大判例

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長野地方裁判所 昭和41年(わ)55号 判決 1972年3月21日

本店所在地

長野県松本市梅ケ枝町一、〇二六番地

平和商事有限会社

(右清算人浜義郎)

(右同小岩井勇吾)

本籍

同県塩尻市大門三番町六八一番地九

住居

同県松本市元原町二、二二三番地

右有限会社清算人(元右会社代表取締役)

浜義郎

大正八年四月二五日生

右の者らに対する法人税法違反各被告事件について、当裁判所は、検察官伊藤実出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

被告平和商事有限会社を罰金四五〇万円に、被告人浜義郎を懲役六月および罰金五〇万円にそれぞれ処する。

被告人浜義郎が自已の罰金を完納することができないときは、金五、〇〇〇円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。

被告人浜義郎に対し、この裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告平和商事有限会社は、松本市梅ケ枝町一、〇二六番地に本店を置き、金融業およびそれに附帯する一切の業務を営業目的とする資本金一〇〇万円の会社であったが、昭和四〇年四月二一日社員総会の決議により解散し現に清算中のもの、被告人浜義郎は右解散前被告会社の代表取締役としてその業務全般を統轄していたものであるが、被告人浜は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空名義を用いて貸金業務および有価証券の売買を行ない、その利子、元金および利益等を銀行等の架空名義の別途預金に預け入れる不正の方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和三八年四月三〇日所轄松本税務署長に対し、同会社の昭和三七年三月一日から同三八年二月二八日までの事業年度の実際所得金額が九、九六五、八四八円であって、これに対する正規の法人税額が三、六八六、七〇〇円であるのにかかわらず、同事業年度における所得金額が六三、三〇〇円で、これに対する法人税額が二〇、八八〇円である旨を記載した虚偽の確定申告書を提出し、もって不正の行為により右事業年度の法人税三、六六五、八〇〇円を免れ、

第二  昭和三九年四月三〇日、所轄松本税務署長に対し同会社の昭和三八年三月一日から同三九年二月二九日までの事業年度の実際所得金額が二〇、七四七、三四六円であって、これに対する正規の法人税額七、七八三、八〇〇円であるのにかかわらず、同事業年度における所得金額が一七八、二〇〇円でこれに対する法人税額が五八、八〇〇円である旨を記載した虚偽の確定申告書を提出し、もって不正の行為により同事業年度の法人税七、七二五、〇〇〇円を免れ、

第三  同会社の昭和三九年三月一日から同四〇年二月二八日までの事業年度の実際所得金額が三〇、一九八、五〇七円であって、これに対する法人税額が一一、三二五、二〇〇円であるのに法定の申告期限である昭和四〇年四月三〇日を過ぎても所轄松本税務署長に対し確定申告書を提出せず、もって不正の行為により同事業年度の法人税一一、三二五、二〇〇円を免れ、

たものである。

(判示各事業年度における実際所得金額の算定については別表(一)ないし(三)の修正貸借対照表記載のとおりであるが、判示第一および第三の各事業年度においては後記のごとく起訴状記載の範囲内で認める。)

(証拠の標目)

判示事実全部につき

一、被告会社代表者兼被告人浜義郎の当公判廷(第五回)における供述(ただし、犯意に関する供述を除く)

一、被告人浜の大蔵事務官に対する質問てん末書(四通)および検察官に対する供述調書(三通)

一、清水信一の検察官に対する供述調書

一、矢島けさ江の大蔵事務官に対する昭和四〇年一〇月一日付質問てん末書および検察官に対する供述調書各一通

一、中井楠夫、飯島通夫、高見沢茂七郎、破入俊勝および鈴木敏夫作成の答申書各一通

一、国税査察官作成の銀行別手形取立調査書

一、大蔵事務官作成の八十二銀行松本支店調査関係書類

判示冒頭の事実につき

一、登記官史作成の登記簿謄本

判示冒頭、同第一および同第二の事実につき

一、小久保恵司および岩橋清道作成の答申書各一通

判示冒頭、同第二および同第三の事実につき

一、丸山光弥の検察官に対する供述調書

一、名取長久および有山親二郎作成の答申書各一通

一、大蔵事務官作成の日本相互銀行松本支店調査書類

判示冒頭および同第三の事実につき

一、関享、市川宏覚、臼井喜満雄、竹下俊雄および馬場弘大作成の答申書各一通

一、大蔵事務官作成の新潟相互銀行松本支店調査関係書類

一、大蔵事務官作成松本信用金庫中町支店調査関係書類

一、大蔵事務官作成三井銀行松本支店調査関係書類

判示第一ないし同第三の事実につき

一、中沢真人および松橋つね子の検察官に対する供述調書各一通

一、清水信一の大蔵事務官に対する昭和四一年一月一一日付質問てん末書

一、飯沼千昭作成の供述書

一、中沢真人、松橋つね子、関謹護、高橋今朝人、伊藤愛子、山崎昌次、小原良司(昭和四一年一月二二日付)および柳沢弥平作成の答申書各一通

一、国税査察官作成の株式取引調査書

一、国税査察官作成の受取手形明細書および貸付金明細書各一通(ただし、各事業年度末日現在における前受利息科目立証に限る。)

一、松本証券株式会社作成の顧客勘定元帳中の浜菊子名義分の写し

一、押収してある取立帳一冊(昭和四五年押第五六号の五)および矢島けさ江机中書類一綴(前同押号の七)

判示第一および同第二の事実につき

一、押沢貞雄、犬飼太久已および佐藤正勝作成の答申書各一通

一、押収してある総勘定元帳一冊(前同押号の一)

判示第一の事実につき

一、犬飼衛作成の答申書

一、大蔵事務官作成の証明書(昭和三八年四月三〇日提出の法人税申告書写について)

一、押収してある相場関係ノート五冊(前同押号の六)

判示第二および同第三の事実につき

一、鳥羽清司の検察官に対する供述調書

一、清水信一(昭和四〇年九月二九日付)、丸山光弥の大蔵事務官に対する質問てん末書

一、丸山光弥作成の昭和四〇年一〇月二日付供述書

一、中野文五郎(昭和四〇年一〇月一五日付)、北村幾太郎、本沢春男、鳥羽清司、征矢智、太田坦、大久保徹夫、丸山喜朔、桜山誠、可児松吉、高塚善之、百瀬光博、鈴木幾子、倉科とめのおよび遠藤啓三作成の答申書各一通

一、大蔵事務官作成の受取利息明細簿付表No.3No.4(計二通)

一、国税査察官作成の法人税決議書写し二通

一、押収してある伝票一冊(前同押号の二)、三八年度不渡手形一綴(前同押号のハ)、三九年度不渡手形一綴(前同押号の九)、手形貸付計算書一冊(前同押号の一〇)

判示第二事実につき

一、大蔵事務官作成の証明書(昭和三九年四月三〇日提出の法人税申告書写しについて)

判示第三の事実につき

一、清水信一(昭和四〇年一一月一一日付)ならびに矢島けさ江(昭和四〇年一〇月一五日付および昭和四〇年一一月九日付)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一、平沢久馬男、安原博、田上寿次、小原良司(昭和四〇年一〇月二七日付)および赤羽正文作成の答申書各一通

一、古畑照男作成の申述書

一、国税査察官作成の決算関係書類

一、押収してある伝票一冊(前同押号の三)、預金メモ一枚(前同押号の一一)、定期預金利息計算書(前同押号の一二)および小切手帳二冊(前同押号の一三)

(査察官主張の勘定科目中貸付金および有価証券についての当裁判所の判断)

当裁判所は、右勘定科目について次に指摘するものの外は検察官の主張を相当と認める。

一、貸付金について

1  検察官は、被告会社の関謹護に対する昭和三九年二月二九日現在の貸付金として一四件合計三四万円が存在したものと主張するのであるが、右貸付金はいずれも昭和三八年二月二八日以前に貸付けているものであることは記載上明らかであり、従って、同日現在においても貸付金債権として存在したものであるから右同日現在の資産として認めることとする。

2  貸付先丸山鉄工所の昭和三八年三月一日から同三九年二月二九日までの事業年度の貸付金のうち昭和三九年一月二〇日貸付、同年三月一〇日期日の七二二、〇〇〇円、同年二月二一日貸付、同年三月二一日期日の九八〇、〇〇〇円および同年二月二四日貸付、同年三月二四日期日の七〇二、〇〇〇円ならびに貸付先伊藤幸雄の昭和三九年三月一日から同四〇年二月二八日までの事業年度(以下昭和三九事業年度という。)の貸付金一〇〇、〇〇〇円の各貸付金については、本件全証拠を精査するもいずれも認めるに足る証拠はない。

3  貸付先日本養魚飼料の昭和三九事業年度の貸付金のうち昭和四〇年二月二二日貸付、同年三月八日期日の三〇〇、〇〇〇円の貸付金(二件あるとの主張であるが、うち一件)は、検察官提示の山崎昌次作成の答申書によるも認めることができず、他に右貸付金を認めるに足る証拠はない。ただ、右答申書によると、同年三月一日貸付、同月八日に返済されている三〇〇、〇〇〇円の貸付金を認めることはできるが、右貸付金は同事業年度中には存しないものであるから同事業年度の資産とすることはできない。

二、有価証券について

被告人の当公判廷(第五回)における供述、破入俊勝作成の答申書および相場関係ノート(前同押号の六)によると、川口金属、日立製作および住友金属の有価証券の存在を認めることができるところ、検察官は右有価証券はいずれも個人所得税の申告に際し被告人浜は昭和三七年分に配当所得を申告しており爾後異動がないので浜個人に帰属するものとして除外した旨主張するが、右事実を認めるに足る証拠はないので右有価証券は、いずれも昭和三七年二月二八日現在において被告会社に帰属していたものと認めるほかはない。さらに右有価証券の各事業年度末現在における在高は別紙(四)記載のごとく認められる。

三、以上のごとく認定すると、被告会社の昭和三七年三月一日から同三八年二月二八日までの事業年度における実際所得金額は、別紙(一)記載のごとく一〇、三〇五、八四八円となり、これに対する税額は、三、八一五、九〇〇円、逋脱税額は三、七九五、〇〇〇円となること、ならびに昭和三九事業年度における実際所得金額は、別紙(三)記載のごとく三二、五七一、六一七円となり、これに対する税額および逋脱税額は、一二、二二六、九〇〇円となることはいずれも計数上明らかであるが、右はいずれも起訴上記載の金額をこえるのであるが、本件においては訴因変更手続がなされていないので判示第一および第三のとおり起訴状記載の範囲内において実際所得金額、その税額および逋脱税額を認定した。

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、重加算税の構成要件と逋脱犯の構成要件は明確に区別されるべきであるのにこれを区別せず、重加算税と逋脱犯を併科するのは二重処罰を禁じた憲法三九条に違反すると主張する。

よって案ずるに、重加算税は行政上の措置であって刑罰としてこれを課するものでなく、重加算税を課した場合にも逋脱犯の構成要件を充足する限り刑罰を科したとしても何ら憲法三九条の規定に違反するものでなく、既にこれと趣旨を同じくする最高裁判所の判例があり(最高裁判所昭和二九年(オ)第二三六号、同三三年四月三〇日大法廷判決、民集一二巻六号九三八頁、同昭和三二年(あ)第一六五九号、同三六年五月二日第三小法廷判決、刑集一五巻五号七四五頁、同昭和三五年(あ)一三五二号、同三六年七月六日第一小法廷判決、刑集一五巻七号一〇五四頁)、当裁判所も右最高裁判所判例に従うものである。

(法令の適用)

被告人浜義郎の判示各所為は、いずれも法人税法(昭和四〇年法律第三四号)附則一九条によりその改正前の法人税法四八条一項(一八条一項)に該当するところ、いずれも所定刑中懲役刑と罰金刑とを併科することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重いと認める判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で、また罰金刑については同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で被告人浜を懲役六月および罰金五〇万円に処し、被告平和商事有限会社については、代表者である被告人浜が被告会社の業務に関し判示各所為をなしたのであるから右改正前の法人税法五一条一項、四八条一項に該当するが、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で被告平和商事有限会社を罰金四五〇万円に処し、被告人浜において自已の罰金を完納することができないときは、同法一八条により金五、〇〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置することとし、同被告人に対しては情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中村護 裁判官 荒木恒平 裁判官 松山恒昭)

修正貸借対照表

昭和38年2月28日

(注)当規増減金額欄上段金額は犯則対象金額。以下の事業年度も同じ。

修正貸借対照表

昭和39年2月29日

修正貸借対照表

昭和40年2月28日

別紙(四)

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