長野地方裁判所松本支部 平成24年(わ)6号 判決 2013年3月04日
主文
被告人を懲役二〇年に処する。
未決勾留日数中二二〇日をその刑に算入する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、同居していた当時の義父母であったAやBからの叱責に不満やストレスを募らせ、不審事件を起こせば、同人らと別居し、当時の妻であるC(現姓<省略>)と二人暮らしができるなどと考えて、
第一 平成二二年一二月二三日午後七時一五分頃、長野県a市<以下省略>A方車庫内において、同所に駐車中のC所有の普通自動車の左後輪のタイヤに持っていたライターで点火して火を放ち、同タイヤ及び同車左後部を焼損させ、そのまま放置すれば、同車庫等に延焼するおそれのある危険な状態を発生させ、もって公共の危険を生じさせ
第二 D及びEほか三名が現に住居に使用し、かつ、同人らが現にいる長野県a市<以下省略>所在の木造二階建店舗等併用居宅(床面積合計約二七一・五八平方メートル)に放火してこれを焼損しようと考えたが、同居宅に放火すれば、同人らの生命身体にも危害を及ぼすおそれのあることが十分に予想されたのであるから、同居宅への放火を厳に慎むべき注意義務があるのにこれに違反して、平成二三年一月八日午前零時頃から同日午前零時一五分頃までの間、同居宅西側勝手口付近において、同所に設置されたオイルタンクのバルブを開いて同タンク内の灯油を地面に流出させた上、持っていたティッシュペーパーにライターで点火し、これを流出した灯油上に投げ捨てて火を放ち、その火を同居宅の外壁等に燃え移らせ、よって、同居宅を全焼させて焼損するとともに、前記放火行為をした重大な過失により、その頃、同居宅において、D及びEを一酸化炭素中毒によりいずれも死亡させ
たものである。
(証拠)
括弧内の甲、乙の番号は、証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。
判示事実全部について
・被告人作成の上申書(乙二)
判示第一の事実について
・被告人の司法警察員に対する供述調書(乙一三)
・証人Cの当公判廷における供述
・検察官作成の統合捜査報告書(甲八六)
・司法警察員作成の実況見分調書抄本(甲九〇)
判示第二の事実について
・被告人の司法警察員に対する供述調書(乙七)
・録音・録画状況報告書(DVD添付のもの)謄本(乙一〇)
・検察官作成の各統合捜査報告書(甲八一ないし八三、八七)
・司法警察員作成の捜査報告書(甲七九)
・司法警察員作成の実況見分調書抄本(甲九一)
(争点に対する判断)
一 本件の主たる争点は、判示第一の事実については、犯人性であり、判示第二の事実については、犯人性及び責任能力である。
二(1) まず、前記犯人性の判断に先立って、平成二三年一〇月二〇日に作成された上申書(乙二)、被告人の司法警察員に対する各供述調書(乙七、一三)及び同月二一日の取調べに関する録音・録画状況等報告書(DVD添付のもの)(乙一〇)における自白の任意性について判断する。
弁護人は、被告人に対する平成二三年一〇月二〇日の任意同行及び取調べが、実質的には逮捕であり、被告人は睡眠不足の中食事も取らずに取調べを受けており、黙秘権や弁護人選任権の告知もされていない違法なものであった、被告人は同日に判示第一記載の自動車(以下「イスト」という。)の放火で逮捕されて引き続いて勾留されたが、これは、居宅の放火について取り調べることを目的に逮捕・勾留した違法な別件逮捕・勾留であり、上記各取調べにおいてなされた被告人の自白は任意性を欠くなどと主張する。
(2) この点、平成二三年一〇月二〇日の被告人の取調べ(以下「本件取調べ」という。)を担当した司法警察員F(以下「F警察官」という。)、被告人の各供述及び録音・録画状況等報告書(DVD添付のもの)(乙一〇)によれば、被告人が、平成二三年一〇月二〇日午前七時頃に自宅に赴いたF警察官らからb警察署(以下「b署」という。)への任意同行を求められたこと、b署においては被告人の同意の下、まずポリグラフ検査が実施されたこと、被告人は、同日の午前中は本件各犯行やB(以下「B」という。)所有のセドリックに対する二件のパンク事件を始めとした一連の事件への関与を否認していたものの、午後になってF警察官がポリグラフ検査で反応が出ている旨や被告人の着衣に付着した灯油等が一回の洗濯では落ちないかもしれない旨を告げた上で、「私には何が本当のことで何がうそなのか分かっている。」旨述べて追及したところ、しばらく沈黙した後、被告人が本件犯行を始めとする一連の事件への関与を認めて上申書等を作成するに至ったこと、本件取調べ中、F警察官らは、取調室から自由に退去したり、外部に連絡を取ったりすることができる旨を被告人に告げていないものの、黙秘権の告知や朝食・昼食をとる意思があるのかについての確認もしていたこと、本件取調べ中、F警察官らから「お前がやったんだろう」、「Fさんは忙しいんだ。早く言わんかい。」などの言動がされていたこと、平成二三年一〇月二一日の検察官による取調べにおいては、検察官は警察と検察は別組織であり、異なることを言ってもよい旨を被告人に告知し、さらに、前日の警察の取調べの際に違法・不法なことがなかったかについて被告人に尋ねたところ被告人がこれを否定したことの各事実が認められる。
これらの事実からすれば、確かに平成二三年一〇月二〇日に被告人に対してF警察官らから前記のような言動による追及的な取調べがされており、それにより被告人が精神的に動揺した可能性があるものの、それ以上に被告人が著しい精神的・肉体的苦痛を受けていたり、心理的に不当な強制を受けていたりしたことなどを疑わせるものはないのであるから、本件取調べ中にされた自白は任意性を欠くものではないし、それに引き続く同月二一日の検察官の取調べ中にされた自白についてもやはり任意性を欠くものではない。
(3) なお、弁護人は、被告人が本件取調べ中、朝食や昼食を勧められることがなく休憩もなかった、黙秘権や弁護人選任権の告知もなかったなどと主張する。
しかし、被告人に朝食・昼食の希望を尋ねたとするF警察官の供述は、被告人が普段朝食をとることもとらないこともある旨の被告人やその母親の供述、捜査官に被告人の昼食代を渡したことがあったかもしれないとする被告人の母親の供述からして信用することができる。
また、休憩についても、F警察官から被告人に対し昼食をとるかの確認があったことについては被告人も認めており、そうすると、F警察官自身が昼食をとるための休憩をとったと考えるのが自然であり、かつ、F警察官以外の警察官が被告人の取調べをしたことはうかがわれないことなどを考慮すると、これに関するF警察官の供述は信用できる。
黙秘権の告知があったことについても、被告人は、説明を受けた記憶がない旨を供述するが、これに関するF警察官の供述内容は、自己の意思に反して供述する必要はない旨を説明したものの、被告人がはあなどと述べるにとどまったため、更に同じ説明をし、被告人がわかりましたと述べたのを確認したというもので、具体的であり、警察官の職務上、取調べにおいて、被疑者に黙秘権の告知をするのが通常であり、今回特に告げない理由も見当たらないことも考慮すると、同告知をした旨のF警察官の供述は信用することができる。また、任意同行段階の取調べにおいて、警察官に弁護人選任権の告知義務がないから、弁護人選任権を告げなかったことをもって本件取調べが違法であるということはできない。
よって、弁護人の上記主張はいずれも採用できない。
(4) また、弁護人は、本件の任意同行が実質的な逮捕である、イストの放火についての逮捕・勾留は居宅の放火について取り調べることを目的とした違法な別件逮捕・勾留である旨も主張する。
確かに捜査官らが午前七時という比較的早い時間に被告人の自宅に赴いて任意同行を求めているものの、任意同行後の取調べについては、ポリグラフ検査後、逮捕される午後九時二九分までの間、前記認定のとおり、昼頃や夕食時に適宜休憩がとられていること、同年一月中に何度も事情聴取を受けていた被告人が、退去あるいは外部者との連絡を求めたこともなく、取調べに応じていたことに照らすと、取調室の構造やトイレへの付添いの状況を考慮しても、任意同行及びその後の取調べが、実質的に逮捕といえる状態にあったとはいえず、弁護人の主張は採用することができない。
また、イストの放火で逮捕・勾留中の被告人の供述経過(甲八八)によれば、警察官及び検察官は、イストの放火と同一の動機に基づく一連の犯行として、必要な範囲で居宅の放火について取り調べたにすぎないと認められるから、これをもって違法な別件逮捕・勾留に当たるとはいえず、やはり弁護人の主張は採用できない。
(5) 最後に、弁護人は、F警察官の取調中の発言が不当な誤導である、被告人が取調べの前日寝ておらず、寝不足の状態にあって体調が優れなかったとも主張する。
しかるに、当時の捜査の進捗状況に照らすと、F警察官らの発言について、多少強引であったり、追及的であったりすることは認められるものの、それをもって不当な誤導であるとまではいえず、このことから本件取調べが違法であるとまではいえない。また、被告人の体調については、被告人が取調べ中に寝不足で体調が優れない旨の申告をしたことはうかがわれず、前記のとおり、適宜休憩がとられていたことも考慮すると、仮に被告人が寝不足の状態にあったとしても、このことをもって被告人の自白の任意性を疑わせる事情であるとは認められない。
三 次に、前記自白調書等における被告人の自白の信用性について判断する。
(1) まず、被告人は、前記自白調書等において、イストの放火について、平成二二年一二月二三日午後七時一五分頃、車庫に行き、イストに載っていた荷物を玄関まで運んだ後、車庫に戻り、イストの左後輪タイヤの内側部分にライターで火をつけた旨を供述する。
C(以下「C」という。)等の供述によれば、被告人は、当日午後七時一五分ころ、車庫に行き、イストに載っていた荷物を玄関まで運び、その後、午後七時三〇分ころ、車庫から破裂音がしたことが認められるところ、上記被告人が供述するとおりの放火方法による再現実験(甲九〇)で、着火行為から約一五分後にタイヤが破裂しており、被告人の供述する放火方法は実際の時間的経過と整合する。また、タイヤの内側部分に着火するという態様自体、簡単に想像で思いつくものではない。
(2) また、被告人は、自白調書等において、居宅の放火について、平成二三年一月七日の夜、居間の勝手口から出て、片足だけサンダルを履き、大股に一歩踏み出した状態で、灯油タンクのコックを三分の二程度開いて灯油を流出させて火をつけた旨を供述する。
被告人が供述する上記着火の態様は、一見すると不自然なもので、想像の産物とは思えないものである。そして、勝手口や灯油タンクの位置、距離等からして弁護人が主張するように不可能なものではない(なお、コックの開閉度自体は、普段の使用方法が判然としない証拠関係では、被告人の想像によっても思いつくものといえるし、サンダルの焼損状況は上記着火態様と矛盾しないといい得るに過ぎない。)。
(3) 自白に至った経緯について
被告人は、平成二三年一月中に何度も警察の事情聴取を受け、二月に静岡県c市の実家に戻ってからも、三回程被告人自らF警察官に連絡している。このような被告人が、平成二三年一〇月二〇日の朝から取調べ(以下「本件取調べ」という。)を受けて、同日夕方までに自白しているところ、被告人の述べる真実と異なる自白をした理由は、とにかく取調室から出たかったなどの曖昧で不自然なものにとどまること、被告人の供述を含む証拠を検討しても、その取調べに問題があることをうかがわせる事情等も存在しないこと、そして、被告人が夕方までに自白していることも併せ考えると、F警察官等の言動で被告人が多少なりとも精神的に動揺していたとしても、本件取調べにおいて被告人が虚偽の自白に追い込まれるほどの著しい精神的・肉体的苦痛を受けていたと疑わせる事情はなく、被告人が放火という死刑や無期懲役もあり得ると考えていた重大な犯罪について敢えて虚偽の自白をするまでの積極的理由は特に見当たらないといわざるを得ない。
(4) 前記(1)ないし(3)の検討を総合すれば、被告人の自白は信用できる。
また、被告人は自分が犯人ではないと思わせるために、平成二三年一月一九日、自らの足を刃物で切り、警察に虚偽の被害申告をしているが、自己が真実犯人ではないのなら、敢えてそのような行動にまで出て第三者が犯人であると印象付けようとするのは不自然である。また、C及び被告人の当公判廷における供述によれば、被告人は、居宅の火災の出火場所や出火原因が判明する前である同月八日に、自己の衣服に灯油等が付着していることを気にしていたものと認められるが、これは居宅の火災が放火によるもので、かつその原因が灯油にあることを知っていなければ通常取り得ない言動である。さらにいえば、イストの放火事件では、前述したとおり、被告人が車庫に行ってから約一五分でイストのタイヤが破裂しており、被告人以外の者が犯人である可能性は時間的に乏しいといえること、それまで、ダブルベッドの出口側にC、奥側に被告人という形で就寝していた被告人が、居宅の火災の夜に初めてCにベッドの位置を交代するように言って、位置を交代して就寝していること、被告人の同居期間以外に不審事件が何ら発生していないこと、そこに被告人がB(以下「B」という。)のセドリックを二回にわたってパンクさせたことを自認していることも考え併せると、被告人がイストや居宅の放火にも関与していたことが強くうかがわれる。
よって、以上の検討からすれば、被告人が判示第一及び第二の事実の犯人であると優に認められる。
四 上記検討したもの以外に、弁護人は、被告人が犯人であれば、灯油に着火した後自室に戻ることはあり得ないはずである、Cが被告人が部屋を抜け出したことに気付かないのは不自然であるとも主張する。
しかし、犯人であるとの疑いをそらすためには、灯油に着火後、被告人が自室に戻ることが必要であることに加え、被告人自身がどのくらいの早さで火が回るか明確に認識していなかった可能性も少なくないことを考慮すると、自らに降りかかる危険性を十分考慮せず安易にかかる行動を取ったことが不自然・不合理とはいえない。そして、Cが気付かなかった点についても、①被告人が事前にCと就寝位置を交換して、Cをまたがずにベッドを抜け出すことが可能であったと認められることや②一度寝るとベッド内で被告人が動いても目を覚まさないという普段のCの睡眠状態(Bが部屋のドアを叩いて火事であることを知らせたことをCは記憶していないこともこれを裏付ける。)からすると、被告人の犯行当時、Cは既に深い睡眠状態になっていたと推察されることを考慮すると、やはりそれ自体が不自然・不合理ということはできない。
よって、弁護人の上記主張は採用できない。
五 居宅の放火当時の被告人の責任能力について
まず、鑑定人G医師は、居宅の放火当時の被告人の精神障害の有無、服薬による精神状態への影響等について、①被告人は、居宅の放火当時、有意な精神障害に罹患しておらず、影を主題とした精神病症状の主張は詐病である、②当時服用していた向精神薬(睡眠薬を含む。)の影響は大きくなく、被告人の精神状態に有意な影響を及ぼしていなかったと当公判廷において報告したところ、その鑑定の前提事実等には不自然、不合理な点は認められず、証拠から認められる居宅の火災前後の被告人の言動とも整合するものであるから、この報告は十分に信用できる。よって、被告人の精神状態には問題はなく、完全責任能力があったと優に認められる。
弁護人は、向精神薬の影響が大きかったと主張するが、鑑定人の説明する薬の安全性、慢性的使用によって生ずる薬に対する耐性、さらに、薬により意識障害が生じるとしてもそれは日常的に繰り返している行動の場合に限られ、放火のような非日常の行動を薬の影響による意識障害の状態で行うことは考えられないことなどに照らすと、向精神薬の影響は極めて限定的(鑑定人が、酒を一口飲んだ場合を比較としてあげるほどのもの。)であることも明らかである。弁護人の主張は採り得ない。
(法令の適用)
罰条 判示第一の所為につき、刑法一一〇条一項
判示第二の現住建造物等放火につき、刑法一〇八条
判示第二の各重過失致死につき、いずれも刑法二一一条一項後段
科刑上一罪の処理 判示第二の現住建造物等放火と各重過失致死は、一個の行為が三個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条により一罪として最も重い現住建造物等放火罪の刑で処断する
刑種の選択 判示第二の罪について有期懲役刑を選択
併合罪 刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により重い判示第二の罪の刑に法定の加重をする
未決勾留日数の算入 刑法二一条
訴訟費用の負担 刑事訴訟法一八一条一項本文
なお、弁護人は、重過失致死罪は、現住建造物等放火罪に吸収され、別罪を構成しない旨を主張する。しかし、重過失致死罪は、人の死という重大な結果を構成要件とするものであって、公共危険犯である現住建造物等放火罪が、放火行為により必ずしも生じるとはいえない人の死という結果まで当然に評価しているとして、重過失致死罪を吸収するものと解するのは相当でない。したがって、本件においては、両罪の成立を認めた上、これらが一個の行為によることから、観念的競合の関係に立つものと解するのが相当である。
(量刑の理由)
被告人に対する刑を決するに当たって重視すべき事情は前記罪となるべき事実記載のとおりであるが、これに若干補足する。
本件の動機は身勝手で極めて自己中心的である。
判示第一の事実であるイストの放火において、被告人は、周囲に段ボール等の可燃物があり、他の車両も駐車されていた車庫内で、イストに放火して一部焼損させており、車庫への延焼のおそれも高く、建造物等以外放火罪の犯行態様として、その危険性は無視できないし、物的損害も軽微ではない。
また、判示第二の事実である現住建造物等放火、重過失致死についても、被告人は、深夜、同居家族五名の就寝中に、約三〇〇リットルの灯油の入った灯油タンクのバルブを開放し、タンク内の大量の灯油を流出させて、木造の居宅に放火したというのであり、現住建造物等放火罪の犯行態様としては、建造物に現在する者の生命、身体に危険を及ぼすおそれの特に高いものであったし、放火の直前に、Cと就寝位置を交換して同居家族らが寝静まるのを待って犯行に及ぶなど計画的であり、居宅の全焼や同居家族を殺害する意図まではなかったことを考慮しても、その犯行は前記動機と相まって極めて悪質かつ危険性の高いものといえる。そして、被告人の犯行の結果、同居家族二名が死亡するという極めて重大な被害が生じたことのほか、数件の住宅が隣接して存在する場所において、強い火勢によって放火された居宅が全焼し、隣家の倉庫にも延焼するなど具体的に高い公共の危険が生じている。隣家の倉庫内の物品が焼損するなどの物的損害のほか、居宅の撤去や前記倉庫の再建築費用等の復旧のために多額の費用が必要となっている。
現住建造物等放火罪、重過失致死罪、建造物等以外放火罪の各罪の中でも、相当に重い部類に属するというべきである。
しかるに、被告人はイスト放火について自己が犯人ではない、居宅放火についても分からないなどと述べて、犯行を否認し続けており、前記各損害に対する被告人からの慰謝の措置は一切講じられていない。この被告人の態度も相まって、遺族の被害感情、処罰感情が厳しいことも指摘できる。
これらを総合すると、被告人には求刑どおり、懲役二〇年の刑を科すのが相当との結論に至った。
よって、主文のとおり判決する。
(公判出席検察官 吉田利広)
(公判出席私選弁護人 安藤雅樹)
(求刑 懲役二〇年)
(裁判長裁判官 二宮信吾 裁判官 熊谷大輔 小口五大)