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長野地方裁判所松本支部 平成16年(ワ)353号 判決 2006年1月19日

原告 株式会社X

被告 国 ほか1名

代理人 鈴木一博 滝澤宏巳 片桐克典 ほか6名

主文

1  原告と被告Y2との間において、原告が別紙目録<略>記載の供託金のうち、544万2044円について還付請求権があることを確認する。

2  原告の被告Y2に対するその余の請求及び原告の被告国に対する請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は、これを4分し、その3を原告の負担とし、その余を被告Y2の負担とする。

事実

第1当事者の求めた裁判

1  請求の趣旨

(1)  原告と被告らとの間において、原告が別紙目録<略>記載の供託金のうち、769万2082円について還付請求権があることを確認する。

(2)  訴訟費用は、被告らの負担とする。

2  請求の趣旨に対する答弁

(1)  原告の被告らに対する請求をいずれも棄却する。

(2)  訴訟費用は、原告の負担とする。

第2当事者の主張

1  請求原因

(1)  訴外有限会社Aは、訴外B株式会社との間で運送請負契約を締結し、平成16年3月21日から同年4月20日まで間の運送業務を履行したことにより、Bに対し、769万2082円の運送代金債権(以下「本件運送代金債権」という。)を有していた。

(2)  原告は、訴外CがAに対し貸し付けていた貸付債権842万0498円をCから売買により債権譲渡を受けた。また、原告は、Aに520万円の手形貸付債権を有していた。Aは、平成16年5月6日、原告に対し、原告が有する前記債権合計1362万0498円に対する弁済に代えて本件運送代金債権を代物弁済として譲渡した。

(3)  Bは、本件運送代金債権を含む債務について、Aから確定日付による債権譲渡通知書は、松本税務署等から滞納処分による差押通知書が送達されたことから、平成16年5月21日、長野地方法務局松本支局に対し、債権者不確知を理由に、本件運送代金債権を含む1074万3807円を弁済のために供託した。被告Y2及び同国は、供託金の還付請求権の帰属を争っている。

(4)  よって、原告は、被告らとの間において供託金のうち769万2082円について原告に還付請求権があることの確認を求める。

2  請求原因に対する認否

(被告Y2)

請求原因は、いずれも不知

(被告国)

請求原因(1)及び(3)は認めるが、同(2)は不知

3  抗弁

(被告Y2)

被告Y2は、Aに対し、約1065万円の貸付債権を有していたが、Aは、平成16年4月30日、被告Y2に対し、前記貸付債権に対する担保として本件運送代金債権のうち749万3802円の譲渡をし、同年5月7日、Bに対し、債権譲渡の通知をし、同通知は、同月8日の12時から18時の間に到達した。

(被告国)

(1) AとBは、本件運送代金債権について譲渡禁止の特約をした。

(2) 原告は、請求原因(2)の当時、抗弁(1)の事実を知っていた。仮に知らなかったとしても知らないことに重大な過失がある。

4  抗弁に対する認否

(被告Y2の抗弁に対し)

認否なし

(被告国の抗弁に対し)

争う。

5  再抗弁(被告Y2に対する抗弁に対し)

原告は、Aから平成16年5月6日、本件運送代金債権の譲渡を受け、同日、Aは、Bに対し、債権譲渡の通知をし、同通知は、同月8日の12時から18時の間にBに到達した。

6  再抗弁に対する認否

認める。

理由

1  請求原因について

(1)  <証拠略>によれば、請求原因(1)の事実は認められる。

(2)  <証拠略>によれば、請求原因(2)の事実は認められる。

(3)  <証拠略>によれば、請求原因(3)の事実は認められる。

2  抗弁について

(1)  被告Y2の抗弁について

<証拠略>によれば、被告Y2の抗弁事実は認められる。

(2)  被告国の抗弁について

ア  抗弁(1)の事実は、<証拠略>により認められる。

イ  抗弁(2)について

(ア) <証拠略>によれば、次の事実が認められる。

a 商品運送契約は、一般的に債権譲渡禁止特約が定められる場合が多い。

b 特に、継続的な運送契約及び多数の取引先を有する大手の運送事業者の運送契約においては、決済等事務処理の円滑性等の要請から譲渡禁止特約を付すことに合理性がある。

c Bの締結する運送業務委託契約は、すべて譲渡禁止特約が付されている。

d 原告は、平成11年6月28日に資本金5000万円、松本市を本店所在地として設立された金融業を目的とする株式会社であり、長野県知事から金融業の登録を受けており、代表者であるDは、設立時から原告の代表取締役に就任し、金融業を営んでいる者である。

e AとBとの運送業務委託契約書は、全部で31箇条である。

(イ) 上記認定事実によれば、継続的でかつ大手運送業者の締結する運送契約においては、債権譲渡禁止特約が定められる場合が一般的であり、運送契約に利害関係を有する者には周知されたものと認められ、また、金融業者は、日常業務において手形貸付を行う際には、リスク管理を念頭に手形貸付金の回収のため債務者の経営状況を調査するだけではなく、債権回収の一手段として債権の譲渡を受ける場合には、当該債権の内容や特約の有無についても十分調査することは金融業者としては当然であり、これは事業規模の大小により異なるものではなく、むしろ零細な金融業者ほど回収が困難な債務者を対象とすることから十分な調査が求められるものと認められる。そうすると、原告は、AとBとの運送業務委託契約において債権譲渡禁止特約の存在を知っていたか、仮に知らなかったとすれば、それは重大な過失により知らなかったものといえる。

ウ  以上によれば、被告国の抗弁事実は認められる。

3  再抗弁について

再抗弁事実については当事者間に争いはない。

そして、原告の有する確定日付ある債権譲渡通知と被告Y2の有する確定日付ある債権譲渡通知は、第三債務者であるBに対する到達の先後関係が不明であるので右各通知は同時に到達したものとして取り扱うのが相当である。そして、原告の譲受債権と被告Y2の譲受債権の合計額(769万2082円+749万3802円=1518万5884円)が供託金額(1074万3807円)を超過するので、原告と被告Y2は、公平の原則に照らし、各譲受債権額に応じて供託金額を案分した額の供託金還付請求権を分割取得すると解すべきである。そうすると、原告の被告Y2に対する関係では、544万2044円の還付請求権を有することとなる。

4  結論

以上によれば、原告の被告Y2に対する請求は、544万2044円の還付請求権があることの確認を求める限度で理由があり、その余の請求は理由がないので棄却し、原告の被告国に対する請求は理由がないので棄却することとする。

(裁判官 田中治)

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