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長野地方裁判所 平成21年(行ウ)18号 中間判決 2011年9月16日

主文

本件訴訟における原告らの主張のうち、廃棄物の処理及び清掃に関する法律7条10項1号に反するとの主張、同項3号及び同法施行規則2条の4第1号ロ(2)の要件を充たしていないとの主張及び同法7条10項4号及び同条5項4号トに該当するとの主張はいずれも理由がない。

事実及び理由

第1事案の概要

1  本件は、被告が、被告補助参加人に対して、一般廃棄物処理(中間処理(破砕))業の許可(以下「本件許可」という。)を行ったところ、被告補助参加人の一般廃棄物処理施設(以下「本件施設」という。)の周辺住民を含む原告らが、本件許可が違法であるとして、行政事件訴訟法に基づく取消訴訟として、本件許可の取消しを求める事案である。

原告らは、本件許可の違法事由として、①被告による一般廃棄物の処分が困難であるとはいえず、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)7条10項1号の要件を充たしていない、②本件施設は、一般廃棄物の処分に適する処理施設とはいえず、廃棄物処理法7条10項3号及び同施行規則(以下「規則」という。)2条の4第1号イ(2)の要件を充たしていない、③本件施設からは、粉じん及び悪臭が発生しており、必要な措置が講じられた施設とはいえず、廃棄物処理法7条10項3号及び規則2条の4第1号イ(3)の要件を充たしていない、④被告補助参加人は、一般廃棄物の処分を的確に行うに足りる知識及び技能を有するとはいえないから、廃棄物処理法7条10項3号及び規則2条の4第1号ロ(1)の要件を充たしていない、⑤被告補助参加人は、一般廃棄物の処分を的確かつ継続して行うに足りる経理的基礎を有するとはいえないから、廃棄物処理法7条10項3号及び規則2条の4第1号ロ(2)の要件を充たしていない、⑥被告補助参加人は、業務に関して不正又は不誠実な行為をするおそれがあるから、廃棄物処理法7条10項4号及び同条5項4号トの要件に該当している旨主張しているのに対し、被告は、行政事件訴訟法10条1項により、原告らが主張することができる本件許可の違法事由は、上記③の廃棄物処理法7条10項3号及び規則2条の4第1号イ(3)の要件に関するもののみである旨主張し争っているところ、本中間判決は、原告らの主張が行政事件訴訟法10条1項によって制限されるかについて判断するものである。

第2当裁判所の判断

1  行政事件訴訟法10条1項の趣旨について

行政事件訴訟法に基づく取消訴訟が、原告がある行政処分により被った権利利益の侵害の救済を目的とする主観訴訟である以上、当該原告の権利利益に関係ない違法事由を主張することを認めると、主観訴訟性に反することになることから、同法10条1項は、「自己の法律上の利益に関係のない違法」の主張を制限しているものと解される。そうすると、行政処分の当事者でない第三者について「法律上の利益」が認められるのは、当該行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合であるとすべきであるから、当該行政法規において一般公益を超えて直接に当該個別的利益を保護する趣旨を含む規定以外のものに関する違法事由は、「自己の法律上の利益に関係のない違法」というべきであり、当該行政処分の当事者でない第三者が、当該行政処分の取消訴訟において主張することはできないと解すべきである。

廃棄物処理法は、生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的としており(同法1条)、一般廃棄物処理施設の設置の申請において、周辺地域の生活環境に及ぼす影響についての調査結果を記載した書類を添付することを求め(同法8条3項)、申請書等を公衆の縦覧に供しなければならないとし(同条4項)、一般廃棄物処理施設の設置者は、当該一般廃棄物処理施設に係る周辺地域の生活環境の保全及び増進に配慮するものとしているから(同法9条の4)、周辺住民の生活環境の保護をもその趣旨に含むものといえる。そこで、原告らが主張する各違法事由が、一般公益を超えて直接に周辺住民の生活環境を保護する趣旨を含むといえるかについて検討する。

2  廃棄物処理法7条10項1号に関する主張(上記①)について

一般廃棄物については、市町村自体が一般廃棄物処理計画を策定した上で原則として処理を行わなければならないとされている(廃棄物処理法6条、同法6条の2)のであるから、廃棄物処理法7条10項1号は、一般廃棄物処理業者が行う処理事業があくまで市町村の事務を補完するものであることから定められた要件と解すべきであり、廃棄物処理法7条10項のその余の要件を充たす事業者が処理を行う場合と市町村が処理を行う場合とで、周辺住民の生活環境に与える影響に直ちに差異が生ずることを想定していないのであるから、廃棄物処理法7条10項1号が周辺住民の生活環境を保護する趣旨を含むものでないことは明らかである。

したがって、本件許可が廃棄物処理法7条10項1号に反するとの原告らの主張は、自己の法律上の利益に関係のない違法事由を主張するものであって、行政事件訴訟法10条1項による主張制限が及び、原告らは、この点についての主張をすることはできない。

3  廃棄物処理法7条10項3号及び規則2条の4第1号イ(2)に関する主張(上記②)について

廃棄物処理法10項3号及び規則2条の4第1号イ(2)は、業として行おうとする一般廃棄物の種類に応じ、当該一般廃棄物の処分に適する処理施設を有することを要件として定めているところ、一般廃棄物処理業者が適切な処理施設を有するか否かは、周辺住民の生活環境に直結するのであるから、当該規定は、一般公益を超えて周辺住民の生活環境を直接保護する趣旨を含むものというべきである。

したがって、本件施設が廃棄物処理法10項3号及び規則2条の4第1号イ(2)の要件を充たしていないとの原告らの主張は、自己の法律上の利益に関係のない違法事由を主張するものとはいえず、行政事件訴訟法10条1項の主張制限が及ばないから、原告らは、この点について主張することができる。

4  廃棄物処理法7条10項3号及び規則2条の4第1号ロ(1)に関する主張(上記④)について

廃棄物処理法7条10項3号及び規則2条の4第1号ロ(1)は、一般廃棄物処理業の許可申請者の能力のうち、申請者の知識や技能といった適正な処理能力を有することを要件として定めているところ、申請者が適正な処理能力を有していなければ、一般廃棄物の処理を適正に行うことができないこととなり、必然的に周辺住民の生活環境に悪影響を与えることとなるから、廃棄物処理法7条10項3号及び規則2条の4第1号ロ(1)は、一般公益を超えて、周辺住民の生活環境を直接保護する趣旨を含むものというべきである。

したがって、被告補助参加人が廃棄物処理法7条10項3号及び規則2条の4第1号ロ(1)の要件を充たしていないとの原告らの主張は、自己の法律上の利益に関係のない違法事由を主張するものとはいえず、行政事件訴訟法10条1項による主張制限が及ばないから、原告らは、この点についての主張をすることができる。

5  廃棄物処理法7条10項3号及び規則2条の4第1号ロ(2)に関する主張(上記⑤)について

廃棄物処理法7条10項3号及び規則2条の4第1号ロ(2)は、一般廃棄物処理業の許可申請者の能力のうち、経理的基礎を有することを要件として定めているところ、その趣旨は、市町村が定める一般廃棄物処理計画においては、委託事業者等市町村以外の者が処理する一般廃棄物を含むすべての一般廃棄物を対象として定める必要があり(廃棄物処理法6条2項参照)、一般廃棄物処分業者の的確な事業運営について一定期間の継続性が求められるためであると考えられる。申請者が経理的基礎を有することを要件とすることによって、結果的に当該申請者による健全な経営が確保され、施設の安全面が資金的観点から担保されるとの機能があるとしても、廃棄物処理法7条10項3号及び規則2条の4第1号ロ(2)がこのような機能を果たすことを直接の目的として定められているということはできないし、申請者が十分な経理的基礎を有しないとしても、直ちに一般廃棄物の不適切な処理を行うとも限らないのであるから、申請者が経理的基礎を有することとの要件が、一般公益を超えて周辺住民の生活環境を直接保護する趣旨を含むものと解することはできない。

したがって、被告補助参加人が廃棄物処理法7条10項3号及び規則2条の4第1号ロ(2)の要件を充たしていないとの原告らの主張は、自己の法律上の利益に関係のない違法事由を主張するものであり、行政事件訴訟法10条1項による主張制限が及ぶから、原告らは、この点についての主張をすることはできない。

6  廃棄物処理法7条10項4号及び同条5項4号トに関する主張(上記⑥)について

廃棄物処理法7条10項4号及び同条5項4号トは、一般廃棄物処理業の許可申請者が、その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当な理由がある場合に該当しないことを要件とするものであるところ、当該要件は、申請者の一般的適正を要件とするものであるから、一般公益を超えて周辺住民の生活環境を直接保護する趣旨を含んでいると解することはできない。

したがって、被告補助参加人が廃棄物処理法10項4号及び同条5項トに該当するとの原告らの主張は、自己の法律上の利益に関係のない違法事由を主張するものであり、行政事件訴訟法10条1項による主張制限が及び、原告らは、この点についての主張をすることができない。

7  以上によれば、原告らの主張のうち、①廃棄物処理法7条10項1号に反する旨の主張、⑤同条10項3号及び規則2条の4第1号ロ(2)に反するとの主張及び⑥同条10項4号及び同条5項トに該当する旨の主張は、いずれも行政事件訴訟法10条1項による主張制限が及び、主張自体失当であって理由がないこととなるから、主文のとおり中間判決する。

(裁判長裁判官 山本剛史 裁判官 蛭川明彦 大野元春)

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