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長野地方裁判所諏訪支部 平成22年(ワ)101号 判決 2011年9月29日

原告

同訴訟代理人弁護士

松村文夫

木嶋日出夫

齋藤泰史

三井智和

蒲生路子

被告

株式会社Y工業

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

北川和彦

諏訪雅顕

同訴訟復代理人弁護士

藤森誠二

主文

1  原告が,被告に対し,雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

2  被告は,原告に対し,平成21年10月28日から平成22年3月まで毎月28日限り19万8158円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

3  被告は,原告に対し,平成22年4月から同年10月まで毎月28日限り11万8895円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

4  被告は,原告に対し,12万5017円及びこれに対する平成22年11月29日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

5  被告は,原告に対し,平成22年12月から平成23年3月まで毎月28日限り11万8895円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

6  被告は,原告に対し,平成23年4月から本判決確定の日まで毎月28日限り19万8158円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

7  原告のその余の請求を棄却する。

8  訴訟費用は,これを10分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。

9  この判決は,2項ないし6項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

1  主文1項と同旨

2  被告は,原告に対し,平成21年9月19日から本判決確定の日まで毎月20日限り19万8158円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は,被告との間で雇用契約を締結し,準社員として就労していた原告が,被告が平成21年8月20日に行った原告を同年9月19日付けで解雇する旨の意思表示は,整理解雇の要件を満たしておらず無効であると主張して,被告に対し,雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに,同日から本判決確定の日までの賃金及び遅延損害金の支払を求めた事案である。

1  前提となる事実(いずれも当事者間に争いがないか,証拠等により容易に認められる事実。なお,証拠等によって認定した事実については,認定に要した証拠等を掲記する。)

(1)  被告について

被告は,昭和31年12月28日に設立された工作機械類の製造及び販売等を目的とする資本金3000万円の株式会社であり,平成21年1月5日当時の従業員数は211名である。

被告の各組織及び業務内容等については,別紙1記載のとおりである。

(2)  原告について

原告(昭和33年○月○日生まれの女性)は,平成10年2月4日,被告のパート社員として雇用され,同日以降被告で勤務を開始し,平成12年6月,後記準社員就業規則2条に基づき,所属長の推薦を経て承認され,準社員となった。

原告の被告における職歴については,別紙2記載のとおりであり,後記本件解雇当時,MP製造部製造グループ(以下,グループを「G」という。)に配属されていた。

後記本件解雇当時,被告における準社員は,(平成21年10月に定年を迎える者1名を除くと)原告一人だけであった。

(3)  被告の準社員就業規則及び就業規則について(<証拠省略>)

被告は,就業規則の外に,準社員の労働条件及びその就業に関する事項を定める準社員就業規則を制定しているが,それによれば,準社員の服務規律,勤務時間,休憩,欠勤及び入退場,時間外及び休日勤務,休日及び休暇,出向・転勤・配置換え及び出張,休職,定年,退職,解雇等,安全衛生の確保,災害補償,表彰,懲戒等については,いずれも正規社員に適用される就業規則が,退職金を除く給与については,正規社員に適用される給与規定が,それぞれ適用されることとなっている(以下,いずれも被告における,就業規則(<証拠省略>)を単に「就業規則」と,準社員就業規則(<証拠省略>)を単に「準社員就業規則」と,給与規定(<証拠省略>)を単に「給与規定」とそれぞれいう。)。

準社員就業規則13条により準社員にも適用されることとなる就業規則42条は,「社員が,次の各号の一に該当するときは解雇する」と規定して,解雇基準について,下記のとおり定めている。

① 業務能力が著しく劣り又は勤務成績が著しく不良のとき

② 精神若しくは身体の障害又は虚弱老衰,疾病等によって勤務に耐えられないと認めたとき

③ 試用期間中の社員の勤務成績を審査した結果,社員として不適格と認めたとき

④ 懲戒解雇の事由に該当したとき又は刑事事件に関し,有罪判決が確定されたとき

⑤ 事業の縮小その他やむを得ない業務の都合によるとき

⑥ その他前各号に準ずると認められるとき

(4)  原告の解雇について

被告は,平成21年8月20日,原告に対し,同年9月19日をもって原告を普通解雇する旨の意思表示をし,同日原告を解雇した(以下「本件解雇」という。)。

平成21年8月20日に,被告が,原告及び原告の所属する労働組合である全日本金属情報機器労働組合(以下,単に「労働組合」という。)に対し,団体交渉の場で手交した被告の同日付け回答書(<証拠省略>)には,原告の今後の雇用の方向性として,「人事委員会,及びIK職場,機器製造部などとの調整の結果は個別の話合いで既に伝えてある通りで,配転できる職場がありません。従って,9月19日をもって普通解雇とします。」と記載されている。

(5)  原告の賃金について

原告の本件解雇前3か月の平均賃金は,1か月当たり19万8158円である。

(6)  原告が本件解雇後に得た収入(手取り)及びその内訳について

原告は,本件解雇後,a保険株式会社(以下「a保険」という。)で稼働し,下記のとおりの収入(手取り)を得た。(<証拠省略>,弁論の全趣旨)

① 平成22年4月 研修手当等 12万9223円

② 平成22年5月 給与 11万9686円

③ 平成22年6月 給与 12万6588円

施策懸賞金 3030円

臨時給与 7790円

④ 平成22年7月 給与 13万0768円

施策懸賞金 1700円

⑤ 平成22年8月 給与 13万4314円

施策懸賞金 1680円

⑥ 平成22年9月 給与 13万1559円

施策懸賞金 1860円

⑦ 平成22年10月 給与 14万1544円

施策懸賞金 2700円

⑧ 平成22年11月 給与 4万6296円

施策懸賞金 1500円

最低賃金補償 2万5345円

⑨ 平成22年12月 給与 13万2614円

施策懸賞金 1703円

臨時給与 1万7099円

⑩ 平成23年1月 給与 12万1550円

施策懸賞金 500円

⑪ 平成23年2月 給与 14万7619円

施策懸賞金 860円

⑫ 平成23年3月 給与 14万1664円

施策懸賞金 3360円

(7)  本件訴訟提起について

原告は,平成22年9月29日,本件訴訟を提起した。

(当裁判所に顕著)

2  争点

(1)  本件解雇の有効性の有無(争点①)

(2)  原告の中間収入の控除の当否(争点②)

3  争点に関する当事者の主張

(1)  争点①(本件解雇の有効性の有無)について

ア 被告の主張

(ア) 本件解雇の有効性の判断基準について

本件解雇は整理解雇であるところ,①人員削減の必要性,②解雇回避の努力義務の履行,③対象者選定の合理性及び④解雇手続の妥当性の各要素について全体的総合的に捉えて合理性が認められれば,本件解雇は有効であると解すべきである。

本件解雇については,以下のとおり,上記各要素について総合的に判断すれば,本件解雇には合理性及び必要性が認められ,正当であって,本件解雇は有効である。

(イ) 人員削減の必要性について

人員削減の必要性の有無に関しては,解雇することもやむを得ない客観的合理的理由が存すれば足りると解すべきところ,本件においては,第1に,被告の会社全体が経営危機に陥り,その結果,原告の所属していたMP製造部の廃止に至っているか否か,第2に,MP製造部の廃止は,被告の合理的運営上やむを得ない必要性があったか否か,第3に,更にその上で,同部門にいた従業員の退職や配転等の措置を採った後も,なお被告全体において,剰員の発生が避けられず,人員整理(特に整理解雇)をすることに関し,やむを得ない客観的合理的事情が存したか否かといった点について判断すべきものである。

本件については,以下のような事情が存在する。

a 被告は,元々,特定の取引先であるb株式会社への依存的体質を有し,同社の発注状況に売上げが大きく影響を受ける経営を余儀なくされ,また,海外化や合理化への対応も遅れていたところ,平成7年5月の関連企業である株式会社c工業(以下「c工業」という。)の倒産に伴いその債務を引き受け,一時約40億円もの負債を抱えていた。

平成14年5月期にはITバブル崩壊の影響により減収減益となり,極めて厳しい経営を余儀なくされてきた。

そのような状況下で,平成20年8月に発生したリーマン・ショックの影響を受け,第52期(平成19年6月から平成20年5月まで)には約47億1800万円であった売上げが,第53期(平成20年6月から平成21年5月まで)には約28億9700万円と,前年比61.4パーセントまで激減し,約4億7000万円の当期損失を計上して,倒産の危機に陥ることになってしまった。

上記の状況に対し,被告は,平成20年12月ころから,役員・管理職の報酬,賃金カット,賞与のカット,派遣社員の削減,請負の終了,外注加工の内製化,一時帰休,営業所・支社の廃止,組織・職位の見直し,経営者保険の解約,遊休機械設備の処分等といった大規模な経営改善策を実施してきた。

しかし,これらの経営努力を重ねたものの,第53期は大幅な損失計上となることは明白であったため,被告としては,更に厳格な見通しと厳しい諸策を打ち出さざるを得なくなった。

上記売上げの減少の要因の一つが,自動車関連部品の製造を担当するMP製造部の営業状況であった。加えて,同部の損失は,平成17年度が約7600万円,平成18度が約3300万円,平成19年度が約8700万円,平成20年度が約1億5400万円であり,第53期では更に,自動車電装機器用切削部品関連で前年比約66.1パーセントの減収となり,平成12年度からの累積損失も約5億6500万円を計上することとなった。

元々,MP製造部は技術力の向上が不足しており,海外との競争力もなく,売上げも減少の一途であったため,今後の営業回復は見込めないものと判断し,平成21年3月30日に,翌平成22年3月31日をもって完全廃止することとした。

以上のとおり,本件では,被告全体が経営危機に陥り,その結果MP製造部の廃止に至ったこと,同部の廃止には必要性及び合理性が認められることは明らかである。そこで,第54期(平成21年6月から平成22年5月まで)の経営計画を立てる際,同部署の従業員は,被告において剰員となった。

b 被告としては,第53期下期の売上げ状況が約8億6000万円にとどまったこと,また,具体的に各製品の売上げも伸び悩んでいたこと等から,第54期の売上げは,約15億円程度にとどまる可能性があり,そうなると債務超過に陥ると予測された。

そこで,人員削減を視野に入れ,そのシミュレーションをしたところ,年間売上げを20億円と試算して,管理職15パーセント,一般職10パーセントの賃金カットをした上で人員削減を行った場合,仮に30人に辞めてもらったとしても約3億5700万円の,また,50人に辞めてもらったとしても約2億8300万円の損失が生ずるとの結論となった。

被告は,平成21年6,7月にかけて,雇用延長の停止,一般社員の賃金カット,7月の賞与の不支給といった重大な経営改善策を実施した。

しかし,第54期に入った後の被告の売上げと損益の状況は,平成21年5月が約1億2800万円(6500万円の損失),同年6月が約1億4800万円(2300万円の損失),同年7月が約1億2700万円(3300万円の損失)であり,極めて厳しい状況が続いていた。

そこで,いよいよ人員削減の実施に踏み切らざるを得なくなったものである。

具体的には,MP製造部に所属し準社員であった原告については,退職者勧奨の対象とし,正規社員については全部署から希望退職者を募集することとした。

被告としては,上記シミュレーションの結果から,希望退職者を50名程度は募りたいと思っていたが,被告の労働組合(以下「被告内労働組合」という。)との協議の中で,人数を限定的に定めざるを得ず,同協議を重ねてきた結果,最終的には30名にとどめることになった。ただし,この30名は,正規社員に限るものであって,準社員に対する退職勧奨は含まれていなかった。

以上のとおり,原告に対する解雇を決定した平成21年8月5日はもとより,本件解雇の意思表示をした同月20日の時点では,見通しからしても,また,当時の売上げの推移からしても,30名の正規社員の希望退職者とは別に人員整理が必要であったことは優に認められる状況であった。

被告は,派遣社員等の非正規労働者を平成21年8月以降受け入れてきているが,これらは,あくまでも一時的な需要に対応するために雇用・委託したものであり,正規社員を雇用した場合のように恒常的な人件費の増大をもたらすものではないばかりか,むしろ受注が減少ないしなくなった場合には契約を更新しないこと等によって人件費を抑えることが可能である。被告は,経営危機の状態にあったにもかかわらず非正規労働者を雇用する等したのではなく,そのような状態にあったからこそ,期間の定めのある非正規労働者を雇用すること等によって人件費の増大を防ごうとしたのであり,人員軽減措置と矛盾した経営行動とはいえない。

c 以上のとおり,本件解雇の行われた平成21年9月の時点までに被告の経営状態が極めて悪化していたことは明らかであって,被告の立てた第54期の業績予測によると大幅な債務超過に陥ることが予想されており,その経営状態は倒産必至ともいえる段階にまで及んでいた。

原告が本件解雇の必要性を否定する方向に働くと主張している,希望退職者募集の対象人数を31名としなかったこと,本件解雇による経費削減額が年額250万円に満たないこと,本件解雇後に機器製造部(ICハンドラ)の売上げが伸びたこと及び本件解雇後に被告が派遣社員等の非正規労働者を受け入れていることは,いずれも本件解雇の必要性を否定する方向に働くものではない。

d したがって,被告においては,本件解雇当時,人員削減を行う必要性は非常に高かった。

(ウ) 解雇回避の努力義務の履行について

a 被告は,人員整理の必要性があったところ,まず会社全体では,次のとおり,解雇を回避する努力をしてきた。

すなわち,人員整理の必要性の試算をし,第1に,請負の中止,派遣社員の解雇,嘱託社員や臨時工の雇い止め,退職勧奨の実施をし,第2に,廃止するMP製造部に関しては,本来所属従業員全員を解雇してもやむを得ないところ,配転の措置を採り,第3に,正規社員に対しては,労使協定書の下に30名の希望退職者を募ることにした。

b 被告は,原告に対しても,以下のとおり,可及的に解雇を回避するための措置を採ってきた。

(a) 原告に対しても,当初から配転先を探したが,適所がなかったため,平成21年7月14日に退職慰労金や年次有給休暇買上げ等退職に伴う条件は正規社員と同じとする退職の勧奨を行った。

しかし,原告から退職したくないとの意思表示があった。

(b) そこで,被告は,再度配転先を探し,平成21年7月29日,原告に対し,IK製造部かレイクサイドグリーンに配転する旨の提案を行った。

配転先として提案したIK製造部は,当時は三勤三休体制であり,この体制は,A勤務(勤務時間は午前8時20分から午後8時55分まで,週3日勤務)とB勤務(勤務時間は午後8時20分から翌午前8時55分まで,週3日勤務)を1週置きに繰り返すシフト勤務であるが,被告は,原告の生活状況に配慮してA勤務のみの条件を提示したものである。

ところが,原告は,本件解雇の通告前は,定時勤務(午後5時15分まで)しかできないと言い,本件解雇通告後の労働組合との団体交渉の席でも残業は午後8時までしかできないと言って,上記配転先をいずれも拒否した。

(c) こうした中で,被告は,やむなく,MP製造部での同部完全廃止までの間のパートタイマーとしての勤務の提案や正規社員と同一の退職条件の退職の再度の勧奨をしてきた。

しかし,これらについても原告は拒否した。

(d) 原告の配転先に関しては,被告は,原告のために,すべての部署について原告の配転が可能か否かを精査したが,上記提案のものを除き,当該部署で必要とされる能力に対して原告の能力では対応できないなどの理由から,いずれも原告の勤務は不能ないし困難と判断せざるを得なかった。

c 被告は,原告に対する配転命令までは出していないが,被告において配転命令を出さなければならない義務まではなく,むしろ,原告の配転先を検討し,原告に対して提案したことをもって,解雇回避努力義務は十分に履行されたというべきである。

d したがって,被告において解雇回避努力義務の履行がされていることは明らかである。

(エ) 対象者選定の合理性について

a 原告は,平成12年6月に準社員に昇格したものであるところ,被告において,「準社員」とは,入社時点から正規社員として就業していた者ではなく,パートタイマーからの昇格を前提とした者である。

確かに,かかる準社員の地位に関しては,退職金の取扱いを異にし,かつ社内の労働組合(被告内労働組合)に入ることになっていない外は,正規社員における規定(就業規則等)が準用されることにはなっている。

しかしながら,正規社員と準社員とで異なる退職金の制度に関しては,受取金額が異なることはもとより,正規社員に対しては,就業期間中本人名義の預金通帳に積み立てていく確定拠出年金制度を採用し,あくまでも定年まで勤務することが前提となっているのに対し,準社員の場合は,単に,退職一時金として支払われるだけであり,雇用調整や有期勤務が前提となっている。

すなわち,準社員に関しては,終身雇用制の期待の下で雇用されている正規社員とは企業との結び付きの程度が大きく異なると評価せざるを得ない。

また,社内の組合(被告内労働組合)に入っていないということは,組合を通じての権利の実現という点で脆弱な地位にあったといわざるを得ない。

よって,準社員の法的地位は,正規社員とは異なるというべきであり,正規社員と準社員を比較して能力その他が同一の条件である場合は,被解雇者として準社員を優先して選定することは許されるというべきである。

b また,原告の従前の就業状況に関しては,以下のとおり,問題があった。

(a) 同じ職場で長続きしなかった。

(b) 就業中私語が多い,業務改善やQCサークル活動には不熱心である,忙しい時に欠勤を申し込まれる,無断で職場を離れる等の事実があり,細かい作業においてミスもあった。ジャスト・イン・タイム(今欲しい物を今調達する)に沿う作業ができず,納期に間に合わせなければならない仕事を命じても,既に係わっている自分の仕事に固執した。

(c) 人間関係においても,協調性に欠ける,正規社員に対する中傷,社内の調和を乱す言動等があるなどの問題があった。

(d) 特品製造部,FA機械製造Gでの評価はD(特にFA機械製造Gでの上司の評価は実質E),MP製造部での評価もCであった。在職中B以上の評価を得たことがなく,D以下を4回以上受けた者は全体の8パーセントであるが,原告はこの内の一人である。

(e) 単純作業しかできず,専門的な知識や能力もなかった。

(f) 原告の有する品質管理4級の資格に関しては,品質保証Gが未取得者の社員162名全員にこの資格を取らせようとしたところ,40名が不合格となったため(原告はこの内の一人であり,成績は40名中30番であった),教育し直し,2回目の試験で全員合格させたものである。

また,有機溶剤作業主任者に関しても,厚生労働省の資格であり,研修を受けて簡単な終了試験を受ければ必ず合格するものであった。

昇級・昇格も,被告における年功序列体系に基づくものであって,給与体系はポイント制に基づき,6ポイントで2万円昇級し,余程のことがない限り,1年に1ポイント付くため,6年間勤務していれば当然に昇級・昇格していくものなので,決して能力が優れていることの証左とはならない。

(g) 原告は,一時期他職のアルバイトを被告に無断でしていたこともあり,職務専念義務違反の事実もあった。

c 原告に関しては,上記のとおり,準社員であったこと,就業に問題があったことに加えて,廃止されるMP製造部に所属していたこと,本件解雇当時50歳を超える年齢であったこと,被告の提示した配転の申入れを拒否してきたこと,他部署での勤務は不可能ないしは不相当な状況であったこと等から,解雇の対象者として選定されたのであり,同選定に合理性があることは明白であるというべきである。

d したがって,対象者選定の合理性はある。

(オ) 解雇手続の妥当性について

a 被告としては,希望退職を含め解雇等の人員整理を行うに当たり,まず,代表者や役員等が,朝礼その他の機会において,経営危機の実情,経営改善の実施,人員整理の必要性等について十分説明を行ってきた。

これに加え,人事委員会が主体となって,希望退職の募集の打診や配転先の相談,業務指導等も行っている。

b 被告は,原告に対して,平成21年7月14日,同月21日,同月29日,同年8月5日と面談を実施し,配転,パートタイマー,有利な条件下での任意退職の提案もし,その上で本件解雇を実施した。

さらに,原告が所属した労働組合とも10回にわたる団体交渉を重ね,その中で再び配転先を提案するも,就業時間に関して,原告から,午後8時までしか就業できないとの申出があったため,(IK製造部での勤務時間帯は三勤三休体制当時ではA勤務で午後8時55分まで,五勤二休の現在ではB勤務で午前1時20分までである。),決裂に至ったものである。

被告は,従前から被告内組合とも誠実な団体交渉を行ってきており,組合の立場を軽視するような意図や方策を採ったことは一度もない。

c その他,通常解雇に必要な手続に関しては,本件では,いずれも履践している。

d したがって,解雇手続の妥当性はある。

(カ) 以上のとおり,各要素について総合的に判断すれば,本件解雇には合理性及び必要性が認められ,正当であることは明らかであり本件解雇は有効である。

イ 原告の主張

(ア) 本件解雇は,整理解雇であるところ,整理解雇は,労働者に帰責性がないにもかかわらず,使用者の経営上の理由によりされる解雇であるから,①人員削減の必要性,②解雇回避努力,③対象者選定の合理性及び④説明協議義務の4要件の認められない解雇は解雇権の濫用として無効である。

本件解雇は,以下のとおり,上記4要件を欠いているから,解雇権の濫用に当たり,無効である。

(イ) 人員削減の必要性について

a 被告において,正規社員及び準社員に対する解雇は,原告に対する本件解雇だけであったところ,以下のとおり,本件解雇時には,原告ただ一人に対する解雇を行わなければならないような逼迫した経営状態にあったとはいえない。

(a) 被告は,売上げが激減したという53期においてすら,約4億3000万円もの利益剰余金を計上している。また,「54期全社基本方針について」(<証拠省略>)には,「53期は当初より大きな赤字が見込まれていた年度計画になっており」と記載されていることから明らかなように,53期が大幅な赤字になることは,被告において当初から予想されていた。にもかかわらず,被告は,「54期全社基本方針について」において,54期は,売上げは15億円余り(53期比50パーセント),経常損失は7億5000万円以上となる見通しであるとし,「実質的に債務超過会社に陥り,融資を受けられるどころの話ではなく,残される私たちの選択は非常に厳しいものとなっていきます。」「このままでは,いずれ経営的に破綻するのは必至。」などと記載し,従業員に対し強い危機感を抱かせた。

ところが,最終的には,被告の54期の売上げは,約31億7800万円となり,4239万円余の経常利益を出すような経営状況であった。これは,被告の上記見通しが客観性を欠くものであったことを疑わせるに十分な事実である。

(b) 被告が,54期の収支について,上記のとおり厳しい見通しを立てていたとしても,それは,被告が54期の経営方針を立て,希望退職を30名募る等の様々な経営改善策を実施することの必要性の根拠とはなっても,年収250万円に満たない原告を一人だけ解雇する必要性まで裏付けるものではない。

(c) 被告は,本件解雇通告のわずか6日後の平成21年8月26日に1名の新規労働者を受け入れているほか,本件解雇の日である同年9月19日までの間に,被告は計22名の労働者を各職場に新たに投入し,また,本件解雇後も,新規に複数の労働者を継続的に受け入れており,平成22年に入ってからは,常用雇用の正規社員の求人を開始している。

被告が新規の労働者の受入れを開始したのが本件解雇通告からわずから6日後であったことは,本件解雇通告時には,新たに増員が必要なほどの受注が被告にあったことを示すものであり,被告に剰員があったとも考えられない。

(d) 原告の年収は250万円に満たないところ,被告は,平成21年8月26日以降順次採用した46名もの労働者について雇用に伴う経費を支払うことが可能な経営状態でありながら,原告ただ一人の雇用を維持するための経費を支出できないはずがない。

(e) 被告が,53期及び54期において実施した経営改善策において,正規社員及び準社員については,希望退職者の募集を30名にとどめたこと,希望退職者がその30名に達したこと,希望退職者が30名に達した平成21年8月3日以降,被告が原告以外に従業員に対する解雇を全く行っていないことも,本件解雇の必要性が全くなかったことを示すものである。

b 原告が配属されていたMP製造部が,被告の経営改善策の一環として,平成22年3月末をもって閉鎖されたことも,以下のとおり,原告を解雇する合理的な理由にはならず,人員削減の必要性を示すものではない。

(a) MP製造部に所属していた30名の従業員のうち,希望対象退職者の募集に応じて自己の意思で退職した者は7名,定年退職者は1名であり,原告ただ一人を除いて,残りの21名はすべて配置転換によって,被告の従業員としての地位を保全されている。

すなわち,MP製造部が閉鎖されても,被告は,原告を除くただの一人も解雇しておらず,配置転換と希望退職者の募集によって対処できているのである。

(b) 平成21年5月ころ,原告は,被告のD・MP製造部部長から,MP製造部が廃止された後,どの部署に配属されることを希望するかと尋ねられ,まだ配属されたことのない購買部を希望すると返答した。同部長は,これに対して「購買はXさんに合っているかもしれないね。社外の人との対応や電話の対応がよいから。」と言った。

かかる事実は,被告としても,原告をその希望どおりに購買部に配置転換することが可能であり,合理的であったと認識していたことを示すものである。

c 以上のとおり,本件解雇については,人員削減の必要性がない。

(ウ) 解雇回避努力について

a 被告において,平成21年7月14日に希望退職者30名の募集がされた後,本件解雇の通告に至るまでの事実経過は,以下のとおりであり,被告が本件解雇回避の努力を尽くしたとはいえない。

(a) 平成21年7月14日,被告は,当時被告に在籍していた正規社員で満40歳以上の者を対象として希望退職者を30名募集すると公示した。退職の条件は,平成21年7月23日までに希望退職届を提出した者に,退職金とは別に3か月分の基本給に相当する退職慰労金を支給し,年次有給休暇を買い上げるというものであった。

(b) 被告の代表取締役A(以下「被告代表者」という。)及び取締役B(以下「B」という。)は,平成21年7月14日,原告に対する個人面談を行い,原告に対して希望退職に応じてほしいと述べたが,原告はこれを断った。

後日,原告が正規社員の希望退職の募集対象者に確認したところ,面談を行った担当者も面談の際に被告から伝えられた内容も,原告と正規社員の対象者とに違いはなかった。

原告は,平成21年7月21日,Bに対し,希望退職する意思がないことを重ねて伝えた。

(c) 平成21年7月27日,Bは,原告を呼び出し,原告の新たな配属先を探していること,その候補は2か所あり,一つがIK製造部であること(もう1か所がどこであるかは伝えられなかった。),及び同月29日には原告の配属先を決定するので,同日が過ぎてからまた連絡する旨を伝えた。

これに対し,原告は,小学生の娘がいるため,IK製造部で夜勤することは難しい旨を伝えた。

その後,平成21年7月29日を過ぎても,被告からは何の連絡もなかった。

(d) 平成21年8月3日の朝礼で,被告から希望退職者が30名の定員に達した旨の報告があった。募集どおり30名の希望退職者が出たことによって,40歳以上の正規社員及び準社員に対する人員整理は,被告の目標どおり達成できたのである。

(e) ところが,平成21年8月5日,原告は,再びBに呼び出され,退職金の外に基本給3か月分の退職慰労金を支払うとの条件で退職してほしい旨を告げられた。

これに対し,原告が退職する意思はない旨を答えると,Bは,明日まで考えた上で回答をほしい旨述べた外,「生活が苦しいならパートで働けばいい。MP製造部の終了するまで,MPのパートとしてなら雇えます。」「退職しないならあなたは指名解雇です。」等と述べた。

(f) 被告のこうした退職強要に対し,原告は,自らの生活と雇用の権利を守るために労働組合に加盟した。

労働組合は,平成21年8月10日,被告に対し,原告に対する退職強要を行わないこと等を要求し,同月20日に団体交渉を行うことを申し入れた。

本件解雇の通告は,労働組合と被告との第1回の団体交渉の席上,被告によってなされた。

b 被告は,本件解雇の通告がされた平成21年8月20日から間もなくして,IK製造部の「三勤三休」を中止し,「五勤二休」にした。いずれも,定時勤務のほか,2交替の場合は,午前8時20分から午後8時55分までと午後8時20分から午前8時55分までを勤務時間とし,3交替の場合は,午前8時20分から午後5時25分までと,午後4時20分から午前1時25分までと,午後11時50分から午前8時55分までを勤務時間とする勤務体制となっている。

しかし,いずれの体制下においても,夜勤をしない定時勤務(午前8時20分から午後5時25分まで)の社員が,組立,梱包,生産管理,生産技術を問わず,少なからず存在しており,原告がこれらの者と扱いを異にされる理由はない。

c 被告が平成21年8月26日以降,順次採用した46名の非正規労働者の勤務形態も,多くは通常勤務(午前8時20分から午後5時15分まで)であり,その他の勤務形態も昼(午前8時20分から午後8時25分まで)である。

被告は,原告に対し,特定の部署での勤務が可能か否か,検討して返答する機会を与えず,IK製造部における夜勤を前提とした配転しか検討しなかった。

被告のこのような振る舞いは,被告が当初から解雇ありきで,原告の配属先を真摯に検討しなかったことを示すものである。

d MP製造部に配属されていた原告以外の健常者の女性従業員の配転先は,その具体的職務内容からして,すべて原告にも勤務可能なものである。

e 被告が,原告を平成22年3月末までMP製造部で勤務させなかったことも,被告が解雇回避努力を尽くしていないことを示している。

MP製造部には,残務整理業務があったのであるから,被告は,同部が廃止される平成22年3月末までは,原告を同部で残務整理に当たらせて,その雇用を維持することが可能であり,その間に,被告は原告の配転先を十分に検討することが可能であった。

平成21年8月20日から同年12月末までの間に46名もの非正規労働者を受け入れるまでに,被告の稼働状況がよくなったのであるから,被告が原告を平成22年3月末までMP製造部で勤務させていれば,本件解雇の必要性がなかったことを被告自身が理解できたはずである。

f 以上のとおり,被告は,本件解雇については,解雇回避努力を尽くしたとはいえない。

(エ) 対象者選定の合理性について

a 被告は,原告を解雇の対象者として選定した根拠として,①原告が準社員であったこと,②就業に問題があったこと,③廃止されるMP製造部に所属していたこと,④本件解雇当時50歳を超える年齢であったこと,⑤被告の提示した配転の申入れを拒否してきたこと,⑥他部署での勤務は不可能ないしは不相当な状況であったこと等を挙げる。

b しかし,①については,準社員と正規社員とは,両者の法的地位に差異はなく,正規社員と準社員とは同等の立場であると考えるべきであって,準社員と正規社員との地位の差異を強調して解雇の正当性を主張するのは誤りである。

また,②については,原告には,改善の機会を与える猶予もなく放出しなければならないまでの問題行動があったとはいえない。また,被告は,原告にできる仕事があるとしてIK職場を配転先として提案しているのであるから,原告に一定のミスがあったとしても,取り立てて問題とするほどのものではなかったことを自認しているというべきである。

さらに,③については,廃止されるMP製造部に所属していた者は,原告及び希望退職者を除いて全員配置転換されているのであるから,原告が廃止されるMP製造部に所属していたことは解雇の対象者として選定する理由とはならない。

また,④については,本件解雇当時50歳を超える年齢であっても解雇されなかった者がいる以上,根拠とはならない。

さらに⑤については,原告が被告の提示した配転の申入れを拒否したという事情は,本件解雇に至る経過に照らして解雇の対象者として選定する理由とはならない。

また,⑥については,原告は,他部署での勤務をすることが不可能ないしは不相当な状況であったとはいえない。

c したがって,本件解雇について,対象者選定の合理性はない。

(オ) 説明協議義務について

a 被告は,平成21年8月3日に希望退職者30名を達成した後でも,原告を解雇せざるを得ないことを十分に説明していない。同月5日における原告とBとの話合いもあくまでも任意退職の強要であって,解雇の理由や必要性について説明したものではない。

本件解雇通告後の原告及び労働組合と被告との間で行われた団体交渉の内容に照らしても,被告において,本件解雇の説明協議義務を尽くしたといえるものではない。

b したがって,本件解雇について,説明協議義務は尽くされていない。

(カ) 以上のとおり,本件解雇は,①人員削減の必要性,②解雇回避努力,③対象者選定の合理性及び④説明協議義務という4要件をいずれも欠いているから,解雇権の濫用に当たり,無効である。

(2)  争点②(原告の中間収入の控除の当否)について

ア 被告の主張

使用者の責めに帰すべき事由によって解雇された労働者が解雇期間中に他の職に就いて得た利益(中間利益)については,民法536条2項ただし書によって使用者に償還すべきである。償還される金額は,平均賃金の額の6割を超える部分から,当該賃金の支給の対象とされるべき期間と時期的に対応する期間内に被用者が他から得た中間利益の額をまず控除し,中間利益の額が平均賃金の額の4割を超える場合には,更に平均賃金算定の基礎とならない賃金の金額から控除することとなる。

本件において,原告が平成22年4月以降に他から得た中間利益が,同年11月分を除き,被告における平均賃金の4割を超えていることは明白であるから,本件では原告が請求している賃金相当額から,原則としてその4割を控除することが当然に認められるべきである。

イ 原告の主張

争う。

原告は,本件において,退職勧告を拒絶し,解雇について争うために労働組合の力に頼らざるを得なかった。また,平成21年8月10日に労働組合が要求書と団体交渉申入書を被告に提出した結果,同月20日に開催された第1回の団体交渉の席上で本件解雇の予告がされたものであり,これは,労働組合の団結権及び団体行動権の行使に干渉したとも評価できる。

このような事案においては,解雇期間中に原告が他の職に就いて得た賃金について控除すべきではない。

また,原告は,解雇期間中,勤務先会社からほぼ毎月施策懸賞金を支給されているところ,かかる施策懸賞金は,従業員に一律に支給されるものではなく,会社の示した施策をやり遂げた者のみに支給されるものである。

したがって,被告の主張するように中間利益を控除するとしても,施策懸賞金については,原告の特別の努力によって得た賃金であって,単純に被告における労働という債務を免れたことによって得た他社における賃金とはいえず,控除の対象とすべきではない。

第3当裁判所の判断

1  事実認定

上記第2の1「前提となる事実」並びに証拠(<証拠・人証省略>,原告本人,被告代表者本人)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。

(1)  被告の財務状況等について

ア 被告は,昭和31年12月28日に設立された工作機械類の製造及び販売等を目的とする資本金3000万円の株式会社であり,平成21年1月5日当時の従業員数は211名である。

被告の各組織及び業務内容等については,別紙1記載のとおりである。

イ 被告代表者は,平成7年4月,同人の祖父が設立した「d機械製作所」が前身である被告に入社した。その当時,被告の負債は,被告の関連会社であったc工業の負債13億円を含め,40億円近くあった。これに対して,被告の資産は,10億円弱程度であり,被告はグループ全体で債務超過の状態にあった。

c工業は,平成7年5月,解散登記をして清算会社となり,同社の清算人にはC(以下「C」という。)が就任した。Cは,eコンサルタント株式会社の代表取締役であったが,被告の前代表者が,中国への事業展開によって被告の経営不振を打開しようと考えてCにコンサルタント業務を依頼した。当時,Cは,被告の常務取締役でもあった。

ところが,c工業の解散登記は,被告の債権者である銀行には知らされておらず,清算業務もほとんど進まず,銀行に対する債務の返済も行われなかった。その結果,被告及びその関連会社は,銀行や取引先から不信感を抱かれることとなった。

その後,Cは,c工業の清算人を解任され,平成9年12月には,被告代表者が同社の清算人に就任し,また,平成11年には同人が被告の代表取締役に就任した。

被告においては,銀行からの信頼を回復するため,遊休資産の売却や余剰資産の処分などを実施して銀行に対する債務の返済を優先して行ってきた。その結果,平成7年4月当時,上記のとおり40億円近くあった被告の負債は,相当額を返済することができ,現在では26億円程度となっている。

被告は,平成14年5月期には,いわゆるITバブル崩壊の影響により,減益減収となった。その後数か月で被告の受注量が回復したが,被告においては,大幅な人員整理を行うなどの経営改善策を実施した。

被告は,51期(平成18年6月から平成19年5月まで)には売上げが約42億9100万円,営業利益が約369万円と,ほとんど利益が出なくなり,52期(平成19年6月から平成20年5月まで)には売上げが約47億1800万円,営業損失が約1071万円と,赤字に転落するに至った。

上記のとおり,被告の経営状態が悪化していたため,被告に対しては,53期(平成20年6月から平成21年5月まで)が始まって間もない平成20年6月ころには,金融機関から経営改善指導が入った。

平成20年8月ころ,いわゆるリーマン・ショックの影響により,被告は大幅な減収となり,53期には,営業損失が約4億1800万円,純損失が約4億7200万円となり,利益剰余金が約9億円から約4億3000万円に減少した。

ウ 被告は,平成20年12月ころから,役員報酬や賃金のカット,賞与不支給などの経営改善策を実施した。

エ 被告は,平成21年6月ころ,54期(平成21年6月から平成22年5月まで)の被告の業績を,売上げが約15億円,経常損失が約7億5000万円とするなどの予測をした。

被告の51期ないし54期の営業損益は下記のとおりである。

① 51期(平成18年6月~平成19年5月) 369万0818円

② 52期(平成19年6月~平成20年5月) -1071万6450円

③ 53期(平成20年6月~平成21年5月) -4億1799万4963円

④ 54期(平成21年6月~平成22年5月) 3986万8721円

また,被告の54期の月別の経常損益は下記のとおりである。

① 平成21年6月 -2348万5000円

② 平成21年7月 -3295万1000円

③ 平成21年8月 -3198万8000円

④ 平成21年9月 3866万4000円

⑤ 平成21年10月 2821万6000円

⑥ 平成21年11月 388万5000円

⑦ 平成21年12月 -26万1000円

⑧ 平成22年1月 -696万7000円

⑨ 平成22年2月 -94万5000円

⑩ 平成22年3月 3249万4000円

⑪ 平成22年4月 2878万6000円

⑫ 平成22年5月 795万9000円

オ 被告は,被告のMP製造部について,単純に機械の加工のみをしている部署であり,競争力がなく赤字が続いていたため,平成21年3月ころ,取引先であるf工業に事業の譲渡や引受けなどの相談に行ったが,交渉がまとまらず,そのころ,平成22年3月をもってMP製造部を廃止することを決定した。

その当時,MP製造部には,30名の従業員が所属していたため,MP製造部の廃止によって,同部の廃止時点でこの30名が剰員となることとなった。

被告は,上記30名について配置転換の可能性を検討し,うち21名を機器製造部,IK製造部,FP製造部などの他の部署に配転した。また,上記30名のうち上記21名及び原告を除いた8名については,うち7名が希望退職に応じて退職し,うち1名が定年退職となった。

被告は,平成21年5月,希望退職者を50名とすることを前提とした場合の54期の損益についてシミュレーションをし,仮に希望退職者が50名出たとしても,54期の経常利益が約2億8000万円の赤字となるとの予想をした。

そこで,被告は,被告内労働組合に対して,人数を確定せずに40歳以上の正規社員50名以上の希望退職者の募集を提案した。ところが,被告内労働組合は,40歳以上の正規社員に多数退職されると,40歳以上の社員がわずかしか残らず,それでは被告が会社としてやっていけないのではないかとの指摘をするなどして,40歳以上という年齢の撤廃と希望退職者の募集人数の確定を求めた。

これに対して,被告としては,将来のために若年の社員にはできる限り被告に残ってほしいと考え,上記年齢の撤廃には応じなかった。

以上のような被告と被告内労働組合との間の交渉の結果,被告において,正規社員の希望退職者の募集については,その対象を40歳以上の正規社員とし,人数は30名とすることにし,平成21年7月13日,被告内労働組合との間で,同月14日現在被告に在籍する正規社員で40歳以上の者を対象とし,募集人員30名とすることなどを内容とする希望退職の募集に関する労使協定を締結した。

被告としては,30名の希望退職者が出ても,未だ被告の経営の状況については厳しいという認識を有しており,追加の人員削減についても考えていた。

また,被告は,被告内労働組合との間で,平成21年7月6日,一般職について,同月19日から最長で平成22年5月18日までの間,本給の10パーセントに相当する額を毎月の給与から減額することなどを内容とする賃金の期限付き減額に関する協定を締結した。他方,被告は,原告を含む準社員に対しては,正規社員とは異なり,賃金の減額を実施しなかった。

被告の上記希望退職者募集は,平成21年7月14日付け「希望退職の募集について」(<証拠省略>)をもって被告従業員に向けて公示された。

被告は,その後,40歳以上の正規社員及び原告を含む準社員に対して,個人面接を実施した。

平成21年8月3日,募集人数である30名の希望退職者が確保された。

希望退職者30名については,平成21年8月18日ないし平成21年9月18日をもって,いずれも被告を退職した。

また,原告に対して本件解雇の通告がされた平成21年8月20日以降平成22年5月31日までの間に,上記の希望退職者以外に,定年退職1名,自己都合退職5名の計6名の従業員が被告を退職している。

被告の準社員は,54期開始当時,原告を含めて3名いたが,原告以外の2名は,うち1名が平成21年7月に定年退職し,他の1名も同年10月に定年退職した。

カ 被告の機器製造部では,ICハンドラという大型機械(半導体の機能検査をする際にデバイスを振り分ける装置。1台当たりの売上価格が800万円ないし1000万円で,製造のための図面がある場合,1台の完成に約2か月を要する。)を製造していた。

被告の機器製造部におけるICハンドラの平成21年7月出荷分から同年11月出荷分までの受注状況は,下記のとおりであった。

① 平成21年7月出荷分

同年6月30日以前 受注4台

(この受注台数が同年7月22日まで維持)

② 平成21年8月出荷分

同年7月9日 受注3台

同月29日 受注7台に増加

同年8月20日 受注6台に減少

同月26日 受注4台に減少

(この受注台数が同月31日まで維持)

③ 平成21年9月出荷分

同年8月3日 受注1台

同月20日 受注5台に増加

同月24日 受注6台に増加

同月26日 受注8台に増加

同年9月2日 受注11台に増加

(この受注台数が同月30日まで維持)

④ 平成21年10月出荷分

同年9月7日 受注10台

同月26日 受注18台に増加

同年10月6日 受注17台に減少

同月10日 受注18台に増加

同月14日 受注15台に減少

(この受注台数が同月31日まで維持)

⑤ 平成21年11月出荷分

同年9月10日 受注2台

同月26日 受注13台に増加

(その後受注の増加が続く)

同年10月14日 受注21台に増加

(この受注台数が同月31日まで維持)

キ 被告は,上記のICハンドラの受注に係る生産に対応するため,平成21年9月1日から本件解雇の日である同月19日の後である同年12月24日までの間に,2か月程度の期限を定めた派遣社員ないし請負会社の従業員を次のとおり,被告の機器製造部に新規に受け入れた。これらの人員の勤務形態は,いずれも午前8時20分から午後5時15分までの通常勤務であった。

① 平成21年9月1日 13名

② 同月3日 1名

③ 同月7日 1名

④ 同月14日 2名

⑤ 同年10月1日 7名

⑥ 同月19日 1名

⑦ 同年12月1日 2名

⑧ 同月7日 1名

⑨ 同月24日 4名

上記の新規受入れに係る従業員(計32名)のうち,平成22年7月15日の時点で,計23名が契約の更新を受けて,継続して稼働している。

ク 被告は,IK製造部においても,平成21年8月26日から同年9月3日までの間に,派遣社員ないし請負会社の従業員を次のとおり,新規に受け入れた。これらの人員の勤務形態は,いずれも午前8時20分から午後8時25分までの昼勤務であった。

① 平成21年8月26日 1名

② 同年9月1日 1名

③ 同月3日 2名

上記の新規受入れに係る従業員(計4名)のうち,平成22年7月15日の時点で,計3名が契約の更新を受けて,継続して稼働している。

ケ また,被告は,FP製造部においても,平成21年9月10日から同年11月10日までの間に,派遣社員ないし請負会社の従業員を次のとおり,新規に受け入れた。これらの人員の勤務形態は,いずれも午前8時20分から午後5時15分までの通常勤務であった。

① 平成21年9月10日 1名

② 同年10月5日 1名

③ 同月13日 1名

④ 同年11月4日 1名

⑤ 同月10日 1名

上記の新規受入れに係る従業員(計5名)のうち,平成22年7月15日の時点で,計3名が契約の更新を受けて,継続して稼働している。

コ 被告においては,平成21年8月18日の時点で,次のとおり,計41名の外部社員(請負会社の従業員等)が配属されている。

① IK製造部製造G 30名

② 機器製造部製造G 1名

③ FP製造部製造G 9名

④ MP製造部製造G 1名

サ 被告は,平成22年1月29日の時点で,職種を開発(表面処理),常雇,正規社員とし,年齢及び省令を不問とし,必要な免許資格を普通自動車免許一種のみとし,就業時間を午前8時20分から午後5時15分とする求人の募集をハローワークに出している。

シ また,被告は,平成22年2月ころ,派遣会社に対し,1年ごとに更新する雇用形態の登録派遣型派遣社員(職種は機械組立て)3名の派遣を要請し,これを受けて,派遣会社は,被告に派遣するための派遣社員の求人の募集をハローワークに出している。

(2)  被告の就業規則,準社員就業規則,給与規定等について

被告は,就業規則の外に,準社員の労働条件及びその就業に関する事項を定める準社員就業規則を制定しているが,それによれば,準社員の服務規律,勤務時間,休憩,欠勤及び入退場,時間外及び休日勤務,休日及び休暇,出向・転勤・配置換え及び出張,休職,定年,退職,解雇等,安全衛生の確保,災害補償,表彰,懲戒等については,いずれも正規社員に適用される就業規則が,退職金を除く給与については,正規社員に適用される給与規定が,それぞれ適用されることとなっている。

正規社員には,確定拠出年金規約があり,就業期間中,本人名義の預金通帳に毎月一定の掛け金を積み立て,退職時から年金が支払われるという確定拠出年金制度が採用されている。

正規社員は被告内労働組合の組合員であるが,準社員は同組合の組合員ではない。

(3)  原告の就労状況等について

ア 原告(昭和33年○月○日生まれの女性)は,平成10年2月4日,被告のパート社員として雇用され,同日以降被告で勤務を開始し,平成12年6月,準社員就業規則2条に基づき,所属長の推薦を経て承認され,準社員となった。

原告の被告における職歴については,別紙2記載のとおりであり,平成19年5月にMP製造部MP製造Gに配属され,平成21年1月からはMP製造部製造Gに配属されていた。

イ 被告では,従業員に対して,成績が良い方から順にS,A,B,C,D及びEの6段階評価による人事評価を実施しているところ,平成11年度(平成12年5月査定)から平成20年度までの間の正規社員,準社員,パート社員及び契約社員計195名を対象とした査定に係る人事評価の集計によると,「B以上を1度も取ったことがなく,かつD,Eを4回以上取ったことのある者」は,全体の8パーセント,「B以上を1度も取ったことがなく,かつD,Eを取ったことがあり,それが3回以下の者」が全体の12パーセント,「Cのみを取った者」が全体の13パーセント,「B以上を取ったことがある者」は67パーセントであり,原告は,「B以上を1度も取ったことがなく,かつD,Eを4回以上取ったことのある者」(全体の8パーセント)の内の一人であった。なお,上記195名は,被告において10年以上継続して勤務した者であって,これ以外に被告における勤務継続年数が10年に満たない相当数の従業員が存在する。

ウ 原告は,平成21年3月5日,被告の品質管理4級の認定を受けているが,この試験においては,1回目の試験において合格者が122名,不合格者が40名出たところ,原告は不合格であり,成績は,不合格者の中で30位であった。被告は,不合格者を対象に再教育を実施した後,上記不合格者を対象に再試験を実施し,原告は合格した。原告の再試験の成績は,100点満点中96点であった。

エ 原告は,平成16年ころから平成20年4月ころまでの間,ファミリーレストランでアルバイトをしていた。アルバイトの勤務時間は,被告における勤務時間外である午後10時ころから午前1時ころまでの間であった。原告は,アルバイト勤務について,被告の就業規則に違反することは認識していたが,被告には報告していなかった。アルバイト勤務の勤務日は,平日のこともあれば日曜日のこともあった。原告が被告に勤務しながら被告の勤務時間外にアルバイト勤務をしたのは,原告が,知人から頼まれて消費者金融のカードを作成したところ,その知人が原告に無断でそのカードを使用して消費者金融から200万円程度の金員を借り受けたため,消費者金融からの支払請求を受け,その返済資金を捻出するためなどの理由からであった。

(4)  本件解雇の経過等について

ア 原告は,平成21年4月6日,配属先であるMP製造部における朝礼の際,MP製造部が平成22年3月をもって廃止されることを聞いた。

平成21年5月ころ,原告は,D・MP製造部部長から,MP製造部が廃止されたらどの部署に行きたいかを尋ねられた。これに対して,原告は,機器製造部,IK事業部など被告の部署の多くに配属された経験を有していたため,配属されたことのない仕事をするのもよい経験になると考え,同部長に対し,購買部に行きたい旨を回答した。すると,同部長は,原告に対し,原告は社外の人との対応や電話での対応がよいから購買部は原告に合っているかもしれない旨を話した。

イ 準社員であった原告は,上記希望退職者募集の対象者の中には正規社員でないために含まれていなかったが,被告は,原告について,退職勧告の対象とした。

ウ 平成21年7月14日,原告と被告との間で第1回目の面接(以下「第1面接」という。)が実施された。

第1面接には,被告側からは,被告代表者及びBが出席した。

被告代表者及びBは,原告に対し,これまでの経過の説明や希望退職の提案をした。希望退職をした場合の条件は,退職金として基本給の3か月分を支給し,有給休暇を買い上げるという内容であった。

原告は,被告代表者及びBに対し,被告での仕事にやりがいを感じており,子どもがまだ小さく,家族の生活のためにも原告の収入が不可欠であるなどの理由から,継続して働きたいとして,被告における雇用の継続を希望した。

被告は,原告の雇用継続の希望を受けて,人事委員会などを開いて原告の配転先を検討した。その結果,最終的に,原告の配転先としてIK製造部及びレイクサイドグリーンが候補となった。

エ 平成21年7月21日,原告と被告との間で第2回目の面接(以下「第2面接」という。)が実施された。

第2面接は,原告から電話での面接の要望があって実施されたものであり,被告側からはBが出席した。

原告は,Bに対し,再度被告における雇用の継続を希望した。Bは,原告に対し,再度希望退職をした場合の条件等を伝えたところ,原告は,やはり雇用の継続を希望したため,Bは,原告に対し,原告の配属受入先の検討を継続していることを伝えた。

オ 平成21年7月29日ころ,原告と被告との間で第3回目の面接(以下「第3面接」という。)が実施された。

第3面接は,被告側からは,Bが出席した。

Bは,原告に対し,原告の配転先の候補が2か所あり,その一つはIK製造部であること,配属先が決まったらすぐに連絡すること,IK製造部での勤務は,三勤三休になるかもしれないことを伝えた。

原告は,かつて原告がIK製造部に勤務していた時の記憶から,三勤三休とは,午前8時20分から午後9時までの昼勤務と午後8時20分から翌午前9時までの夜勤務を繰り返す体制だと考えており,原告には小学生の娘がいるために夜勤務はできないと考え,Bに対してIK製造部で三勤三休で働くことは難しいと答えた。

Bは,原告に対し,配転先が見付からなければ原告には辞めてもらうこともあり得るとした上で,配転先の候補の件を原告において再度検討し,その回答を平成21年8月3日までに部門長にするように伝えた。

カ 平成21年8月5日,原告と被告との間で第4回目の面接(以下「第4面接」という。)が実施された。

第4面接は,被告側からは,B及びD・MP製造部部長が出席した。

Bは,原告に対し,MP製造部が廃止となる平成22年3月までの間に同部でパートで働くつもりがないか,パートで働くなら退職金と基本給3か月分の退職慰労金を支払うことを告げ,パートで残るか退職するか翌日までに返事をするように伝えたが,原告はこれに対し納得できない旨回答した。

その後,同日,Bから原告に電話があり,原告は,退職金は76万円になること,パートで残ってもらう場合は退職金は支払わないと伝えられた。原告が,先ほどと話が違う旨言うと,Bは先ほどの話が間違いであった旨回答した。

その後,同日,原告は,Bから呼び出され,退職すれば,パートとして勤務しても退職金の外に基本給3か月分の退職慰労金を支払う旨伝えられた。原告は,退職するつもりはないから職場を探してほしい旨伝え,正規社員と準社員の違いを尋ねたところ,Bは,組合員であるか否かの点である旨答えた。原告は,翌日までに回答できないと伝えると,Bは,平成21年8月10日までに回答すればよい旨を伝えた。

キ 原告は,第4面接が実施された後,今後について不安に思い,労働組合に加盟した。

労働組合は,平成21年8月10日,被告に対し,同日付け「要求書」(<証拠省略>)にて,原告に対してこれ以上の退職強要を一切行わないことや同月20日に団体交渉を実施することなどを要求した。

平成21年8月20日,被告と原告及び労働組合との1回目の団体交渉が実施されたが,その際,被告から原告に対して同日付け回答書(<証拠省略>)によって同年9月19日をもって原告を普通解雇する旨の本件解雇の意思表示がされた。

その後,被告と原告及び労働組合との間で,平成22年3月25日までの間に,計10回程度団体交渉が実施され,原告及び労働組合において,被告に対し,原告の本件解雇の撤回を要求し続けた。その間の平成21年11月13日の団体交渉に際しては,被告から原告に対して同日付け「解雇理由証明書」(<証拠省略>)が交付された。同「解雇理由証明書」には,人員削減の必要性について,被告は,近時売上げの大幅な減少とこれに伴う大幅な赤字増大に見舞われており,経営改善策を実施してきたが収益の改善が図れず,更なる費用削減策として,人員削減を実施せざるを得ない状況になったことが,原告を解雇の対象者に選んだ理由について,被告の構造改革に沿った職種転換の可能性につき,原告の年齢,業務経験,就業可能時間の融通等を検討したが適当な職種が見付からなかったことなどが記載されていた。

団体交渉に際して,原告及び労働組合は,被告に対して,MP製造部は平成22年3月末まで存続しているのだから3月末までは原告をMP製造部で勤務させてもらい,その間に次の職場を見付けてほしいこと,以前は三勤三休は難しいと言ったが,午後8時過ぎまでは働く意思であることなどを伝えた。これに対して,被告は,原告の配属先はない旨回答した。

被告は,平成22年4月8日,原告及び労働組合に対し,本件解雇の撤回はできないこと,団体交渉の結果によっても本件解雇を見直す必要性が見付からないことなどが記載された同日付け回答書(<証拠省略>)を交付した。

原告は,これを受けて,被告にはこれ以上団体交渉を続ける意思がなく,これ以上団体交渉を続けても解決には至らないことを感じ,法的手段を執ることを決意した。

ク 被告から原告に対しては,第1面接ないし第4面接の機会を含め,原告の配転先の候補として提示されたIK製造部での勤務体制に関し,午前8時20分から午後8時55分までを勤務時間とするA勤務のみの条件を提示したことはなかった。

2  事実認定の補足説明

(1)  被告は,平成21年7月29日ころに原告と被告との間で実施された第3面接において,被告から原告に対して原告をIK製造部かレイクサイドグリーンに配転する旨の提案を行ったと主張し,Bも同人に対する証人尋問において,「原告に対してレイクサイドグリーンを配転先の候補として提案したと記憶している」旨の供述をする。

しかし,原告は,一貫して「レイクサイドグリーンの提案をされたことはなかった」旨を主張し,原告及び労働組合と被告との間で繰り返された団体交渉に際しても,繰り返し「レイクサイドグリーンの提案をされたことはない」旨を強く訴えており,同人に対する本人尋問においても,同趣旨を明確に供述しているところ,被告において原告に対してレイクサイドグリーンを配転先の候補として提案したとのBの上記供述内容を補強するに足りる証拠は存在せず,Bの同供述を直ちに採用することはできない(被告にとって,原告に対する配転先の候補の提案は,解雇の前提となるべき極めて重要なものであるから,仮に原告に対して上記の提案があったというのであれば,客観的なかたちで記録しておくべきであったし,配転先の候補としての提案の内容は,直接の当事者である原告にとっては,自分自身に係る重要な問題であるから強く記憶に残るものであると考えられるが,被告の取締役として原告以外にも複数の者を対象に面接を実施していたBにとっては,原告ほどに記憶に残らなかったり,他の面接で他の面接対象者に対して行った提案などと混同する可能性も否定できない。Bの同人に対する証人尋問における上記供述も,「レイクサイドグリーンを配転先の候補として提案したと記憶している」とするものであって,必ずしも明確なものとはいい難い。)。

したがって,第3面接において,被告から原告に対して原告をIK製造部かレイクサイドグリーンに配転する旨の提案を行った旨の被告の上記主張は採用できない。

(2)  また,被告は,平成21年7月29日ころに原告と被告との間で実施された第3面接において,原告に対して配転先の候補として提案したIK製造部に関し,当時は三勤三休体制であり,この体制は,A勤務(勤務時間は午前8時20分から午後8時55分まで,週3日勤務)とB勤務(勤務時間は午後8時20分から翌午前8時55分まで,週3日勤務)を1週置きに繰り返すシフト勤務であるが,被告は,原告の生活状況に配慮してA勤務のみの条件を提示したものであると主張する。

しかし,Bは,同人に対する証人尋問において,第3面接の機会を含め,原告に対して,IK製造部に関し,上記A勤務のみの条件を提示したことはない旨供述しており,他に第3面接の機会を含め,原告に対して上記A勤務のみの条件を提示したことを認めるに足りる的確な証拠は存在しない。

したがって,被告から原告に対して,第1面接ないし第4面接の機会を含め,原告の配転先の候補として提示されたIK製造部での勤務体制に関し,午前8時20分から午後8時55分までを勤務時間とするA勤務のみの条件を提示したことはなかったものというべきであって,原告の生活状況に配慮してA勤務のみの条件を提示したものである旨の被告の上記主張は採用できない。

3  争点①(本件解雇の有効性の有無)について

以上の認定事実を踏まえて,本件解雇の有効性について判断する。

(1)  本件解雇は,いわゆる整理解雇に該当するところ,整理解雇は,労働者の責めに帰すべき事由による解雇ではなく,使用者の経営上の理由による解雇であって,その有効性については,厳格に判断するのが相当である。

そして,整理解雇の有効性の判断に当たっては,人員削減の必要性,解雇回避努力,人選の合理性及び手続の相当性という4要素を考慮するのが相当であり,以下このような観点から本件解雇の有効性について検討する。

(2)  人員削減の必要性について

ア 上記認定事実に照らすと,被告の経営状態そのものは,本件解雇当時,相当程度に悪化しており,また,原告が配属されていたMP製造部についても,競争力がなく赤字が続いていたために平成22年3月の廃止が決定されたことが認められる。

イ しかしながら,その一方で,本件解雇の前後を通じて,被告におけるICハンドラの受注状況がある程度改善傾向にあったこと,被告の経営状況も,53期(平成20年6月から平成21年5月まで)の営業損益がマイナス4億1799万4963円であったのに対し,54期(平成21年6月から平成22年5月まで)にはプラス3986万8721円にまで回復していること,本件解雇の前後を通じて,被告において,派遣社員ないし請負会社の従業員(以下「派遣社員等」という。)を相当数受け入れていること,これらの派遣社員等は,本件解雇から1年近くが経過した平成22年7月15日の時点でも20名以上の者が,契約の更新等によって継続して被告で稼働していること,本件解雇後のわずか4か月後である同年1月29日の時点で,被告において正規社員の求人の募集をしていること,原告が配属されていたMP製造部の廃止時期が,本件解雇の日から6か月以上先である平成22年3月であったことなどの事情が認められ,これらの事情に照らすと,本件解雇にあたり,その時点で,被告において,原告ただ一人を解雇すべき切迫した人員削減の必要性があったとまで認めることはできない。

ウ 被告は,上記の派遣社員等の受入れ等について,これらは,あくまでも一時的な需要に対応するために雇用・委託したものであり,正規社員を雇用した場合のように恒常的な人件費の増大をもたらすものではないばかりか,むしろ受注が減少ないしなくなった場合には契約を更新しないこと等によって人件費を抑えることが可能であることを指摘し,被告は,経営危機の状態にあったにもかかわらず非正規労働者を雇用する等したのではなく,そのような状態にあったからこそ,期間の定めのある非正規労働者を雇用すること等によって人件費の増大を防ごうとしたのであり,人員軽減措置と矛盾した経営行動とはいえないなどと主張する。

しかし,本件解雇の前後の被告における雇用状況をみる限り,少なくとも実態として,本件解雇の前後を通じて(希望退職者の募集に応募した30名を含む)正規社員や準社員から,被告にとってより雇用調整の容易な派遣社員等への入替えがされていたものと評価せざるを得ない(この点,平成21年9月16日の団体交渉において,出席したE総務部長(以下「E」という。)が,「会社として単純作業を減らしている。派遣に置き換えているから社員として継続してやっていく仕事はない」との趣旨の発言をし(<証拠省略>),平成22年2月24日の団体交渉においても,出席した被告のF取締役が,労働組合側からの「被告は,安全弁として,派遣社員に置き換えたいというだけではないか」との趣旨の質問に対し,「まあそうとも言える」旨の回答をしている(<証拠省略>)ことなどに照らすと,被告としても上記入替えの意図があったこともうかがえる。)。こうした正規社員や準社員から派遣社員等への従業員の入替えについては,会社として長期的にかかる構造転換の方針をとることそのものは,経営合理化の観点からみて理解できないではないが,本件解雇を有効たらしめるための要素としての人員削減の必要性の有無という観点からみた場合,かかる実態を安易に容認することはできない。

(3)  解雇回避努力について

ア 上記認定事実に照らすと,被告においては,本件解雇に先立ち,役員報酬や賃金のカット,賞与不支給,正規社員を対象とした希望退職者の募集,廃止予定のMP製造部の所属従業員に対する配置転換の可能性の検討及び配転措置など,一定の解雇回避努力をしていることが認められる。

イ しかしながら,こと原告に対する本件解雇を具体的に回避するための努力という点に着目すると,上記認定事実のとおり,被告においては,原告に対し,第1面接ないし第4面接の機会を含め,原告の配転先の候補として提示されたIK製造部での勤務体制に関し,午前8時20分から午後8時55分までを勤務時間とするA勤務のみの条件を提示していない。

そして,被告は,本件訴訟において,「被告が,原告に対し,その配転先として提案したIK製造部は,当時は三勤三休体制であり,この体制は,A勤務(勤務時間は8時20分から20時55分まで,週3日勤務)とB勤務(勤務時間は20時20分から8時55分まで,週3日勤務)を1週置きに繰り返すシフト勤務であるが,被告は,原告の生活状況に配慮してA勤務のみの条件を提示したものである。」旨を明確に主張してきたのであって(平成22年12月27日付け被告第1準備書面11頁参照),この主張によれば,少なくとも被告の認識では,原告を,IK製造部に配転し,同部においてA勤務(勤務時間は午前8時20分から午後8時55分まで)のみで稼働させることが,被告の態勢面においても原告の能力面においても十分に受入れ可能であったものと認識していたものと認められる。

原告は,本件解雇前に実施された被告との面接から本件解雇後に複数回にわたり実施された団体交渉までの間,被告から原告の配転先として提案されたIK製造部について,午前8時20分から午後9時までの昼勤務と午後8時20分から翌午前9時までの夜勤務を繰り返す体制であり,原告には小学生の娘がいるために夜勤務はできないと考えて対応してきたのであって,被告から上記A勤務のみの条件が提示され,稼働時間が午後8時55分までに収まるのであれば,この提案条件を受諾する可能性もあったのである(原告本人は,同人に対する本人尋問において,「被告からA勤務のみの提示があれば,これに応じていた」旨の供述をしている。)。

そうすると,被告が,被告においては客観的に原告の受入れが可能であり,かつ,原告においても受諾する可能性があるIK製造部における上記A勤務のみの条件提示を,これが可能であるにもかかわらずしていないことは,提示すれば原告の解雇を回避することができる可能性がある提案の不行使に当たるものと評価せざるを得ず,これによれば,被告による本件解雇を回避するための努力の履行が十分でなかったものと認めるのが相当である。

(4)  人選の合理性について

ア 被告は,原告を解雇の対象者として選定した事情について,①原告が準社員であったこと,②一時期他職のアルバイトを被告に無断でしていたことも含め,就業に問題があったこと,③廃止されるMP製造部に所属していたこと,④本件解雇当時50歳を超える年齢であったこと,⑤被告の提示した配転の申入れを拒否してきたこと,⑥他部署での勤務が不可能ないし不相当な状況であったことなどを主張しているので,これらについて検討する。

イ ①原告が準社員であったことについて

(ア) 準社員であることによって,解雇の対象者として選定したことの合理性について検討するには,被告における準社員という地位を実質的に検討する必要があるのはいうまでもないところ,上記認定事実によれば,被告における準社員については,準社員就業規則によって,定年,退職,解雇等を含め,退職金(確定拠出年金制度を含む。)を除き,すべて正規社員に適用される就業規則及び給与規定が適用されることとなっており,他には,準社員は正規社員とは異なり被告内労働組合の組合員ではない点程度しか正規社員との差異は存しない(なお,準社員は,正規社員とは異なり,パートタイマーから昇格する者であるが,これは,準社員という地位そのものにおける差異ではなく,その地位に達するまでのプロセスにおける差異にすぎない。)。

上記の事情に照らすと,被告における準社員という地位は,パートタイマー,アルバイト,臨時工,期間工,請負社員,派遣社員,嘱託社員など終身雇用の保証がなく,仕事量の多寡に応じて雇用され,雇用調整が容易な労働者とは,正規社員と同じ終身雇用制の下で雇用されているという点で本質的に異なり,会社との結び付きの面でも,正規社員と全く同一ではないもののこれに準じた密接な関係にあるものと解され,解雇の相当性判断に際しては,正規社員と同様に判断するのが相当である。

したがって,原告が準社員であったことを,原告を解雇の対象者として選定した事情として合理的なものと認めることはできない。

(イ) ところで,被告代表者に対する代表者本人尋問の結果(被告代表者は,同人に対する代表者本人尋問において,「正規社員に対する希望退職者の募集をするより前の段階で,頭の中では準社員については辞めてもらわなければならないと思っていた」旨の供述をしている。),Eに対する証人尋問の結果(Eは,同人に対する証人尋問において,「準社員と正規社員とを比較すると準社員の方を先に解雇できると考えていたこと」「原告以外には,準社員,正規社員を含めて解雇の対象として検討した者はいなかったこと」などを供述している。)に加えて,上記認定事実のとおり,正規社員については,その全員に対して賃金の減額が実施されたが,原告を含む準社員に対しては,実施されていないこと,正規社員については,誰一人として解雇の対象となっておらず,準社員3名のうち近く定年退職が予定されていた2名を除く原告のみが解雇の対象となったこと,平成22年3月に廃止が予定されていたMP製造部に所属していた原告を含む30名の従業員については,うち21名が他部署に配転となっており,解雇されたのが原告一人であること,上記(3)のとおり,客観的に原告の受入れが可能であり,かつ,原告においても受諾する可能性があるIK製造部における上記A勤務のみの条件提示を,これが可能であるにもかかわらずしていないことなどの事情に照らすと,被告においては,もともと,原告が準社員であることに特に着目して解雇の対象として選定しており,正規社員については希望退職者募集に係る募集定員である30名の応募が達成されたことを受けて,本件解雇に踏み切ったことは明らかであるというべきである。

そうすると,上記(ア)のとおり,原告が準社員であったことを,原告を解雇の対象者として選定した事情として合理的なものと認めることはできない以上,原告が準社員であったこと以外の事情について,原告を解雇の対象者として選定した事情として合理的なものといえるかという点につき更に検討をする必要がある。

ウ そこで検討するに,②原告には,一時期他職のアルバイトを被告に無断でしていたことも含め就業に問題があったことについては,確かに,原告において過去に相対的に低い成績評価を受けている事実があることは否定できず,また,過去に深夜の他社におけるアルバイト勤務をしていた事実も認められるが,上記の低い成績評価については,原告がただ一人の解雇対象者として選定されるのが合理的であると考えられる程度に著しく低いものであるとまでは評価できないし(この点,Eは,平成21年8月20日の団体交渉において,原告のこれまでの職場異動の経歴について,原告及び労働組合に対し,これらの職場異動は,被告の都合で異動したものであって,原告に重大なミスがあったことは特にないことを認める趣旨の回答をしている(<証拠省略>)。),上記アルバイト勤務についても,これによって被告における原告の勤務状況に関し看過できない問題が発生したものとも直ちにはいえないし,その時期や動機,態様等に照らしても,このことをもってして,ことさらに原告を,被告の正規社員及び準社員全体を通じて,ただ一人の解雇対象者として選定することが合理的であると考えられる程度に悪質なものとまでは評価できない。

また,原告が,③廃止されるMP製造部に所属していたこと,④本件解雇当時50歳を超える年齢であったこと,⑤被告の提示した配転の申入れを拒否してきたこと,⑥他部署での勤務が不可能ないし不相当な状況であったことについても,上記のとおり,MP製造部に所属していた原告以外の従業員のうち21名が他部署に配転となっていること,被告が,被告においては客観的に原告の受入れが可能であり,かつ,原告においても受諾する可能性があるIK製造部における上記A勤務のみの条件提示を,これが可能であるにもかかわらずしていないことなどの事情に照らせば,原告を,被告の正規社員及び準社員全体を通じて,ただ一人の解雇対象として選定することが合理的であると認めるに足りる程度の事情であると認めることはできない。

エ なお,原告は準社員であったがゆえに被告内組合の組合員ではなかったところ,被告は,被告内組合との間で希望退職者募集に係る協定を締結しており,その希望退職者が募集定員に達したため被告内組合との関係では被告内組合の組合員である正規社員に対する解雇に踏み切れなかったという事情がうかがわれるが,このことをもって,組合員でない準社員である原告を解雇の対象と選定することは,労働組合員でないことを理由として解雇の対象とすることとなり,許されるものではないことはいうまでもない。

オ 以上によれば,本件解雇について,人選の合理性があったものと認めることはできない。

(5)  手続の相当性について

上記認定事実のとおり,被告においては,本件解雇に先立ち,原告との間で複数回にわたる個別の面接を実施し,また,本件解雇後には,原告及び労働組合との間で,多数回にわたり団体交渉を重ねており,原告及び労働組合に対して,被告の立場ないし主張を前提とする説明(ただし,その説明内容が,本件解雇の合理性を満たすものであるかについては別論である。)を一定程度果たしていたものと認められ,本件解雇に係る手続の相当性について,直ちにこれを欠くような事情までは認められない。

(6)  以上の諸事情を総合すると,本件解雇の時点で被告に切迫した人員削減の必要性があったとまでは認められない上,被告において,本件解雇に先立ち,解雇回避努力を十分に尽くしたとはいい難く,本件解雇の対象者の人選についても合理性を認めることはできないから,本件解雇の手続の相当性について直ちにこれを欠くものとはいえないことを考慮しても,本件解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であるとは認められない。

したがって,本件解雇は無効であって,原告は,被告に対して,労働契約上の権利を有する地位にあると認められる。

4  争点②(原告の中間収入の控除の当否)について

(1)  使用者の責めに帰すべき事由によって解雇された労働者が解雇期間中に他の職に就いて利益(以下「中間利益」という。)を得たときは,使用者は,当該労働者に解雇期間中の賃金を支払うに当たり中間利益の額を賃金額から控除することができるが,上記賃金額のうち労働基準法12条1項所定の平均賃金の6割に達するまでの部分については利益控除の対象とすることが禁止されているものと解するのが相当である。したがって,使用者が労働者に対して負う解雇期間中の賃金支払債務の額のうち平均賃金額の6割を超える部分から当該賃金の支給対象期間と時期的に対応する期間内に得た中間利益の額を控除することは許されるものと解すべきである(最高裁判所昭和37年7月20日第二小法廷判決(民集16巻8号1656頁),同昭和62年4月2日第一小法廷判決(裁判集民事150号527頁),同平成18年3月28日第三小法廷判決(裁判集民事219号1033頁)参照)。

(2)  上記第2の1「前提となる事実」(5)のとおり,原告の本件解雇前3か月の平均賃金は1か月当たり19万8158円であるところ,その6割を超える部分は7万9263円である。

そして,上記第2の1「前提となる事実」(6)のとおり,原告は,本件解雇後,a保険で稼働し,下記のとおりの収入(手取り)を得ている。

① 平成22年4月 研修手当等 12万9223円

② 平成22年5月 給与 11万9686円

③ 平成22年6月 給与 12万6588円

施策懸賞金 3030円

臨時給与 7790円

④ 平成22年7月 給与 13万0768円

施策懸賞金 1700円

⑤ 平成22年8月 給与 13万4314円

施策懸賞金 1680円

⑥ 平成22年9月 給与 13万1559円

施策懸賞金 1860円

⑦ 平成22年10月 給与 14万1544円

施策懸賞金 2700円

⑧ 平成22年11月 給与 4万6296円

施策懸賞金 1500円

最低賃金補償 2万5345円

⑨ 平成22年12月 給与 13万2614円

施策懸賞金 1703円

臨時給与 1万7099円

⑩ 平成23年1月 給与 12万1550円

施策懸賞金 500円

⑪ 平成23年2月 給与 14万7619円

施策懸賞金 860円

⑫ 平成23年3月 給与 14万1664円

施策懸賞金 3360円

そうすると,平成22年4月から平成23年3月までの間の原告のa保険からの収入のうち,平成22年11月分を除く各月分については,いずれも上記6割を超える部分である7万9263円以上であるから,被告が原告に支払うべき同各月分の金額は,原告の1か月当たりの平均賃金額である19万8158円から7万9263円を控除した11万8895円となる。

そして,同じく原告のa保険からの収入のうち,平成22年11月分については,上記6割を超える部分である7万9263円未満であるから,被告が原告に支払うべき同月分の金額は,原告の1か月当たりの平均賃金額である19万8158円から上記平成22年11月分のaからの収入額計7万3141円を控除した12万5017円となる。

(3)  原告の中間収入控除後の賃金額等のまとめ

以上をまとめると,被告が原告に対して支払うべき賃金額は,①本件解雇の日である平成21年9月19日から同年10月18日(締め日)までの分に係る直近の支払期日である同月28日から平成22年3月までは,毎月28日限り19万8158円ずつ,②平成22年4月から同年10月までは,毎月28日限り11万8895円ずつ,③平成22年11月28日限り12万5017円,④平成22年12月から平成23年3月までは,毎月28日限り11万8895円ずつ,⑤平成23年4月から本判決確定の日までは,毎月28日限り19万8158円ずつとなる(なお,原告は,賃金の支払日について,「20日払」と主張しているが,これを認めるに足りる証拠はなく,むしろ証拠(<証拠省略>,被告代表者本人)によれば,賃金の支給日は毎月28日であることが認められる。)。

遅延損害金については,労働契約に基づいて商人である被告が労働者である原告に支払う賃金債務について履行期を遅延した場合の利率は,商行為によって生じた債務に関するものとして商事法定利率によるべきであるから,年6分の割合をもって相当と解する。

よって,被告は,原告に対し,上記①ないし⑤の各金員及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金を支払うべきである。

第4結論

以上によれば,原告の地位確認請求は理由があり,賃金請求は,上記第3の4(3)の支払を求める限度で理由があるから,これらを認容し,その余については理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判官 下澤良太)

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