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長野地方裁判所松本支部 平成11年(ワ)131号 判決 2002年12月04日

原告

甲野太郎

甲野花子

甲野次郎

同法定代理人親権者

甲野太郎

甲野花子

上記3名訴訟代理人弁護士

毛利正道

相馬弘昭

被告

A

同訴訟代理人弁護士

縄田政幸

被告

B

同訴訟代理人弁護士

小岩井弘道

被告

C

外3名

上記4名訴訟代理人弁護士

三浦守孝

被告

G

同訴訟代理人弁護士

山根伸右

被告

H

I

上記2名訴訟代理人弁護士

小笠原稔

中島嘉尚

被告

J

同訴訟代理人弁護士

熊澤賢博

被告

K

同訴訟代理人弁護士

上條剛

被告

L

同訴訟代理人弁護士

竹内永浩

被告

M

N

同訴訟代理人弁護士

山内道生

被告

O

同訴訟代理人弁護士

武田芳彦

主文

1  被告A,同B,同C,同G,同H,同J,同D,同K,同L,同M,同F及び同Oは,連帯して,原告甲野太郎及び同甲野花子に対しそれぞれ5267万5213円,原告甲野次郎に対し500万円並びに上記各金員に対する平成9年11月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  原告らの,被告I,同E及び同Nに対する請求並びにその余の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は,原告らと被告A,同B,同C,同G,同H,同J,同D,同K,同L,同M,同F及び同Oとの間で生じたものは,これを2分し,その1を原告らの,その余を前記被告らの負担とし,原告らと被告I,同E及び同Nとの間で生じたものは原告らの負担とする。

4  この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  請求の趣旨

(1)  被告らは,連帯して,原告甲野太郎及び同甲野花子に対しそれぞれ9417万4412円,原告甲野次郎に対し1000万円並びに上記各金員に対する平成9年11月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  被告A,同B,同C,同G,同H,同J,同D及び同Kは,原告甲野太郎及び同甲野花子に対しそれぞれ1000万円並びに上記各金員に対する平成9年11月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(3)  訴訟費用は,被告らの負担とする。

(4)  (1)及び(2)につき仮執行宣言

2  請求の趣旨に対する答弁

(1)  原告らの請求をいずれも棄却する。

(2)  訴訟費用は原告らの負担とする。

第2  当事者の主張

1  請求原因

(1)  当事者

原告甲野太郎(以下「原告太郎」という。)及び同甲野花子(以下「原告花子」という。)は,故甲野三郎(以下「三郎」という。)の父母であり,原告甲野次郎(以下「原告次郎」という。)は三郎の弟である。

(2)  集団暴行事件の発生

ア 被告らは,三郎に集団暴行を加える目的で共謀の上,さらに被告A(以下「被告A」という。),同B(以下「被告B」という。),同C(以下「被告C」という。),同G(以下「被告G」という。),同H(以下「被告H」という。),同J(以下「被告J」という。),同D(以下「被告D」という。)及び同K(以下「被告K」という。)は未必の殺意をもって,平成9年11月7日午後8時20分ころから同日午後10時20分ころまでの約2時間にわたり,長野県松本市大字今井<番地略>所在の松本平広域公園緑地大型専用駐車場(以下「第1現場」という。),同市大字今井<番地略>所在の松本市立今井小学校体育館付近(以下「第2現場」という。)及び同県東筑摩郡山形村<番地略>所在の畑(以下「第3現場」という。)において,三郎に対し,こもごも凄惨な暴力を加え,さらに,翌8日午前0時40分ころに同県松本市大字芳川村井町<番地略>所在の医療法人心泉会上條記念病院(以下「上條記念病院」という。)に運び入れるまでの2時間以上にわたり,意識不明の重体に陥った三郎を放置した。

三郎は,上記暴行により,頭部十数か所,顔面部数か所ないし十数か所,胸腹部十数か所,背部5か所以上,左上肢3か所以上,右上肢2か所,左下肢数か所以上及び右下肢数か所以上など,少なくとも4,50か所の体外部傷害並びに胃損傷,横隔膜損傷,外傷性くも膜下出血及び硬膜下血腫の体内部損傷を負い,このうちの外傷性くも膜下出血及び硬膜下血腫により,平成9年11月8日午後9時10分ころ,上條記念病院において死亡した。

イ また,被告らは,共謀の上,前記集団暴行の現場において,三郎から現金3万円入りの財布1個,三郎名義の郵便局キャッシュカード1枚,原告太郎名義の農協のガソリンクレジットカード1枚,携帯電話機1個,カーデガン1着及びトレーナー1着を窃取若しくは強取した。

(3)  損害

ア 三郎の損害

(ア) 逸失利益 8172万1604円

賃金センサス平成9年第1巻第1表産業計,企業規模計,旧中・新高卒の男子労働者の年収額539万0600円を基礎として,生活費控除割合については,三郎が将来配偶者や親族を扶養する蓋然性を考慮して40パーセントにとどめ,また,逸失利益の算定に当たり法定利率によることの合理的な根拠はないから,現在の公定歩合などを考慮して,ライプニッツ方式により年3パーセントの割合による中間利息を控除して,三郎の逸失利益の現価を算定すると,次のとおり,8172万1604円となる(なお,25.2667は,三郎の就労可能年数48年に対応する年3パーセントのライプニッツ係数である。)。

5,390,600×(1−0.4)×25.2667

≒81,721,604

(イ) 慰謝料 5000万円

被告らは,全く無抵抗の三郎に対して,2時間にわたって暴行,脅迫を加え続け,将来ある19歳の青年の命を奪ったのであって,その間恐怖と苦痛におびえ続けた三郎の苦しみは絶大なものがあり,これを慰謝するには5000万円が相当である。

(ウ) 葬儀費 150万円

(エ) 治療費 12万7220円

(オ) 懲罰的損害賠償 1億6000万円

本件においては,少なくとも8名の被告が殺人罪に該当する行為を行っており,通常の賠償責任だけではこれらの者に猛省を迫る力も,犯罪を抑止する効果も認められないから,一人ひとりに十分な社会的責任をとらせるために,一定の金額を慰謝料として上積みすべきである。そして,被害者側に実損害額を上回る賠償金が入ることについては,適正な課税をしたり,懲罰的損害賠償として認容された賠償金を公的団体に全額寄付することによって解決することが可能であり,現に,原告らは,懲罰的損害賠償として認容された賠償額の支払を受けたときには,公的団体に全額寄付することを誓約する。

したがって,殺人罪を犯した被告A,同B,同C,同G,同H,同J,同D及び同Kについて,それぞれ2000万円の懲罰的慰謝料を認めるべきである。

(カ) 以上によれば,三郎の損害は,合計2億9334万8824円になり,原告太郎及び同花子は,三郎の損害の2分の1である1億4667万4412円をそれぞれ相続した。

イ 原告らの損害

(ア) 原告太郎及び同花子の損害

a 慰謝料 各2000万円

原告太郎及び同花子は,愛する将来あるわが子を集団暴行によって失ったのであり,その悲しみ,苦しみ,怒りは余りあるものがあり,これを慰謝するには各2000万円が相当である。

b 弁護士費用相当額 各750万円

(イ) 原告次郎の損害

原告次郎は,2人兄弟の兄を失ったのであり,その悲しみ,苦しみ,怒りは余りあるものがあり,これを慰謝するには1000万円が相当である。

(4)  よって,原告らは,不法行為による損害賠償として,被告らに対し,原告太郎及び同花子についてはそれぞれ9417万4412円,原告次郎については1000万円並びに上記各金員に対する不法行為の日である平成9年11月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求め,さらに,原告太郎及び同花子は,懲罰的損害賠償として,被告A,同B,同C,同G,同H,同J,同D及び同Kに対し,それぞれ1000万円及びこれに対する上記同日から支払済みまで上記割合による遅延損害金の支払を求める。

2  請求原因に対する認否

(被告A)

(1) 請求原因(1)の事実は認める。

(2)ア 同(2)ア前段の事実のうち,被告Aが三郎に対して暴行を加える目的で共謀し,第1ないし第3現場において三郎に対し暴行を加えたこと,2時間以上経った後に三郎を上條記念病院に運び入れたことは認めるが,被告Aに殺意があったことは否認する。同(2)ア後段の事実は認める。

イ 同(2)イの事実のうち,他の被告の一部が共謀の上,三郎から財布等を窃取ないし強取したことは認めるが,その余は否認する。

(3) 同(3)の事実は否認する。

(被告B)

(1) 請求原因(1)の事実は知らない。

(2)ア 同(2)アの事実のうち,被告Bが,三郎に暴行を加える目的で被告G,同Jらと共謀したこと,第1現場,第2現場において三郎に暴行を加えたこと,三郎を上條記念病院に運び入れたこと,三郎が死亡したことは認め,被告Bに殺意があったことは否認し,その余は知らない。

イ 同(2)イの事実のうち,被告Bが共謀したことは否認し,その余は知らない。

(3) 同(3)の事実は知らない。

(被告C)

(1) 請求原因(1)の事実は知らない。

(2)ア 同(2)アの事実のうち,被告Cに殺意があったこと,被告Cが共謀したこと,意識不明の重体に陥った三郎を2時間以上放置したこと,暴行が凄惨であったことは否認し,三郎が外傷性くも膜下出血,硬膜内血腫により死亡したことは不知,その余はおおむね認める。

イ 同(2)イの事実は否認する。

(3) 同(3)の事実のうち,原告太郎及び同花子が相続したことは認めるが,その余は否認する。

(被告G)

(1) 請求原因(1)の事実は認める。

(2) 同(2)の事実のうち,被告Gら多数が三郎に暴行を加え,三郎を死亡させたことは認めるが,被告Gに殺意があったことは否認する。

(3) 同(3)の事実は否認する。

(被告H)

(1) 請求原因(1)の事実は認める。

(2)ア 同(2)ア前段の事実のうち,被告Hが第3現場において三郎に暴行を加えたことは認めるが,その余は否認する。同(2)ア後段の事実は認める。

イ 同(2)イの事実は否認する。

(3) 同(3)の事実は否認する。

(被告J)

(1) 請求原因(1)の事実は認める。

(2) 同(2)ア前段の事実のうち,被告Jが,三郎に暴行を加える目的で,被告Aほか一部の被告らとともに,三郎に暴行を加えたことは認めるが,その余は否認する。同(2)ア後段の事実のうち,三郎が原告ら主張の傷害を受けて死亡したことは認めるが,その余は知らない。

(3) 同(3)の事実のうち,葬儀費及び治療費の額は認めるが,その余は否認する。

(被告D)

(1) 請求原因(1)の事実は知らない。

(2)ア 同(2)アの事実のうち,被告Dに殺意があったこと,被告Dが共謀したこと,意識不明の重体に陥った三郎を2時間以上放置したこと,暴行が凄惨であったことは否認し,三郎が,外傷性くも膜下出血,硬膜内血腫により死亡したことは不知,その余はおおむね認める。

イ 同(2)イの事実は否認する。

(3) 同(3)の事実のうち,原告太郎及び同花子が相続したことは認めるが,その余は否認する。

(被告K)

(1) 請求原因(1)の事実は認める。

(2)ア 同(2)アの事実のうち,被告Kに殺意があったこと,被告Kが共謀したこと,三郎を2時間以上放置したことは否認し,被告K以外の被告らが加えた暴行の内容は不知,その余は認める。

イ 同(2)イの事実は否認する。

(3) 同(3)の事実は否認する。

(被告I)

(1) 請求原因(1)の事実は認める。

(2)ア 同(2)ア前段の事実は否認し,同(2)ア後段の事実は認める。被告I(以下「被告I」という。)は,三郎に集団暴行を加える目的で共謀したことはないし,三郎に暴行を加えたこともない。

イ 同(2)イの事実は否認する。

(3) 同(3)の事実は否認する。

(被告E)

(1) 請求原因(1)の事実は知らない。

(2)ア 同(2)アの事実のうち,被告E(以下「被告E」という。)が共謀したこと,被告Eが暴行を加えたこと,意識不明の重体に陥った三郎を2時間以上放置したこと,暴行が凄惨であったことは否認し,三郎が外傷性くも膜下出血,硬膜内血腫により死亡したことは不知,その余はおおむね認める。

イ 同(2)イの事実は否認する。

(3) 同(3)の事実のうち,原告太郎及び同花子が相続したことは認めるが,その余は否認する。

(被告L)

(1) 請求原因(1)の事実は認める。

(2)ア 同(2)ア前段の事実のうち,被告らのうちの多数が三郎に暴行を加え,2時間以上放置したことは認めるが,その余は否認する。被告L(以下「被告L」という。)は,三郎に集団暴行を加える目的で共謀したことはないし,三郎に暴行を加えたこともなく,また,三郎を2時間以上にわたって放置したこともない。同(2)ア後段の事実は認める。

イ 同(2)イの事実は知らない。

(3) 同(3)の事実は否認する。

(被告M)

(1) 請求原因(1)の事実は認める。

(2) 同(2)の事実のうち,三郎が死亡したことは認めるが,その余は否認する。被告M(以下「被告M」という。)は,三郎に集団暴行を加える目的で共謀したことはないし,三郎に暴行を加えたこともない。

(3) 同(3)の事実は否認する。

(被告N)

(1) 請求原因(1)の事実は認める。

(2)ア 同(2)ア前段の事実は否認し,(2)ア後段の事実は認める。被告N(以下「被告N」という。)は,三郎に集団暴行を加える目的で共謀したことはないし,三郎に暴行を加えたこともない。

イ 同(2)イの事実は否認する。

(3) 同(3)の事実は否認する。

(被告F)

(1) 請求原因(1)の事実は知らない。

(2)ア 同(2)アの事実のうち,被告F(以下「被告F」という。)が共謀したこと,被告Fが暴行を加えたこと,意識不明の重体に陥った三郎を2時間以上放置したこと,暴行が凄惨であったことは否認し,三郎が外傷性くも膜下出血,硬膜内血腫により死亡したことは不知,その余はおおむね認める。

イ 同(2)イの事実は否認する。

(3) 同(3)の事実のうち,原告太郎及び同花子が相続したことは認めるが,その余は否認する。

(被告O)

(1) 請求原因(1)の事実は認める。

(2)ア 同(2)ア前段の事実のうち,被告O(以下「被告O」という。)が第1現場及び第2現場に居合わせたこと,被告らの一部が三郎に暴行を加えたことは認めるが,その余は否認する。同(2)ア後段の事実のうち,三郎が死亡したことは認めるが,その余は知らない。被告Oは,三郎に集団暴行を加える目的で共謀したことはないし,三郎に暴行を加えたこともなく,また,仮に被告Oが責任を負うとしても,被告Oは一部にしか関与していないから,その割合に応じた賠償責任しか負わない。

イ 同(2)イの事実は知らない。

(3) 同(3)の事実は否認する。

理由

1  請求原因(1)について

原告太郎及び同花子各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば,請求原因(1)の事実が認められる(なお,原告らと被告A,同G,同H,同J,同K,同I,同L,同M,同N,同Oとの間においては争いがない。)。

2  請求原因(2)について

(1)  証拠(各項掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。

ア  三郎に対する集団暴行に至る経緯(甲18,36及び37,乙①3及び4,17及び18,②1ないし3,11,13及び14,③1及び2,④2ないし4,6,19,25及び26,⑤1及び2,⑥3ないし7,10,⑦1ないし3,⑧1及び2,⑨1,⑬1,⑭1,⑮4及び5,被告A,同B,同C,同G,同H,同J,同I,同L及び同M)

(ア) 被告A,同C,同G,同J及び同Iは,平成5年3月に,三郎とともに同じ中学校を卒業した同級生であり,被告Lは,三郎らの中学校の後輩である。

被告Bは,友人の被告Jを通じて,被告G,同A,同K,同L及び同Dと知り合い,さらに,被告G及び同Jを通じて,三郎と知り合った。また,被告Bは,同じ宗教を信仰している関係で,当時中学生だった被告Oを知っていた。被告Bは,三郎が被告Bの知り合いの女性に電話をかけて交際を迫ったことについて,憤慨していた。

被告Hは,高校の同級生であった被告Cを通じて,被告G,同J,同K及び三郎と知り合った。

被告Dは,被告Fの中学校の先輩であり,バンド仲間から紹介された被告Kを通じて,被告B及び同Oと知り合った。

被告Kは,友人の被告Lから紹介された被告Jを通じて,被告C及び三郎と知り合い,さらに,バンド仲間を通じて,被告Dと知り合った。

被告Eは,被告C及び同Hの高校時代の同級生であった。

被告Lは,被告Mの小学校以来の友人であり,また,被告Kの友人である。

被告Mは,親戚の被告Jの高校の後輩であり,また,被告Lの友人である。

被告Nは,当時高校生で,被告Jと交際しており,三郎のことも知っていた。

被告Fは,被告Dのバンド仲間を通じて,被告Kと知り合い,さらに,被告Kを通じて,被告B及び同Oと知り合った。

被告Oは,当時中学生で,同じ宗教を信仰している関係で,被告Bを知っていた。

(イ) 被告Aと被告Gは,11月6日午後3時35分ころ,塩尻市広丘にあるコンビニエンスストアに被告Cを呼び出し,「今日やれ。もしやらないとお前をやるぞ。」などと脅して,仲間を集めて三郎に暴行するよう唆し,被告Cをやる気にさせた。

その後,被告Cは,被告Iと会い,今日三郎に暴行すること,具体的にはこれから被告Gの家に行って考えることを告げたが,被告Iは,翌日仕事があることを理由に断った。

被告Gは,被告Cが家に来たので,被告Jに連絡をしたところ,たまたま被告Bが居合わせていたが,被告Bも被告Jも6日は都合が悪く,7日であれば大丈夫だと言われた。そこで,被告Gは,被告Bに,7日に暴行することを伝え,被告Bもこれを了解した。被告Gは,被告Cに中止することを伝えた上,被告Aに,今日は中止したことを伝えた。

被告Cは,被告Jに会い,被告Hを呼び出してドライブをしたが,そのとき,被告Hに,三郎に暴行することを告げたところ,被告Hは,被告Eに電話し,三郎に暴行をするので,詳しいことが決まったら連絡することを伝えた。さらに,被告Cは,被告Kに会い,被告Hと別れて,被告J及び同Kとともに被告Bに会い,第1現場へ行って遊んだ。被告Bは,そのとき,被告Kに,三郎に暴行するかどうかを聞いたところ,被告Kは,当たり前と答えた。

(ウ) 被告Gは,翌11月7日午後5時45分ころ,被告Cと会った。被告Cは,この日,三郎に暴行を加えようと考えており,被告B,同J及び同Kに連絡して,三郎に暴行を加えるので出てくるよう伝え,被告Jは,被告Bと相談して,被告Gや被告Cと落ち合うことを決め,被告Cに連絡して,第1現場で落ち合うことにした。被告Gは,被告Cとともに第1現場に向かったが,そのとき,被告Aに連絡して,三郎に暴行を加えるので第1現場に出てくるよう伝えた。

被告Bは,被告Jと相談した後に被告Oから連絡を受け,三郎に暴行を加えに行くことを伝えると,被告Oから一緒に連れて行ってほしいと言われたので,一緒に連れて行くことにし,被告Kに連絡して,迎えに行くことを伝えた後,自宅から木刀を持ち出し,被告Oを迎えに行った。被告Bは,被告Oから,被告F及び同Dが松本で遊んでいることを聞いて,これらの者も連れて行こうと考え,被告Dに連絡して,三郎に暴行を加えに行くので来ないかと誘い,被告F及び同Dと落ち合い,被告Kの家に行った。

被告Kの家には,被告L及び同Mが居合わせたので,被告Bは三郎に暴行を加えに行くので来ないかと誘い,その結果,被告Bは,被告O,同F,同D,同K,同L及び同Mとともに第1現場に向かった。

被告Aは,被告Gからの連絡を受けて,第1現場へ向かった。

被告Jは,被告Nとドライブをしていたが,そのとき,被告Cから連絡を受け,被告Nとともに,第1現場に向かった。

イ  第1現場における暴行(甲3,6,9,10,12の6,23の6,乙①6,15,17,②4,13及び14,③2,④2,4,7,26,⑥3ないし5,11,⑦2及び3,⑧2,⑭1,⑮2,5,被告A,同B,同G,同K及び同L)

(ア) 第1現場には,被告J及び同Nが到着し,その後,午後8時ころまでに,被告G及び同Cが,被告B,同O,同F,同D,同K,同L及び同Mが,被告Aが,それぞれ順次到着した。

そこで,被告Gは,三郎に連絡して,第1現場に来るよう伝え,三郎は第1現場に向かった。

(イ) 三郎が第1現場に到着したので,被告Gは,自分の自動車に三郎と被告Cを乗せて,5分間程話をし,その後,三郎らとともに自動車から降りて,被告Bに対し,三郎が話をしたがっていることを伝えた。三郎は,以前に被告Bの知り合いの女性に交際を迫ったことについて謝ったが,被告Bは,右手拳で三郎の左頬を5,6回続けて殴り,三郎の腹の辺りを2回くらい蹴った。さらに,被告Bは,足蹴りで倒れた三郎の腹の辺りを2回くらい蹴り,倒れたままの三郎の髪を右手でつかんで引っ張りながら無理矢理立たせ,右手拳で三郎の左頬を2回くらい殴った。

(ウ) その後,被告Cが,第1現場付近は最近警察官が見回りをしているので,三郎に暴行を加えるのはまずいと言ったことから,場所を第2現場に変えることにした。

ウ  第2現場における暴行(甲3,7,9,12の3ないし5,12の7,12の12,15の1及び2,18,23の1ないし4,31及び32,39,乙①7,15,17及び18,②5,8及び9,13ないし15,③2,④2,8及び9,11,19及び20,22,26ないし28,⑤2,⑥3ないし5,12,16,⑦2及び3,⑧3,⑨1,⑬2,⑭2,⑮2,6,被告A,同B,同C,同G,同J,同D,同K,同I,同L,同M,同N,同F及び同O)

(ア) 第1現場にいた被告らと三郎は,午後8時30分ころ,自動車に分乗して第1現場を出発し,約10分程で第2現場に到着した。

(イ) 被告Bは,右手拳で三郎の左頬を3回くらい殴ったところ,被告Aから,近くに民家があるから奥へ行ってやれと言われたので,焼却炉の方へ三郎を連れて行き,途中で見つけた1斗缶くらいの丸い形の金属缶を持って,三郎の後ろから,首の辺りを1回殴った上,右手拳で三郎の顔を3回くらい殴った。また,被告Kは,蛍光管で三郎の背中付近を殴り,被告Gは,転んでいた三郎の背中を右足で5回くらい蹴り,被告Dや被告Cも,三郎の背中を蹴った。

(ウ) 被告Aは,騒がしさで民家の人に気づかれると考え,被告Bらにグランドの方へ行くよう告げたところ,被告Bが三郎の髪の毛をつかんで無理矢理立たせ,被告Bと被告Aが三郎の髪の毛を引っ張り,被告Cが三郎の服を引っ張りながら,体育館の北東角の車止めのところから体育館の北西角まで連れて行った。被告Bらは,被告Nを除き,三郎らの周りを取り囲み,被告Kや被告Dが三郎の腰の辺りや太股の辺り等を蹴り,被告Oが三郎の腹の辺りを蹴り,被告Jが角材で三郎の腰を突いた。

体育館の北西角では,被告Bは,急所しかねらわねえと怒鳴り,三郎の頭をつかんでH鋼の辺りにぶつけ,被告Aは,三郎の後頭部の髪の毛をわしづかみにしてH鋼の脇にあるパイプ(塩化ビニール管)におでこと顔を叩きつけ,倒れ込んだ三郎の左脇腹のあたりを3回くらい続けて蹴った。被告Bは,三郎の顔をめがけて蹴りを入れようとしたり,右手拳で三郎の左頬を何回か殴ったりし,さらに,手を休めることなく,四つんばいになった三郎の顔を右足で蹴り上げるなどした。そして,被告Bは,長さ1.8メートル,4センチメートル×2センチメートル角くらいの角材を拾い,四つんばいになった三郎の右斜め後ろ辺りから背中めがけて思いきり叩きつけたところ,角材は先端から3分の1くらいのところで折れたので,引き続き,これを三郎の背中に叩きつけ,さらに,長さ1.6メートル,4センチメートル角の角材を拾い,同じように三郎の背中に思いきり叩きつけた。

被告Cは,右手拳で三郎の後頭部を3回くらい殴り,被告Dは,右手で三郎の右脇腹辺りを殴り,被告Kは,長さ1.5メートル程,幅5センチメートル,厚さ2センチメートル程の板で三郎の尻を1回殴り,被告Aは,三郎の髪の毛をわしづかみにし,力一杯左右に振り回して,三郎をうつぶせに倒した。被告Bは,倒れた三郎の髪の毛をつかみ,三郎のおでこを床から15センチメートルくらい持ち上げ,力をすっと緩める感じで,ゴンゴンと2回くらいコンクリートの床に叩きつけた。被告Aは,三郎の背中を靴の裏で強く5回くらい踏みつけ,続いて三郎の左右の足のふくらはぎから足首の辺りを靴の底で強く,右足は10回くらい,左足は3回くらい踏みつけた上,火のついたタバコを三郎のズボンの裾から腰の辺りに入れ,右手で押さえた。被告Aは,被告Dが吸っていたタバコを受け取って,三郎の手のひらに置いてこれを握らせ,さらに,三郎の手のひらにタバコの火を押しつけた。

(エ) その後,被告Gは,三郎から話を聞くために,他の仲間を制して,三郎をコンクリートのたたきの西側に座らせ,被告Nを除く被告らも三郎を囲むように座った。そこで,被告Gと被告Jが三郎を問いつめたが,三郎は首をうなだれて座っており,あいまいな態度しか示さなかったので,被告Aは,三郎の髪の毛をわしづかみにして5回くらい強く後ろに引っ張って三郎の顔を上げさせ,そのうち,1回は,三郎ののど仏の左横に左手で水平打ちを力一杯加え,被告D及び同Oは,三郎の髪の毛をつかんで顔を上に向かせ,被告Cは,手拳で三郎の頭を3回くらい思いきり殴り,被告Kは,三郎の顔を手で1,2回くらい殴り,被告Jは,右拳で三郎の左頬を2,3回殴った上,倒れた三郎の胸ぐらをつかんで立たせて,左横腹や腹の正面や後ろのふくらはぎなどを合計10回くらい蹴り,倒れた三郎の顔を殴った。さらに,被告Aは,三郎が何も答えないので,右拳で三郎の左頬を強く3回殴り,長さ1.5メートル,4センチメートル×2センチメートル角くらいの角材を持ってきて,大きく振りかぶり,正面から三郎の頭を力一杯殴りつけ,折れた角材の尖った先で三郎の腹や胸を6,7回突いた。被告Bは,三郎の後ろ髪をつかんで,三郎の頬を踊り場の屋根を支える鉄柱に押しつけた上,髪をつかんでそのまま三郎の頭をコンクリートに落とすというやり方で,三郎のおでこをコンクリートに2回ぶつけ,さらにスチール製の物置の戸を持ってきて,戸を縦にして三郎の頭にぶつけた。被告Fは,転がった三郎の腰が被告Fの左足の上に乗った格好となったので,左足を上げるようにして三郎の肩をどけた。被告Oは,三郎が被告Oのジャケットをつかんで被告Oの膝の上に乗りかかるような状態になったので,2,3回,足を上げて三郎の体をよけようとした。

(オ) 被告Gは,三郎が話をしたいと言うので,三郎を体育館西側の階段付近へ連れて行って話をし,その後,被告Jを呼び寄せ,被告A,同B及び同Cも,これに続いて三郎の近くに行った。

被告Gは,三郎が嘘をついていたから痛めつけるよう言って,両手拳で三郎の顔や腹の辺りを15回くらい続けて殴ったので,被告Bは,左手拳で三郎の頭頂部を5回くらい殴り,被告Jは,手で三郎の顔や腹の辺りを5回くらい殴り,被告Aは,手で三郎の顔を2回くらい殴った。そして,被告Gは,三郎の服を脱がすよう命じたので,被告Dや被告Bは,三郎の上着を無理矢理脱がせ,これにより,三郎は上半身裸の状態になった。

(カ) 被告L及び同Mは,近くの民家に明かりがついて人影が見えたので,被告Bのところへ行って,誰かが見ているようだとだけ告げ,被告Bは,被告Gらのところへ行って,誰かが見ているのでやばいから逃げようと伝えたことから,場所を東筑摩郡山形村にあるプールに変えることにした。

エ  第3現場における暴行(甲3,8,9,12の8,12の10,13の1及び2,23の5,23の7,33及び34,39ないし41,43,乙①8,9,11,15,17,②6,13及び14,③2,④2,8,10及び11,19,21,26,⑤1及び2,⑥3ないし5,13,17,21,⑦2及び3,⑧3,⑨1,⑭2,⑮2,6,被告A,同B,同C,同G,同H,同J,同D,同K,同I,同E,同L,同M,同F及び同O)

(ア) 第2現場にいた被告らと三郎は,午後9時10分ころ,自動車に分乗して第2現場を出発し,上記プールに向かったが,被告Gは,上記プールの近くにも人家があることから,さらに場所を第3現場に変えることにして,三郎とともに第3現場に向かい,被告Aが,被告B,同L,同M及び同Fが,被告J及び同Nが,それぞれ順次これに続いた。なお,被告Cは,被告H,同E及び同Iと落ち合うために,被告K,同D及び同Oとともに,被告Gらとは別行動をとり,途中で,被告H,同E及び同Iと落ち合い,これらの者とともに第3現場に向かった。また,被告Bは,被告Oを自宅に送るために第3現場を出発し,途中で被告Oと落ち合い,被告Oを自宅まで送った。

(イ) 被告C,同D及び同Kは,三郎を草むらに連れて行き,被告Kが三郎を蹴り,被告Dが三郎の左肩から脇腹の辺りを5回くらい蹴り,被告Cが前屈みになって下を向いている三郎の顔を下から1回蹴り上げ,両手拳で三郎の頭を5回くらい殴り,左足首の辺りを2回くらい踏みつけ,うつぶせになっていた三郎の頭などを蹴った。さらに,被告Hは,三郎の腕を蹴り,三郎の髪の毛をつかんで7回くらい顔面を蹴った上,転んでいる三郎の頭を2,3回,体を7,8回蹴り,被告Aは,倒れている三郎の背中を踏みつけ,引き続き,左足で三郎の左脇腹を蹴り,被告Gは,右足で三郎の腹や背中,頭を10回くらい蹴り,被告Jは三郎の髪をつかんだり,足で三郎の腹,背中,尻などを足で上から踏みつけたり,右足で右腹を蹴ったりした。

三郎は,これからみんなに会ったら敬語を使うので許してくださいと謝ったが,被告Kが,そんなのは当たり前のことだと言って,三郎の腹や頭を3,4回続けて蹴り,三郎の顔を踏みつけ,被告Gは,右足で三郎の腹や背中や頭を10回くらい蹴り,被告Dは,三郎の背中,頭,手を蹴った上,三郎の髪をつかんで,頭を30センチメートルくらい持ち上げて,力一杯地面に打ち付け,三郎の背中に両足で乗って,その上で2,3回ジャンプしたりして踏みつけたり,2.3メートル離れたところから走って,三郎に跳び蹴りをしたりし,被告Hは,三郎の顔を10回くらい蹴り,被告Jは,三郎の顔などに小便をかけた。

(ウ) 以上の暴行が終わったころには,三郎は,うつぶせに倒れてぐったりして動かない状態になっていた。三郎の顔は,両眼の瞼が腫れ上がり,口や鼻の周りは出血で汚れ,被告Gや被告Cらが,三郎の顔を軽く叩いて呼びかけても,返事がなかった。三郎は,最初寝息を立てているようだったが,すぐに大きないびきをかき始めたので,被告A,同J及び同Kは,足の甲を使って三郎の体を仰向けにし,被告Aと被告Gは,ペットボトルの茶を三郎のおでこ,目,両頬,頭に少しずつかけたり,半開きの口に少しずつ流し込んだりして,三郎に呼びかけながら,両頬を手のひらで叩いたりしたほか,心臓マッサージを行い,また,被告Cは,丸めたトレーナーを三郎の首の下に置いて気道を確保した。

被告Bは,そのころ,第3現場に戻って来た。被告Bは,三郎に大丈夫かと声をかけたところ,三郎は唸るだけだったが,三郎は演技をして疲れて寝ているだけだから大丈夫だ,凍死するのは俺たちのせいじゃない,寒けりゃ自分で起きて帰るから大丈夫だ,なるようにしかなんねえ,帰るぞ,などと言い,その結果,被告らは,三郎をそのままにして第3現場から立ち去った。

オ  その後の状況(甲12の9ないし11,13の1,19,23の7,34,39,乙①10,②6及び7,13及び14,④2,10,26,⑤1及び2,⑥5,21,⑦2及び3,⑬2,⑭2,被告A,同B,同G,同H,同J,同E,同L及び同M)

(ア) 被告Lと被告Mは,救急車を呼んだ方がいいのではないかと話し合い,被告Bに連絡して相談し,被告Bは,被告Jに連絡をし,被告Jが了解したので,被告Bと一緒にいた被告Kは,被告Lに連絡し,救急車を呼ぶよう指示した。しかし,被告Gらと一緒にいた被告Jは,その後,被告Kに連絡して,救急車を呼ぶのをやめるよう告げたので,被告Kは,被告Lに連絡し,救急車を呼ぶのをやめさせた。

(イ) 被告Gは,三郎の状態が気になり,第3現場に戻ったところ,三郎の自動車はそのままの状態で駐車していて,三郎が自動車に戻った様子はなかったものの,そのまま被告Aの家に行き,改めて,被告A及び被告Aと一緒にいた被告J及び同Nとともに,三郎の様子を見に第3現場に戻った。

被告C,同H,同I及び同Eは,コンビニエンスストアに寄った後,第3現場に戻ったところ,三郎が自分ではいずっていたので三郎の自動車に乗せた。三郎は,車の助手席でリクライニングシートを倒し,ぐったりとなって寝ていた。

被告Bは,被告Dと被告Fを送って行き,松本駅で両名を降ろした後,遊ぶために被告Jに連絡したところ,被告Jが第3現場にいたので,自分も第3現場に戻った。

(ウ) 第3現場に戻った被告Gらは,三郎を病院に連れて行くかどうかを話し合ったが,病院に連れて行くと,警察に逮捕されるおそれがあるので,病院には連れて行かないことにしたが,被告Aは,三郎の様子を見て,病院に連れて行った方がいいと考え,被告Cとともに上條記念病院へ向かった。被告Aらが上條記念病院に着くと,正面玄関に救急車が止まっており,警察官のような人が出てきたので,被告Aらは,発覚をおそれ,その場を逃げ出した。その後,さきに第3現場に戻った被告らは,再度話し合い,その結果,これまでに逮捕歴がなく,かつ,三郎とは出身中学校が異なる被告B,同C,同H及び同Eが,ゲームセンターで知らない男たちから暴行を受けたことにして,三郎を上條記念病院に連れて行くことを決め,これにより,被告Bらは,翌11月8日午前0時40分ころ,三郎を上條記念病院に運び込んだ。

(エ) 三郎は,11月8日午後9時10分ころ,上條記念病院において,上記の暴行による外傷性くも膜下出血及び硬膜下血腫により死亡した。

(2)  (1)の事実によると,被告I,同E及び同Nを除く被告らは,事前に又は遅くとも第2現場において三郎に集団暴行を加える目的で共謀し,さらに,被告A,同B,同G,同D及び同Kは未必の殺意をもって,約2時間にわたって,第1ないし第3現場において,三郎に暴行を加えた上,意識不明に陥った三郎を2時間以上にわたって放置し,その結果,三郎は上記暴行による傷害により死亡したことが認められる。なお,請求原因(2)イの事実については,本件全証拠によっても,被告らの全部又は一部が共謀したということも,被告らに三郎の財布等を領得する意思があったということも認めるに足りない。

(3)ア  被告C,同H,同D,同K,同L,同M,同F及び同Oは,それぞれ,三郎に集団暴行を加える目的に共謀をしたことはない旨主張する。しかしながら,(ア)被告C,同H及び同Kについては,被告G及び同Aは,平成9年11月6日,被告Cに対し,三郎に暴行するよう唆し,さらに,被告J及び同Bに連絡して,翌7日に三郎に暴行することにしたこと,その後,被告Bは,被告Kに連絡して,7日に三郎に暴行することを伝え,また,被告Cは,被告Hに連絡して,7日に三郎に暴行することを伝えたこと,以上の7名は,7日,三郎に暴行をする目的で現場に集まり,それぞれ三郎に暴行を加えたことが認められるから,これらの事実にかんがみると,被告C,同H及び同Kは,被告G,同A,同B及び同Jとともに,前日には,三郎に集団で暴行を加えることを共謀したものと認められ,(イ)被告Dについては,第2,第3現場において,他の被告らの暴行を認識しながら,自ら直接暴行を加えているから,遅くとも第2現場において,前記(ア)の被告らと共謀したものと認められ,(ウ)被告L,同M及び同Fについては,第2現場において,他の被告らの暴行を認識しながら,他の被告らと一緒に三郎の周りを取り囲むなどしているから,遅くとも,第2現場において,前記(ア)の被告らと共謀したものと認められ,(エ)被告Oについては,被告Bに誘われて,第1現場から同行し,第2現場において,他の被告らの暴行を認識しながら,他の被告らと一緒に三郎の周りを取り囲んだ上,自ら直接暴行を加えているから,遅くとも第2現場において,前記(ア)の被告らと共謀したものと認められる。

したがって,上記被告らの主張は,採用することができない。

他方,原告らは,被告I,同E及び同Nも,三郎に集団暴行を加える目的で共謀した旨主張する。しかしながら,(ア)被告Iについては,前日,被告Cから,その日に三郎に暴行を加えることを告げられているが,その日はもちろん,翌日に第3現場に赴くまでに,被告らとの間で,三郎に暴行を加えることについて話合いをした形跡はなく,また,第3現場に赴いた後に,自ら直接暴行を加えたり,被告Gらの暴行を手助けしたりしたなどの事実は認められないから,被告Iが,他の被告らと三郎に暴行を加えることについて共謀した事実を認めることはできず,(イ)被告Eについては,前日,被告Hから,翌日に三郎に暴行を加えることを告げられているが,その日はもちろん,翌日に第3現場に赴くまでに,被告らとの間で,三郎に暴行を加えることについて話合いをした形跡はなく,また,第3現場に赴いた後に,自ら直接暴行を加えたり,被告Gらの暴行を手助けしたりしたなどの事実は認められないから,被告Eが,他の被告らと三郎に暴行を加えることについて共謀した事実を認めることはできず,(ウ)被告Nについては,第1現場に至る前から被告Jと行動をともにしているが,被告Jに従ったにとどまり,予め,被告Gらが三郎に暴行を加えようとしていたことを知っていたことを認めるに足りる証拠はない上,第1ないし第3現場を通じて,自ら直接暴行を加えたり,被告Gらの暴行を手助けしたりしたなどの事実は認められないから,被告Nが,他の被告らと三郎に暴行を加えることについて共謀した事実を認めることはできない。

したがって,原告らの主張は,採用することができない。

イ 被告A,同B,同G,同D及び同Kは,それぞれ,殺意がなかった旨主張する。しかしながら,(ア)被告A及び同Gについては,三郎に対する集団暴行を計画して,第1現場から関与し,他の被告らの暴行を指示し,又は制止するなど,全体の雰囲気を支配していたのであって,被告Bらによる暴行が執拗かつ重大であったにもかかわらず,なすがままにした上,自らも積極的に三郎の頭部など身体の枢要部をねらって打撃を加え,三郎がぐったりして動かない状態になるまでこれを続けているのであって,以上の事情にかんがみると,被告A及び同Gは,三郎の死の結果を認容していたものと推認することができるから,殺意があったものと認められ(なお,被告G及び同Aは,第3現場において,三郎を救護するような行動をしており,さらに,結果としては三郎を上條記念病院に連れて行ったものであるが,上記被告らのとった行動は,三郎に対する救護としては不十分なものである上,三郎が意識を失い,危険な状態に陥っていたにもかかわらず,犯行の発覚をおそれて,直ちに医師の診察を受けさせなかったから,上記のような行動をしていたことをもって,三郎に対する殺意があったとの前記認定を覆すには足りない。),(イ)被告Bについては,第3現場においては暴行を加えていないものの,第1現場から暴行を加え,ことに第2現場においては,自ら積極的に三郎の頭部など身体の枢要部をねらって,手拳などの外,角材や金属缶等を利用して執拗かつ重大な打撃を加えており,さらに,第3現場において,三郎が意識を失い,危険な状態に陥っていたにもかかわらず,三郎は演技をして疲れて寝ているだけだから大丈夫だ,などと発言して,他の被告らを第3現場から立ち去らせているのであって,以上の事情にかんがみると,被告Bは,三郎の死の結果を認容していたものと推認することができるから,殺意があったものと認められ,(ウ)被告D及び同Kについては,第2現場及び第3現場で三郎に暴行を加えており,ことに第3現場では,第2現場における自ら及び他の被告らの暴行の内容を認識し,三郎がかなりの打撃を受けていることを知りながら,三郎の頭部など身体の枢要部をねらって打撃を加え,三郎がぐったりして動かない状態になるまで,執拗に暴行を加えており,その後も三郎の救護活動を何ら行っていないのであって,以上の事情にかんがみると,被告D及び同Kは,三郎の死の結果を認容していたものと推認することができるから,殺意があったと認められる。

したがって,上記被告らの主張は,採用することができない。

他方,原告らは,被告C,同H及び同Jにも殺意があったと主張する。しかしながら,上記被告らは,三郎の頭部など身体の枢要部に打撃を加えたことがあるものの,上記被告らに比べればその態様及び程度は軽く,被告A及び同Gが支配していた現場の中で,いわば付和雷同的に三郎に暴行を加えたものであるから,以上の事情のもとにおいては,被告C,同H及び同Jが,三郎の死の結果を認容していたとまでは認めるに足りない。

したがって,原告らの主張は,採用することができない。

(4)  以上によれば,被告I,同E及び同Nを除く被告らは,民法719条に基づき,原告らの被った損害の全額について,連帯して賠償すべき責任がある。なお,被告Oは,一部にしか関与していないから,その割合に応じた賠償責任しか負わない旨主張するが,(1)の事実のもとにおいて,被告Oが責任を負うべき賠償額を限定することを相当と認めるに足りる事情はないから,原告Oの主張は,採用することができない。

3  請求原因(3)について

(1)  三郎の損害額

ア  逸失利益 4872万3207円

原告太郎本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば,三郎は,死亡当時19歳(昭和53年6月21日生)の男子で,平成8年3月に高等学校を卒業し,自動車整備専門学校に入学したが,中退して,平成9年9月ころ,山形村に戻ったことが認められ,以上の事実によれば,三郎は,本件事件がなければ,満67歳に達するまでの48年間就労することができ,その間,少なくとも賃金センサス平成9年第1巻第1表産業計,企業規模計,旧中・新高卒の男子労働者の平均給与額である539万0600円の年収を得ることができたものと推認することができるから,これを基礎として,生活費控除割合を50パーセントとし,ライプニッツ方式により年5分の割合による中間利息を控除して,三郎の逸失利益の現価を算定すると,次のとおり,4872万3207円(円未満切捨て)となる。

5,390,600×(1−0.5)×18.0771

=48,723,207.63

なお,原告らは,生活費控除割合は40パーセントにとどめ,また,年3パーセントの割合による中間利息を控除すべきである旨主張するが,原告らの主張は,上記判断に照らして,採用することができない。

イ  慰謝料 2500万円

三郎は,多勢から執拗な暴行を受け,その後も第3現場に放置されるなど,相当の苦痛を被って死亡しているのであり,その他本件に現れた一切の事実を考慮すると,三郎の慰謝料の額は2500万円と認めるのが相当である。

ウ  葬儀費 150万円

本件事件と相当因果関係のある三郎の葬儀代は150万円が相当である(なお,このことは,原告らと被告Jとの間においては争いがない。)。

エ  治療費 12万7220円

甲第5号証によれば,上條記念病院における三郎の治療費は,12万7220円であることが認められる(なお,このことは,原告らと被告Jとの間においては争いがない。)。

オ  懲罰的損害賠償 0円

原告らが主張する懲罰的損害賠償は,その主張自体に照らすと,我が国における罰金等の刑罰とほぼ同様の意義を有するものと認められるところ,我が国の不法行為に基づく損害賠償制度は,被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し,加害者にこれを賠償させることにより,被害者が被った不利益を補てんして,不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものであり,加害者に対する制裁や,一般予防を目的とするものではないから,我が国の不法行為に基づく損害賠償制度のもとにおいては,原告らが主張する懲罰的損害賠償を認めることはできないというべきである。

カ  以上によれば,三郎の損害は7535万0427円となり,原告太郎及び同花子は,法定相続分に従い,それぞれ2分の1に相当する3767万5213円を相続した。

(2) 原告らの損害

ア  慰謝料 原告太郎及び同花子につき各1000万円,原告次郎につき500万円

原告太郎及び同花子が三郎の親として,原告次郎が三郎の弟として,三郎の死亡により,自らが生命を害された場合にも比肩すべき精神的苦痛を受けたことは明らかであり,その他本件に現れた一切の事情を考慮すると,原告らの慰謝料額は,原告太郎及び同花子につきそれぞれ1000万円,原告次郎につき500万円と認めるのが相当である。

イ  弁護士費用 原告太郎及び同花子につき各500万円

本件事案の内容,審理経過,認容額などに照らすと,本件不法行為と因果関係のある弁護士費用は,原告太郎及び原告花子につき各500万円と認めるのが相当である。

4  以上によれば,原告らの請求は,主文掲記の限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却し,訴訟費用の負担につき民事訴訟法65条1項本文,64条本文,61条を,仮執行宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・髙野輝久,裁判官・梶智紀,裁判官・藤倉徹也)

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