長野地方裁判所松本支部 平成12年(わ)203号 判決 2002年4月10日
主文
1 被告人高橋勝幸、被告人前原俊彦、被害人比嘉勇人、被告人上地真吾及び被告人佐藤光知をそれぞれ懲役2年に処する。
2 被告人高橋勝幸に対し、未決勾留日数中320日をその刑に算入し、被告人前原俊彦、同比嘉勇人、同上地真吾、同佐藤光知に対し、未決勾留日数中300日をそれぞれその刑に算入する。
3 被告人前原俊彦、被告人上地真吾に対し、この裁判が確定した日から各4年間、被告人比嘉勇人、被告人佐藤光知に対し、この裁判が確定した日から各3年間、それぞれその刑の執行を猶予する。
理由
(犯行に至る経緯)
被告人らやA(以下「A」という。)及び大録聡志(以下「本件被害者」という。)は人材派遣会社から派遣されて長野県茅野市中大塩23番地11所在の株式会社チノン(以下「本件会社」という。)の茅野工場(以下「本件工場」という。)で働いていた者である。被告人高橋勝幸(以下「被告人高橋」という。)は、本件被害者との間に表に出ていない確執があって、表面的には仲良くしているようであったが、本件被害者から上司への告げ口問題も加わって、本件被害者に対し、憎しみを抱くようになり、平成12年夏ころからは、「本件被害者が、上司に、被告人高橋が勤務時間中絵を描いたことを告げ口したことから、退職するようになった」、或いは、「本件被害者が他の派遣会社からの派遣社員を退職させることで金員を取得している」等という嘘の話を周囲の者に流すようになった。同年8月25日、長野県茅野市ab番地d所在のe号室のA方で、被告人高橋は、その場にいたA、被告人前原俊彦(以下「被告人前原」という。)、被告人上地真吾(以下「被告人上地」という。)らに対し、前記のような嘘の話をすると共に、「俺は大録を許せねえ。ヤキを入れてやる」等といって、A、被告人前原、被告人上地に、本件被害者に暴行を加えることを提案し、配置換えの不満等から本件会社を既に退職していたA、被告人前原及び被告人上地も、本件被害者に悪感情を持っていたので、被告人高橋の提案に同調した。その後、被告人高橋らは、同県諏訪市沖田町5丁目35番所在の飲食店すし音頭で飲食したが、その場で共に飲食した被告人佐藤光知(以下「被告人佐藤」という。)を本件被害者に暴行を加えることに誘い、被告人佐藤も、本件被害者について、快く思っていなかったことから、これに応じた。被告人高橋、被告人前原、被告人上地、被告人佐藤及びAは、被告人高橋の提案に従って、同日午後10時20分ころ、本件工場に行き、残業を終えて退社する本件被害者を連れ出すことにした。この際、被告人高橋らは、残業を終えて退社してきた被告人比嘉勇人(以下「被告人比嘉」という。)を本件被害者に暴行を加えることに誘い、被告人比嘉も本件被害者に悪感情を持っていたことから、暴行を加えることに同調した。そして、被告人ら及びAは、残業を終えて、退社してきた本件被害者を、花火や飲酒を一緒にするように装って、後記永明寺山公園に連れていった。
(罪となるべき事実)
被告人高橋、被告人前原、被告人比嘉、被告人上地及び被告人佐藤は、前記のとおりAと共謀の上、平成12年8月25日午後11時50分ころから同月26日午前2時ころまでの間、長野県茅野市ちの1667番地1所在の茅野市総合公園永明寺山公園駐車場及び同公衆便所内において、本件被害者(当時22歳)に対し、こもごも多数回にわたり、その顔面、腹部等を手拳で殴打するとともに、その胸部、腹部等を足蹴にするなどの暴行を加え、さらに、同日午前3時ころから午前3時45分ころまでの間、同県諏訪市沖田町5丁目21番地所在のマンション諏訪さくらパレス511号室において、被告人上地が本件被害者の頭を木製いすで小突いたり平手ではたく暴行を加え、Aが本件被害者の頭を木製いすで小突いたり膝蹴りする暴行を加え、被告人高橋が本件被害者を手拳で殴打する暴行を加え、これら一連の暴行により、本件被害者に顔面打撲傷等の傷害を負わせたものである。
(証拠の標目)省略
(事実認定の補足説明)
第1 前記さくらパレスにおける暴行についての共同正犯の成否について
被告人比嘉、同被告人弁護人及び被告人前原弁護人は、前記マンション諏訪さくらパレス51l号室(以下「本件第2現場」という。)において暴行が行われた際の共謀について否認するので、この点について検討する。
この点に関して、関係各証拠によれば、被告人高橋、被告人上地及びAが本件第2現場で本件被害者に暴行を加えたことが認められるところ、被告人らは前記永明寺山公園(以下「本件第1現場」という。)から本件第2現場に移動し、そこで暴行が行われるまで終始行動を共にしていること(被告人らの供述)、被告人上地及びAが本件第2現場で暴行に及んだ理由は、本件被害者の画策で被告人らが退職に追い込まれたという被告人高橋の流した嘘の話を本件被害者が否認したことに立腹したものであって、これは、第1現場における暴行の動機と全く同一であること並びに本件第2現場での騒音に耐えかねて、隣人が苦情をいいに来訪している程の暴行が行われているにもかかわらず、本件第2現場でキッチンの隣室に居合わせた他の被告人は何ら制止していないこと(前記被告人上地の供述及びAの供述)、以上の事実が認められる。
ところで、本件では本件第1現場での暴行につき被告人らの共謀は明らかであるから、本件第2現場での暴行につき、共犯関係が解消したといえるためには、他の共犯者において犯行を継続するおそれがある本件のような場合には、これを防止する措置を講じる等共犯関係から離脱したことが他に判る明確な行動をとることが必要であるとされている(最高裁判所平成元年6月26日決定、刑集43巻6号567頁参照)ところ、上記事実によれば、被告人比嘉においてもこのような他の共犯者の暴行を防止する措置等の共犯関係からの離脱が明確にわかる行動をとっていないことは明白であるから、本体第2現場においても、本件被害者に対する暴行・傷害について、本件第1現場におけるのと同様の共犯関係が継続していたものと認められる。
従って、この点に関する前記被告人比嘉、同被告人弁護人及び被告人前原弁護人の主張は採用できない。
第2 被告人らの暴行・傷害行為と本件被害者の死亡との因果関係について
1 本件における公訴事実は、「被告人5名は、Aと共謀の上、平成12年8月25日午後11時50分ころから同月26日午前2時ころまでの間、長野県茅野市ちの1667番地1所在の茅野市総合公園永明寺山公園駐車場及び公衆便所内において、大録聡志(当時22年)に対し、こもごも多数回にわたり、その顔面、腹部等を手拳で殴打するとともに、その胸部、腹部等を足蹴にするなどの暴行を加え、さらに、同日午前3時ころから午前3時45分ころまでの間、同県諏訪市沖田町5丁目21番地所在のマンション諏訪さくらパレス511号室において、こもごも多数回にわたり、その頭部、顔面等を手拳で殴打するなどの暴行を加え、右一連の暴行により、同人に顔面打撲等の傷害を負わせた上、」とし、さらに続けて「同時刻ころ、右暴行から逃れるために同室から逃走した同人を追跡し、同人をして、同日午前3時55分ころ、長野県諏訪市大字中洲地籍中央自動車道西宮線下り高井戸起点171.5キロポスト付近路上に進入することを余儀なくさせ、折から、同所付近を東京方面から名古屋方面に向かい時速約90キロメートルで進行してきたB運転に係る普通貨物自動車の右前部を右大録に衝突させて同人を路上に転倒させた上、同車に引き続き、右同様進行してきたC運転に係る普通乗用自動車の右前後輪で、路上に転倒していた右大録を轢過させ、よって、同日午前5時23分ころ、同市湖岸通り5丁目11番50号所在の諏訪赤十字病院において、同人を外傷性ショックにより死亡するに至らせたものである。」というものであるところ、被告人ら及びその各弁護人は、被告人らの暴行と本件被害者の死亡との間に相当因果関係はないと主張している。
2 そこで検討するに、関係各証拠によれば、この点に関して、前記罪となるべき事実のほか、次の事実が認められる。
(1) 本件被害者が前記交通事故(以下「本件事故」という。)に遭遇した地点(以下「本件事故現場」という。)は、本件高速道路下り線上であって本件第2現場とは上り車線を挟んだ反対側にあり、上り車線と下り車線は、ガードレール及び遮光ネットにより仕切られていて、これを乗り越えることやガードレールの下をくぐり抜けることは車両が走行している時には危険を伴うとみられ、本件高速道路法面は両側とも草木の茂るかなりの急斜面であって、これを登ることは容易ではないとみられる(甲3、4、45、当裁判所の検証調書(以下「検証調書」という。))、また、本件第2現場から本件事故現場までは、仮に下り車線側から進入したものとすると、最短でも763メートル又は810メートルの道のりを要することになる。(甲45)
(2) 本件第2現場は、本件高速道路の出入口(諏訪インターチェンジ料金所)すぐ脇にあるものの、直ちに本件高速道路本線に進入できるような状態ではなく、また、周囲には、大規模商業施設である諏訪ステーションパーク、本件高速道路諏訪料金所、高速道路交通警察隊諏訪分駐隊その他多数の人家、店舗が存在していて、被告人らから暴行を受けた本件被害者が助けを求めまたは身を隠すことが可能な場所は多数あった。それに、本件第2現場付近には、本件高速道路沿いの下道(高速道路側道)を含めて、道路が縦横に走っており、本件第2現場から逃走した場合、必然的に本件事故現場に到達する道路状況ではなかった。(甲44、64ないし66、140、検証調書)
(3) 本件第2現場に接する高速道路側道(以下「本件高速道路側道」という。)と本件高速道路との間は、高さ約1メートル12センチの金網フェンスで仕切られており、本件高速道路内への進入を困難ならしめている。(甲66、検証調書)
(4) 本件第2現場付近及びその周辺の夜間の明暗状況は、本件第2現場付近、本件高速道路インターチェンジ入り口付近及び諏訪ステーションパーク内駐車場は、本件高速道路や同駐車場内に設置された照明により視認可能な状況にあったが、その余の場所については、一部街灯等はあるものの暗い状況であった。ただし、暗い状況であることから、誤って、人が本件高速道路内に進入する状況には必ずしもない。(甲97(その余被告人)、119(高橋))
なお、本件被害者は本件第2現場付近には以前3回ほど来ていて、諏訪ステーションパーク付近の地理勘はある程度持っていたが、本件第2現場からみて本件高速道路の反対側の地理勘はなかったことが窺える。(甲94)
(5) 本件事故当時の本件被害者の視力については、ハードコンタクトレンズ装着時、左右とも0.3であるが、裸眼視力は0.1以下であり(甲144、145)、死亡後の本件被害者の血中からは、カフェイン以外の薬物は検出されなかった。(甲101、103(以上その余被告人)、123、125(以上高橋))
なお、本件事故時に本件被害者は最初に体の右側が車両と衝突している。(甲137)
(6) 本件被害者は、本件犯行現場での暴行に先立ち、前記のとおり、本件第1現場で約2時間にわたり、被告人らから暴行を受けた後、本件第2現場においても前記罪となるべき事実のとおり暴行を受けるなどしていたところ、本件第2現場の隣人が騒音に対する苦情を伝えるため来訪し、被告人らが玄関の戸を開けて対応していた隙に、本件被害者は、室外に逃走し、非常階段を下り、本件高速道路側道を南西方向に向かって走って逃亡した。(甲64、乙3、被告人高橋の第4回、第5回公判期日における供述)
(7) これに対し、被告人高橋は、本件被害者が警察等へ通報することをおそれ、本件被害者を追って本件第2現場(前記さくらパレス511号室)から本件高速道路側道に降り、約65メートル先に逃走する本件被害者を認めたが、その後見失い、前記さくらパレスから本件高速道路側道に沿って南下し、本件事故現場手前の本件高速道路下のガード(トンネル)をくぐり、さらに本件高速道路側道に沿って北上するなどして本件被害者を探したが、発見することはできなかった。(甲64、乙3、検証調書)
また、他の被告人らも、被告人高橋と同様の理由から、本件被害者を見つけようと、被告人高橋に続いて前記さくらパレス周辺あるいはその南東の諏訪ステーションパーク付近を徒歩あるいは自動車で探し回ったり(乙3、10、14、17、21)、被告人比嘉が前記さくらパレス付近の本件高速道路側道と本件高速道路の間の金網フェンスを乗り越えて本件高速道路敷地に入るなどしたが(乙14、検証調書)、本件被害者を発見することはできなかった。
(8) これら被告人らの探索行為においては、上記のように、被告人高橋が諏訪インターチェンジの周囲を一周し、その際、前記さくらパレスからみて本件事故現場手前のガード(トンネル)をくぐり抜けた時に、本件事故現場と最も近い位置に居たことになり、他の被告人らは、本件高速道路のインターチェンジと国道20号線の間の一帯(諏訪ステーションパーク等のある所)で上記ガード(トンネル)より更に前記さくらパレスに近い部分を探索していたが、本件事故現場付近や本件高速道路上を探索した者はいなかった。なお、各被告人の探索中の具体的な時点における探索場所及び本件被害者との具体的な位置関係は、本件証拠上不明である。
その後、本件事故現場で本件被害者が事故に遭い、パトカー等が出動して来たのを見て、被告人らは探索をやめて、前記さくらパレスに引き上げ、「まさか本件被害者が事故に遭ったのではないよね」等の旨を話しながら、その日は解散した。
(9) 本件被害者が本件第2現場から逃走してから本件事故に遭うまで、約10分ほどの時間があった。(甲10、乙21)
3 本件傷害致死の公訴事実における因果関係の部分は、前記のとおり「被告人らの暴行から逃れるため逃走中の被害者が、被告人らの追跡により、高速道路上に進入することを余儀なくされた」との旨のものであって、被告人らが追跡したことが、本件被害者をして、死亡事故に遭遇した本件事故現場へ進入することを余儀なくさせた原因行為であって、被告人らの第1・第2現場での暴行と被害者の高速道路本線上での事故による死亡との間には因果関係が認められる、と主張する。
しかし、被告人らは、前記2のとおり、本件第2現場から逃走した本件被害者を追跡したもののすぐに見失い、引き続き付近を探索した、という事実は認められるけれども、それ以上に本件被害者を追跡したことは認められず、本件被害者がどのような経緯で事故現場となった高速道路に進入したか及びその時の被告人らとの位置関係はどのようなものであったか本件では不明であって、既にこの点からして、「本件被害者が本件高速道路本線上の本件事故現場に進入したのは、被告人らの追跡による」とする公訴事実の一部につき証明がないことになる。
また、前記2の状況によれば、本件被害者が本件第2現場から逃走した後の行き先については、現場の地理的な条件や被害者が逃走して探索されている状況下にあるという心理状態を考えても、選択の余地は多々あり、そういう中で本件被害者が本件事故現場となった本件高速道路本線上へ進入するしかない或いはその蓋然性が高いといえるような事情は見出せず、被告人らの暴行から逃れる目的があったとしても、本件被害者が本件高速道路本線上に進入するということは、通常の予想の範囲外といえる行動であったといえるもので、この点からすれば「被告人らが、本件被害者をして、本件高速道路本線上に進入することを余儀なくさせた」とする公訴事実の一部につき証明がないことになる。
なお、この点について、検察官は、本件被害者が本件第2現場から本件高速道路沿いの下道(本件高速道路側道)を逃走中、被告人らの追跡を知って、その追跡から逃れるために、やむなく本件高速道路を横切ることを決意し、そのまま本件事故現場付近で柵(金網)を乗越え土手を登り路側のガードレールを越え高速道路上り線を横断し中央分離帯のガードレール下をくぐるか遮光ネットを乗越えるかして下り線に至り横断中に事故に遭った、との主張を追加するけれども、これは一つの推論を示すものに過ぎず、本件では本件被害者が実際にその経路を通ったことの裏付証拠はもとよりその可能性を示唆する証拠もなく、却って、本件第2現場からほぼ一直線に本件事故現場まで逃走する経路であれば被告人らに発見され易いうえ、本件第2現場から本件事故現場までの距離(直線的には約800メートルの道のりよりは近くなる)を必死に逃走したにしては約10分と時間がかかっており、裸足で草木の茂る上記土手を登るようなことをすれば足の裏等に相当の傷を負うとみられるがそのような形跡も窺えず(ちなみに反対側の土手にはコンクリートの上を伝って登れる箇所がある(検証調書))、更には、本件被害者は事故に遭遇した際に体の右側を自動車に衝突したとみられるところ、中央分離帯から本件高速道路下り線を横断中に走行車線に至って急にまた追越車線に引き返すような行動がとれるか不自然である等、多々疑問の余地も存するところであって、この推論には相当の無理があるといわざるを得ない。
従って、本体では、本件被害者が本件高速道路本線上の本件事故現場で事故に遭遇したことは、被告人らの本件第1・第2現場での暴行から予期しうる範囲外の事態であって、当該暴行の危険性が形をかえて現実化したものであるとは到底いえず、被告人らの上記暴行と本件被害者の死亡との間に検察官の主張するような形での因果関係を認めることはできない。
(法令の適用)
被告人らの判示所為はいずれも刑法204条、60条に該当するので、いずれも懲役刑を選択し、その刑期の範囲内でそれぞれ懲役2年に処し、各刑法21条を適用して未決勾留日数中、被告人高橋につき320日を、その余の被告人らにつき各300日を、それぞれその刑に算入し、情状により各刑法25条1項を適用して、被告人前原・被告人上地につきこの裁判が確定した日から各4年間、被告人比嘉・被告人佐藤につきこの裁判が確定した日から各3年間、それぞれその刑の執行を猶予することとし、訴訟費用については、各刑事訴訟法181条1項但書を適用して、被告人らにいずれも負担させないこととする。
(量刑の理由)
1 本件で被告人らが刑事責任を負うのは第1・第2現場での被害者に対する暴行・傷害についてであるが、このような集団的な暴行事件は往々にして感情に流された歯止めのきかない暴力により被害者の死亡等の重大な結果を招きかねない危険な態様のものであって、それ自体社会的な非難の強い犯行態様といえるところ、被告人ら及びAは、第1現場では許しを乞う被害者に交々約2時間に及ぶ暴行を加え、第2現場では殴り足りないとか口止めとか勝手な理由を付けて更に2時間近くの間内3名が隣人が騒音に苦情を言いに来る程の暴行を断続的に加えるという、無抵抗な被害者に対する執拗な暴行を加えた事犯であり、その動機も、被害者に対する理由のない恨みや虚偽の話等に基づく反感を晴らす或いはこれに同調するという酌量の余地の乏しいものであって、危険な犯行態様と相まって責任の大きい事案といえる。
本件犯行では、被告人高橋が被害者との確執から被害者に関する嘘の話を流し、被害者に対する派遣仲間の反感を煽ったうえ被害者への集団的暴行を計画し、同調者を集めて本件犯行に及んだ経緯があって、首謀的役割を行った被告人高橋の責任が特に大きいといえるが、他の被告人らも安易に被告人高橋の話に乗り或いは同調して本件に加わり積極的に暴行を加えた責任もまた軽視できないものがある。
被害者は、派遣仲間と思っていた被告人らから謂われのない集団的な暴行を受けて、非常な衝撃と恐怖を感じ、隙をみて第2現場から必死の思いで逃走し、その約10分後、被告人らの刑事責任外のこととはいえ、交通事故に遭って死亡するという悲惨な事態となっており、その無念さは想像に余りある。
これに対し、被告人らは、事件直後は証拠品の焼却(但し、被告人高橋は加わっていない)や口裏合せ等をして罪責を免れようとし、被告人高橋は公判廷でも首謀者の責任を回避する言辞を繰り返したが、被告人らは捜査段階から数えると500日をこえる長期の勾留を通じて反省悔悟の念を高めているといえる。しかし、被害者側に対する慰謝の措置や金銭的な賠償は、被告人比嘉・同佐藤の親族が一応の支払をしているだけで、未だ十分とはいえない。
2 そこで、これら全体的な情状にふまえて個別的な情状を検討する。
(1) 被告人高橋は、上記のとおり、嘘の話を流して、その余の被告人らを扇動して、本件被害者への暴行に同調させており、本件被害者の退社時刻を予め調べて、本件被害者を本件第1現場に誘い出し、また、本件において本件被害者に最後まで暴行を加えている等本件犯行の首謀者であって、本件被告人らの中で、とりわけ重い刑事責任を問われるべきところ、本件直後には他の被告人らと口裏合せをして本件の罪責を免れようとし、当公判廷では責任回避に終始して首謀者としての責任を免れようとする等、本件勾留の中で反省悔悟の念を高めているといえ、どこまで真摯に反省しているのか判然とせず、また、本件被害者側に対する慰謝の措置も十分ではないし、以前に窃盗で執行猶予となった前歴を有しながら本件に及ぶなどの問題もあるところであって、本件につき、首謀者として、相応の償いをつけるべきと考え、主文のとおりの実刑に処することとする。
(2) 被告人前原は、安易に被告人高橋の嘘の話を信じ、本件犯行を決意し、本件第1現場では本件被害者に執拗な暴行を加えており、本件犯行後証拠品の焼却等の罪証隠滅工作を行っていることからすれば、重い刑事責任を問われるべきであるが、被告人高橋に比べれば、本件犯行における役割は小さく、これに本件犯行について真摯に反省していること、被告人前原の義兄が指導監督を誓約していること、前科前歴がないこと、長期の勾留により実質的に相応の制裁を受けていること、等を考慮して、主文のとおりの刑に処し、その執行を猶予し、社会内での更生と被害者側への慰謝・賠償を尽すことを期することとする。
(3) 被告人比嘉は、他の被告人から誘われて、安易に本件犯行に加わっており、その態度の軽率さは非難されるべきであって、本件犯行後罪証隠滅工作を行っていることに鑑みると、相応の刑事責任を問われるべきであるが、被告人比嘉が、本件犯行に加わったのは、退社する際、偶々他の被告人から誘われたことによることであること、本件犯行について真摯に反省していること、被告人比嘉の親族は、本件被害者の遺族に慰謝の措置を講じ、被告人比嘉の今後の指導監督を誓約していること、前科前歴がないこと、長期の勾留により実質的に相応の制裁を受けていること、等を考え、主文のとおりの刑に処し、その執行を猶予し、社会内での更生と被害者側への慰謝を尽すことを期することとする。
(4) 被告人上地は、安易に被告人高橋の嘘を信じ、本件犯行を決意し、本件第1現場、本件第2現場を通じて執拗に本件被害者に暴行を加えている上、本件犯行後罪証隠滅工作を行っていること等からすると、重い刑事責任を問われるべきであるが、本件犯行における役割は、大きなものとはいい難いこと、本件を真摯に反省していること、被告人上地の親族が今後の指導監督を誓約していること、前科前歴がないこと、長期の勾留により実質的に相応の制裁を受けていること、等を考え、主文のとおりの刑に処し、その執行を猶予し、社会内での更生と被害者側への慰謝・賠償を尽すことを期することとする。
(5) 被告人佐藤は、被告人高橋らの誘いに安易に応じて、本件犯行に加わっており、本件第1現場では本件被害者に執拗に暴行を加えている上に、本件第2現場の犯行現場を率先して、提供していること、本件犯行後罪証隠滅工作を行っていること等からすると、重い刑事責任を問われるべきであるが、偶発的に本件犯行に加わったという側面があること、本件犯行を真摯に反省していること、被告人佐藤の親族は、本件被害者の遺族に慰謝の措置を講じ、被告人佐藤の今後の指導監督を誓約していること、前科前歴がないこと、長期の勾留により実質的に相応の制裁を受けていること、等を考え、主文のとおりの刑に処し、その執行を楢予し、社会内での更生と被害者側への慰謝を尽すことを期することとする。