長野地方裁判所 平成8年(行ウ)14号 判決 1999年1月28日
原告
内田幸一(X)
(ほか三五名)
原告ら訴訟代理人弁護士
中島嘉尚
同
内村修
同
武田芳彦
同
富森啓児
同
木下哲雄
同
大門嗣二
同
岩下智和
同
小笠原稔
同
上條剛
同
菊地一二
同
松村文夫
同
毛利正道
右訴訟復代理人弁護士
相馬弘昭
被告
長野市長(Y) 塚田佐
右訴訟代理人弁護士
宮澤建治
同
中嶌知文
右訴訟復代理人弁護士
徳竹一臣
同
宮澤明雄
被告指定代理人
小林精四朗
同
白倉清弘
同
松本至朗
主文
一 本件訴えのうち土地提供の差止めを求める部分を却下する。
二 原告らのその余の訴えに係る請求を棄却する。
三 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第三 当裁判所の判断
一 争点1について
1 地方自治法二四二条の二第一項一号所定の差止請求は、普通地方公共団体の執行機関又は職員の財務会計上の違法な「行為」を対象とするものであり、かつ、右の財務会計行為とは、具体的には同法二四二条一項に列挙されている住民監査請求の対象事項のうち「公金の支出」「財産の取得、管理若しくは処分」「契約の締結若しくは履行」及び「債務その他の義務の負担」を指し、「怠る事実」を含まないことは法文上明らかである。したがって、原告らの主張するように「財産の管理を怠る事実」をも対象とした差止請求が認められる余地はない。
2 ところで、原告らが本件訴えをもって差止めを求めているのは、前判示のとおり第二次契約に基づいて市有地を提供し続けていることである。しかしながら、賃貸借契約においては、賃貸人は契約により定められた一定の使用収益を賃借人にさせる義務を負うものの、この使用収益の目的を達成するために賃貸人が何らかの積極的な作為をする必要がある場合はともかく、一般的にはいったん目的物を賃借人に引き渡した後は、ただ単に賃借人の使用を受忍するだけで足りることが多いのであり、この場合には積極的に提供するという作為は想定し難いものといわなければならない。この点、本件においても、長野市は、第二次契約締結後、京浜急行に引き渡された本件市有地をゴルフ場の用途に使用させたままにしているだけであり、何ら使用収益のための積極的な作為をしているわけではない。
そうすると、原告の主張するような「提供行為」があるわけではなく、かつ、この使用させたままにしている状態が前記の「債務の履行」や「債務その他の義務の負担」に該当するものでないことは明らかである。
また、右にいう「財産の管理」とは、公有財産について、その財産的価値の維持、保全を目的として行う執行機関又は職員の行為を意味するのであるが、差止訴訟が行政機関に対する一種の消極的職務命令を内容とする給付訴訟であることにかんがみれば、執行機関又は職員の作為を伴うもののみがその対象となり、不作為はこれに含まれず、同項三号所定のいわゆる怠る事実の違法確認の問題として取り扱うべきものと解すべきである。そこで、本件についても、前判示のような市有地を使用させたままにしているという不作為は「財産の管理」に当たらないこととならざるを得ない。
その他、本件全証拠に照らしても、第二次契約に基づいて本件市有地を賃借人である京浜急行に使用させていることが同項一号掲記の財務会計「行為」に該当することを認めるに足りる事実関係は存しない。
3 よって、本件訴えのうち差止請求部分については、その余の点について判断するまでもなく、差止めの対象が存しないから、訴訟要件を欠き、不適法である。
二 争点2について
1 本件市有地については、これが直接的に行政目的に供される行政財産に属することを認めるに足りる証拠はないから、その性質は普通財産であるというほかなく、したがって、その経済的価値に着目して所有される財産として維持、保全をすべきものであり、用途が一定のものに限定されるわけではない。
2 そこで、普通財産の管理については、経済的価値の維持、保全という観点からその適否を判断すべきこととなるが、本件において原告らが問題とするゴルフ場の用途のために市有地を使用させたままにしておくことについては、前判示のとおり第二次契約においてゴルフ場の営業開始月までは年額一万六一九四円、営業開始月以降は年額八五万九三五二円の賃料を徴することとされており、右賃料が不当に低廉であることを認めるに足りる証拠はないから、長野市に財産上の損害を与えるものではなく、したがって、市有地の管理を怠るものとして違法であるとすることはできない。
3 もつとも、原告らは、ゴルフ場の用途に供すること自体が原状回復の不能や災害等発生による復旧の困難性等により長野市に財産的損害を与えるので、違法である旨主張する。しかしながら、本件市有地は、普通財産に属するものとしてその用途が一定のものに限定されているわけではなく、ゴルフ場として利用することが山林・原野の価値を低下させるという一般的観念が存しない以上、原状回復が不可能ないし困難であるとの一事をもって、財産的損害が生じるというものでないことは明らかである。また、ゴルフ場建設及び営業が一般的に災害発生や水質汚濁等を生じさせる危険生を伴うというのであればともかく(このような経験則は存しない。)、その設備や運営方法によって災害等発生の具体的危険生が生ずるというのであれば、それは、ゴルフ場用地として使用させること自体の問題ではなく、賃借人の使用方法の問題にすぎないのであるから、結局、この点を把えて普通財産としての維持保全を図るべき本件市有地の管理を怠っている違法があるとすることはできない。
第四 結論
以上の次第で、本件訴えのうち土地提供の差止めを求める部分は不適法な訴えであるからこれを却下し、財産管理を怠る事実の違法確認請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条、六五条一項本文を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 齋藤隆 裁判官 針塚遵 廣澤諭)