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長野地方裁判所飯田支部 平成24年(ワ)54号 判決 2014年1月30日

主文

1  被告国は,原告に対し,3万円を支払え。

2  原告の被告長野地裁に対する訴えを却下する。

3  原告の被告国に対するその余の請求及び被告Y1に対する請求をいずれも棄却する。

4  訴訟費用は,原告と被告国との間においては,原告に生じた費用と被告国に生じた費用を2分し,それぞれを各自の負担とし,原告と被告長野地裁との間においては,被告長野地裁に生じた費用を原告の負担とし,原告と被告Y1との間においては,被告Y1に生じた費用を原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告らは,原告に対し,220万4485円を支払え。

第2当事者の主張

1  請求原因

⑴  被告Y1は,事件の表示<省略>(以下「別件訴訟」という。)の事件担当の裁判官であった。

⑵  被告Y1は,平成23年8月25日の口頭弁論期日(別件訴訟)の際,別件訴訟・被告であった原告(以下,単に「原告」という。)に対し,暴言を吐いて威嚇し,公平な裁判が行われなかった。同期日の際,被告Y1は,原告に対し,別件訴訟・原告の答弁の後,「被告(本件訴訟・原告)は何か言いたいことがありますか。」と問いかけた。原告は,「あります。」と言って立ち上がった途端に,被告Y1は鬼のような形相になり,顔を赤らめて「あなたねー,あなたのせいで私は上司から怒られているんですよ。こんな裁判にいつまでかかっているんだと怒られているんですよ。私の左遷の話まで出ているんですよ。こんなことを続けていると,私の将来に影響するんですよ。」と言い出した。原告は,突然のことでどう対処したらよいのか,頭の中が真っ白になり,裁判官が非常に怖く感じ,「もういいですから,判決にしてください。」と言ってしまった。原告は,言ってしまったが,その時には,そうとしか言いようがなかった。

⑶  被告Y1という裁判官として不適切な人を職に就かせた被告長野地裁にも責任がある。この件を境に,原告は,裁判所に対し,不信感でいっぱいである。また,原告は,裁判所の恐ろしさを知った。

⑷  この件について,原告は,裁判所に対し,このような裁判で裁判官が公平な判決を出せるわけがないと抗議をした。抗議をしてから数日後,原告は,被告長野地裁のCという事務局次長から電話があり,原告に話があるということで,当庁で会った。しかし,原告は,会って話をしたが,本題には一切ふれることなく,質問をしても全て無回答であった。原告の「事実関係を調べてくれましたか。」との質問にも,無回答で会話が成立しなかった。

⑸  原告は,法廷における被告Y1の発言を非常に怖く感じ,言いたいことを言えずに「いいですから判決してください。」ということしか言えなかったときに屈辱や威圧感を受けた。その慰謝料額は,200万円が相当である。

間違った違法判決で原告が被った費用は,20万4485円である。

⑹  原告は,被告らに対し,被告Y1については民法上の不法行為に基づき,被告国及び被告長野地裁については国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づき,それぞれ上記損害金合計220万4485円の支払を求める。

2  請求原因に対する認否及び被告らの主張

⑴  被告Y1

ア 本案前の答弁

被告Y1は,公務員として職務行為を遂行したものであり,このような場合,国の外に,当事者適格のない裁判所や公務員個人を被告として損害賠償請求訴訟を提起することは,国賠法上許容されない。よって,本件訴えは,不適法として却下されるべきである。

イ 本案の答弁

(ア) 請求原因⑴の事実は認め,その余は否認ないし不知。

(イ) 仮に被告Y1に対する訴えの提起が不適法却下の対象にならないとしても,公務員である裁判官の職務行為について,国の外に裁判所及び公務員個人に対し,損害賠償請求等の訴えを提起し,損害賠償を請求することは認められない。

また,被告Y1は,公務員の一員である裁判官として,その良心に従い,独立して憲法及び法律に遵って,その職権を行使していたものであり,原告の主張するような事実はない。

仮に原告主張のような言辞が発言されたとしても,それをもって,到底言葉の暴力ととらえることはできず,原告の主張は,主張自体失当である。また,原告の主張では「公平な裁判が行われなかった」としているが,何をもって公平な裁判が行われなかったというのか,何ら主張立証が行われておらず,主張自体失当である。原告は,別件訴訟について控訴し,東京高等裁判所の判断を仰いだはずである。さらに,被告Y1は,裁判官として適法に職務を遂行していたものであり,その行為は正当業務行為,あるいは社会的相当行為として違法性を問われるいわれはない。加えて,言葉の暴力と主張されている発言内容と,原告の主張する公平でない裁判との相当因果関係も認められない。

⑵  被告国

ア 請求原因⑴の事実,被告Y1が別件訴訟において平成23年10月4日に実施された口頭弁論期日を担当したこと,原告が別件訴訟の被告であったこと,原告から別件訴訟に関して当庁に対して抗議があったこと,被告長野地裁のC事務局次長が原告と当庁で会ったことは認め,その余は否認ないし不知。

イ 被告国の主張は,次のとおりである。

(ア) 本件訴訟に至る経緯

別件訴訟は,平成22年9月8日に提起され,第1回口頭弁論期日が同年11月2日午前10時に実施された。その後,平成23年6月2日午後1時30分に実施された第5回口頭弁論期日において,証拠調べを行った上,被告Y1から双方に対し,最終準備書面の提出期限を同年8月18日と定める旨が告げられた。同月25日午後4時30分に実施された第6回口頭弁論期日において,原告は,次回期日までに書証を提出する,主張立証はこれで最後とする旨述べ,被告Y1から,当事者の主張立証は,次回期日までに提出されたもので全てとし,次回期日をもって口頭弁論を終結するとの進行予定が当事者に告げられた。同年10月4日午後4時30分に実施された第7回口頭弁論期日において,別件訴訟・原告が準備書面を陳述し,請求の趣旨を一部変更(減縮)した。原告は,訴えの変更に同意した上,陳述書4通を提出して弁論終結となった。同年12月8日午後4時40分に実施された第8回口頭弁論期日において判決が言い渡された。

その後,原告から平成23年12月21日に控訴(事件の表示<省略>)が提起され,平成24年5月9日,原判決を一部変更する判決が言い渡され,同判決は同月26日に確定した。

(イ) 国賠法上の違法はないこと

国賠法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が,個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものである。したがって,公務員の職務行為について違法性を判断するに当たっては,職務行為時を基準として,当該公務員が職務上の法的職務義務に反していると認められる場合に限って,国賠法上違法とされるというべきである。とりわけ,裁判官がした争訟の裁判につき国賠法1条1項の責任が肯定されるためには,その裁判に上訴等の訴訟法上の救済方法によって是正されるべき瑕疵が存在するだけでは足りず,当該裁判官が違法又は不当な目的を持って裁判をしたなど,裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情があることが必要である。

これを本件についてみると,被告Y1が口頭弁論期日において原告の攻撃防御方法の機会を奪うような暴言及び威嚇にわたる発言をし,弁論を終結させ,公平でない裁判を行ったとの事実は認められない。この点をおくとしても,原告は被告Y1が原告主張の言動を伴う訴訟指揮を行った旨主張するにとどまり,それ以上に,被告Y1が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど,裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情を何ら主張するものではない。

第3当裁判所の判断

1  被告長野地裁に対する請求について

民事訴訟は,私人間の権利義務関係をめぐる紛争を対象とするものであるから,民事訴訟において当事者となることのできる一般的な資格(当事者能力)を有するためには,権利義務の帰属主体となり得る資格(権利能力)を有しなければならないと解するのが相当である。

これを本件についてみると,本件訴訟は民事訴訟であるところ,官署としての被告長野地裁は,権利義務の帰属主体となり得る資格(権利能力)を有しないから,民事訴訟において当事者能力を有しない。

よって,原告の被告長野地裁に対する訴えは,却下を免れない。

2  被告Y1に対する請求について

公権力の行使に当たる公務員の職務行為に基づく損害については,国又は公共団体が賠償の責に任じ,職務の執行に当たった公務員は,行政機関としての地位においても,個人としても,被害者に対し,その責任を負担するものではないから,県知事を相手方とする訴えは不適法であり,また県知事個人,農地部長個人を相手方とする請求は理由がないことに帰するものと解するのが相当である(最高裁昭和30年4月19日第三小法廷判決参照)。

これを本件についてみると,原告は,別件訴訟の事件担当の裁判官であった被告Y1が職務を行うについて違法行為を行ったとして損害賠償を請求するものであるから,職務の執行に当たった公務員である被告Y1は,行政機関としての地位においても,個人としても,被害者に対し,その責任を負担するものではなく,被告Y1を相手方とする請求は理由がない。

よって,原告の被告Y1に対する請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。

3  被告国に対する請求について

⑴  認定事実

当事者間に争いのない事実に加え,証拠<省略>によれば,次の事実が認められる。(認定の根拠は各末尾に示す。)

ア 当事者

原告は,別件訴訟・被告であり,弁護士を訴訟代理人とすることなく,訴訟活動を行っていた。B弁護士は,別件訴訟・原告の訴訟代理人であった。(証拠<省略>)

被告Y1は,別件訴訟の事件担当の裁判官であった。(争いがない。)

イ 別件訴訟の経過

別件訴訟は,自動車のディーラー会社が,原告に対し,代車の引渡しと損害賠償等を請求した事件である。(証拠<省略>)

別件訴訟の第5回口頭弁論期日は,平成23年6月2日午後1時30分に行われ,原告は,請求の趣旨第2項を維持するかどうかについて検討し,被告Y1は,当事者双方に対し,次回結審の予定で最終準備書面の提出期限を同年8月18日と定めるなどした上,次回期日を同月25日午後4時30分と指定した。(証拠<省略>)

ウ 被告Y1の発言

別件訴訟の第6回口頭弁論期日は,同年8月25日午後4時30分に行われたが,その開始前,原告は,B弁護士に対し,「カムポジションセンサーを替えたことが異常の原因なんだ。これを主張したい。」などと述べたところ,B弁護士は,「私がとやかく言える問題ではないから裁判官に話してみろ。」などと答えた。そこで,原告は,同期日の冒頭,被告Y1に対し,自動車のカムポジションセンサーを交換してから異常が発生したという新たな主張を述べた。これに対し,被告Y1は,「今更そんな主張をされても困る。今日,結審する予定だった。」「あなたの審理が終わらないので,私は上司から怒られているんだ。いつまで裁判をやっているんだ。私の左遷の話まで出ている。私の将来に影響するかもしれない。」などと怒ったように述べた(以下「本件発言」という。)。(証拠<省略>)

B弁護士は,被告Y1のことを非常にざっくばらんで,人間的に尊敬していたところ,突然,本件発言がなされたのでびっくりした。B弁護士は,別件訴訟において,被告Y1が何か違法ないし不当な目的を持って裁判を進めているという様子は全くなく,本件発言について,単純に今まで丁寧に原告の言い分を聞いてあげたのに,最後になって新たな主張をしたので,裁判官も人間であるから頭にきたのではないかという印象を抱いた。B弁護士は,本件発言がなかったとしても,別件訴訟の判決の結論は変わらず,本件発言と同判決の内容との間には因果関係はないと考えている。(証拠<省略>)

原告は,突然,本件発言がなされたので,ずっとぼうっと立っていた。原告は,それまで温厚であった被告Y1が顔を赤らめて怒り,語気荒く本件発言をすることやその形相に恐怖感を抱いた。(証拠<省略>)

その後,被告Y1は,声のトーンを落とし,普段の態度に戻り,原告の言い分を聞いた上,原告に対し,「じゃ,もう一度,あなたの言われることを出しなさい。」などと述べた。そこで,原告は,平成23年7月1日付け準備書面及び同年8月1日付け準備書面を陳述するなどした上,次回までにカムポジションセンサーの欠陥と事故との因果関係を証明する書証を提出するが,原告の主張立証はこれで最後とする旨述べた。別件訴訟・原告は,平成23年8月22日付準備書面⑴を陳述した。被告Y1は,当事者の主張立証は次回期日までに提出されたもので全てとし,次回期日で本件の口頭弁論を終結する旨述べた。(証拠<省略>)

エ その後の経過

別件訴訟の第7回口頭弁論期日は,同年10月4日午後4時30分に行われ,別件訴訟・原告は,準備書面⑵を陳述し,請求の趣旨を一部変更(減縮)した。原告は,訴えの変更に同意した上,陳述書4通を提出して弁論終結となった。(証拠<省略>)

別件訴訟は,同年12月8日,判決が言い渡され,その後,原告から控訴が提起されたところ(事件の表示<省略>)平成24年5月9日,原判決を一部変更する控訴審判決が言い渡され,同判決は,同月26日,確定した。(証拠<省略>)

オ 原告の供述の評価

以上の認定に対し,原告は,本件発言に対し,「もういいです,判決にしてください。」と言った旨(証拠<省略>),本件発言があったのは,弁論終結された平成23年10月4日の第7回弁論期日だと思う旨(証拠<省略>)供述する。

しかし,原告は,一方で,日にちの記憶がないので,何月何日というのは,はっきりいってない旨(証拠<省略>),B証人の記憶の方が正しいと思う旨(証拠<省略>)供述しており,信用できる証人Bの供述に照らして,前記認定に反する原告の供述部分は,いずれも採用できない。

⑵  原告の請求の当否

ア 慰謝料請求について

(ア) 違法性について

a 原告は,法廷における被告Y1の発言を非常に怖く感じ,言いたいことを言えずに「いいですから判決してください。」ということしか言えなかったときに屈辱や威圧感を受け,その慰謝料額は200万円が相当である旨主張する。

よって検討するに,裁判官がした争訟の裁判に上訴等の訴訟法上の救済方法によって是正されるべき瑕疵が存在したとしても,これによって当然に国賠法1条1項の規定にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任の問題が生ずるわけのものではなく,同責任が肯定されるためには,当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど,裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情があることを必要とすると解するのが相当である(最高裁昭和57年3月12日第二小法廷判決参照)。

これを本件についてみると,本件発言は,裁判官の訴訟指揮に関するものであるが,上記最高裁判例の趣旨に基づいて検討すると,前記⑴ウ認定のとおり,被告Y1は,別件訴訟の第6回口頭弁論期日において,弁論終結予定であるにもかかわらず新たな主張をしたい旨述べた原告に対し,「今更そんな主張をされても困る。今日,結審する予定だった。」「あなたの審理が終わらないので,私は上司から怒られているんだ。いつまで裁判をやっているんだ。私の左遷の話まで出ている。私の将来に影響するかもしれない。」などと怒ったように本件発言をしたことが認められ,当事者が困惑するような個人的な事情を理由として,当事者の訴訟活動を制限する趣旨の感情的な発言をしたというほかはなく,同ウ認定のとおり,被告Y1が違法ないし不当な目的を持って裁判を進めているという様子は全くなかったとしても,本件発言の形態・内容に照らして,裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情があったといわなければならない。

もっとも,原告は,被告Y1が本件発言をして威嚇し,公平な裁判が行われなかったとも主張する。

しかし,前記⑴ウ,エ認定のとおり,被告Y1は,本件発言の後,声のトーンを落とし,普段の態度に戻り,原告の言い分を聞いた上,原告に対し,「じゃ,もう一度,あなたの言われることを出しなさい。」などと述べ,原告は次回までにカムポジションセンサーの欠陥と事故との因果関係を証明する書証を提出することとなり,次回期日には,原告は陳述書4通を提出するなどした上で弁論終結となったこと,その後,別件訴訟は,判決が言い渡され,原告が控訴し,控訴審判決が言い渡され,同判決は確定したこと,B弁護士は,本件発言がなかったとしても別件訴訟の判決の結論は変わらず,本件発言と同判決の内容との間には因果関係はないと考えていることが認められるから,以上を総合すると,本件発言により公平な裁判が行われなかったとはいえない。したがって,原告の上記主張は採用できない。

b これに対し,被告Y1は,仮に原告主張のような言辞が発言されたとしても,それをもって,到底言葉の暴力ととらえることはできず,原告の主張は主張自体失当であるし,被告Y1は裁判官として適法に職務を遂行していたものであり,その行為は正当業務行為,あるいは社会的相当行為として違法性を問われるいわれはない旨主張する。

しかし,前記aで認定説示したとおり,本件発言は,裁判官が怒ったような様子で当事者が困惑するような個人的な事情を理由として当事者の訴訟活動を制限する趣旨の発言をしたものであるから,その限度で違法性は免れないし,裁判官の職務と本件発言の内容に照らして,本件発言が正当業務行為ないし社会的相当行為に当たるともいえない。したがって,被告Y1の上記主張は採用できない。

また,被告国は,原告は被告Y1が原告主張の言動を伴う訴訟指揮を行った旨主張するにとどまり,それ以上に,被告Y1が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど,裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情を何ら主張するものではない旨主張する。

しかし,裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたことは,前記最高裁判例のいう「特別の事情」の例示にすぎないから,違法又は不当な目的がなかったからといって,前記「特別の事情」の存在が否定されるものではない。また,本件発言に関する原告の主張は,その内容に照らして,前記「特別の事情」を充足するに足りるというべきである。したがって,被告国の上記主張は採用できない。

イ 損害額

前記⑴ア,ウ認定のとおり,原告は,別件訴訟・被告として,弁護士を訴訟代理人とすることなく,訴訟活動をしていたこと,突然,本件発言がなされたので,ずっとぼうっと立つなどし,それまで温厚であった被告Y1が顔を赤らめて怒り,語気荒く本件発言をすることやその形相に恐怖感を抱いたこと,B弁護士も,突然,本件発言がなされたのでびっくりしたことが認められ,原告は,本件発言により,恐怖感,威圧感を味わうなどの精神的苦痛を受けたものと認められる。もっとも,前記⑴ウ,エ認定のとおり,被告Y1は,本件発言の後,声のトーンを落とし,普段の態度に戻り,原告の言い分を聞いた上,原告に対し,「じゃ,もう一度,あなたの言われることを出しなさい。」と述べるなどしたこと,前記(ア)で認定説示したとおり,本件発言により公平な裁判が行われなかったとはいえないこと,その他,本件に顕れた一切の事情を考慮すると,原告の慰謝料額は,3万円と認めるのが相当である。

イ 違法判決による費用請求について

原告は,間違った違法判決で原告が被った費用は20万4485円である旨主張する。

しかし,前記ア(ア)aで認定説示したとおり,別件訴訟の判決は,間違った違法判決であるとはいえない。したがって,違法判決を理由とする原告の費用請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。

ウ 結論

よって,原告の被告国に対する請求は,3万円の支払を求める限度で理由があるが,その余は理由がない。また,訴訟費用は,本件事案の内容,認容額等を考慮して,主文のとおり判断した。

(裁判官 加藤員祥)

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