青梅簡易裁判所 平成14年(ハ)59号 判決 2002年7月16日
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は原告に対し,金51万6390円を支払え。
第2事案の概要
一 請求の原因
1 被告は,青梅市a町の区分所有建物の所有者で組織する管理組合であり,民事訴訟法29条に規定する団体である。
2 原告は,当該区分建物の702号室の所有権を平成13年10月16日裁判所の競売による売却で取得した。
3 原告は,平成13年9月6日に前記売却決定を得て,同月10日に702号室に入ったところ,折からの雨のため別紙図面(省略)洋室Bと同和室Cの内に雨漏りのため激しく浸水があった。そのとき,被告理事長D氏は偶々立ち会って,その雨漏りを確認したばかりでなく,洋室Bの天井の腐食を指摘して,手にした棒で天井を突いて穴を開けた。
4 702号室の雨漏りによる損害
① 同洋室B
天井板は漏水により腐食していた。
照明器具には雨水が貯まっていた。
床の絨毯は漏水の浸水により腐食していた。
壁面は漏水によりほぼ全面にシミが見られた。
② 同和室C
天井全面が漏水により腐食していた。
天井の電気配線が漏水により腐食していた。
雨水が天井よりしたたりおちていたために和室Cの床全体が腐食されていた。
押入内部にも漏水により腐食があった。
③ 同洋室D
天井全面及び壁面全面に漏水によるシミがあった。
押入内部に漏水による腐食があった。
5 原告は,建物の区分所有等に関する法律第9条の法意に基づき,共用部分からの漏水につき,再三にわたり被告に対し話し合いの申し入れをしたが取り合う姿勢が全くないところから,損害の修復工事に入ることを平成14年1月23日被告に通知した。
6 漏水による損害の修復の見積額は,金50万9250円であるが,実際に要した額は,漏水により損害を受けた照明器具1個の金額金7140円が追加されて計金51万6390円である。
7 原告は,702号室の原告の前の所有者が被告に対して有している共用部分からの漏水に基づく損害賠償請求権を承継している。
よって,原告は被告に対し,前記漏水による金51万6390円の損害賠償請求をする。
二 争いのない事実
請求の原因1,2の事実
三 請求原因事実についての被告の主張
3の事実について
平成13年9月10日は,当時,突風の吹く激しい雨で,被告理事長は,他の部屋での浸水を確認していた。その時に,原告は被告理事長を携帯電話で呼びつけた。以前304号と404号の部屋に雨漏りを確認し営繕工事をしたが全く止まらず,平成13年8月18日から外壁塗装と防水の大規模修繕工事の真っ最中であり,被告理事長は702号以外の部屋を施行業者と協力して止水していた。被告理事長が棒で天井に穴を開けたのは,702号室でも,他の部屋と同様に雨漏りの起点の原因究明と止水のために天井を壊して良いかと原告に伝え,原告の許可を得ての行為である。その後も,雨漏りの止まるまでの立ち入りを原告の許可を得て立ち入り,雨の日は朝から深夜まで施行業者と連絡を取り合い,雨漏りが止まるで延べ30回以上立ち入りをして,雨漏りを止めた。
4の事実について
① 同洋室B
壁は以前から結露による剥がれであり,床は全く問題がなかった。
蛍光灯の横の穴から見える天井の奥のコンクリートの亀裂からの浸水は確認した。
天井のクロスは全面綺麗だった。
② 同和室C
天井の全面に雨染みは確認したが腐食はなかった。
電気配線の腐食も確認していない。
押入も腐食ではなく結露と染みのみであった。
③ 同洋室D
天井や壁面の東側一部に雨染みは確認したが腐食はない。
押入も雨染みのみで腐食はなかった。
5の事実について
702号室の雨漏りの原因は,特定できないが,801号室方のベランダからの漏水と考えられ,801号室の漏水していると思われる場所は共用部分である。
6の事実について
被告は原告に対し,前所有者の滞納管理費と原告の新たな管理費を支払ってくれれば修理費の負担も前向きに考える旨申し入れたが,原告は一切支払わないと言った。
また,修理費について,原告は,総会の席上では業者に見積もらせたところ30万円くらいだから払えと言っていた。
第3争点
1 原告の被告に対する損害賠償請求権の有無
2 原告の損害額
争点1についての被告の主張
(1) 原告は,702号室を競落により取得したものであり,702号室の状況を十分承知の上購入したものであるから,本件の請求はできない。
(2) 702号室の前所有者甲は,平成13年1月15日位まで居住していたが,一度たりとも被告組合や組合員に雨漏りの報告や相談をしていない。
甲が雨漏りを承知していて報告をしないで放置していたならば,同氏にも責任があると考えられるし,同氏が出てからの1年8カ月に起きた雨漏りについては被告としては全く把握できない訳であるから,被告に責任はない。
第4争点に対する判断
争点1について
区分所有者により構成された管理組合は,区分所有権の対象である建物の管理をする権限と責任とを有する。特に,建物に雨漏りがある場合は,建物全体の耐久性・資産価値に関わることなので,管理組合は,区分所有者の協力を得て,雨漏りの原因調査と雨漏り防止工事をしなければならない。
管理組合がその責任を果たさないために損害が発生した場合には,損害を受けた区分所有者に対して損害賠償責任を負うことがある。このことは,その区分所有者が区分所有権を競売により得た場合であっても同様である。
そこで,被告管理組合が,702号室に関する管理責任を果たしたか否かについて判断する。
原告代表者の供述,被告代表者の供述,甲7号証(写真30枚),乙3乃至7号証(各写真)及び弁論の全趣旨によると,702号室の前所有者であった甲は,平成13年1月に,被告管理組合に挨拶することもなく702号室から居なくなって,その後全く連絡がなかった事実,台風のあった平成13年9月10日に,原告代表者と被告代表者が702号室において,702号室に雨漏りのあることを確認した事実,被告代表者は手にした棒で702号室の天井に穴を開けたが,その行為は雨漏り原因を調査するためのものであり,原告代表者の許可を得ての行為であった事実,当時の702号室の雨漏りによる被害状況は,腐食の点を除いて,おおむね原告主張のとおりであった事実,当時の被告代表者はその日よりも前から他の室の雨漏りを承知していたので,雨漏りの原因調査と雨漏り防止工事をなしていたところであり,その日に初めて承知した702号室の雨漏りの事実をも加えて更に雨漏りの原因調査と雨漏り防止工事をなした事実,その結果,同月18日頃には,702号室の雨漏りが止まった事実が認められる。
なお,原告主張の腐食の事実を認めるに足りる証拠はない。
前記認定の事実によると,被告管理組合はその責任を果たしているものと認められる。したがって,原告の被告に対する本件損害賠償請求は認められない。
争点2(原告の損害額)について
前記争点1についての判断によると,原告の被告に対する本件損害賠償請求は認められないのであるから,原告の損害額についての判断は必要がない。
第5結論
以上によると,原告の請求は理由がないので,主文のとおり判決する。
(裁判官 栗林道昌)