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門司簡易裁判所 昭和48年(ろ)42号 判決 1974年2月01日

主文

被告人を罰金一万八、〇〇〇円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金一、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和四七年一二月一五日午後八時五三分頃、福岡県公安委員会が道路標識によって最高速度を五〇キロメートル毎時と定めた北九州市門司区西海岸二丁目五の二付近道路において、右最高速度をこえる七五キロメートル毎時の速度で、普通乗用自動車を運転したものである。

(証拠の標目)≪省略≫

(法令の適用)

被告人の判示所為について 道路交通法二二条一項、四条一項、一一八条一項二号同法施行令一条の二(罰金刑選択)

労役場留置の点 刑法一八条

訴訟費用の点 刑事訴訟法一八一条一項

本文

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は第一次的主張として、本件の速度測定器の表示即ち一、四四秒は被告人の運転する車両を測定したものではないから無罪である旨主張するが、この点については、≪証拠省略≫によって明白であるから右主張は採用することができない。

次に弁護人は第二次的主張として、仮に本件の速度測定器の表示一、四四秒が被告人の運転する車両を測定したものであったとしても本件においては森田式速度測定器一一型によって三〇メートルの区間を通過する車両の秒数を測定して、これを時速に換算する方法をとっているので、一、四四秒を一〇〇〇分の一秒単位まで考えると一、四四〇秒から一、四四九秒までの間になるが、森田電機株式会社の回答書によれば、右測定器は一〇〇〇分の二秒から一〇〇〇分の四秒進めて調整しているので、本件の場合一、四三七秒から一、四四七秒の範囲で特定でき、これを時速に換算すると七五、一五六キロメートルから七四、六三七キロメートルの間となる。ところで本件の指定速度は毎時五〇キロメートルであるから超過速度は毎時二五、一五六キロメートルから二四、六三七キロメートルとなるが、本件の場合超過速度が毎時二五キロメートルを超えていたことを認める証拠はないので反則行為として告知さるべき非反則行為として公訴を提起したことは違法である。従って本件公訴提起は無効として公訴棄却の判決をなすべき旨主張するのでこの点について判断する。

≪証拠省略≫によれば、全国的に警察が速度違反の取締りに当って使用している速度測定器はすべて一〇〇分の一秒単位までしか表示せず、一〇〇〇分の一秒単位まで測定するものは皆無なのが現状であり、本件で使用された森田式速度測定器一一型においても一〇〇分の一秒単位までしか表示せず従って一〇〇〇分の一秒単位の数値は切捨てと同様の結果となっている。

そこで先ずこの点、即ち一〇〇分の一秒単位の測定器をもって測定し、一〇〇〇分の一秒単位以下の数値は切捨て同様の結果となる測定方法が妥当かどうかについて検討してみることにする。(尤も弁護人は一〇〇〇分の一秒あるいは一〇〇〇〇分の一秒単位まで測定すべきだと主張するものではない旨述べているようであるが、一〇〇〇分の一秒単位を仮定して論じている以上先ず一〇〇分の一秒単位の測定器を使用し、これ以上正確な一〇〇〇分の一秒単位の測定器を使用していない点が妥当かどうか先ず検討する必要があるのではないかと思料するので敢て考えてみることにする。)

元来速度違反は交通事故に直結する高度の危険性を有するものであるから、自動車運転者としては、法定又は指定速度を超過しないよう慎重に運転すべきことは勿論であるが、これが取締りに当る警察官としても、より正確に、より合理的に違反車両の速度を測定しもって車両運転者に対し交通事故の重大性等を喚起させ、ひいては遵法の精神を醸成することを第一とし、単に処罰の対象者を検挙することにのみ奔走すべきでないことは当然である。ところで右測定に当っての正確性、合理性といっても、単に一台の車両の速度を実験的に測定するのではなく、多数の車両を効率的に、一定の時間内に、しかも限られた人員で測定処理する実務上においては、速度の道路交通における危険度、安全度等からして、その正確性、合理性を現実的に考慮判断すべきであって、そのため理論的正確性、合理性がある程度減殺されても致し方ないところであろう。

そこで大型、普通乗用自動車の通常の場合の法定速度である毎時六〇キロメートルについて一〇〇分の一秒間の走行距離を試算すると、〇、一六六…………メートルであり、原動機付自転車の法定速度である毎時三〇キロメートルの場合は〇、〇八三三…………メートルとなるので、前述の如き道路交通における危険度、安全度等の現実的考慮並びに理論的可能な一〇〇〇分の一秒単位との誤差等から判断して一〇〇分の一秒単位をもってする測定器による測定方法は現実的正確性、合理性から判断して実務上は妥当といわねばならない。

そうすると以上の如く実務上妥当視された本件測定器の表示する数値そのものをもって時速に換算することもこれまた正当といわねばならない。

弁護人は前述の如く一、四四秒を一〇〇〇分の一秒単位まで測定したとすると、一、四四は一、四四〇秒から一、四四九秒までの間となり本件測定器は一〇〇〇分の二秒ないし一〇〇〇分の四秒進めて調整されているので一、四三七秒から一、四四七秒の範囲で特定できる旨主張するが、(これは一、四三六秒から一、四四七秒の誤りと考えられる)これは仮定的理論上の問題であって、机上の計算においてはそのとおりであるけれども、現実には前述の如く本件測定器は一〇〇分の一秒単位までしか表示しないのであるから(即ち一、四三の次は一、四四次は一、四五と表示)表示しない一〇〇〇分の一秒単位が理論上想定されても現実には表示されない一〇〇〇分の一秒単位の数値をもって時速に換算することは不合理といわざるを得ない。

(なお本件においては被告人の運転する車両が一、四四〇秒以外であったという証拠もない。)

そこで弁護人の第二次的主張も採用することができない。

ただ最後に付言すると、以上のような判断をすると被告人に理論上不利益になる可能性がないわけではない。しかしこれは本件測定器が一〇〇分の一秒単位までしか測定できないことによって生じた結果であってやむを得ないことといわねばならない。しかして右測定器による測定方法が実務上妥当であることは前述の如くである。尤も本件の森田式測定器一一型は前述の如く一〇〇〇分の二秒ないし一〇〇〇分の四秒進めて調整されているとのことであるがこれは気象、温度等の変化により生ずる測定器の誤差を考慮して、ひいては被測定者の利益のためになされたものと思われる。そうすると被測定者の利益という考え方を更に一歩進めて、現実的合理性、妥当性はあっても理論的非合理性のある本件のような場合、警察としては実務上可能で許容される範囲内で被測定者の理論上での上利益を消失せしめる何らかの方法を講じて速度違反の取締りに当っていたとすれば本件の如き問題は提起されなかったものと考える。例えば三〇メートルの測定区間設定にあたって実際にはこの距離を多少延長しておくとか、あるいは測定器の進め方に工夫をこらすとかしていたならば、一〇〇〇分の一秒というごくわずかな誤差によって被測定者にとっては反則行為になるか非反則行為になるかといった重大な問題も議論の余地をなくしたのではないかと考える次第である。然しながら右のような措置が講じられていなかったからといってそれをもって違法とするものでは勿論ないから結局は弁護人の主張を採用することはできない。

以上の理由で主文のとおり判決する。

(裁判官 広瀬達男)

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