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青梅簡易裁判所 平成14年(ハ)133号 判決 2002年7月23日

主文

1  被告は原告に対し,金54万0747円及び内金44万0747円に対する平成14年5月16日から支払済みまで年14.6%の,内金10万円に対する平成14年5月24日から支払済みまで年5%の各割合による金員を支払え。

2  被告は原告に対し,金21万4000円を支払え。

3  原告のその余の請求を棄却する。

4  訴訟費用はこれを5分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。

5  この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求の趣旨

1  被告は原告に対し,金74万2747円及び内金44万2747円に対する平成14年5月16日から支払済みまで年14.6パーセントの,内金30万円に対する平成14年5月24日から支払済みまで年5パーセントの各割合による金員を支払え。(支払督促申立て請求)

2  被告は原告に対し,金21万6000円を支払え。(付加金請求)

第二事案の概要

一  請求の原因

1  労働契約の日  平成10年10月1日

2  賃金  日給 昼8000円

夜1万円

1日の実働時間が4時間30分未満の際は日給額の6割

(昼4800円,夜6000円)支給

残業手当  基本時給の25%増

昼1時間につき1250円

夜1時間につき1562円

精勤手当  月25日以上の出勤で1万円

月20日以上の出勤で5000円

翌月給料日に支給

交通,通信費  毎月末請求分を翌月15日支払

控除  所得税,地方税,雇用保険料を各月毎に控除

3  給料支給日  毎月末日締 翌月10日支給

4  賃金一部未払い期間  平成12年6月24日から

平成14年4月30日まで

5  未払賃金の総額  金44万2747円

① 平成14年3月分  18万4132円

内訳   昼勤務日数 25日   20万0000円

夜同      2日   2万円

昼間残業  1時間   1250円

夜同     5.5時間   8591円

精勤手当            1万円

控除額          1万5709円

支払済み額           4万円

② 同年4月分  4万2615円

内訳   昼勤務日数  4日   3万2000円

昼半日     2日   9600円

夜同      1日   6000円

控除額         4985円

退職日          平成14年4月30日

最終支払請求日    平成14年5月10日

③ 割増賃金 金12万円(8000円×0.25×60)

労働基準法32条1項,37条1項に基づいて下記の60日分について請求する。

下記の60日は,割増賃金請求の根拠となる週40時間を超えて勤務した週を特定する日である。

平成12年

6月24日

7月15日

8月12,26日

9月2,9,30日

10月7,21,25日

11月11,18日

12月9,16,30日

平成13年

1月5,6,12,13,20,27日

2月10,23,24日

3月10,17日

4月7,28日

5月12,19,26日

6月2,9,23,30日

7月7,14,21,28日

8月4,11,25日

9月1,8日

10月5,6,27日

11月3日

12月1,8,15,23日

平成14年

1月12日

2月9,17日

3月2,8,9,22,23日

④ 有給休暇期間の賃金 金9万6000円 (8000×12)

原告は,平成10年10月1日付で被告会社に雇い入れられ,平成11年4月2日より有給休暇請求権が発生し,平成14年4月16日の時点において14日の有給休暇請求権を有していた。(労働基準法39条1項,2項)

原告は,平成14年4月15日,被告会社D部長,E課長,F課長らに対し口頭にて,給料支払いまでの間,労働基準法39条1項に基づき有給休暇の申請をしたところ,三氏共に社長に伝えておくとの返答のみで,時季変更の打診すらなかった。

原告は被告に対し,労働基準法39条6項に基づき下記日につき賃金の請求をする。

平成14年4月16,17,18,19,20,22,23,24,25,26,27,30日の12日分

⑤ 以上合計金44万2747円に対する平成14年5月16日から支払済みまで年14.6%の割合による遅延損害金の請求

6  慰謝料

被告は,労働基準法24条に違反して,雇用契約上,平成14年4月10日及び同年5月10日に支払うべき賃金を4月10日に4万円を支払ったのみで,残額は原告が支払督促を申立てに至るまで支払っていない。

この間,原告の私的督促に対し,被告は一方的に,平成14年4月15日,同18日,同26日,同30日,同年5月10日の支払期日を指定し,各指定日に債務の弁済を約束した。

しかし,4月15日には電話による支払不能の通告をしてきたのみであり,同日約束した4月18日には責任者たる代表取締役は姿を見せず,代理として自称暴力団をさし向け,支払要求を止めようと画策した。

翌19日,代表取締役による4月26日,30日の2回分割を条件とした弁済確約書を取り付けたが,両日共に弁済はなされなかった。

そして,5月10日にも,一方的に5月20日,6月15日の弁済期日を通告してきたのみである。

平成14年4月10日より現在に至るまで,労働者としては唯一の生活手段である賃金の支払が,不法にもなされず,その結果として,家賃,光熱費の滞納を余儀なくされ,それら諸費用の支払い延期の請願を,被告のいう弁済期日に合わせてせざるを得なくなり,ついには,友人や青梅市社会福祉協議会からの金員借り入れをせざるを得なくなった。

このことは,原告にとって屈辱以外の何者でもない。

また,原告は,3年6ケ月の期間,それなりに会社を愛し,誇りをもって力量の及ぶ限り,奉職してきたのであるが,被告の背信的行為や暴力団員による会社への介入に到底耐えることが出来ずに離職のやむなきに至ったものである。

原告は,以上の精神的苦痛,社会的信用の失墜に対する慰謝料として金30万円及びこれに対する支払督促正本送達の翌日である平成14年5月24日から支払済みまで年5%の割合による遅延損害金の請求をする。

7  付加金21万6000円

前記割増賃金12万円と有給休暇期間の賃金9万6000円の支払がなされないので,原告は,労働基準法114条に基づいて同一額の付加金の請求をする。

二  争いのない事実

請求原因5①の平成14年3月分の未払賃金が18万4132円である事実及び同5②の同年4月分の未払賃金が4万2615円である事実

三  争点

1  請求原因5③の割増賃金12万円の請求権の有無

2  同5④の有給休暇期間の賃金9万6000円の請求権の有無

3  同5⑤の遅延損害金請求権の有無

4  同6の慰謝料請求権の有無

5  同7の付加金請求権の有無

被告の主張

平成10年10月1日付けの雇用契約書によると,原告主張の割増賃金,有給休暇分及び慰謝料の支払義務はない。

原告の主張

被告主張の契約書(甲1号証)による所定就業時間は1日8時間と定め,休日については特に定めずと規定されているのみであり,そのことをもって割増賃金否定の根拠にはできない。

また,同契約書には,休暇について何ら記載されていない。したがって,有給休暇については,同法13条により労働基準法で定める基準によることとなる。

第三争点に対する判断

一  争点1について

被告代表者本人の供述によると,被告会社には就業規則がないこと及び被告主張の契約書は,甲1号証の契約書であることが認められる。

甲1号証によると,同契約書には,原告主張の割増賃金についての定めのないことが認められる。してみると,同割増賃金については,労働基準法13条により,同法で定める基準に基づいて,当事者間で債権債務が発生するものと解すべきである。

原告本人の供述及び甲2号証によると,原告請求の60日分のうち平成13年7月21日分1日分を除く59日分については,その各日により特定される週が週40時間を超えて原告が就労した週であり,かつ,その週は40時間を超えて更に1日就労している事実が認められる。

なお,平成13年7月21日分については請求の根拠となる事実を認めるに足りる証拠はない。

前記認定事実によると,原告の割増賃金請求は,59日分の金11万8000円について認められる。

二  争点2について

甲1号証によると,前記契約書には有給休暇についての定めのないことが認められる。してみると,有給休暇については,労働基準法13条により,同法で定める基準に基づいて,当事者間で債権債務が発生するものと解すべきである。

原告本人の供述,甲1,2号証及び乙2号証によると,原告は被告会社に雇用された平成10年10月1日から6ケ月継続勤務し,その全労働日の8割以上出勤した事実及びそれに加えて,原告は被告会社に前記6ケ月継続勤務後3年以上継続勤務し,その全労働日の8割以上出勤した事実が認められる。してみると,労働基準法39条1項,2項により,原告は平成14年4月15日の時点で被告に対して年間14日の有給休暇を請求する権利を有していたことが認められる。

原告本人の供述及び弁論の全趣旨によると,原告が被告会社の部長や課長らに対してその主張の有給休暇を申請していた事実が認められる。

前記認定事実によると,労働基準法39条6項により,原告主張の有給休暇12日分についての賃金請求権が認められる。

三  争点3について

原告は,遅延損害金の請求と称しているが,賃金の支払の確保等に関する法律6条によると,遅延利息と規定されている。遅延損害金と遅延利息とは本質的に同じものであるので,今後は,同法に従って,遅延利息と称する。

弁論の全趣旨及び甲3号証によると,原告の退職日が平成14年4月30日である事実及び給料支給日が毎月末日締,翌月10日支給である事実が認められる。

前記認定事実によると,原告の遅延利息請求については,賃金の支払の確保等に関する法律6条により,遅延利息の率,始期共に認められる。

四  争点4について

慰謝料請求の前提として,被告が不法行為をなしたことの主張立証が必要である。

被告代表者本人の供述及び弁論の全趣旨によると,昨今の不況下,被告会社が従業員に対して支払うべき賃金や他の債権者に対する債務を支払えない状況に陥った事実が認められる。このような場合,被告代表者が賃金を支払うと言いながらその支払いを延ばしていたこと及びその結果,原告が他への債務を支払うことができなくなり,信用を失ったりしたことのみでは,被告が不法行為をなしたものとは認められない。

ところで,原告が被告に対して正当に未払賃金を請求している過程で,その行為を妨害することは不法行為と認められるので,その事実の有無について判断する。

証人Gの証言によると,平成14年4月19日に原告ら被告会社従業員が多数集まり,被告代表者に対する未払賃金請求の交渉について,協議をしていたところ,被告会社課長が原告とGを呼び出して,被告会社の中で,自称暴力団なる者に会わせた事実及び自称暴力団なる者が原告らに対して,労働基準監督署に行くな,被告社長に未払賃金の請求をすることは止めろ,被告社長を自殺に追い込むようなことは止めろという趣旨の発言をした事実が認められる。

被告代表者本人は,そのような者が当時被告会社に来たことはあるが,その用件は,被告会社の他の債権者に対して債権取立を中止してもらうためであって,その者は,原告に対して交渉をしてもらうための者ではない,その日,前述の他の債権者は被告会社に来なかった旨供述する。しかし,当時,原告ら被告会社従業員が未払賃金請求交渉の協議をしていた事実,被告会社課長が原告を呼び出している事実及び自称暴力団なる者が被告会社の中で原告に対して発言をしている事実に照らすと,自称暴力団なる者は,原告に対する者ではなく,他の債権者に対する者である旨の被告代表者本人の供述部分は採用できず,前記自称暴力団なる者は,被告会社から,原告に対する妨害者としても依頼を受けた者であると認められる。

してみると,原告の正当な権利行使に対する妨害行為をなしたとの被告の不法行為責任が認められる。

そして,原告本人の供述及び弁論の全趣旨によると,前記自称暴力団なる者の妨害行為により,原告が精神的苦痛を受けたことが認められ,前記認定事実によると,原告の精神的苦痛に対する被告の損害賠償としての慰謝料の額は,金10万円が相当である。

五  争点5について

争点1,2で判断したとおり,原告の被告に対する割増賃金請求及び有給休暇期間の賃金請求が認められるところ,弁論の全趣旨によるとその支払が為されていない事実が認められる。してみると,被告は原告に対し,付加金支払義務があり,その額は,前記認定の事実に照らすと前記請求に対する未払金と同一額の金21万4000円が相当である。

第四結論

以上によると,原告の本件請求は,請求原因5①の平成14年3月分の未払賃金18万4132円の請求及び同5②の同年4月分の未払賃金4万2615円の請求については,いずれも理由があり,同5③の割増賃金12万円の請求については,金11万8000円の請求の限度で理由があり,その余は理由がなく,同5④の有給休暇期間の賃金9万6000円の請求については,理由があり,同5⑤の遅延利息請求は,以上合計金44万0747円に対する平成14年5月16日から支払済みまで年14.6%の割合による遅延利息の請求についての限度で理由があり,その余は理由がなく,同6の慰謝料金30万円及びこれに対する遅延損害金の請求については,金10万円及びこれに対する支払督促正本送達の日の翌日である平成14年5月24日から支払済みまで年5%の割合による遅延損害金の請求の限度で理由があり,その余は理由がなく,同7の付加金21万6000円の請求については,金21万4000円の限度で理由があり,その余は理由がない。

よって,主文のとおり判決する。

(なお,主文1項は,支払督促申立てによる請求についてのものであり,主文2項は,付加金請求についてのものである。)

(裁判官 栗林道昌)

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