長野地方裁判所 平成8年(行ウ)19号 判決 2001年3月23日
原告
甲
右訴訟代理人弁護士
毛利正道
被告
諏訪税務署長
高畑昭文
右指定代理人
田中芳樹
同
下岡守彦
同
月岡滉
同
宮澤憲司
同
立川淳一
同
田口勉
同
萩庭隆伸
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告が平成7年2月27日付けで原告に対してした平成3年分(ただし、納付すべき税額300円を超える部分)、同4年分及び同5年分の所得税の各更正処分及び同無申告加算税の各賦課決定処分は、いずれもこれを取り消す。
第二事案の概要
本件は、主として建材運搬業を営む白色申告の個人事業者である原告が、平成3年分ないし同5年分の所得税について確定申告をしたところ、被告が、原告の所得額を推計により算出し、更正及び無申告加算税賦課決定を行ったことから、原告が、被告の推計による課税には合理性がなく、被告が推計により算出した所得金額は原告の実際の所得金額を上回っているとして所得の実額を主張し、右更正及び賦課決定の全部あるいは一部の取消しを求めた事案である。
一 判断の前提となる事実(当事者間に争いがない。)
原告は、長野県諏訪郡富士見町落合において主として建材運搬業を営むいわゆる白色申告の個人事業者である。
原告は、平成3年分の所得税の確定申告書を平成5年1月6日に、平成4年分の所得税の確定申告書を平成5年12月21日に、平成5年分の所得税の確定申告書を平成6年9月7日にそれぞれ被告に提出した。
これに対し、被告は、原告の平成3年分及び4年分の確定申告書には、事業所得の金額のみが記載され、その算定の基礎となる収入金額又は必要経費の記載がなく、かつ、所得税法120条4項及び同法施行規則47条の3に規定する「事業所得に係る総収入金額及び必要経費の内訳書」の添付がなく所得金額の算出過程が不明であったほか、申告の事業所得の金額が同業者に比して僅少であると判定されたこと及び平成5年分の所得税の確定申告書が提出されていなかったこと等から、右平成3年分ないし同5年分(以下「本件各係争年分」という。)の所得税について調査の必要があると認め、被告係員において、平成6年4月20日から平成7年2月13日までの間、複数回にわたって、原告宅を訪問するなどしたが、原告からは調査への協力が得られなかった。
そのため、被告は、本件各係争年分の所得を実額で算定することは困難であると判断し、本件各係争年分の所得税に関し、平成7年2月27日付けで、推計課税による更正処分(以下「本件各更正処分」という。)を行うとともに無申告加算税の賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せて以下「本件課税処分」という。)を行い、その旨原告に通知した。
なお、本件各係争年分における原告のした確定申告並びに被告のした本件課税処分及びこれに対する原告の不服申立ての経緯は、別表一の(一)ないし(三)記載のとおりである。
二 争点
1 本件推計課税の合理性
2 実額反証
三 争点に関する当事者の主張
(争点1について)
1 被告
(一) 推計による所得額の算出
被告は、原告が一般貨物自動車運送業を営むものであるとして、以下のとおり、推計の方法によりその所得額を算出した。
(1) 平成3年分
① 収入金額 2485万6235円
右金額は、原告の営む一般貨物自動車運送業に係る平成3年分の収入金額につき被告の把握した合計額であり、その内訳は別表二の(一)記載のとおりである。
② 事業専従者控除額控除前の所得金額 747万1784円
右金額は、①の収入金額に、原告と同種の一般貨物自動車運送業を営み、かつ事業規模が類似する青色申告者(以下「比準同業者」という。)の同年分の総収入金額に占める青色申告特典控除前の所得金額(収入金額から必要経費の額を控除して算出した所得金額をいう。)の割合の平均値(以下「平均所得率」という。)である0.3006を乗じて算出した額である。
③ 事業所得の金額 700万1784円
右金額は、②の事業専従者控除額控除前の所得金額から原告の次男である乙に係る所得税法57条3項に規定する事業専従者に係る必要経費(以下「事業専従者控除額」という。)47万円を控除した金額である。
④ 所得控除額 77万9800円
右金額は、原告の申告額である。
⑤ 課税総所得金額 622万1000円
右金額は、③の金額から④の金額を控除した金額(ただし、国税通則法118条1項により千円未満の端数を切り捨て後のもの。)である。
⑥ 納付すべき税額 96万6300円
右金額は、⑤の金額に所得税法89条(昭和63年法律第109号による改正後のもの。以下同様)に規定する税率を適用して算出した金額である。
(2) 平成4年分
① 収入金額 2220万2939円
右金額は、被告の把握した平成4年分の収入金額の合計額であり、その内訳は別表二の(二)記載のとおりである。
② 事業専従者控除額控除前の所得金額 680万0760円
右金額は、①の収入金額に、同年分の比準同業者の平均所得率である0.3063を乗じて算出した額である。
③ 事業所得の金額 633万0760円
右金額は、②の事業専従者控除額控除前の所得金額から前記乙に係る事業専従者控除額47万円を控除した金額である。
④ 所得控除額 74万8700円
右金額は、原告の申告額である。
⑤ 課税総所得金額 558万2000円
右金額は、③の金額から④の金額を控除した金額(ただし、国税通則法118条1項により千円未満の端数を切り捨て後のもの。)である。
⑥ 納付すべき税額 81万6400円
右金額は、⑤の金額に所得税法89条に規定する税率を適用して算出した金額である。
(3) 平成5年分
① 収入金額 2245万0902円
右金領は、被告の把握した平成5年分の収入金額の合計額であり、その内訳は別表二の(三)記載のとおりである。
② 事業専従者控除額控除前の所得金額 661万6280円
右金額は(①の収入金額に、同年分の比準同業者の平均所得率である0.2947を乗じて算出した額である。
③ 事業所得の金額 614万6280円
右金額は、②の事業専従者控除額控除前の所得金額から前記乙に係る事業専従者控除額47万円を控除した金額である。
④ 所得控除額 77万1200円
右金額は、原告が確定申告書に記載した社会保険料控除及び基礎控除の合計額である。
⑤ 課税総所得金額 537万5000円
右金額は、③の金額から④の金額を控除した金額(ただし、国税通則法118条1項により1000円未満の端数を切り捨て後のもの。)である。
⑥ 納付すべき税額 77万5000円
右金額は、⑤の金額に所得税法89条に規定する税率を適用して算出した金額である。
(二) 比準同業者抽出方法の合理性
(1) 被告が原告の本件各係争年分の所得金額を算出するに当たり採用した推計の方法は、前記のとおり、比準同業者の平均所得率によるものであり、右推計に用いた比準同業者及び平均所得率は、関東信越国税局長が、長野県内の全税務署長に対し、各税務署管内において、本件各係争年分ごとに左記の①ないし⑤の条件のすべてに該当する者を別表三の(一)ないし(三)記載のとおり抽出し算出したものである。
記
① それぞれの年分の暦年を通じて、一般貨物自動車運送業(ダンプによる運送を行い、仕入のあるものに限る。以下同じ。)を継続して営んでいた者であること
② 一般貨物自動車運送業以外の事業を兼業していなかった者であること
③ 所得税青色申告決算書を提出していた者であること
④ 年間の売上(収入)金額が、次の範囲内にある者であること
平成3年分 1235万1000円以上 4940万5000円未満
平成4年分 1117万8000円以上 4471万4000円未満
平成5年分 1122万5000円以上 4490万2000円未満
⑤ 次のイ及びロのいずれにも該当しない者であること
イ 災害等により経営状態が異常であると認められる者
ロ 税務署長から更正又は決定処分がされている者のうち、次のa又はbに該当する者
a 当該処分について国税通則法又は行政事件訴訟法の規定による不服申立期間又は出訴期間を経過していないもの
b 当該処分に対して不服申立てがされ、又は訴えが提起されて現在審理中であるもの
(2) ところで、推計課税は、納税者の所得金額を実額で把握することができない場合に、やむを得ず間接資料によって真実の所得金額に近似するものとして推計した数値を所得金額と認定して課税するものであるが、この推計で得られる数値は一般的・抽象的な見地から真実の所得金額に一致する蓋然性があれば足りるから、推計ないし比準同業者の抽出過程の合理性を検討するに際しても、一般的・抽象的にみて実額に近似した数値を求めるのに必要な限度で類型的な事実に基づいて考察すれば足りると解すべきである。しかるところ、所得税法が推計による課税を認めている以上、推計の方法としていわゆる同業者比率の平均所得率を用いる場合の同業者の類似性については、業者間に無限に存する個別的営業条件の差異をいちいち考慮する必要はないのであって、業種・業態の類型的同一性、法人・個人の別、事業所の存する地の地理的・環境的近接性、事業規模の近似性等の基本的要因において同業者抽出基準が合理的であれば、業者間に通常存在する程度の営業条件の差異は、それが推計自体を不合理ならしめる程度に顕著なものでない限り、右の平均所得率を算出する過程で包摂される以上、同業者率によって所得金額を推計することは合理性がある。しかも、推計課税を行うのは、税務調査に対して納税者の協力が得られず所得の実額を把握できない場合であるから、納税者と比準同業者との類似性を過度に要求すれば、原告の業態と同じ業態の同業者が著しく少ない場合には課税自体が不可能になってしまうばかりか、正確な帳簿書類を備え付け、あるいは税務調査に協力する納税者との間に課税の公平が保てなくなってしまい不合理である。
しかるところ、本件で抽出された比準同業者は、別表三の(一)ないし(三)記載のとおり、申告者名簿で「一般貨物自動車運送業」として分類された者の中から無作為に抽出されたもので、恣意が介在する余地はなく、業種・業態の類型的同一性、法人・個人の別、事業所の存する地の地理的・環境的近接性、事業規模の近似性等の基本的要因において同業者抽出基準の合理性に欠けるところはない。原告の主張するように同業者間に仕入の多寡が存在するとしても、そのような差異は同業者間に通常存する程度の差異であり、推計の基本的な要因にかかわるものとはいえない。
(三) まとめ
以上のとおり、本件において、比準同業者の抽出過程には違法はなく、被告の行った推計課税には合理性がある。
しかして、本件各係争年分において原告が納付すべき所得税額は、前記のとおり本件各更正処分により納付すべき税額を上まわるから本件各更正処分はいずれも適法である。
また、被告は、原告が本件各更正処分により新たに納付すべきこととなった本件各係争年分の各所得税額(国税通則法118条3項の規定により、 1万円未満の端数を切り捨て後のもの。)を基礎として、同66条(昭和62年法律第九六号改正後のもの。)に基づき100分の15を乗じて算出し、本件各係争年分の無申告加算税の賦課決定を行ったが、本件各係争年分において原告が納付すべき税額は、平成3年分につき14万4000円、平成4年分につき12万1500円、平成5年分につき11万5500円(いずれも納付すべき税額に100分の15を乗じたもの)であり、本件各賦課決定処分により原告が納付すべき税額を上まわるから本件各賦課決定処分はいずれも適法である。
2 原告
被告の行った前記比準同業者の抽出方法は、以下のとおり合理性がなく、違法というべきである。
(一) 申告者名簿に基づく抽出について
被告の有する申告者名簿は、単に業者を分類することに目的があり、比準同業者の抽出を目的として作成しているものではない。したがって、実質複数の事業をしている場合に、主として行っている事業名が名簿に記載されているとは限らないはずである。
(二) 一般貨物自動車運送業を営む者を対象としている点
原告は、ダンプカー二台を所有し、主として砂利・採石・土砂などの建設資材の運搬を、従としてこれら資材を仕入れて販売する事業を営んでいる者であって、その内容、規模に照らせば、原告の事業は、砂利販売業あるいはこれと同種の事業というべきものである。現に原告の事業は、土砂等を運搬する大型自動車による交通事故の防止等に関する特別措置法(以下「ダンプ規制法」という。)3条により砂利販売業として認定されており自動車運送事業とは認定されていない。また、日本標準産業分類上の「一般貨物自動車運送業」とは、貨物自動車運送事業法上の「一般貨物自動車運送事業」を指し、同法に基づき運輸大臣の許可が必要な事業を指すところ、右許可を受けて事業を営む者は、相当の事業規模を持つ業者である。しかも、一般貨物自動車運送業は、運ぶ物には制限がなく、また、運送手段についても、軽自動車・軽車両が除外されているだけで、ダンプカーのほかトラック・トレーラー等何ら制限がない。しかし、原告はダンプカー二台だけで前記砂利運送事業を行っている超零細事業者であり、一般貨物自動車運送事業者に科せられる貨物自動車運送事業法上の各種規制に服さないまま、運送業務を営んでいるに過ぎないから、一般貨物自動車運送事業の許可を有する事業者との事業規模の類似性は全くなく、原告の事業を一般貨物自動車運送業に該るとして、かかる業種を比準同業者抽出の基準として設定したところで、比準同業者の範囲を限定する効果はほとんどない。
むしろ、日本標準産業分類に搭載されていない業種を申告者名簿で認定することは妨げられないから、被告は、日本標準産業分類では一義的に分類できない前記のような原告の事業形態を、ダンプ規制法によりfile_2.jpgが付された表示番号の指定を受けているダンプカーのみを保有している事業者として独立の業種として認定し、同じ業種を営む者を比準同業者として抽出すべきである。
(三) ダンプによる運送を行う者を対象としている点
原告は、前記のとおりダンプカー二台を所有し砂利販売業あるいはこれと同種の事業を営んでいるものであるが、かかる基準によると、ダンプのみならずトラック・トレーラーも保有して商品を運んでいる業者が除外されなくなるが、ダンプカー以外の運送用車両保有状況等によっては、所得率に大きな差異が生ずる可能性がある。また、ダンプは、購入価格・公租公課・保険料・燃料費・分割払利息・修理費・タイヤ交換費用などの経費が多大であり、一般に収入金額に占めるそれら経費の比率が高くなるから、ダンプの保有台数も所得率に大きな影響を与える要因であるし、また、収入金額の高低がダンプの保有台数に連動するとは限らないから、収入金額についての倍半基準を採れば足りるものではないにもかかわらず、被告はかかる事情を何ら考慮していない。
(四) 仕入のあるものとの基準について
原告の事業のうち、仕入販売部門の総収入は全体の事業の一割程度に過ぎない。
また、被告の設定する基準では、仕入販売のための設備がないまま仕入販売を行い、その売上が総売上の90パーセントになる者についてどう扱われるのか定かでなく、このような者も比準同業者に含まれるとすれば業態に類似性があるとはいえない。また、「仕入あるもの」という基準では、「ダンプによる運送」業務に関して仕入があったのか否か不明であり、トラック運送部門で仕入があることもありうる以上、ダンプによる仕入があり、かつ、それ以外の仕入がない者を対象としなければ原告の事業と類似性があるとはいえない。
(五) 倍半基準について
被告の主張する後記3の倍半基準は、その事実自体実証されていない。
また、収入金額はそれほど大きくなくても、仕入販売が事業の大きな部分を占めることは十分ありうる。しかも、業種の同一性は、収入金額のみで論じられるものではなく、事業規模等も斟酌すべきところ、前記(二)のとおり、一般貨物運送事業者の事業規模は原告の事業とは格段に異なっている。
被告の主張によれば、倍半基準さえ満たせば業種の違いは比準同業者の抽出過程の合理性の有無の判断に際しほとんど意味を持たなくなり不合理というべきである。
(六) まとめ
本件において比準同業者を抽出するうえでは、運搬手段としては原告と同様にダンプ規制法3条の規制に服するダンプカーを二台のみ保有する業者であり、かつ、砂利、砕石、土砂などのダンプカーによってのみ運搬する建設資材の仕入がある者(ただし、仕入高が売上高の一定割合以下の者に限る。)を比準同業者として抽出すべきである。それによって抽出できる比準同業者数が少なくなるという事態が発生した場合は、抽出の地域的範囲を近隣県にまで広げるなりして、取るべき手段がある限り適切な抽出過程を踏むべきである。
少なくとも被告が抽出した比準同業者について、①仕入金額、②保有している運送手段の種類と台数を主張して、裁判所と原告の検討に供すべきであり、これをしない被告の主張は合理性がない。
3 原告の主張に対する被告の反論
原告は、その事業内容は、砂利販売業であり、行政上もそのように認定されているとして、一般貨物自動車運送業を営む者を比準同業者としたことには合理性がない旨主張するが、原告の事業は主としてダンプを用いて砕石等を運搬するというものであることは明らかであり、貨物自動車を用いて貨物を運搬し、その対価を得るという点で貨物自動車運送業を営む者と何ら変わるものではなく、原告の事業にかかる所得を導く収入、経費は、貨物自動車運送業と構造上の類似性を有するものである。ダンプ規制法上の砂利販売業としての認定は、行政上の観点から、なされるもので、同認定によって事業の実態が決定されるものではない。
また、原告は、貨物自動車運送事業法上の許可を受けておらず、日本標準産業分類上の一般貨物自動車運送業を行っているものとはいえない旨主張するが、原告の事業実態は、前記のとおり貨物自動車運送業というべきであり、貨物自動車運送事業法上の許可の有無によって事業実態が決定されるものではない。仮に、日本標準産業分類上の一般貨物自動車運送業が、貨物自動車運送事業法上の許可を受けた者を指すとすると、いわゆる白ナンバーで道路運送事業を営む者については、課税庁での業種分類の際にその経済活動の実態が反映されなくなり不合理である。
さらに、原告は、一般貨物自動車運送事業の許可を有する者と原告とは事業規模の類似性がないほか、一般貨物自動車運送業を営む者が仕入販売を兼業するような場合や、その仕入販売の比重の多寡、所有するダンプカーの台数等によっても事業規模は変わり、必然的に収入金額も変わってくる旨主張するが、比準同業者の抽出過程においては、前記1(二)(1)の条件④のとおり反面調査により把握した原告の収入金額を基に収入金額がその2分の1ないし2倍(以下「倍半基準」という。)の範囲内にある同業者を抽出対象としているのであり、かかる基準は、合理的な経験則に基づくもので同業者の類似性を十分担保しうるものであるから、事業規模の大小は、比準同業者の抽出過程の合理性に影響を与えない。
(争点2について)
1 原告
(一) 総収入・必要経費の実額について
本件各係争年分における原告の総収入額については、別表四の(一)記載のとおり平成5年分につきA分の8万5340円を追加し、その総収入が2253万6242円であることを除き、別表二の(一)ないし(三)記載のとおりである。
そして、原告が保存している関係書類によれば、原告の本件各係争年分の仕入金額あるいは必要経費の額及び事業所得金額の実額は、別表四の(二)(三)記載のとおりである。
そうすると、本件各更正処分に係る各年の総所得金額は、右の原告の実際の所得金額を上まわっているので、本件課税処分はいずれも違法である。
(二) 実額反証の立証の程度
被告は、実額反証を行うには、合理的な疑いを容れない程度にその実額を証明することを要するとともに、その証明には会計帳簿や同帳簿を作成する基礎になっている原始記録をもって立証することを要する旨主張するが、事業所得等を有する者の帳簿書類の備付け等について規定する所得税法231条の2は、第1項において、概要、所得金額が300万円を超える白色申告納税者に限って帳簿を備え付けること、総収入金額及び必要軽費に関する事項を大蔵省令で定める簡易な方法により記録することを規定しているが、同条の反対解釈としては、所得金額が300万円以下の原告のような零細納税者については、そもそも記帳義務はないことになる。しかも、個人事業者である白色申告納税者は、経理専門の従業員も税理士も置けないままの脆弱な経営環境の下で事業を展開しているものである。このような、零細納税者を巡る困難な経営環境に着目すれば、実額反証を行うについて、帳簿類その他の原始記録による立証を要求するのは著しく酷というべきである。同様に、原告は、その主張する収入金額が総収入金額であるとか、必要経費について売上との個別的対応関係にあることまで立証する責任はないというべきであって、具体的に収入金額に捕捉漏れがあることが明らかとなったとか、納税者の経費実額の主張がその収入とバランスを失することが明らかであるような場合を除いて、その主張に係わる収入金額はそれが納税者の全収入金額であるものとして取り扱われるべきである。
2 被告
(一) 推計課税に対し、その取消しを求める抗告訴訟において、原告がその収入及び経費の実額を主張・立証することは、原告の再抗弁に当たり、その収入及び経費のすべてを主張し、かつ、その主張する収入及び経費の実額が真実の所得金額に合致することを合理的な疑いを容れない程度に立証することを要するというべきところ、事業所得の金額は、その年中の事業所得に係る総収入額から総必要経費を控除した金額である(所得税法27条2項)から、納税者が、推計による所得認定が過大であるとして、所得実額を訴訟において立証し、推計による課税処分の適法性を覆すためには、その主張する収入及び必要経費の各金額が存在し、更に必要経費については事業との関連性が認められること、右収入金額がすべての取引先から発生した総収入金額であること、右必要経費が右収入と対応するものであり、しかも、直接費用については個別的な対応の事実、間接費用については期間対応の事実があることを、それぞれ合理的な疑いを容れない程度に立証しなければならないものというべきである。
また、課税庁が収入について反面調査等により把握した金額を基に必要経費のみ推計しているとしても、推計の前提となる比準同業者の抽出においては、その収入額を前提とする方法によっているのであるから、課税庁が把握した収入金額に補足漏れがあると認められるような場合に納税者が実額反証を行うときには、やはり前記のような厳密な立証を要するものというべきであって、単に右必要経費のみを実額で立証すれば推計の合理性を否定できるものではない。
なお、零細事業者について単なる記録の保存義務を有するにとどまっていることと、正確な資料の保管、提出を怠り、税務調査に協力せず推計課税を余儀なくさせた納税者が、実額反証をするために正確な記帳に基づいた証明を要求されることとは全く別問題である。
(二) 原告は、右実額反証に必要な資料としての現金出納帳、売上帳、仕入帳、経費帳等の会計帳簿や同帳簿を作成する上での原始記録である請求書控、領収証控等を提出しないばかりか、必要経費として主張する勘定科目についても取引内容あるいは事業関連性ないし経費性について十分に立証しているとはいえない。
よって、原告が主張する収入及び必要経費の各実額の立証は、被告の推計による所得認定を覆すに足りるものとはいえない。
第三当裁判所の判断
一 争点1(本件推計課税の合理性)について
1 推計課税の合理性
所得税の更正又は決定を行うについて、所得税法156条が許容する所得金額を推計により算出し課税するいわゆる推計課税は、所得実額を把握する資料のない場合に、やむを得ず間接的資料によって所得を推計するものであるから、推計の方法は、最もよく実際の所得実額に近似した数値を算出しうる客観的、合理的なものでなくてはならないというべきである。そして、本件のように、推計の方法として比準同業者の平均所得率を用いる場合に、その合理性を肯定するためには、右平均所得率の適正が担保されていること、すなわち比準同業者の抽出基準、抽出過程に合理性が認められることを要するものというべきところ、その合理性判断にあたっては、業種・業態の同一性、法人・個人の別の同一性、事業所の近接性、事業規模の近似性等の諸事情を考慮することはもとより、適正な資料に基づくとともに、その抽出過程において課税庁の恣意の介在する余地のないものであることを要するものと解するのが相当である。
2 証拠により認められる事実
(一) 比準同業者の抽出基準について
証拠(乙第12号証、第13号証の1ないし10、第14号証の1ないし10、第21、第22号証、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、被告が推計課税を行うに当たって抽出した比準同業者の選定経緯及びその方法については、以下のとおりの事実が認められ、原告本人尋問の結果のうち右認定に反する部分は採用することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
被告は、本件課税処分時の調査等を通じて、原告がダンプカーにより砕石等を運搬していること、取引形態は、特定の取引先との専属契約によるダンプカーの運送ではなく、複数の取引先からダンプカーによる運送の取引を受注していること、砕石等の運搬のみならず砕石等を仕入れたうえで販売するという取引も行っていることを把握していたことから、かかる原告の事業の特徴に鑑み、原告の主たる業種を「建材運搬業」と認定した。そして、被告は、総務庁統計局統計基準部編集の日本標準産業分類に基づき原告の業種分類を行ったが、日本標準産業分類には「建材運搬業」なる業種はなかったことから、大分類「運輸・通信業」の中の中分類「道路貨物運送業」の中で細分類されている7業種について比較検討し、原告の前記事業の特色を踏まえ、原告の事業を、右細分類の中の「一般貨物自動車運送業」、すなわち「他人の需要に応じて有償で、自動車(三輪以上の軽自動車及び二輪の自動車を除く)により、貨物の運送を行う者(特別積合せ貨物運送業を除く)」に該当するものと認定した。
その上で、被告は、関東信越国税局長発出の通達(以下「本件通達」という。)に従い、長野県下の全税務署長に対し、各税務署管内において、本件各係争年分ごとに左記の条件(以下「本件抽出基準」という。)の全てに該当する同業者の調査を求め、これに該当する同業者を把握した長野、伊那、飯田、松本の税務署から、別表三の(一)ないし(三)記載の比準同業者の報告を受けた。本件抽出基準のうち、④の条件は、売上先に対する反面調査により、平成8年10月現在において被告が把握し得た原告の収入金額(平成3年分2470万2252円、平成4年分2235万6922円、平成5年分2245万0902円)を基に、収入金額が原告の2分の1ないし2倍の範囲内(いわゆる倍半基準)である同業者を抽出したものである。その後、被告は、平成9年10月24日付け準備書面において、右原告の収入金額を平成3年分2485万6235円、平成4年分2202万2939円と変更したが、別表三の(一)ないし(三)記載のとおり被告が抽出した比準同業者は、右変更後の収入金額を基にした倍半基準の範囲内にも収まっている。
記
① それぞれの年分の暦年を通じて、一般貨物自動車運送業(ダンプによる運送を行い、仕入のあるものに限る。以下同じ。)を継続して営んでいた者であること
② 一般貨物自動車運送業以外の事業を兼業していなかった者であること
③ 所得税青色申告決算書を提出していた者であること
④ 年間の売上(収入)金額が、次の範囲内にある者であること
平成3年分 1235万1000円以上 4940万5000円未満
平成4年分 1117万8000円以上 4471万4000円未満
平成5年分 1122万5000円以上 4490万2000円未満
⑤ 次のイ及びロのいずれにも該当しない者であること
イ 災害等により経営状態が異常であると認められる者
ロ 税務署長から更正又は決定処分がされている者のうち、次のa又はbに該当する者
a 当該処分について国税通則法又は行政事件訴訟法の規定による不服申立期間又は出訴期間を経過していないもの
b 当該処分に対して不服申立てがされ、又は訴えが提起されて現在審理中であるもの
(二) 各税務署における比準同業者の抽出過程について
証拠(乙第24、第26、第27号証、証人丙)及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
(1) 被告から、本件通達に基づいて同業者調査を求められた各税務署が同業者を抽出した過程は以下のとおりである。
(イ) 各税務署管内の納税者の住所、氏名、業種名、青色・白色区分等が記載されている申告者名簿の中から、一般貨物自動車運送業を営む業者を抽出した。
(ロ) 右抽出した業者の中から所得税青色申告決算書(以下「決算書」という。)を提出している業者を確認し、当該業者の所得調査力ード(所得税の確定申告書等に基づいて作成される部内書類で、納税者の住所、氏名、業種名、青色・白色区分、申告額及び調査額等が数年分連記で記録されているもの。なお、確定申告書に添付して税務署に提出された決算書は、所得調査カードに入れられ、市町村別に番号順に保管されている。)から本件係争年分の決算書を抽出した。
(ハ) 右決算書から、本件抽出基準に該当する業者を抽出し、最終的な調査対象者とした。
(2) また、本件抽出基準中の「ダンプによる運送を行うもの」との条件については、決算書の減価償却費の計算欄からダンプの有無が確認できるので、それに従って抽出し、同基準中の「仕入れのあるもの」との条件については、決算書の損益計算書の売上原価欄から仕入れの有無が確認できるので、それに拠って抽出し、仕入れに伴う販売といういわゆる卸売業を営む者として分類されている者については除外している。
3 以上の事実によると、本件抽出基準は、業種の同一性、事業所の近接性、事業規模の近似性等の点において、同業者の類似性を判別する要件としては合理的なものということができる。また、各税務署は、本件抽出基準に該当する比準同業者の全てを抽出しており、その抽出過程に特段の思惑や恣意が介在する余地はなく、機械的に同基準に沿った同業者を選定しているものであり、比準同業者として抽出された者は、いずれも決算書を提出していた者で、経営状態が異常であったり、更正又は決定について不服申立て等を行っておらず所得金額が碓定している者であって、その総収入金額、必要経費などの算出根拠となる資料の正確性も担保されている。さらに、比準同業者として抽出された者の選定件数も、平成3年分5件、平成4年分が7件、平成5年分が6件といずれも同業者の個別性を平均化しうるに足りる数であり、その内容も収入(売上)金額、所得金額の多寡により、著しい偏差は存在しない。かかる事情に照らせば、本件抽出基準は平均所得率の適正を担保するに十分な合理性を有しているといえ、その抽出過程にも不合理な点は窺われない。
よって、被告の本件推計課税については合理性があるというべきである。
4 原告の主張について
(一) 原告は、被告の求めに応じて各税務署長が比準同業者を抽出する際に利用した申告者名簿は、単に納税者を業種ごとに分類することを目的とするものであって、比準同業者の抽出を目的として作成しているものではなく、また、原告は建築資材の運搬のほかに仕入販売も行っているところ、納税者が実質的に複数の事業を行っている場合、申告者名簿には、必ずしも主として行っている事業の業種名が記載されるとは限らないから、原告について、同名簿に基づいて比準同業者を抽出することには合理性がない旨主張するので検討する。証拠(乙第24、第26、第27号証、証人丙)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
各税務署においては、課税の適正を図る目的で、納税者を業種別に分類し、これを申告者名簿に記載することになっており、その業種分類の指標を日本標準産業分類に求めていた。もっとも、個々の納税者が確定申告書に記載する業種名は、日本標準産業分類で用いられる名称とは必ずしも一致しない場合があり、また、その申告業種が納税者の事業の実態を反映していないとの疑義が生じる場合もあるため、各税務署は、申告者名簿上の業種欄記載に際しては、確定申告書の記載のほか、決算書、開業届及び青色申告承認申請書等の提出書類の記載内容、あるいは税務署職員による納税者との個別的な相談、指導及び調査等で納税者と面接した際に把握した事業内容等を総合的に判断して実態に沿った業種分類を行っていた。
また、申告書等に記載がないものの納税者が複数の事業を営んでいると見込まれる場合も、各税務署では、まず、各事業ごとの売上金額(収入金額)を大分類ごとにまとめ、そのうち最も大きい金額の属する分類で大分類を決定し、さらに同様の方法で、中分類、小分類、細分類を決定し、その細分類上の名称を個々の納税者の業種名とする扱いをしていた。また、年によって主として営む事業に変更がある場合の業種分類については、当該納税者から提出された確定申告書、決算書等の内容から当該納税者の主たる業種を変更する必要がある場合には、申告者名簿上も業種変更が行われていた。さらに、複数事業を営んでいる場合は、前記の主たる事業の認定を行うとともに、その余の事業が「兼業」か「付随事業」かの検討も行っており、具体的には、個々の事業を営む上で、それぞれ独立した施設・設備を設けている場合が「兼業」、それ以外を「付随事業」と分類していた。
日本標準産業分類における一般貨物自動車運送業は、前記のとおり、「他人の需要に応じて有償で自動車(三輪以上の軽自動車及び二輪の自動車を除く)により、貨物の運送を行う事業所(特別積合せ貨物運送業を除く)」とされているところ、申告者名簿の業種記載においても、右定義に基づいて業種分類を行っており、右業種以外の複数事業を営んでいる場合には、一般貨物自動車運送業の収入金額や差益金額が多額を占める場合に、これを主たる事業と認定して、同業種の記載を行っていた。
以上の事実によれば、各税務署備付けの申告者名簿は、推計課税の前提としての比準同業者抽出それ自体を目的として作成されたものではないとしても、右認定の業種分類の手法に照らせば、そこで分類された業種は、当該納税者の経済実態を客観的に反映するものといえるから、比準同業者抽出のための客観的な資料としても十分合理性を有するものということができる。また、納税者が実質複数事業を営む場合であっても、申告者名簿に記載される主たる業種は、各事業の収入金額の大小によって認定され、兼業か付随事業かによる区分もなされるというのであるから、その申告者名簿の主たる業種の記載も客観的な資料からその経済実態に即した認定がなされているものということができる。加えて、本件比準同業者の選定は、申告者名簿のみから抽出したものではなく、同名簿により抽出した者について、さらに前期2(一)記載の本件抽出基準に合致するものに限定して選定したものである。
そうすると、各税務署備付けの申告者名簿に記載、分類された業種名は、納税者が複数事業を営む場合であっても、その経済実態を適正かつ合理的に反映しているものといえるから、これを比準同業者選定の第一次的な抽出資料として利用することには十分合理性があるということができる。原告の前記主張は採用することができない。
(二) 原告は、後記(2)ないし(7)のとおり、各税務署が抽出した比準同業者は、原告の業種、業態と著しく異なる者であるから、かかる比準同業者を基礎に同業者比率を算出して推計を行うことは不合理である旨主張するので検討する。
(1) 前記のとおり、推計課税は、納説者の所得金額を直接資料によって把握することができない場合に、やむを得ず間接資料によって推計した金額をもって真実の所得金額に近似するものとして認定し、課税するものであるが、原告と比準同業者の業種、業態の類似性を過度に要求することは、推計の方法による課税自体を不可能にすることになりかねないというべきである。そして、所得税法が推計による課税を認めている以上は、原告と比準同業者間に通常存在する程度の個別的な業態ないし営業諸条件の差異は、業種及び業態、営業所の近接性、事業規模の近似性等の基本的要因において比準同業者の抽出基準、抽出過程が合理的であれば、その平均値を算出する過程で捨象されるものというべきである。それゆえ、原告において比準同業者の類似性を否定して抽出された比準同業者を基礎にして算出された平均所得率の合理性を争う場合には、比準同業者の抽出基準に一定の合理性が認められる限り、原告において、原告と比準同業者との業種、業態等の営業諸条件の差異が経験則上所得率に決定的な影響を及ぼすこと、その差異が比準同業者の所得率が平準化される過程で捨象されない顕著な特殊事情であり、かかる原告の営業条件を抽出過程に反映させなければ不合理であることを立証する必要があるものと解するのが相当である。
(2) そこでこれを本件について見るに、原告は、ダンプカーを二台所有し、主として砂利・採石・土砂などの建設資材の運搬を、従としてこれら資材を仕入れて販売する事業を営んでいる者であって、その内容、規模に照らせば、原告の事業は、砂利販売業あるいはこれと同種の事業というべきものであって、一般貨物自動車運送業とはいえない旨主張する。
しかしながら、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は、昭和44年6月から、売上等の増減はあるものの、本件各係争年まで同一業態で事業を継続しており、本件係争年当時は、ダンプカー二台を所有し、貨物自動車運送事業法上の事業許可を受けていないいわゆる白ナンバー事業者として、自宅の一室を事務所とし、息子と二名で主として砕石、土砂等の建築建材の運搬と、かかる建材を仕入れて運搬し販売するという事業を営んでいたが、そのうち仕入販売部門の売上(収入)金額は総売上金額の約5分の1ないし一割程度にとどまっていたことが認められる。
右認定の原告の業態に照らせば、原告の事業は、建築建材の運搬と仕入販売の両者を内容とするものであることが認められるものの、右の原告の全事業のうち、仕入販売部門の占める割合は僅少であるから、その主たる業態は、ダンプカーを用いて建築建材を運搬するという一般貨物自動車運送業と業態において類似するものということができる。
(3) 原告は、日本標準産業分類上の「一般貨物自動車運送業」とは貨物自動車運送事業法上の一般貨物自動車運送事業と同一であるところ、原告は同法上の運送事業者としての事業許可を受けておらず、ダンプ規制法上の砂利販売業者として認定されているに過ぎない旨主張する。
しかして、原告が、貨物自動車運送事業法上の事業許可を受けていないいわゆる白ナンバー事業者であることは前記認定のとおりであるが、所得税は、個人の1年間の所得に担税力を見い出し、これに課税するものであり、当該個人の経済活動の実態に着目して、増加した資産を課税標準とするものであるから、推計課税において原告の業種・業態を把握するに際しても、その経済実態に着目して比準同業者を抽出すべきもめと解するのが相当である。しかるところ、ダンプ規制法は、土砂等の運送に関する秩序を確立し、もって道路交通の安全に寄与することを(同法1条)、貨物自動車運送事業法は、貨物自動車運送事業の運営を適正かつ合理的なものとし、貨物自動車運送事業の健全な発達を図り、もって公共の福祉の増進に資すること(同法1条)を目的としており、それぞれ右の行政目的達成の見地から、各法所定の事業を行おうとする者の営業方法を規制しようとするものであるから、その事業許可の有無それ自体が、当該事業者の業種・業態の把握に直接的に影響を与えるものとは解されない。かえって、原告が主張するように、日本標準産業分類上の一般貨物自動車運送業が、貨物自動車運送事業法上の一般貨物自動車運送事業としての許可を受けた業者による事業のみを指すとすると、事業の実態としては貨物自動車を用いて運送業を営んでいる、いわゆる白ナンバー事業者については、その事業実態が許可業者とさほど異ならないにもかかわらず、一般貨物自動車運送業には該当しないことになり、課税の場面において、その者が営んでいる経済活動の実態が反映されないこととなり不合理というべきである。また、乙第12号証によれば、日本標準産業分類は、①生産される財貨又は提供されるサービスの種類、②財貨生産又はサービス提供の方法(設備、技術など)、③原材料の種類及び性質、サービスの対象及び取り扱われるもの(商品など)の種類の諸点に着目して産業を区分し体系的に配列したものであり、この基準により事業所の産業を決定する場合は、事業所で行われている経済活動によることとされ、必ずしも行政庁の事情に対する許認可の存否に拘束されず、営んでいる経済活動の実態によってその産業を決定することとされていることが認められる。さらに、課税庁における業種分類についても、前認定のとおり、課税庁における申告者名簿は、各納税者を業種ごとにグループ分けをして納税者の各種情報を管理するものであり、この業種分類も、必ずしも行政庁の許認可の存否に拘束されることなく、各納税者の経済活動の種類や事業の実態を指標として分類、決定されているものである。また、原告の主たる業態が砂利販売業と認められないことは前記認定のとおりである。
これらの事情によれば、原告がダンプ規制法上の砂利販売業の許可業者であり、貨物自動車運送事業法上の許可業者でないからといって、原告の事業を一般貨物自動車運送業と認定して行った本件の比準同業者の抽出基準、過程が違法性を帯びるものとはいえない。
(4) 原告は、本件で一般貨物自動車運送業者を比準同業者として抽出すると、貨物自動車運送事業法上の事業許可を有する相当の事業規模を有する貨物自動車運送事業者が抽出されることになるところ、原告はダンプカー二台だけで運送事業を行っている超零細事業者であり、右大規模な事業者との間には事業規模の類似性は全くないから、本件で一般貨物自動車運送業者を比準同業者として抽出したところで、比準同業者の範囲を限定する効果はほとんどなく、むしろ、原告の事業形態を、ダンプ規制法によりfile_3.jpgの付された表示番号の指定を受けているダンプカーのみを保有している事業者の行う事業を独立の業種として認定し、かかる事業を営む者を比準同業者として抽出すべきである旨主張する。
しかしながら、本件比準同業者の抽出に当たっては、前認定のとおり、被告が反面調査等により把握し得た原告の収入額を基礎としつつ、いわゆる倍半基準を適用して、原告の右収入額に近似する収入を計上している同業者を抽出しているところ、一般貨物自動車運送業において、ダンプカーやトレーラーといった運送用車両の種類や保有台数等の具体的運送手段についての事業規模の大小が、収入金額や所得率の多寡に一定の影響を与えるものであることは経験則上否定できないとしても、本件各係争年分につき抽出された各比準同業者の中には、原告の主張する収入金額を下回る者も相当程度含まれており(平成3年分につき5件中4件、平成4年分につき7件中4件、平成5年分につき6件中4件)、また、原告の収入金額は、その主張(ただし、平成3年分、平成4年分は被告主張の収入金額と一致する。)を前提としても、別表四の(一)記載のとおり、平成3年分が2485万6235円、平成4年分が2220万2939円、平成5年分が2253万6242円と、ほぼ横這い状態にあり、その平均収入金額は2314万8472円となるところ、本件比準同業者の本件各係争年分の平均収入金額(平成3年分が2249万7167円、平成4年分が2012万8881円、平成5年分が2237万7033円、右3年分の平均収入金額が2166万7693円)と比較しても著しく低額であるとはいえず、かえって原告主張の収入金額の方が本件比準同業者に比して多額となっている年分も存在するところである。
以上の事情に照らせば、原告の主張する具体的運送手段等の営業諸条件の差異は、本件推計を不合理ならしめる程度に顕著なものということはできず、比準同業者間に通常存在する程度のもので、比準同業者の平均所得率を算出する過程において捨象されているものというべきである。原告の前記主張は採用することができない。
(5) 原告は、本件抽出基準において付されている「ダンプによる運送を行っている者」との条件につき、ダンプカーは、購入価格・公租公課等の必要経費が多く、一般に収入金額に占める経費比率も高くなるから、ダンプカー以外の運送用車両保有状況やダンプカーの保有台数により、所得率にも大きな差異が生ずる可能性があるところ、本件抽出基準にはかかる事情が考慮されていない旨主張する。
しかしながら、一般貨物自動車運送業において、仮にダンプカーの経費比率がトラックやトレーラー等の経費比率に比して高いといえるとしても、別表三の(一)ないし(三)記載の本件比準同業者の収入金額と所得率との関係に照らし、収入金額が多いほど所得率が高くなるとはいいきれないのであって、運送用車両の種類や保有台数と所得率との間に決定的な数値的相関関係は認め難いというほかなく、むしろ、所得率においては、運送用車両の種類や保有台数以外の必要経費の額や運賃の額といった種々の個別的要件も算定上の大きな決定要因となるのであるから、運送用車両の種類やダンプカーの保有台数に関連しての原告の事業と本件比準同業者との個別的な業態の差異は、本件比準同業者比率の平準化の過程で捨象されないほどの顕著な特殊事情とまではいえないというべきである。
(6) 原告は、本件抽出基準は「ダンプによる運送を行い、仕入のあるもの」を抽出基準としているので、仕入販売の割合が大きい業者、あるいはダンプカー以外の運送方法についても仕入販売を行っている者も比準同業者として抽出される可能性があるが、原告の事業は、ダンプカーでの仕入販売のみで、しかも仕入販売部門の総収入は全体の事業の一割程度に過ぎないから、被告の設定する基準で抽出された本件比準同業者は原告の業態と類似性があるとはいえない旨主張する。
しかしながら、本件比準同業者の抽出過程は、仕入販売割合及び運送方法を具体的な抽出基準として指定しているものではないとしても、前認定のとおり、各税務署の申告者名簿においては、複数事業を営む者については、その収入割合等から主たる業種を記載しているものであって、仕入れを有する一般貨物自動車運送業者の認定に際しては、仕入販売事業の割合が運送事業の割合を上回るような事業者は除外されているところであり、また、兼業と付随事業とされる場合が区別され、本件抽出基準においては兼業となっているものは除かれているから、本件比準同業者の抽出過程において、仕入販売の割合が運送事業の割合を上回るような業者や独立の施設を設けて仕入販売を行っている運送事業者は抽出されていない。
また、本件抽出基準において、ダンプカー以外の運送手段をも用いて運送事業を行っている者が除外されないことになることは原告の主張するとおりであるが、かかる事情が業態の差異として比準同業者の所得率算定に決定的な影響を与えるかについては、これを認めるに足りる証拠はない。
以上の事情によれば、本件抽出基準により原告の業態と細目において異なる事業者が抽出されるとしても、その差異は、同業者比率の平準化の過程で捨象されないほどの顕著な特殊事情であるとまではいえない。原告の主張は採用することができない。
(7) さらに、原告は、本件抽出基準において用いられている倍半基準は、そもそも実証されたものではなく、同基準さえ満たせば業種や事業規模の差異は比準同業者の抽出過程の合理性の有無の判断に際しほとんど意味を持たなくなってしまい不合理である旨主張するが、倍半基準は、推計課税の基礎となる収入金額や仕入金額の多寡が当該納税者の事業規模を推測する蓋然性の高い価値尺度足りうるという経済上の経験則に基づくものであるから、これにより抽出された比準同業者数やこれにより得られた同業者率の内容に合理性が認められるならば、同業者間の類似性を十分担保することができるものと解するのが相当である。また、本件抽出基準においては、事業規模の類似性は、倍半基準のみで担保されているものではなく、他の条件によっても担保されているものである。
したがって、倍半基準を用いた本件比準同業者の選定方法自体が不合理であるとはいうことはできない。原告の右主張は採用できない。
(8) 以上のとおり、原告の主張はいずれも理由がなく、被告の本件推計の方法は合理性を有するというべきである。
二 争点2(実額反証)について
1 収入金額について
被告は、原告の収入金額について、売上先への反面調査の結果による実額として、平成3年分が2485万6235円、平成4年分が2220万2939円であると主張しているところ、これについては当事者間に争いがなく、平成5年分については、原告が被告主張額を超える2253万6242円(すなわち、別表四の(一)記載のとおり、A分の8万5340円を加えたもの)であることを自認している。
2 実額反証の方法等
課税庁が推計の方法により行った課税処分につき、その取消しを求める抗告訴訟において、経費の実額を主張・立証することは、間接反証に類するものとして納税者である原告がその主張立証責任を負うものと解するのが相当であるところ、事業所得の金額は、「その年中の事業所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額」 (所得税法27条2項)とされ、必要経費については、 「総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額」 (所得税法37条1項)とされていることからすれば、原告が必要経費についてのみ実額を主張している場合には、その主張する必要経費が当該係争年中に発生し、かつ、その事業年度に債務として確定していること、右必要経費が原告の事業と関連性を有するものであることを、それぞれ合理的な疑いをいれない程度に立証する必要があるというべきである。
3 必要経費について
(一) 仕入金額について
原告は、仕入金額について、別表四の(二)(1)記載のとおり、平成3年分261万0156円、平成4年分344万0564円、平成5年分197万5741円が必要経費であると主張する。
(1) 前記のとおり、原告はダンプカー二台を所有し、息子と二名で主として砕石、土砂等の建築建材の運搬を行い、従として建材を仕入れて運搬し販売するという事業を営んでいたことが認められ、甲第25、第26号証及び弁論の全趣旨によれば、原告の事業においては、たな卸資産が存在するとは認められない。したがって、原告の事業においては、仕入金額をそのまま必要経費とみて計算することができる。
(2) 各仕入金額について、
ア M株式会社からの仕入金額については、原告から、領収証又は振込金受取書(甲第2号証の1の1ないし7、第3号証の1の1ないし10、第4号証の1の1ないし11)、M作成の回答書(甲第7号証)が証拠として提出されているけれども、これらの証拠はいずれも約一か月分ごとの支払合計金額を示すにとどまり、原告主張の仕入帳(甲第1号証(ただし、売上帳と共通)、第6号証の1ないし3)との対応関係や、各仕入ごとの年月日及び仕入内容が明らかではなく、これらの仕入金額を必要経費と認めるに足りない。
イ 株式会社Bからの仕入れについては、原告から、領収証(甲第2号証の1の8ないし11、第3号証の1の11、第4号証の1の12)、B作成の回答書(甲第8号証)が証拠として提出されているけれども、各領収証の記載は、B作成の回答書の記載とすら一致しておらず、各仕入ごとの年月日及び仕入内容も明らかではないから、これらの仕入金額を必要経費と認めるに足りない。
ウ C株式会社からの仕入れについては、領収証(甲第2号証の1の12ないし17、第3号証の1の12ないし17、第4号証の1の13ないし18)、C作成の回答書(甲第9号証)及び得意先元帳(甲第10号証の1ないし31)によれば、原告の事業に伴う必要経費として次のとおりの仕入金額があると認められる。
平成3年分 37万0600円(原告主張の40万8400円から平成2年12月25日付け仕入金額3万9900円及び値引金額2100円を加減したもの(甲第10号証の1参照)。)
平成4年分 115万8400円
平成5年分 34万2800円
エ D株式会社からの仕入れについては、領収証(甲第4号証の1の19ないし21)、D作成の請求明細書兼売上台帳(甲第11号証の1ないし7)によれば、原告の事業に伴う必要経費として平成5年分33万5979円の仕入金額があると認められる。
オ E株式会社からの仕入れについては、同社作成の請求書(甲第12号証の1ないし3)によれば、原告の事業に伴う必要経費として平成5年分17万2597円の仕入金額があると認められる。
(二) 外注工賃について
原告は、領収証(甲第2号証の2の1・2、第3号証の2の1ないし3、第4号証の2の1ないし3)を証拠として提出して、外注工賃について必要経費であると主張する。
しかしながら、原告主張の仕入帳(甲第1号証(ただし、売上帳と共通)、第6号証の1ないし3)との対応関係や、各支払の根拠となる契約内容、労務提供の年月日及び場所等が明らかでなく、原告主張の外注工賃を必要経費であると認めるに足りない。
(三) 利子割引料について
原告は、利子割引料について、別表四の(三)記載のとおり、平成3年分355万4632円、平成4年分249万5894円、平成5年分166万5673円が必要経費であると主張する。
(1) F銀行富士見支店に対する支払分のうち、平成3年2月27日付け100万円の借入金については、償還記入帳(甲第2号証の4の1)によれば、借主がfile_4.jpgで、使途が住宅関連その他となっており、原告の事業との関連が明らかでなく、必要経費と認めるに足りない。また、平成3年4月30日付け250万円の借入金の利息の支払については、なるほど、償還記入帳(甲第2号証の4の2)上は、使途を運転資金として借入れたことが認められるけれども、右借入れにつき帳簿等への記載もなく、借入金の現実の受領額及びその使途が明らかではない以上、原告の事業との関連も不明であるといわざるを得ず、必要経費と認めるに足りない。
(2) G株式会社に対する支払分については、注文書(甲第2号証の3の1)、契約書(甲第2号証の3の4)、金利計算書(甲第2号証の3の3・5)及び弁論の全趣旨によれば、昭和63年3月付け代金970万円のダンプカー購入(①)、平成元年2月付け代金1000万円のダンプカー購入(②)の各割賦販売契約の割賦手数料については、次の金額を原告の事業の必要経費と認めることができる。
平成3年分 ①につき57万4696円(原告の主張額に従う。)、
②につき46万0809円
平成4年分 ①につき24万3034円(原告は25万9345円と主張するが、甲2の3の3によれば採用できない。)、
②につき23万2122円(原告の主張額に従う。)
平成5年分 ②につき3万8459円
(3) H銀行諏訪支店に対する利息金の支払分については、原告は延べ9口の借入れがあると主張し、契約書(甲第2号証の4の3ないし5、第4号証の4の5)、取引明細表(甲第2号証の4の6)及び総合口座通帳(甲第2号証の4の7)によれば、右借入れによる入金、元金及び利息の支払を確認できるものもある。しかしながら、原告自身、昭和62年12月17日付け1800万円の借入れのうち、1171万7740円(甲第2号証の4の13)は、住宅ローンの返済に用いたものであるとして、原告の事業とは別の使途に用いられたものがあることを自認していること、取扱番号1140346117を除く原告主張の各借入れは、原告の総合口座通帳(甲第2号証の4の7)からの振替により元金及び利息の支払がなされていることが認められるけれども、同通帳にはEからの入金があるのみで、他に原告の売上や仕入れに関する入出金を記録した部分は見当たらず、かえって、生命保険の保険料の支払や、Iの受信料の支払等、事業とは無関係のものも含まれていることからすると、原告の同口座においては、事業用と個人用とを区別することなく、入出金がなされていることが認められ、同銀行に対する借入れのうち、事業用に使用された借入れの額を確定することは困難である。
また、同支店に対する手形割引料の支払については、総合口座通帳(甲第2号証の4の7)によれば、同口座から支払われていることが認められるけれども、同口座の入出金について事業用と個人用とが区別されていないことは前述のとおりであり、また、割引手形の明細や、手形割引によって得た受領額及びその使途が明らかでない以上、原告の事業との関連も不明であるといわざるを得ない。
以上によれば、同支店に対する利息金及び手形割引料の各支払については、いずれも必要経費と認めるに足りない。
(4) J信用金庫富士見支店に対する支払分については、契約書(甲第2号証の4の8、第3号証の4の1、第4号証の4の1)、自動車ローン申込書(甲第2号証の4の9、第3号証の4の2、第4号証の4の2、第4号証の4の4)、ローン明細書と融資計算書(甲第2号証の4の10、第4号証の4の3)、受領証(甲第2号証の4の11)及び弁論の全趣旨によれば、原告はいずれもダンプカーの車検費用として、平成3年2月12日付け130万円、平成4年3月11日付け140万円、平成5年2月25日付け80万円、同年11月8日付け80万円の各借入れをしたことが認められ、これに対する利息金及び延滞利息の支払いについては、次の金額を原告の事業の必要経費と認めることができる。
平成3年分 8万4500円
平成4年分 9万1443円
平成5年分 10万5170円
(四) 水道光熱費及び通信費について
原告は、別表四の(三)記載のとおり、平成3年分ないし平成5年分の水道料金の40パーセント、電気料金の20パーセント、電話料金のうち80パーセント、及び平成5年分のポケットベルの費用の全額について、必要経費であると主張する。
事業上の経費と家事上の経費とが一体となって支出されている家事関連費の取扱いは、青色申告者以外の申告者については、その主たる部分が事業所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費に限り必要経費に算入し、明らかに区分できない場合は、原則として必要経費に算入することはしないものとされている(所得税法45条1項1号、同法施行令96条1号)。
これを本件についてみると、領収書(甲第4号証の8の1・2)及び弁論の全趣旨によれば、平成5年分のポケットベルの費用合計1万8399円については、ポケットベルの通常の用途からして、原告の事業の必要経費と認めることができる。他方、原告は水道料金、電気料金、電話料金につき、事業用の部分を家事用の部分と按分して必妻経費であると主張しているが、その割合の根拠が明らかでなく、業務の遂行上必要である部分を明らかに区分することができるか否か不明である。したがって、これらの各支払については、いずれも必要経費と認めるに足りない。
(五) 旅費交通費について
原告は、高速道路通行料金の領収書(甲第3号証の7の1ないし12、第4号証の7の1ないし12)、有料道路通行料金の領収書(甲第2号証の7の1の①ないし⑫、第2号証の7の2の①ないし④、第3号証の7の13ないし21)を証拠として提出し、これらを必要経費である主張する。
しかしながら、原告から車両の運行状況や領収証の保管状況が明らかにされていない以上、原告の事業との関連性は不明といわざるを得ず、これらの各支払についてはいずれも必要経費と認めるに足りない。また、茅野有料道路通行料金の領収証(甲第2号証の7の1の①ないし⑫、第3号証の7の13・14)については、月日の記載しかなく、帰属年が不明である。
(六) 損害保険料について
原告は、ダンプカーの保険料全額、ボンゴの保険料の50パーセントについて、必要経費であると主張する。
保険料の領収書(甲第2号証の9の1ないし6)、自動車の割賦販売契約書と割賦販売明細書(甲第3号証の3の1・2)及び弁論の全趣旨によれば、・ダンプカー三台(日野FS660-20962、日野FS660B-22511、三菱FV415J-510228)の各損害保険料については、次の金額をいずれも必要経費と認めることができる。
平成3年分 61万2610円
平成4年分 47万7250円
平成5年分 92万8060円
他方、ボンゴについて、は、原告は、事業用として50パーセント使用されている旨主張しているが、その割合の根拠が明らかでなく、業務の遂行上必要があるか否か、必要である部分を明らかに区分することができるか否か不明であり、これについては必要経費と認めるに足りない。
(七) 燃料費について
原告は、燃料代(甲第2号証の12の1の①ないし⑫、第2号証の12の2ないし5、第3号証の12の1の①ないし⑫、第3号証の12の2ないし4、第4号証の12の1ないし12、第4号証の12の14ないし17)、H・Dオイル代(甲第2号証の12の6)、不凍液代(甲第4号証の12の13)の各領収証を提出し、これらについて必要経費であると主張する。
燃料費(軽油代)及びH・Dオイル代については、原告の事業用のものであることが窺われるけれども、領収証によっては各支払日及び約一か月ごとの支払合計金額しか分からず、各取引の年月日及び取引の内容が明らかではないから、これらの各支払についてはいずれも必要経費と認めるに足りない。
(八) タイヤ購入費・修理代について
原告は、タイヤ購入代、タイヤ修理代の領収証及び支払明細書(甲第2号証の14の1ないし13、第3号証の14の1ないし14、第4号証の14の1ないし7)を提出し、これらについて必要経費であると主張する。
タイヤ購入代及びタイヤ修理代については、相当程度が事業用のものであることが窺われるけれども、領収証によっては各支払日及び支払金額しか分からず、各取引の年月日及び取引の内容や事業との関連も明らかではなく、これらの各支払についてはいずれも必要経費と認めるに足りない。
(九) その余の必要経費については、被告から何ら反論がないので、原告主張のとおり、次の(1)ないし(7)の金額が必要経費であることを前提として計算しても、別紙「実額反証による必要経費計算表」記載のとおり、原告主張の実額による必要経費は、被告主張の推計による必要経費を上回らないことが明らかである。したがって、必要経費につき適切な間接反証があったとはいえない。
(1) 減価償却費について
平成3年分 443万2500円
平成4年分 338万5625円
平成5年分 213万5000円
(2) 租税公課について
平成3年分 15万3000円
平成4年分 13万1200円
平成5年分 26万5800円
(3) 修繕費・車検費用について
平成3年分 136万7841円
平成4年分 161万6960円
平成5年分 306万0342円
(4) 消耗品費について
平成3年分 1万0100円
平成4年分 9万8840円
(5) 負担金について
平成3年分 4500円
平成4年分 4500円
平成5年分 4500円
(6) 無線リース代について
平成3年分 9万7838円
平成4年分 10万6696円
平成5年分 10万6896円
(7) 雑費について
平成3年分 7万8006円
平成4年分 51万5000円
平成5年分 34万1154円
三 本件課税処分の適法性
1 本件各更正処分の適法性
以上のとおり、本件推計課税においては、推計の合理性が認められるから、本件各係争年分における原告の課税総所得金額は左記のとおりとなる(別紙「課税総所得金額の計算」参照。なお、括弧内は納付すべき税額)。
記
平成3年分 622万1000円(96万6300円)
平成4年分 558万2000円(81万6400円)
平成5年分 540万円(未計算。ただし、被告主張の所得金額537万5000円を前提とした納付すべき税額は77万5000円でこれを上回ることは明らかである。)
しかして、右各納付すべき金額は、本件各更正処分により原告が納付すべきとされた左記の所得税額をいずれも上回るから、本件各更正処分はいずれも適法である。
記
平成3年分 87万4800円
平成4年分 73万3600円
平成5年分 49万9800円
2 本件各賦課決定処分の適法性
本件各更正処分は、右のとおり適法であるところ、本件各係争年分の無申告加算税について、原告が納付すべき税額は左記のとおりとなる。
記
平成3年分 14万4000円
平成4年分 12万1500円
平成5年分 未計算。ただし、前記被告主張の納付すべき所得税額を前提とした無申告加算税の額11万5500円を上回ることは明らかである。
しかして、右各納付すべき金額は、本件各賦課決定処分により原告が納付すべきとされた左記の無申告加算税額をいずれも上回るから、本件各賦課決定処分はいずれも適法である。
記
平成3年分 13万0500円
平成4年分 10万9500円
平成5年分 7万3500円
第四結論
以上のとおり、本件推計課税においては、推計の合理性が認められ、原告主張の必要経費の実額はこれを認めることができないから、原告の被告に対する本訴各請求は理由がないことに帰する。
よって、原告の本訴各請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 佐藤公美 裁判官 田口治美 裁判官 片野正樹)
file_5.jpg別紙