長野地方裁判所松本支部 平成25年(ワ)238号 判決 2014年12月24日
原告
X
同訴訟代理人弁護士
宮井麻由子
同訴訟復代理人弁護士
唐澤佳秀
被告
Y農業協同組合
同代表者代表理事
A
同訴訟代理人弁護士
竹内永浩
同
小澤進
同
出井博文
同
太田康朗
主文
1 原告が,被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 被告は,原告に対し,135万1378円及び以下の金員を支払え。
(1) 内金27万106円に対する平成24年12月11日から支払済みまで年5分の割合による金員
(2) 内金40万5583円に対する平成25年7月11日から支払済みまで年5分の割合による金員
(3) 内金27万106円に対する平成25年12月11日から支払済みまで年5分の割合による金員
(4) 内金40万5583円に対する平成26年7月11日から支払済みまで年5分の割合による金員
3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,これを25分し,その2を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
5 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1 主文第1項同旨
2 被告は,原告に対し,162万2791円及び以下の金員を支払え。
(1) 内金28万4995円に対する平成24年12月11日から支払済みまで年5分の割合による金員
(2) 内金47万6601円に対する平成25年7月11日から支払済みまで年5分の割合による金員
(3) 内金32万9100円に対する平成25年12月11日から支払済みまで年5分の割合による金員
(4) 内金53万2095円に対する平成26年7月11日から支払済みまで年5分の割合による金員
第2事案の概要
1 事案の要旨
本件は,被告が運営する営農センターにおいて,平成8年以降約17年間にわたり,いわゆる季節労働者として春,夏の育苗業務及び米の集荷業務等に従事していた原告が,平成24年秋以降の労働契約締結を拒否されたことについて,不当な更新拒絶であるなどと主張して,被告に対し,労働契約上の地位の確認並びに未払賃金及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。
2 前提事実(証拠<省略>を掲記した以外の事実は当事者間に争いがない。)
(1)ア 被告は,長野県○○地域の農業協同組合である。被告の支所であるa営農センターは,△△地区,□□地区を管轄し,被告の組合員の委託を受けて育苗業務や米の集荷業務等を行っている。(証拠<省略>)
イ B(以下「B前センター長」という。)は,被告の正職員であり,平成16年から平成19年まではa営農センターに勤務し,平成21年から平成23年までは同センターのセンター長であった者である。(証拠<省略>)
ウ C(以下「Cセンター長」という。)は,営農技術員(農家に対する営農指導を行うもの)の資格を有する被告の正職員であり,平成12年から平成17年までa営農センターに勤務し,平成23年4月から同センターのセンター長を務める者である。(証拠<省略>)
エ D(以下「D」という。)は,営農技術員の資格を有する被告の正職員であり,平成24年3月からa営農センターに勤務している者である。(証拠<省略>)
(2) 原告は,平成8年から平成24年までの間,32回にわたり,おおむね3月下旬から6月中旬までの時期(以下「春期」という。)と,9月下旬から11月下旬までの時期(以下「秋期」という。なお,ある春期の次の秋期,ある秋期の次の春期を以下「次期」という。)に,別紙1<省略>「始期」欄から「終期」欄記載の契約期間で被告と労働契約を締結し,a営農センターの行う後記(4)の育苗業務及び米の集荷業務等に従事していた(以下,各期の原告と被告との労働契約を「本件各労働契約」という。)。(証拠<省略>)
(3) 被告は,平成24年9月4日,同年秋期の就労を申し込んだ原告に対し,今後,原告と労働契約を締結しない旨通告した(以下「本件再契約拒否」という。)。
(4) a営農センターでの業務の概要
a営農センターでは,毎年春期,31棟のビニールハウスがあるb育苗センターにおいて,水稲の種を発芽させ,7万5000枚の苗箱をハウス内に並べ,灌水作業(苗に水をまく作業)等を行うなどして,水稲苗として農家等に販売できるまでにする育苗業務及び各農家への出荷業務を行っている。
また,毎年秋期には,c倉庫,dライスセンター,e倉庫,fライスセンターの4か所で,各農家から米を集荷する業務や,b育苗センターのビニールハウスの片づけ業務等を行っている。
各期の業務は,各期毎に雇用される作業員(以下,各期の業務に従事する目的で当該期間について被告に雇用されている従業員を以下「作業員」といい,被告と作業員との各期の労働契約を以下「各期の労働契約」という。)が,営農技術員の資格を保有する被告の正職員2,3名から指導を受けながら行っている。(証拠<省略>)
3 争点
(1) 本件各労働契約に労働契約法19条2号が適用されるか。
(2) 本件再契約拒否の可否
(3) 未払賃金の額
4 争点についての当事者の主張
(1) 労働契約法19条2号適用の有無
【原告の主張】
ア 本件各労働契約は1個の労働契約が更新されてきたものであること
被告は本件各労働契約は別個の契約であると主張するところ,確かに本件各労働契約は,春期と秋期の交互に作業の時期,場所及び内容が異なる就労形態を取っており,賃金にも多少の変動がみられる。
しかし,雇止め法理は,有期労働契約が反復継続して再締結され,その後,再締結されずに雇用終了に至ったことに着目し,その雇用終了の効果を制限することに力点があり,契約期間や労働条件が同一であったかどうかは問題とされない。もともと,契約の「更新」とは契約の再締結のことであり,契約条件の変更があることによって「更新」に該当しなくなるということはない(借地借家法1条,26条1項参照)。
また,本件各労働契約は,各期の労働契約の間に空白期間があるが,空白期間の存在によって雇止め法理の適用外になるという解釈は,労働契約法18条によって否定されている。すなわち,同条は,通算期間が5年以上に達した有期の労働契約を無期契約に転換するという極めて強い効果を規定するところ,一定の空白期間がある場合でも無期契約への転換という強い効果を認めている(同条2項)。よって,有期労働契約の更新について合理的期待を認めるかどうかという,労働契約法18条よりも効果の弱い同法19条2号の解釈にあたり,空白期間の存在だけを理由にその適用を否定することは現行法の定めについて評価矛盾を来すことになる。
したがって,空白期間を挟んだ場合に雇用継続への期待が発生,存続するかどうかについては,結局個々の事案ごとに判断しなければならないものである。
そして,本件各労働契約は,以下の事情からすれば,それぞれ別個の契約と見るべきではなく,1個の契約が更新されてきたものというべきである。
(ア) 契約内容について
本件各労働契約を,春期ごと,秋期ごとにみると,就労の時期は,気候の状況により僅かに前後する程度でほぼ毎年同じである。就労場所も,春期はb育苗センター,秋期は平成18年を除きc倉庫であり,ほぼ毎年同じである。作業内容は,春期及び秋期ともにa営農センターの稲作業務という同一の事業における作業であり,春期は,育苗を行って各農家に苗箱を配り,秋期は,夏の間に各農家において収穫した米を,倉庫に集荷し,集荷作業後は育苗ハウス等の片づけを行うというものであって,毎年ほぼ同一の作業である。また,賃金の変動は僅かで個々の契約の同一性を変えるものではなく,各春期及び各秋期の労働契約の本質的同一性は明らかである。
春期と秋期についても,上記の就労場所(b育苗センターとc倉庫は自動車で5分から10分程度の距離である。),作業内容に加え,作業員の大半が重なっていること(例えば,平成22年春期の稟議書に雇用予定者として氏名が記載された22人のうち,同年秋期の稟議書に雇用予定者として氏名の記載がないのは6人のみである。)からして,一連の稲作業務としての連続性を持っていた。
なお,各期の労働契約に空白期間があるのは,夏と冬は,a営農センターに稲作事業自体が存在しないことによるのであって,むしろ同事業が存在する間は間断なく作業員らが就労しているという状況にある。
(イ) 作業員の固定性
被告の作業員の多くは,10年以上,20期にわたって被告で勤務しており,中には勤務歴約20年になる者も3割程度おり,各期の作業員のメンバーにはほとんど変化がない。しかも,被告で多数年,多数回にわたり就労していた作業員,あるいは,ある期を最後まで勤めた作業員で,次期の就労を拒絶されたケースはこれまで一度もなかった。
また,被告が作業員を採用するにあたっては,雇用継続中の作業員が次期も就労することを見込んでおり,新規募集もしていなかった。作業員の採用にあたって被告内部で行われる稟議手続においても,個々の作業員から就労意思のあることを告げられる前から,その作業員を雇用予定者に含めて稟議手続を行っており,稟議手続自体が形式的で形骸化したものであった。
以上のことから,作業員の固定性は極めて高いものであったといえる。
(ウ) 「再契約は,保障されない」との契約書の記載について
本件各労働契約の契約書には,平成15年春期以降,「再契約は,保障されない」と記載されているが,「保障されない」とされているにすぎず,不更新条項ではない上,原告はその記載について,被告の職員から説明を受けたことはなく,他の作業員もそのような記載を認識していなかったし(証拠<省略>),ある期を最後まで勤めた作業員で,契約の更新を望んでいるのに被告から拒絶された者はこれまでおらず,上記記載は空文化していた。
(エ) 正職員の言動
被告の正職員であるCセンター長は,平成24年春期,原告に対し,b育苗センター等に隣接して設置されているコイン精米機のある場所に,庇を設置する大工工事を頼んだ際,原告から,春期は多忙であるから秋期でもよいかと問われ,いつでもいいよと答えた。また,平成24年春期において,原告が同年担当していた灌水係を辞退したい旨申し出たところ,Cセンター長は,「じゃあ誰がやるの。」などと,原告が翌年以降も被告で就労することは当然であり,今後も原告に灌水係を担当してもらわなければ不都合があるという趣旨の発言をしていた。さらに,毎年,各期の終わりには,被告正職員は,作業員に対し,「皆さんまた秋までお元気で居てください。」,「皆さん来春はまたよろしくお願いします。」などという言葉をかけていた。
このように,被告正職員は,各期の契約が継続していくことを期待させる発言をしていたのである。
(オ) 各期の作業の終了に当たり退職の手続等がされていないこと
原告ら作業員は,各期の作業終了時に何ら退職の手続をしていないし,私物を全て持ち帰ることなく,各期の間の夏と冬には被告の作業場に私物を置いたままにしていた。
(カ) 以上のことからすると,本件において,毎期の契約間に必然的で強い連続性があることは明らかであり,この連続性は,毎期間に3か月ないし4か月の空白期間があることを補って余りある。そして,作業員,被告正職員が互いにその連続性を当然のことのように認識し,それに基づいた言動をしていることからしても,本件は同一契約を更新してきたものといえる。
イ 契約更新期待に対する合理的理由があること(労働契約法19条2号)
(ア) 原告は,平成8年春期に面接を経て被告に季節作業員として雇い入れられたが,それ以降は何ら採用手続きのないまま,同年秋期以降も毎年の春と秋に被告で就労し,平成10年頃には,毎年春期と秋期に被告で就労することが当然となっていた。原告は,平成14年秋期にいったん他企業に転職しているが,平成15年春期には再び被告に雇用された。
その後,原告は,勤労日数勤務時間も増え,平成16年には被告正職員から指導を受けながら難易度の高い灌水係を任され,稟議なしで一定の物品購入も認められるようになるなど,被告での稲作業務への帰属度を強め,作業のない夏や冬の間もb育苗センターに私物を置いたままにしていた。
加えて,平成24年春期には,再度灌水係を任され,正職員からは灌水作業について何らの指示もなされなかったため,以前の正職員の仕事に倣って早朝からの作業を行い,ゴールデンウィークにも出勤していた。さらに,上記ア(エ)のとおり,被告正職員からは契約継続を期待させる発言があった。
(イ) また,上記ア(イ)のとおり,被告においては作業員の新規募集を行っておらず,それまでの就労実績をもとに,原告が連絡するよりも前に,原告を雇用する旨の内部手続きを経ており,原告が作業開始時期の少し前に一度連絡をすると,すぐに作業開始日が決まった。作業開始日には,事務的な書類のやりとりをするのみで,労働契約の詳しい内容を被告正職員から説明されることもなく,作業終了日に退職手続をとることはなかった。
(ウ) 原告は平成18年秋期には,他の作業員らとのトラブルを理由に例年と違う作業場所で集荷作業を行ったが,それ以降は,トラブルがなく,平成24年春期まで契約更新を11回繰り返した。また,平成21年には,時給が前年より下がることについて正職員から承諾を求められることがあったが,前期の雇用と当期の雇用が関係のあるものであるという認識を与えるものであった。さらに,原告と被告正職員との間で,次期以降の就労を前提として業務内容を話し合うこともあり,原告の出した業務についてのアイディアが正職員に採用されることもあった。
(エ) 以上のような,本件各労働契約の更新の実態に照らせば,原告が次期以降も被告に雇用されるであろうという期待の合理性は,毎期の間に空白期間があることを補うに十分なものである。平成18年秋期のトラブルも,それ自体上記の期待を減じさせる意味を持たないし,それ以降も何事もなく11回の更新が繰り返されたことに照らせば尚更である。
むしろ,業務について正職員に自分のアイディアを採用されたり,平成24年春期には被告の技術員と同様の仕事を担い,原告の労働力の被告における基幹性が以前に増して大きくなったことからすれば,その期待は増大して当然である。
したがって,原告が,平成24年春期終了時に,次期も被告との労働契約が更新されると期待することには合理的理由があり,本件各労働契約には労働契約法19条2号が適用される。
【被告の主張】
ア 本件各労働契約がそれぞれ別個の契約であること
(ア) これまで雇止めの有効性が問題となった事例は,期間満了後直ちに次期の契約が開始されるような事案であるところ,本件各労働契約は,春期と秋期との間に3か月ないし4か月程度の期間が空いており,その都度契約書も作成されている。そして,原告の労務内容は,育苗をする春期と米の集荷をする秋期にのみ行われる季節的労務であって,必然的に有期雇用形態によらざるを得ないものであることにも鑑みれば,本件各労働契約は1個の契約が繰返し更新されているわけではなく,各期毎にその都度新たな労働契約が締結されていたと評価すべきである。
実質的にも,原告は,企業の恒常的業務に従事することが当初から予定されていながら景気変動に伴う雇用量の調節を図る目的で有期雇用形態とされている常用的臨時工とは異なり,稲作業務という一時的作業のために雇用されているのであるから継続雇用に対する期待,利益は生じないというべきである。
(イ) この点,原告は,1個の契約が更新されていることの根拠として,春期と秋期の労務が一連のものであることを挙げるが,春期は主に育苗業務を,秋期は主に米の集荷業務を行うのであるから,業務として全く別のものであり,同一の作業員が行わなければならない性質のものではなく,現に,秋期だけ被告で就労している作業員もいる。
また,被告正職員が各期の終わりに「体を気をつけてください。」などと発言したことも,社会的儀礼の範囲内におけるコミュニケーションの一環と評価すべきものである。そもそも,本件各労働契約の契約書には平成15年以降,「本件契約満了後の再契約は保障されない。」旨明記されており,被告正職員が原告に再雇用を保障するような発言をすることはない。
さらに,原告は,約17年間,通算32回にわたって,毎年同じ時期に,同じ場所で,同じ内容の労務に従事していたことを根拠に,本件各労働契約を一連一体のものであると主張する。しかし,原告は毎期同じ場所で,同じ内容の労務を行っていたわけではないし,平成14年秋期には被告の下で就労していない。
イ 各期の労働契約締結の経緯
原告と被告の労働契約は,毎回,原告から被告に架電等により「今年は育苗センターで使ってもらえますか。」という趣旨の申込みを行い,これに対し,被告は本所(被告の組織機構については証拠<省略>)に稟議を上げ,労働開始日において原告の労働契約締結の意思及び契約内容を確認した上で,契約書を作成して締結していたものである。そして,被告から原告に対し架電等により労働契約の申し込みをしたことはなかった。
このように,原告と被告との間で契約締結時に契約締結意思及び契約内容について確認を行っていたからこそ,双方の合意のもと,賃金の改定がなされているのである。また,各期毎に契約期間及び採用人員が異なっており,この点に関して原告と被告との間で合意をする必要があるのであるから,被告と原告との間で契約締結意思及び契約内容について確認を行っていないということは考えられない。
さらに,平成24年春期については,労務開始時,Cセンター長が,原告を含む作業員全員の前で,再契約は保障されないとの契約内容を確認したが,その際,原告は,他の作業員に対し,「俺,クビになるかも。」などと漏らしていたのであり,原告は自らの再契約が保障されないことを認識し,かつ,これをやむを得ないこととして受忍していたのである。
以上のとおり,本件各労働契約は,その都度,契約の申込みと承諾がなされ,契約締結の意思及び契約内容の確認が行われていたのであり,契約が機械的,自動的に更新されていたとは到底言えない。
ウ 各期の労働契約及び労務の内容
本件各労働契約は,春期・秋期ともに約3か月程度の短期間の有期契約であり,本件各労働契約の契約書には平成15年以降,「本契約満了後の再契約は保障されない。」旨明記されており,当然,原告も上記記載を認識していた。
また,被告における原告の労務内容は,育苗作業や米の集荷作業等のいわゆる季節的労務であり,極めて臨時性の強いものである。米の収穫量・集荷量は年によって上下するし,当然作業量についても変動が生じる以上,その年によって雇用する作業員の人数も変動することになる。このような労務の臨時性・一過性に対応し,その年の収穫量・集荷量に応じて作業員の数を調整できるように,期間の定めを設定する合理性がある。
さらに,a営農センターに勤務する被告の正職員は,営農技術員の資格を有し,営農指導等の業務に従事しており,原告ら作業員の行っていた単純作業とは全く性質を異にする。
エ 他の作業員の契約状況
被告は,平成19年春期において,作業員としてEを雇用したが,同人に協調性がない等の理由から,同人は契約継続を希望していたものの,契約期間中に契約を破棄している。よって,被告における勤務を希望しているにもかかわらず,契約が破棄されたのは原告のみではない。
オ 以上のことからすれば,本件で原告に再度の契約締結がなされるとの合理的期待が発生していたとは認められず,労働契約法19条2号が類推適用されないことは明らかである。
(2) 本件再契約拒否の可否
【被告の主張】
以下の事情からすれば,本件再契約拒否には合理的な理由があり,契約拒絶が有効であることは明らかである。
ア 売上げ減少に伴う人員整理の必要性
被告においては,平成21年以降,売上げが減少し,同時に作業量も減少したことから,平成20年度には434名であった職員の人数についても平成24年度には389名にまで減少している。加えて,原告を含む全作業員に対して一律50円の時給減額の対策を講じてきた。しかし,次第にそれだけで対応することは困難となったことから,被告は,人件費削減,人員整理に踏み切ることになった。
以上のとおり,被告は,売り上げ減少に対する対応策として賃金改定等の措置を講じたものの奏功せず,苦肉の策として,人員整理に踏み切ったものであり,その一環として行った本件再契約拒否には十分な合理的理由がある。
イ 平成24年秋期の原告の申込みの際には既に採用した作業員の数が予定人員数に達していたこと
被告においては,当期の作業員の予定人員を決定した上で,個々の作業員の採用手続を行っているところ,平成24年秋期については,原告からの申し込みがあった時点で,予定人員20人全員の採用が決定していた。そして,予定人員を超えた場合に申し込みを断ることは過去にもあった。したがって,平成24年秋期に被告が原告を採用しなかったことには十分な合理性がある。
ウ 地域密着性を考慮した被告の政策
a営農センターの管轄地域は△△地区と□□地区であり,被告は地域密着性及び地域活性化の観点からg村・h村に居住する者を優先的に雇用するとの政策(以下「本件政策」という。)を取っているところ,同政策は極めて合理的かつ妥当なものである。実際に,平成17年秋期から平成22年春期までの間に,a営農センターにおいて就労した作業員は,原告以外は全員がg村・h村に居住する者である。
以上のように,本件再契約拒否は合理的な政策的判断に基づくものであり,合理性を有するものである。
エ 作業員としての不適格性
(ア) 原告は,被告での作業中,協調性がなく,他の作業員とのチームワークが取れず,原告との共同作業に難色を示す者が数多く存在した。そこで,被告は,平成16年から平成18年秋期までの間に,原告に対し,a営農センターとしては,上記業務不適格性について何度か注意を行った上で,改善が見られなければ今後の労働契約締結を拒絶する旨伝えた。そして,当面の対応として,なるべく他の作業員との接点を持たずに済む単独作業に従事させるなどの対応を施し,平成18年秋期,原告を□□の営農センターにおける米の集荷業務に従事させることにしたが,一向に改善が見られなかった。
(イ) その後,平成19年春期以降については,改めてa営農センターにおいて原告を稲作業務に従事させることにしたが,その後も,原告は,他の作業員を誹謗中傷したり,他の作業員とコミュニケーションを取りつつ共同作業を行うべき場面においても「ウォークマン」で音楽を聞くなどの言動を繰り返し,業務態度は一向に改善されなかった。
(ウ) 以上のとおり,原告が作業員としての適格性を欠いていたことは明らかである。
オ 被告の誠意ある対応
被告は,本件再契約拒否にあたり,原告が生活の糧を失う可能性に配慮し,原告に対し,新たな就労先として有限会社i運輸(以下「i運輸」という。)を紹介し,原告は実際に当該会社に勤務している。収入面でも,被告での収入と比べて著しく低額であるとも言えない(証拠<省略>)。
【原告の主張】
以下のとおり,本件再契約拒否に合理的理由はない。
ア 売上げ減少に伴う人員整理の必要性について
被告は,平成18年度には巨額の経常損失を計上しているが,これに比べれば,ここ数年間は極めて安定した利益を上げている。また,原告が従事していた稲作を含む農産物の販売取扱実績の推移を見ると,取扱高,手数料ともに,平成19年度以前と比べればやや減少しているものの,平成20年以降は回復傾向にあり,利益減少は見られないから,仮に被告の経常利益が微減しているとしても,他の事業の利益減少を要因とするものであって,原告ら作業員の人員削減を図るべき必要性はない。
そして,本件再契約拒否当時のa営農センターの最高責任者であったCセンター長は,証人尋問において,人数の問題と本件再契約拒否は無関係であることを断言している。
そもそも,a営農センターの作業員は60歳以上の者も多く,自発的離職が常に一定数見込まれるため,新規の雇入れを控えるだけでも人員削減は十分に可能であった。また,原告ら作業員は,時給で働いているから,その人件費削減はシフトの調整で十分に可能であり,作業員1人を雇止めにすべき必要性は見出せない。
以上のとおり,被告に人員整理の必要性があったとは認められない。
イ 地域密着性を考慮した被告の政策について
被告は,a営農センターにおいて,本件政策が採られていたと主張するが,同政策により雇用を拒否したのは原告のみであること,書面による令達等もないこと,同政策が決定された時期も明らかでないことからすると,被告が同政策を取っていたとは認められない。
また,原告は,g村居住者ではないが,△△地域内でも就労するなど,△△地域に密着した生活をしており,地域密着性の観点からも本件再契約拒否について合理的理由があるとは言えない。
ウ 作業員としての不適格性について
(ア) 協調性について
被告は,平成24年春期,原告が重い台車等を押す作業中に「ウォークマン」を聞きながら作業をしていたと主張するが,そのような事実はない。Cセンター長は,これに沿う証言をしているが,他の作業員から聞いたという伝聞証拠であり,原告本人が否認していること,原告が平成24年に灌水係をしていたという事実に反していることから,信用できない。仮にそのような事実があったとしても,被告がは,原告に対して,「ウォークマン」を聞きながら仕事をしていたことについて注意をしたこともない。一度注意をすれば改善された可能性が高く,雇止めの理由になるような事情ではない。
また,原告は,平成18年春期に,作業員であるF(以下「F」という。),G(以下「G」という。)ともめ事があり,同年秋期に,B前センター長から注意を受けた。
しかし,原告は,年上の者に対して色々言ったことが悪いというB前センター長の意見に対し,失礼のあったことは謝ると応じており,反抗的な態度を取った事実はない。また,原告はFやGに直接謝罪している。
そして,原告は,平成18年秋期は就業場所を変更されたものの,特に勤務態度に問題がなかったことから,平成19年以降は元の作業場所に戻っている。
以上のことから,原告に協調性が欠けていたとは言えない。
(イ) 原告の適格性
むしろ,原告は,早朝出勤や休日出勤をして作業をするなど,責任感があり,勤勉に作業に従事していたのであり,作業員としての技能に欠けるところはなかった。
エ 被告の対応について
Cセンター長は,平成24年9月4日,本件再契約拒否の際,地元雇用の通達があるから原告を雇えないなどと事実に基づかないことを述べ,Dも,原告の就労希望を予想し得たのに,別の人を雇ってしまった,あと1週間早ければなどと述べていた。i運輸での雇用期間も2,3週間の臨時的なものであり,被告での労務の補てんとしては全く不十分なものであった。
また,被告は,実際には,平成24年春期を過ぎた時点で,本件再契約拒否を決定していたのに,同年9月4日になって初めて原告にその旨を伝えたのである。このような被告の対応は原告の生活状況を顧みないあまりに不誠実なものであったといわざるを得ない。
オ B前センター長の原告に対する感情について
B前センター長は,原告について,自己主張が激しすぎると証言している。また,原告はキャリアによって賃金を変えてほしいと要望しているところ,これは,被告が男女で時給に差を設けていることに比べてはるかに合理的であり,原告だけが得をする賃金制度でもないのに,B前センター長は原告にとって都合のよい要望と感じている。B前センター長が,a営農センターの技術員や同センター長であった当時から,原告を正しく評価していなかったのは明らかである。
カ 以上のとおり,本件再契約拒否の有効性についての被告の主張はいずれも根拠がない。むしろ,原告は作業員としての適格性を有しており,本件再雇用拒否は,被告正職員が何らかの理由で原告に悪感情を持ち,その個人的感情と作業員の適格性に関する客観的評価を混同し,あるいは客観的には原告が不適格でないことに気づきながらも被告の人事権を濫用し,雇止めを行ったものといわざるを得ない。
(3) 未払賃金の額
【原告の主張】
ア 賃金の計算方法について
原告は,本件再契約拒否後,複数の事業所等で就労しているところ,被告は,本件再契約拒否がなければ被告で就業していたであろう期間(以下「雇止期間」という。)に原告が他の職に就いて得た中間利益の額を,原告に支払うべき賃金から控除することができるが,その賃金の額の6割に達するまでの部分については利益控除の対象とすることが禁止されている。そして,その際,控除し得る中間利益は,その発生期間が賃金の支給対象期間と時期的に対応していることを要し,ある期間を対象として支給される賃金から,これと時期的に異なる期間内に得た収入を控除することは許されない(最高裁昭和59年(オ)第84号同62年4月2日第一小法廷判決・裁民150号527頁<あけぼのタクシー〔民事・解雇〕事件>)。
そうすると,原告が雇止期間中に従事していたのは全て時給か日給の仕事であるから,実際に就労しない日には無収入だったのであり,このような日に対応する未払賃金については,控除すべき中間利益が存在しない。したがって,中間利益控除の対象となるのは,未払賃金のうち,原告が他事業にて実際に就労した日に対応する日の分の賃金のみである。
そこで,原告は,以下のとおり,被告における各期の一日あたりの平均賃金と平均就労日数を算出した上,各期毎に,①他の事業所等で就労した日については,原告が得た中間利益で1日あたりの平均賃金の4割を下回る日はなく,平均賃金の6割がそのまま中間利益控除後の賃金額になるため,他事業所で就労した日数に1日あたりの平均賃金の6割に相当する金額を乗じて中間利益控除後の賃金を算出し,②残りの日数については,1日あたりの平均賃金にその日数を乗じる方法でその賃金を算出し,これらの合計額を未払賃金として請求する。
イ 各期の一日あたりの平均賃金
(ア) 春期
平成22年から平成24年の被告における原告の春期分賃金の平均手取額は65万7800円であり,出勤状況が証拠上明らかな平成21年,平成23年及び平成24年の春期の平均就労日数は80.6日であるから(証拠<省略>),春期の1日あたりの平均賃金は8161円である。
(イ) 秋期
平成21年から平成23年の被告における原告の秋期分賃金の平均手取額は41万2240円であり,平成21年から平成23年の秋期の平均就労日数は48.6日間であるから(証拠<省略>)秋期の1日あたりの平均賃金は8482円である。
ウ 平成24年秋期分について
(ア) 原告は,平成24年秋期の期間内に,i運輸,株式会社j(以下「j社」という。)で,それぞれ,15日,21日働き,それぞれ,14万6875円,15万900円の賃金を得ていることから,これらの期間の中間利益控除後の未払賃金は,以下のとおり,18万3211円である。
【計算式】
8482円×0.6×15日+8482円×0.6×21日=7万6338円+10万6873円=18万3211円
(イ) そして,原告が他の事業所で就労していない残りの12日(秋期の平均就業日数48日-36日)は,中間利益がないから,未払賃金10万1784円(8482円×12日)全額を請求する。
(ウ) 以上のとおり,平成24年秋期については,合計28万4995円を請求する。
エ 平成25年春期分について
(ア) 原告は,平成25年春期の期間内に,j社,株式会社k,l株式会社,一般財団法人g村振興公社,m社の下で,それぞれ,24日,7日,6日,10日,7日働き,それぞれ,18万4750円,8万1477円,5万8441円,7万9890円,8万4000円の賃金を得ていることから,これらの期間の中間利益控除後の未払賃金は,以下のとおり,26万4415円である。
【計算式】
8161円×0.6×24日+8161円×0.6×7日+8161円×0.6×6日+8161円×0.6×10日+8161円×0.6×7日=11万7518円+3万4276円+2万9379円+4万8966円+3万4726円=26万4415円
(イ) そして,原告が他の事業所で就労していない残りの26日(春期の平均就業日数80日-54日)は,中間利益がないから,未払賃金21万2186円(8161円×26日)全額を請求する。
(ウ) 以上のとおり,平成25年春期については,合計47万6601円を請求する。
オ 平成25年秋期分について
(ア) 原告は,平成25年秋期の期間内に,n荘(長野県o市所在の山小屋),j社,m社の下で,それぞれ,4日,8日,11日働き,それぞれ,6万円,7万4700円,9万9000円の賃金を得ていることから,これらの期間の中間利益控除後の未払賃金は,以下のとおり,11万7050円である。
【計算式】
8482円×0.6×4日+8482円×0.6×8日+8482円×0.6×11日=2万356円+4万713円+5万5981円=11万7050円
(イ) そして,原告が他の事業所で就労していない残りの25日(秋期の平均就業日数48日-23日)は,中間利益がないから,未払賃金21万2050円(8482円×25日)全額を請求する。
(ウ) 以上のとおり,平成25年秋期については,合計32万9100円を請求する。
カ 平成26年春期分について
(ア) 原告は,平成26年春期の期間内に,j社,m社,p社の下で,それぞれ,13日,8日,16日働き,それぞれ,12万938円,7万2000円,10万8000円の賃金を得ていることから,これらの期間の中間利益控除後の未払賃金は,以下のとおり,18万1172円である。
【計算式】
8161円×0.6×13日+8161円×0.6×8日+8161円×0.6×16日=6万3655+3万9172円+7万8345円=18万1172円
(イ) そして,原告が他の事業所で就労していない残りの43日(春期の平均就業日数80日-37日)は,中間利益がないから,未払賃金35万923円(8161円×43日)全額を請求する。
(ウ) 以上のとおり,平成26年春期については,合計53万2095円を請求する。
【被告の主張】
原告が平成24年秋期以降に従事した仕事及びそれにより得た収入額については不知。その余は否認ないし争う。
また,原告は,契約期間を定めて被告に雇用されていたのであるから,原告が指摘する判例に従えば,単純に,各期の契約期間内に得た中間利益を対象にして,当該契約期間の平均賃金の6割を超える部分について控除を行うべきである。
第3当裁判所の判断
1 認定事実
上記第2の2の前提事実に加え,証拠(証拠<省略>,証人B,証人C,原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。
(1) 各期の契約締結の流れ及び契約内容
被告は,作業員について広く一般に向けての求人活動を行っておらず,被告の元職員や被告の職員から紹介を受けた者などが作業員として従事していたところ,各期の労働契約を締結するにあたっては,まず,被告内部で,前年から雇用されている作業員を引き続き雇用できることを見込んで概ねの人員配置を想定し,天候の影響や,組合員から育苗を委託された量等を考慮して,その作業の準備期間から後始末までの期間を設定し,稼働計画を立案していた。そして,各期の作業開始にあたって,電話等で採用希望の連絡があると,上記の稼働計画と,申込者の都合を考慮して,作業開始日と作業終了日を決定し,その後,作業開始日に労働契約書を作成しており,契約期間開始後に契約書を作成することもあった。賃金については日給又は時給制であり,実際の作業時間を基に賃金が算出されていた。
被告は,雇用予定の作業員と契約書を作成する前に,雇用予定者の採用について本所の稟議にあげていたが,少なくとも平成17年以降,稟議によって雇用予定者の採用が否決されたことはなく,稟議の決済が雇用予定者の雇用開始予定日より後になることもあった。
(2) 作業員の雇用状況等
a営農センターにおける雇用人員の推移は別紙2<省略>のとおりであり,春期については平成19年の30人から平成25年には20人に減少し,秋期については平成19年の24人から平成24年には20人に減少している。もっとも,本件再契約拒否以前に,作業員への採用を希望して被告に拒否された者はおらず,契約継続を希望しながら被告がこれを拒絶したのは,平成19年春期の契約期間中に,勤務態度の不良等を理由に契約を破棄した事例が1件あるのみである。
作業員の中には,10年程度あるいはそれ以上にわたって春期・秋期に雇用されていた作業員が少なくとも13名おり(原告を除く。なお,平成24年春期以降に雇用関係がなくなっている者を含む人数である。),その中には就労年数が35年にわたる者もおり,各期の作業が終了しても,被告との労働契約書に押印するための印鑑や作業道具等の私物をb育苗センターの休憩室に置いたままにしている作業員も複数いた。
(3) 原告の稼働状況等
ア 稼働状況
原告は,平成8年春期から,被告の職員であった知人の紹介により,被告で勤務するようになり,それ以降,夏は山岳救助,冬はスキー場で仕事をし,春期及び秋期は被告で勤務していた。平成14年春,原告は,近隣のリゾートホテルの支配人から勧誘を受けたことから,被告の了承を得て,同年9月からホテルで勤務するようになったが,希望していた業務内容と違っていたため,平成15年3月にホテルを退職し,平成15年春期から再び被告で勤務するようになった。各期の労働契約の期間,賃金の算定方法及び支給された賃金額は別紙1のとおりであり,勤務時間はほぼ毎回7.5時間以内又は8時間以内とされていた。
平成8年春期の採用時には,簡単な面接が行われたが,それ以降は,毎回,電話で日程を調整し,作業開始日に契約書を作成するだけで,面接等は行われていなかった(なお,平成23年秋期,平成24年春期は契約期間開始後に契約書が作成されている。)。また,遅くとも,平成15年春期以降の労働契約書には「本契約満了後の再契約は,保障されない」との記載があるが,各期の採用時において,その文言について被告正職員らが説明を行ったことはなかった。
イ 他の従業員とのトラブルについて
原告は,平成18年春期において,被告の作業員であり,原告とは夏の山岳救助の仕事でも同僚であったFについて,その勤務態度に問題があり,周囲の作業員に悪影響があると感じたことから,同人に対して,「Fさん,申し訳ないけど,Fさん山でも里でも浮いていますよ。考え直した方がいいですよ。」などと注意した。
また,同年春期において,原告がb育苗センターの作業スペースにおいて,育苗箱のキャリア(育苗箱を積んで運ぶ什器)の塗装作業をしていたところ,被告の作業員であるGが,自分の車をそのスペースに駐車しようと,勝手にキャリアを移動させたため,原告がGに注意したことがあった。
B前センター長は,これらについて,原告が他の従業員とトラブルを起こしたものとして問題視し,平成18年秋期,原告に対し,「他の従業員と協調できないなら,雇用の継続はできなくなるので,よく考えてもらいたい。」などと注意して,原告の就業場所を,原告が例年勤務していたc倉庫から,□□の営農センターに変更し,単独作業に従事させた。原告は自分にも非があったことを認め,F及びGに謝罪し,B前センター長は,同年秋期の終わり頃,原告にトラブルがないようにと再度注意をした上で,平成19年春期からは,原告をa営農センターで就業させた。
ウ 本件再契約拒否の経緯
原告は,平成24年9月4日,被告の事務所を訪れ,同年秋期の採用希望を申し入れたところ,Cセンター長は,本所からの通達で地元雇用を優先することになったため,o市に住んでいる原告を雇うことはできないとして,原告の採用を拒否した。また,Dからは,既に新しい作業員の採用が決まっている,あと1週間早く連絡をもらえればよかったなどという説明がなされた。これに対し,原告は,自分には家庭があるからこれで被告を首になっても困るという趣旨の発言をした。そこで,Dは,被告の取引先であるi運輸に連絡を取り,原告の雇入れについての了承を得たので,後日,Cセンター長は,原告に電話し,新たな就労先としてi運輸を紹介し,同社に問い合わせをするように勧めた。原告は,その後,i運輸に連絡を取り,同月18日頃から約2週間程度同社で勤務したが,平成25年以降はi運輸で勤務していない。
一方,被告は,平成24年春期及び同年秋期に各1名ずつ,新規の作業員を雇用していた。
(4) 被告の経営状態
被告は,平成21年以降,売上げが減少しており,職員数は平成20年度の434名から平成24年度までに389名に減少した。b育苗センターでも平成16年以降,事業直接収益は一貫して低下しており,遅くとも平成19年3月頃からは,本所からa営農センターに対し,人員の削減や時給の見直し等による費用圧縮を行うように指示が出されていた。平成23年春期には作業員の基本給が一律減額されたが,平成24年3月には,本所からさらに人件費を15%削減するようにとの指示が出されていた。
2 争点(1)(労働契約法19条2号適用の有無)について
(1) 労働契約法19条2号の適用について
原告は,本件各労働契約は,労働条件が期によって変動しており,その間に一定の空白期間があるものの,一つの労働契約が更新されてきたものと評価できるから,労働契約法19条2号が適用されると主張する。
そこで検討するに,労働契約法19条2号にいう更新期待を合理的なものとする事情として考慮される過去に反復された有期労働契約は,労働条件において同一であることまで必要とされるものではないと解されるが,他方で,同条柱書において,期間満了前の契約の「更新」の申込みと,期間満了後の契約の「締結」の申込みが明確に区別されていることや,期間満了後の契約の締結の申込みについても遅滞なくなされることが求められていることからすると,同条2号においては,前後の契約が時期的に接続したものであることが想定されていることは明らかである。
なお,原告は,前期の終了時に次期についての始期付雇用契約が締結されているとも主張するが,被告内部の稟議は各期の開始時期の前後になされていること,各期の労働契約書は各期の開始時点で作成されていること,原告自身,前期の終了時に次期についての始期付雇用契約を締結したとの認識はなかったこと(平成14年の春には,転職を決意しているが,その際も,被告に直ぐに連絡することはなく,秋期の始まる2か月前になって連絡している。)(証拠<省略>)に照らすと,原告の上記主張は,実態に反する不自然なものといわざるを得ず,採用することができない。
そうすると,原告は,被告との間で,約17年間,32回にわたって,再契約の締結を繰り返しているものの,各期の契約の終期から次期の契約の始期までの間隔は概ね3か月程度であり,空白期間が長期にわたることから,本件に同条が直ちに適用されるものとは言えないというべきである。
(2) 労働契約法19条2号の類推適用について
ア しかしながら,同条2号は,雇用継続について合理的期待を有する労働者について,使用者が期間満了を理由に契約の継続を拒絶することを制限することによって,労働者の保護を図る趣旨の規定であると解される。
そうすると,使用者の事業が通年で行われるものである場合には,契約が更新されないまま契約期間が満了し,満了前の更新の申込みも満了後の遅滞なき契約の締結の申込みもなされなかったというのであれば,そもそも労働者において再度の契約締結に対する期待は生じていなかったものと考えられるから,期間満了日までに更新の申込みをし又は期間満了後遅滞なく契約の締結の申込みをした労働者について契約継続の合理的期待を有するものとして保護の対象とすることには合理性があるといえるが,本件のように事業自体が特定の季節に限定して定期的に行われる場合には,いったん契約期間が満了し,その後一定の期間が経過したとしても,労働者において次期の再契約を期待することに合理性がある場合も考えられるから,前後の契約の間に相当期間が経過しているというだけで直ちに雇用継続への期待がなく法的保護に値しないものということはできない。
以上のことからすると,本件において,各期の期間満了から次期の契約までに一定の空白期間があるということのみから,直ちに同号による保護を否定する理由はないというべきである。
イ そこで,本件各労働契約及び各期の労働契約の実態についてさらに検討すると,各期の労働契約は,約3か月程度の有期契約であり,育苗作業や米の集荷作業等といった業務内容からしても,各期において契約条件についての多少の見直しや賃金の変動が生じ得ることは否定できないが,その作業自体は,毎年ほぼ同時期に同内容の作業が行われているものである。また,31棟のビニールハウスで育苗を行い,その後収穫された米を集荷するという作業内容からすれば,春期の作業と秋期の作業は一連の稲作作業といえるものであり,被告が稲作事業を続ける限り,毎年一定数の作業員を確保する必要があると考えられるところ,実際に,各期における作業員数の推移をみても,春期・秋期ともに毎年20名程度の雇用が維持されており,各期における作業員の雇用機会は安定して確保されているものといえる(平成20年春期には前年春期の30名から24名に作業員数が減っているものの,これは,被告が雇用調整をした結果ではなく,採用希望者数の減少によるものとみられる。)。
加えて,本件再契約拒否以前においては,原告を含め,いったん作業員として被告に採用された者については,本人が希望する限り,ほぼ例外なく雇用が継続されていたこと,各期の採用手続も,特段の選考過程も経ず,電話等で作業日を決め,作業開始当日,場合によっては契約期間開始後に契約書を作成するだけという簡易なものであったこと,各期20数名程度の作業員の中で,10年程度あるいはそれ以上の長期にわたって被告に雇用されている作業員は13名にのぼり,概ね固定された顔ぶれで各期の業務が行われていたことからすると,各期の労働契約においては,長期にわたる雇用継続を期待させるような雇用実態があったといえる。
他方で,被告としても,各期において新規採用のために広く一般を対象とした求人活動を行なわず,作業員の継続雇用を前提に毎年の稼働計画を立案していたのであり,被告が各期の業務を滞りなく継続していくためには,原告のように長期にわたって雇用関係を継続する作業員を一定数確保する必要性があったものと認められる。
そして,本件各労働契約が,以上のような事情の下で,平成8年春期から平成24年春期まで,平成14年秋期を除き,約17年,32回にわたって再契約が反復継続されてきたものであることからすると,本件各労働契約においては,各期の契約期間が満了となっても,特別の事情がない限り,次期における再契約が予定されていたものと認められる。
もっとも,原告は,平成14年秋には転職しており,同時期において雇用継続の期待は失われたとみる余地はあるけれども,平成15年春期から約10年,19回にわたって再契約が繰り返されていることからすれば,少なくとも,平成15年春期以降の本件各労働契約は,従前の契約と連続性をもって再契約が反復継続されてきたものというべきであり,平成14年春期以前の雇用継続の実績も併せ考えれば,原告が平成24年春期に引き続いて同年秋期についても労働契約が締結されるものと期待することには合理的な理由があるというべきである。
ウ 以上のことからすれば,本件各労働契約については,更新の期待を有する労働者による期間満了までの更新の申込み又は期間満了後遅滞なき契約の締結の申込みがなされる場面を想定した労働契約法19条の本来の適用場面ではないとしても,雇用継続の期待を保護すべき利益状況において異なるものではないから,同条2号を類推適用するのが相当であり,被告が原告からの再契約の申込みを拒絶することが,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないときは,原告と被告との間には従前と同一の労働条件で労働契約が成立するものというべきである。
(3)ア これに対し,被告は,①春期と秋期の業務は全く別のものであり,②毎年同じ場所,同じ内容の労務に従事するものではないことから,本件各労働契約を一連一体と見ることはできず,再契約についての合理的期待は生じないと主張する。
しかし,①については,季節によって労務内容が変わるとはいえ,春期と秋期の労務は被告のa営農センターが行う稲作業務の中の一連の作業であるから,これらを全く別の業務とみるのはむしろ不自然であり,実際に,原告だけでなく他の多くの作業員が春期及び秋期の作業に継続して従事していることに照らしても,本件各労働契約は,実質的には,春期及び秋期を通じて,反復継続されてきたものと評価するのが相当である。②についても,同じ稲作業務の中の役割分担の変更にすぎず,各期の労働契約の反復継続性を否定するような事情とは認められない。
したがって,被告の上記主張は採用できない。
イ(ア) また,被告は,①本件各労働契約は,毎回,原告からの契約の申込みを受け,その都度稟議を上げ,原告と被告との間で契約締結の意思を確認し,契約書を作成していたこと,②平成24年春期において,再契約が保障されないことを作業員との間で確認していることから,再契約について合理的期待は生じないと主張する。
(イ) ①については,確かに,本件各労働契約の締結にあたっては,被告が主張するような手続きは取られている。
しかし,上記1(1)のとおり,労働契約書は,電話等で作業日を決めた後,契約開始日である作業初日あるいは契約期間開始後になって作成されていたものであるし,稟議についても,作業開始後に決済がなされることがあるなど,原告を採用することを前提にして形式的な手続きを踏んでいたものと見ざるを得ず,こうした手続きを取っていたことをもって,再契約に対する合理的期待を否定することはできない。
そればかりか,以下の事情からすると,a営農センターにおいては,前年までの実績に基づき,原告を含め,各作業員から採用希望の連絡が来る以前に稟議の手続きを済ませることもあったことが窺われるのであり,被告が稟議手続を取っていたことをもって,雇用継続への期待が生じないということはできない。
a 被告が作成した稟議書(証拠<省略>)には,平成20年春期及び平成22年春期を除き,原告の雇用予定期間欄に原告の実際の契約期間の初日(実際の作業開始日が明らかになっている場合はその開始日)とは異なる日付が記載されている。
b 原告は,本人尋問において,春期については,毎年3月中ごろに採用希望の連絡をしていたと供述しているところ,平成22年春期の稟議書(証拠<省略>)は平成22年2月12日付けで起案され,同月16日に決済されている。
c 原告は,平成24年秋期については,9月4日に採用希望の連絡をしており,同年秋期についてのみ,原告が例年よりも遅れて採用希望の連絡をしたという事情も窺われないところ,平成17年から平成23年までの秋期の稟議書(証拠<省略>)は,いずれも7月又は8月中に起案及び決済がされている。
d 平成22年春期の稟議書(証拠<省略>)の一覧表に記載のある「H」については,その名前の前に×印が記載されているところ,同人の名前は同年以前の一覧表には記載がある一方で,同年秋期以降の一覧表には記載がなくなっていることからすると,同人から連絡が来る前に被告が一覧表に名前を記載したが,その後に,同年からは被告との契約を希望しないことが判明したために,上記のような記載になったことが窺われる。
(ウ) ②については,Cセンター長が,平成24年春期において,作業員をb育苗センターの作業場に集めて,再契約が保障されないことを説明したなどと被告の主張に沿う証言をしているものの,原告はこれを否認しており,他に上記証言を裏付ける客観的証拠もなく,現在も被告の作業員であるFの陳述書(証拠<省略>)には,被告の正職員が作業員に対し,再契約が保障されないと説明するようになったのは,原告が被告を辞めるという話が出始めた頃からであるとの記載があることも考慮すると,少なくとも,本件再契約拒否以前において,上記の説明が行われたとは認められない。
また,仮に,平成24年春期において,上記のような説明がなされていたとしても,この頃には,原告の雇用継続に対する合理的期待は既に発生していたというべきであり,被告から,何ら理由を示すこともなく,一方的に再契約が保障されない旨説明したことのみをもって,上記期待が消滅するものとは認められない。
(エ) 以上のことからすると,上記(ア)の被告の主張は採用できない。
ウ さらに,被告は,平成15年春期以降の本件各労働契約の労働契約書に,不動文字で「本契約満了後の再契約は,保障されない」旨記載されていることから,再契約について合理的期待は生じないと主張する。
しかし,上記記載は,再契約の拒否ないし制限を定めたものではない上,上記記載が加えられるに至った経緯も明らかではなく,上記1(2),2(2)イのとおりの雇用実態からすれば,被告において上記記載に従った運用は全くなされてはいなかったものといわざるを得ないから,上記記載は単なる例文とみるのが相当である。
したがって,上記記載の存在によって再契約に対する原告の期待が生じないということはできず,被告の上記主張は採用できない。
エ その他,被告は縷々主張するが,いずれも上記(2)で判示したところに照らして採用できない。
3 争点(2)(本件再契約拒否の可否)について
(1) 上記2のとおり,本件各労働契約については,労働契約法19条2号が類推適用されるから,本件再契約拒否について,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないものであるか否かについて検討する。
ア 人員整理の必要性及び採用予定人員が既に確保されていたことについて
(ア) 被告は,平成21年以降,売上げの減少による人員整理の必要があったことから,本件再契約拒否には合理的な理由があると主張するところ,確かに,上記1(4)のとおり,被告においては,平成21年以降,売上げは減少し,正職員も減少しており,作業員の労働条件についても見直し等が行なわれていて,その人員の削減も検討されていたことが認められる。
しかし,被告は,上記1(3)ウのとおり,平成24年春期及び同年秋期において,新規の作業員を各1人ずつ雇入れているのであるから,本件再契約拒否が人員整理の一環としてなされたものとは認められない。
(イ) また,被告の主張するとおり,新規の作業員を採用したことにより,当初の採用予定人数が確保されていたとしても,上記2(2)のとおり,原告の再契約に対する期待は十分に尊重されるべきものだったのであり,特に,被告が新規採用のために広く一般を対象とした求人活動を行っていなかったことも考慮すれば,合理的な理由のない限り,新規採用よりも優先して原告の雇用が確保されるべきであるから,単に原告より先に新規に作業員を採用したということをもって,本件再契約拒否に合理的理由があるとは認められない。
したがって,人員整理の必要性や,採用予定人員が既に確保されていたことをもって,本件再契約拒否に合理的理由があるということはできない。
イ 地域密着性を考慮した被告の政策について
被告は,a営農センターでは,△△地区と□□地区を管轄するため,上記各地区の居住者を優先雇用する政策を取っていたことから,上記各地区に居住しない原告について,同政策に基づいて採用を拒否したことには合理的理由があると主張する。
しかし,本件政策自体は不合理なものとは言えないにしても,いつ,どのような理由から本件政策がとられるようになったかは被告の主張によっても明らかでない。また,仮に,被告がいずれかの時期に本件政策を取っていたとしても,被告は,原告が,平成15年に転居し上記各地区の居住者ではなくなったことを知っていたはずであるのに,上記各地区の居住者が優先して雇用されることがある旨を特に説明せず,その後9年もの間,原告を採用し雇用を継続していたのであるから,一方的に本件政策をもって原告の採用を拒否することは,再契約拒否のためにする理由付けとみざるを得ないものであり,到底合理的な理由に基づくものであるとは認められない。
ウ 作業員としての不適格性
(ア) 上記1(3)イのとおり,平成18年春期,原告が他の作業員に対して,その勤務態度について注意をしたことがあったことが認められるが,そのこと自体,直ちに原告に協調性がないことを示す事情とは認められない。また,仮に原告に多少他の作業員への配慮に欠ける点があったとしても,原告は,平成18年秋期にいったん就業場所を変更され,単独作業に従事した後,平成19年春期からは,元の就業場所で従前どおり作業を行っているのであり,平成18年秋期以降は特段他の作業員との間でトラブルはなかったことが窺われる。以上のことからすると,原告に作業員として特段協調性を欠く面があったとは認められない。
(イ) この点,被告は,平成19年以降も,他の作業員から原告の協調性のなさについて苦情が出ていたと主張し,B前センター長もこれに沿う証言をするが,上記証言を裏付ける客観的証拠はないこと,原告はこれを否定しており,現在も被告の作業員であるFの陳述書(証拠<省略>)には,むしろ原告と他の作業員との間に特に問題は生じていなかったことを窺わせる記載があること,被告が同年以降も本件再契約拒否に至るまで原告との間で再契約を重ねていることからすると,上記証言は信用するに足りず,被告の上記主張は採用できない。
(ウ) また,被告は,共同作業が必要な状況においても,原告は「ウォークマン」を聞きながら作業をしていたと主張し,Cセンター長も,重い台車を押す作業中に原告が「ウォークマン」を聞いており,安全面で問題があったなどとこれに沿う証言をするが,上記証言は他の作業員からそのような話を聞いたという伝聞証拠にすぎず,その裏付けもない上,原告もこれを否定していることから,直ちに採用できない。仮に,原告が共同作業中に「ウォークマン」を聞いたことがあったとしても,被告から注意をしたこともないというのであるから,直ちに,再契約拒否をするほどの事情であるとは認められない。
なお,原告は,単独作業を行っている際に,「ウォークマン」を聞きながら作業を行ったことがあること自体は認めているが,そのこと自体,直ちに原告に協調性がないとか,勤務態度に著しく問題があるとみるべき事情ではあるとは認められない。
エ 被告の対応について
被告は,本件再契約拒否にあたって,原告に対し,新たな就労先を紹介しており,本件再契約拒否にあたって,原告に十分な配慮をしていると主張するが,上記アないしウのとおり,原告の採用を拒否すること自体について必要性・合理性が認められない以上,他の就業先を紹介したことをもって,本件再契約拒否に合理的理由があるということはできない。
(2) 以上のとおり,被告が本件再契約拒否の理由として主張する各事情は,いずれも合理的なものとは認められず,本件再契約拒否は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であるとは認められない。
そして,原告は平成24年9月4日,同年秋期の就労を申し込んでいるところ(上記1(3)ウ),上記1(1)のとおりの各期の契約締結の状況に照らせば,原告は遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをしたと言えるし(労働契約法19条柱書),その後も,被告に対する通知書の送付(証拠<省略>),本件訴訟に先立つ調停(o簡易裁判所平成25年(ノ)第2号),そして本件訴訟を通じて,平成25年春期,同年秋期,平成26年春期,同年秋期において遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをしていたと言うことができるから,原告と被告との間には,平成24年秋期以降,従前の労働条件で労働契約が成立しているというべきである。
4 争点(3)(未払賃金の額)について
(1) 上記のとおり,原告と被告との間には,平成24年秋期以降,従前の労働条件で労働契約が成立しているというべきであるところ,春期と秋期とでは労働期間が異なることから,平成24年秋期以降,春期については,同年春期と同一の労働条件で,秋期については,平成23年秋期と同一の労働条件で,それぞれ労働契約が成立すると解するのが相当である。
そこで,以下,春期と秋期に分けて原告が被告に対して有する賃金請求権の額を検討する。
ア 春期について
平成24年春期の労働条件は,契約期間は3月19日から6月25日まで,時給は950円,1日の労働時間は8時間以内(週5日・40時間以内),賃金の支払方法は毎月末締切りの翌月10日払であるが(証拠<省略>),各期の賃金は実際に稼働した時間によって算出されるものであり,各期における賃金の変動も小さくないことから,平成25年春期以降の各春期の賃金は,直近3年間の春期の賃金の平均額である65万7800円と認めるのが相当である(証拠<省略>)。
【計算式】
{72万5053円(平成24年)+61万7440円(平成23年)+63万906円(平成22年)}÷3=65万7800円(小数点以下は四捨五入。以下同じ。)
イ 秋期について
平成23年秋期の労働条件は,契約期間は9月1日から11月30日,時給950円,1日の労働時間8時間以内(週5日・40時間以内),賃金の支払方法は毎月末締切りの翌月10日払であるが(証拠<省略>),上記アと同様,平成24年秋期以降の秋期の賃金は,直近3年間の秋期の賃金の平均額である41万2240円と認めるのが相当である(証拠<省略>)。
【計算式】
{40万1533円(平成23年)+42万1788円(平成22年)+41万3400円(平成21年)}÷3=41万2240円
(2) ところで,原告は,本件再契約拒否後,春期及び秋期に重なる時期において他の事業所で就労し収入を得ていたことから,中間利益の控除額について検討する。
ア 中間利益の控除対象となる賃金の範囲について
原告は,本件再契約拒否後に原告が他の事業所で得た賃金は全て時給ないし日給であったことから,被告が中間利益を控除し得るのは,雇止期間中の賃金支払債務のうち,原告が他事業で現実に稼働した日に対応する賃金に限られると主張する。
しかし,使用者の責めに帰すべき事由によって解雇された労働者が解雇期間中に他の職に就いて利益を得たときは,使用者は労働者に解雇期間中の賃金を支払うに当たり上記利益(中間利益)の額を控除することができるが(民法536条2項),同賃金額のうち労働基準法12条1項所定の平均賃金の6割に達するまでの部分については利益控除が禁止されることから,使用者は,労働者に対して有する解雇期間中の賃金支払債務のうち平均賃金額の6割を超える部分から当該賃金の支給対象期間と時期的に対応する期間内に得た中間利益の額を控除することができると解されるところ(最高裁昭和36年(オ)第190号同37年7月20日第二小法廷判決・民集16巻8号1656頁,最高裁昭和59年(オ)第84号同62年4月2日第一小法廷判決・裁民150号527頁参照),これらの点は,被告が原告に対して有する雇止期間中の賃金支払債務についても同様と解される。
これと異なる原告の上記主張は独自の見解というべきであって,採用できない。
したがって,被告は,原告に対する雇止期間中の賃金支払債務のうち平均賃金額の6割を超える部分から,当該賃金の支給対象期間と時期的に対応する期間内に得た中間利益を控除することができるというべきである。
イ 本件各労働契約における平均賃金額
本件においては,平成24年春期の労働契約の期間満了により,原被告間の労働契約は終了していることから,「平均賃金を算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対して支払われた賃金の総額」を算出することはできない。
そこで,本件各労働契約の業務内容や契約期間が春期と秋期で異なること,また各期における賃金の変動も小さくないことから,春期については,平成22年から平成24年の各春期の賃金の総額をその契約期間の総日数で除し,秋期については,平成21年から平成23年の各秋期の賃金の総額をその期間の総日数で除して各期の平均賃金を計算することとする。これによると,以下のとおり,春期の平均賃金は6828円,秋期の平均賃金は4947円となる。
【計算式】
(ア) 春期
{72万5053円+61万7440円+63万0906円}÷{99日+95日+95日}=6828円
(イ) 秋期
{40万1533円+42万1788円+41万3400円}÷{91日+91日+68日}=4947円
ウ 平成25年及び平成26年春期について
(ア) 平成25年春期の雇止期間中(同年3月19日から同年6月25日まで)及び平成26年春期の雇止期間中(同年3月19日から同年6月25日まで)の賃金のうち平均賃金の額の6割に達するまでの部分の額は以下のとおり,各40万5583円である。
【計算式】
6828円×99日×0.6=40万5583円
(イ) 平成25年春期の雇止期間中における原告の中間利益の額は48万8558円であり(証拠<省略>,弁論の全趣旨),平成26年春期の雇止期間中における原告の中間利益の額は30万938円である(証拠<省略>)。なお,原告の平成26年9月22日付け陳述書(証拠<省略>)には,原告が同年春期の雇止期間中,6月16日以降,g村振興公社で勤務した旨の記載があるが,具体的な勤務日が不明であるため,上記の中間利益の算定にあたり,同公社からの賃金は除外している。
(ウ) したがって,被告は,平成25年及び平成26年春期の各賃金65万7800円のうち,それぞれ平均賃金の6割を超える25万2217円(65万7800円-40万5583円=25万2217円)の限度で中間利益を控除できるところ,上記各年の中間利益の額がこれを上回るのは明らかであるから,中間利益控除後の上記各年の春期の賃金の残額は各40万5583円となる。
エ 平成24年及び平成25年秋期について
(ア) 平成24年秋期の雇止期間中(同年9月1日から同年11月30日まで)及び平成25年秋期の雇止期間中(同年9月1日から同年11月30日まで)の賃金のうち平均賃金の額の6割に達するまでの部分の額は以下のとおり,各27万106円である。
【計算式】
4947円×91日×0.6=27万106円
(イ) 平成24年秋期の雇止期間中における原告の中間利益の額は29万7775円であり(証拠<省略>,弁論の全趣旨),平成25年秋期の雇止期間中における原告の中間利益の額は29万7700円である(証拠<省略>)。
(ウ) したがって,被告は,平成24年秋期及び平成25年秋期の各賃金41万2240円のうち,平均賃金の6割を超える14万2134円(41万2240円-27万106円=14万2134円)の限度で中間利益を控除することができるところ,上記各年の中間利益の額がこれを上回るのは明らかであるから,中間利益控除後の上記各年の秋期の賃金の残額は各27万106円となる。
(3) 小括
以上のことから,原告の被告に対する賃金請求権の残額は,135万1378円であり,各春期の賃金支払債務は遅くとも当該年の7月11日に,各秋期の賃金支払債務は遅くとも当該年の12月11日に遅滞に陥っているものと認められる。
第4結論
以上によれば,原告の請求は主文1項及び2項の限度で理由があるから,これらを認容し,その余は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 今岡健 裁判官 南うらら 裁判官 高島剛)