長野地方裁判所木曽支部 事件番号不詳 判決
主文
原告の請求を棄却する。
別紙第二目録記載の物件は、反訴原告の所有であることを確定する。
反訴原被告間に、反訴被告は昭和三十一年十一月九日反訴原告に対し、反訴被告所有の別紙第二目録記載の物件を代金五百八十万円として売渡し、右代金支払時期は昭和三十一年十一月九日、右目録記載の不動産についての所有権移転登記は代金支払と同時に為すとの趣旨の売買契約関係のあることを確定する。
訴訟費用は、本訴及び反訴とも原告(反訴被告)の負担とする。
事実
原告は、本訴につき、被告は原告に対し別紙第一目録記載の土地及び建物を明渡し、かつ昭和三十二年一月三日から右明渡ずみまで一ヶ月金六十万円の割合の金銭を支払え、訴訟費用は被告の負担とする、との判決ならび仮執行の宣言を求め、
請求の原因として、
第一、別紙第一目録記載の土地建物は原告会社の所有であるところ、原告は昭和三十年九月五日被告組合(当時上松木材事業協同組合と称する)に対し、右土地建物を、土地は市売材木置場として、建物は事務所として、それぞれ無償で使用させること、原告会社において求めるときは何時でも返還することの約定で貸し、被告は爾来右土地及び建物をそれぞれ材木置場及び事務所として使用して来た。
第二、原告は休業して来た右工場を再開する必要を生じたので昭和三十一年十二月二十四日被告に対し、右使用貸借を解除する、よつて右土地建物を一週間内に原告に対し明渡すべきむねの通知及び催告を内容証明郵便をもつて発し、その郵便は同月二十六日被告に到達した。よつて被告は原告に対し、昭和三十二年一月二日限り右土地建物を明渡す義務がある。
第三、しかるに、被告は右義務を履行せず、何ら法律上の権限なくして右土地建物を占有し、もつて原告の右工場を使用することを妨げ、よつて原告の得べかりし一ヶ月金六十万円の利益を失わしめている。
とのべ、被告(反訴原告、以下単に被告と記るす)の主張に対し、
甲、被告が昭和三十一年十一月九日原告(反訴被告、以下単に原告と記るす)から別紙第二目録の不動産及び動産を代金五百八十万円で買受けてその所有権を取得し、即日右代金を原告に支払つたことは否認する。
乙、仮に右売買契約が成立したとするも、右は原告の当時の代表取締役上原弥市が専ら自己の利益のため、形式上は原告会社の名義を濫用して為した行為であり、被告は右事情を知つており、若しくは当然知り得べかりしものであつたから、右売買は民法第九十三条但書により無効である。
丙、しかのみならず、右売却行為は原告会社の事業目的範囲外の行為であるから、その効力を生じない。
丁、さらに、被告が買受けたと主張する本件工場建物及び機械器具類は、いずれも原告会社の重要かつ唯一の営業用財産であり、これを失うにおいては原告は営業を継続することができず、廃業の外ない、かかる営業用財産の一括譲渡には株主総会の特別決議を要すべきであるのに、前記上原弥市はその決議を経ず、ほしいままにこれを処分したのである。
かかる処分行為は無効である。
戊、本件工場から不用のため機械の一部を搬出したことは認めるが、誤伐事件で営業不振に陥つたこと及び重要機械を搬出したことは否認する。
とのべ
反訴につきまず訴却下の裁判を求め、その理由として、本件反訴においては本訴の訴訟物以外の物件につき所有権及び売買契約の存在の確認を求めているが、かかる反訴は反訴の要件を欠き、不適法なものである、とのべ、さらに反訴請求を棄却するとの判決を求め、答弁として、
一、売買契約存在確認の請求は単なる事実の確認を求めるものであつて、許されない。
二、反訴請求原因一記載の事実のうち、原告が被告に対し被告主張の日に工場敷地の一部及び建物の一部を無償で材木置場乃至事務所として使用せしめたこと、及び請求原因二記載の如く内容証明て通告したことは認めるが、その他の事実は否認する。
三、仮に被告主張のような売買をなしたとしても、右売買は前記乙、丙、丁において主張する理由によつて無効であるから、反訴請求は失当である。
とのべた。
(立証省略)
被告は本訴につき、請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め、答弁として
第一、被告が原告から昭和三十年九月五日原告主張の土地建物を借受け、これを木材置場として使用していることは認めるが、建物は事務所として使用すること、原告の催告で何時でも返還する約旨で借受けたことは争う。
第二、請求原因第二の事実のうち、原告主張のような内容証明郵便が到達したことは認めるが、その他の事実は否認する。
第三、請求原因第三の事実は認めない。
第四、原告は昭和三十一年十一月九日以降は別紙第一目録の物件の所有権を失つた。
よつて、右物件の明渡を求める権利を有しない、請求は失当である。
とのべ、
反訴につき、主文第二、三項及び訴訟費用は反訴被告の負担とする、との判決を求め、請求の原因として、
一、別紙第二目録記載の工場建物は、反訴被告(以下原告と記るす)の所有であつたところ、昭和二十六年から昭和二十七年にわたり、巷間いわゆる誤伐事件を生じ、原告会社の本件木曾工場の営業は経営難に陥り、昭和二十八年十二月頃木曾工場備付の重要製材機械器具を秋田県にある原告会社秋田工場に持ち去り、本件木曾工場は不用となつたため、原告は昭和三十年九月五日被告に木材置場として使用を許可した次第であるが、原告会社代表取締役上原弥市は遊休工場であるから被告に買取方を申出で、被告は昭和三十一年十一月九日原告から別紙第二目録の不動産及び動産を代金五百八十万円で買受けて、その所有権を取得し、即日右代金を原告に支払つた。従つて、右売買契約の効力として、右物件は被告の所有となり、かつ、代金支払時期は右契約成立と同時となり、代金支払と引換に所有権移転登記を為すべき義務ある関係にある。
二、しかるに、原告は右売買の成立またはその効力を否認し、(原告は昭和三十一年十一月末内容証明郵便で前代表取締役は代表権はないから、右売買は無効なる旨被告に通告)結局右代金支払時期、代金支払と引換に所有権移転登記を為すべきこと所有権は被告にあることの権利関係を争うから、被告はこれらの権利関係を即時に確定するにつき法律上の利益を有するものといわなければならない。よつて右権利関係の確定を求める。
とのべ、
原告の主張に対し、
A、原告は被告の反訴が反訴の要件を欠き不適法だと主張する。しかし、反訴は民事訴訟法第二三九条の規定するように、反訴提起当時本訴が繋属し事実審理が終結前であり、かつ、反訴の請求が本訴の請求又はこれに対する防禦方法と牽連関係を有することを要件とするものであつて、訴訟の目的物が個々に同一であることを必要としないことは当然である。
本件において、本訴において原告が自己の所有権を主張して被告に対し引渡を求める物件につき、被告は原告の所有権を否認し、かえつて、被告(反訴原告)がその所有権を主張し反訴において、その所有権取得の基本たる売買契約関係及び所有権の確認を求めるのであつて、本訴の請求と法律上及び事実上共通点を有し、かつ防禦方法と牽連するから反訴は適法である。
B、被告の反訴確認の訴は事実の確認を求めるものであつて、許されない、と原告は主張する。しかし、被告が反訴において求めるのは売買契約の存在という単なる事実の確認でなく右売買契約に基づく所有権あることや、代金支払時期の点、目的不動産についての所有権移転登記義務の存在等法律関係の存在の確認を求める趣旨であるから、原告の右主張は理由がない。
C、右売買行為が原告会社の代表取締役上原弥市において、専ら自己の利益のため、ほしいままになしたものであることは否認する。原告会社では株式会社八十二銀行に対する債務二百六十万円を弁済することができなかつたため、昭和三十一年四月十一日本件物件を八十二銀行に六ヶ月内に右債務及び費用を提供するときは買戻し得る約定で所有権を移転した関係上、右銀行から安価に買戻して被告に高価に売却し、その差額三百十五万円を利得せんため、右上原弥市は昭和三十一年十一月九日監査役山崎四郎を伴つて被告組合事務所に被告組合の専務理事池田作二、常務理事武居芳太に対し、右土地建物等の買取方を求めた。被告組合当局者は、原告会社が事業不振で右工場機械器具等が不用であるから、売却するものと信じ、右工場が駅に近く便利であるとの理由もあり、善意で五百八十万円の高価で買受けたものであり、民法第九十三条但書に当らない事柄であるから、右売買は無効でない。かえつて、商法第二百六十二条により、仮に上原弥市に背任行為ありとしても、善意の第三者たる被告に対し原告は右売買契約の効力を否認することはできない。
D、原告は右売買は原告会社の事業目的外の行為だ、と主張する。法人はその目的の範囲内においてのみ行為能力あることは自明であるが、目的範囲内の行為とは定款又は寄附行為記載の事項に限定さるべきでなく、その目的を達成するに相当と認むるべき総ての行為を包含するものと解すべきである。
本件売買は前記の如く八十二銀行から安価に買戻して被告に高価に売却したもので、代金を取得してこれを会社運営の資金とすることは会社の目的範囲に属すること極めて明らかである。
E、原告は右売買は原告の重要かつ唯一の営業用財産をあげて一括して被告に譲渡するもので、株主総会の特別決議を経ない以上無効である、と主張する。
しかし、本件不動産及び動産は重要かつ唯一の営業用財産でない。前記の如く本件工場は遊休設備で、備付の重要な機械は秋田工場に移転された次第である。であるからこそ、原告は被告に無償で貸し、被告組合の木材置場に使用させていたのである。また本件工場は、右売買当時原告の所有でなく八十二銀行に対する二百六十万円の債務のため右銀行に売渡してあつたものである。唯買戻の特約あることを利用し、銀行から二百六十五万円で買戻して被告に五百八十万円の高価で売渡したに過ぎない。
会社の代表取締役の会社財産を売却する権限は何の制限にも服しないのが原則であつて、唯商法第二百四十五条第一項第一号は営業の全部又は重要なる営業の一部を譲渡をなすについては株主総会の特別決議を要するむね規定したのであるが、本件工場は、重要機械は他に搬出され原告会社の営業目的に使用できないようになつていたのであるから、原告会社の営業の重要なる一部ということができない。よつて本件には商法二百四十五条の適用はない。
とのべた。
(立証省略)
(別紙目録は省略する。)