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長野地方裁判所飯田支部 昭和32年(ワ)13号 判決 1961年4月10日

原告 神谷新吉

被告 丸桝醸造株式会社

主文

被告が昭和三二年四月二七日別紙目録記載の者の引受申込により別紙目録記載の株数及び金額に基きなした新株の発行は無効とする。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、請求の原因として

一  被告会社は昭和二七年四月一日設立にかかり発行する株式総数一四、四〇〇株、すべて額面株式で一株金五〇〇円、設立に際して発行する株式総数三、六〇〇株の会社で、原告はその株主で取締役でもある。

二  被告会社社長である代表取締役神谷義助は、昭和三二年三月二二日天竜峡仙峡閣において取締役会を開催し新株発行の決議があつた如き取締役会の議事録を作成し同年四月七日原告に対し新株割当の通知をし新株一、三八〇株の引受及び払込を催告した。原告はこれらの行為を無効であると主張して一応六九万円を払い込んで新株の引受をしたが、その後引受権のない藤田二郎外二五名及び社長自身(一対一の割合を超過する部分。別紙目録1から27まで)が総数七、二〇〇株を引受、申し込んで払込を完了し同月二七日払込完了の変更登記をしたことが判明した。

三  しかし右新株の発行は左の理由により無効である。

1  本件増資に関する取締役会の決議は存在しない。

社長義助及び取締役川上功や小寺正治、西田憲蔵等は前記のように三月二二日仙峡閣に取締役会と称して集合し、原告も通知によりやむなく出席したが、小寺、西田の両名は取締役でないから取締役会としての効力はないと主張したこと等により結局当日は取締役会は中止し新株発行について何等の決議もなされなかつた。しかるに社長義助は当日新株発行に関し取締役会の決議があつた如き議事録を偽造して本件発行に及んだもので、取締役会の決議なくしてなされた新株発行は無効である。

2  新株引受権者たる株主に失権予告付の通知催告の手続がされていない。

被告会社の定款第一四条によれば「当会社の株主は新株引受権を有する。但しその割合は新株発行毎に取締役会が之を決定する」ことになつているが、前項の通り取締役会の決議は存在しないから、原則により株主が新株引受権を有する。従つて会社としては第三者に新株の公募をなす前に株主に対して失権予告付の通知催告をなす義務がある。

しかるに前記偽造の取締役会議事録も、当然の新株引受権者である株主には三、六〇〇株を割当て、残余七、二〇〇株は何人にその引受権を与えるか決定しないのみならず株主総会の特別決議を要すべき事項に関してその決議もない。新発行株式のうち三分の二に及ぶ株式を前記手続を経ず公募割当をなし株主の引受権に関する定款の規定に反した本件増資は無効である。

四  なお被告は昭和三三年一〇月二七日附で前記変更登記は取締役会の決議及び新株発行手続に一部瑕疵があつて無効であり許すべからざるものであるとして抹消登記をした。これは原告の請求原因を事実上認めたものであるが、右抹消登記は非訟事件手続法第一四八条ノ二に基いてなされている。新株発行による変更登記の抹消は同条ではなく同法第一九五条ノ四、第一五一条ノ二によりなさるべきであるから本件訴訟の目的はなお存在する。

と述べ、立証として甲第一、二号証、第三号証の一、二、三、第四号証の一、同号の二、三の各イ、ロ、同号の四、第五、六、七号証、第八号証の一、二、第九、一〇号証を提出した。

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁として

「被告会社が昭和二七年四月一日設立にかかり、代表取締役神谷義助、取締役川上功、小寺正治、西田憲蔵等が原告主張の日に仙峡閣に集合し取諦役会を開催したこと、右取締役会の新株発行に関する決議に基き原告に対し新株の割当を通知し引受払込の催告をし原告が六九万円を払い込んで新株引受をしたこと、取締役会の決議に基き発行する新株のうち七、二〇〇株を公募し藤田二郎等がこれを引受け申込み払込を完了し、新株発行による変更登記をしたことは認めるが、その余は否認する。本件新株発行は無効であるとの原告の主張は理由がない」と述べ、甲号証の成立を認めた。

理由

成立に争のない甲第一、二号証、第四号証の二のイ、ロによれば被告会社の発行する株式総数は一四、四〇〇株、すべて額面株式で一株の金額五〇〇円、設立に際して発行する株式総数三、六〇〇株の会社で、原告は一、三八〇株の株主であり、株主は新株引受権を有することが定款に規定されていることが認められる。しかして新株発行について株主以外の者に新株引受権を与えるには株主総会の特別決議を要することは商法の規定するところであるが、本件新株発行についてその決議のないことは被告の明らかに争わないところであるから、発行する全株式について株主が引受権を有する。しかるに成立に争いのない甲第四号証の四、第五号証によれば被告会社は全株主(別紙目録28から35まで)に対し所有株式一株に対し新株式一株の割合で計三、六〇〇株を割当て、残りの新株七、二〇〇株については株主に対し失権予告付の通知催告の手続をなすことを要するに拘らず、これを怠り別紙目録1から27までの者をして新株を引受けさせたものであることが認められる。

かくの如き新発行株式のうち三分の二に及ぶ株式を右手続を経ないでなした新株の発行は、引受権のない第三者の新株引受のみならず旧株主の新株引受も無効であると解すべきであるから、原告の本訴請求は理由がある。よつてこれを正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 桑田連平)

新株申込者目録

<省略>

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