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長野地方裁判所 昭和54年(行ウ)5号 判決 1981年9月24日

長野県下伊那郡上郷町別府八九一番地

原告

阿南自動車株式会社

右代表者取締役

山谷清廣

右訴訟代理人弁護士

木嶋日出夫

右訴訟復代理人弁護士

毛利正道

長野県飯田市江戸町二八九番地一

被告

飯田税務署長

右指定代理人

榎本恒男

池田春幸

六馬二郎

山本宏一

曲渕公一

杉山昭吾

臼田年夫

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五二年一二月二八日付で原告の昭和五一年四月一日から昭和五二年三月三一日までの事業年度分の法人税についてなした、一、七九四万〇、三〇〇円の更正処分及び過少申告加算税八九万七、〇〇〇円の賦課決定処分をいずれも全部取消す。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

請求原因

1  原告は、自動車運送事業を営む会社であるが、昭和五一年四月一日から同五二年三月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という)の法人税について確定申告をしたところ、被告は、同年一二月二八日付で、法人税一、七九四万〇、三〇〇円の更正処分及び過少申告加算税八九万七、〇〇〇円の賦課決定処分を行った。

2  しかしながら、前項記載の被告の各処分は、被告が原告の後記損金処理を否認(被告の主張1の(二)の部分)している点においていずれも違法である。よって、請求の趣旨記載のとおり本件各処分の取消を求める。

二 請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。なお、本件各処分の経緯は、別表(一)のとおりである。

2  請求原因2の主張は、争う。

三 被告の主張

1  本件更正処分の内容は別表(二)のとおりであり、その根拠については、次のとおりである。

(一)  事故賠償費の損金算入額三六万一、二八〇円の否認について

昭和五二年一月一三日発生の自動車事故による被害者の入院費用として原告が負担したものであるが、本件事業年度末においては未確定の債務であるから否認した。

(二)  圧縮勘定繰入額の損金算入額八二二万九、二〇一円及び圧縮特別勘定繰入額の損金算入額四、〇四九万円の否認について

原告は、別紙物件目録(一)記載の土地、建物(以下「錦町所在物件」という)を昭和五一年一一月四日に一億一、五〇〇万円で譲渡した所得について、租税特別措置法(以下「措置法」という)六五条の七(特定の資産の買換えの場合の課税の特例)一項一四号の規定に基づく圧縮勘定繰入額八二二万九、二〇一円を損金の額に算入し、また同法六五条の八(特定の資産の譲渡に伴い特別勘定を設けた場合の課税の特例)の規定に基づき圧縮特別勘定繰入額四、〇四九万円を損金の額に算入したので、右各損金処理を否認した。

(三)  減価償却費の認容額三六二万八、一五一円について

前記(二)のとおり、原告が圧縮勘定繰入金を損金計理した八二二万九、二〇一円については措置法六五条の七第一項一四号の規定の適用がないから、これを否認し益金の額に算入したので、これに対する減価償却費を当期の益金の額から減算した。この明細は、別表(三)のとおりである。

(四)  繰越欠損金の認定額一四一万六、三二七円について

前期からの繰越欠損金一四一万六、三二七円を認容し、本件事業年度の所得の金額から控除した。

2  過少申告加算税賦課決定処分の根拠は、次のとおりである。

本件更正処分によって納付すべき法人税額一七九四万〇、三〇〇円の計算の基礎となった事実のうちに、国税通則法六五条二項に規定する正当な事由が認められなかったので、被告は、同法同条一項の規定により、納付すべき法人税額に一〇〇分の五の割合を乗じて得た金額八九万七、〇〇〇円(国税通則法一一八条三項、同一一九条四項の規定により本税額につき、一、〇〇〇円未満の端数切捨て、加算税額につき一〇〇円未満の端数切捨て)に相当する過少申告加算税を賦課決定したものである。

四 被告の主張に対する認否

被告の主張1の事実のうち、(二)は認める。

五 原告の反論

1  原告は、錦町所在物件を昭和四三年七月三一日以来、事業用資産として所有していた。

2  原告は訴外飯田生活協同組合(以下「飯田生協」という)及び訴外有限会社丸井商店(以下「丸井商店」という)の間において、昭和五一年六月二八日、錦町所在物件及び別紙物件目録(二)記載の土地、建物(以下「中央通り所在物件」という)についての取引を行ったが、その実質的な関係は、原告の所有する錦町所在物件の一億一、五〇〇万円での飯田生協への譲渡、飯田生協の所有する中央通り所在物件の一億三、五〇〇万円での丸井商店への売却というものであり、これが同時に行われたものである。すなわち、原告と飯田生協及び丸井商店の三者間において、(一)原告は一億一、五〇〇万円を取得して錦町所在物件を譲渡する、(二)飯田生協は二、〇〇〇万円を取得したうえ中央通り所在物件を譲渡して錦町所在物件を取得する、(三)丸井商店は一億三、五〇〇万円で中央通り所在物件を取得する、との三者間の非典型契約がなされたものである。

3  原告は、本件事業年度において、合計六、六〇四万九、七四七円の減価償却資産を取得し、又は取得する見込であったので、措置法六五条の七第一項一四号、六五条の八の規定に基づき、被告の主張1(二)のとおり損金処理を行った。

4(一)  本件取引は、仮に後記被告主張のとおり、交換契約と売買契約がなされたものであるとしても、税法上は、原告が昭和四三年以来所有していた錦町所在物件を譲渡して、八、八五一万七、一二七円(売買対価一億一、五〇〇万円―帳簿価格二、六四八万二、七八三円)の利益を得たものとみなされ、同利益によって合計六、六〇四万九、七四七円の減価償却資産を取得し、又は取得する見込であったので、措置法六五条の七第一項一四号、六五条の八により四、八七一万九、二〇一円を損金額に算入したものである。

(二)  すなわち、法人税法五〇条によれば、交換の課税特例について、交換で取得した資産を譲渡資産直前の用途に供するなどの適用を受けるための要件を定めている。そして、仮に民法上交換契約が成立したとしても同一の用途に供さなかった場合、税法上交換は認められず、同一の用に供さなかった資産は交換差金等として取扱われる。したがって、本件の場合も税法上交換特例は認められず、原告の資産の譲渡があったとみなされるのであるから、その結果原告は対価として一億一、五〇〇万円を得たのであり、これによる譲渡益は八、八五一万七、一二七円で、この利益により減価償却資産を取得することは、当然措置法の適用を受けるものである。

六 原告の反論に対する答弁

1  原告の反論1の事実は認める。

2  原告の反論2の事実は否認する。原告は、昭和五一年六月二八日飯田生協との間で原告の所有する錦町所在物件を一億一、五〇〇万円、飯田生協の所有する中央通り所在物件を一億三、五〇〇万円とそれぞれ評価して、原告は交換差金二、〇〇〇万円を飯田生協へ支払う旨の不動産交換契約を締結し、ついで同日、原告が右不動産交換契約に基づき取得する中央通り所在物件について、原告と丸井商店との間において一億三、五〇〇万円で売買する旨の不動産売買契約が締結され、右各契約に基づき、原告は同年一一月四日に飯田生協に交換差金の残金を支払って中央通り所在物件を取得し、同日、丸井商店から売買代金の残金を受領して中央通り所在物件を丸井商店へ譲渡したものである。したがって、錦町所在物件の交換による譲渡については、措置法六五条の七第一〇項の規定により同条にいう譲渡には交換による譲渡は含まれないから、同条に規定する特例(特定資産の買換え)の適用はない。また、原告が丸井商店に譲渡した中央通り所在物件についても当該物件の取得の日が昭和四四年一月一日以降なので措置法六五条の七第一項一四号に規定する譲渡資産に該当しないから、同条に規定する特例の適用はなく、同法六五条の八の規定の適用の余地もない。

3  原告の反論3の事実は、認める。

4  原告の反論4の主張は、争う。

第三証拠

一  原告

1  甲第一ないし第一一号証

2  証人宇佐美信夫、原告代表者

3  乙第一号証の一の成立は知らない。同号証の二の成立は認める。第二号証の成立は知らない。第三号証の成立は認める。第四号証の一の成立は知らない。同号証の二の成立は認める。第五号証の一の成立は知らない。同号証の二の成立は認める。第六号証の成立は知らない。第七、第八号証の各一、二、第九、第一〇号証、第一一、第一二号証の各一、二、第一三号証、第一四号証の一、二の成立は認める。第一五号証の一の成立は知らない。同号証の二の成立は認める。同号証の三、第一六号証の成立は知らない。第一七号証の成立は認める。

二  被告

1  乙第一号証の一、二、第二、第三号証、第四、第五号証の各一、二、第六号証、第七、第九号証の各一、二、第九、第一〇号証、第一一、第一二号証の各一、二、第一三号証、第一四号証の一、二、第一五号証のないし三、第一六、第一七号証

2  証人臼田年夫、同林英一

3  甲第一ないし第六号証の成立は認める。第七ないし第九号証の成立は知らない。第一〇号証の成立は認める。第一一号証の成立は知らない。

理由

一  請求原因の1の事実は、当事者間に争いがない。

二  被告の主張1について

1  同(一)の事実は、原告において明らかに争わないから自白したものとみなす。

2  同(二)の事実は、当事者間に争いがない。

三  原告の反論について

1  同1の事実は、当事者間に争いがない。

2  同2の事実について、判断する。

成立に争いのない乙第一五号証の二、証人宇佐美信夫の証言及び原告代表者本人尋問の結果を総合すれば、原告代表者山谷清廣は、昭和四三年ころから訴外山谷運輸株式会社の代表取締役として同社の経営にあたっていたものであるが、同社が運送業者として一般路線の免許を有していなかったため、昭和四九年八月ころ、一般路線の免許を有する原告阿南自動車株式会社を買取ってその代表取締役となったのであるが、当時から原告には負債が多く、その整理が必要であったため、錦町所在物件を他に売却してその負債を整理し、さらにその売却金によって車輛等を買換えたり、新社屋を建設する計画をたてていたこと。その際原告代表者は、右計画の目的を満足させるためには錦町所在物件の売却につき税務対策として措置法の減価償却資産の買い換えの適用を受けられるような形式でこれを行う必要があると考えていたこと。そこで原告代表者は昭和四九年一一月二日付をもって、宇佐美不動産有限会社(代表者宇佐美信夫)に対し、錦町所在物件の売却代理を委任したこと。以上の経緯を認めることができる。

しかしながら他方、前記各証拠、いずれも成立に争いのない甲第一ないし第四号証、乙第一号証の二、第三号証、第四号証の二、第五号証の二、第九、第一〇号証、第一七号証、いずれも証人臼田年夫の証言により真正に成立したものと認められる乙第一号証の一、第二号証、第四号証の一、第五号証の一及びいずれも証人宇佐美信夫の証言により真正に成立したものと認められる乙第六号証、第一五号証の一、三、第一六号証を総合すれば、原告から錦町所在物件の売却代理を委任された宇佐美不動産有限会社の代表者宇佐美信夫(以下「宇佐美」という)は、その後昭和五一年六月一八日に飯田生協から中央通り所在物件の売却及び同生協の営業に適当な土地又は適当な交換地の斡旋を依頼され、次いで丸井商店からは中央通り所在物件の買い受けを依頼されたこと。そこで宇佐美は飯田生協に錦町所在物件を見せたところ、飯田生協から原告が交換差金二、〇〇万円を出してくれるなら中央通り所在物件と交換したい旨申し入れられたこと。その際、飯田生協は宇佐美に対し、原告が錦町所在物件を飯田生協に売却し、飯田生協が中央通り所在物件を丸井商店に売却するとの形式では、飯田生協の中央通り所在物件についての帳簿価格と売却価格との差が大きいため多額の差額利益が出てしまい、このため飯田生協に多額の課税がなされることとなるから、これを避けるため本件取引は飯田生協と原告との間の交換による形式以外には応じられない旨を申し入れていたこと。そこで宇佐美は右飯田生協の趣旨に従い本件各取引の仲介をなすこととし、その後同人の仲介により、昭和五一年六月二八日、飯田信用金庫二階応接室において、本件交換契約の当事者として原告側からは原告代表者、熊谷広登常務取締役及び笠原那義税理士が出席し、飯田生協側からは白木嘉彦専務理事、本島吉男専務補佐及び唐沢武文税理士が出席し、その席上、宇佐美が本件交換契約書原案の趣旨説明をしたあと、原告と飯田生協との間で本件交換契約が締結されたこと。その後、飯田生協側が退席した後、本件売買契約の当事者である丸井商店の代表者井沢孝一が出席し、原告と丸井商店の間で中央通り所在物件について売買契約が締結されたこと。また本件各取引について、飯田生協と丸井商店との間には協議等は一切行われなかったこと。以上の各事実が認められる。

以上の事実によれば、原告の錦町所在物件の飯田生協に対する譲渡は、飯田生協の所有する中央通り所在物件との交換により行われたものであって、次に原告は当該交換により取得した中央通り所在物件を丸井商店へ売買により譲渡したものと認めるのが相当であり、原告、飯田生協、丸井商店の三者間において原告主張の無名(非典型)契約が締結されたものと認めることはできず、右認定を覆すに足りる証拠はない。そうすると、錦町所在物件の交換による譲渡については、措置法六五条の七第一〇項の規定により同条にいう譲渡には交換による譲渡は含まれないから、同条に規定する特例(特定資産の買換え)の適用はなく、また原告が丸井商店に譲渡した中央通り所在物件についても当該物件の取得の日が昭和四四年一月一日以降でないので、措置法六五条の七第一項一四号に規定する譲渡資産には該当しないから、同条に規定する特例の適用はなく、同法六五条の八の規定の適用もないことになる。

3  なお、原告の反論4の主張について検討すると、法人税法五〇条は、資産の交換によりその交換譲渡資産と同一種類の資産を取得し、これを譲渡資産の譲渡直前の用途と同一用途に供したときは、所定の要件をみたしている場合に限り、圧縮記帳を認めるものとされている。しかし、本件の場合は、原告が交換により取得した中央通り所在物件を直ちに売買により丸井商店へ譲渡しているのであるから、同条一項に規定する要件に該当せず、同条の適用がないのである。しかしながら、法人税法五〇条、措置法六五条の七は、それぞれ別に課税の特例のための要件を規定したものと解すべきであるから、本件交換契約について法人税法五〇条の交換により取得した資産の圧縮額の損金算入が認められないからといって、措置法六五条の七第一〇項の関係において、錦町所在物件の譲渡が交換ではないことになるものと解することはできない。したがって、原告の右主張は失当というのほかない。

四  被告の主張1(三)、(四)について

前記認定のとおり、原告が圧縮勘定繰入金を損金計理した八二二万九、二〇一円の否認は正当であるところ、成立に争いのない甲第五号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第七号証を総合すれば、被告の主張1(三)の減価償却費の認定額三六二万八、一五一円及び同(四)の繰越欠損金の認容額一四一万六、三二七円は、いずれも正当なものと認めることができる。

五  被告の主張2について

前記認定した事実によれば、本件更正処分によって納付すべき法人税額一、七九四万〇、三〇〇円の計算の基礎となった事実のうちに、国税通則法六五条二項に規定する正当な事由がないものと認めることができる。

六  以上によれば、被告の本件各処分は何ら違法はないこととなるから、原告の本訴請求は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 安田実 裁判官 松本哲泓 裁判官 岡本岳)

別表(一)

<省略>

(注) 法人税額欄の△印は還付税額を示す。

別表(二) 昭和五一年四月一日から昭和五二年三月三一日までの事業年度

<省略>

別表(三)

減価償却費の明細書

<省略>

物件目録(一)

所在 長野県飯田市錦町二丁目

地番 弐五番

地目 宅地

地積 壱参七参・参六平方メートル

所在 長野県飯田市錦町二丁目

地番 弐六番

地目 宅地

地積 四参八・五壱平方メートル

所在 飯田市錦町弐丁目弐六番地

家屋番号 弐五番

種類 店舗

構造 鉄骨亜鉛メッキ鋼板葺弐階建

床面積 壱階 壱〇弐六・七参平方メートル

弐階 参四壱・参五平方メートル

物件目録(二)

所在 長野県飯田市中央通り三丁目

地番 四九番

地目 宅地

地積 弐九弐・四〇平方メートル

所在 飯田市中央通り三丁目四九番地

家屋番号 四九番

種類 店舗

構造 木及び軽量鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺弐階建

床面積 壱階 弐五八・壱〇平方メートル

弐階 弐〇一・四〇平方メートル

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