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長野家庭裁判所上田支部 平成14年(少ロ)1号 決定 2002年12月12日

本人 I・M(昭和58.3.3生)

主文

本人に対し、金8万4000円を交付する。

理由

当裁判所は、平成14年11月26日、本人に対する基本事件である平成14年(少)第789号監禁、強盗致傷、窃盗保護事件において、送致事実について、非行事実を認定せず、右事実と同一性のあるぐ犯事実に認定替えする旨判断し、本人を中等少年院に送致する旨の決定をした。

基本事件記録によれば、本人は、基本事件の送致事実と同一性のある事実で平成14年10月10日逮捕され、同月13日から同月31日まで勾留され、同日東京家庭裁判所に送致された上、観護措置決定により、同日以降少年鑑別所に収容されていることが認められる。

そこで検討するに、本件では、送致事実と同一性のあるぐ犯事実が認定されたものであり、かつ、少年は、家出中であって、犯罪性のある者と交際し、不特定の男性と性的関係を持って生計を得るなどの生活をしていたもので、その要保護性、ぐ犯性が高かったことは前記決定のとおりであって、仮に、送致事実である監禁、強盗致傷、窃盗の事実により身柄が拘束されないとしても、ぐ犯事実について観護措置をとる必要性があったと認められる。したがって、観護措置による身柄拘束に不当性はなく、観護措置期間について補償をしないのが相当である。

ところで、逮捕、勾留の期間については、その当時、前記送致事実をめぐる周辺事実から、本人について相当の嫌疑があったのであるから、逮捕、勾留されるのもやむをえなかったものと認められるが、ぐ犯事実により少年を逮捕、勾留することは認められていない上、逮捕、勾留に伴う身柄の拘束が結果的に少年の保護の目的に資することがないとはいえないとしても、犯罪の捜査の必要から行われる逮捕、勾留と観護措置とは明らかに性格を異にすることからすると、本件のような場合、逮捕、勾留にかかる身柄の拘束が少年にとって理由のない不当な拘束となることは否定できない。また、本人には、家庭裁判所の調査もしくは審判などを誤らせる目的で虚偽の自白をしたなどの少年の保護事件に係る補償に関する法律(以下「法」という。)3条各号に規定する事由は認められない。

なお、勾留期間の末日は、観護措置期間の初日と重複しているので、これを算入しないこととし、逮捕、勾留による合計21日間の身柄の拘束について、法2条1項により補償すべきことになる。

そこで、補償金額についてみると、本人は、逮捕前の平成14年10月1日ころからホテル従業員見習いのアルバイトとして稼働するようになり、時給800円であって、午前11時から午後10時までの勤務であったが、稼働して間がない上、少年は、家出中であって、それまで問題行動を繰り返しており、成人男性と同棲していたものの、同人から暴力を受けるなどしていたもので、長期間にわたって安定した収入を得る可能性が高いものとはいえないことなどを考慮すると、1日につき4000円とするのが相当である。

したがって、本人に対し、補償の対象とすべき逮捕、勾留にかかる合計21日間についての補償合計8万4000円を交付することとし、法5条1項により決定する。

(裁判官 川島利夫)

〔参考〕監禁、強盗致傷、窃盗保護事件(長野家裁上田支部 平14(少)789号 平14.11.26決定)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、平成13年1月1日婚姻し、同年2月27日二児を設けたが、夫婦関係が次第に悪化し、このため同年6月ころから夫と別居するようになり、その後長野県南佐久郡○○村所在の少年の親元で両親の援助を受けながら、あるいは茨城県内などで生活し、平成14年4月ころからは前記少年の親元で両親の援助を受けながら生活していたが、同年6月ころ、二児を両親に預けたまま家を出て、茨城県内の知人方で生活した後上京し、その後は不特定の男性と性的関係をもって代償を得るなどして生計を得ながら生活をし、同年7月上旬ころ、成人のAと知り合い、そのころから同人が使用する車両に寝泊まりするようになり、Aが、成人のBらとともに路上で通行人を見つけて前記車両に連れ込んで金銭を巻き上げていることを知りながら、その後も同年8月上旬ころまで、前記車両での寝泊まりを続けてAと行動をともにし、自らは、前同様に不特定の男性と性的関係をもって代償を得るなどして生計を得る生活をし、その間の同年7月28日午前1時30分ころから同日午前4時30分ころまでの間、A及びBらが、前記車両を使用して、東京都新宿区内から山梨県南都留郡○×村内までの間において監禁、強盗致傷の犯行に及んだ際、その情を知りながら終始同行し、同日午前7時30分ころから同日午前8時46分ころまでの間、AがBらの意を受けて、前記車両を使用し、前記強取にかかるキャッシュカードを用いて、神奈川県津久井郡○△町内等で4回にわたって現金を窃取するに際し、その情を知りながら終始同行しているもので、保護者の正当な監督に服さない性癖があり、正当な理由がなく家庭に寄りつかず、犯罪性のある人と交際し、自己の徳性を害する行為をする性癖があり、その性格、環境に照らして、将来窃盗、売春防止法違反等の罪を犯すおそれがある。

(事実認定についての補足説明及びぐ犯事実を認定した理由)

1 本件監禁、強盗致傷、窃盗保護事件の送致事実は、別紙非行事実(以下「本件犯行」という。)のとおりであるところ、少年は、捜査、観護措置及び審判において、本件送致事実を概ね認めている。そして、本件犯行に関して自己が行った言動として、共犯者らが本件犯行を行った際、共犯者らに終始同行していたこと、Bらが被害者から強取した財布の中から出された銀行取引明細書等をBから一旦これを預かった際、銀行預金残高を読み上げたこと、被害者が、車内に連れ込まれた際、抵抗して車両を蹴ったことから、Bらが被害者に車両の損害を賠償させるとして、車内で被害者に書類を作成させるにあたり、Bから頼まれて同人に印鑑ケースを貸していること、本件犯行によりAが取得した分け前であることを知りながら、同人からその一部である15万円をもらい受けたことを認めている。しかしながら、他方で、捜査において、直接殴ったわけでも手を下したわけでもないので犯人とは思わないとか、本当は本件犯行に関わり合いになりたくなかったなどという供述をし、勾留質問の際には、車両の中に一緒に居ただけで、被害者に手を出していない旨供述している。

2 関係証拠によれば、少年を除く送致事実記載の共犯者らが共謀の上、本件犯行を行ったこと、本件犯行に関わる少年の言動として、少年が供述する前記事実及び少年が前記15万円をもらい受けた日時は本件犯行当日の平成14年7月28日午後2時20分以降であり、その場所は東京都新宿区○□×丁目×番×号○○ホテル客室であることが認められる。

3 しかしながら、以下の事実関係を考慮すると、少年が行った前記のような言動をもって、本件犯行の実行行為と目することができないのはもちろん、本件犯行に関して少年にその犯意や共犯者との共謀があったとすることもできない。なお、被害者は、本件犯行時、少年が車内で被害者を見て、「なんでそんなに血管が出ているの。」などと言った旨供述しており、少年は、これを否定しているが、仮に少年が、被害者が述べるような言葉を発したとしても、ことは同様である。少年が本件犯行を認める旨の捜査及び観護措置並びに審判における供述は採用できず、前記のとおり、直接殴ったわけでも手を下したわけでもないので犯人とは思わないとか、本当は本件犯行に関わり合いになりたくなかったとする捜査における供述及び車両の中に一緒に居ただけで、被害者に手を出していないとする勾留質問における供述は、本件犯行の際少年が置かれた状況を説明するものとして信用することができる。なお、少年の前記のような言動によって正犯者であるAらが窃盗を唆されたという事情は全くないし、また、少年の言動が正犯者であるAらの本件犯行を幇助したものとすることもできないから、少年について、教唆犯または従犯としての刑責を負わせることもできない。

(1) 少年は、本件犯行に際し、Aら共犯者らと終始行動をともにしていたものの、前記のとおり、少年は当時Aの車で寝泊まりしていたもので、Aが使用する車両に同乗していたからといって直ちに少年が本件犯行に関わっていたものとすることはできない。

(2) 関係証拠によれば、少年は、本件犯行当日、これまでと同様に、不特定の男性と性的関係を持って代償を受け取るなどした後、Aに電話で連絡をして、Aが運転する車両で迎えに来てもらい、同車両に同乗し、後部座席で眠っていたが、その後本件犯行のうち監禁行為が行われて目を覚まし、被害者が中央の座席に押し込められ、少年は、Bから指示されて助手席に座席を移動し、その後強盗致傷や窃盗が行われたが、その際もほとんど助手席に同乗し、窃盗の際はほとんど眠っていたことが認められる。

(3) 関係証拠によれば、少年は、本件犯行の数日前、Aから、Aが共犯者らとともに本件と同様な犯行を行っていたことを知らされ、「そんな馬鹿なことやめときなよ。」などと告げており、Aも、本件犯行前の同月23日ころ、同様な犯行を行った際、少年に対し、犯行の際は邪魔だから車両から降りるようにと告げていたことが認められ、少年は、本件犯行のような犯罪を行うことについて積極的な姿勢を示しておらず、A自身も、少年に対して犯罪に関わることがないよう促していたことがうかがわれる。

(4) 少年は、前記のとおり、Aから15万円をもらい受けているが、関係証拠によれば、本件犯行の際共犯者らと同行するに際し、当初から分け前を取得することを意図していたものではなく、また、共犯者らは、本件犯行前から本件犯行と同様な犯行を繰り返してきたが、同人らのうち、通称Cと通称Dは被害者に因縁をつけて車両の近くに連れてくる役割、Bは被害者を車両に押し込み、脅迫したり暴行する役割、Aは運転する役割をそれぞれ担っていたのに対し、少年には何らの役割も与えられておらず、共犯者からも少年に対して共犯者として見張りなどの役割すら期待されていなかったものであって、たまたま本件犯行の際その場に居合わせ、成り行きにまかせて同行したに過ぎないものであることが認められ、少年自身本件犯行における役割を認識して行動しているものとは思われない。

(5) 前記のとおり、少年は、本件犯行に際し、Bから財布の中身を一時預かるなどし、銀行明細書の内容を読み上げたり、Bに自分の印鑑ケースを貸しているものの、こうした行為が直ちに本件犯行の実行行為に該当するものとはいえないばかりか、狭義の共犯に該当する行為に該当するものともいえず、また、それらの犯意をうかがわせるものでもない。

(6) 少年は、捜査及び審判において、本件犯行に同行している際、友人に「やばいことになった。通行人を拉致して手を縛りぼこぼこにしてる。どうしよう。」などといった電話をしている旨供述しているが、これは、前記の状況のもとで、少年が、本件犯行に巻き込まれた様子を率直に知人に伝えたものとして信用することができるものである。

4 なお、少年は、前記のとおり、Aから15万円をもらい受けているものの、それが本件各窃盗のうちのいずれの犯行による盗品であるのか判然としないばかりか、もらい受けた日時場所は、本件窃盗の日時場所と相当程度齟齬していることからすると、本件犯行の一部について盗品等無償譲受けの事実に認定替えすることも相当でない。

5 しかしながら、少年は、判示のとおり、本件送致事実に記載されたことは家出中であって、本件犯行のような犯罪行為を繰り返す共犯者らと行動をともにし、現に本件犯行当時終始同行していた上、当時の生活はAの使用する車両に寝泊まりして、不特定の男性と性的関係を持って代償を得て生計を得るなどの生活をしていたものであるから、判示のとおり、送致事実と同一性のあるぐ犯事実を認定するのが相当である。

(法令の適用)

少年法3条1項3号本文、同号イ、ロ、ハ、ニ

(処遇の理由)

本件はぐ犯の事案であるところ、少年は、平成10年4月高校に入学したが、中途退学し、その後、両親の元などで生活しているものの、両親の指導にしたがわず、家を出て生活の本拠を転々とし、その間現在の夫と知り合い、同棲し、その後妊娠し婚姻するに至った。その後の生活状況は前記ぐ犯事実のとおりであり、平成14年8月上旬ころからは、Aと別れ、Bと行動をともにするようになり、ホテルを転々とする生活を続けた。同年9月下旬ころから肩書住居地にアパートを借りて同人と生活するようになり、同年10月1日ころからホテル従業員見習いのアルバイトをするようになったが、Bは仕事もせず、しばしば同人から暴力を振るわれることがあった。

少年は、婚姻しているものの、夫とは別居中であり、事実上の保護者である両親の指導にしたがわず、安易に家出を繰り返し、判示ぐ犯事実のとおりの行動に及んでいるもので、非行性が高い。婚姻し二児を設けているものの、現実的な生活能力はほとんど身についておらず、安定した対人関係も維持できないまま、両親に不満を抱いて勝手気侭に行動しているもので、窃盗、売春防止法違反等の犯罪を犯すおそれがあるばかりか、被害者として犯罪に遭遇する危険性も高い。

少年の性格、行動傾向についてみると、少年は、いわゆるヒステリー性格であり、被暗示性が強い上、心の状態が身体的な表現となって表われやすい。か弱い自分を強調したり、異性にこびをうることにより、周囲の関心を自分に引き寄せようとする傾向がある。自己イメージは総じて悪く、自己の身体像にこだわりを持っている。ありのままの自分に自信がなく、一緒に行動してくれる相手を求める方であり、嫌われまいとして、多少不本意なことでも自己主張できず、安易に追従しがちである。ちやほやされるとうれしくなって、羽目を外し勝ちである。ただし、自分で判断し、行動したという実感が伴わないため、なかなか自分の行動を省みることがない。活動性が高く、新奇な刺激を求める傾向も強い。考えるよりも、気分で行動し、試行錯誤的に物事に対処する方である。対人接触を求めるものの、目先の刺激に流されやすく、次々と関心を変えていくため、異性関係においても移り気であり、安定した人間関係を維持していくことができにくく、生活は不安定になりやすい。

事実上の保護者である両親は、これまで少年の指導に力を入れてきたものの、少年がすぐに家を出てしまうため、全く功を奏していない。現状では、少年の非行性は高く、両親は、少年の指導監督について具体的で適切な指導方針を示すことはできず、両親に少年の指導監督を期待することができない。また、保護観察など在宅処遇による指導によっては、少年に十分その指導が浸透することが期待できず、他に少年の指導監督を委ねることがふさわしい社会資源も見あたらない。

以上のとおりで、少年については、社会内処遇によって更生を図ることは困難であって、中等少年院に収容し、基本的な生活習慣や健全な性意識を養うとともに、社会適応能力や対人技能を身につけさせることが必要である。

よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 川島利夫)

(別紙非行事実)

少年は、

第1 B、A及び氏名不詳者と共謀の上、平成14年7月28日午前1時30分ころから同日午前4時30分ころまでの間、東京都新宿区△○×丁目×番×号付近路上において、E(当28年)に対し、その顔面を手挙で殴打したり、腕などを掴んで普通乗用自動車中央の座席に無理矢理押し込むなどの暴行を加えて、上記Eの右側に氏名不詳者が、その左側に上記Bが座って上記車両を発進させ、山梨県南都留郡○×村△□××番地の××○○トンネル入口付近に至るまで同車を疾走させ、その間、同人をして、同車内から脱出することを不能ならしめ、もって同人を不法に監禁し

第2 氏名不詳者らと共謀の上、前記日時ころ、前記走行中の車内において、前記Eに対し、その顔面及び大腿部等を多数回にわたって殴打するなどの暴行を加えるなどして、その反抗を抑圧し、同人から同人所有または管理に係る現金3万5000円くらい及び腕時計1個ほか11点(時価合計12万円相当)を強取し、その際、前記暴行により、同人に加療約3週間を要する鼻骨骨折等の傷害を負わせ

第3 B、A及び氏名不詳者と共謀の上、前記Eから強取したキャッシュカードを使用して、別紙記載のとおり、同日午前7時30分ころから同日午前8時46分ころまでの間、前後4回にわたり、神奈川県津久井郡○△町△△××番地×○○店ほか3か所において、上記店内に設置された現金自動預払機から株式会社○○銀行代表取締役管理に係る現金合計180万円を引き出して窃取し

たものである。

(別紙)

番号

被害の年月日(ころ)

窃取場所

窃取金額

平成14年7月28日午前7時30分

神奈川県津久井郡○△町△△××番地×

○○店

30万円

同日午前8時2分

同県厚木市□○××番地×

□△店

50万円

同日午前8時8分

同県厚木市□□××番地

□×店

50万円

同日午前8時46分

同県津久井郡○△町○○○××番地×

×□店

50万円

現金合計180万円

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