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長野地方裁判所飯山支部 昭和23年(ワ)17号 判決

原告 湯本善吉

被告 小野坂福次 外一名

一、主  文

被告等は連帶して原告に対し金二万円及び之に対する昭和二十四年一月五日以降右完済に至る迄年五分の割合に依る金員を支拂わねばならない。

訴訟費用は被告等の連帶負担とする。

此の判決は原告に於て被告等に対し夫々七千円の担保を供するときは仮に之を執行することができる。

但し被告等に於て原告に対し金七千円の担保を供するときは右仮執行を免れることができる。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決並に担保を條件とする仮執行の宣言を求め、其の請求の原因として原告は昭和二十二年二月中被告福次から製塩を買受ける契約を爲し現品は直ちに引渡しを受け得るものと同被告の言を信じ代金の内金として金八万円を同被告に交付した。ところが其の後同被告は現品を引渡さないばかりか全然現品を所持せず引渡不能にして全く同被告のために内金八万円を詐取されたことが分明したので其の解決方を嚴談したところ同年六月二十日原告と同被告間の右賣買契約を合意上解除し同日新に原告と被告福次及び同人の妻被告初子との間に原告が右詐取された金八万円につき被告両名に於て連帶して同年七月二十日限り之を原告に弁償する旨の契約を締結した。然るに被告等は右期限を経過してもその履行をしないので被告両名に対し連帶して右金八万円のうち金二万円及び之に対する本訴状送達の翌日である昭和二十四年一月五日から右完済に至る迄年五分の割合に依る遅延損害金の支拂を求めるため本訴請求に及んだと陳述し、被告等の管轄違の抗弁に対し本訴請求は昭和二十二年六月二十日原告と被告等間に締結した金八万円の弁償契約に基き其の内金の支拂を求めるものであるから之が履行を爲すべき原告の住所地を管轄する長野地方裁判所飯山支部は本訴につき管轄権を有するものであると述べ、被告等の本案についての主張事実を否認し原告の被告福次に対する金八万円の交付は前述の如く同被告が塩の取引に藉口して原告から詐取したものであるから民法第七百八條に所謂不法原因給付ではない、仮に不法原因給付であるとするも原告は本訴に於て右塩の賣買契約とは関係なく昭和二十二年六月二十日新に原告と被告等に締結された弁償契約に基いて之が請求を爲すものであるから同法條の適用がない、亦仮に同法條の適用があるとするも其の不法の原因は受益者についてのみ存するものであると述べた。<立証省略>

被告等訴訟代理人は本件口頭弁論期日に出頭しなかつたけれども其の陳述したと看做すべき答弁書に依れば、先づ本案前の抗弁として本訴は被告等の住所地を管轄する東京地方裁判所へ提起すべきものであつて管轄違であるから本件を管轄裁判所である東京地方裁判所に移送するとの裁判を求めると謂うに在る。次に本案につき原告の請求を棄却する訴訟費用は原告の負担とするとの判決並に担保を條件とする仮執行免除の宣言を求め、答弁として被告福次が原告から金八万円を受領したことは認めるが、其の余の原告主張事実は全部否認する、原告主張の塩の取引は被告福次から原告に賣渡すというのではなく同被告は原告から塩の買付け方を依頼され其の斡旋をしたに過ぎない、即ち同被告は昭和二十二年二月中原告から強いて禁制品たる塩の購入方を依頼され相談の上共に岡山縣の生産地に出張し塩二百五十俵を注文したが原告は其の代金約二十四万円なるに金八万円しか持合せがなかつたため内金として生産者に渡すべく同被告に於て原告から金八万円を受取り不足金は塩が長野縣に到着した後に受渡しすることを約した、而して同被告は取敢えず塩百二十俵を買付け原告に示したところ原告は粗悪品なるの故を以て之が受取を肯ぜず交渉を重ねるうち祕かにする塩の取引が不法行爲であるため取引不能となり、同被告が原告から受取つた金八万円は生産者に渡したり又諸費用に支出して全部消費して了い欠損に終つたのであつて同被告より原告に返還すべき性質のものではないのである、のみならず原告から同被告に対する右金八万円の交付は元々塩の不法取引に関する不法原因給付であり從つて斯る根本事実が不法行爲なる塩の取引に関連する原告主張の弁償契約の如きも亦無効のものであるから原告は被告等に対し之が返還を求めることが出來ない、仮に被告等に於て原告に対し本訴債務があるとすれば被告福次は右塩の取引に関し原告のため宿泊料等金五千円旅費金二千円を支出し又同被告自身の活動費用金二万円を支出し原告に対し之が債権を有するから之と対当額に於て相殺の意思表示をする、仍て原告の本訴請求に應じ難いと謂うに在る。

三、理  由

仍て先づ被告等の管轄違の抗弁につき按ずるに財産権上の訴は義務履行地の裁判所に之を提起することが出來ることは民事訴訟法第五條に規定するところ本訴は原告より被告等に対し昭和二十二年六月二十日原、被告等間に爲された弁償契約に基き金八万円の内金請求を爲す訴であることは本件記録に徴し明らかであつて之は一つの財産権上の請求であること疑を容れる余地のないところであるから本訴は右法條に則り其の義務の履行地に提起することを得べく、而して証人渡辺義政の証言に依れば右弁償金は原告の住所に送金して支拂う約定であつたことを認めることが出來るから原告の住所地が即ち其の義務履行地であると謂うべくそして原告の住所が長野縣下高井郡夜間瀬村に存すること本件記録上明白であるから同地を管轄する長野地方裁判所飯山支部は本訴につき管轄権を有するものと謂うべきである。從つて被告等の右抗弁は採用しない。

次に進んで本案につき審按するに、原告本人訊問の結果によつて其の成立を認め得る甲第一号証と前記渡辺証人及び証人湯本義吉の各証言並に原告本人の供述を綜合すれば昭和二十二年二月頃原告は居村夜間瀬村農民組合長をしていた関係から同村居住農家の塩の不足を補うため同組合の役員と相談の上原告個人に於て他より塩を購入することとなり同月十四日頃原告の代理人として訴外渡辺義政同湯本義吉の両名が岡山縣に赴き被告福次と面談した結果同被告に於て既に塩を買受け所持して居り何時でも引渡しを爲し得るとの同被告の言を信用して同被告との間に製塩二百五十俵(一俵四十瓩入)を一俵代金千二百五十円で買受ける旨の賣買契約を締結し、内金として金八万円を前渡しすること、残金は品物が長野縣に到着次第支拂うことを約束したこと、然し右訴外両名は品物不渡の場合を考慮し右八万円は塩の発送を見届けてから同被告に渡す考へでいたところ其の後同被告が甲第三号証の如き鉄道の甲片(車扱貨物通知書)を訴外湯本義吉に渡し品物は既に貨車に積込み発送した旨申向けたので同訴外人は之を信用し金八万円を同被告に交付したものであること(同被告が原告から金八万円を受取つたことは当事者間に爭がない)及び其の後品物は遂に到着しないばかりでなく右通知書が偽りのものであつたことが判明したので原告に於て同被告に対し之が解決方を嚴重交渉した結果同年六月二十日長野市西長野町所在の原告訴訟代理人方に於て原告と同被告間の前示塩の賣買契約を合意上解除し同日新に原告と被告福次及び同人妻被告初子との間に右金八万円につき被告初子が連帶保証人となつて同年七月二十日限り之を原告に弁償完済する旨の契約を爲したことを夫々認めることが出來るのであつて右認定を左右するに足る何等の証拠もない。

然るところ被告等は原告から被告福次に対する右金八万円の交付は塩の不法取引に関する不法原因給付であり從つて之に関連する右六月二十日の原、被告等間の弁償契約は無効であるから被告等は之が返還義務なき旨抗爭するに対し、原告は(一)右金八万円の交付は被告福次の詐欺に因つて交付したものであるから民法第七百八條に所謂不法原因給付ではない(二)仮に不法原因給付であるとするも原告は本訴に於て右塩の賣買契約とは関係なく新に原告と被告等に締結された弁償契約に基いて之が請求を爲すものであるから同法條の適用がない旨主張するに依り先づ右金八万円の交付が民法第七百八條に所謂不法の原因のために給付を爲したる場合に該当するかどうかの点につき判断するに、原告が被告福次に対し金八万円を渡したのは原告が塩を入手する目的を以て強行的公益法規である塩専賣法及び物價統制令に違反し同被告との間に製塩二百五十俵を一俵代金千二百五十円で買受ける旨の賣買契約を爲し其の代金の内金として同被告に交付したものであること前認定の事実に依り明白であるから仮令原告が被告福次の詐欺に因つて交付したにせよ既に不法な目的に出でたるものなる以上民法第七百八條に所謂不法の原因のため給付を爲したる場合に該当するものと謂はなければならない。次に原告の前記(二)の主張について判断するに、民法第七百八條の趣旨は給付者の非難すべき心情に対する制裁として、然らざれば有するであろう回復の請求権を拒否するに在るからかゝる非難すべき心情即ち不法な目的乃至は不法な行爲についての責任が認められる限りよしや該不法行爲を合意上解除し新に弁償契約又は準消費貸借契約等を締結するも窮局に於て嚢に給付したものの返還を求めるものであれば同法條を適用して之が返還を許すべきものではないと解するところ前示甲第一号証の全文を味読し且つ証人渡辺義政の証言及び原告本人の供述等を併せ考えれば昭和二十二年六月二十日原告と被告等との間に於て爲された金八万円を同年七月二十日限り原告に弁償完済する旨の前示認定の契約は窮局に於ては嚢に原告から被告福次に交付された金八万円を被告等から原告に返還する趣旨の契約であることを窺い知ることが出來るから前示説示に從い原告の前記(二)の主張は採用しない。

然し乍ら不法の原因が受益者に付てのみ存したるときは受益者に対し返還の請求を爲し得ること民法第七百八條但書の規定するところであつて同條但書に所謂「不法ノ原因カ受益者ニ付テノミ存シタルトキ」と言うのは不法の原因が給付者に存せず受益者のみに存した場合のみに限らず不法の原因が給付者及び受益者の双方に存した場合に於ても其の双方の不法性を比較考慮して受益者の不法性が給付者のそれに比しより大なる場合には同條但書に該当する場合として返還請求を爲し得るものと解するを相当とするところ本件の塩専賣法等に違反する不法の原因は給付者たる原告及び受益者たる被告福次の双方に存したること明らかであり而も被告福次は既に塩を買受け所持して居り何時でも引渡しを爲し得るが如く原告の代理人に申向けて賣買契約を締結し更に之が代金の内金八万円の交付を受けるに際して偽りの鉄道の甲片を渡して既に品物を貨車に積込み発送したるが如く欺罔の手段を弄したること前認定の如き事実に依れば給付者たる原告に比し受益者たる被告福次により大なり不法性を認め得るからかゝる場合には前示説示に從い不法の原因は受益者に付てのみ存したものと謂うべきであるから民法第七百八條但書の規定に依り原告は被告福次に対し之が返還請求権を有するものと謂わねばならない。然らば昭和二十二年六月二十日原告と被告等との間に於て被告初子が連帶保証人となつて右金八万円を同年七月二十日限り原告に弁償する旨の前示契約は有効のものと謂うべく從つて被告等は連帶して原告に対し金八万円の支拂を爲すべき義務あること明らかである。

被告等は仮に本訴債務があるとすれば被告福次は本件塩の取引に関し原告のため宿泊料等金五千円旅費金二千円及び被告自身の活動費用金二万円を各支出し原告に対し之が債権を有するから之と対当額に於て相殺する旨主張するけれども被告福次に於て原告に対し右債権を有することについて何等之を認め得べき証拠がないから被告等の右主張は之を採用するに由ない。

果して以上の通りとすれば被告等に対し連帶して右金八万円のうち金二万円及び之に対する本訴状送達の翌日であること記録上明らかである昭和二十四年一月五日以降之が完済に至る迄民事法定利率年五分の割合に依る遅延損害金の支拂を求める原告の本訴請求は全部正当として之を認容し訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條第九十三條仮執行の宣言につき同法第百九十六條第一項仮執行免除の宣言につき同條第二項を各適用し主文の通り判決する。

(裁判官 廣瀬友信)

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