8月2日までには,別紙7(証拠<省略>添付の別紙1。以下,同じ)のとおりにWebカメラが設置され,本件和解後は,Webカメラについて大きく位置は変動していない(なお,原告X1は,別紙7記載の開発部署トイレ側のWebカメラが同年9月から原告X1側に少しずれて設置されていると陳述する(証拠<省略>)が,Webカメラの設置状況を撮影等した乙80号証からすると,別紙7記載の位置から上記開発部署トイレ側のWebカメラの位置が殊更に変えられているとまではいえない。)。

被告は,従前から長野本社の各階の各所にWebカメラを設置しており,これらのWebカメラは被告従業員のうち少なくとも総務部の人間であれば自由にアクセスすることができるものであった。

(7)  平成21年7月1日の原告X1と被告従業員らとのやりとりについて(証拠<省略>,弁論の全趣旨)

原告X1は,同日,業務時間中にA4から食堂に呼び出されたところ,食堂にはA4の他にA6,A14,長野本社資材部次長A25(以下,単に「A25」という。),A5,A7,長野本社生産技術部従業員A26及びA15がおり,A4から,原告X1の研修内容について評価する旨告げられた。その後,原告X1は,上記従業員らから,業務時間中に電源を切った携帯電話をロッカーに入れずに所持していたことが就業規則違反である旨非難された(なお,原告X1に手渡されていた「本社研修の確認書」(証拠<省略>)には,業務時間中の携帯電話の使用禁止については記載されており,「私物は所定のロッカーに入れてください」との記載はあったが,携帯電話の所持の禁止は記載されていなかった。)。原告X1は,さらに,「協調性がない。」,「A25次長から仕事を受けるときの態度は何だ。」,「A25次長が恐怖を感じた。」(なお,原告X1は,同日,A25からされた初めての作業指示として部材の袋詰め作業を指示されているが,そこでの原告X1とA25との対応は,特に問題のあるものではなかった。),「大阪店は,あんたがいなくなって売上が上がった。」等と次々と罵倒され,原告X1が何か発言するとさらに怒鳴りつけられる状況が続いた。原告X1が,全く話し合いにならない,業務時間中であるから席に戻るとして,食堂から出ようとすると,「業務命令だ,逃げるな。」「座れ,話をしろ。」などと一斉に怒鳴られた上で食堂出入口付近において取り囲まれる状況が続いた。

(8)  平成21年7月2日の原告X2と被告従業員らとのやりとりについて(証拠<省略>,原告X2本人)

原告X2は,同日にA4,A6及びA7から腰痛の件について話を聴かれる際,原告X2が主張していた腰痛の内容と検査及び原告X2が通院していた整骨院の回答とが異なる,原告X2が詐欺を行っている,刑事告訴するなどと,4時間弱にわたって上記3人から責められ続け,原告X1から,原告X2がA4から呼ばれて行ったきり戻ってこないとの連絡を受けた本件組合のA8が状況確認と抗議の電話を入れたことで上記やりとりは終了した(なお,被告は,原告X2の腰痛に関する言動と検査や通院していた整骨院の回答が異なっていることについて確認しただけであり,脅迫等は行っていない旨主張し,A6の陳述書(証拠<省略>)及びA6の証言にはこれに沿う部分がある。しかし,上記のような違いについて確認するだけで4時間弱の時間がかかるとは到底考えられず,また,同日中に本件組合が被告に状況確認と抗議の電話を入れているという状況とも齟齬していることから,上記A6の供述等は信用できず,上記被告の主張は採用できない。)。

(9)  平成21年8月1日に行われた被告の全体会議に関するやりとりについて(証拠・人証<省略>,原告X1本人)

被告では,長野市で毎年8月に行われる「○○祭」に会社として参加しており,被告従業員は「○○祭」については自主参加とされているものの,通例として全員が参加しており,「○○祭」の前に行われる被告の全体会議については,通常出勤扱いとされ,欠席した場合には欠勤扱いとされていた。原告X1は,同年7月31日にA4から「○○祭」についての出欠を問われた際,全体会議には出席を希望するが「○○祭」には参加しないと伝えたところ,A4からは全体会議も自主参加扱いであり,全体会議の開催は流動的で未定である旨説明された。その後,原告X1は,A4から,全体会議は中止になった旨の連絡を受けたことから,原告X2とともに同年8月1日に被告へと出社しなかったが,実際には,全体会議についてすでに被告長野本社総務部のA27が全体会議の手配等を従前から行っていて,原告ら以外の従業員には1週間前までには詳細なタイムスケジュールが周知されており,全体会議の中止が検討されたということもなく,現に当日に全体会議が行われていた。被告では,原告らが全体会議の開催を聞きつけて出席するようなことがないように,従業員に長野市内や長野駅周辺を巡回させて見張らせることもしていた。

(10)  本件和解後の被告における社内報の取扱いについて(証拠・人証<省略>)

被告は,原告らに対して社内報の閲覧をさせていなかったところ,本件和解により,原告らに差別的取扱いをしないことの一環として,「債権者ら(原告ら)以外の全従業員が閲覧することができる日報等を債権者らのみに閲覧させないこと」をしないとの義務を負っていたが,本件和解成立後の平成21年8月3日から同月7日までの間,原告らに対して社内報を一切閲覧させておらず,その後は,原告らに見せるために内容が簡素な専用社内報を作成し,原告らに対してはそれのみを見せ,その他の従業員が見ることができる一般用の社内報は閲覧させなかった(なお,A6は,元々試用期間中の新入社員用に作成した社内報があり,原告らに見せていたのはそれであって,原告らに対してみせるための専用の社内報を作成したわけではない旨証言するが,社内報に関する窓口となっていたA4の証言とすら齟齬するものであり,信用できず採用できない。)。

(11)  平成21年12月29日に行われた全体会議について(証拠<省略>,原告X1本人,弁論の全趣旨)

原告X1は,上記全体会議について,前日である同月28日になっても日程等が明らかにされないことから,A4及びA6に対して,年末の予定もあるので,全体会議の日程等が明らかにならないと参加できないかもしれないと伝えたところ,A4から全体会議のタイムスケジュール(午後2時15分から全体会議が開始され,午後5時45分に全体会議を終了し,その後,午後6時30分から忘年会を開始するというもの。)を渡された。原告X1は,同日の夜に他の予定がすでに入っていたため,全体会議のみ出席して忘年会には欠席することとし,A4に対して,何か問題が生じた場合にはすぐに帰宅すること及び問題が生じた場合には被告の責任で対処すべきことをA4に伝えて確認し,同日の日報にもその旨記載した。

原告X1が,同月29日に長野本社に出社すると,机の上に書面が置かれており,当初のタイムスケジュールとは異なり,19時30分までが定時である旨が記載されていた。

上記全体会議では,まず,各部署のリーダーがマイクステージで話をした後,14頁のレポート用紙が配られ,そのうち13頁までには被告で社長語録といわれていたA1社長のこれまでの発言内容が記載されており,下部がレポート記入欄になっていたが,14頁目には「裁判について各自の感想(みんなが働きやすい職場にするために)」,「会社側の言い分に賛成の方は右の四角にレ印を入れて下さい。」と記載され,中程がレポート記載欄となっていた。A1社長は,上記社長語録について,それらの内容に関する話をしていき,A1社長の話が終わったところ,A6が,マイクステージに上がって「裁判の経緯をご説明します。」と話を始め,本件配転命令についての裁判では,裁判官が会社の転勤命令が正当であると認めた,時間外手当等支払請求について,原告らが請求しているのが1000万円の損害賠償であり,その内訳はやってもいない残業代や夏のボーナスが300万円,苛めを受けたとの慰謝料が700万円であり,被告としては皆が働いて稼いだ金からは一切支払うつもりはない,裁判の次回期日が2か月半後となったのは原告らの代理人からの要望であり,負ける可能性があると考えているからではないかと思うなどと発言した。その後,A6が,従業員らに何か質問はないかと切り出し,従業員らが次々と手を挙げて原告X1を罵倒し,発言が終わる度にA1社長が拍手し,従業員らが拍手するという状況が続いた。

その後,原告X1は,上記全体会議が終了したため,他の予定のために急いで帰路につこうとしたところ,A1社長からレポートを提出するように直接指示されたことから,レポートを記入する場所を探して移動しようとしたが,A1社長ら約10名が原告X1に付きまとって話しかけ続け,さらに原告X1がトイレにはいると被告従業員がトイレをノックするなどし,さらに原告X1がトイレから出てロビーに向かう間もA1社長らが付きまとって話し続け,ロビーに着くと皆が見ている前でレポートを記入することを促され,原告X1が書くことができないでいると,A1社長が,白紙のままでいいとして,作成のための時間を求める原告X1から白紙のままのレポートを取り上げようとしたため,原告X1がレポートの最終頁である14頁をとって白紙のままで提出した。

(12)  本件解雇時の状況について(証拠<省略>,原告X1本人)

原告X1は,平成22年1月25日,A4及びA6に長野本社の食堂に呼び出され,A1社長ら10数名が着席していたテーブルのすぐ隣のテーブルに着席させられた上で,本件解雇の通知を読み上げられた。その後,A1社長らは,原告X1に対して,拍手喝采しながら嘲笑した。

(13)  評価給についての被告の説明について(証拠・人証<省略>,弁論の全趣旨)

ア 被告財務部長でありA1社長の妻であるA28(以下,「A28財務部長」という。)は,平成20年11月7日,A16に対し,大阪店従業員に対する給与内容の説明として「営業職は,「基本給」+「評価給」となっております。この評価に当たっては,現在①店舗及び個人の売上高,②出勤状況(遅刻,早退,欠勤,時間外勤務),③本人のやる気(日々の日報のコメントも参考にしています。),④その他などを総合的に判断して行っております。」,「休日出勤に関しましては,時間外勤務の延べ時間数の中に反映され,評価要因の一つとはなっておりますが,時間=評価とはなりません。」と記載された電子メールを送付し,原告X1も上記電子メールの送付を受けた。

イ 被告は,被告従業員に対し,平成21年1月5日付けで「給与体系についてのお知らせ」として,営業職の給与が「基本給」+「評価給」となっているところ,これは,営業が時間を多く費やしたからといって結果が出るものではないため,すべて結果を基に出勤状況や本人の向上心などを総合的に評価して行っているものであり,時間外勤務は評価の一つの要素ではあるが,給与には連動していない,技術系従業員には暫定的に時間外手当を付けていたが,営業職員との間で大きな不平等が生じており,近々営業と同じ給与体系としたいと考えている旨の通知を行った。

ウ 被告は,平成21年4月23日,本件組合との団体交渉において,時間外の時間を評価して,評価給に含めて支給する,評価給に含まれる時間外は毎月変動すると説明していたが,同年7月7日の団体交渉では,評価分及び売上分と併せて時間外手当として評価給を支払っていると述べるようになったものの,評価給に含まれる時間外手当の時間については明らかにしなかった。

なお,長野本社総務部では,同年5月8日,本件組合から団体交渉で評価給と時間外手当について質問が出ていたことから,評価給の中の時間外手当の割合を決めなければならないとの話が出ていた。

エ その後,被告は,本件訴訟の平成21年12月1日付け第一準備書面において,評価給は,法所定の時間外手当等に代わる一定額の手当及び営業成績の評価分の加算として支給されていたと主張するようになり,同月18日の本件組合との団体交渉では,評価給には時間外手当45時間分を含むと回答するようになり,第2事件に係る平成22年10月15日付け反訴状において,評価給は,実際には時間外割増賃金の固定ないし定額残業代の支払いを内容とする運用をしていたと主張するようになった。

(14)  被告における休日出勤について(証拠<省略>)

被告では,従業員に対して,週休2日のうち少なくとも1日を「自由出勤」として出勤することを奨励していたが,この「自由出勤」には何らの手当も付かず,かえって「自由出勤」をしない従業員をやる気がないものとして評価を下げるなど不利益に扱っていた。

(15)  なお,証拠<省略>の各陳述書等及び被告申請の各証人の証言には,上記認定事実に反する部分があるが,いずれも相互に矛盾するものや証拠<省略>で提出されている各録音内容と矛盾するものであるから,信用性がなく採用できない。

2  上記前提事実及び認定事実に基づき,本件の各争点について判断する。

(1)  争点(1)について

被告の就業規則8条には「会社は,業務上必要がある場合は,従業員の就業する場所又は従事する業務の変更を命ずることがある。」と包括的な配転命令権について規定されているが,原告らは,大阪店では別途就業内容が定められていたこと及び被告が原告らに対して就業規則及び本件賃金規程に定められた時間外手当等を支払ってこなかったこと等から,被告自身が就業規則を無視した取扱いをしており,就業規則が有名無実化していたから,本件配転命令の根拠とはなり得ない旨主張する。

しかし,大阪店において定められていた就業内容としても「人事異動」として「会社は,業務上必要がある場合は,従業員の就業する場所または従事する業務の変更を命ずることがある。」と定められている(証拠<省略>)上,就業規則は,被告と原告らの労働契約の内容をなすものであって,被告が個別の規定に反した場合には労働者である原告らがその履行を求める又は義務違反を主張することができるとしても,被告が個別の規定に反しているからといって,就業規則が当然に無効となるものでないことは明らかである。

したがって,この点についての原告らの主張には理由がない。

(2)  争点(2)について

原告らは,被告と原告らの間では勤務地を大阪店に限定するとの黙示の合意が存在した旨主張し,その根拠として,①原告らの雇入通知書に勤務地として大阪店が記載されているのみで,配転の可能性の記載がないこと,②被告では,各支店で現地採用した従業員を他の支店に配転するとの実績及び慣行が存在せず,原告らが大阪店で現地採用されていること及び③原告らが,採用時の面接において,基本的に配転はなく,転勤を命ずる場合には本人の意思を尊重するとの説明を受けたことを挙げる。

しかし,①被告の包括的配転命令権は,就業規則によって定められているのであるから,雇入通知書に勤務地として大阪店が記載されており配転の可能性について記載がないとしても,上記包括的配転命令権に対する特約としての勤務地限定の合意の存在の根拠とはなり得ず,また,②被告において各支店で採用した従業員を他の支店に配転するという実績及び慣行がないと認めるに足りる証拠はなく,③原告らが説明を受けたのは,あくまで,基本的には転勤がなく,転勤の場合には本人の意思を尊重するというものだというのであるから,業務上の必要がある場合に本人の意思にかかわらず転勤を命ずることがあることを否定するものではないことは明らかである。

したがって,上記①ないし③は,原告らと被告との間で,原告らの勤務地を大阪店に限定するとの黙示の合意があったことの根拠とはならず,その余にそのような合意があったと認めるに足りる事情はないから,この点についての原告らの主張には理由がない。

(3)  争点(3)について

ア 上記前提事実及び認定事実による本件配転命令までの経緯,本件配転命令後の原告らが置かれた状況及び本件解雇に至るまでの経緯からして,本件配転命令は,被告が原告らを退職に追い込む退職強要行為の一環として行われたことは明らかである。

すなわち,特に,本件社長ミーティング後の本件配転命令までの経緯,A1社長が,原告らが長野本社に転勤してから1か月も経たない平成21年5月11日にミーティングを開き,原告らを誹謗した上で「辞めさせたいが辞めない。」,「同じ従業員から認められなければ辞めるはずだ。」などと言って本件社員集会の開催を指示したこと,原告らの宿泊先,作業場所等について自ら嫌がらせを指示していること並びに長野本社の被告従業員に対して原告らについて無視すること,監視して言動を報告すること及び原告らのあら探しをすることを命じていることなどからして,本件配転命令は,A1社長が,本件社長ミーティングにおいて,午前3時に至るまで,酒に酔った状態で,主に,A16,A18及びA2を替える,大阪店従業員が現在のメンバーで大阪店を変えていきたいなどと言っているのは現状のままで楽したいからだという内容を,威迫や暴言等を交えながら延々と話し続けるという状況の中,「同じ話が繰り返されており,翌日も大阪店の各従業員は業務を行わなければならないのであるから,早く方針を決めてほしい。」と至極当然の内容を率直に述べた原告X1について,自らの意に沿わない従業員であると考え,また,本件社長ミーティングでパワーハラスメントがあったと考えており,原告X1を擁護する言動を行った原告X2を原告X1の同調者であるとみなし,原告らを被告から排除するために,その手始めとして本件配転命令を行ったものであることは明白であるというべきである。

したがって,本件配転命令が不当な目的により権利を濫用して行われたことは明らかであって,無効とすべきである。

イ この点,被告は,従前から,原告X1には,協調性がなく,大阪店の規律を乱し,円滑な職務遂行を阻害する言動が見られ,業務上のミスも多数に上っており,原告X2には消極的態度が顕著であったなどと本件配転命令について業務上の必要性があったことについて縷々主張するが,本件社長ミーティングにおいて,もっぱら大阪店の問題点が話題となっているにもかかわらず,しかもA3は事前に大阪店に出向くなどして大阪店の問題点及び原告X1の業務上の問題点を把握していたなどと証言しているにもかかわらず,原告らの問題点について全く話題となっておらず,また,本件配転命令に至るまでの経緯においても,A3やA9等からは,原告らの業務上の問題点が具体的に指摘されることはなく,原告X1についてはもっぱら本件社長ミーティングをパワーハラスメントであると捉えていることを被告と合わないとして,原告X2については原告X1を擁護するような言動をとったとして,退職勧奨あるいは転勤の話が出されていることは明らかであるから,被告の上記主張は後付けのものにすぎず,理由がないことは明白である。

ウ よって,本件配転命令は,権利濫用によるものであり無効とすべきものであるから,この点についての原告らの主張には理由がある。

(4)  争点(4)について

ア 被告が,原告らに対して,退職に追い込むための精神的圧迫を加えたか否かについて

上記(3)で検討したとおり,本件配転命令自体が,そもそも被告が原告らを退職に追い込み,排除するために行われた無効なものであるというべきであるところ,平成21年5月11日に行われたミーティング及び本件社員集会直前のA1社長の言動からして,本件社員集会が,A1社長の主導により,A1社長の意を体した被告従業員が退職強要を行ったものであることは明らかである。

また,上記前提事実及び認定事実からしても,被告が,原告らを退職に追い込むため,執拗に隔離及び監視し,嫌がらせ的な業務内容を指示し,また,被告従業員をして,同年7月1日に原告X1に対して,同月2日に原告X2に対して威圧的かつ脅迫的な圧迫を加えさせたことも明らかである。

イ 被告が本件和解条項に反する行為を継続しているか否かについて

(ア) Webカメラ等を殊更に原告らに向け,監視する状態が継続しているか否かについて

上記アのとおり,被告が原告らに対して退職に追い込むため精神的圧迫を行っており,その手段の一つとして原告らを監視していたことからすれば,本件和解後も原告らをWebカメラ等によって監視していたのではないかと疑われるところではある。

しかし,被告では,従前から長野本社の各階の各所にWebカメラを設置しており,これらのWebカメラには,被告の従業員,少なくとも総務部の人間であれば誰でもアクセスできるというのであり,また,本件和解後,原告らのフロアにあるWebカメラには殊更に手が加えられているとは認められないことからして,被告が,本件和解後も,Webカメラを原告らに殊更に向けることによって監視を継続していたとまでは認められない。

(イ) 原告らに対する差別的取扱いが継続しているかについて

上記認定事実によれば,被告が,本件和解後,一般社員用の社内報とは別に,わざわざ原告らに見せるための専用社内報を作成してそれのみを原告らに見せるという差別的取扱いを行っていたことは明らかである。

また,被告は,原告らに平成21年度の夏季賞与を全く支払っていないところ,被告における賞与は,本件賃金規程12条において,額については各人について決定されるものの,被告の業績の著しい低下その他やむを得ない事由がない限り受給資格者に対して8月と12月の2回支払うものとされており,原告らは受給資格者に該当するにもかかわらず,「被告の業績の著しい低下その他やむを得ない事由」に該当する具体的な事由を示すこともなく夏季賞与を支払っていないのであるから,原告らに対して不当な差別的取扱いを行っているというべきである。

以上のような事情からして,被告は,本件和解成立後も,原告らに対して,本件和解条項に反する差別的取扱いを継続していたと認められる。

ウ 被告は,上記のとおり,上記ア及びイ(イ)の行為を行っており,これらは原告らに対する不法行為を構成するというべきである。そして,特に,被告が原告らに対して行っていた退職に追い込むための精神的圧迫は,極めて執拗かつ陰湿で不当なものであり,これらによって原告らが受けた精神的苦痛は非常に大きいというべきであって,これを慰謝する金額としては,原告らそれぞれについて200万円を相当であると認める。また,この点について訴訟追行するための弁護士費用相当額の損害としては,それぞれ20万円を相当因果関係のある損害であると認める。

(5)  争点(5)について

ア 評価給については,確かに,被告の主張等が変遷を繰り返しているものの,本件賃金規程2条において基本給や固定手当とは異なる流動的手当として規定されており,同じく流動的手当で,部署ごとの月度売上予算を達成した場合に営業職員に対して支給される売上達成報酬とも異なるものとして,同7条において,営業職員に対する店舗及び個人の売上・勤怠状況・時間外勤務その他を考慮した加算給として支給すると明確に規定されている。そして,原告らと被告が紛争状態となる本件社長ミーティング以前のA28財務部長の電子メールによる説明及び被告の通知では,評価給について,営業が必ずしも時間と比例して結果が生ずるものではないことから,種々の要素に基づく総合的な考慮による手当として支払われるものである旨の説明がなされている。

そうすると,評価給の性質は,営業職員の実際の営業内容(売上,勤務状況及び勤務態度)による被告に対する貢献度に基づいて支払われる加算給であると解するべきであり,原告らの長野本社での研修期間中は,営業職員としての営業の実働がない以上,評価給を請求することはできないというべきである。

他方,被告は,原告らに対して,原告らの業績等にかかわらず常に一定額の評価給を支払っていたのであり,評価給の額についての算定基準については明らかではないものの,最低でも原告X1に対して月8万5000円を,原告X2に対しては6万5000円を評価給として支払うものとしていたということができ,平成21年度3月分について評価給を支払わない具体的事情も見当たらない以上,原告らは,被告に対し,同月分の評価給として,原告X1について8万5000円,原告X2について6万5000円を請求することができるというべきである。

イ これに対し,原告らは,被告が原告らに対して支払っていた評価給が常に一定額であったこと及び評価給の金額決定の基準がないこと等を理由に,評価給が営業職員の固定給の一部をなしているから,平成21年度3月分及び長野本社での研修期間中も支払われるべきである旨主張するが,原告らの給与は,あくまで本件賃金規程により定まるものであるところ,上記アのとおり,本件賃金規程上,評価給は,基本給とも固定手当とも異なる加算給とされている以上,原告らに対して支払われていた評価給が一定額であること及び評価給の金額決定の基準がないことを根拠として,評価給が営業職員の固定給をなすものであるということはできない。

ウ したがって,この点についての原告らの主張は,平成21年3月分の評価給を求める点については理由があるが,長野本社における研修期間中の評価給を求める部分については理由がない。

(6)  争点(6)について

ア 原告らの時間外手当等に係る労働時間について

(ア) 時間外手当等は,労働者が法定労働時間あるいは労働契約上の労働時間を超えて労務提供を行った場合に,当該労務提供を行った労働時間に対して発生するものであるところ,ここでいう「労働時間」とは,労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい,右の労働時間に該当するか否かは,労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって,労働契約,就業規則,労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではない(最高裁平成7年(オ)第2029号同12年3月9日第1小法廷判決)。

(イ) 本件では,原告らは,労働時間の証拠として被告作成のタイムカード(証拠<省略>)をそれぞれ提出しているところ,大阪店において月曜日を法定休日として扱うべきことには特段の争いがなく,時間外(休日労働を含む。)に該当する時間(以下,「時間外労働等」ということがある。)において,原告らが被告の業務を行っていたかについては,被告は,終業時刻後のものについては被告の業務を行うために必然的かつ通常必要とされるものではないものが含まれている旨主張するものの,それがいかなるものかについて具体的な主張がなく,始業時刻前のものについては,出勤する必要がなかった旨主張するが,原告らは,被告の始業時刻前に原告らが出勤した分について,デモアポイントメントの準備等で出勤する必要があった旨主張するところ,被告は,それ自体には特段反論しないことから,原告らが,上記時間外に該当する時間において,被告の業務を業務上の必要性に基づいて行っていたと認められる。

(ウ) これに対し,被告は,被告では従業員が時間外労働及び休日労働を行うに当たっては,時間外労働申請書に事由を記載して所属長に提出し,所属長が確認した上で要否を判断し,必要なものについて許可を与える運用を行っていたことから,労働申請が提出され許可を受けていない部分については時間外手当等の対象となる労働時間とは認められない旨主張し,確かに,大阪店についての定めでは,「残業」について「就業時間以降の残業については,必ず事前に所属長に「残業申請書」を提出し,承認を得ること。承認を得ずに残業をした場合は認められない。」と定められている。

しかし,上記のとおり,労働時間に該当するか否かは,労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって,労働契約,就業規則,労働協約等の定めのいかんにより決定されるものではないのであり,使用者である被告は労働者である原告らの労働時間を適切に把握し管理する義務を負っているのであるから,現に原告らが大阪店で時間外に被告の業務を業務上の必要性に基づいて行っている以上,労働申請とその許可が必要であるとの被告の運用にかかわらず,原告らに対して,業務を止め退出するように指導したにもかかわらず,あえてそれに反して原告らが労働を継続したという事実がない限り,原告らの上記時間外に該当する時間の労働が被告の指揮命令下に置かれていることは明らかである。したがって,被告の上記主張は,労働時間に対する反論としては失当といわざるを得ない。

さらに,原告らは,休日出勤については,被告が休日出勤の状態を確認するために提出させていた行動予定表にすぎず,時間外労働についての労働申請は,実際に時間外労働を行った後にタイムカードの打刻時間を15分単位でカットし,月末最終営業日に1か月間の時間外労働合計時間を記入して店長に提出していたものである旨主張するところ,上記認定事実によれば,被告が従業員に対して「自由出勤」と称していわゆるサービス残業としての休日出勤を半ば強制しており,「自由出勤」をしないあるいは「自由出勤」が少ない従業員を不利益に取り扱っていたことが認められること及び原告X2の平成21年3月分の「労働申請書」(証拠<省略>)では,3月上旬についても所属長印として「A20」の印が押されているところ,A20が大阪店店長となったのは同年3月中旬であり,本件社長ミーティングのころの店長はA16であるから,被告が主張するように労働申請書が事前に提出されて所属長の許可を得るものであれば,3月上旬に「A20」の印が押されることはあり得ない(かえって,月末に店長に提出していたとの原告らの主張と合致する。)ことであることからすれば,事前に所属長に時間外労働申請書を提出して承認を得るという運用自体が存在していたとは認められない。

(エ) また,被告は,休日労働において,原告らが休憩時間を労働時間として算入しているのは不当であり,休憩時間を除外すべきである旨主張する。

この点,原告らは,休日出勤では,取引先やデモンストレーション先の都合や事情を優先し,それに合わせて仕事をするため,昼食時間や労働基準法で定められた休憩時間をとることもできなかった旨主張するが,弁論の全趣旨によっても,休日労働のスケジュールを被告が決めていたとは認められず,営業のために原告らが社外に出ている時間帯については被告においてこれを管理することは不可能であるから,休日労働における休憩時間は,原告らにおいて適宜とるべきものといえ,これを労働時間に算入することは妥当ではない。したがって,原告らが行っていた休日労働のうち,被告が指摘する日については休憩時間1時間を控除して労働時間を算出すべきである。

(オ) 以上を前提に,原告らの時間外労働等について検討すると,原告X1の時間外労働等は,別紙8<省略>のとおりとなり,原告X2の時間外労働等は,別紙9<省略>のとおりとなる。

イ 原告らの時間外手当等の基礎となる1時間当たりの単価について

(ア) 原告らの時間外手当等の基礎となる1時間当たりの単価については,原告らは評価給を算入すべきとし,被告は除外して計算すべきであるとそれぞれ主張する。

(イ) そこで検討するに,上記(5)で検討したとおり,評価給とは,営業職員の実際の営業内容(売上,勤務状況及び勤務態度)による被告に対する貢献度に基づいて被告の裁量により支払われる加算給であると解すべきものであり,労働基準法施行規則21条における割増賃金に不参入とすべき賃金(別居手当,子女教育手当,住宅手当,臨時に支払われた賃金,1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金)のいずれにも該当しないことは明らかである。また,評価給の性質が上記のものと解される以上,時間外手当等の基礎となる1時間当たりの単価に評価給を算入しても,時間外労働等を二重に評価することにはならない(本件賃金規程2条においても評価給と割増賃金が併存するものであるとされており,被告においても,本件社長ミーティング以前は,時間外労働と評価はイコールではないと説明している。)。

(ウ) したがって,原告らの時間外手当等の基礎となる1時間当たりの単価には,評価給を算入すべきであり,原告らが主張するとおり,原告X1については(18万円(基本給)+8万5000円(評価給))÷161.29(1か月平均所定労働時間)=1643円,原告X2については(17万5000円(基本給)+6万5000円(評価給))÷161.29(1か月平均所定労働時間)=1488円となる。

ウ 原告らの時間外手当等に既払いの評価給が充当されるかについて

使用者が,労働者に対して,時間外労働等に対応する手当を他の賃金と明確に区別して支払っている場合,当該手当が労働基準法37条所定の方法によって計算した額よりも上回れば同条違反の問題は生じず,下回る場合には,その限度で同条違反の問題が生ずるから,その差額分を支払えば足りるところ,被告は,評価給が時間外手当等に対応するものであるから,原告らの時間外手当等に既払いの評価給が充当され,その差額分のみ支払えば足りる旨主張する。

しかし,上記被告の主張以前の評価給に対する被告の説明は変遷を繰り返している上,本件賃金規程2条からして,評価給と時間外手当等が併存することが予定されていることは明らかであり,また,本件社長ミーティング以前の被告の評価給に対する説明からしても,評価給と時間外手当等はイコールではないとしているのであるから,評価給が時間外手当等に対応するものであるとはいえない。

したがって,上記被告の主張には理由がなく,原告らの時間外手当等に既払いの評価給は充当されないとすべきである。

エ 以上を前提に,原告らの未払の時間外手当等を計算すると,原告X1については,別紙10<省略>のとおり,252万7229円(時間外手当等)-(44万5867円(支払済みの時間外手当等)+7万8864円(代休6日分))-193万0960円(債権差押えによる回収分)=7万1538円,原告X2については,別紙11<省略>のとおり,99万0451円(時間外手当等)-33万7717円(支払済みの時間外手当等)-63万4903円(債権差押えによる回収分)=1万7831円となる。

よって,原告らの被告に対する時間外手当等の請求は,原告X1について7万1538円,原告X2について1万7831円を請求する限度で理由がある。また,上記からすれば,被告に原告らに対する過払部分があるとは認められないので,被告の原告らに対する第2事件の請求はいずれも理由がない。

オ 付加金について

労働基準法に定める時間外手当等の支払を怠った使用者は,労働者からの請求により,付加金の支払い義務を負う(労働基準法114条)ところ,本件では,評価給の支払によって時間外手当等に替えることができないことは,上記ウで検討したとおりであり,評価給についての被告の説明が変遷していること及び被告が従業員に対して「自由出勤」としていわゆるサービス残業としての休日出勤を半ば強制していたこと等からすれば,被告が原告らに対する付加金の支払を免れるような事情があるとはいえない。

したがって,被告は,付加金として,原告X1に対して7万1538円,原告X2に対して1万7831円の支払義務を負う。

(7)  争点(7)について

原告らは,原告らに賞与受給資格があり,未払とされた平成21年度夏季賞与につき,それぞれ給与2か月分の賞与請求権がある旨主張する。

この点,確かに,原告らには賞与受給資格があり,原告らに対して支払われない理由はないものと考えられるところではあるが,賞与を請求することができるのは,当該賞与が具体的請求権として労働者に認められるだけの具体的な根拠がある場合に限られるところ,本件賃金規定における夏季賞与は,賞与の額を被告の業績及び従業員の勤務成績などを考慮して各人ごとに決定するとされており,確定的な支払義務が被告にあるものではなく,また,原告らに対する平成20年度分の賞与支給実績(証拠<省略>)からしても,賞与として給与の2か月分を支払うという慣行が被告にあると認めるに足りる証拠もない。

したがって,この点についての原告らの主張には理由がない。

(8)  争点(8)について

ア 新就業規則の有効性について

被告は,新就業規則に基づいて本件解雇を行った旨主張するが,就業規則が労働契約の内容をなし法的規範としての性質を有するものとして拘束力を生じるためには,その内容の適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要し(最高裁平成13年(受)第1709号同15年10月10日第二小法廷判決参照),周知された時点以前に当該就業規則の効力が遡及することはないところ,被告の主張を前提としても,被告従業員に新就業規則を閲覧させたのは平成22年1月19日だというのであり,被告が主張する本件解雇の事由に同日以降本件解雇日である同月25日までの事由が含まれていないのであるから,そもそも新就業規則に基づいて原告X1を解雇することはできないというべきである。

もっとも,新就業規則以前の被告の就業規則28条においても解雇事由として「勤務成績または業務能率が著しく不良で,従業員としてふさわしくないと認められたとき」(同条1号)及び「その他前各号に準ずるやむを得ない事情があるとき」(同条4号)が定められており,被告が本件解雇を懲戒解雇としていないことから,被告は,これらの事由によって本件解雇を行ったものと善解し,以下,検討する。

イ 本件解雇は,解雇権濫用により無効か

(ア) 上記前提事実及び認定事実からして,被告は,A1社長が自分の意に沿わない従業員であると考えた原告X1を退職に追い込むために,様々な精神的圧迫を加え,退職強要を行っていたが,原告X1が退職しなかったため,最終的に本件解雇を行ったことは明らかであるというべきである。また,被告が主張する本件解雇の事由は,以下のとおり,いずれも事実として存在しないか,事実としては存在するとしても解雇事由になり得ないものである。

(イ) 大阪店在籍期間について

a 被告は,原告X1が,平成20年5月ころに上司が休日の製品デモを誘ったところこれを断ったことを本件解雇事由の一つに挙げるが,真に業務上の必要があって被告が業務を命じたのであればともかくとして,そもそも原告X1が休日に労働をしなければならない理由は何ら存在しないのであって,単なる上司の休日出勤の誘いを断ることが解雇事由になり得ないことは明らかである。

b 被告は,原告X1が,平成20年10月下旬,製品デモのための機材を事前に準備していないことについて,機材が足りないことについてだけを問題視し,他方,自己が事前準備をしていないことについて軽視するとともに,店舗展示品を上記機材の代用品とすることを拒絶したことを本件解雇事由の一つに挙げる。

これに対して,原告X1は,上記デモ機の不足がA2のミスにより発生したものであり,準備が直前となることは,過剰な時間外労働等によって大阪店で常態化していたのであり,また,店舗展示品を代用とすることについては,展示品と実機では性能自体が異なるのであるから,デモアポイントメントで展示品を使用することは止めるべきであると指摘したと主張し,原告X1の供述にはこれに沿う部分があるところ,これに対する合理的反証は何ら存在しない。

そうすると,上記事情が解雇事由となり得ないことは明らかである。

c 被告は,原告X1が,平成21年1月,新入従業員が休日にアポイントを取った製品デモの依頼について,休日であることを理由に拒絶したことを本件解雇事由の一つとして挙げるが,原告X1は,上記拒絶の事実を否認しているところ,上記拒絶の事実を認めるに足りる証拠はなく,また,仮に,原告X1が拒絶したとしても,原告X1が休日に労働しなければならない理由はないから,解雇事由となり得ないことは明らかである。

d 被告は,原告X1が,被告の顧客への電話を被告従業員で手分けして行うことについて,他の被告従業員が原告X1の担当する顧客へ電話することを拒否したことを本件解雇事由の一つとして挙げるが,既に原告X1が担当している顧客に対して原則として原告X1が電話することが営業方法としても効率的なことは当然であり,原告X1が顧客に電話することができない状態にあるにもかかわらず,他の従業員が電話することを拒否したというような事情も見当たらないことから,上記事情が解雇事由となり得ないことは明らかである。

e 被告は,原告X1が,自己がメインで行う製品デモについて,サブで同行した被告従業員が資料を手渡す以外の協力を拒絶したことを本件解雇事由の一つとして挙げるが,原告X1は,上記事情について,自らが営業の主担当であるときに,サブとして同行した営業経験の少ないA20が説明に割り込むなどしたために営業がうまく進まなかったことから,A20に注意を与えた旨主張するところ,上記事情が原告X1の主張とは異なるものであると認めるに足りる証拠もなく,解雇事由になり得ないものであることは明らかである。

f 被告は,原告X1が,平成21年3月11日,女性である大阪店の店長(A20)に対し,「とことんやったろやないか。」と声を荒げ,被告従業員からの注意を受けたにもかかわらず,罵声を浴びせたことを本件解雇事由の一つとして挙げるが,上記認定事実のとおり,原告X1は,本件社長ミーティングでのパワーハラスメントの存在を否定したA18との間で言い合いになったのであり,被告の主張する上記事実は認めらない。

g 被告は,原告X1が,平成21年3月20日,上司である大阪店のA2に対し,「なあA2」と呼び捨てにし,「はあ?何それ。お前話分かってるか?」とお前呼ばわりしたことを本件解雇事由の一つとして挙げるが,上記認定事実のとおり,原告X1は,本件社長ミーティングでのパワーハラスメントの存在を否定する言動を繰り返すA2に対して,上記言動を行ったのであって,本件社長ミーティングの内容及び原告X1がA2よりも相当年長である(弁論の全趣旨)ことからして,解雇事由にはなり得ないというべきである。

h 被告は,原告X1が,製品を杜撰に設置したために,顧客から苦情が出たことを本件解雇事由の一つに挙げるが,原告X1は,当該製品の担当であったことを否定しており,被告の上記主張事実を認めるに足りる証拠もない。

i 被告は,原告X1が,製品発注について,2度過ちを犯したが,自己の過ちについて反省せずに,被告従業員に対し乱暴な言葉遣いで文句を申し立てたことを本件解雇事由の一つに挙げ,具体的には,平成20年12月及び平成21年1月に,ハイスペックPCの発注の場合には注文をとる前に営業責任者の承認をとって資材部に手配依頼をする必要があるにもかかわらず,この手順を怠ったという発注ミスがあったことについて,原告X1が資材を担当するA25に威嚇的言動を行ったことであるとするが,上記のような事実があれば,A25から上記営業責任者に対して上記手順が徹底されていないこと及び原告X1の態度について注意があってしかるべきものであるところ,A25の証言からしても,全く同様の営業責任者が関係するミスが2回発生したにもかかわらず,2回目のミスの際に営業責任者に確認もしていないというのであるから,そもそも原告X1が威嚇的言動を採ったという事実の存在自体疑わしいものというべきである。

j 被告は,原告X1が,顧客である医師からの問い合わせについて,追って回答する旨を回答したまま放置したことを本件解雇事由の一つとして挙げるが,このような事実があったと認めるに足りる証拠はない。

k 被告は,原告X1が,製品の設置について,被告従業員から何回も指導を受けたにもかかわらず,それを生かさず,被告従業員に何度も製品の設置についての問い合わせを繰り返したことを本件解雇事由の一つに挙げるが,このような事実があったと認めるに足りる証拠はない。

(ウ) 長野本社在籍期間(平成21年4月から平成22年1月まで)について

a 被告は,原告X1が,平成21年7月1日,被告の研修指導員及び従事した業務にかかわった被告従業員から業務上に関して注意・指導を受けたにもかかわらず,「弁護士に相談する,組合に相談する。」と大声で怒鳴り,受け入れなかったことを本件解雇事由の一つに挙げるが,同日の経緯は上記認定事実(7)のとおりであり,被告の主張は明らかに虚偽であって理由がないものである。

b 被告は,原告X1が,平成21年6月に不良品を出し,上司からその点について注意をしたが,その注意について謙虚さ・向上心がみられず,再度,同年8月に不良品を出したため,被告は,原告X1に対し,始末書を作成させたことを本件解雇事由の一つに挙げるが,上記認定事実(4)のとおり,A5は,原告X1に対して敢えて手間のかかる作業をやらせようとし,A1社長が「研修と称せば何をやらせたっていいんだ。」などと発言しているような状況にあったのであり,長野本社において原告らと同じ生産技術部で働いていたA29もミスをした際に始末書の作成を命じられた従業員は知る限りいないと証言しているのであるから,上記始末書の提出命令自体に正当な理由があったのか疑わしいものといわざるを得ない。

c 被告は,原告X1が,①自己にできそうもない仕事を受けた場合は文句を言い,言い訳を言ってできないことを認めない,②作業に関して工夫・応用がない,③作業についての説明を聞かず,配布された作業手順書を読まない,④不良品を出す,⑤6か月従事した作業について,他の被告従業員の二割程度しかできない,⑥人の話を聞かない,⑦周りの被告従業員は効率を上げるよう検討しながら作業しているにもかかわらず,原告X1はのんびり作業をしている,⑧ダイレクトメール作業において従事する他の被告従業員から不満(率先して動く様子がない,作業中の離席回数が多い,片付けを最後までしない,足でゴミをかき集める,重い部材を運ばない,他の従業員に非協力的である)が出たことを本件解雇事由の一つに挙げるが,上記①,②,③,⑤,⑥及び⑦について,そのような事実があったと認めるに足りる証拠はなく(上記⑤については,被告従業員A30は「「△△」(被告の製品)の製造について,ノルマは1か月50台であるところ,原告X1は1日20台程度しか製造できなかった。」などと不合理な陳述(証拠<省略>)及び証言している。),上記④については,上記(ウ)bで検討したとおり,始末書の提出命令自体に正当な理由があったのか疑わしいものであり,原告X1が解雇事由になりうるほどの不良品を出したと認めるに足りる証拠はなく,上記⑧については,被告従業員の不満の前提となる各事実のような作業態度を実際に原告X1がとっていたと認めるに足りる証拠はない。

d 被告は,原告X1が,平成21年7月以降,①掃除時間に無駄話が多く,②同年10月上旬に被告従業員A15と社内報のことで勤務時間中に口論となった,③同月20日頃に被告従業員A11と社員集会のことで勤務時間中に口論となった,④上記②③のことで,上記2名と同様に始末書の提出を要求したところ,拒否した,⑤被告従業員らに対し,威嚇的な言動を行い,同人らに恐怖感を与え職務執行に支障が生じたことを本件解雇事由の一つに挙げ,⑤については,具体的には上記②及び③の際のA15及びA11に対する言動並びに平成21年11月上旬の被告従業員A31(以下,単に「A31」という。)に対する言動であるとするが,上記①についてはそのような事実があったと認めるに足りる証拠はなく,上記②については,A15と原告X1とのやりとりの録音内容(証拠<省略>)からして,A15が一方的に原告X1に対して大声で威嚇的言動に及んでいることは明らかであり,上記③についても,A11と原告X1とのやりとりの録音内容(証拠<省略>)からして,業務時間中の私的会話を断る原告X1に対して,A11が執拗に絡んだ上暴言を浴びせていることは明らかであり,原告X1が始末書を提出しなければならないものではないことも明らかである。また,A31とのやりとりについても,A31は,原告X1が終始独り言を言っている様子なので「はい?」と何度も聞き返したが,原告X1が独り言を続ける様子であったところ,翌日,原告X1から「何回尾行したんだ。」と言われ,「尾行なんてしてない。」と即座に答えると,「この前,はいと言ったのに何でうそをつくんだ,会社の指示だと思うが,お前にも家族がおるんやろ。」,「いずれ白黒つけてやる。目にもの見せてやるわ。」などと威嚇されたと証言するが,仮に,上記証言内容のやりとりであるとすると,聞き返すA31と原告X1とが会話にならない状態になる理由が不明であって不自然であり,また,翌日に原告X1から「何回尾行したんだ。」と言われた時点では,A31には何の話なのか分からないはずであるから,何の話なのかを原告X1に問いただすこともなく単に「尾行なんてしてない。」とのみ即座に返事をすることは不自然であって,上記証言内容自体不自然であり信用できない。したがって,上記②,③及び⑤の事実が被告の主張するようなものであるとは認められず,上記④については,そもそも原告X1が始末書を提出しなければならない理由がないことは明らかであって,解雇事由となり得ないものである。

e 被告は,原告X1が,平成21年12月29日に全体会議におけるA1社長の講演についてのレポートについて,何ら記載せず,業務命令に反したことを本件解雇事由の一つとして挙げるが,当初の全体会議の予定では全体会議終了時に上記レポートを回収することになっていた(証拠<省略>)ものの,その予定は変更されており,上記レポート14頁目の末尾には「宴会会場に持参してください。宴会(一次会)終了後,テーブルごとに回収します。」と記載されている(証拠<省略>)のであるから,全体会議中に記載しなければならないものでもなかったといえる。そして,上記認定事実(11)のとおり,全体会議終了後,A1社長らが原告X1に付きまとってレポートの記入を困難にさせた上,最終的にA1社長がレポートの記入を続けようとする原告X1に対して白紙のままの提出を求めたのであり,解雇事由になり得るものではないことは明らかである。

(エ) 以上のとおり,本件解雇は,被告から原告X1を排除するために不当に行われたものである上,被告が挙げる具体的な解雇事由は,いずれも事実として存在しないか解雇事由となり得ないものであるから,本件解雇が解雇権を濫用したものであることは明らかであり,無効とすべきものである。

したがって,この点についての原告X1の主張には理由がある。

(9)  争点(9)について

上記(8)で検討したとおり,本件解雇は,A1社長が,自分の意に沿わない従業員であると考えた原告X1を退職に追い込むための様々な精神的圧迫を加え,それでも退職しない原告X1を被告から排除するために行ったものであって,被告が解雇権を濫用して行ったものであることは明らかである。

そして,被告が行った上記精神的圧迫は,その執拗さ,陰湿さ及び悪質さからして,会社ぐるみの退職強要としても類を見ないものであり,これによって原告X1が被った精神的苦痛は筆舌に尽くしがたいものであるといえる。

もっとも,退職強要行為としては,上記(4)に係る被告の不法行為においても考慮されているところではあり,本件解雇自体による被告の原告X1に対する不法行為としては,これを慰謝するのに金額として100万円を相当と認め,また,この点について訴訟追行するための弁護士費用相当額の損害としては,10万円を相当因果関係のある損害であると認める。

3  以上によれば,原告X1に対する本件配転命令及び本件解雇は無効であり,被告は,原告X1に対し,精神的圧迫及び本件和解に反する不法行為に基づく損害賠償及び弁護士費用として220万円及びこれに対する遅延損害金,労働契約に基づく未払給与として平成21年3月分の評価給分8万5000円及びこれに対する遅延損害金,未払時間外手当等7万1538円及び労働基準法に基づく付加金7万1538円及びそれぞれに対する遅延損害金,本件解雇後の給与として毎月18万円ずつ及びこれに対する遅延損害金並びに本件解雇による不法行為に基づく損害賠償及び弁護士費用として110万円及びこれに対する遅延損害金を支払う必要があり,原告X2に対し,精神的圧迫及び本件和解に反する不法行為に基づく損害賠償及び弁護士費用として220万円及びこれに対する遅延損害金,労働契約に基づく未払給与として平成21年3月分の評価給分6万5000円及びこれに対する遅延損害金,未払時間外手当等1万7831円及び労働基準法に基づく付加金1万7831円及びそれぞれに対する遅延損害金を支払う必要があるが,原告らのその余の請求には理由がなく,被告の第2事件の請求には理由がないから,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山本剛史 裁判官 松本有紀子 裁判官 大野元春)

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