長野地方裁判所飯田支部 昭和47年(ワ)23号・昭47年(ワ)15号・昭47年(ワ)26号・昭47年(ワ)62号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
【判旨】
請求原因において最大の争点は、原告三岡が本件事故により、傷害を受け後遺障害が存在するか否かということである。
1 <証拠>診断書によれば、原告三岡は頸椎捻挫の傷害を受け、視力障害の後遺障害が存在するかのように見える。
2 しかし、これには種々の疑問がある。
(一) 本件事故およびその直後の状況
<証拠>によれば、本件事故は遠藤車と大草車の右側面部どうしの接触事故であり、接触のショックも殆どなく、破損の程度も軽微(大草車の修理代は一万六〇〇〇円程度)であつたことが認められる(又、<証拠>によれば、事故処理に当つた警察官大塚一も、車の損害程度からみてけがは大丈夫だと判断したことが認められる)。これに反する<証拠>は採用しない。
更に、<証拠>によれば、事故直後、事故車に乗つていた原告三岡・遠藤・大草の三名は担当警察官である大塚一に対し、「全然けがはない」旨申し立てていることが認められる。
(二) 原告三岡は、事故後間もなく、複視や視力障害、難聴を訴え、視神経萎縮により視力が左0.3(矯正0.5)、右0.3(矯正不能)に低下する回復不能の後遺障害が難聴とともに残存しているかのように主張している。
しかし、<証拠>によれば、原告三岡は事故後一か月の昭和四六年五月二四日に自動車運転免許(普通第二種)の更新手続をとつており、その適正検査にすべて合格していること、この適正検査は視力はもとより、色彩識別能力、深視力、聴力、運動能力について行われたこと、視力の合格基準は両眼で0.8以上かつ一眼で0.5以上であること、原告の免許には更新後においても眼鏡使用条件が付されていないこと、原告は右のような合格基準の視力検査には眼鏡を使用せずに合格していることが認められ、更に<証拠>によれば、原告三岡はその後運転免許を眼鏡使用条件付に変えたが、おそくとも昭和五二年の更新時からは右条件の解除を受け、無条件で更新していることが認められる。この事実は、原告三岡の視力障害の主張とは明らかに矛盾するといわざるをえない。
事故後原告三岡を診察した飯田病院の医師である証人松島千代雄は「レントゲン検査は正常であり、神経症状については他覚的所見はないが、非常に訴えの多い患者である」旨、外科整形外科医師である証人高安健三は「頸部のレントゲン検査は異常なく、頸部挫傷の病名は他覚的なものはないが原告三岡の訴えを信用してつけた」旨、耳鼻咽喉科医師である証人中島賢二郎は「カルテには他覚的所見の記載はない」旨、信州大学病院の整形外科医師である証人松井猛は「レントゲン検査では異常なく、頸椎捻挫は原告三岡の訴えが真実であると信じてつけた、大変訴えの多い患者だつた」旨、飯田市立病院の整形外科医師である証人細谷俊彦は「自覚症状が常に多いが、他覚的にはそれほど変化がない」旨各供述しており、これによれば、原告三岡を診察した医師達は、原告三岡にはレントゲン検査の異常など他覚的所見が殆どないのに、原告三岡の訴えを真実と信じて診断したことが認められる。又、眼科医師である証人矢高仰児は「視力は本人の見える見えないが最後の極め手である」旨供述しており、同人の作成した甲第七、第九号証の記載と免許更新時の視力が全く異るのは、原告三岡が医師に対しては虚偽の訴えを行い、医師がそれを真実と信じて診断したからだと認めるべきであり、これに反する原告三周の本人尋問の結果は採用しない。
(三) 以上のとおりであり、少くとも視力障害についての原告三岡の訴えは虚偽であり、その障害なるものは全く存在しないものと認めるべく、又、その他の傷害や後遺障害なるものも、他覚的所見が殆どないのに原告三岡の訴えを真実であると信じて為されたものであつてみれば、原告三岡の右のような虚偽の訴えをする態度からして、到底存在するものとは認められない。傷害および後遺障害が存在するかのごとき原告三岡の本人尋問の結果は採用しない。 (田中明生)