長野地方裁判所 昭和25年(行)6号 判決
原告 市川すみ子
被告 長野県農地委員会
一、主 文
原告の訴はこれを却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は被告が原告の訴願に対し昭和二十四年十二月二十二日なした却下の裁決は之を取消す、長野縣上伊那郡中箕輪町農地定員会が昭和二十四年七月十三日樹立した買收計画より原告所有の別紙目録記載の宅地及建物を除外する、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その原因として訴外長野縣上伊那郡中箕輪町農地委員会は昭和二十四年七月十三日自作農創設特別措置法第十五條に基き、原告所有の前記宅地建物(以下本件宅地建物と称す)に対し買收計画を立て同年九月一日より同月十二日迄縱覧に供したので原告は同月十二日右農地委員会に異議を申立てたところ、同年十月十二日棄却せられたので、更にこれに対し同月二十五日訴願したところ被告は同年十二月二十二日これを棄却する旨の裁決をなし、その裁決書謄本は原告の父訴外市川豊一が昭和二十五年一月十日受領したのである。然し乍ら本件土地建物は原告が昭和二十三年六月二十九日訴外市川豊一より買受けたもので、原告は市川豊一がその所有当時の昭和二十二年十月十五日訴外皆傳八重子と締結した賃貸借期限一年、家賃一ケ月金二百五十円とする旨の賃貸借契約を承継したのであつて、訴外皆傳忠一とは賃貸借契約を締結したことはない。仮に一歩讓つて賃貸借契約があつたとしても既にその期間は昭和二十三年十月十四日に満了し原告がその明渡を求めているのであつて、契約の更新された事実はないから同訴外人には賃借権なく、從つて孰れにしても同訴外人は本件買收計画に於ける買收申請人たるの資格はない。又中箕輪町農地委員会は皆傳忠一よりの買收申請の手続のない中に本件買收計画を樹立したものである。加ふるに本件宅地建物は其環境営農に適しないばかりでなく、原告は昭和二十四年來移轉居住すべく計画しその明渡を求めていたもので其の爲原告は結婚も見合はせなければならぬ状態である。以上何れの点から見ても本件買收計画は不当であり、從つて又不当なる右買收計画を承認し原告の訴願を棄却した被告の裁決も違法であるので、その取消及び本件宅地建物の買收計画よりの除外を求むるため本訴請求に及んだ次第であると陳述し、原告と父市川豊一とが同居していることはこれを認める。被告の主張に対し訴外皆傳八重子と皆傳忠一とが同居していることは認めるが親子であることは否認すると述べ、更に被告の本案前の抗弁に対しては訴外市川豊一が本件の裁決書謄本の送達を受けた昭和二十五年一月十日当時原告は偶々母親の実家である上伊那郡箕輪村藤沢由一方に年始に行き一月十五日帰宅し、翌十六日朝裁決のあつた事を知つたのであるから出訴期間を経過した事実はない。故に被告の抗弁は排斥されるべきものである旨を述べた。(立証省略)
被告訴訟代理人は本案前の抗弁として主文同旨の判決を求め、その事由として原告主張の様に被告が原告に対し昭和二十四年十二月二十二日爲した裁決書の謄本を原告に於て送達を受けたのが昭和二十五年一月十日である。從つて同日原告は訴願棄却の裁決処分を知つたのであつて、それから一ケ月以内に右処分の取消を求める訴を提起しなければならないのであつて、原告が本訴を提起したのが昭和二十五年二月十四日であることは記録上明かであるから既に原告は本訴を提起し得る期間を徒過したので、本訴は不適法として却下されるべきであると述べ、本案については原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、原告主張通り本件宅地建物につき買收手続のあつた事及び市川豊一が昭和二十二年十月十五日皆傳八重子に原告主張の如き家賃を以て本件宅地建物を賃貸した事は認めるがその余の事実は否認する。市川豊一皆傳八重子間の賃貸借契約には賃貸借期間の定めはないし、又皆傳忠一も同様その賃借人であり八重子と忠一とは親子の間柄で同居中である。又本件買收計画を定めるに当つては、皆傳忠一よりの買收申請手続は経ているのであると述べた。(立証省略)
三、理 由
先づ被告主張の本案前の抗弁について、判断するに昭和二十五年一月十日原告主張の様な被告のなした裁決処分が原告方に送達されたことは当事者間に爭いない。原告は同日父市川豊一が受取つたのであつて当時被告は母の実家である長野縣上伊那郡箕輪村藤沢由一方に年始にゆき同月十五日帰宅し、翌十六日朝に至つて裁決のあつたことを知つたのであるから一箇月以内に本訴を提起したことになり被告の抗弁は理由がない旨主張するのであるが、証人市川豊一の証言によれば原告は同証人の娘であつて同人と同居し、二十三歳の年若であるから農業については同証人が一切原告のために切り盛りしており、被告に対する訴願の手続等も総て同証人が原告の名に於てこれをなしている事実を認めることができる。この事実からすれば原告にとつては被告の裁決処分は原告のみが知つていたのでは実際問題として何等の効果がなく、寧ろ原告の父である市川豊一に於て知ることが有効適切であるばかりでなく必要である事情を看取するに難くないのであつて、自作農創設特別措置法第四十七條の二に規定する当事者と言うのは原告に代つて農事一切は固より訴願手続など対外的な事務までも総てなしていることが内外に明かである原告の父市川豊一の様な者をも含むと解するのが相当である。從つて仮令原告主張の様に原告が母の実家に年始にゆき本件の裁決処分を知つたのが昭和二十五年一月十六日であるとするも市川豊一に於て裁決書の謄本を同月十日に受領しこれを知つたからには、その効果は原告に及ぶべきものであると謂うの外はない。而して原告の本訴請求が右第四十七條の二に所謂自作農創設特別措置法による行政廳の処分で違法なものの取消又は変更を求める訴に該当するものであることは原告の主張自体明かであるから、原告は右の一月十日から一箇月以内にこの訴を提起しなければならないのであつて、原告が昭和二十五年二月十四日本訴を提起したことは記録上明白であるから原告の本訴は一箇月の期間経過後になされた不適法のものと謂わざるを得ない。
仍て被告の本案前の抗弁はその理由があるのであつて本案に関する判断を俟つまでもなく原告の訴はこれを却下し、訴訟費用につき民事訴訟法第八十九條行政事件訴訟特例法第一條を適用し主文の通り判決した次第である。
(裁判官 草間英一 市原忠厚 伊藤正七郎)
(目録省略)