長野地方裁判所 昭和47年(ワ)32号 判決
第一 当事者の表示
一 原告ら
1 長野市緑町一、四一五番地 西隆史
<ほか五四二名>
原告ら訴訟代理人弁護士 下光軍二
右訴訟復代理人弁護士 安彦和子
二 被告ら
熊本市本山町六三五番地第一相互経済研究所内 被告 内村健一
右訴訟代理人弁護士 浅見敏夫
右同 中村尚彦
長野市稲葉中千田二、一七九番地 被告 杉田福治
右訴訟代理人弁護士 川上真足
第二 主文
一 被告内村は、左の原告らに対し、次の各金員及びこれらに対する昭和四七年二月一五日以降各完済に至るまで年五分の割合による各金員を支払え。
(一) 第一原告目録記載の原告らのうち、
1 番号1の原告に対し、金一二万円。
2 番号2ないし15、18ないし127、129ないし154、156ないし221、224ないし226、228ないし240、242ないし268、270ないし274、276ないし284、286、288ないし294、296ないし301、303ないし310、312ないし325、327ないし359、361ないし377、379、380、391、403の原告らに対し、各金二万円。
3 番号381ないし390、392ないし402の原告らに対し、各金四万円。
(二) 第二原告目録記載の原告らのうち、
1 番号1ないし25、27ないし69、71ないし116の原告らに対し、各金一〇万円。
2 番号118の原告に対し、金一一万円。
3 番号119ないし124、128の原告らに対し、各金一二万円。
4 番号125の原告に対し、金一三万円。
5 番号126、129、130の原告らに対し、各金一四万円。
6 番号127の原告に対し、金二万円。
7 番号181の原告に対し、金一五万円。
8 番号132、133の原告らに対し、各金二〇万円。
9 番号134の原告に対し、金二三万円。
10 番号135、136の原告らに対し、各金二四万円。
11 番号137の原告に対し、金四六万円。
12 番号140の原告に対し、金一万円。
二 第一原告目録番号391、403の原告ら及び第二原告目録番号127、128の原告らの被告内村に対するその余の請求部分をいずれも棄却する。
三 第一原告目録番号16、17、128、155、222、223、227、241、269、275、285、287、295、302、311、326、360、378の原告ら及び第二原告目録番号26、70、117、138、139の原告らの被告内村に対する請求をいずれも棄却する。
四 第一原告目録番号13、15、24ないし27、61ないし71、73ないし76、101、147、148、232、380、384ないし386の原告らの被告杉田に対する請求をいずれも棄却する。
五 訴訟費用の負担は左のとおりとする。
(一) 四項掲記の原告らと被告内村との間においては、右原告らに生じた費用の一〇分の九を被告内村の負担とし、その余は各自の負担とし、右原告らと被告杉田との間においては、全部右原告らの負担とする。
(二) 三項掲記の原告らと被告内村との間においては、被告内村に生じた費用の一〇分の一を右原告らの負担とし、その余は各自の負担とする。
(三) 三項、四項掲記の原告らを除くその余の原告らと被告内村との間においては、全部被告内村の負担とする。
六 この判決は一項に限り仮に執行することができる。
第三 事実
一 当事者の求めた裁判
(一) 原告らの請求の趣旨
1 被告内村は、左の各金員及びこれらに対する昭和四七年二月一五日以降各完済に至るまで年五分の割合による各金員を支払え。
(1) 別紙第一原告目録記載の原告らのうち、
(イ) 番号1の原告に対し金一二万円。
(ロ) 番号2ないし380の原告らに対し各金二万円。
(ハ) 番号381ないし403の原告らに対し各金四万円。
(2) 別紙第二原告目録記載の原告らのうち、
(イ) 番号1ないし117の原告らに対し各金一〇万円。
(ロ) 番号118の原告に対し金一一万円。
(ハ) 番号119ないし124の原告らに対し各金一二万円。
(ニ) 番号125の原告に対し金一三万円。
(ホ) 番号126ないし130の原告らに対し各金一四万円。
(ヘ) 番号131の原告に対し金一五万円。
(ト) 番号132及び133の原告らに対し各金二〇万円。
(チ) 番号134の原告に対し金二三万円。
(リ) 番号135及び136の原告らに対し各金二四万円。
(ヌ) 番号137の原告に対し金四六万円。
(ル) 番号138の原告に対し金八〇万円。
(ヲ) 番号139の原告に対し金九〇万円。
(ワ) 番号140の原告に対し金一万円。
2 被告杉田は、左の各金員及びこれらに対する昭和四七年二月一二日以降各完済に至るまで年五分の割合による各金員を支払え。
別紙第一原告目録記載の原告らのうち、
(イ) 番号101の原告に対し金六万円。
(ロ) 番号13、15、24ないし27、61ないし71、73ないし76、147、148、232、380、386の各原告らに対し各金八万円。
(ハ) 番号385の原告に対し金一二万円。
(ニ) 番号384の原告に対し金一六万円。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
4 仮執行宣言
(二) 請求の趣旨に対する被告らの答弁
1 原告らの請求はいずれもこれを棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
二 当事者の主張事実
(一) 請求原因
1 被告内村は、熊本市本山町六三五番地において、第一相互経済研究所の名称で、いわゆるネズミ講といわれる無尽講類似の組織を主宰し、これを運営管理している者であり、昭和四五、六年当時、「親しき友の会」のほか、後記の「中小企業相互経済協力会」「交通安全マイハウス友の会」「相互経済協力会」なる三種の組織を主宰し、運営管理していたが、右三種の組織(以下本件各講と略称する)は、次のような点において共通した仕組となっている。すなわち、いずれも原始会員は八名であり、会員一名は二名の新会員を勧誘して加入させ、新加入会員はそれぞれ二名宛の新会員をさらに勧誘して加入させ、順次二倍宛いわゆるネズミ算式に会員を増加させていくものであり、その会員数は別紙組織図表示のとおり、一代下る毎に二倍となる。そして、新加入会員は、本件各講の本部である第一相互経済研究所こと被告内村に対し一定の入会金を送金するほか、先順位の会員に対し一定の金員を直接送金することにより、本件各講の会員資格を取得するのである。先順位の会員に対する送金システムは、別紙組織図の各奇数番号の者が七代先順位の会員に送金し、各偶数番号の者が二代先順位の会員に送金するものであり(例えば、別紙組織図のH1、H3らは自己を⑧代として①代のAに送金し、H2、H4らは⑥代のF1に送金する)、自己が将来後順位会員の増加により送金を受けるのは、二代後順位の会員四名のうち各偶数番号会員二名及び七代後順位の会員一二八名のうち各奇数番号会員六四名からであり(例えば、別紙組織図の①代会員Aは、③代のC2、C4から送金を受けるほか、⑧代の会員H1、H3ら六四名から送金を受ける)、これにより、当初の入会金及び先順位会員への送金分として出資した金額の数十倍もの高額の金員を取得しうるのである。但し、「相互経済協力会」のみは、七代で完結し、各奇数番号の者は六代先順位の会員に送金し(例えば、別紙組織図G1、G3らが①代のAに送金し)、逆にいえば、送金を受けるのは、二代後順位の会員四名中各偶数番号会員二名及び六代後順位の会員六四名中各奇数番号会員三二名からである(例えば、別紙組織図の①代会員Aは、③代のC2、C4から送金を受けるほか、⑦代のG1、G3ら三二名から送金を受ける)点が異なっている。なお、本件各講に加入するに際しては、自己を勧誘した直近先順位会員に対し本件各講の本部(第一相互経済研究所こと被告内村)から、新加入者の送金すべき先順位会員が指定されているので、その指定に従って先順位会員(新加入会員を⑧代とすれば、①代又は⑥代の会員、但し前記のとおり、「相互経済協力会」については、新加入会員を⑦代として、①代又は⑤代の会員)に対し送金し、その送金証明を付して本部に入会の申込と入会金を送付して登録を受けるのである。会員として本部に登録された者は、交通事故その他の事故(但し、病気、自殺、自殺未遂、ヘルニア、細菌感染疾患、戦争、反乱、革命及び軍務従事中の事故を除く)により死亡又は不具廃疾になった場合、弔慰金又は見舞金の支給を受けることができ、本部の所有運営する研修保養所(昭和四六年当時約八ヶ所、その後一〇ヶ所に増えた)を無料で随時利用できるとされているが、その有効期限は登録後一年間に限定されている。
2 本件各講の組織は大略以下のとおりである。
(1) 中小企業相互経済協力会(六〇万円コース)
昭和四五年一二月から開始されたもので、新しく会員になろうとする者は、本部から予め自己の勧誘者である直近先順位会員に指定されている先順位会員(自己を⑧代とすれば、①代会員のA又は⑥代会員のF1)に対し金五〇万円を送金したうえ、本部に対し入会金として金一〇万円を送金し、従って合計金六〇万円を出資するが、二名の子会員を勧誘して加入させ、さらにその子会員がそれぞれ孫会員二名宛を勧誘して加入させて順次発展拡大すれば、二代後の会員(孫会員)四名中二名(自己を①代のAとすれば、③代のC2、C4)から各金五〇万円宛、七代後の会員一二八名中六四名(⑧代のH1、H3ら)から各金五〇万円宛、以上合計金三、三〇〇万円の送金を受けてこれを取得することができるというものである。なお、前記交通事故死亡等に対する見舞金、弔慰金の最高額は金一、〇〇〇万円である。
(2) 交通安全マイハウス友の会(一〇万円コース)
昭和四四年一二月に開始されたもので、会員になろうとする者は、前記(1)の場合と同様に予め指定されている先順位会員(①代のA又は⑥代のF1)に金八万円を送金したうえ、本部に対し入会金として金二万円を送金し、従って合計金一〇万円を出資するが、二名の子会員を勧誘して加入させ、同様に順次加入者が続いて発展すれば、二代後の会員四名中二名から各金八万円宛、七代後の会員一二八名中六四名から各金八万円宛、以上合計金五二八万円の送金を受けてこれを取得することができるというものである。なお、前記交通事故死亡等に対する見舞金、弔慰金の最高額は金五〇〇万円である。
(3) 相互経済協力会(四万円コース)
昭和四四年六月に開始されたもので、会員になろうとするものは予め指定されている先順位会員に(自己を⑧代とすれば②代のB1か又は⑥代のF1に、自己を⑦代とすれば①代のAか又は⑤代のE1に)金三万円を送金したうえ、本部に対し入会金として金一万円を送金し、従って合計金四万円を出資するが、二名の子会員を勧誘して入会させ、それが順次発展拡大していけば、二代後の会員四名中二名から各金三万円宛、六代後の会員六四名中三二名から各金三万円宛、以上合計金一〇二万円の送金を受けてこれを取得することができるというものである。なお、前記交通事故死亡等に対する見舞金、弔慰金の最高額は金一〇〇万円である。
3 原告らは、いずれも先順位会員の勧誘等を受けた結果、昭和四五年一〇月頃から昭和四六年五月頃までの間に本件各講に加入したものであり、それぞれ先順位の会員に対して送金したうえ本部に対し所定の入会金を送金して会員となったものである。それぞれの加入年月日は、別紙第一、第二各原告目録の加入年月日欄記載のとおりであり、加入した本件各講の種別は、別紙第一、第二原告目録の加入者記番号欄記載のうち、「中」の符号が附されている分が「中小企業相互経済協力会」であり、アルファベット文字のみが附されている分が「交通安全マイハウス友の会」で、ひらがな文字の符号が附されている分又は数字の記番号のみの分が「相互経済協力会」である。
4 しかしながら、本件各講は、それぞれ講の仕組、目的、社会に及ぼす影響のいずれの面からみても、公の秩序、善良の風俗に反するものであり、本件各講の本部である第一相互研究所こと被告内村と原告らとの間の入会契約は、いずれも民法九〇条に違反するものとして無効であるから、原告らが被告内村に対し送金した入会金は返還さるべきである。
本件各講が公序良俗に反するとの理由は左のとおりである。
(1) 本件各講は、会員の利益がネズミ算式に増加する後続会員に依拠している以上、必然的に行き詰りが生じ、従って、最終下二段の者は後順位会員からの送金は全くないままに終り、その被害者は常に総会員数の過半数を超え、且つ会員の増加に比例するのである。
すなわち、本件各講は、ネズミ講という俗称どおり、一人の会員が二名宛新会員を獲得し、順次二倍宛ネズミ算式に会員を増加させ、後順位会員からの送金により、初めに出資した入会金と先順位会員への送金額をはるかに超える高額の金員を取得しようとするものである。しかし、人口が有限であること、多数の未加入者が推定されること、会員中には死亡者や後続会員の勧誘をしない(又はできない)名目的会員が少なくないこと等から必然的に行き詰ることは明らかである。例えば、原始会員八名により発足した本件各講が順調に発展した場合、二五代目で一億三、四三三万余名となり、二八代目には一〇億七、四七〇万余名となる。そして行き詰りとなった場合、下部二段の会員は、当初の出資(入会金及び先順位者への送金)をしたのみで、後順位者からの送金はないから、損害を受ける結果となり、しかもその被害者数が常に利得者総数を上廻ることは、幾何級数的に増加する数式の和を考えれば明白である。現実に本件各講の多数の系列に行き詰り現象が生じ、多数の被害者が続出しているのである。
(2) 本件各講は、被告内村の利益のみが守られるように仕組まれており、会員の利益は放任されている。
すなわち、会員となろうとする者は、被告内村の指定する先順位の会員に送金し、被告内村(本部)に入会金を支払うのであるが、会員となった者は、二名の子会員の勧誘につき法律的な義務はなく、各自の自由意思に任されているのみならず、子会員ができない理由の如何を問わず、被告内村は全く関与せず、子会員ができないのは各会員の怠慢によるもので、被告内村に何らの責任はなく、又本件各講の組織、仕組に何らの欠陥もないと主張しているのである。会員が努力して後続会員を加入せしめた場合、被告内村に送金される入会金は必ず保証されるが、会員にとっては後続会員からの送金は必ずしも保証されておらず、自己の関与し難い後続会員の努力、活動にかかっているのである。そして、被告内村は、送金されてくる入会金を全会員のものであると称しながら、会員に対しては管理処分権限を与えず、自己のみが管理処分権限を有し、個人的な恣意や趣味のために費消している。このように、被告内村の利益だけが保障され、会員全体の利益は保障されず、本件各講自体が何ら生産的機能を有していないため、多数会員の犠牲の上に被告内村の利益が成り立っているのである。
(3) 被告内村は、本件各講の目的が「心、和、救け合い」にあるとしているが、現実の被告内村の行動は右目的と矛盾しており、真の隠された目的が入会金取得にあることは明白である。
被告内村は、「心、和、救け合い」の精神を実践するため、本件各講を開始したと称しているけれども、前記のとおり、本件各講の組織自体が必然的に限界を生じ多数の犠牲者が出るものであり、多数会員の犠牲において被告内村が確実に利得できるよう仕組まれているのである。そして、被告内村は、入会金で、高価な飛行機、高級乗用車、ビル、国債等を購入したり、映画を製作する等、個人の趣味や意向によって入会金を独断で管理処分している一方で、本件各講が社会的混乱を惹起し、多数の被害者を出していることを知りながら、その予防措置や救済措置を全く採ろうとせず、新たな種類のネズミ講さえ次々と始めているのである。
(4) 本件各講は、労せずして一攫千金を夢みる人間の金銭的欲望をかりたて、労働意欲を喪失させ、健全なる社会を破壊し混乱をひき起しているのである。
すなわち、被告内村は、後記5において主張すような欺罔的行為に及んでおり、一定の金を送り、二人の会員を勧誘すれば容易に高収入がえられるかの如く宣伝し、人間の射倖心をいたずらに煽って労働意欲を低下させ、その結果社会的な混乱をひき起している。本件各講の会員の中には、行き詰りのため、倒産や休業に追い込まれた者、高利貸からの借金返済に窮している者、いわゆる夜逃げをした者、取引上の信用を失なった者等が多数出ており、その挙句に自殺をしたり自殺を図った者もいるのである。また、会員の勧誘は金員の拠出を当然に伴なうところから、信頼関係の深い者同志の間で行われるが、一旦つまづきが生ずると、従来の親密な関係は断たれ、親族、知人の間で喧嘩、口論、憎悪、暴力沙汰が発生しているのである。
5 仮に、右主張が認容されないとしても、被告内村は、左のような虚偽の宣伝、説明をして原告ら多数人を欺罔して入会金名下に送金させて、これを騙取し、原告らに対し損害を与えたものであるから、不法行為責任があり、原告らに対し損害を賠償すべき義務がある。
(1) 被告内村は、本件各講の如きいわゆるネズミ講が、論理的にも現実上も必ず行き詰り、限界が来るものであることを十分知りながら、学校に毎年新入生が入ってくるように、毎年新しい入会者があり、また毎年新しく生れており、既に会員である者もさらに入会すれば、無限軌道、輪を描くことになって限界は来ない等と、幾何級数的に加入者を必要とする仕組や実際の加入者が意外に少ない実状を無視して、数字でまどわし宣伝、説明をした。
(2) さらに、郵便局の事務処理能力に限界があり、また本件各講の制度的な欠陥から、現実には本件各講が予定するとおり最優先順位となって後順位会員から全ての送金を受けられた者(いわゆる満額をえて完結した者)がほとんどいないことを知りながら、被告内村は、パンフレット等において、本件各講に入会すれば、二人の子会員を勧誘するだけで数ヶ月後には満額の送金を受けられる旨宣伝した。しかし、前記のとおり、原始会員八名で開始した本件各講が仮りに順調に発展したとすれば、一八代目で一〇〇万人を超え、二五代目で一億三、〇〇〇万以上の新会員が必要となり、しかも本件各講以外にも現在五種類のネズミ講を主宰していることを考えると、会員数は天文学的数字となり、これらの者が数ヶ月後に満額を入手することは、人口的、金銭的に不可能であるのみならず、郵便局、本件各講の本部の事務処理能力からいっても不可能であることは明白である。にもかかわらず、被告内村は、右のとおり、始めからほとんど可能性のないことを、あたかもすぐに実現するかのように宣伝しているものである。
(3) 被告内村は、パンフレット等により、本件各講が単なる講ではなく、「心、和、救け合い」の精神の実現であるとして、財団法人天下一家の会や宗教法人大観宮と関係づけてもっともらしく説明しているが、それ自体、人を欺くための偽装手段であり、本件各講により住宅資金や営業資金がいとも簡単にえられることを宣伝の重点としているのである。しかも、実際には一年間という制限があることを秘して、会員になれば、全国各地にある保養所を自由に無料で使用でき、保険よりも有利な見舞金等の制度があるとの甘言を用いて欺罔し、原告ら多数人を誤信させ、入会金名下に金員を送付させ、もってこれを詐取したのである。
6 被告杉田は、「長野心和会」の名称の下に、被告内村の主宰する本件各講のうち、「交通安全マイハウス友の会」の宣伝及び加入斡旋をしていたものであり、昭和四六年三月から五月頃までの間に、別紙第一原告目録番号13、15、24ないし27、61ないし71、73ないし76、101、147、148、232、380、384ないし386の原告らから、右「交通安全マイハウス友の会」への加入手続を依頼されたが、その際、右原告らに対し、次のとおり損害を負わせた。
(1) 第一原告目録番号101の原告は、右「友の会」への加入手続を被告杉田に依頼して金一〇万円を交付したところ、被告杉田は、その後右原告が後順位の会員から送金された金一六万円を右原告に代わって受領したにもかかわらず、そのうち金六万円しか右原告に交付せず、残額金一〇万円を不当に横領した。そのため、右原告は金一〇万円の損害を受けたが、被告内村から返還さるべき金員を差引くと、少なくとも金六万円の損害を受けている。
(2) 第一原告目録番号13、15、24ないし27、61ないし71、73ないし76、147、148、232、380、386の原告らはいずれも右「友の会」への加入手続を被告杉田に依頼し、それぞれ金一〇万円宛を交付したところ、被告杉田は、恣意的に順位を設定し、自己の親族や知人が有利となるようにできるだけ先順位に置き、右原告らを本来勧誘者の下位に位置づけて系列をのばしていくべきところを並列的に加入したように順位を決定し(いわゆるランクの横づけといわれるもので、別紙組織図でいえば、例えば、原告らがD1の次にE1、E2と加入し、さらにF1、F2、G1、G2と加入したにもかかわらず、全員がE1、E2……E7に加入したようにする等の操作をするものである。)、自己の親族や知人へ早期に送金がなされるようになし、右原告らに対し後順位者からの送金がなされない結果に至らしめ、各金一〇万円から入会金各金二万円を控除した各金八万円の損害を蒙らせたものである。
(3) 第一原告目録番号384、385の原告らは被告杉田に対し、それぞれ右「友の会」への加入手続を依頼し、各二〇万円宛を交付したところ、被告杉田は、その後右原告らが後順位の会員から送金された各金一六万円を右原告らに代わって受領したにもかかわらず、そのうち番号385の原告に金六万円を交付したのみで、その余の残額金を不当に横領した。そのため、番号385の原告は被告内村から返還を受くべき金四万円を控除した金一二万円の損害を受け、また番号384の原告は金一六万円の損害を受けたものである。
7 以上の次第であるから、原告らは被告内村及び被告杉田に対し、それぞれ請求の趣旨記載の各金員及びこれらに対する本件訴状送達の日の翌日以降各完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(二) 請求原因に対する被告内村の認否及び主張
1 請求原因1の事実中、被告内村が本件各講を主宰し運営管理していること、入会金の送金先が被告内村であることは否認するが、その余の事実は認める。
本件各講を主宰しているのは第一相互経済研究所(以下第一相研と略称する)であり、第一相研はいわゆる権利能力なき社団であって、被告内村はその代表者であるにすぎない。すなわち、被告内村は、従来の保険制度に矛盾と欠陥のあることを知り、本来の保険制度の原点に戻り、掛金がそのまま生かされて加入者全員の救け合いになる新しいシステムを考案し、同郷の思想家西村展藏の説いた「心、和、救け合い」の理念に基く天下一家の思想を金銭の授受という形で実践すべく、訴外中谷正次郎、同橋口初徳らとともに昭和四二年三月第一相研を設立し、熊本県水益城郡甲佐町の自宅を改造して事務所に提供し、自らその所長となって業務を開始したものである。第一相研の設立と同時に「親しき友の会」が原始会員(親会員)九名をもって発足したが、これは一人の会員が四名を勧誘して入会させていくもので、第一相研には入会費として金一、〇二八円を送金し、五代前の会員に対し金一、〇〇〇円を送金することとし、従って会員は五代後順位の会員(①代目の会員からみて⑥代目の会員)一、〇二四名から各金一、〇〇〇円宛、合計一〇二万四、〇〇〇円の送金を受けるというものであった。右「親しき友の会」の発足に際しては、被告内村は親会員ではなく、九名の親会員が第一相研の母体となり、被告内村は第一相研の代表者になったにすぎない。その後、第一相研の事務所は、昭和四四年二月熊本市本山町六三五番地所在の旧福田ビルに移転し、さらに昭和四六年六月には隣接地に新築したビルに移り、現在に至っているが、その間、会員らの要望により、昭和四四年六月「相互経済協力会」を、同年一二月「交通安全マイハウス友の会」を、昭和四五年一二月「中小企業相互経済協力会」を、さらに同年一一月には仕組を異にする「畜産経済協力会」をそれぞれ立案発足させ、それぞれその育成に努めた結果、昭和四五年春頃から会員の急激な増加をみるに至り、同年秋頃経済的な基盤の安定もえられたので、第一相研を団体として形式的にも完備したものとすべく、別紙主旨、綱領記載の如き成文を同年一二月に作成したのである。そして、この綱領は、従来実行されてきた第一相研の運営実体を文章化し、第一相研の団体的性格を明確にしたものであり、これに基き、昭和四六年一月以降全国各地に第一相研の支部を設け、同年六月一五日新社屋完成を機会に各支部より選出された会員代表を集めて意思決定機関とし、第一相研を人格なき社団として発足させようにしたところ、同月五日国税当局の査察を受け、引続き検察官の強制捜査により一時中断のやむなきに至ったのである。しかしながら、会員の総意により法人化の念願を捨てず、専門家の意見を徴しながら被告内村らが中心となって、第一相研の特殊性を加味し、その実態に即応した定款案を作成し、これを全国の支部長等十数名にも検討させたうえ、昭和四七年五月二〇日開かれた会員総会(全国の会員より選出された会員代表一四〇名中九四名出席)に附議し、その承認をえたので、別紙定款記載のとおり、第一相研の定款が決まり、同時に右総会において理事一五名、監事三名が選任され、また前記綱領において定められた内村を終身代表責任者とすることも確認されたので、ここに第一相研は名実ともに人格なき社団として完成されたのである。なお、右総会においては、従来入会金によって取得され、被告内村個人の名義で登記されていた不動産をはじめ、一切の資産を第一相研の基本財産として組入れることも確認されているのであり、その後毎年一回会員総会が開催されて、基本財産の組入れ及び処分、歳入歳出予算及び決算の承認、役員の選任等重要事項が審議され、また年間一〇回前後の理事会が開かれて、事業計画等重要な会務の執行を決定し、財産の管理処分は理事会において定められ、内村個人において自由になしうる余地は全くない。国においても第一相研の現状につき充分調査をなし、これを権利能力なき社団と認め、昭和五一年三月には、昭和四七年五月二〇日から昭和四八年三月三一日までの事業年度分について法人税を課し、更正決定をなしてきているのである。
2 請求原因2の事実は認める。但し、前記のとおり、入会金の送金先は第一相研であって、被告内村個人ではない。
3 請求原因3の事実中、左の原告らが入会金を送付して会員となったこと及び送金先が被告内村個人であるとの点を除き、その余の事実は全て認める。
すなわち、以下の原告が本件各講の会員となったことは否認する。第一原告目録記載の原告らのうち、番号16、17、128、155、222、223、227、241、269、275、285、287、295、302、311、326、360、378、391(但し、加入者記番号A一四―一二一三の分)、403(但し、加入者記番号C一四―一六一六の分)の各原告ら、及び第二原告目録記載の原告らのうち、番号1、26、70、117(第一原告目録番号200と重複)、127(但し、加入者記番号中A一三―二八五〇の分)、138、139の各原告ら。
4 請求原因4の事実及び主張は否認する。
(1) 本件各講の仕組については、入会した趣旨に則り、二名の子会員を勧誘する義務を果せば、実現性のあることは自明の理である。原告らは、本件各講が数学的に行き詰ることを強調しているが、その理論こそ机上の計算にすぎず、一時本件各講の入会者が減少したことはあるが、これは、昭和四六年六月五日、被告内村に対する所得税法違反等の嫌疑により国税当局の査察を受け、マスコミに報道されたためであり、その後は順調に発展している。原告らは、第一相研の行なっている本件各講が救け合い運動の目的の下になされていることを承知し、またパンフレット等を読み、その趣旨、目的を全て了解して加入しているものである。
(2) 原告らは会員となったことにより、後順位会員より送金を受けうる地位を取得し、見舞金を受領しうる権利、保養所を利用しうる権利を取得したのであり、現に原告らの中には、後順位会員より送金を受けた者、見舞金を取得した者、保養所を利用した者が多数いる。原告らの中には送金を受けていない者もいるけれども、これらの原告らも子会員を二名勧誘して加入させる義務を充分承知のうえで入会しているのであって、その義務を履行しないで自らを被害者とするのは自分勝手といわざるをえない。なお、後順位会員より送金を受けた原告らは次のとおりである。第一原告目録記載の原告らのうち、番号1一〇〇万円、5一六万円、20八万円、21一六万円、22一六万円、23八万円、36一六万円、38一六万円、57八万円、82一六万円、83八万円、85八万円、87八万円、88一六万円、95一六万円、99一六万円、101一六万円、106一六万円、111一六万円、121八万円、125一六万円、127一六万円、130八万円、133八万円、134一六万円、162八万円、163八万円、164八万円、172一六万円、179八万円、182八万円、184八万円、186八万円、193八万円、194一六万円、201八万円、202四〇万円、204二四万円、205四八万円、206一六〇万円、207一二〇万円、209一六万円、213一六万円、217一〇四万円、219四八万円、220一六万円、226八万円、230八万円、236一六万円、238八万円、243八万円、245一六万円、253一六万円、257一六万円、259一六万円、267一六万円、272一六万円、280八万円、282一六万円、284八万円、288一六万円、300八万円、304八万円、307一六万円、312八万円、316八万円、317八万円、318五六万円、319八万円、322一六万円、323八万円、324二四万円、325一六万円、329二四万円、339一六万円、340八万円、344六四万円、351一六万円、352一六万円、355一六万円、358八万円、359一六万円、365八万円、372一六万円、374一六万円、382一六万円、383一六万円、385一六万円、386八万円、390一六万円、393一六万円、395一六万円、396八八万円、397一〇四万円、399一六万円、401一六万円、402一六万円。第二原告目録記載の原告らのうち、番号1一〇〇万円、4五〇万円、5一〇〇万円、6一〇〇万円、14一〇〇万円、17五〇万円、25一〇〇万円、34五〇万円、35一〇〇万円、37一〇〇万円、38一〇〇万円、44一〇〇万円、45一〇〇万円、46五〇万円、47一〇〇万円、48一〇〇万円、52一〇〇万円、58五〇万円、66一〇〇万円、81五〇万円、84五〇万円、93五〇万円、94五〇万円、97五〇万円、99五〇万円、105一〇〇万円、119一六万円、120一〇〇万円、123八万円、124一〇四万円、126一一六万円、128一一六万円、129五〇万円、131一三二万円、132一〇〇万円、138二〇〇万円、135二〇〇万円、136四五二万円、137一五〇万円、139一五〇万円。
(3) 第一相研は、加入者が支払う入会金によって運営されるのであるが、その事業内容は、(イ)救け合いの精神に基く相互扶助の実を挙げるための各会(講)の立案並びにその育成を主たる内容とし、(ロ)会員に対する保険、見舞金制度の実施、(ハ)研修保養所の運営、(ニ)社会福祉施策の実施等である。そして保険、見舞金制度についてみると、第一相研設立の動機のひとつは、真に保険の必要な人が保険に加入できないということにあったため、救け合い運動の一環として昭和四四年七月「相互経済協力会」の発足を契機として、第一相研が会員を被保険者として保険契約を締結し、事故が発生した場合、保険会社から直接保険金が支払われることとした。ところが昭和四五年春頃から大蔵省の圧力により保険会社が保険契約を回避するようになったため、同年一二月やむなく自家保険的な見舞金制度に切替えるに至ったものである。その間保険会社に支払った保険料は三億六、八五〇万円余り、見舞金制度に切替えてから昭和四六年六月までに直接会員に支払った見舞金は二億六、五七〇万円にのぼる。このように見舞金制度は、第一相研が目的とする会員に対する福祉政策の一環として行われているものである。また、研修保養所の運営についてみても、昭和四五年七月、会員の宿泊所、三〇〇名を超える職員の厚生施設として玉名保養所を購入したが、これが契機となって会員から各地に保養所設置の要請が出されるようになり、第一相研としても保養所を利用して会員の親睦を図り、同時にそのような機会に会の趣旨、目的を周知させることを考え、会員の多い地方から逐次研修保養所を購入していったのである。研修保養所の購入、運営費は全て入会費で賄われたのであるが、昭和四六年までに購入された研修保養所八ヶ所の施設購入費用は合計約一三億四、〇〇〇万円にのぼり、その運営費として昭和四七年七月までに合計金二億四、六五〇万円余りを支出しているのである。さらに社会福祉政策として、各地の老人ホーム、交通遺児育英基金、幼稚園等に対する寄附を実施している。
入会金は右のような事業を運営するための資金に充当されているのであるが、とりわけ第一相研としては、各会(講)の発足当時約束された入会金によって、その組織の存続する限り、これに必要な事務処理をしなければならないのであって、入会手続の事務処理に必要な経費を支出してなお入会金に余剰を生じたとしても、これは将来発生を予想される必要経費の資金として準備しておかなければならないのであり、入会金により金儲けをしているわけではない。
5 請求原因5の事実は否認する。第一相研ないし被告内村は、会員又は会員になろうとする者に対し、いかなる点においても欺罔したことは一度もないし、約束したことはそのとおり実行しているのである。
(三) 請求原因に対する被告杉田の認否
1 請求原因6の事実中、被告杉田が「長野心和会」を設けたこと、及び請求原因6に記載された原告らから「交通安全マイハウス友の会」への加入手続を依頼されたことは認めるが、その余の事実は否認する。
2 被告杉田は、右「友の会」の宣伝や加入斡旋をしたり、自己の利益のため不正な加入手続をとったことはなく、原告らに対し新規加入を強制したこともない。被告杉田は会員の便宜を図ったことはあるが、依頼された入会手続に違背したり、横領をして原告らに損害を与えたこともない。
(四) 被告内村の主張に対する原告らの答弁
1 前記(二)(請求原因に対する被告内村の認否及び主張)1において、被告内村は、本件各講の主宰者が権利能力なき社団である第一相研である旨主張しているが、第一相研が設立当初から現在まで権利能力なき社団であるとの実体はなく、被告内村個人の経営するものにほかならない。すなわち権利能力なき社団といいうるためには、団体としての組織を備え、代表者その他の役員の選任方法、その権限、総会の運営、財産管理その他社団としての必要事項が規則によって明確にされていることを要するところ、第一相研は右の事項を一切欠いており、昭和四七年五月に作成されたという定款も単なる作文にすぎず、例えば、現在の第一相研の支部は任意的に被告内村の意思と無関係に設置され、且つ多数の未加入会員が存在し、同機関に基く定款、代表、執行機関、財産管理等の決定、承認の一切は違法、無効といわなければならない。被告内村が単独で全職員を解雇したり、被告内村が終身会長で、且つ三分の一の理事指名権を有し、その抑制機関がないこと、社団構成員たる会員の意思を直接反映させる機関がないことは、社団性を否定する典型的事実である。
2 前記(二)4(2)において被告内村の主張する送金額、受領者は全て認める。但し、このことによって原告らの被告内村に対する請求権に消長をきたすものではなく、送金した者と送金を受けた者との関係が問題となるにすぎないものである。
三 証拠≪省略≫
第四 理由
一 被告内村に対する請求について
(一) 請求原因1、2の各事実中、被告内村が本件各講を主宰し運営管理していること、入会金の送金先が被告内村であることを除くその余の事実は、全て当事者間に争いがない。
(二) 右争いのある点につき、被告内村は、本件各講を主宰し運営管理している主体が権利能力なき社団である第一相互経済研究所(以下第一相研と略称することがある)であり、被告内村はその代表者であるにすぎず、従って、入会金の送金先も被告内村個人ではなく第一相研である旨主張しているので、以下この点につき検討する。
≪証拠省略≫を総合すると、左の各事実を認めることができ(る。)≪証拠判断省略≫
(1) 被告内村は、昭和四二年三月熊本県上益城郡甲佐町の自宅に事務所を置き、第一相互経済研究所の名称で「親しき友の会」なるいわゆるネズミ講を開始した。右の会は、一人の会員が順次四名を勧誘して入会させ、会員となろうとする者は五代上の先順位会員に対し金一、〇〇〇円を、第一相研に対し入会金一、〇二八円をそれぞれ送金して加入するもので、各会員は五代後の会員一、〇二四名から各金一、〇〇〇円宛、合計金一〇二万四、〇〇〇円の送金を受けて完結するという仕組であった。被告内村は原始会員(親会員)にはならなかったものの、第一相研の所長として右会を主宰し、運営管理していたものであり、会員は昭和四二年度が約七万余名、昭和四三年度が約六万余名と一応順調に発展していった。
(2) 昭和四二年八月、被告内村は訴外合資会社福田部品から、熊本市本山町六三五番地の宅地及びその地上に建てられた四階建ビル(通称福田ビル)を買受ける旨の売買契約を締結し(なお右売買契約書中には、本来買主として第一相研親しき友の会代表者内村健一とすべきであるが、都合により被告内村個人が買主名義人となる旨記載されている)、昭和四四年二月頃、第一相研の事務所及び自宅を右福田ビルに移転し、同年六月「相互経済協力会」を発足させ、右「親しき友の会」の場合と異なり、一人の会員が二名の新会員を勧誘すればよく、孫会員二名から、当初の出資金以上の金員が早期に回収できる方式を採用し、同種のネズミ講としてさらに同年一二月に「交通安全マイハウス友の会」を、昭和四五年一二月に「中小企業相互経済協力会」をそれぞれ発足させた(この点は当事者間に争いがない)。
(3) 右各会員数は昭和四六年五月末当時延約七〇万名で、内訳は、「親しき友の会」約一七万名、「相互経済協力会」約三七万名、「交通安全マイハウス友の会」約一五万名、「中小企業相互経済協力会」約七万二、〇〇〇名となっており、その間に第一相研に送金された入会金の総額も約七七億円に達し、この入会金は、被告内村及び第一相研の職員らの給与、各会の運営管理事務費用、前記福田ビルの購入費、会員の事故死等に対する見舞金の支払に充てられたほか、この入会金により、昭和四五年七月に玉名保養所を購入したのを始めとして全国八ヶ所に研修保養所を購入して運営し、福田ビルの隣接地に地上八階建のビルを建設し昭和四六年六月に完成させて移転し、また小型飛行機やヘリコプター、高級乗用車等の購入、社会福祉施設への寄附等がなされていた。
(4) ところで、被告内村はかねてより第一相研を法人化したいと考え、昭和四五年一二月に別紙主旨、綱領記載の如き第一相研の綱領を成文化したが、それ自体極めて抽象的で、同郷の思想家西村展藏の唱えた天下一家の思想を普及するための「天下一家の会」と第一相研は同体異名であると規定し、第一相研は主旨に賛同する親和の友の集りで組織され、入会金により運営されること、代表者は創始者内村健一をもって終身代表責任者とし、組織運営責任者を所長(会長)一名、常務六名、計七名以上とする旨定めているにとどまり、会員資格の得喪に関する明確な定めや総会の構成、理事、監事とその権限等に関する定めもなく、到底社団の定款としての実質はなかった。
(5) また、第一相研の現実の運営面でも、その所長である被告内村がほとんど絶対的な権限を有し、常務として任命された者も実質的には職員と大差がなく、被告内村の補助者ないし諮問委員にすぎず、第一相研の業務執行、入会金その他の財産の管理処分等は全て最終的に被告内村の意思により決定され、不動産等の登記登録名義は第一相研に法人格が認められていないため、当然のことながら被告内村の名義となっていた。そして、昭和四六年六月一五日新しいビルの落成式を兼ねて天下一家の会、第一相研の全国大会を開催することが計画され、当時比較的ネズミ講会員の多かった青森県、山形県、長野県、岐阜県その他数県において第一相研の支部と称する組織もできていたが、これらの支部のほとんどは、各地域の一部の会員が任意的に組織したもので、当該地域の全会員が参加していたものではなく、従って支部に加入していなかった会員は極めて多数にのぼり、また、例えば長野県下においても多数の地区にそれぞれ支部と称する組織がある等、自然発生的で不統一なものであった。
(6) 昭和四六年六月五日、熊本国税局は被告内村に対する所得税法違反の嫌疑で強制調査を実施し、これが全国に広く報道されたため、本件各講への新規加入者も激減し、会員の間に種々の混乱が生じた。しかし、被告内村は同月一五日新築の第一相研ビルの落成式を挙行して移転し、以後同ビル内に家族とともに居住するようになり、副会長である長男内村文伴やその他の常務ともども種々の対策に追われたが、全国の会員から提出される要望に対し具体的金銭的な救済は何らなさず、もっぱら会員に対し本件各講等の組織維持とその発展を訴え、第一相研の機構、組織及び財産管理等を明確にしようとした。
(7) 昭和四七年三月、被告内村は、所得税法違反により熊本地方裁判所に起訴されたが、同年五月一一日別紙定款記載の如き第一相研の定款を作成し、同月二〇日、各支部の代表会員の承認もえたうえ、右定款に従って第一相研の機構を一応整備し、その後新しいネズミ講として「花の輪Aコース」「同Bコース」「同Cコース」のほか、さらに「洗心協力会」をも発足させ、毎年度「事業概要」と題する各年度の事業報告書、歳入歳出予算書を作成して公表するようになった。そして、昭和五一年五月現在、第一相研は全国に県支部一三、連絡事務所二六、研修保養所一二ヶ所を有しており、右定款に基き各支部において選出された会員代表により構成された会員総会も開催されている。なお、被告内村は、昭和四八年四月登記名義のみ残存していた財団法人肥後厚生会なる昭和二二年設立の団体を承継する形で財団法人天下一家の会を設立し、また同年一一月には宗教法人大観宮を設立してそれぞれの代表者に就任したが、これらは本件各講その他のネズミ講を直接主宰運営している主体ではなく、従前どおり、天下一家の会、第一相互経済研究所がネズミ講を主宰しているものである。
(8) 右のように、第一相研は、形式上社団らしき定款と組織機構を備えるようになり、昭和四七年五月二〇日以降は法人税をも課せられているのであるが、社団性を認めるには、未だ根本的な疑問点が存在している。すなわち、第一相研の現在の定款は、昭和四七年五月に制定された別紙定款記載のとおりであるところ、会員資格の得喪については第七条、第八条に定められ、これら条文によれば、本件各講等のネズミ講に所定の入会金を支払って加入し登録を受ければ、死亡、退会申出、除名がない限り、いつまでも会員であると解せられ、被告内村自身そのように説明している場合もある。しかし、定款第七条三項には「会員となった者は毎年一回以上同一組織に加入するものとする」と定められ、現に本件各講の会員に対して交付される会員証には、有効期限として一年間の期間が記載されており、見舞金の受領権限、保養所の無料使用権限が一年間に限られていることから、会員たる資格は登録されてから一年間と限定されているともみられうる余地があり、他方、本件各講において一旦会員となったものが後順位者からの送金を受ける権限は予定の満額に達し完結するまで年限に関係なく存在することは本件各講の仕組から当然に許容されているのであって、満額の送金を受けたとき会員資格を失ない、それまでは当然に会員であるともみられ、この点につき第一相研の理事ですら、異なった解釈をしている者がおり、会員の範囲、資格が極めて不明確である。
(9) 本来社団において必須の最高の決定機関である総会につき、第一相研の定款では、第一五条に「会員総会は、各支部において選出された会員代表によって構成する。会員代表の数は、各支部の会員の数に応じ、理事会において決定するものとする。」と定められている。しかしながら、前記のとおり、会員として取扱われる者の範囲すら明確でないうえ、支部は第五条で「必要に応じて支部を設ける」とされていて、現実には支部が全国各地に設置されているわけでなく、前記のとおり昭和五一年五月当時においてすら一三の府県にあるにとどまり、支部が存在する府県でも、会員(その意味も右のとおり必ずしも明確でない)全体が把握されてはおらず、少数の会員が集まって支部と称している場合があり、ましてや支部が存在しない地域の会員は代表者を選出する機会がないのである。従って、会員の多くは、会員代表を選出する機会、表決権を行使する機会を与えられておらず、本来社団における総会は、正当な手続によって招集され、且つ各会員に表決に参加する機会が与えられることを必要としているものであるから、第一相研における会員総会は単なる形式的なもので、社団における正当な総会の実質を有していない。
(10) 第一相研の定款第二〇条によれば、被告内村は終身理事であり、会長となる旨定められ、理事のうち三分の一は被告内村が指名できることとなっており、前記のとおり、被告内村が財団法人天下一家の会、宗教法人大観宮の各代表者であって、第一相研もこれらの団体と密接不可分の関係にあり、第一相研の創始者が被告内村であることとあいまって、いわば教祖的な中心人物として崇められ、第一相研の業務執行、財産の管理処分について現実には被告内村の意思によって全てが決せられ、多数決の原則が行なわれておらず、第一相研と被告内村とは外観上も実賛上も一体不可分の関係にあるとみられるのである。
以上認定した諸事実によれば、昭和四五、六年当時第一相研が権利能力なき社団といえる実体はなく、第一相研の名称で被告内村が本件各講を主宰していたものというべきであるし、その後昭和四七年五月に定款を作成して組織機構を整備した後も、税法上の取扱いについてはともかく、権利能力なき社団であるというには未だ強い疑問が存在し、むしろ第一相研こと被告内村というべき一体不可分の実質関係があると認められるのである。のみならず、仮に第一相研が権利能力なき社団であり、本件各講を主宰しこれらを運営管理しているものとして訴訟能力があるとみても、右に認定した事実関係の下においては、第一相研の業務執行の代表者として本件各講の事務処理権限を有し、且つ入会金その他の資産の管理権を有している被告内村には、本件各講に関する訴訟の当事者(被告)となりうる適格があると解するのが相当である。
従って、昭和四五、六年当時本件各講の主宰者が第一相研の名称でこれをなしていた被告内村であり、入会金の送金先が被告内村であったとの原告らの主張事実は、これを認めることができ、原告らの被告内村に対する本訴提起を不適法とすべき理由もない。
(三) 請求原因3の事実中、第一原告目録記載の番号16、17、128、155、222、223、227、241、269、275、285、287、295、302、311、326、360、378、391(但し、加入者記番号A一四―一二一三の分)、403(但し、加入者記番号C一四―一六一六の分)の各原告ら、及び第二原告目録記載の番号1、26、70、117、127(但し、加入者記番号中A一三―二八五〇の分)、138、139の各原告らが入会金を送金して会員となったこと、及び送金先が被告内村であるとの点を除き、その余の事実は全て当事者間に争いがない。
本件各講の入会金の送付先が第一相研こと被告内村であったことは前記認定のとおりであり、第二原告目録記載の番号1の原告がその主張する如く所定の入会金を送付して「中小企業相互経済協力会」に入会したことは、≪証拠省略≫によりこれを認めることができる。しかしながら、その余の右掲記の各原告らが本件各講の会員になったことを認めるに足る証拠はなく、従ってこれらの原告らの被告内村に対する本訴各請求は、その余の点につき判断するまでもなく、いずれも失当といわざるをえない。(なお、第二原告目録記載の番号117の原告は、第一原告目録記載の番号200の原告と完全に重複しており、その主張する加入講の種類と請求額とに照し、第二原告目録への記載自体が誤記と推認されるので、第二原告目録番号117の原告請求分を失当として棄却することとする。)
(四) そこで、本件の主たる争点である請求原因4の事実及び主張、すなわち、本件各講が公序良俗に反するものであり、従って、第一相研こと被告内村と原告ら(但し、前記(三)において会員であったことの証明がないとされた原告らを除く)との間に成立した本件各講への入会契約が民法九〇条に違反するものとして無効といえるか否かにつき判断することとする。
≪証拠省略≫によれば、左の各事実を認めることができ(る。)≪証拠判断省略≫
(1) 本件各講の破綻の必然性
本件各講の如きネズミ講と称される組織の基本的原理自体は、被告内村の創案にかかるものではなく、古くから存在するものであり、前記争いのない事実から明らかなとおり、本件各講においても、予め指定された先順位会員に対し一定の金員を送付したうえ、所定の入会金を本部である第一相研こと被告内村に送り登録されることにより会員となり、会員となった者は二名の新会員を勧誘して、同様に先順位会員と第一相研に送金させて加入せしめ、さらに右の子会員はそれぞれ二名の新会員を勧誘していわゆるネズミ算式に会員を増加させ、各会員は後続会員からの送金により、当初自己が先順位会員と第一相研に送金した金員、つまり出資金(出捐金)より極めて高額の金員を(中小企業相互経済協力会においては六〇万円を出資してその五五倍に相当する三、三〇〇万円を、交通安全マイハウス友の会においては一〇万円を出資してその約五三倍に相当する五二八万円を、相互経済協力会においては四万円を出資してその約二五倍に相当する一〇二万円を)取得しうるという組織原理になっている。ただ本件各講の特徴としては、孫会員四名中二名から送金を受けるシステムを採用しているため、比較的早期に当初の出資金以上の金員を回収できるという点が存在するのである。
しかしながら、右の組織原理は、理論上必ず限界が生じ、実現不可能となる性質のものである。すなわち、原始会員(親会員)八名をもって発足した本件各講において、仮に後順位会員が順調に二倍宛の割合で加入していったとすれば、二四代目の新加入会員は六、七〇〇万人を超え、二四代目までの総加入人員は総計で一億三、四〇〇万人を超えるのであり、その間に予定された満額を取得して完結できた者は約一〇〇万人にすぎないのである。そして、右二四代目に加入した新会員がそれぞれ二名宛の新会員を勧誘することができるためには、さらに一億三、四〇〇万人以上の人間が必要であり、これを次々と繰り返していくならば、仮に日本国民全員が何回も再加入したとしても、数学的にその続行は不可能となり、限界に達して行き詰りが生ずることは理論上明白である。またどの段階で行き詰りが生じたとしても、最終の下位二段の会員は、最終的に出資金を回収することができず、その会員数は、少なくとも出資金相当額を回収できた会員数に比して圧倒的に多くなることは、会員が幾何級数的に増加するということから明白である。
また、現実論としても、本件各講は遅かれ早かれ行き詰まり現象が生ずることは明らかである。すなわち、ネズミ講の右のような組織原理の理論的限界と危険性に気付く者は少なくないことが予想され、日本国民全員が加入するとは到底考えられないこと、会員となった者の中には勧誘の努力をしないため子会員を二名確保できない者が現実には生じてくるのみならず、子会員の勧誘をしようとする熱意があったとしても病気や死亡等のためそれが不可能となることもありうること、またある地域でネズミ講に加入した者が増加すると、いわば飽和状態となり、新会員を勧誘することが事実上困難となってきて、個人的な努力や熱意のみでは解決できない場合が必ず生じてくること等のため、組織全体が順調に発展していくことはなく、系列によっては一時順調に後続会員が増えていくことはあっても、やがて中断してしまう場合が少なくないのである。従って、ある会員の五代、六代後の後続会員ができないで、立ち消えになり中断してしまう系列も数多く出てくるのである。そのため、順調に会員が増えて、予定された満額金またはこれに近い金額を取得しうることは、早期に会員となった少数の者を除いてほとんど存在しないのである。
(2) 本件各講の非生産的、射倖的要素
右のとおり、本件各講の組織原理は、多数の後順位会員から少数の先順位会員へ送金するというものであり、少数の先順位会員が多額の金員を取得することはあっても、これを将来にわたり後続会員に返還したり、還元する法律上の義務は存在せず(第一相研の定款によっても、会員は毎年一回加入するものとする旨定められているにすぎない)、多数の後続会員が、当初の出資金(先順位会員への送金分と入会金)を回収できるとの保証はなく、もっぱら後続会員を勧誘し獲得するほかないのである。しかもこのような金銭の授受の過程においては何らの生産的活動や商品流通も伴わず、前記のとおり理論的にも現実にも早晩行き詰り現象が生ずるから、最終的には下位二段以下の多数会員が損害を蒙ることになるのである。実際に、ある地域において、早期に入会した少数の会員は、会員の増加により満額に近い金員を取得しうることがあるけれども、やがて当該地域における人的限界等のため、大半の会員にとっては、新会員の勧誘が極めて困難となり、後続会員が順調にできないまま系列が途絶え、出資金を出捐したのみで、これを損害として諦めざるをえない結果となる場合が少なくないのであり、前記原告らの多くもこうした損害を受けたものである。右のように、ネズミ講組織の原理及び性質から、必然的にいわゆる早い者勝ちで、しかも六代、七代後の会員が確実に続くか否かにつき偶然性が一部にあるという賭け的要素の強い現象が表われ、一般大衆の射倖心や無思慮を利用して、多数人の犠牲により少数者が不当に利得をうる結果を生ぜしめるのである。
(3) 被告内村の詐欺的、誇大宣伝
被告内村(第一相研)は、そのパンフレット、著書のほか、講演等の機会において、ネズミ講には限界があり行き詰りが生ずるのではないかとの点につき、多数の者が一時に加入するということはありえないのであって、現実には、後続の新会員を勧誘して加入の登録がなされるまでに勧誘、郵便集配、加入登録手続期間として一定の時間が必要であるし、一方ではその間に次次と新しく人間も誕生してくるほか、一人で数口加入したり、会員が次々と再加入をすることもできるのであるから、この時間と空間を考慮すると無限に続いていく可能性があり、円を描いて無限軌道を形成する旨一見もっともらしい説明をしているのである。また、新会員を勧誘するためのものとして会員に送付していたパンフレットには、本件各講が相互の信頼と友愛の基盤の上に立つ救け合いであり、二名の子会員を勧誘し、次々と紹介から紹介で継続されていくことによって、「数ヶ月後には貴方のグループの人達から五〇〇万円ものお金が順次送られてくることになるのです。」(交通安全マイハウス友の会)とか「数ヶ月後には貴方の企業グループから三、三〇〇万円のお金が順次送られることになるのです。」(中小企業相互経済協力会)と記載されているのである。
右の如き被告内村の説明や宣伝には、明らかな誤謬と虚偽的要素が存在し、不当な勧誘手段であるといわざるをえない。すなわち、新しい人間が生れ、人口増加もありうることや既に会員となっている者が再加入を続けていくことを考慮にいれても、会員は二倍宛増大していくべきものとされているネズミ講の組織原理自体から必然的に限界がくることは論理的に明白である。これに対し、被告内村は、勧誘をして加入登録をするに至るまでには郵便集配や事務処理上一定の時間を要し、その時間等を考えると現実には限界がこない旨説明する。しかしながら、ネズミ講は、幾何級数的に会員が拡大していくことを前提としており、会員が二名の新会員を勧誘して加入させるべきことは絶対的な義務とされている以上、一度に多数人が加入することはありえないとか、加入登録手続に時間がかかるということを許容することは、組織の根本原理そのものを自己否定していることにほかならず、もし郵便や登録手続の処理能力の故をもって現実の加入手続に一定の時間がかかることを許容すれば、会員が増加すればするほど新しく加入した会員が後順位会員から多額の送金を受けることは幾何級数的に時間の遅れをもたらし、およそ会員の予想しえない事態となるのである。
例えば、被告内村はその説明の中で、現在の郵便制度を考えると年間一〇〇万人位しか新会員の加入登録はできないであろうと予想しているので、これを前提とすると、新しく加入した会員一〇〇万人があった場合その登録には一年間を要し、右の一〇〇万人が早期にそれぞれ二名宛合計二〇〇万人を勧誘しえたとしても加入登録が完了するまでに二年間を要することになり、さらにその二〇〇万人が直ちに四〇〇万人を勧誘しえたとしても加入登録が完了するには四年間を要することになるのである。このように順次順調に発展していった場合において、最初の一〇〇万人がその七代後順位の会員の半数から送金を受け始めるのは、早い場合もありうるとしても平均三〇年以上の後であり、遅い場合には六四年も経過した後からとなるのである。しかも七代後順位の会員数は六、四〇〇万人となるから、これらの者が登録されるには六四年間を要することになる。このような時間的な遅れを許すのであれば、或いは、被告内村の説明するとおりネズミ講はいつまでも続くといえるのかもしれないが、かくの如き事態は一体誰が予想したであろう。これを認容して加入する者は恐らく誰もいないであろうし、これを前提として新会員の勧誘ができないことは明白である。「数ヶ月後から送金が受けられる」旨のパンフレットの記載はほとんどの会員にとって虚偽以外のなにものでもない。また、およそ年間一〇〇万人とか二〇〇万人が加入することは現実にありえないというのであれば(実際には正しいであろうが)、ネズミ講が予定どおり順調に発展していくことを否定するものであり、現実的な行き詰り現象や著しい時間の遅れが生ずることを認めていることにほかならないのである。
以上のように、被告内村は、本件各講が理論的にも現実的にも破綻を来たし行き詰りを生ずるという組織原理に対し、「無限軌道」なる論旨不明の概念をもってもっともらしく説明したり、自己矛盾のある現実論をもって糊塗し、二人の新会員を勧誘獲得さえすれば、短期間に後続会員が増加し、誰もが当初の出捐金の数十倍にも達する高額の金員を容易に入手できるかの如く、説明し、宣伝しているのである。さらに、本件各講が非生産的で射倖的な要素を有し、多数の被害者を出す仕組となっているにもかかわらず、相互の信頼と友愛に基く救け合いであると宣伝して、後記のとおり、本件各講の破綻により現実には多数の人間関係や信頼関係を破壊し、種々の弊害を生ぜしめているのである。従って、被告内村は、本件各講につき詐欺的且つ誇大な宣伝をしているものであり、その勧誘方法は極めて不当であるといわざるをえない。前記原告らの中にも、かような被告内村の説明、宣伝を信じて、有利な利殖ができるものと考え入会した者が多数存在するのである。
(4) 本件各講のもたらした社会的悪影響
前記のとおり、被告内村は、本件各講が多くの者にとって予定どおり実現されることがほとんどないにもかかわらず、前記原告らを含む一般大衆の射倖心を煽り、その無思慮に乗じて、労せずして高額の金員がえられるものと期待を抱かせ、非生産的な金員を出捐させているものである。そのため、前記原告らを含めて会員となった者の中には、労働を放棄して、利殖のため本件各講の新会員勧誘、獲得にのみ専念し、或いは被告内村が勧めるとおり次々と再加入を繰返していわゆる自転車操業をするが如き状態となり、やがて必然的に生ずる新会員獲得の限界と行き詰りから、他人に多額の損害を負わせるとともに、自分自身も多額の損害を蒙るに至った者が少なくないのである。また前記原告らのうちには、老人や寡婦が乏しい貯えから本件各講への入会のために金員を出捐し、結果的に右出捐金の回収もできないまま損害を受けた者も多いのである。しかも、会員の勧誘が親族や知人、取引先といった信頼関係の厚い者同志の間で行われてきただけに、一旦行き詰ってしまうと、相互に不信や憎しみを生じさせ、会員間において金銭的な衝突や暴力沙汰まで起き、中には一家離散、自殺に追い込まれた者さえ存在するのである。
こうした被害者に対し、被告内村は、直接的な救済は勿論のこと、後続会員の斡旋紹介等も行なわず、被害者と称する者は二名の新会員を勧誘獲得する努力を怠った者であると称して、ネズミ講組織自体の欠陥につき反省することなく、末端会員の個人的努力不足や熊本国税局の査察にのみ責任を転嫁し、被害者を切り捨て、その後も次次と同種のネズミ講を発足させているのである。そして、被告内村の主宰する本件各講は、同種のネズミ講のほか、マルチ商法といわれる粗悪商品やその販売権を媒介とする同種の詐欺的、誇大的な組織を蔓延させ、多数の被害者を生み出した背景的下地を形成したともいうことができる。
(5) 入会金の不当性
本件各講の入会金は、「中小企業相互経済協力会」が金一〇万円(当初の出捐金合計六〇万円のうち一割六分七厘の割合を占める)、「交通安全マイハウス友の会」が金二万円(出捐金一〇万円のうち二割)、「相互経済協力会」が金一万円(出捐金四万円のうち二割五分)であり(入会金の額については当事者間に争いがない)、単に入金登録手続、本件各講運営管理費用としては相当高額であるというべきである。なるほど被告内村の主張するとおり、本件各講の入会金は、本件各講運営事務費用、第一相研ビル新築費用のほか、会員の事故死等に対する見舞金支払、研修保養所の購入、運営費用、社会福祉施設への寄附等に相当部分が使用されていることは認められる。しかし、見舞金受領権、保養所無料使用権は一年間に限定され、被告内村は、入会金を、小型飛行機、ヘリコプター、高級乗用者、骨董品等の購入のため費消しているほか、自己の信奉する宗教や思想の普及費用に充てる等入会金の処分は被告内村の個人的趣味や恣意に委ねられている部分が多く、入会金処分の最終決定権は、建前論はともかく原則として被告内村の一存で定められているのが実情である。また、一旦納入された入会金は、いかなる場合においても返還されることはなく、前記原告らを含む被害者の救済に充てられたこともなかったのである。従って、被告内村は従前のネズミ講が行き詰って衰退しても(例えば、被告内村が最初に発足させた「親しき友の会」は既に新加入会員はなく、完全に消滅している)、被害者を切り捨て諦めさせることにより、直接的に損害を受けることがなく、次々と新しい種類のネズミ講を発足させることにより入会金収入は継続的にえているのである。
以上認定の諸点に鑑みると、本件各講は、その本質が必然的に限界と行き詰りが生ずるものであり、多数者の犠牲により少数者及び被告内村が不当に利得するという非生産的で射倖的な性質を有するものであるにもかかわらず、被告内村は、本件各講につき欺罔的、誇大的な説明、宣伝をなし、一般大衆の射倖心と無思慮に乗じ、労せずして高額の金員を受けられるかのように期待させて入会せしめ、その結果自己は不当に利得をえながら、一方で多数の被害者を出し、種々の社会悪と混乱を惹起しているというべきであり、従って、前記原告らと被告内村(第一相研)との間の本件各講の入会契約はいずれも公序良俗に反するものとして民法九〇条により無効といわざるをえない。
ところで、被告内村は、前記原告らが本件各講の仕組を充分知りながら入会したものであること、本件各講は現在も継続しており新加入会員は順調に増加していることを主張している(第三、二(二)4(1))。冒頭掲記の各証拠はよれば、前記原告らが本件各講の表見的な仕組そのものは認識して入会したものと推認することができるものの、前記認定のとおり、被告内村は、前記原告らに対しパンフレット、著書により、或いは第一相研の当時の常務らを介して、本件各講が真の救け合いであり、現実には行き詰りが生ずることはありえないともっともらしく説明、宣伝して入会を勧誘し、前記原告らの無思慮に乗じ、射倖心を利用して加入せしめたものと認めることができ、その他前記認定の諸点に照らすと、本件のような場合、前記原告らが被告内村に対し、本件各講への入会契約の無効を主張しえないとすべき理由はない。また、≪証拠省略≫によれば、なるほど被告内村の主張する如く本件各講への新入会者は現在もなお引き続き存在していることが認められる。しかしながら、右の事実をもってしても、前記認定した本件各講の本質的欠陥や不当性に変りはなく、むしろ、被害者をさらに拡大し、社会的弊害を将来増大させる恐れがあるものとして憂慮すべきことといわなければならない。
さらに、被告内村が主張するとおり(第三、二(二)4(2))、前記原告らの一部の者は後順位会員から送金を受けたことがあるとの事実は、いずれも当事者間に争いがない。前記認定事実から明らかなとおり、本件各講は後順位会員から先順位会員へ金員が送金されるもので、会員は被害者となるとともに加害者にもなりうる組織であり、原告らの一部が後順位会員から送金を受けたことがあるとの右事実は、これら原告と被告との間の入会契約が公序良俗に反し無効とする前記判断に直接影響を及ぼすものではなく、金銭授受がなされた各会員間において清算さるべきであるとしても、これら原告らから被告内村に対する本件入会金返還請求権を当然に消滅させるものではない。
(五) 以上の次第であるから、前記(三)掲記の原告らを除くその余の前記原告らの被告内村に対する各入会金の返還請求はいずれも理由があるというべきである。但し、第一原告目録番号391、403の原告ら及び第二原告目録番号127の原告は各一部(各二万円の返還を求める限度)についてのみ理由がある。また、第二原告目録番号128の原告については、その請求原因において合計金一二万円の入会金を送金した旨主張し、この事実は当事者間に争いがないところ、右原告はその請求の趣旨においては金一四万円の返還を求めているので、右原告の請求は、金一二万円の返還を求める限度において理由があるけれども、その余の請求部分は理由がない。
二 被告杉田に対する請求について
(一) 請求原因1、2の各事実については、被告杉田はこれを明らかに争わないから自白したものとみなす。
(二) 請求原因6の事実中、被告杉田が「長野心和会」なる名称の会を設けていたこと、及び第一原告目録番号13、15、24ないし27、61ないし71、73ないし76、101、147、148、232、380、384ないし386の原告らから被告杉田に対し「交通安全マイハウス友の会」への加入手続が依頼されたことは、いずれも当事者間に争いがない。
そこで、以下、請求原因6の(1)ないし(3)において、右原告らがそれぞれ主張する事実の存否につき判断する。
(1) 被告杉田本人の供述によれば、第一原告目録番号101の原告は、昭和四六年三月被告杉田に対し金一〇万円を交付して「交通安全マイハウス友の会」(以下「友の会」と略称する)への加入手続を依頼し、被告杉田はこれに応じて右手続を履践したこと、その後被告杉田は、後続会員から右原告に対する送金分金一六万円を代わって受領したが、右原告から新たにもう一口分「友の会」への再加入手続を依頼されたため、右金一六万円のうち金六万円を右原告に交付し、その余の残額金一〇万円をもって右原告のために「友の会」への加入手続をなしたことが認められ、右原告が主張する如く、被告杉田において右原告の受領すべき金一〇万円を不当に横領して損害を与えたとの事実を認定するに足る証拠はない。
(2) ≪証拠省略≫を総合すると、(イ)長野市及びその近辺においては昭和四六年当時本件各講の会員が集まり、共同して後続会員を勧誘加入せしめ、効率よく送金が受けられるよう企図していたグループが幾つか存在しており、被告杉田も同種のグループを作り、会長として活動していたこと、(ロ)被告杉田のグループは後に昭和四六年五月になってから「長野心和会」と名称がつけられたが、第一原告目録番号13、15、24ないし27、61ないし71、73ないし76、147、148、232、380、386の原告らもこのグループに属していたこと、(ハ)被告杉田はかねて第二原告目録136の原告から、いわゆる「ランクの横づけ」と称される方式を教えられていたため、右グループにおいてもこれを採用したが、この方式は、グループに加入している者が勧誘した新会員は、勧誘者が誰であるかに関係なく順次系列の空いている部分から位置づけてゆき、系列全体を平均的に伸展させていく方法であり、例えば別紙組織図において、仮りに②代のB1、B2及び③代のC1ないしC4がグループを作った場合、グループ員の勧誘した新会員は順次④代目のD2、D4、D6、D8に位置づけ(いわゆる右づけを先行させる)、次いでD1、D3、D5、D7に位置づけてゆき、これら新会員もグループに参加し、さらにその後グループ員が勧誘した新会員は⑤代の偶数番号B2、E4……E16へ位置づけ、次いで奇数番号E1、E3……E15へと順次位置づけていくものであること、(ニ)このいわゆる「ランクの横づけ」なる方式は、グループの先順位会員が早期に孫会員のうち二名から送金を受けることができ、グループ員の中に勧誘ができない者がいても、全員が共同して効率的に新会員を勧誘して各系列を平均的に伸展させ、後続会員を平均的に増加させていくためグループ員全体につき平等、公平に順位が繰り上って、送金を受ける機会が平等となるという点に特徴があり、右被告杉田のグループに入った原告らも右の方式に同意していたこと、(ホ)すなわち、右原告らは昭和四六年三月から五月にかけてそれぞれ被告杉田に対し金一〇万円宛を交付して「友の会」への加入手続を依頼し、被告杉田のグループに参加したが、その際「ランクの横づけ」がなされることは了解していたもので、加入後積極的にグループの役員となり新会員の勧誘を熱心に行なった原告らも少なくないこと、(ヘ)右グループにおいては、被告杉田に加入手続を依頼した順序に従って「ランクの横づけ」がなされており、被告杉田が恣意的に順序を変更したことはなく、系列図はグループ員が確認できる状況にあったこと、(ト)被告杉田の親族や知人の中には右グループにおいて比較的先順位の会員である者(従ってランクの上位に位置している者)が少なくないけれども、これらの者は「友の会」への加入が早かったことによるもので、被告杉田やその親族が後に再加入をした場合は、グループの他の者と同様に順次ランクの横づけがなされており、格別他のグループ員より有利に順位を変えた取り扱いはなされていないこと、(チ)従って、右原告らが、早期に加入したにもかかわらず、被告杉田の恣意により不利に順位を下げられたことはなく、ランクの横づけは平等に加入手続依頼の順序に従ってなされていたこと、以上の事実が認められ、右認定を覆えすに足る的確な証拠はない。
右認定事実から明らかなとおり、右原告らが主張するように、被告杉田が右原告らから「友の会」への加入手続を依頼された際、右原告らの意に反して不当に加入順序を変動したことはなく、いわゆる「ランクの横づけ」については右原告らもこれを同意していたものである。従って、被告杉田が右原告らに損害を与えるべく、依頼の趣旨に反して恣意的に不利な取り扱いをしたとの事実は結局認め難いものといわざるをえない。
(3) ≪証拠省略≫によれば、(イ)第一原告目録番号384(中村すが)、385(新井たき)の原告らはそれぞれ昭和四六年四月被告杉田に対し各金二〇万円宛を交付して、「友の会」へ各二口分宛加入する手続を依頼し、被告杉田はこれに応じて各加入手続を履行したこと、(ロ)384の原告中村すがに対して後順位会員から送金されたことはなく、被告杉田が右原告に代わって後順位会員からの送金を受領したこともないこと、(ハ)一方385の原告新井たきに対しては後順位会員二名から金一六万円が送金され、被告杉田が右原告に代わってこれを受領したが、被告杉田は右原告からさらに「友の会」への一口分の再加入手続を依頼されたため、右金一六万円のうち金六万円を右原告に交付したうえ、その余の残額金一〇万円をもって右原告のために「友の会」への加入手続をなしたことが認められ、右原告らが主張する如く、被告杉田において右原告らの受領すべき金員を不当に横領して損害を与えたとの事実を認定するに足る証拠はない。
(三) 以上の次第であるから、結局右原告らの被告杉田に対する本訴各請求はいずれも理由がないというべきである。
三 総括
よって、原告らの被告内村に対する本訴各請求のうち、第一原告目録番号16、17、128、155、222、223、227、241、269、275、285、287、295、302、311、326、360、378の原告ら及び第二原告目録番号26、70、117、138、139の原告らの各請求はいずれもこれを失当として棄却し、第一原告目録番号391、403の原告ら及び第二原告目録127の原告の各請求は、いずれも各金二万円とこれらに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四七年二月一五日以降各完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるので右の範囲においてこれを認容し、その余の各請求部分はこれを失当として棄却し、第二原告目録番号127の原告の請求は、金一二万円とこれに対する右昭和四七年二月一五日以降完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるので右の範囲でこれを認容し、その余の請求部分はこれを失当として棄却し、以上の原告らを除くその余の原告らの各請求はいずれも理由があるのでこれを全て認容する。
第一原告目録番号13、15、24ないし27、61ないし71、73ないし76、101、147、148、232、380、384ないし386の原告らの被告杉田に対する本訴各請求は、いずれも理由がないのでこれを失当として棄却する。
なお、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条一項本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用する。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 永井紀昭)
<以下省略>