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長野地方裁判所 平成24年(行ウ)15号 判決 2014年5月15日

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第3当裁判所の判断

1  後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

(1)  本件違反行為に係る事実

ア  原告は、昭和61年頃から通算して約40回程度北海道で狩猟した経験があり、平成24年3月3日に新潟港からフェリーで苫小牧港に行き、同月4日、厚岸町のコンキリエの駐車場で青森から来た知人と合流し、同駐車場を拠点として、車に寝泊まりしながら、知人と一緒に又は一人で狩猟を行った。(甲2、乙8)

イ  原告は、近距離射撃用の本件銃と遠距離射撃用のライフル銃(銃番号<省略>)の2丁の銃を持参していた。(乙5、8、原告本人)

ウ  原告は、平成24年3月7日午後1時30分頃から、知人と共に猟に出た。原告は、本件銃の弾倉に実包を5発入れ、林の中に進み、そこで弾倉を本件銃に付け、歩き回ったところ、午後4時頃、鹿の群れを発見し、1頭の鹿を撃ち、命中させた。原告は、その場で本件銃のボルトを引いて薬室に実包を入れ、かつ、空薬きょうを取り出し、更に弾倉を外して再度ボルトを引いて薬室に入っていた実包を取り出してから、弾倉にこの実包とポケットから取り出した実包を補充し、本件銃に5発の実包が入った弾倉を付けた状態にし、その状態のまま、鹿を解体してリュックに入れた。この時点で原告は日の入りだと考え、狩猟をやめることとしたが、弾倉の取外しや安全確認をせずに本件銃をしまい、駐車していた自車に戻り、本件銃を自車の荷台に置き、自車を運転して拠点の駐車場に帰り、車中で食事をして就寝した。(乙8)

エ  原告は、平成24年3月8日、日の出から一人で自車を運転して釧路町を回った後、午前11時頃に自車に知人を乗せて厚岸町を回っていたところ、午後1時少し前頃に鹿が数頭いるのを発見し、厚岸町<以下省略>国道44号線路側帯に自車を駐車して知人を残し、遠距離射撃用のライフル銃を持参して一人で林の中に入った。(乙8)

オ  釧路方面厚岸警察署警察官は、平成24年3月8日午後1時24分頃、駐車している原告の車を認め、狩猟に係る法令遵守の有無を確認するため、職務質問を開始し、原告の知人の承諾を得て、原告の車内を検索したところ、同日午後1時48分、後部座席背もたれの後ろに覆いを被せた本件銃があるのを発見し、知人を通じて原告を呼び戻し、同日午後2時11分頃、本件銃について、弾倉内に実包5発が装てんされた状態であることを確認した。(乙5ないし7)

カ  原告は、知人に対し、ライフル銃を2丁持参していること、原告の車内に本件銃が置いてあることについて説明しておらず、知人はそのことを知らなかった。また、原告は、本件銃の監視を知人に口頭で依頼することもなかった。(乙5ないし7、原告本人)

キ  釧路方面厚岸警察署警察官が原告の車を検索した際、車内は、座席部分はペットボトル、日本酒の紙パック、空き缶等のゴミが入ったビニール袋が乱雑に置かれ、後部の荷室部分は、寝袋、スコップ、米袋等が雑然と積載されている状態であった。(乙6、7)

(2)  原告の銃の管理に関する事実

ア  原告は、北海道で狩猟を行う際、直近1、2年前頃から車中泊をするようになり、入浴や食事のために車から離れるときも、車中に銃を置いたままにしていた。(原告本人)

イ  原告は、本件違反行為当時、銃の保管用に鍵付のジュラルミン製のケースも持参していたが、狩猟をする間は、昼夜問わず布及びチャック付きの銃覆いで二重に覆いをする方法で保管し、全ての猟が終わり北海道から離れるための帰り支度をする際になって漸く同ケースに銃を入れていた。(原告本人)

(3)  本件聴聞に係る事実

ア  原告は、本件聴聞において、銃刀法の違反歴、行政処分歴の有無を尋ねられて、「ありません。」と答え、担当官から再度確認されて、常念岳の山小屋周辺で熊を撃ったことについて「何か警察から文書をもらった記憶があります。」と答えるに至った。(乙2の1)

イ  原告が受領し、現在も自宅の引き出しに入れて保管している本件指示処分の通知書には、「行政処分を決定した」「指示処分」及び不服申立の教示が明確に記載されている。(乙9の1、9の2、原告本人)

ウ  原告は、本件聴聞において、薬室に実包が入っていなくても装てんに当たり、外部に持ち出した銃を自分の目の届く範囲から外す行為が盗難防止の観点から危険な行為で保管義務違反に抵触する可能性を認識していたかを尋ねられて、「知りませんでした。」と答えている。(乙2の1)

2  銃刀法は、銃砲等の所持、使用等に関し危害予防上必要な規制について定めることをその趣旨とし(同法1条)、銃砲等により発生しうる危害を防止するため、銃砲等の所持を原則として一般的に禁止した上、一定の要件を満たした者のみ禁止を解除して所持を許可している(同法3条等)。銃刀法11条1項は、違反行為等一定の事由があった場合に銃砲所持の許可を取り消すことができるものと規定しているところ、その文言において裁量を許容しているといえること、所持を継続させるか否かという将来の危害防止の判断は公安行政とも関連し政策的・専門的な側面もあることからすれば、銃砲所持の許可取消処分を選択することについて、処分行政庁の裁量が認められるというべきである。

また、長野県公安委員会は、前記第2の2(4)アのとおり、合理的な処分基準を設けている。したがって、本件処分の適法性は、上記処分基準にも鑑み、処分行政庁である長野県公安委員会に裁量権の逸脱又は濫用があるか否かにより判断されるべきである(行政事件訴訟法30条参照)。

3  以上を踏まえて、本件処分の適法性を検討する。

(1)  銃砲の脱包義務は、原告自身も認めるとおり、銃砲所持者として最低限の基本的な義務である(原告本人)。本件違反行為においては、前記1(1)のとおり、平成24年3月7日の夕方頃から同月8日の昼過ぎまでの長時間にわたって脱包をしない状態を継続させていたもので、仮に警察官の職務質問や車両内の検索がなければ、さらに長時間違反の状態が続いていた可能性が高く、違反の態様として軽微とはいえない。

(2)  本件銃の保管状況をみると、前記1(1)カのとおり、本件違反行為時に原告の車内にいた知人は、原告から、本件銃の存在や監視の必要性など全く説明を受けていない。本件違反行為の前日においても、原告は、前記1(1)ウのとおり、同様に知人を車内に残し、本件銃のみ持ち出して数時間にわたり猟を行っている。また、警察官が車内を検索した際に目視で本件銃の存在を確認できたことについて、原告は、自車の移動中何かの拍子にケースごと動くなどして見えるような状況になったと説明しているところ(原告本人)、前記1(1)キのとおり、車内は雑然とした様子であり、適正な保管が期待できるような状況ではなかったといえる。前記1(2)のとおり、北海道滞在中において車内に銃を置いて離れる時間もあり、本件銃も施錠等によりケースから持ち出しができない状態でもなかった。以上の事情からすると、そもそも正当な理由なく他者をして銃の保管をさせることは違法である(銃刀法10条の4第1項)が、そのことをさて措いても、原告の知人が車を離れる可能性も十分にあり、銃砲の盗難の危険性もないとはいえず、原告の銃砲の保管状況が良好であったとは到底いえない。そして、原告が車内に銃をしまう場面、一日の始まりと終わり、自車から離れる場面などにおいて、銃砲の保管状況や実包の数等について確認をする習慣があれば、本件違反行為は容易に防ぎ得たといえる。

このように、本件違反行為は、原告が主張するような単なる一時的な「うっかりミス」にはとどまらず、原告の日常的な銃の管理状況が顕現しており、軽微ではなく、また同種違反の再発のおそれがあると認められる。

(3)ア  原告は、本件銃がボルト式のライフル銃であり、薬室に実包が入っていなかったことから、事故の発生の危険性はない旨主張するが、もとよりボルトを引くのみで弾倉の実包は薬室に入り発射可能となるのであるから、銃砲の弾倉に実包が装てんされれば危険性が高まっているのは議論の余地のないところであり、前記(2)の本件銃の保管状況は、係る危険性の高い状態にある本件銃に原告以外の第三者が接触する可能性を何ら減じるものではなく、仮に本件違反行為時の職務質問がなければ、本件銃による事故等の危険性が現実化するおそれがあったものと認められ、原告が主張する上記事情をもって本件違反行為が軽微であるとは到底いうことができない。

イ  原告は、平成24年3月7日に本件銃の脱包をしなかった理由として、本件違反行為の現場付近は熊の出没地帯であり、切迫した状況に置かれていた旨主張する。確かに、同日頃原告が滞在していた地域周辺は積雪もあったが(乙7、8)、冬眠明けの熊が出没する危険も否定できない時期ではあった。しかし、熊出没への対策方法は銃を脱包しない以外にも種々考えられるところ、前記1(1)アのとおり、原告は北海道で40回程度狩猟をした経験があり、対策の知識と準備の余裕は十分にあったものといえる。そして、本件銃を脱包せずに移動するという銃刀法違反の危険性のある方法をとる以上、特に注意を払って、必要がなくなれば直ちに脱包を行うべきところ、これをしなかったことは軽視できず、特別に斟酌できるものではない。

ウ  原告は30年以上の銃所持歴で本件指示処分以外の違反行為はなく、本件指示処分に係る違反は現実に出没した熊の撃退を登山客で賑わう山小屋の者から依頼され切迫した状況下で犯されたものであるなど酌むべき事情もあり(乙9の3)、原告の過去の銃の所持歴は良好といえる。また、原告は本件違反行為について自身の非難されるべき部分を進んで認め、真摯に反省している(甲2、原告本人)。しかし他方で、前記(2)の管理状況に加えて、前記1(3)のとおり、本件聴聞時における本件指示処分についてのやりとりなどにおいて銃刀法等の法律の定めや規制の内容についての理解が十分とはいえない様子が認められ、銃刀法違反により生じうる危害は重大なものになる可能性があることからすれば、上記の事情によって、原告に再発防止が期待できるということはできない。

(4)  以上によれば、原告にとって有利な事情を考慮しても、本件違反行為は軽微とはいえず、同種事案の再発のおそれも認められ、これは前記第2の2(4)イの指示処分に係る処分基準に適合せず、同アの許可取消に係る処分基準に適合している。処分行政庁の過去の同種事案の行政処分の状況(乙10の1ないし10の6)について、これらの事案の詳細は不明であるが、少なくとも、本件処分が殊更に重いものではないと認めることができる。その他処分行政庁の本件処分に係る判断過程に問題はなく、裁量権の逸脱又は濫用があるとはいえず、本件処分は適法であると認められる。

4  以上のとおり、本件処分は適法であり、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石原寿記 裁判官 松本有紀子 島添聡一郎)

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