長野地方裁判所 昭和42年(レ)8号 判決 1968年9月24日
控訴人 依田泰助
被控訴人 小林昇
<ほか一名>
主文
本件控訴をいずれも棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一、当事者の求めた裁判
控訴人は、「原判決を取消す。控訴人に対し、被控訴人小林昇は金五萬円およびこれに対する昭和三八年一二月一三日より年五分の割合による金員を、被控訴人丸田君子は金五萬円およびこれに対する同年七月一一日より年五分の割合による金員を各支払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人らは主文同旨の判決を求めた。
第二、請求の原因
一、訴外岩本清は、(1)昭和三八年七月三〇日被控訴人小林に対し五萬円を弁済期同年一二月一二日と定めて貸渡し、(2)同年七月四日被控訴人丸田に対し五萬円を弁済期同月一〇日と定めて貸渡した。
二、控訴人は、昭和四二年一月二二日岩本より同人の被控訴人らに対する右貸金債権を譲り受け、岩本は昭和四二年六月二八日被控訴人らに対し、内容証明郵便をもってその旨通知し、右通知はそのころ被控訴人らに到達した。
三、よって控訴人は、(1)被控訴人小林に対し五萬円およびこれに対する弁済期の翌日である昭和三八年一二月一三日より完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを、(2)被控訴人丸田に対し五萬円およびこれに対する弁済期の翌日である昭和三八年七月一一日より完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを各求める。
第三、請求の原因に対する答弁と主張
一、請求の原因事実中岩本が被控訴人らに対し控訴人主張の日にそれぞれ五萬円を貸渡したことおよび岩本が被控訴人らに対し控訴人主張の日に右各債権を譲渡した旨の通知をし、右通知はそのころ被控訴人らに到達したことは認める。右債権譲渡の事実は知らない。弁済期の定めがあった事実は否認する。
二、仮に岩本から控訴人への右債権譲渡の事実が認められるとしても、控訴人は定職がなく、訴訟を好んで提起するいわゆる事件屋であって、たまたま被控訴人小林が控訴人と訴外小山くみとの間の訴訟に関し控訴人に不利な事実を述べるや、その報復策として岩本より右債権を譲り受け本訴を提起するに至ったもので、右債権の譲渡は訴訟行為をすることを主たる目的としてなされたものであり、信託法第一一条に違反し無効である。
第四、被控訴人らの主張に対する控訴人の答弁
被控訴人らの主張事実は否認する。
第五、証拠関係≪省略≫
理由
一、訴外岩本清が被控訴人らに対し、控訴人主張の日に、それぞれ五萬円を貸渡したことは、当事者間に争いがない。そして、≪証拠省略≫を総合すれば、岩本は昭和四二年一月二二日被控訴人両名に対する右各五萬円の賃金債権を控訴人に譲渡したことが認められ、右各債権譲渡の通知が同年六月二八日頃岩本から各被控訴人に対しなされたことは、当事者間に争いがない。
二、ところで、被控訴人らは右債権の譲渡は、訴訟行為をすることを主たる目的としてしたものであるから、信託法第一一条に違反し無効である旨主張するので、この点について検討する。
1 ≪証拠省略≫を総合すれば、
(1) 本件各債務は、被控訴人小林が、かつて岩本清の経営するキャバレー「白鳥」にマネジャーとして雇われていたころ、借金の返済や生活費に当てるために、内縁関係にあった被控訴人らが、岩本から借り受けたものであるが、小林はその後間もなく右キャバレーの経営等に関し岩本と対立して同キャバレーをやめ、以来岩本との感情のもつれもあって、右借入金に関し同人からたびたびの催促があった(特に昭和四〇年暮れごろには内容証明郵便をもってなされたことがある。)にもかかわらず、返済に応じないまま数年を経過しており、本件債権譲渡当時においては岩本において被控訴人らから任意に返済がえられる状況にはなかったこと、
(2) 一方、控訴人、被控訴人両名はいずれも同じ町内に居住する創価学会の会員であり、控訴人は、被控訴人小林が刑事事件に問われた際同人に弁護士を紹介してやったこともあり、また同人がキャバレー「白鳥」をやめて間もないころ被控訴人らのために岩本方へ赴いて同人に被控訴人らに対する本件貸金を免除しなお退職金を相当額支給してやってもらいたい旨進んで折衝の労を買ってでたこともあるなど控訴人と被控訴人らの間は、かつては昵懇の間柄であったのであるが、控訴人は、被控訴人小林が昭和四〇年ごろ、当時係属中の控訴人と第三者との間の訴訟に関し相手方に味方したとして強く憤慨し、このようなことが原因でその後両者の間は極度に不仲となり互いに相手方の非行を暴いて誹謗し合うほど敵対関係にあること、
(3) 控訴人は、前記のとおり被控訴人らのために岩本に対し同人の被控訴人らに対する貸金債権の免除や退職金の支給に関し折衝してやったことのある関係上、被控訴人らとしては岩本との間の感情問題もからんで右貸金の返済にはたやすく応じ難い事情のあることを了知していながら、被控訴人らと不仲になった後である昭和四二年一月二二日に右債権を譲り受けたものであること、
(4) 岩本から控訴人に本件債権が譲渡されるについては、右両者間に金銭の貸借関係があったからではなく、また譲渡の対価の支払いもなされず、岩本は控訴人に対し本件債権を徹底的に取り立てるよう指示したこと、
が認められ(る。)≪証拠判断省略≫
2 次に、
(1) 前記のとおり、控訴人は本件債権を昭和四二年一月二二日譲り受けたものであるが、その直前である同月一三日に控訴人は、屋代簡易裁判所に対し被控訴人ら両名を被告として、控訴人が昭和三九年七月一九日被控訴人小林に対し、同丸田を連帯保証人として金三萬円を貸渡したことを請求原因とする貸金請求訴訟(同裁判所昭和四二年(ハ)第二号)を提起していたことは、当裁判所に顕著な事実であり(当裁判所同年(レ)第五号)、
(2) 本件においても、控訴人は、債権譲受けの日である昭和四二年一月二二日から一六日後の同年二月七日被控訴人らに対し支払命令の申立をしたことは本件記録から明らかである。
3 右の各事実を総合すれば、岩本の被控訴人らに対する本件各債権は、岩本が控訴人に訴訟行為をさせることを主たる目的として信託されたものであると認めるのが相当である。
そうであれば、右行為は信託法第一一条に違反する無効なものといわなければならない。
三、してみれば、控訴人の本訴各請求は、失当として棄却すべきところ、これを棄却した原判決は結局正当であるから、民事訴訟法第三八四条第二項により本件控訴を棄却し、訴訟費用の負担につき同法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 西山俊彦 裁判官 落合威 清野寛甫)